ロキシー=ペリパトスは冒険者を勧めない 作:Tamariba sizuku
本編補完の為の短編及び小ネタ集になります。
読んで頂かなくとも、十分本編は楽しんでいただけます。
以上に留意した上でお読みいただくことをオススメします。
大ボケ、真面目含めて3つになります。
楽しんでいただければ幸いです。
老人会
「ふぉっふぉ、ロキシーさんは面白いですのぉ。」
「そうですのぉ、面白いですのぉ。」
「はは、ありがとうございます……。」
愛想笑いをしながら、ロキシーは今置かれている状況をとても不満に思っていた。左右を高齢のご老人二人に挟まれて世間話をしているのだが、何故こうなった。下手に変なことを口走らないように最低限の会話で済ませるようにはしているが、かなりつらい。
どうしてこんな状況になってしまったのか。ここまでの顛末を軽く説明しよう。
「診療所に一人となると、だいぶ静かなものだな……。」
「おぉ、ロキシーさん。外に出ているのは珍しいですのぉ。」
スピカに休暇を出しアスターがそれについて行った為、現在ここには私一人しかいない。近くに暇を潰せるような場所もなかったので、たまには散歩でもしてみようかと外に出てみれば一人のご老人に話しかけられたのだ。
ここは辺境ということもあり、大抵の冒険者や若者は例外を除けば昼に見かけることはそうそうなく、出会うとすればこのような高齢の方がほとんどなため、意外でもなかった。
「少し外の空気を吸いたくなりましてね。散歩でもしようかと考えていたのです。」
「いいじゃありませんか。あぁ、そうだ。散歩がてら、少しうちによっていきませんか?」
「……というと?」
話を聞いてみれば、彼の友人が少ししたら来るらしく世間話をしようとしていたところで、私を見かけたらしい。
ちょうどいいから、話をしてみたいとのことだった。私は少し迷ったがせっかくの誘いを断るのもあれだったので、それに乗ることにした。乗った、までは良かったのだが。
「それでロキシーさん。他に何か面白い話はありませんかのぉ?」
「私も、聞きたいですな。」
想像以上に話を搾り取られているわけだ。ここまで聞かれるか、と驚くほどの質問の量に若干参っているところである。気が付かれないようにそっぽを向いて小さくため息をつく。
どうしようかと迷っていたところで、私は一つ妙案を考えついた。彼らに効くかどうかは未知数であったが、試してみる価値はあるだろう。私は物々しい雰囲気を醸し出しつつ、彼らに質問をする。
「……お二人、お身体に不調等はありませんか?」
「……?急に、そうかしこまられてどうかされましたか?」
「最近、どこか動かしにくい部位等はありませんか?」
「……そう言われると、気になるところはいくつかありますがな。」
話に食いついてきた彼らに、私は目を光らせる。
「私、これでも整体にも精通していましてね。」
「ほう……。」
「なんと……。」
多少強引ではあったが、見事に話に食いついてくれた。しめたと思い、私は彼らに施術の説明を始める。彼らは真剣に話を聞いてくれているようで、スムーズに概要を伝えることが出来た。この調子であれば、次の段階に進める。私はさらに彼らを術中にかけていく。
「説明は以上です。同意していただけるのであれば、すぐにでも始めさせていただくのですが。」
「……分かりました。その話、同意いたしましょう。」
「私もじゃ。」
「……それでは、始めましょうか。」
彼らの話から抜け出すために決行した作戦。設備はないため、ここにあるものだけで何とかしなければならなかったが、さほど支障はきたさなかった。
「おぉ〜。気持ちいいですのぉ。」
「はぁ、至福じゃった。手際がいいのぉ、ロキシーさん。」
「それほどでもありませんよ。」
効果はてきめん。彼らが気にしていた箇所に適切に施術を施していけば、簡単に絆されてくれた。かなり満足してくれたようで、しばらくはその優越感に浸ってくれることだろう。
「お疲れ様です。以上で施術は終わりなのですが……。」
「あぁ、助かったよ。しばらくは横になっていようかのぉ。」
「それがいいのぉ。」
「分かりました。それでは、私はここでお暇させていただきますね。」
狙い通り、帰る口実を作ることが出来た。まさか、このような形で自身の技術が発揮されることになるとは……。予想もつかなかったが、いい経験にはなった。二人に感謝しつつ、私はこの場を後にしようとする。
「ロキシーさんこそ、お疲れ様じゃ。」
「ありがとうのぉ。」
「えぇ。それでは。」
今日という日に、少し不可思議な記憶が書き記された。悪くは、なかったな。
おまけ
あの日から数日、診療所の戸が不意に叩かれて何かと思って出てみれば、そこに居たのは先日のご老人方であった。
「ロキシーさん。今日も頼めるかのぉ?」
「頼みますのじゃ。」
「……嘘だろ。」
こういうのは大抵、逃れられない運命にあるのを身をもって知った。
アイドリングアスター
「ブブブブブブブ」
「うわぁ!?急に震えるなぁ!?」
「ブブ……すみません。どうやら、女史様とブブ離れすぎているようでブブす。」
「あぁ、契約云々の話か?……色々と面倒なんだな。」
「ブブいいえ、そんなことはブブ。ブブどうにか耐えてはいますのでブブ、ご安心くださいブブ。」
「そこまで来るともう語尾とか口癖だろ。」
「冗談がお上手ブブなようで。……ですがブブ、さすがに何かとブブ喋るのに不便ブブですねブブ。」
「……ここまで来れば、後は俺一人でギルドまで行けると思うが。」
「いいえブブ!!最後までブブ使命を全うブブしないなどブブ!!わたくしめブブ、アスターブブの名ブブにブブふさわしくブブありませブブブブブブブ。」
「もういいよそれで。」
セレナさんのお掃除
「ハァ......ハァ......。しつこい奴らだぜ、全く。」
一人と一匹をかいくぐって逃げてきた男は、肩で息をしながら背後から追われていないかを確認していた。誰もいないことを確認すると安堵したような顔を浮かべ、したり顔で勝ちを確信する。
「路地裏とはいえ、街中で魔物を使ったんだ。目に見えて成果がでなきゃ困るよなぁ?」
いまだ手元に持ち合わせているいくつかの檻を見て、品のない笑みを浮かべる。煙幕こそもう持ち合わせていないようだったが、男はいまだ余裕そうなそぶりを見せる。
「さっさとトンズラしねぇとな。追いつかれちまう。」
「ええそうね。貴方がぬか喜びしている間に、追いついてしまったのだわ!」
「な!?お前......あの女じゃないな?」
男は一瞬驚いた様子を見せたが、先ほどは違う人物であることに戸惑いを覚えていた。困惑している様子を見て、いつの間にかいた女はフフフと含みのある笑みを浮かべる。
「そういえば、直接顔を合わせるのは初めてね。初めまして、セレナよ。小瓶のセレナ、なんていう風に覚えてくれると嬉しいのだけれど。」
「じ、自己紹介とは随分と余裕だなぁ?足元をすくわれても知らねぇぞ?」
「えぇ、貴方こそ。もっと危機感っていうものを持ち合わせた方がいいと思うのだわ。」
「......何を。」
思わぬ返しに苛立ちを見せる男に、彼女は再び笑いを零した。見え透いた挑発であるのにも関わらず、男はそれを易々と受け取ってしまう。
「それで?あんた一人で何ができるってんだ?コビンのセレナさんよぉ?」
「そうね......貴方を完膚なきまでにコテンパンにして、拘束するところまで出来ちゃうわ!」
「あぁ、そうかよ。......ふざけやがってぇ!!」
自信たっぷりに満面の笑みで答えるセレナに男は堪忍袋の緒が切れたのか、戦おうとする姿勢を見せはじめた。手元の檻を足元に投げ捨てると、そこから魔物たちを呼び寄せる。
「やっちまえ、お前ら!!」
その指示に従って、召喚されたそれらは一直線に女へと向かっていく。その行動をどう思ったのか、彼女は呆れたように歩き出す。
「本当に野蛮な人ね。貴方に付き従うこの子たちの方がまだまだわきまえている方だと思えるほどには、ね。」
そのような呟きを言い終わるころには、魔物の獰猛な腕が彼女を切り裂かんと間近まで迫っていた。その攻撃が直撃する......その時だった。
セレナの周囲に勢いよく複数本の火柱が立ち上がる。それらは周囲に迫っていた魔物のいくらかを焼き払うと、すぐに収まりその場から消えた。
「なんだぁ!?」
驚愕する男の様子を見て、女はまたもや愉快そうに笑っている。
「貴方、器の扱い方がなっていないのよ。ただその場で扱えるだけの量を雑に行使して、檻も魔物もかわいそう。」
ご機嫌に笑っていたかと思えば、今度は呆れたような表情で男の方を見て冷笑している。いくつもの感情を行ったり来たりする眼前の彼女に、男は不気味さすら覚えていた。
「ねぇ。本当にそれだけでなんとかできると考えていたのかしら?」
純粋な疑問だった。彼女に悪意はない。けれど、今置かれている状況の劣勢にも気が付けない男にとって、それは煽りとしてしか受け取ることが出来なかった。
「な、舐めやがってぇぇぇ!!」
力任せに魔物を扱う彼の指揮は単調が過ぎた。故に、事は容易に運んだ。
「あぁ、残念だわ。貴方の檻、気になっていたからもう少しお話が聞きたかったのだけれど。それも叶いそうにないわね。」
刹那、四方八方から実にたくさんの魔法が飛び交った。火、水、風、土、雷。果てには光や闇まで。鮮やかであると言っていいほどにその光景は見事なものであった。流麗、可憐。
見惚れてしまうような情景とは打って変わって、男の持てる手段すべてを壊滅させられるほどの威力は生半可なものではなかった。
「......う、嘘だろ?」
目の前の惨状が信じられない、といった様子で男は立ち尽くしていた。怒りに任せて後を考えていなかったのか、抵抗しようにも何もできないでいるようだった。
「拘束、させていただいてもよろしいかしら?」
「......。」
そう言われて反抗できるほどの体力が男に残っているはずもなかった。