自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている 作:札幌53位
BL恋愛展開はありません。
なんと、起きたらランクアップを果たしていた。
俺がダンジョンで眠っているところを、遠征中の【ロキ・ファミリア】が発見し、ケビンが地上まで送り届けてくれたようだ。
それまでに色々あったらしく、俺がランクアップしたのは、ベルがランクアップした約三日後であった。
「発展アビリティはまだ選んでへんから、今からやっちゃおか」
「ああ、頼めるか?」
ロキが言うには、俺に生える可能性のある発展アビリティは『狩人』『耐火』『不屈』のどれからしい。
それぞれ、効果は「倒したことのある魔物に対する能力値増加」だったり、「炎や熱に対する耐性上昇」だったりするのだが……。
「不屈って?」
「聞いたことあらへんな。もしかすると、アエたんの特別かも知れへんで?」
特別。ロキめ、俺がその言葉に弱いと知っていて話したな?そんなの、『不屈』一択じゃないか。
「はい、これで正式にLv.2やね。おめでとさん、よく頑張ったわホンマ」
──────────────────
【アエルテス・ヘリオドーン】
Lv.2
《基礎アビリティ》
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《発展アビリティ》
不屈:I
《魔法》
【リュクシオン】
・
・自身を含めた周囲に延焼する。
・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』
【】【】
《スキル》
【逆境奮起】
・逆境時、全能力の超高補正
・精神汚染軽減
・死への恐怖無効
【
・炎に対する高耐性
・火炎誘引
──────────────────
「アビリティ、リセットかかるんだ…」
数字がたくさん並んでいて、ちょっと嬉しかったのだが……まあ、これも成長の証だ。
「さ〜て、今日はアエたんのランクアップ祝賀会や!地上に残っとる子だけでも集めて、パーっとやるで!」
「ははっ…ありがとう、ロキ。あんたのお陰で、両親の悲願だったLv.2まで到達できたよ。」
深くお辞儀をして、敬愛すべき主神へと頭を下げる。
思えば、オラリオでずっと面倒を見てくれていたロキがいなければ、俺はきっと冒険をすることも出来なかっただろうから。
「ビビりながらも、ウチに立ち向かって来た時みたいに……どんな相手にもビビらず挑むんやで。」
「苦労をかける。」
「ええんよ。それが
この世界に来て、初めて男泣きをした。
少し落ち着いてから、ロキにギルドへ報告しに行けと言われたので装備を着込んで出かけることにした。
そういえば、リューさんに帰ったことを言ってなかったな…と思い、『豊穣の女主人』へ立ち寄ることにした。
「ん、あれは…ラッキー、ちょうど掃除当番か」
軒先でぼうっと、バベルの方を向きながらリューさんが箒を掃いている。若干の憂いを帯びた横顔は、遠く離れていても美しい。
「リューさん!ただいま!」
駆け寄ると、リューさんは目を見開いて、ホッとしたように微笑む。うむ、やはり美人は笑っていた方が良い。
俺はランクアップしたことを話すと、信じていたように「でしょうね」と返される。信頼とは心地よいものだな。
「そういえば、今日は
「二つ名…いいね……何になるだろう、やっぱり『
「さあ…それは神のみぞ知る事ですから。」
ちなみに、これまで【ロキ・ファミリア】の団員が神々によって付けられた二つ名は『剣姫』や『
この傾向から行けば、皆イカしたものであるのに違いはなさそうだ。
そのあとは、リューさんと他愛もない話をしたあと、ギルドへと直行し、報告をした。すんなり行くかと思っていた……が。
「どうやって、そこまで早くランクアップしたの?」
気がつけば、俺はこれまでの軌跡を話させられていた。
「何って…幼少期にゴブリンを単独で倒して、それからLv.2の両親に鍛え上げられて、何度も何度も窮地を乗り越えて来ただけだが…?」
「はぁ……また、参考にならない例かぁ。いやでも、まぁ…ベル・クラネルよりは分かりやすいかなぁ…」
聞くと、ベルは約一ヶ月半の間にアビリティオールSを達成し、その勢いのままミノタウロスを撃破し、ランクアップを果たしたらしい。
頭がおかしいんじゃないだろうか?どう考えても、時間が足りないだろう。
「あ、あんだけボコボコにされて俺が耐久Sだったのに…オール、S?」
「本人曰く
真のチート主人公はベルだったのかもしれない。と思いつつ、滔々と話し合っているうちにお昼時になっていた。
一通り話し終わったところで、ギルド内がざわつき始める。どうやら、二つ名が公表されたようだった。
「出たぞ、
ベルの二つ名は【
なんというか…無難だな。それと、命名者は相当の期待を寄せているのだろうということが伝わってくる。
「ええと……俺のは…」
『絶†影』、『
「……【
それは、暁に昇る炎の名であった。
◆◆◆◆◆
バベル、その上層階。
暇を持て余した神々が月一で集う、
それは、冒険者の「命名」があるからだ。
冒険者はレベルを上げると、その功績を称え神々から「二つ名」を拝領できるのだ。だが、そのセンスは──────壊滅的である。
「さっさと名付けようぜ!もう日が暮れちまうよ!」
「さんせーい、今日は結構いるんだろ?」
「ヘスティアんとこが一人、タケのとこが一人、ロキのところは二人……二人も!?プリンかよ」
やいのやいのと勝手なことを言う神々に、当事者である神たちの反応は様々だった。
「まずは…【タケミカヅチ・ファミリア】の、ヤマト・命ちゃんからかな?」
「極東の子かあ、忍者みたいだな」
「ニンジャ!?アイエエエ!?ニンジャナンデ!」
「はいはーい!【
「いや、ここは【
「ダッッッサ!!!!!!!!」
神々から笑いが巻き起こる。当のタケミカヅチはもう死にそうなほどの顔色だ。
「頼む…マシなのにしてくれ………っ!」
「へえ、この子重力魔法使うんだ。なら…【
「──────【絶†影】」
「「「「それだぁーーー!!!!」」」」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」
崩れ落ちるタケミカヅチ。そのようなノリで、つつがなく命名式が続いていく。
次の標的になったのは、ヘスティアの眷属であるベル・クラネルだった。
「ベル・クラネル。ヘスティアんとこの子かあ」
「兎みたい。かわいいねえベル君、食べちゃいたいくらい」
「尻がね…いいよね……」
「でもこいつ、色んな女の子と遊んでるの見たよ俺」
「は?許せん…ちなみにおねショタ?ショタおねならヘスティアのとこに
「おねショタだったな……あ、でも一人だけ同い年くらいの子がいたような」
「青春かよ」
要らぬやっかみを受けるベルに、ヘスティアは腹を痛める。哀れ、零細ファミリアの主神に出来ることはないのだ。
「はいはーい!【
「その名前使ってる防具見たことあるぞ」
「マジか────俺たちのセンスに追いつくとは。」
「大マジ!センスビンビンだよ!」
「整いました。【
「潰すわよ」
ぴしゃり、とフレイヤからの一言に神々は黙ってしまう。その静寂を打ち破るかのように、ロキが発言する。
「ほんなら、自分は良えアイデアあるんやな?」
「ええ。【
「通るか色情魔ァー!」
そんな中、伊達男────ヘルメスが手を挙げる。
「【
「私は良いと思うわ。」
フレイヤの賛成によって、神々もそれに従うように可決していく。
「さて……次は…ロキんとこの子だな。剣姫はそのままでいいとして…」
「アエルテス・ヘリオドーン…金髪ロングにルビーみたいな瞳、とりあえずお嫁さん検定合格か」
「ロキー、この子どんな子なの?」
女神からの質問に、ロキは自慢げに答える。
「アエたんはな、
「おお…それなら、フレイヤ様やイシュタルたちの魅了にも耐えるかな?」
「決まっとる。絶対耐えるで?あの子は…」
しかし、そこに意を唱えたのはフレイヤ本人だった。
「そうかしら。前会った時は、顔を赤らめて恥ずかしそうにしてたわよ?」
ちなみに浴場でね、と付け加えるフレイヤ。ロキは立ち上がって「胸か!?やっぱ胸なんか!?」と抗議する。
「フフ…あの子、私のことを綺麗って褒めてくれたわ。」
「百合萌えキタァァァァァ!!!!!!!」
「うっさいわ!絶対アエたんはやらんからな!」
「どうどう…」
「それで?この子はどんな冒険をしたのかな…っと」
手元にある紙を読んで、一柱、また一柱と表情を曇らせていく。そして、目線は次第にロキへ向ける生暖かいものへと変わっていった。
「なぁ…この『神様に助けを祈りながらパープル・モスの大群を討伐した』ってあるけどさ…こんな敬虔な子、なかなか居ねえよ?」
「うん、確かに…普通強い冒険者とかの名前呼んだりするもんね。
「あ、聞いたことある。この間、ヘスティアのとこのベルきゅんとバベルの下の広場で戦ってたじゃん?その時に、『神様、俺に力を!』って叫んでたよ」
「あ、それ見たよ私も。にしても俺っ娘か…胸は『剣姫』と比べたら控えめだけど、これは『ある』方だし。良いね」
「いいなー、愛されてんじゃん。」
「──────ロキママ概念?」
「やはり…天才か。」
「胸のない所でこれほどのママみを…?!」
「やかましいわ」
次に神々が目にしたのは、食人花との死闘だった。Lv.3冒険者でも苦戦し、アイズ・ヴァレンシュタインも4000万の武器を溶かされた相手。
その対抗手段は、魔法によって自分ごと燃えることによる対植物特効ともいえる手段での戦い。
「いやほんと良くやるよなぁ…」
「にしたって、なんでこんな孤立するようなスキルや魔法を…?」
「ロキ、心当たりは?」
「うーん……詳しくは分からんし、教える気もあらへんけど、ウチの経験則からして、この手の奴…特に魔法は、本人の気質や心の奥底に眠っとるもんが現れることが多いんは事実やな」
「私からも一つ良いかしら?」
ロキの発言に補足を入れるように、フレイヤが発言する。
「この子、心のどこかではずっと独りぼっちなんじゃないかしら?誰にも理解されず、常に独り、剣の丘で勝利に酔う──────そうではなくて?」
「んなわけ…ドチビんとこの子、実はアエたんの幼馴染やねん。せやから、生まれた時からずうっと一緒の子が居て独りぼっちなんてあるはずないやろ…」
だが、フレイヤの指摘は当たっている。転生し、自分だけは特別と思い込み、そうあれかしと育って来たアエルテスには、確かに、深層心理には何物にも拭えない孤独感が存在していた。
だが、そんなことはこの場の誰も知る由もない。むしろ、アエルテス・ヘリオドーンという人間を知っている者ほど「ありえない」と一蹴するような考えだ。
アエルテス本人でさえ、ベルに対しては「親愛」と「兄弟愛」が混ぜこぜになったような、自分でもよく分からない感情を抱いているぐらいだ。当人含め、孤独だと感じたことは少ないだろう。
「……で、最後に12階層での強化種の
「はえー…すっごい。じゃあ何?アエルテスちゃんはLv.2上位相当の力でもあるっていうわけ?」
「実際見たわけじゃないから分かんないけどね。ともかく、これで報告にあったのは全部か。」
うーむ、と唸る神々。ファーストペンギンとして手を挙げたのは、女神ヘスティアだ。
「ロリ巨乳が命名なんて珍しいじゃん」
「なになに、どんなの?」
「敬虔な炎使いの子なら、【
少し自信ありげに発言するヘスティアだったが、その反応はあまり芳しいものではなかった。
「ないわー、センスねー」
「Lv.2につける名前じゃないっしょ。あ、自分整いました!名付けて、【
「ならなら、【
次々に出てくる神々。ロキは、初めは黙って聞いていたが、次第に青筋を浮かべ始める。
「ええ加減にしとき……?ふざけた名前やったら、いてこますぞボケども」
そうして、最終的に決まった二つ名。
【
「────ってのが、アエたんの二つ名の由来やで」
夜、ワクワクしながら話を聞いていた
アエルテスは、それはもう歓喜もひとしおのようで、ずっと小さく自身の必殺技の名前を考えている様子だ。
ぽん、とアエルテスの頭に手を置き、くしゃくしゃと撫でる。
「ホンマに…よく頑張ったな」
帰ってきたのは、満面の笑みであった。
◆◆◆◆◆
俺の二つ名が、こんなカッコいいものだとは。
それに、由来が本当にカッコいい。暁を齎す炎、か……勇者とは、さまざまな称号を得ていくものだ。
例えば、「世を背負う巨人」であったり、「永夜に哭くもの」であったり。
「ふふっ…ずっとニコニコしてるね、アエルテス」
「そりゃあそうだよ!ランクは上がるし、ベルも頑張ってるし、俺も頑張らないと!」
今は、ランクアップのお祝いに『豊穣の女主人』で祝賀会をするということだったので、ご相伴に預かっている最中なのだ。
意外にも、俺を誘ってきたのは他ならぬシルさんであった。
「クラネルさん、聞かせていただけますか?貴方の冒険を…」
「あ、それ俺も気になる。ミノタウロスと闘ったんだろう?」
「ベルさんの冒険譚、楽しみです♪」
「リリはバッチリ生で見てましたからね!」
「あ、はは……えっと──────」
ベルが話したのは、まっすぐな少年と牛頭の闘士の熾烈な戦いだった。炎に慣れていたのか、【ファイアボルト】を打ち込んでも全く怯まず、何度もダメージを受けてしまったらしい。
そのミノタウロスは大剣使いだったようで、リーチを埋めるのに苦労したのだとか、
最終的には内側に魔法を撃ち込みまくって、爆殺したようだ。
我が同門の徒よ、安らかに眠れ。
食事も進み、楽しい時間を過ごしている私たちに、闖入者が現れる。見るからに粗暴で、酒に酔った姿の、ハゲのおじさんだ。
「おうおう、誰かと思えば『
「……あなたは…?」
「Lv.2に上がったんだってな。それじゃ俺たちと組まねえか?こう見えても俺たちゃ全員Lv.2の凄腕だ。どうだ、悪い話じゃねえだろう」
その代わりと言ってはなんだが、と良い男は俺を指さしてくる。うん?このおじさん、よく見たらオラリオ初日に絡んできたやつじゃないか。
「その嬢ちゃん…エルフでもいい、俺たちと遊んでくれよ」
確かこいつは百合豚だったはず。名前は…確かタルタロフ。アイズ先輩の護衛もしてくれた奴じゃないか。
なるほど、確かに百合豚的には男1、女4の構図は気に入らんよな。
「な、いいだろ?」
タルタロフは俺の手を取る。だが、その直後にベルが立ち上がる。
「僕の幼馴染から手を離せ!」
おお。男を魅せたなベル少年よ。
だがすまない。俺は
それに、この間の仕返しをしたくなった。
「ベル、俺ちょっとこの人と飲んでくるから。すぐ戻るよ」
「なっ…待って……」
「何かあるわけじゃないよ。てかこの店から移動しねえし…」
ベルの捨てられた子犬みたいな顔を見つつ、タルタロフのテーブルに座る。同じテーブルに座る
紳士とは斯くあるべきだからな。
「……良かったのか?ホイホイ着いてきちまって」
「とって食われるわけじゃねえんだ。それに…アンタらが話したい内容は、俺とロキのことだろ?」
「ああ!風の噂で耳にしたんだが、【ロキ・ファミリア】の主神からママみが見出されたらしくてな。それでその……どうなんだ」
やはり、こいつらとは分かり合える。俺はロキがいかに素晴らしい神かを語り聞かせると、
アイズ先輩との鍛錬の日々についても話し終え、一通り満足すると、タルタロフは小さくお辞儀をした。
「仲睦まじい少女たちが、互いをどう思っているのか────それを知れて、俺は本当に幸せだ」
「えっ、あっ、そっち!?」
そういえば俺はイケイケ美少女だった。ついつい失念してしまうのだよな。
タルタロフたちに挨拶し、元のテーブルに戻ると、何やらベルが椅子を近くに持ってきた。何がしたいんだ…?
「ベル、なんか近くね?」
「そ、そうかな?気のせいじゃないかな」
いや絶対気のせいじゃない。だがまあ、ここで詮索しても余計なことにしかならないだろう。
食事を終え、会計を済ませて帰宅しようという時、ベルが俺の服の裾を引っ張ってきた。寂しがりやさんめ。
「あー…じゃあ、俺の修行手伝ってくれないか?魔力を鍛えるトレーニングしてるんだ」
ベルは快諾してくれたが、燃え始めた俺を見て大慌てで止めようとしてきた。近くに寄ろうとしたので、危ないから離れているように言ったら俯いてしまった。
「いやぁ、こうも熱いと火照っちゃうよね」
「そんなに燃えてたらね…大丈夫なの?本当に…」
「まぁね〜、じゃあ俺、素振りするから……アルミラージが1匹、2人が2!サザンが3!」
フレイモスにチャージするついでに、実戦を想定した型の練習や素振りを繰り返す。やはりレベルが上がったことで、動きが格段に上がっている。
これなら、今までは出来なかった動きも出来るようになるはずだ。
「試してみるか……」
跳躍し、フレイモスに一気に炎をチャージさせつつ────地面に叩きつけると同時に放射する!
「彼岸葬送!」
約6方向に向かって地面を裂きながら30
やはり、魔法の操作精度も向上している。こればかりは、常に
「アエルテスは、どうしていつも楽しそうなの?」
訓練が終わった後、
「だって人生楽しまなきゃ損だろ」
そういうと、ベルはきょとんとした顔をする。
「アエルテスは…悩むこととか無いの?」
「ないよ」
嘘だ。本当は色々考えることもあるし、悩みはいくらでも湧いて出てくる。
だが、勇者は悩みを一切口にしないものだ。
それがたとえ、孤独への道だったとしても。
「そっか…」
ベルの目が、少しぶれた気がした。
【発展アビリティ紹介】
☆不屈
また、死に至るダメージを受けた際にそれを一度だけ耐える。