ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
「………………は優しいねぇ。重い荷物で最初は心配したけれど、力持ちなのねぇ。」
「ねーちゃん、みーつけた!ねぇ、早いよー。どうしてそんなに隠れるの下手なのー?見つかったのに悔しそうじゃないし……。」
「………………、いきなり呼び出してすまなかったな。それで話なんだが、………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
あの、先生。私は……なぜ生きているのでしょう。
「さぁな。それなりの理由はあるんじゃないか?なにせ、君は生きる事を選んだわけだからな。忘れてしまったのなら、思い出せるまで足掻くといいさ。」
……
「……具合が悪いように見受けられます。しばらく虚空を見つめられていたようですが。」
「いえ、大丈夫です。少し、考え事をしていただけなので。」
建物が立ち並ぶ大きな通りを、人混みを避けながら歩く人影とその肩に乗る小さな魔法生物が、都度会話をしていた。
「……アスターさん。女医……ロキシー先生の所にいなくて大丈夫なのでしょうか。あなたの彼女に対するご厚意は、呼び掛けに答えてくださった時から見てきたつもりです。私に着いてくると聞いた時は色々と勘ぐってしまいましたが……。」
少し不安そうな表情でアスターを見つめる彼女だったが、それ以上にアスターは深刻そうな表情をしてものすごく低いトーンでこう言葉をこぼす。
「……厄介払いを食らいました。いい加減魔導書の中でじっとすることを覚えろ、と怒鳴りつけられまして。」
「……そういえば、ロキシー先生が寝られている時も隣に張り付いてましたね。」
「あれは!お嬢様の安全は、たとえ深夜の真っ只中でも守らねばならないと!」
「そういうところだと思います。」
肩に乗るアスターが持つ思いに気持ちズシリと重くなるような感覚に一瞬襲われる彼女だったが、再び持ち直して不意に湧いてきた疑問を投げかけた。
「魔導書に戻らず、どうして私に?というか、パスを繋いだ者の近くでの行動が主なのでは……。」
「それに関しては、後者の方から説明致します。アルスヌーボーのエンチャント装置についてですが、あれをご準備していただいたのは、あなた……女史様だったという風に記憶しております。違いありませんでしょうか?」
「……まさか、それだけでパスが繋がったんですか?」
「私たちの縁の器が大きかった、ということでしょう。」
その返答に思わず頭を抱えて、ため息をこぼす。そんな単純で簡単な理由だったのかと驚くと同時に、はた迷惑に近い契約の範囲にもう少ししっかりして欲しいと呆れていた。
「まぁいいです……。契約が完了した経緯はわかりましたが、着いてきた理由は未だに解せませんが。」
「それについては女史様のおてんばの度が過ぎているからでしょう。」
「……はい?」
今度は、肩に乗る魔法生物の方がため息をついて彼女を諭すように話を続ける。
「女史様。お嬢様から休暇を何日かいただいた途端に辺境を飛び出し、王都まで一直線にやってくるのかいささかやりすぎかと……。」
「それは!最近は王都に来ていなかったので、改めて下見をと!」
「……準備はいつしていたので?仕事を疎かには
していませんね?」
「そんなことは断じて!!寝る間を捨てました!!」
「……なるほど、お見逸れいたしました。」
そこまで聞けば、アスターは咎めるでもなくむしろ賞賛するように頷いて、彼女と意気投合しているように見えた。
「まずはギルドに行きたいですね。そこで今の王都の情勢を把握して……。」
と、これからの動向についてすり合わせをしようとしていた時だった。突然入り組んだ路地の方から悲鳴が聞こえてくる。
「衛兵さぁぁぁぁぁぁん!!」
甲高く大きくこだました悲鳴は、二人の耳にはっきりと聞こえた。なにか言葉をかわす前にその声の聞こえてきたほうにすぐに走り出す。
「いいのですか、女史様。王都を回るとの事でしたが、言ってしまえば面倒事ですよ。これは。」
「これを無視して王都を回れ、という方が無理難題です。いきますよ、アスターさん。」
そういう彼女の足は初速からなかなかのもので、入り組んだ路地をものともせず悲鳴の聞こえてきた場所にたどり着くことができた。
たどり着いた先にいたのは、暗い路地で倒れ込む一人の少年とそれを囲むようにして群がる三人の男達であった。
「誰かぁぁぁぁあ!!冒険者の人でもいいから呼んで……って、お姉さん!?ここ危ないよ!?」
「あん?……チッ、気づいた奴がいたのか。」
彼女が駆けつけた時、少年と男達は様々な反応を示したが、それに何か返事をするでもなくそのままの勢いで男達の制圧を始める。
「なんだぁ?女一人で何が出来るってんだ……ふがっ!?」
「早いッ!?なんなんだコイツ……ぐはっ!!」
あっという間に三人の内、二人を締め上げると最後の一人に対して即座に体を捻って向きあって、大きく飛び上がった。
「クソッ!やってやれるかよ!」
惜しくも最後の男は二人がやられる様子を見て自分たちの状況を理解し、煙幕を使い撤退を選んだ。
「……面倒な手を残していましたか。アスター、この少年を見ていてくれますか?私はあの男を追いかけます。まだ近くにはいるはずですから。」
「承知いたしました。くれぐれも無理のないよう。」
「分かっています。」
そのように会話を交わして、自らに乗っていたスターバングルをその場に下ろすと、彼女はまたもやとてつもない速さでその場を後にして、男の捜索に駆け出していった。
「……なんだったんだ、あの人。」
男を捜索し始めて、少しした後。路地が入り組んでいるということもあり、少年を襲った男を見つけるのに女は難儀していた。
「任務で来た訳でもありませんからね……。その点だけは惜しまれますが、仕方がありません。」
己の感覚を信じて、女は捜索を諦めなかった。長い時間、足を止めることなく路地を進み続けた。ここが王都のどこかももう分からない。
「……尚更、見つけなければ。」
同じ道を何度も通った気がする。それが本当なのか気のせいなのかは定かではないが、感覚があやふやになってきていることに女はとうに気がついていた。……昔、ほんの少し王都にいた経験におごりを見せてしまったか。
「全く、我ながら恥ずかしいですね。」
「あははっ、本当に可愛らしい方なのだわ!」
「?……誰でしょうか。」
唐突に現れた不思議な声に女は戸惑い、辺りをキョロキョロと見渡して聞こえた先を見やった。
そこにいたのは、赤いローブと腰のレザーベルトに携えたいくつかの小瓶の目立つ桃色の髪の女性。声色も相まってどこか掴みどころのない雰囲気を放つ彼女に、つい質問を投げかけていた。
「名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るべきじゃないかしら?緑のフードのお姉さん。」
「あ……。すみません、失礼を重ね重ね……。」
焦りが表立ってしまったのか、少し冷や汗をかいた女は自分の名を名乗る。
「私は、スピカ。スピカ=セプカです。……医者の助手、的なことをやっています。」
そう話せば、不思議な声の彼女は興味深そうに彼女の方を見つめて、クスクスと笑う。
「フフフ、そうなのね。あれだけの荒事をしておいて、そんな風に名乗るのね。面白いのだわ!」
「……悪かったでしょうか。」
「え?良いと感じたから褒めたのだけれど。まぁいいわ!私も名乗りましょう。」
言い方こそアレだか、彼女はスピカを受け入れたらしく、自己紹介を始める。
「私はセレナ!……あぁ、家名とかはないからセレナだけでいいわ。小瓶のセレナ、とかでも嬉しいけれど。」
「はぁ、なるほど……?」
どこまでも不思議な人だな、と考えながらスピカは彼女のことを見ていた。
「……そうだ、あなた!!クエストを受けていたのでしょう!?あの盗人を追っていたのだもの!!きっとそうだわ!!」
「……え。クエスト?」
急に話を切り出されたかと思えば、身に覚えのない要件にスピカは頭が追いつかない。
「私も、同じクエストを進めているの!どう?一緒にやってみましょうよ!ほら、行きましょう!」
「ちょ、ちょっと!?待ってくださ……」
「それじゃあ、レッツゴー!」
「……嘘でしょ。」
そんな勘違いから、この指名手配クエストは始まりを告げた。