「いったた…」
「は…ははは!面白い!面白いわ!」
「あん?」
「合格!合格よ!採用試験合格。それじゃあ、あなたはどっちが良い?生命担当の丁礼田と精神担当の爾子田、今ならどっちも選べるけど」
「はぁ…?」
なんだこいつ、急に気持ち悪いな。なんて思いながら話を聞く。どうやら俺は先ほど言った通りに採用。そして生命担当の丁礼田と精神担当の爾子田…とか言う、良く分からん二つのうちの一つから物を選べるらしい。が、採用辞退。面倒だからな。しっかりと断る意思を表し、そのまま氷精を抱える。バテたからって、俺が抱える意味はないのだけども。さてどうやって帰ろうか。まあそこらへんにある扉を開けて行けば良いだろ。ノックとか意味があるのかな。
「あー待て待て。その扉は開けちゃいけないよ」
「なんでだ」
「今、外は夜なのよ」
「??」
「…その扉は、女性の背中に繋がっていると言えば分かる?」
「あー。なるほどね。関係ねぇわお前のせい」
「ちょっ」
扉を蹴破ると、湯気。外に出て周りを見渡す。確かに和風の風呂だ。どこからかかっぽーんと音が聞こえそうな。しかし温泉ではない。氷精にとってはまずい環境だろうな。さっさと出て行くか。まあそもそも、ここはどこなんでしょうと言う話だな。後ろにいる女の体を見ずに浴場の扉を押し開ける。なんか、面倒な脱衣所してるな。歩みを進める。幾多にも重なってる襖を開けて行き、ふと気付く。俺以外に襖を開けている奴がいる。多分あっちも気付いた。
「…あら」
「ん?」
「…失礼しました」
襖を開けたら、同じように開け進めている金髪の女と目が合った。俺は襖を閉めた。…あれ、これやばい?警戒するか。警戒するって言っても何もないけどな。どちらかと言えば警戒される側だし。少し移動して、外を目指す。襖を三つほど開けたら、ようやく外。全く疲れたぜ。氷精を抱えたままなのがもっと疲れる。が、なんだろうか。…ん〜?…んん〜?と言った感じ。玄関の先が何もない。あれ?ない?おかしい。玄関先を見下ろしてみる。なんだか底が見えないな。ここどこだ?
「…困ったな」
「迷い込んだのか?」
「あ、多分」
「結界の不備か…老朽化か…どこに迷い込んだ?」
「風呂場」
「いつ?」
「ついさっき。風呂に入ってた奴の背中から」
「摩多羅隠岐奈か。全く面倒なことをしてくれた」
「でしょー?帰りたくても帰れなくてさー」
「帰してやる。それはそれとして紫様の裸体を見たな。送り先は私が決めておく」
帰される。と言うより落とされた。咄嗟に浮く。ここは…見覚えがあるぞ。確か、俺のけつを傘でぶっ叩いて山まで飛ばした女がいる場所だ。ゆっくり降り立つ。次あったら殺すとか言われてた気がするので、そそくさと逃げ出す。死にたくねえったら死にたくねえんだ。爆速で飛び、霧の湖に行く。現在はただのでっかい湖なのだがな。名前というのは変わらない。着けばレミリア総統閣下が日光浴ならぬ月光浴をしていた。
「よっ」
「あら、久しぶりね」
「…あ、異変やめさせるの忘れてたな」
「この季節の異変?それならもうすぐ終わるわよ。私の目にはそう見えるわ」
「そんなこと言って、言い始めてから三日経ってるのよ。そこの妖精もその言葉に腹を立てて行ったのに」
「何やってんだか」
「何も?だいたい、私の言葉にケチつけるのが悪いのよ」
「劣悪な管理人だ」
「カスよカス。」
「努力もしないで管理体制に文句を言わないでほしいわ」
「ハンセイの方がよっぽど楽しかったわよ。愛も感じたし」
気持ち悪いなこの人魚。そう思いながら氷精を置く。そのまま家に戻る。甘味を食べようかと思ったが辞めておく。食べる気分じゃない。鍵を開けて…あれ、開いてる。なんで?…あ、妹紅か?妹紅と慧音に合鍵を渡してるんだったな。だったら…閉めてけよ。鍵だぞ?中に入ると、妹紅が我が物顔で布団を使っていた。…どうすることもできん。仕方なくお気に入りの安楽椅子…は、慧音が寝ていた。何故慧音が。恐らくは様子を見に来て留守だったから待っていたら寝たのだろうか。すると妹紅が良く分からないな。
「…今日は疲れた。」
翌朝、順番に起きた妹紅と慧音に無断で布団と椅子を使うなと言っておき、朝飯。てゐが持ってきた肉だ。久しく言葉に出していなかったが、割と良い肉を持ってくるので嬉しい。妹紅にはやらん。勝手に布団使いやがって。そのまま寝腐ってろ。俺としては異変も終わったはずだから、ゆったりしていたい。ならばやることは一つ。安楽椅子に座ってぐったりゆらゆらするだけだ。合鍵を持たせたのはこの二人だけ、そんで扉は閉まってる。これで訪問者なんか来るわけもない。
「岩内、私のは?」
「ないって言っただろ」
「せめて豆腐でも」
「ハンセイが死んでから俺が全部食った。紅魔館までわざわざ運んで麻婆にして食った」
「あまり…」
「あるわけねえだろ」
「くっそ」
「妹紅、意地汚いからやめなさい」
「はいはい。私は意地汚い生意気箱娘ですよケッ」
「拗ねた」
「箱娘…箱入り娘だろ」
そう言ったら輝夜殺してくるとか言って出て行った。ようやるわ、不死人同士の殴り合いなんて誰も必要としない需要のない物だろうに。ま、家が壊れなければ俺としてはなんでも良いんだけどね。なんて言ってたら唐突に竹が刺さったりしそうだから辞めとこ。壊れたら今度はもう守矢になるかな。壊れなきゃ良いけど…ま、なんとかなるだろ。慧音は何やら里に戻って仕事をするらしく、颯爽と帰って行った。家の中には俺一人。何もすべきことはない。楽しいね。
「ねえ」
「びっくりした」
「…夜が明けたし、心変わりした?」
「あー…ならない。家だって構えてるし。ヘカーティアに賢者の石も埋め込まれたし、ハンセイ捨てた身だし。これでお前に屈したら賢者の石無くなりそうだし」
「…そう」
摩多羅「なってくれないんだ」
紫「…」(どう考えても誘い方の問題だよなぁという顔)
摩多羅「福利厚生はしっかりしてるのに…」
紫「…そう」(そもそも外来人を眷属にするなと言う思考)