ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
「セレナさん。一度で良いので私の話を......。」
「スピカ!こっちなのだわ!ほらほら!」
緑のフードの女性が改めて話を整理しようと前を行く桃髪の女性に声をかけているのだが、その声が聞こえていないのか桃髪の女性は意に介さずに急かしている。
「クエストの概要は分かっているかしら?忘れたなんて言わせないけど。」
「私はクエストが何なのかすらわからない状況で......。」
「最近巷を騒がせている小悪党、盗人集団の行方を探って可能であれば確保・ギルドに突き出せれば上々、的なクエストなのだわ!!」
「......はぁ、なるほど。」
ここでスピカは小さくため息をついて、やれやれとセレナの話を聞く方針に切り替えたようだ。
「あの犯行は計画的なものなのでしょうか?私は一度犯行現場は目撃しただけで、あまり情報を持ち合わせていません。」
「そうなのね。任せてちょうだい!知りたいことがあれば、ここ数日で聞き込みした情報を共有するのだわ!」
「......。」
こちらの話を聞いているのか、聞いていないのか。よく分からない人だな、とスピカは思った。
「確か、逃げ回っている男が一人この辺にいるのよね?」
「はい。その人物を探している状況です。......もう、情報は周知されているのですね?さすが、ギルドは仕事が早い。」
「え?......え、えぇ!王都で冒険者をまとめているというのは伊達ではありませんね!フフフ......。」
「......?」
先ほどから挙動不審に近い反応を見せる彼女だが、その真意はさっぱり見えてこない。
「さ、さぁ!急がないと男が本当に行方を眩ませてしまいますわ!その道を左に曲がって......。」
「......あ、すみません。少し失礼します。」
「え?ちょっと......そっちは反対の道なのだわ!?」
セレナの言う通り、駆け足で彼女が向かっていったのは全くの逆方向。彼女がそうして進んでいった理由としては......。
「おばあちゃん。お荷物お持ちしましょうか?」
そう、人助けである。
「迷子ですか?......親御さんはどこに行かれてしまったのでしょうか。探してみます。」
持ち前のスピードではぐれた親子を見つけたり。
「ケンカはよくないですよ。公衆の面前で、はしたないです。」
一触即発状態だった男たちを仲裁したり。
「そんなに泣いてどうしたのですか?......あんな高いところに風船が。分かりました、取りましょう。」
大きく飛び上がって木に引っかかってしまった風船をとったり。
「荷車の車輪が道の端の溝に引っかかってしまったのですね。」
「あぁそうなんだ。たまったもんじゃねぇな、全くよ。ギルドの冒険者を待ってる時間もなくてだな......。」
「私が持ち上げましょうか?」
「え、スピカ?冗談よね?こんな大きな荷車、一人で持ち上げられるわけ......。」
「商人さん、後ろを見ておいてください。それでは......よいしょ、っと。」
立ち往生していた商人の荷車を持ち上げたり。
「えええぇ!?」
「こんなところでしょうか。問題はありませんか?」
「あぁ、助かったよお姉さん。丁寧に持ち上げてくれたおかげで大きな傷も見当たらない。助かったよ。」
「それならよかった。」
さほど支障もなかったことを確認して安堵している二人の横で、セレナは目まぐるしく問題が解決されていく様子に目をぐるぐると回していた。
「これが王都の普通なのだわぁぁぁ!?」
セレナの言っていたクエストそっちのけで、人助けに専念していたスピカに振り回していた立場だったスピカの状況は完全に逆転していた。
「はぁ......はぁ......。大した体力なのだわ。私はついていくのが精いっぱいだったっていうのに、あなたすごいのね......。」
ぜぇはぁと肩で息をしているセレナに対して、スピカは依然として飄々とした様子で歩き続けていた。
「えぇ、あの男を見つけなければいけませんので。」
「......?でも、途中で何度も人助けをしていたわよね?優先順位、どうなっているの?」
よく分からないといった具合で質問を投げかけたセレナに、スピカは大きく首をかしげる。
「男を捕まえるのは当然です。ですが、困っている人に見て見ぬふりはできません。ならば、全てこなしてみせるまでです。」
「......全てこなすなんて難しすぎないかしら?」
「こなします。何があっても。」
「......ッ、アハハ!!面白いわね、あなた!!」
そう言い切るスピカにセレナは少しの間唖然とした後、自身の中でボーターラインが決壊したように大きく笑い始めた。
「......どこかおかしかったでしょうか?」
「おかしくもなんともないわ!いいことだと思うの、それって。」
「......?」
またもよく分からないといった具合で首をかしげるスピカに、セレナは言葉を続ける。
「自分にやれることはできるだけやろうとしてて、そのできることの幅も広い!それってカッコよくないかしら?」
「そう......なんでしょうか?」
「少なくとも私はそう思うのだわ。なにせ、今あなたがそれを実行して示してくれたわけだしね。」
「......はぁ。」
「なんなら、あなたがスターバンクルと一緒に男たちを制圧していくところも見ていたし!」
「......え?」
予想外の一言に、スピカは目をパチパチとさせる。
「ギルドからクエストを受けてきたっていうのは嘘。実際は私たちが男を追い始めた頃に、あなたが連れてた星の子が被害者とギルドに報告したばかりだと思うから。逃げた男についてギルドが動き始めたのは今さっきのことじゃないかしら?」
「ということは......あなた、ギルドの関係者でも何でもないんですか?」
「えぇ、王都出身でも何でもないわ。」
「......とんだ嘘つきですね。」
スピカはここまでの嘘をわるびれもせずつらつらと話す彼女に心底呆れた。
「そこまでして私に接触したかったと?」
「えぇ!最初からあなたには興味があったわ!予想以上に面白い人で私としてはお釣りがくるレベルで満足しているのだけれど......。」
「だけれど?」
「あの男の人は見つけたいでしょう?最後まで手伝うわ。」
ドンと胸をはって手助けをすると進言してくる彼女に、スピカは少しの沈黙の後、返事をする。
「そこまで胸の内を明かしてくれたのであれば、正直問題はないのですが......。」
「ですが?」
少しムスッとした顔でスピカはセレナの方を指さして。
「嘘はもうなしですよ?」
「......それについては、本当にごめんなさい。以後気をつけるのだわ。」
約束事を取り付けた後、二人は顔を見合わせる。
「それで......男の場所の検討はついているのだわ?」
「えぇ、おおよそは。」
そこから先はあまりにもスムーズに話が進んでいく。
スピカの人助けは、ただのボランティア、というわけでもなかった。助けた人々の証言を元に怪しい人物を見かけていないか、どこに向かったか等の情報をしらみつぶしに集めていたのだ。
「まさか、こんな情報収集の仕方があるなんて。地道に足で稼いでいたのが恥ずかしくなってくるわね。」
「私のやり方が、今回はうまくいっただけです。この辺りの知識は私にはありませんから。現地の人々の地の利はやはり偉大ですね。」
なぜか自慢げなスピカにセレナはうんうんと頷きを返す。
「これで、あの男がどこに向かったのかはおおよそ分かりました。あとはそこに向かってみるだけです。」
「......私たちだけでいいのかしら?ギルドに属しているわけでもないのに。」
そのようにセレナが疑問をつぶやいたとき、二人のそばに瞬きの間に一匹のとある魔法生物が現れる。
「心配はご無用です。女史様、女史様のご友人。」
「アスター!?どうしてこっちに来たんですか!?」
「......女史様がかなり離れていた上に、かなり長い時間が経過していました。わたくしめ、これでもこらえていた方なのです。申し訳ない。」
「あ、それは......私の責任ですね。謝らないでください。」
「貴方がアスターね!初めまして!私はセレナなのだわ!」
「なるほど......貴女殿、よろしくお願いいたします。」
「えぇ!」
颯爽と現れたアスターにそれぞれの反応を見せた後、スピカが話を戻そうとアスターに向き直る。
「それで......無用、というと?」
「私があの少年と共にギルドへ報告に向かいました。しばらくすれば伝えた情報でここの近辺まで駆けつけ、魔力探知等で私の反応を追って合流してくれることでしょう。ギルドにもそのように対応してほしい旨をできる限り伝えておきましたので。」
「ねぇ、スピカ?すごいのね、アスターって。ここまで配慮のできる星の子、初めて見たのだわ。」
「......えぇ。自慢のスターバンクルです。」
アスターの用意周到さに二人はそれぞれの反応を見せる。
「女史様。目的の人物について、すでに検討はついている様子。今から出向く形になるのでしょうか?」
「そうです。あなたのおかげで、準備は完全に整いました。」
二人が確認を取っているところに、セレナがチラチラと目線を送る。
「ふふ、二人って本当に相性がいいのね。嫉妬しちゃうのだわ。」
「これでも万全な状態、とは言い難いのですよ。貴女殿。」
「え?」
「私たちはあくまで補助役なんです。リーダー......私たちのことをよく見てくれる人がいるんです。」
「......ふふ、あはは!!あなたたちのこと、もっと知りたくなってきたのだわ!!」
これが、これから問題に巻き込まれていく直前の会話である。実にのんきだ。
「さて、そろそろ向かってみましょうか。」
「ええ、足元にはお気をつけて。女史様。」
「ウフフ!楽しみ!」