「ぶっ壊せー!!」
「吸血鬼と大魔王がなんぼのもんじゃい!いてこましたれー!」
大勢の妖怪達がバーンの魔力防壁を壊そうと攻撃を繰り返す、魔力、妖力をぶつけ物理で叩き壊そうとする、紅魔館は今凄まじい数の暴力に囲まれていた
紅魔館
「弱いわねぇ……あの程度の防壁に手間取るなんて」
バーンの映し出す映像を見ながらレミリアが呆れ顔で呟く
「ここで待機するのも疲れて来たわ」
パチュリーも長い待機に飽きてきたようだ
「出番まだー?私もう行っていい?」
フランも退屈そうにしている
「まぁ待てフラン、もうそろそろだ」
今にも飛び出しそうなフランを抑えるバーン
「お、お前達……本気でやるのか?」
狂人を見るかのような目で正邪が問う
「覚悟を決めろ正邪、もう賽は投げられたんだぜ、もうやるしかないんだぜ」
魔理沙が正邪に渇を入れる
「でもさぁ……」
煮え切らない正邪にレミリアが言い放った
「正邪は戦わなくて良いわ、はっきり言ってこの戦いについてこれないでしょ貴方じゃ」
言い渡される戦力外通知、お前は紅魔館で震えていろとのお達し
「えっ!本当に!?やった!」
戦力外通知に喜ぶ正邪、力の弱い彼女にとってはこの通知は非常に嬉しかった
喜ぶ正邪を余所に映像を見続けていたバーンが呟いた
「来たか……そろそろ準備をしておけ」
紅魔館の周囲を囲う最前列の妖怪達を押し退け、力のある雰囲気を醸し出す者が前列に現れた
紅魔館・周辺
「また増えちゃいましたね……全部で何人くらいでしょう?100人近くは居そうです」
離れた場所で観戦する大妖精が呟く
「おっ!あいつ知ってるぞ!私と同じ妖怪退治の同業者だ、他にもそれなりに名の知れた奴等が参戦してるな」
妹紅が知人や有名な妖怪を見つけ二人に教える
「あっ……そいつらが攻撃しだしたよ」
攻撃を開始したのを確認したチルノが指差した
紅魔館
「ムッ……」
防壁に攻撃を加えられバーンがその強さを感じとる
「あっ!ヒビが入ったよ!」
映像を見ながらフランが叫んだ、防壁の2ヶ所にヒビが入り広がっていく、正門の前と東付近に1つずつ
「そろそろね……行くわよ!」
レミリアの合図で紅魔館の外に出る正邪を除いたメンバー達
「出てきたぞ!レミリアとバーンだ!」
紅魔館から姿を現した永遠に幼い月と大魔王に妖怪達が叫ぶ
「覚悟しろよレミリアァ!」
「何が大魔王だ!ガタガタにしてやる!」
防壁越しに罵声を浴びせる妖怪達にレミリアがうんざりする様に言い放った
「ハッ……有象無象ごときが吠えるわねぇ」
「所詮は数を集めねば粋がれん雑魚どもだ、一部を除き気にする事なかろう」
会話をしながら門に向かい歩く、門を開きレミリアとバーンを中心にメンバーが並ぶ、同時に防壁が限界を訴えるようにビシビシと音をたてる
「咲夜とパチェは紅魔館の直衛に回って、私とバーンが正門、フラン・魔理沙・美鈴は東を任せたわ」
「わかりましたお嬢様」 「わかったわレミィ」
「了解お姉様!」 「あいよー任されたぜ」 「頑張ります!」
動き始めようとした5人をバーンが呼び止め話した
「これは余興……命を奪う必要は無い、わかっておるな?特にフランよ」
「あっ……わ、わかってるよ!」
慌てて取り繕うフランに苦笑したメンバーは散開し位置につく、そしてそれを待っていたかの様に防壁は割れ、1人がようやく入れる程度の穴をつくり妖怪達が突入を開始した
「行くわよバーン、足を引っ張らないでね」
「フン……誰に向かって言っている?あいにくベホマを使う予定は無い、お前こそ怪我をしても知らんぞ?」
お互いに笑い合い妖怪達を蹴散らしていった
「始まったな……」
「どうするの?あたい達も行く?」
戦闘を開始したレミリア達を見て呟く妹紅にチルノが聞く
「うーん……事情はわからないけどなんか私達は場違いっぽいんだよなぁ」
乗り遅れた妹紅が冷めた様に語る
「じゃあんたはそこで大ちゃんと待ってなさい、あたいは行くわ」
「助けに行くのチルノちゃん?」
「バーン達があんなのに負ける訳ないじゃない、あたいが行ったら尚更よ!だからあたいはバーンの敵に回るわ!」
「えー!チルノちゃん!?」
チルノの敵対宣言に驚く大妖精、それを聞いた妹紅も驚いたがすぐに笑顔を出した
「……良いなそれ!よし!私もお供するぜ親分!」
「妹紅さんまで!?」
チルノに乗った妹紅にまたも驚く大妖精
「よおし……」
チルノは深呼吸を行い妹紅に告げた
「早速、伝説の大魔王を成敗しに出掛ける!後に続けもこたん!」
「またそれか……」
ガクッと肩を落とす妹紅の隣の大妖精が叫ぶ
「チルノちゃん!闇雲に挑むの危険だよ!もっと様子を見てからでも……」
「臆病者は着いてこなくともよい!もこたん早くしろ!……じゃ無くて大ちゃんはここで待ってなさい!行くわよもこたん!」
「はいよー親分」
気だるく返事する妹紅にチルノは続ける
「もたもたしてるんじゃないどー!」
同時にチルノは飛び立った
「へいへい……じゃ行ってくるな」
「うー……無茶しないで下さいよぉ……」
心配する大妖精に親指を立てた妹紅は飛び立っていった
「大丈夫かなぁ……」
不安気に呟く大妖精、そこに突然霧が漂う
「おやおや……宴が始まってるじゃないか、この私を置いて宴とは許せないねぇ……フフフ……」
漂う霧から声が聞こえる
「おやあんたは……丁度良い、こいつを持っててくれないかい?」
「えっ!?は、はいっ!」
霧から出てきた瓢を受け取る大妖精、そして霧は大妖精を通り過ぎ紅魔館へ向かって行く
「あ、あれってまさか……あわわ……大変な事になりましたぁ……」
見覚えのある霧と声に恐れおののく大妖精
煮えたぎる戦場に予想外の来訪者が向かって行った
「お話にならないわねぇ、これじゃ少しも楽しめないわ」
殴り掛かってくる妖怪を軽く蹴散らすレミリアは不満気に呟く
「向こうも問題無いみたいだし」
また向かってくる妖怪を捩じ伏せながら東の戦場を見る、3人は易々と妖怪を倒している
「戦い始める前までは気が乗ってたんだけどこれじゃあねぇ……」
手応えの無さに熱が引いていく、そんなレミリアに声が掛かる
「じゃあ私が相手をしてやるよレミリア」
穴を通って来た妹紅がレミリアの前に立つ
「あら……少しは楽しめそうな相手が来たわね、貴方は今回はそっち側なのね」
「まぁな、こいつらに義理は無いけどこっちの方が楽しそうだったんでね」
「フフ……そう……手加減はしないわよ?」
「望む所だ!」
二人が戦い始めたと同時にバーンにも挑戦者が現れる
「バーン!あたいが相手よ!覚悟しなさい!」
「ほお……そっちに着くかチルノ、良いだろう纏めて掛かって来るが良い」
チルノと共にバーンに攻撃を仕掛ける妖怪達をバーンは向かえ撃つ
「なんであいつら戦ってんだ?」
「さぁ……よくわかりませんが楽しそうなので良いんじゃないですか?」
「そうだな」
魔理沙と美鈴が妖怪をあしらいながら会話している中、フランは暴れまわる
「うりゃりゃりゃりゃりゃー!」
次々と妖怪を戦闘不能にしていく、ちゃんと殺さないように力を抑え急所を外して
妖怪達の数が3分の1程減ったその時、彼女は来た
「つれないねぇ……こんな楽しそうな宴に私を呼んでくれないなんて……」
防壁の前に萃香が立っていた
「萃香!?なんでここに!?」
驚く魔理沙の問いに萃香は指を上に向けて話し出す
「これだよ、この赤い霧がえらく目立ってたから来てみたのさ、そしたらこのお祭り騒ぎ、参加しない訳にはいかないねぇ」
魔理沙への返事を返した萃香は次に交戦中のレミリアとバーンに向き聞いた
「てな訳で参加させてもらうよ?構わないだろ?」
「フッ……好きにするがいい」
「フン……妹紅が終わったら次にお前に格の違いを見せてあげるわ……それと紅魔館を壊さないようにね」
二人の承諾に萃香は嬉しそうに笑う、そして防壁に近付き構えた
「せっかくの宴なんだ、こんなつまらん防壁は要らんだろう?」
萃香の拳が防壁に炸裂する
「ぬぅ!?」
交戦中も防壁を維持していたバーンの顔が歪む、防壁に与えられた衝撃はヒビとなり全体に広がっていく
「そらもうひとつ!」
もう1発放たれた拳に防壁はガラスを割ったような音を出し崩れ去った
「さぁ!派手にやろう!」
萃香の叫びに呼応し待機していた妖怪達が紅魔館へ雪崩れ込み乱戦を作り出した
「楽出来ると思ってたのに……」
「パチュリー様、油断しないでくださいね」
防壁のお陰で敷地内に入ってくる者がいなかったので本を読んでいたパチュリーだったが防壁が破壊されたせいで四方八方から妖怪達が紅魔館の中に居る正邪を殺そうと浸入してくるのを迎え撃つ
「私は南へ行く!美鈴は西へ行ってくれ!フラン!ここは任せた!」
「わかりました!」
「了解!」
魔理沙が二人に指示を飛ばし魔理沙は南へ美鈴は西へ迎撃に向かいフランは東の迎撃を続ける
「うんうん!宴はこうでなくちゃいかん、さぁて……」
満足に頷いた萃香は乱戦をすり抜け、勘違いで襲ってくる妖怪をぶっ飛ばしながら目的の場所を目指す
「どこに行くの?少し待ってなさい、すぐに相手をしてあげるわ」
妹紅と交戦中のレミリアが萃香を呼び止める
「あー……悪いねレミリア、吸血鬼には興味無いんだ、私の興味は別にある、だから今回は我慢しなさいな」
「貴様……」
眼中に無いと言われ怒り心頭のレミリア、プライドの高い彼女には耐え難い屈辱
「おいおい、余所見とは余裕だなレミリア!」
「ッ!?」
妹紅の弾幕がレミリアの頬を掠める
「私で我慢してくれよ、退屈はさせないからさ」
「……そうね、貴方で我慢してあげる!」
妹紅から感じる手応えに怒りを収めたレミリアは笑みを浮かべ戦いを再開した
「ハッハッハッ!気の済むまでやると良いさ」
飄々と笑いながら歩を進める
「何が起きるかわからんもんだねぇ……一度フラれたのにこうして機会が生まれた、案外戦う運命だったのかねぇ……」
目的の場所に着いた萃香は歩を止める
「あんたはどう思うね?大魔王バーン?」
チルノと妖怪達の攻撃を余裕で捌いているバーンに萃香は問うた
「かも知れんな……」
笑みを浮かべたバーンは攻撃を仕掛けているチルノ達を薙ぎ払う
「約束の酒は辞めれていない……それでも戦ってくれるかい?」
「こうなった以上、仕方あるまい、幻想郷で最上位の種族、鬼、その力を見せて貰おうか」
「~ッ!!」
ついに得られたバーンの承諾、一度は断られたバーンとの勝負、その無念は萃香にしこりとして残っていた、バーンと勝負がしたい!それが叶ったのだ!萃香は嬉しさと興奮で目を輝かせている
「チルノ、悪いが用事が出来た、他の者にあたれ」
「えー!あたいが先だったのに?ちょっとあんた!順番は守……」
抗議を萃香に向けた瞬間、萃香の妖力が解放された、回りの妖怪達を吹き飛ばし妖力を風圧と共に二人に浴びせる
「ん?何か言ったかい?」
聞こえていなかった萃香がチルノに聞き直す
「!?!?」
萃香の異常な妖力に口をパクパクさせるチルノ、だがすぐに気を取り直し
「ま、まぁ良いわ、今回はあんたに譲ってあげる!じゃあね!」
ピューっと飛び去っていった、チルノは修行で相手の力量をある程度測る事が出来る様になっていた、それ故に萃香の妖力に圧倒されて萎縮してしまう、チルノらしくは無いが少し賢くなったとも言える
「私はステゴロの方が好きなんだけどどうだい?」
「良いだろう」
萃香の提案を受けたバーンも魔力を解放し肉体に行き渡らせる
「もう構わないかい?」
「掛かって来るがいい」
瞬間、萃香が飛び出し、二人の戦いは始まった
「そぉら!」
「ぬぅ!?」
萃香の拳を防御したバーンの体が地面を深く削りながら後退させる
「はぁ!」
飛び込んだ萃香が拳を打ち下ろすがバーンには避けられ地面を殴る
「!!」
避けたバーンが驚いた、地面は轟音を上げ巨大なクレーターを作り上げていた
「あー……避けるから大地に穴が空いちまったねぇ」
ヘラヘラと笑う萃香はバーンに歩み寄る
「さぁ続きだ」
再びバーンに殴り掛かる
「どうしたんだい?防戦一方じゃないか?まさか私が恐ろしい訳じゃあるまいに」
「フッ……まさか……」
乱打を捌きながらバーンが笑い距離を置く
「いくら余でもその攻撃力は脅威なのでな、様子を見させて貰ったのだ」
「へぇ……なら結果を見せて貰おうかね」
また殴り掛かる萃香の攻撃を捌きながらバーンは語り始めた
「お前はその力を過信し過ぎて攻撃が単調過ぎるのだ、隙を見つけるのは容易かった」
萃香の攻撃を避けたバーンが拳を萃香の胴に炸裂する
「これが結果だ」
バーンが誇らしげに語った瞬間、バーンの腕は掴まれる
(何だと!?)
渾身の力で打った拳を受けてすぐに行動出来る萃香に驚愕する
「思った以上の力だね、私に血を出させるとはやるじゃないか」
口から血を垂らしながら萃香は笑う
(離れん……!?)
掴んだ手を振りほどこうとするが凄まじい力で掴まれ動かせない
「技術はあんたが上だね、でも……これじゃあまだまだ軽いねぇ!」
「ちぃ!」
振りほどくのを諦めたバーンが殴り掛かる瞬間、萃香の拳がバーンを打ち抜いた
「うごおっ!?」
凄まじい勢いで飛んでいくバーン
「……むん!」
飛翔呪文を唱え勢いを殺し空中で止まる
(この威力……バランの紋章閃並み……いや、そこまでは無いが素手でこの威力を出し、そしてあの防御力……)
腹に溜まる痛恨の一撃に萃香の戦闘力の高さを感じる
「さぁ体も温まってきた!覚悟良いかい?私は出来てる!」
トルクを上げた萃香がバーンに突進していく、ぶつかり合う余波が波紋の様に広がり空気を草を揺らす
「ぬぅ……!?」
萃香の力に手を焼くバーンだが彼に後退は無い、萃香を打ち、萃香に打たれる、いつ終わるやも知れない殴り合いはまだまだ続く
妖怪の山
「射命丸よ、どうだった?」
妖怪の山のトップ、天魔が戻ってきた文に聞いた
「はい、鬼人正邪は紅魔館に匿われ、それを追うハンターや妖怪達を相手に紅魔館の主、レミリアとあの大魔王バーンが仲間と共に暴れまわっております」
文は見てきた事を報告した、鬼人正邪が逃げたであろう紅魔館の赤い霧を不審に感じた天魔が文に命じ様子を探らせていたのだ
「何故あの者を匿うのだ?」
「それは……わかりません、鬼人正邪の入れ知恵かはたまた遊びなのかも知れません」
「むぅ……」
紅魔館の謎の行動に思考を巡らすが答えは出ない
「どうしますか?このままですとハンター達の全滅は免れないかと思いますが」
「……私が行こう、文、供をせい」
「えっ!?天魔様自ら出向くのですか?」
自分達の頭が出向く事に驚く文、天魔が動く事など滅多に無い事だから
「そうだ、気になる事もあるのでな、行くぞ文」
「は、はい!」
二人は紅魔館へ向け飛んでいく、はたしてこの二人が戦場に何をもたらすのか……
紅魔館
「ふぃー、こっちは片付いたぜー、そっちはどうだ美鈴?」
南側の敵を殲滅した魔理沙が西の美鈴にやってくる
「ハッ!」
妖怪を蹴り飛ばし、2体同時に襲いかかる妖怪の攻撃を捌きながら魔理沙に話しかける
「こっちは後この2体だけです、問題ありません!妹様をお願いします!」
「はいよー!」
東へ向かう途中、中庭の様子を確認する、十数体の妖怪達が倒れておりその中心で咲夜とパチュリーが紅茶を飲んでいる
「そっちは大丈夫そうだなー!」
「ええ、暇になったからお茶してる所よ」
「フラン様へ応援に向かって!」
「はいよー!」
二人に返事した魔理沙は東の戦場に向かう
「おーおー!派手にやったなぁ……」
倒れている大量の妖怪達を見ながら呟く、一番数が多かった正門付近の敵がレミリアとバーンの戦いに巻き添えを食らわないように東へ集まっていたのだ
「お!やってるやってる!」
フランを見つけた魔理沙は近付いていく、近付くにつれ罵声がどんどん酷くなっていった
「あたいの勝ちよ!このチビ!」
「あたしと変わらないよーだ!この⑨!」
頬をつねり合い罵声を浴びせ合う二人、妖怪達を殲滅したフランにチルノが挑んだのだがいつの間にか子供の喧嘩になっていた
「ハハハ!こっちも問題無いな、後はレミリアとバーンか」
正門へ箒を向け魔理沙は飛んでいった
「お?どうした二人とも?勝負は着いたのか?」
正門へ来た魔理沙が見たのは仲良く並んで座る二人だった
「決着が長引きそうだったんで引き分けにしたわ、それよりあっちの方が面白そうだったからね」
「ああ、バーンか」
二人が見ていたのはバーンと萃香の勝負、未だ殴り合いを続けている
「どうなんだぜ戦況は?流石のバーンも萃香相手じゃ苦戦必至だろ?」
「そうだな、バーンが押されてるよ、肉弾戦じゃやっぱり鬼が強いみたいだな」
妹紅が答えた後、二人の戦いを見た魔理沙は二人の傍にやって来て一緒に座って観戦を始めた
「フゥー……呆れるわ、その小さい体、細い腕のどこにそんな力があるのだ」
一旦距離を取ったバーンが問う
「それが鬼ってもんさ!それを言うならあんたもちょっと角の生えたガタイの良い兄ちゃんにしか見えないよ!」
萃香が笑って答える
「フフ……萃香よ、少し小細工をさせてもらう」
「小細工?」
「ああ、何、大した事ではない、呪文を一度唱えるだけだ」
「あんたが小細工ぅ?……まぁ良いわ、早くやって続きをしよう」
「フッ……」
笑うバーンは呪文を唱えた、バーンの体を魔法力が包んだ
「終わったようだね、行くよ!」
呪文を唱え終わったのを確認した萃香が飛び込み拳を打ち出す
「何ぃ!?」
萃香の拳は受け止められた
「むぅん!」
「っがっ!?」
直後バーンの拳が萃香を殴り飛ばした
勢い良く飛んだ萃香は地面に当たる、地面は爆発したかのように爆ぜ砂埃を巻き上げる
「あんた何をした?力が急に上がってるじゃないか?」
口から垂れる血を拭いながら萃香が姿を現す
「バイキルトと言う呪文を使った、攻撃力を高める魔法だ、余には枷がある、これぐらいは許せ」
「許すも何もこのままじゃ物足りない所だったさ!大いに結構!さぁ勝たせて貰うよ!」
更に気を高め笑う萃香にバーンも笑い、二人はまた殴り合う
「おおー!互角じゃねぇかアレ?」
「しっかしまぁノーガードで殴り合うなんてバカだろあいつら」
観戦する二人が感想を漏らす
「認めたくないけど鬼って格が違うのよ、普通の妖怪と比べて遥かにね、萃香は鬼としての格を、誇りを力で表している、だからバーンもそれに応えて殴り合いを選んだんじゃないかしら?」
「そんなもんなのか……よくわからん世界だぜ」
レミリアの見解に今一つ理解出来ない魔理沙、人間である彼女には種族の格や誇りと言った考えが無いのだ
「それにしても……ただの殴り合いなのに……泥臭いのに……何故か美しいわね、あの二人だからかしら?」
殴り合う二人を見つめレミリアは呟いた、二人の戦いのレベルの高さなのか、ただの殴り合いが崇高な物に見えた
「私達はスペルカードルールに慣れすぎてたんだよ、だからあの戦いが純粋な物に見えるのさ、私はアレを見て思ったよ、これが戦いだってね」
「確かにそうかもね、肉体のぶつかり合い……弾幕の工夫ばかりで久しくやってないわね……」
妹紅に諭されたレミリアは戦う二人を見つめる
(それはそうと勝敗はどうかしらね)
激しさを増す戦いに勝敗の予想がつかないレミリアは観戦に戻った
「ぬああああ!!」
「りゃあああ!!」
殴る
「ハアッ!!」
殴る
「オラァ!!」
殴る
ダメージも気にせず殴り合う、バイキルトで強化した拳が萃香を打ち血を飛散させる、すぐさま殴り返した萃香の拳がバーンを苦痛の表情に変え血を流させる
「ラァ!!」
「ムン!!」
互いの拳がぶつかり合い両者は飛ぶ
「ハハ……ハハハハハ!!楽しいねぇ!」
ヨロヨロと起き上がりながら萃香は笑う
「余も楽しんでいる、鬼の力……驚きを隠せん」
スッと起き上がるバーンだがダメージは大きい、それでも余裕を見せるのはこれは死闘ではないから、死に物狂いで戦う物ではない、それをお互いに理解しているから萃香は笑いバーンは余裕なのだ
「楽しいのと勝敗は別だよ?勝ちは譲れないねぇ」
「無論だ、余とて勝ちを譲るつもりはない」
構え合う二人、飛び出さんとしたその時、新たな来訪者が現れた
「双方、止めよ」
天魔が二人に割って入った
「なんだお前は?」
邪魔をされ興が削がれたバーンが睨む
「天魔と申す、鬼人正邪を尋ね者にした者と言えばわかるだろう、これはそなたらが?」
倒されている妖怪達を指差す
(来たか……)
天魔の来訪に笑みを浮かべる
「如何にも……それが?」
「よくもここまで暴れたものよ……まぁ良い、鬼人正邪について話がある、聞いて貰えるだろうか?」
天魔が話そうとした瞬間、怒声が響いた
「おい!今はバーンとの勝負の最中だ!後にしな!」
勝負に水を入れられた萃香が叫ぶ、大変ご立腹の様子
「まぁまぁ落ち着いて下さい萃香さん」
文が怒る萃香に立ち寄る
「引っ込んでるんだね……また妖怪の山を支配されたいのかい?」
「あ、あやややや!?天魔様!引っ込みましょう!早く早く!」
萃香の強烈な脅しにトラウマが甦った文が引く事を勧める
「これは悪い時に来たようだ、失礼した、終わるのを待たせて頂く」
そう言うとレミリア達の居る場所へ向かっていった
「さぁ邪魔者はいなくなった!決着をつけようかバーン!」
「望む所だ」
気を取り直した二人はまた殴り合う
「ウラァ!」
左腕がバーンの顔を打つ
「もういっ……!?」
右腕で追撃しようとしたが右腕の初動をバーンの右腕が抑えその状態から右腕で裏拳を放つ
「ッハァ!?」
すぐに体勢を立て直しバーンに掴み掛かる、差し出された両手をバーンも掴み手四つの体勢で押し合う
「グヌゥ……!!」
「ヌウゥ……!!」
互いに力を込めるが腕は動かない
「ん~……!!どりゃあ!!」
飛び上がった萃香の頭突きがバーンの顔に炸裂する
「ッガアァ!?」
強烈な頭突きに目を閉じ怯む、その隙を逃さず萃香は飛び込んだ
「もらったぁ!」
怒濤の連打を浴びせる、ただの連打ではない1発1発にしっかりと気を込めているその連打はバーンに反撃を許さず一方的に打ちのめす
「うっ!?ぐっ!?がはっ!?」
(お、押し切られる!?)
凄まじい連打に思わず敗北を感じるバーン、さしものバーンでも純粋な殴り合いでは萃香に一日の長があったのだ
(負ける……余が……?……ありえん!)
受け入れかけた敗北感に突如否定が入った
「ハアアアア!!」
体に力を込め連打を一瞬耐える
「ハアッ!!」
カウンターで放った拳が萃香を打つ
「……ッ!?」
地面を抉りながら萃香は飛んだ
「……熱いじゃないかバーン……がはっ!?」
起き上がる萃香は血を吐く、思わぬカウンターは想像以上にダメージを与えていた
「……敗北よりは良い……ッ!?」
膝から崩れそうになるが堪える、ダメージは深くバーンの体に刻まれていた
「萃香……提案がある」
「何だい?」
「これは余興……引き分けで手を打たぬか?」
出されたのは引き分けの申し込み
「……」
突然の提案に萃香は少し考える
(これ以上は……)
フッっと笑いバーンに返した
「確かにね、これ以上は生き死にに関わる勝負になる、遊びでそこまでやる必要はないさね……いいよ、引き分けで手を打とうじゃないか」
引き分けを承諾した萃香はバーンに向かい歩き出す、バーンも歩み寄る
「楽しかったよ!久々に熱くなれた!」
バーンに手を差し出す
「鬼の力堪能させて貰ったぞ」
バーンは手を差し出さなかったが萃香が無理矢理手を掴み握手する、そしてお互いに笑い合い勝負は終わりを告げた
「余興は済んだ……話を聞こう、鬼人正邪を連れてくるのだ」
「あいよー」
魔理沙が紅魔館の中に入っていく
「天魔と言ったな、雇った妖怪達を相手にしていれば来ると思っていた」
「……つまり雇い主を誘き出す為にこの騒動を行ったと言うのか?」
周囲の惨状を見て天魔が聞いた、自分を呼ぶためにこれだけの事を行ったのかと
「ただ呼ぶよりは面白そうだったのでな……見ての通り誰も死んではいない、問題はなかろう」
「しかし……」
天魔が反論しようとしたその時に魔理沙が正邪を連れてやってくる
「連れてきたぜー」
「お、おい……天魔じゃないか……勘弁してくれよ……」
ビクビクと魔理沙の背中に隠れている、自分の殺害を命じた者が目の前にいるのだ怯えるのも無理はない
「お前を呼んだのは鬼人正邪の件でだ、鬼人正邪の幻想郷での安全を保証して貰う為にな」
「……それは出来かねる、鬼人正邪は野放しに出来ん、放っておけばまた幻想郷に仇なすだろう、許す事は出来ん」
「言いたい事はわかる……何もタダでとは言わん、こうするのだ」
バーンが正邪に手をかざすと黒い霧の様な物が正邪に入っていく
「うぎぃ!?」
正邪が体の異変に声を上げた、立ってられずその場に崩れる
「呪い……」
天魔が正邪を見て呟いた
「そうだ、能力と身体能力を大幅に抑えた、もうこやつは並の妖怪以下、それどころか人間にも苦戦するだろう」
「……断ったらどうされますかな?」
「譲歩はここまでだ……それでも断るなら殺すがいい」
「ういぃ!?」
満足に動けない正邪の運命が決まりかける
「……」
天魔が正邪を見つめる
「うっ……うぅ……」
視線にたじろぐ正邪、天魔は正邪から目を逸らしバーンに向き直す
「……良いだろう、確かにもう何も出来ないだろうな、だからと言って野放しには出来ん、幻想郷の僻地に幽閉させて貰う、あそこだ……そこから出れば命は無い」
天魔が指差したのは遥か遠く、幻想郷の端にある僻地
「わ、わかった!絶対に出ない!」
「見張りもつける、忘れるな鬼人正邪よ」
正邪に言い残すと天魔は紅魔館に散らばる妖怪達を妖力で持ち上げ帰っていく
「それでは私もおいとまさせて貰います」
文も頭を下げ飛んでいった
「……鬼人正邪」
「な、なに……?」
天魔達が去った後バーンが正邪を呼ぶ
「生き残り、そして場所も出来た、充分だろう?」
「あ、ああ……」
「では行け……」
バーンに命令されトボトボ歩く正邪、急に体に力が戻り振り向いた
「これは……!?」
「呪いを少し緩めた、バレぬようにするのだな……お前の革命を起こそうという考え嫌いではない、革命を成し遂げたいなら力をつけよ……さらばだ」
バーンは身を翻しレミリア達の場所へ戻り、紅魔館へ入っていった
「……ありがとう……バーン……」
1人呟いた正邪は少し笑い身を翻して歩いて行った
彼女が幻想郷に危険を及ぼす事は無くなった、少なくとも今は……だが……
「疲れたわね……」
霧を納め紅魔館戻ったレミリアが呟いた
「でも楽しかったよー!」
フランが笑う
「そうね!今回は引き分けだったけど次は負けないわ!」
チルノも笑う、今回は引き分けだった様だ、みんな引き分けで終わったのだ
「さぁ!祭りの後は宴会だ!飲むよバーン!」
いつの間にか一緒に居た大妖精から瓢を受け取っていた萃香が叫んだ
「しれっと紛れ込んでるんじゃないわよ……」
レミリアが呟く
「まぁ良いわ、宴会でもしましょうか、咲夜、用意して!」
「わかりました!」
準備に取りかかる咲夜
その日の夜は大いに盛り上がった、チルノ、フランがはしゃぎ、魔理沙と妹紅は笑う、レミリアとパチュリーも笑う、大妖精と小悪魔も楽しく笑う、萃香の酒乱が場を更に盛り上げる
「フッ……」
その光景にバーンも笑う
今日はほんの少し……ほんの少しだけ慌ただしい日常だったのだ
そして……誰もこれが最後の日常だとは思っていなかった……
正邪騒動はこれにて終わりです。
そして物語は……