「冬か」
空から落ちて来る雪を見てようやく冬が来たと理解する。兎肉を食ってからずっと身体の主導権は戻らず。俺は三ヶ月ほどは身体を動かした覚えがない。そして問題がある。ハンセイはたまに寝ることが判明した。どう言うことかって?大体一週間に一度寝る奴ってことだ。俺の許容限界は一日とちょっとが限界だと言うのに、だ。まあそうだね。俺に身体渡す前に10日間くらい寝てもらえる?お前神経すり減らしてる様子もないけど何なの?
「…妹紅、火」
「はいはい。雪解け水で何するんだ?私のレシピには一つもないぞ」
「飲む」
「は?」
「水だ。飲むに決まってるだろう」
「…あ、話は通じなかったな」
妹紅とはここ三ヶ月ほどでかなり仲良くなった。少なくとも俺はそう思う。そう思うだけでもしかしたら全然仲良くないかもしれない。飯を誘われるくらいには仲が良くなった。ちなみにハンセイから誘うことはない。何故か。蓄えてるからだ。ハンセイは自分の予言は訪れると本気で思っているようだ。とても正気とは思えない。人が飛んだり面倒なことがあったりするのに何故予言は正確なものであると思えるのか。趣味だったりするのかな。
「妹紅」
「何だ?」
「…我が言えたことではないが、散乱しすぎているぞ。」
「…本当にお前が言えたことじゃないな。ハンセイ、さっさと食え」
「鍋か」
「まあな。三人でつつくってなったら普通鍋だろ?」
「…三人?」
「あ、言ってなかったか?」
「失礼するぞ妹紅〜…お前片付けろ」
「慧音もかよ!」
どうやらこの方が噂に聞くハクタクさんらしい。よく知らん。が、鍋をつつく人数というのは四人からではないか。三人とは、まあ何とも。微妙な数だ。ちゃんと整えろと言いたくなる。ハクタクの名は慧音と言うらしい。人里で教師をしているらしく、なんかすごい立場の人(要約)らしい。詳しくは知らない。知る気もなかった。二人とも鍋をつつく姿は普通の人、かなりの美人だと言える。ちなみにハンセイは気にせず鍋の豆腐を食っていた。こいつもしかして寺出身?
「流石に最近は冷えるなぁ」
「そうなのか?」
「妹紅は火が出るから知らないんだろうな。ハンセイ殿は?最近冷えますか?」
「…最近は、冷えた冷えたとうるさい奴が増えた。」
「兎だろそれ」
「可愛らしいところもあるのだな」
「兎以外もだ。」
季節の会話から始まった鍋は、つつき終わる頃にはやれ最近は妖怪がどうの、やれ人は異変があったのにすぐに楽観的になっただのと話を変えながら今後の話に行った。その間、ハンセイはあまり口を挟まなかった。まあこいつ人らしい生活してないから当然か。いやでも一つ気になるところない?靴以外ボロボロよ?そう言うファッションが流行ってるの?有り得ねえ、俺が今から絶滅させてやる。流行らせたやつのゴシップ貼って捏造発言で信頼を地に落としてやる。
「二人とも、冬の蓄えはちゃんとしているか?」
「ん?あー、まあ今更だよなぁ」
「それだから毎冬人里に集りに行くことになるんだ。」
「我は順調だ。野良兎に食われなければ冬を越せる」
「見ろ!ハンセイ殿は順調に行っているぞ!同じ竹林住まいだろう!」
「いやでもそいつ服買わねえじゃん…私は買うんだよ。一応女だぞ、気にするんだぞ?」
「…妖の類じゃないのか?」
「ハクタクに言われたくはない」
おい思いっきり落ち込んでるぞ。箸見てみろ。鍋を食い終わっても尚離さなかった箸を持つ手が止まってゆっくりと取り皿の上に置かれたぞ。意気揚々と話してたらスンッと気分が落ち着いてるぞ。謝れ。少なくともお前が悪い。いやまあ、お前が魑魅魍魎の類か何かと言われたらブチギレるならわからなくもないが、しかしお前はどちらかと言うと魑魅魍魎の類だろう。妖怪か魑魅魍魎なら妖怪だ。俺の体を乗っ取ってるからな。分かったら謝れ。
「…そう、か。すまなかったな」
「け、慧音」
「すまない、妹紅。明日も寺子屋で授業があるんだ。」
「もう今夜は寝た方がいい。足元がふらついているぞ」
「…ああ、そうかもな…」
「ちょ、おい!…すまん、追いかけて来る!」
お前妹紅に追いかけさせるのかよ?自分で追いかけるんだよ。ハンセイ、お前の謎の探知力か知識なのかわからん頭を使って慧音を追いかけるんだ。ほら行け。あーこいつ、鍋の豆腐だけ食って何もしねえじゃねえか。せめて肉食えよ!肉を俺にくれ!兎肉も俺食えてねえんだぞ!精々どんぐりの中にいるミミズみたいなのしか食べてねえんだぞ。俺も肉よこせよ。いや今そう言う場合じゃない。早く追いかけろ!
「…すまん、なんか気分悪くしたなら謝る」
「別に良い。妖と見られるのは慣れている。ハクタクはそうでもなかったが」
「いや…んー、言っていいかわからないんだけど…お前を妖と疑ったことが、ハクタクだと言われてた時代を思い出したらしくて」
「自己嫌悪に陥った、と。くだらんな。自他の境界が曖昧だ」
「慧音はしっかりしてる奴だと思ってたんだけどなぁ」
「…妹紅、もう一度言うが、蓄えろ。今からでも多少は変わる」
「またかよ」
「部屋は清潔に保て」
「またかよぉ…」
そう言ってその場を立ち去った。豆腐しか食ってねえのになんか態度でかいな。お前やっぱ寺出身だろ?精進料理食うタイプだろ?俺はな、質素な飯はあんまり好きじゃないぞ。しかし身体の主導権が戻らないな。まだ誰かに見られてるのか?まあどうせ見るなら兎だろうが。ちなみに兎との契約自体はまだ続いており、毎夜てゐという親分が肉を運びに来てくれている。ちなみに肉は美味い。
「…ウッサ」
「良し。行っていいぞ」
「そ、それじゃ!」
慧音「…薄汚ない妖怪だと…」