ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
「アスター、あの犯人の行方は追えていますか?」
「はい。一度対象の姿形は目視しておりますので、彼が残したわずかな魔力の痕跡をたどっていけば......今、目視しました。」
「ありがとうございます。私も確認しました。」
人々からの証言とアスターの探知能力を駆使し、スピカ一行は再びあの男を見つけることに成功する。スターバンクルのできることといえば物を運ぶ能力が目立つが、見つけることや探し当てることについてもある程度の力量があったりする。今回はそこにフォーカスした作戦でうまく盤面を有利に運ぶことに成功した。アスターは一度目配せをして、スピカに次の手に移るよう促す。
「げぇ!こんなところまで追いかけて来やがった!」
「逃がすわけないじゃないですか!」
スピカはその言葉を皮切りにしてスパートをかけると、犯人との距離をどんどんと詰めていく。その追い打ちのかけ方についに余裕がなくなったのか、男は無我夢中で彼女との距離を放そうとする。
「くそっ、いい加減諦めろよ!どうしてそこまでして俺を......って、嘘だろ!?行き止まりかよ!!」
慌てふためく男を前に、スピカは鋭い剣幕で彼をにらみ続ける。
「ここまで追い詰めたのは計画通りです。ご丁寧に地図をくださった貴婦人がいたんですよ。それを元にあなたがここに来るよう、追跡中に圧をかけていました。冷静さを欠いた時点で、あなたは終わりだったんです。」
「ベラベラと偉そうに......!」
腹だたしそうに怒鳴りつけてくる相手に対して、彼女は動揺することなく正面から立ち向かう。むしろ彼女の方から圧倒していくような、詰められているのだとそう感じさせるほどの威圧感で男の逃げ道を、退路を断っていく。
「あなたの方こそ諦めて、潔くギルドに連行されるべきです!これ以上の抵抗は、何の意味もありません!」
「くそっ......クソッ!なんで俺がこんな目に......!!」
「犯罪は犯罪である以上、必ずどこかからほころびが生まれるのです。当然の報いかと。」
怒り心頭の犯人に、追いついてきたアスターが冷静に諭していく。
「うるせぇんだよ!......あぁもう、使うかどうか渋ってたがもういいさ。知らねぇからな!!叩き潰されてもよぉ!!」
そう吐き捨てた直後、犯人は檻のようなアイテムを取り出すと、そこから敵対モブを複数体放ってきた。
「あれは、モブを持ち運びできるタイプのアイテムですか。......面倒なことを。」
「はっはっは!俺はここらでとんずらさせていただくぜ!」
勝ちを確信したように高らかに笑い声をあげた男は、先ほども逃げる際に使用した煙幕を撒いて、同じようにこの場から退散していった。本当に用意周到な犯人だ。
「......女史様。」
「大丈夫なはずです。それよりも、今は目の前のモンスターたちを何とかしましょう。」
冷静に言葉を返すスピカであったが、状況は芳しくない。彼女らが二人であるのに対して、相手は無数に群をなすモンスターたち。後ろが空いているためここから逃げ出すことは可能なのだが、スピカは目の前の問題を対処することを選んだ。それを聞けば隣にいるアスターもそれをよしとしたようで、敵対モブたちに向き直った。
「念のため確認をしておきますが、お嬢様から聞いた話が正しければ年単位でしてこなかったことを今ここで肩慣らしすることになります。実戦で行う所業ではないかと。」
「構いません。むしろ、憂さ晴らしにはちょうどいいかと思います。」
「かしこまりました。それでは、こちらをお手に。」
そのように確認を取れば、アスターは自身の背中に乗せていたアイテムを実寸に戻してスピカに手渡す。それを手にすればスピカは目を見開いて驚き、アスターに目を合わせた。
「まさか、あなたが持っていてくれたんですか?」
「お嬢様に頼まれまして。私としては、貴方がこれを振り回せることの方に驚いているのですよ?一瞬触れただけでも、その重さに圧倒されてしまいました。」
「ロキシー女医があなたに......。はぁ、なにもかもお見通しなのですね。あの人には。」
参ったと観念して、首を横に振ってからそれをモンスターたちに向けて構えた。
「......一年振りの魔物退治です。聞いているのかもわかりませんが、せめて......こちらを満足させてから逝ってくださいね?」」
その言葉に反応したのか、目の前のモンスターたちは一斉に彼女に襲い掛かってくる。先ほども指摘した通り数が多いのもあって、一体一体を相手にしていてはキリがない。
「ア"ア"ア"......」
「ギエア"ァ......」
声ともとれない擬音を垂れ流しながら一斉に取り囲もうとしてくる魔物であったが、それらは一瞬にして掻き消えることとなる。
カンッ!!という金属が打ち付けられるような音と共に何体ものモンスターが薙ぎ倒された。それを成し得た本人は、おぉ、と感嘆の声を漏らしながら自身の持つ巨大な金槌を片手に目の前の光景に感心していた。
「さすが、元から備わっている能力。しばらくぶりの使用であっても、全く衰えている様子がありませんね。」
「......女史様。それをお使いになるのなら、先にお申し付けください。肝が冷えましたよ。」
「あ......すみません。つい。」
「つい、で殺されてはたまったものではないのですが......。」
アスターが冷や汗をかいている様子を見て何とかごまかそうと振る舞っているスピカであったが、まったくもって穏やかでない威力である。
彼女が今振り回した得物は”インファーナルフォージ”なるものだ。この世界の別ディメンション、ネザーのボスモンスターが落とす大振りの金槌で、その外見には確かにところどころネザーを思わせる意匠が施されている。通常この得物を使用する際は両手で構え範囲攻撃を行うのが一番王道なのだが、彼女はこれを利き手のみで扱う。
本人曰く、「これが一番効率よく相手を殲滅できますから。」らしい。なんとも恐ろしいことだ。
「それでは、さっさと片付けてしまいましょう。今の攻撃で、相手の力量はおおよそ把握できました。」
「それでは、私めは女史様の肩で休憩させていただきます。後はお好きなように。」
「助かります。」
インファーナルフォージを大きく振って、魔物たちを薙ぎ倒していく様子はまさに圧巻であった。一見武器に振り回されているように見えて、彼女はそれすらも計算の内であるかのようにして巨大な得物を使いこなっしている。その動きは、まるで久しぶりに武器を扱う者のものではなかった。鮮やかであり、流麗。その言葉に尽きる。
「そろそろ片付きそうですね。では。」
最後に彼女は今までよりも大振りにそれを振るうと、地面に向かって叩きつける。カンッ!!!と小気味いい音と共にその場の魔物の掃討を完了した。