ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
「......何だったんだ、あの人。」
走り去っていった女性を横目に呆然と立ち尽くす少年が一人。おそらく盗賊だと思われる集団に襲われていた彼は、ポツンと一人その場に取り残されていた......一匹のスターバンクルは例外であったが。
「災難でしたね。女史様がいてくださらなければ、見事に身ぐるみを剝がされていたのでは?」
「分かってたさ、そんなこと。ごらんの通り俺は非力だからな。そりゃ見るも無残に剝ぎ取られてただろうよ!......って、なんだぁ!?ウサギが喋ってる......!?」
「わたくしめはウサギなどではございません。正真正銘のスターバンクルでございます。アスター、とお呼びください。」
そのように切り出してから、少年がスターバンクルのことを理解するまで、アスターは懇切丁寧な説明を続けた。
「......あぁ。なんとなくは、分かった。その、スターなんたらってのは、御主人に付き従う従者、って認識でおおよそあってるか?」
「そこまでご理解いただければ十分でしょう。先ほど盗人を追いかけていった緑のフードの女史様、スピカ=セプカが主人。わたくしめ、アスターが従者である、という認識のみで今は問題ないかと。」
そこまで離せば少年は何とか話を飲み込むことができたようで、改めてアスターに向き直った。
「いや~、悪いな。俺バカだからよ~。一から十までちゃんと話してもらわねぇと簡単な話も理解できねぇんだ。助かったぜ、アスター。」
「構いませんとも。貴方様が私たちのことを信用してくださるのであれば、可能な限りのことをして見せましょう。」
「はは、頼もしいや。」
そうして、お互いの認識のすり合わせが終わったところで、アスターと少年はほとんど同時に地面に倒れ伏す男二人の方に顔を向ける。
「......話が二転三転し、さらに恐縮なのですが。今回のことのあらましを教えてください。何故、貴方様はこの男らに襲われていたのですか?」
「あ、そっからだよな。どう説明したものか難しいんだが、簡単に言えば......珍しいもん持ってたから狙われたんだろ。」
「......一つ一つ、ゆっくりでいいので教えていただけますでしょうか?」
そのようにアスターが少年に尋ねれば、少年は言葉を探り探りではあるが、詳細に伝えてくれた。
少年はあまり裕福でない家の出身であるそうで、今日も朝早くから働きに出ていたそうだ。日が真上に昇りきる直前、昼頃になって休憩時間となり、少年は昼ごはんを食べると同時に暇をつぶそうと散策をしていたようだ。その散策中に、偶然キラリと光るものを見つけたらしい。......それをよくよく見ようとしたところで襲われたのだとか。
「分かりました。情報の提供、感謝いたします。それにしても、災難でしたね。」
「全くだ。何がなんだかわからん内に囲まれてるんだからよ。まだ頭が追いついてないんだ。」
へらへらと笑いながら軽い口調で話す彼ではあるが、完全に参っているのは目に見えて分かった。アスターはその様子を見て、少し考え込んだ後に一度頷いて少年にこう提案する。
「貴方様さえよければ、この後冒険者ギルドに赴こうと考えているのですが。」
「え。ギルドか......。俺なんかが行っていいのか?ぶっちゃけて言えば、貧民だぞ?俺。」
「立場どうこうで何か言うようなら、あそこはあれほどまで大きくなっていませんよ。......と言っても、あまり気分はすぐれないでしょうが。」
「悪いな......。ちょっと、足がすくんでるみたいだ。」
本人にとってはかなりショッキングな出来事だったのだろう。その様子をおもんばかって、アスターはこのように提案する。
「いいですか、わたくしめたちは証人としてギルドに赴くのです。おそらくこの件は男たちの行動の早さからして、何度も行われている案件なのだと考えられます。そこでわたくしめたちが経験したこと、情報を提供しに行けば、ある程度の褒賞と安全は確保できるはずです。それであれば、生まれも何も関係ないでしょう?」
「......確かに、そうだな。」
そう説明をすれば、少年は何とか納得してくれたようで重い腰を上げて前を向いてくれた。
「そうと決まれば、さっそくギルドへ向かいましょう。」
「あぁ、そうだな。......色々とすまねぇ。」
「とんでもない。身の回りを整えることこそ、わたくしめの仕事でございますから。些事でございます。」
「ははっ、貧民の執務って......どんな物好きだよ。」