ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない   作:Tamariba sizuku

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※前話で言及したこの世界の生死についてですが、冒険者は復活の加護(リスポーン)を持っていることが前提となるので、一回死んでしまったら終わり、という訳でもないです。けれど、ダンジョンで死んでしまうのは、諸々の理由から確かに致命的な問題であるので、生存確率をあげた方がいいのは確かです。誤解させるような書き方をしてしまったことを謝罪させていただきます。前書きは以上になります。


第二話「突き詰めること」

「またロールケーキを食べているのですか、ロキシー女医。」

 

「......あぁ、君か。かわいそうとでも思っているのなら、食べるのを手伝ってくれ。キリがないんだ。」

 

 毎日のようにロールケーキを食べている様子を見て、少し気の毒そうにこちらを見る部下に対して、私はイラっとして言葉を返した。この間問診を行った冒険者であるフライ=ミロウから大量にお礼を受け取り続ける日々が始まって、幾時か時間が経ち、ほとんど日課のようになってしまったその食事に、ことの変化は案外あっさりと起こりえるのだと実感させられた。

 

「そういえば、ロキシー女医。件の冒険者からまたお届け物が。」

 

「今度は何だね。ものによっては、すぐにでも突き返してほしいものだが。」

 

「スターバンクルのお守り、だそうです。」

 

 部下から飛び出したその単語に、ロールケーキのお供に飲んでいた紅茶を拭きだす。

 

「......っ、魔法生物の召喚媒体!?何故あの冒険者は私にそのようなものをよこした......!?」

 

 スターバンクルと言えば、アルス・ヌーボーの中でももっともスタンダードで、初心者でも手懐けやすい使い魔の一種だったか......。それを私のような医者に渡す理由は想像しにくくあったため、私は理由を部下に尋ねる。

 

「なんとなく先生に必要そうだと思ったから、だそうです。」

 

「はぁ......。フライ=ミロウは一度問い詰める必要がありそうだな。後で冒険者ギルドの方に問い合わせておいてくれ。呼び出しだ。」

 

「あの方なら喜びそうですね。」

 

「......。」

 

 何も言い返せない。はてさて、どうしたものか......。

 

「唐突ですが、ロキシー女医。問診の時間です。」

 

「さてはタイミングをうががっていたな?君。」

 

 明らかに都合のいいタイミングで話を切り出した彼女に、私は疑いの目を向ける。そうすれば、部下はチラとそっぽを向いて、何もわからないふりをする。

 

「......今回の患者は、エルフの男性です。職業は工場の従業員だと。クリエイトを主体とした加工を得意としているようです。」

 

「後で覚悟しておけよ?......エルフが工場勤務か、珍しい。......いや、まさかあいつじゃないだろうな?」

 

 魔法以外の道に進もうとするエルフというのは、なかなか見かけない。それゆえ、嫌な予感がして色々と勘ぐってしまう。知り合いにそんな変わり者がいたような......。

 

「考え込んでいるところ申し訳ないですが、問診の方よろしくお願いしますね。」

 

「あぁ、分かった。その代わり、私の荷物置きから拘束のタブレットと儀式用台座を持ってきてくれ。......召喚する用意はある。」

 

「突き返さないのですね。そういうところだと思います。」

 

 部下にそのように言われて、思わず言い返そうとしてしまったが、そこで踏みとどまる。

 

「......今は問診だ。なるべく早く片付けて、文句の一つでも言ってやろう。」

 

 最後に、部下がいつの間にやらおいていた事前アンケートに目を通して、私は患者の元へと向かった。

 

 

 

「やっほ~、ロキシー!待ってたぜ!」

 

「......やはり君か、ランド=シーリゾット。一応聞いておくが、茶化しに来たわけじゃないんだよな?」

 

「もちろん!俺ってば、今ガチで萎えてんの。気分上がらんくて、チョーしおしお。慰めて......」

 

「やらないからな。私がすることは、患者の状態の確認とアウトプットされたものを簡潔にまとめることだけだ。ふざけたいのなら帰れ。」

 

「えー、ひどいなぁ。俺の愚痴も聞いてくれないほど、心が狭くなったわけ?」

 

「......私のこれは仕事だ。遊びじゃないんだからな。」

 

 会って早々、頭痛を覚える原因となった彼は私の元同僚。テンションが高いくせに、反対意見などを出せばすぐに毒づいてくる。ねちっこいやつだ。

 

「今日来た理由を、一応確認しておくぞ。......現在君は工場の従業員をしていて、主にクリエイトを扱っている。けれど、今まで伸び続けていた成績は、最近になって急に停滞しだし、出社率も下がってきている。それで間違いないか?」

 

「あ~......。会社側、そんな風に説明してるのね。大体そんな感じだよ~。」

 

 会社から提出されたランド=シーリゾットの状態を第三者視点から見たものをまとめた書類。それを読み上げれば、彼は随分と怪訝そうな顔で書類を見つめていた。

 

「この企業は、随分とサポートが手厚いようだな。君のような存在も丁重に扱っている。いい企業だと思うが?」

 

「ん~、それはそうなんだけどね。......期待が重いというか、ヘビーすぎて背負いきれないというか。なんかね~。」

 

 苦々しい顔を浮かべて、彼は一息つく。

 

「......部品作って、歯車作って、動くようにつなげる。エンドレス単純作業なのよ、クリエイトって。仕事でやるには、ちびっとキツイっていうか。限界があるっていうのかな。ギブ。」

 

「......昔、テトラも進めていたな。あっちはどうした。」

 

「ん。一定までは行けた。バット、その後が無理だった。」

 

 飽き性、とまではいかないが、どちらも極めようとする意志が必要な技術だ。それが途切れれば、続かないのは無理もないのかもしれない。

 

「それで。君は今、そのような状況に陥って、君はどうしようとしているのだね?」

 

 おそらく、という推測を立てた上で、私は彼に質問を投げかける。

 

「......。会社、バックレようかなって。こういうのってサラッと切り替えちゃった方が早いっしょ?」

 

「私に聞くな。決めるのは君だ。」

 

 比較的明るい調子で、あっさりと言いのけてしまう彼に脱帽する。彼の良いところは、このような部分なのだろう。素直に尊敬する。

 

「え~、やっぱりロキシーは何も答えてくれない感じ?」

 

「仕事柄な。個人として話している場合なら、多少はかわったかもしれないが。今はそれを私に求めるのは、筋違いだ。」

 

 はっきりと言ってやる。こういう奴には、きっぱりと言いのけてやるのが一番効くからだ。

 

「......そっかぁ。いや、ごめんね。今回のことについては、ちょっと人に任せすぎるのも良くないと思ってたから。もう少し考えを改めなおしてみることにするよ。」

 

「それがいいだろう。時間は有限であるが、一つを考えるのに、あまりに時間は膨大だ。焦ることもない。」

 

「ありがと。それじゃ、お話聞いてくれて、心が落ち着いたよ。よりどころにしてもいい?」

 

「やめろ。気色が悪い。」

 

 言い寄ってくる彼を軽くあしらいながら、問診を終えようとする。

 

「それじゃあまた......と、言いたいところだが。」

 

「お、ようやく!!」

 

「お待ちかねの‟私個人‟が喋る時間だよ。......いい加減、医者を名乗れなくなりそうだ。責任取ってくれ。」

 

「もちろん。末永く。」

 

「......お前相手にボケようとした私がバカだった。今のは戯言だ。お前は何も聞かなかった。」

 

「聞いた!!!」

 

「医者に戻ってもいいんだぞ。」

 

「まことに申し訳ありませんでした!!!」

 

 いちいちねちっこくてかなわん、全く。

 

 

 

「......まず、憶測から入ろう。君は、一つのことに執着し続けている自覚、もしくは気質はあるか?」

 

「ない!全く!」

 

「だろうと思ったよ。おそらくだが、これはエルフ特有の生き方に起因するものかもしれない。君、‟クリエイトに何年触れ続けた‟?」

 

 私は、この話の根幹部分につながる質問を、彼に投げかける。

 

「えーと......確か、百、二百年は触れてるかな。これだけの時間で飽きたっていうのは、工業にも逸れず、魔法を極めようとしてる他のエルフたちにとって、かなりの侮辱だと思うけど。」

 

 うむ、と頷いて私は話を続ける。

 

「その感覚、人間たちの職場で働くのなら改めた方がいい。彼らにとって、君はとてつもない大御所だ。人間の寿命は持って百年と少し。それを超過して働いている君が、いなくなったのだ。それは、企業側も慌てるというものだろう。」

 

「......そういう、ものなの?」

 

「そういうものだ、ランド=シーリゾット。君はもう少し職場の人間たちと話をしろ。おそらく、作業に集中しすぎて、ろくに周りとのコミュニケーションも取っていないだろう。」

 

「そういえば、だれが働いているのかとかもろくに把握してないや。」

 

 彼の職場での対人関係がより一層不安になる。どうやって今まで、その職場で生き残り続けていたのだろう。

 

「......もしかしてだが、私と働いていた時も?」

 

「うん。ロキシー以外の人、だーれも分かんないや。」

 

 頭を抱えた。まさか、これほどまでにどうしようもない奴だったとは。

 

「エルフ云々よりも、君自身の問題が大きいようだな......。薬を処方して、どうにかなるような問題でもないか。」

 

「あり?俺の状態ってそんなにまずい?」

 

「まずいな。とても深刻だ。」

 

「......うそーん。」

 

 彼は、こんな風に軽々しい発言をしているが、正直手遅れまであるのではないかと考えている。なんせ、何百年とかけて根付いた癖に近いのだ。一挙一動でどうにかなったら苦労はしない。どうしたものか、と頭を悩ませていたところ、ふと一つの案が思い浮かんだ。

 

「......ランド=シーリゾット。君は、まだクリエイトをやり続けるつもりはあるのかな?」

 

「あ、うん。それはもちろん。職場ではよくしてもらってる、と思うし、できることならあの職場で働き続けたい。」

 

 彼なりの仁義はあるらしい。そこは誉められるべきところだ。で、あるならば。

 

「現在君が行っているクリエイトのシステムにひと手間加えることにしよう。歯車の間に装置を挟むように、人間の人員を中間に挟むんだ。ただ一人でやるときよりも、苦労も手間も増えるが、少なくともやりがいは出てくるだろう。」

 

 そのように提案すると、彼は一瞬おお、という顔をした後に、ん?という顔をして、私に尋ねてくる。

 

「ロキシー。その人員ってのは、どこから集めてくるの?......まさか、ロキシー自身が手伝ってくれるとか!?」

 

「それはない。前にも言ったが、工業、魔法ともに最近は一切触れていないのだ。最新の知識はちんぷんかんぷんでね、役に立てないよ。」

 

 ランドはガックシとうなだれ、ちらりとことらの方を向く。

 

「......じゃあ、だれが俺のことを手伝ってくれるんだ?」

 

「それはだな......。ちょうど、色々な経験を積ませたい冒険者が一人いてな。アイテム生産のことなら、お前に任せてもいいと感じたから、今回はその冒険者を貸すことにする。」

 

「へぇ~。......俺にとっての得は、その場合どうなるんだろう。」

 

「人間との関わり方を知ることができる。それだけでも、十分な得になると、私はそう感じるけどな。」

 

 彼にとっての利益を事細かく提示し、後はのるかそるかだけとなる。それに対する、彼の反応は。

 

「君の提案なら、乗るに決まっているだろう?よし、その冒険者クンに会わせてくれないかな?」

 

「‟私‟が提案したことに、君ならすぐに乗ってくると思ったよ。だけど、少し待て。その冒険者と君の持っている技術は、全くの別物だ。提携を結ぶために、冒険者ギルドと君の企業に確認が取れ次第、追って連絡する。くれぐれも慌てず、相手方と話し合いをするように。いいな?」

 

「は~い。分かりましたよっと。」

 

 本当に理解しているのか、怪しく感じる部分こそありはしたが、なんとか話の落としどころを見つけて、深く安堵する。

 

「いや~。ほんとにありがとね。君が仕事を切り替えて、医者をしてるなんて。最初に聞いたときはそりゃ驚いたけど。......やっぱり、なんか違うね。」

 

「......言ってくれるなよ。私とて、理解はしていても、納得はしていないのだからな。全く持ってかなわん。」

 

 ぶつくさと文句は垂れてみるが、本当に納得がいかない。どうして、冒険者ギルドはあのような判断を下したのか。

 

「君が、ギルドの意向に従ってるってことは、もしかしてあのセンパイとやらが関わってるのかな~?」

 

「......ギルドマスターの話は出すな。先輩、といっても一方的に信用している形に過ぎない。覚えられてもいないだろうさ、私程度のエルフの存在など。」

 

「なんでそこまで、自分のこと蔑ろにするかなぁ~。だって君は、十分あの場所で活躍してて......。」

 

「本当に追い出すぞ。代金も倍にするからな。」

 

「それはそれで医者としてどうかと思うよ~?」

 

 いい加減頭に血がのぼり、診察室から彼を追い出すことにした。最初から最後まで、カンにさわる男であった。

 

 

 

「ロキシー女医、問診お疲れさまでした。」

 

「本当に災難だった。まさかこんな場所にまで嗅ぎつけてやってくるとはな......。」

 

 侮れない男だと、ひどく呆れる。情報管理をもう少し丁寧にやっておくべきかと頭を捻らせる羽目になった。

 

「......お知り合い、だったんですね。元同僚、ということは前職が同じで?」

 

「あぁ、エルフの顔なじみで、二百年前に別れたっきりだった。で、今日アレがきたのが、久しぶりの再会だったわけだ。......これ以上深堀しても、何もないぞ。」

 

 部下からも質問攻めにあうのは御免だ。あらかじめ釘をさしておく。

 

「そうだったんですね......。分かりました、一旦話を変えましょう。」

 

「ん?」

 

「拘束のタブレットと儀式用台座。持ってきましたよ。」

 

 あぁ、元同僚の件ですっかり頭から抜けていたが、そんな話だったなとハッとする。

 

「呼びかけに応えてくれる奴がいるといいが......。よし、始めよう。」

 

 台座とアイテムを所定の位置に配置し、儀式の準備を整える。......意外と覚えているものだな、と我ながら感心した。台座に光がともる中、私はスターバンクルのお守りを使用する。

 

「さてさて、どんな物好きが来るのやら......。」

 

 手元からお守りが消えて、代わりに足元に灰色のスターバンクルが現れる。最初の印象としては、随分とおとなしいなと感じた。スターバンクル全体のイメージとして、無邪気というかお転婆のような感想を抱くことが多かったために、おとなしいこの個体は好感触であった。......第一声が飛び出すまでは。

 

「......ご用命を受けて、馳せ参じました。お嬢様、何なりとご命令を。」

 

「待て、お嬢様だと?あいにくと、そのように呼ばれる年齢でもないのだが......。」

 

「いえ、あなたはお嬢様です。ミス・ロキシー。呼ばれた際に入ってきた生体情報から、そのように判断しました。失礼。」

 

「あの、ルーキー......!本当になぜこのような個体をよこした......!」

 

「あなたに応えたのは私です。そこだけは、はき違えて欲しくない。よろしいですか、お嬢様?」

 

「やかましいぞ!永遠と魔導書に封じ込められたいのか貴様!」

 

 これでは仕事が楽になるどころか、頭痛の原因が増えただけではないか!

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