「妹紅か」
「おう何で名乗ってないのに知られてんだ?」
「我に知らないことはない」
「そうか。明日の私の昼飯は?」
「兎肉と言われて鍋を選んだな、今」
「キモいな。さとり妖怪か?」
「頭は神、足は人だ」
「はぁ?」
こんな感じで竹林生活一日目。俺は一人になった途端に体を動かしているのだが、結局なんか汚い感じがして何もできていない。できてないというか、あれだ。動きたくない。ハンセイが一人の時も大半やって良いよ。飯食う時だけ俺ね。妹紅は俺の飯を見て驚いていたが、まあ…美鈴の飯を食ってた時よりはマシなのは事実。あのときはほら…飯というよりも、摂取だった。栄養をただ摂るだけ。大変助かりました、ありがとうございました。
「…それはそれとして、服はどうにかしろよ。臭いっつーか見窄らしいぞ」
「靴は好みの物だ。変えることはない」
「…服だけでも買ってこい」
「銭もない」
「…はぁぁぁぁ…」
妹紅に連れられて人里へ。よく入れたな、ここ。そうして何やら服屋らしい場所に入り、見繕って貰った。結果。甚平ってやつを着ることになった。ちなみに妹紅が対価として出したのはたけのこだった。マジか…それを見た店主は喜んで交換していた。マジか…?サイズは合っていた。俺はその服で竹林に戻り、家の制作などはせずに川辺の快適さを突き詰めることにした。多少の囲いを作り、地面のゴミを押し除け、よしこれで多少は綺麗だ。3日で汚くなるだろうがな。
「いつまで付き纏うつもりだ」
「いや、服買ったから流石に人里に住むと思ったんだよ。何も言わずに消えてるし…」
「兎肉は水流に流すに限る」
「お前バカそれ妖怪の肉だぞ!?」
「言っただろう。頭は神、足は人だと」
「お前の頭の中はどうなってんだよ!?」
「神」
「バカにすんなよ」
多分ハンセイは本気なんだと思う。誰も信じないけどね。でも俺の知らないこと知ってるから神じゃない?でも神なら俺の体借りてんだから俺は神下ろししてるんだよな?…無理があるな。やっぱこいつ頭おかしいわ。うん。神なんていないね。少なくとも俺は見たことないし、聞いたことはあるけどね。ほら、諏訪とかそこらへんのやつ。まあ?俺は?行ったことないんですけどね?というかそもそも諏訪がどこか知らないし。文字的に…多分大阪かな!
「…妹紅。服の礼を伝える」
「なんだ?兎肉か?流石に妖怪の肉は嫌だぞ」
「今年は越冬が遠い。蓄えておけ」
「…何言ってんだか。予言なら別の誰かに言ってくれ。私は好きじゃない」
「そうか。」
ちなみに俺は何も知らない。というか、兎肉を食い始めてから何故か身体の主導権が帰らなくなった。何だ、どうなってる?ハンセイは自分を神だとか喚いてたけど妖怪だったから、妖怪の肉食ったら主導権取られちゃったの?…これだから自認がズレてる奴は。メンタルの話ができないから嫌いだ。さっさと寝て、体を休ませてくれ。俺はもう限界近いと思うぞ。ほら、眠れよ。…何で眠らないの?妹紅も帰ったんだぞ?俺特製の寝床もあるじゃん、寝てよ?
「誰かに見られているな」
何独り言言ったんだ。どうやら本当に頭がおかしかったらしい。誰かに見られてるって…熊でもいるのか?熊に見られたからって…いや身構えるわ。どこから?どこから見られてるの?ちょ、熊はやばいよ熊は。お前何考えてんの?何で今更言うの?ほんとなんなの?もう嫌だよお前もう。異様に落ち着いてる理由もわからないし。お前ほんと怖い。熊くらいどうやなでもなるの?
「ここか」
「ぐえっ」
「…兎か」
「な、そ、バレた!」
「人ではなく兎になれ。食料が」
「ひぃ!?」
目の前には兎耳のようなものをつけた…よくわからない人が。なんてことを考えていれば後ろから蹴られた。振り返ると一際歩き慣れたような図体の兎耳の人間が。ハンセイが言うには親分的な存在。群れのボスらしい。兎って群れるんだ。群れるのってお前らよりも鳥とかじゃないのか?あ、いやでも食物連鎖的にはそっちの方が正しいのか。まあ確かに弱いもんなぁ兎って。俺の考えが読まれたのか、兎耳の人が急に怒り始めた。面倒な子だ。
「同族を食べるな!兎肉反対!!」
「…であれば、対価を差し出すべきだろう。食わない代わりとして、肉をよこせ」
「ぇっ…と…?」
「寄越せ。対価だ。」
「に、人間が!!調子に乗るなよぉ!」
腐っても妖怪、と言う感じだろうか。腹を殴られたり顔を蹴られたりとなかなかに勇敢だ。実際それらが全て当たってないことを除けば人なら死んだだろうな。ほら、へなちょこパンチに見えて風切り音が聞こえるし避けた先で風を感じる。これ多分じゃなくても当たったら死ぬよ?でも残念、ハンセイは当たらない。何故って?わからん。本当に神なんじゃないか。しかし俺は対価を要求しただけなんだよな…何でこんな目に…?
「良い加減にしろ」
「ひぃっ!?」
「飯ならもう何でも良い。同族を減らしたくないのなら早く持って来ることだ」
「な、なにおぅ!」
「てゐ。早くしろ」
「ぇっ」
「どうした。早く行け」
兎耳はそのまま走っていった。俺の右手にはいつのまにか兎が抱かれていた。なんだろう。とんでもなく、状況を見ることもせずに判断できる悪だよね。俺何してんの?俺はさっさと寝たいだけなのに。さっさと寝て起きて赤い霧から今まで全て無かったことになってほしい。ありえないか。空飛んでる時点でアレだけどな。普通に。何も襲われなければ食ってるだけだったのに。余計なことをしてくれたな、本当に。
「…はい!」
「宜しい。明日また同じ時間だ」
「…え、っと…」
「貴様の周りから何匹の兎が耳を揃えることになるかな」
「分かったウサ…」
やってることほぼ当たり屋に等しい