ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
「フライちゃーん。そっちの調子はどうだーい?」
「バッチリです!歯車、問題なく稼働してます!」
冒険者とエルフが二人、何かの機械を動かして状態の確認を行っている。その機械はいくつもの歯車から構成されており、ソースベリーの生産からその加工まで兼ねられるようであった。
彼らは、ロキシー=ペリパトスの紹介でお互いに技術提供を行うことで協力体制のようなものを取り、その発展系を模索している状態であった。そして今、それがある程度形を成したところだろうか。
「まさかこんなに早く成果を出せるとは……。ランドさんには感謝しかないです。」
「ほんとー?それなら、協力した甲斐があったって感じだ!この勢いでデートとか!」
「お断りです。」
「シュン。」
親密かどうかはさておき、彼らの持ちうるものの相性が良かったことは確かだ。量産に長けた工場勤務の技術者と、いつ何時も冒険者の必要とする食料の生産者。彼らが手を組めば、自分たちだけではなく所属しているギルドの冒険者全員に行き渡る程度の食料くらいであれば容易に準備することが可能であった。事実として、フライ=ミロウはギルド内でソースベリーのロールケーキを配り歩けるくらいには一人で沢山の量を作成していたため、ランド=シーリゾットと協力関係を結んだことでそれはさらに磐石なものとなった。……ちゃっかり、一つにつき少量の金銭も拝借していたため、冒険者家業で集めた資金とロールケーキで集めた資金で安定した生活は確約されてるんだとか。
「そういえば、技術云々の話は色々と話してきたけど、冒険者ギルドでの話はあんまり聞いたことなかったねー。……どう?調子は。」
「ギルドの方で、ですか。順調ですよ。ネザーでの調査もだいぶ進んできました。そういえばなんですが、ブレイズバーナーも近々用意できるかと。」
「本当!?嬉しいなぁー。彼らの力を借りることが出来れば、火力の面もだいぶ改良できそうだ。頑張ってるんだねー、えらいえらい。」
「……あの、子供じゃないんですが。」
ランドはフライの頭を撫でながら、彼女のことを褒めちぎった。口頭でこそ不満そうな声を漏らしていたが、その表情に不快に感じている様子は見られなかった。
「本当に君と仕事をすることが出来てよかったよー。ロキシーには感謝しないとね!」
「全くです。まさかこんなにも上手くいく事柄が増えるとは……。先生には、頭が上がりません。」
二人は今を感慨深く思うと同時に同じ人物を思い浮かべる。すると、ランドの方が何かに気がついて長い耳をピクピクと動かした。
「噂をすれば何とやら、ってやつかなー?」
「え?……って、もしかして!」
フライはランドの反応に思い当たる節があったのか、パッと表情を明るくすると嬉々として駆け出した。
「うわぁ、判断が早いなー。待って待って、機械停止させてからじゃないと……って、もういないや。仕方ないなー。」
歯止めの効かないフライにため息をつきながらも、それにすぐについて行く訳にも行かずにランドは一人機会の整備をしてから彼女のことを追った。
「ロキシー先生ー!」
「おぉう、君はいつも通り元気だな。何よりではあるがもう少し抑えてだね……。」
予想していた通りの人物と門前で対面し、抱きつかんとする勢いで急接近してきたフライに少々戸惑いつつも、なんとか制止してロキシー=ペリパトスは彼女に笑みを向けた。
「改めてこんにちは、フライ=ミロウ。彼、ランド=シーリゾットとは上手くやっているかな?」
「もちろんです!機械とソースベリーの整合性を詳細に確認してくださったりとか、生産量を上げた際にどのような用途で使用するかの相談に乗ってくれたりとか、後はナンパされたりとか!」
「ようし、待ってろ〜。今からあのヘラヘラした顔面に右ストレート食らわせてくるからな〜!」
「やっほ、ロキシー!」
「テメェ!!覚悟しやがれ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
出会い頭の渾身の拳から少しして、ロキシーは機械のある場所に隣接する形で建つ小屋に通されていた。いまだにランドは左頬を押さえている。
「まだズキズキするんだけどー。僕が何したって言うんだー!」
「誰彼構わず口説こうとする癖をやめろと言ってるんだ!全く……どうしてこのような愉快なエルフが生まれてしまったんだ……。」
「愉快?ありがとー。」
「……今の、皮肉に近いからな?」
「あり、ほんとに?」
ランドの自由奔放さに終始呆れつつも、ロキシーはフライがいることもあってか、なんとか話を軌道修正させようと試みる。今日何故ここに来たのかを話し始めた。
「えーっとだな。ちょっとこれからの方針について、部下と揉めた。現在進行形でケンカしてるようなものなんだが、どうしたもんか相談しに来たんだ。」
「ありゃりゃ、それはまたやっちゃったねー。部下、っていうとあの緑色のフードが特徴的な白衣着てた子?人間だったかな?」
「そうだ。」
「年は私に近いように見えましたね。……それにしては大人びていて、落ち着いた方だなといった印象がありますが。」
「……概ね、認識はそのようなもので構わない。」
見た目の齟齬がないかを二人に確認した後、ロキシーは詳細を話し始める。
「今回の問題点となったのは、王都に行くかどうかについてだ。冒険者ギルドの職員から仕事を提案されてな。それに乗るかそるかでいざこざが起きてしまったんだ。」
それを聞いた二人はそれぞれに驚いたような反応をする。
「……さらっと言いましたけど、直接仕事を依頼されるのってすごいことなんじゃないですか?それも王都に……。」
「……名指しだったの?ロキシーにきて欲しいって。」
「ん、いいや?ギルド側としては、近ごろ冒険者の間での評判か何かを聞きつけて、噂の人物にコンタクトを取ろう、程度にしか思っていなかったんじゃないか?」
「そうかー。てっきり、君目当てで呼び出したのかと思った。」
そのような含みのある言い方をして、カラカラと笑うランドを横目に、フライはそのやり取りが気になって、ついこのように質問をする。
「……失礼でなければいいのですが。先生って、冒険者ギルドでなにかされてた方なんですか?」
「む。冒険者ギルドでは特に何もしていないな。職員でも、冒険者でもない。けれど、騒がせていた、のはあったかもしれないな。」
「かもしれない、どころじゃないよー。ロキシーは世界各地を飛び回る冒険者専門の治癒士、だったんだからね!」
「治癒士、ですか?」
フライは自身の目をぱちくりとさせながら、二人にさらに質問を続けた。
「僕が機械を本職にする前に、冒険者だったことは話したでしょ?それと同時期に彼女はそれを生業にしてたんだ。僕もよくお世話になったなー。」
「お前、怪我してなくても来るからこっちとしては迷惑客認定しても良かったんだぞ。」
「うそー!?それにしてはいつもすんなりと受け入れてくれてたイメージがあるんだけど……。」
「金が欲しかったからな。」
「うわ、現実的ー。」
二人の掛け合いを聞きながら、フライは冷静に気になる点を聞くことにした。
「……冒険者ギルドを騒がせるほどの治癒士で、世界各地を回っていた、というのはどのような方法で?どれくらいの速さで?」
「足で、誰よりも早い速度で、だな。」
「……?」
疑問符が浮かぶ。それはつまり、特に特別な方法とかはなく、ただひたすらに足で稼いでいたということになる。シンプルでなんの捻りもない、だからこそ確実に着実にこなせる。ただ、規模感がおかしいだけで。
「……めちゃくちゃすごいじゃないですか。」
フライが目を輝かせる中、ランドはうんうんと頷き得意げに話を再開した。
「でしょー。でも、ロキシーはそういう記録とか好まなかったから、本格的な活動をやめた後は全部処分してくれってギルドの方に頼んだんだよね。」
「そうだったな。理由としては、目立ちたくなかったからだが、辺境の地に身を置いても何故だかファンレター等は今になっても届くんだよな……。一応、隠れているつもりなんだが。」
「今の仕事もちゃんとみてくれている人がいるってことじゃないですか!さすが先生!」
「フライ君。私はそれがずっと悩みの種なのだよ……。」
やれやれとため息をつくロキシーに思わずフライはクスクスと笑った。彼女の成してきたことを知れたのもそうだが、昔から彼女が彼女のままであることが分かり、いつも以上に尊敬の念が湧いたのだ。強い人だ、と改めて理解する。
「それにしても、先生が相談しに来てくれたのに長々と自分の来歴について話させてしまって申し訳ないです。お時間とか、大丈夫ですか?」
「時間については問題ないとも。部下にも、休暇という名目で一度仕事から離れてもらっているからね。来歴については……実は、ケンカの原因に起因していたりもするから、事実聞いてもらって正解だったのだよ。」
「え、そうなんです?」
フライは驚いて、ロキシーに聞き返す。ロキシーはそう聞かれると、少し困ったような表情をしながらその問いに答える。
「治癒士をやっていた、と言っただろう?本格的な活動はしばらく前にやめたと言ったが、実はつい最近までは大々的なものにならない程度に続けていたんだ。」
「……お金のために?」
そう聞かれれば、さらに困ったような顔をしてフライ=ミロウに向けて言葉を返した。
「どうだろうね。そこについては一旦置いておくが、彼女はその小さな活動の中の大事な患者だったんだ。……私が治癒士を辞める前の最後のね。」