自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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決死行

 

Lv.2になったので、早速ダンジョンに潜っている。

 

ギルドの規定によると、13階層から下は中層であり、広くて天井が高いだけの洞窟型ダンジョンらしい。

なら上層と同じじゃん、と思ったが、どうも違うらしく、なんでも魔物が遠距離攻撃を多用してくるらしい。

 

「はぁっ!」

 

『キュウッ!?』

 

現在13階層。アルミラージを叩き斬り、剣を収める。放火魔(バスカヴィル)で有名なヘルハウンドも俺の前では無力だ。

 

『グルル…ワンワンワンッ!!!』

 

「犬とかウサギとか、あんま殺したくないんだけどなぁ…寝覚めが悪くなるし」

 

ヘルハウンドも、アルミラージも、どちらもよく見れば可愛らしい見た目をしている。手斧を投げてきたり、炎を吐いてきたとしても、捌き切れる範疇というのもある。

 

「やっぱサポーターは欲しいなあ…上層の魔物は魔石全部砕いてきてるからいいけど、中層の魔石でけぇんだよな…」

 

実際問題、中層以降は魔石の大きさがバカにならなくなってきている。捨て置いてもいいのだが、強化種が生まれる遠因にもなりかねない。

 

「ごめんよぉ…ごめん……」

 

跳躍し、ヘルハウンドの首にフレイモスを突き立て、そのまま介錯。飛びかかってくるアルミラージを頭から両断。

13〜14階層は最初の死線(ファーストライン)と呼ばれているらしいが、この程度大したことはない。

 

狩りを終えて地上に戻り、換金を済ませる。

今日の収入は6万ヴァリスだ。サポーターを雇うべきか…?と悩んでいると、時を同じくして5人の冒険者たちが換金場にやってくる。

それだけなら特に気にすることもなかったのだが──────

 

「和服やんけ」

 

彼らは、和服のような戦闘衣(バトルクロス)を着込んでいた。ということは、この世界にも「米」があるのか?

居ても立っても居られず、俺は彼らに話しかけることにした。

 

「よう男前、前衛は足りてるかい」

 

「足りてるな。だが、見る目のあるお嬢さんに肖って話を聞いてやろう。何の用だ?」

 

「俺を雇ってみないか?報酬は米を食えりゃいい」

 

米、と聞くと話しかけた大男の眉がピクリと動く。日本人───でなくとも、極東に住む人間なら絶対に反応するワードだ。

 

「米…なぁ。お前さん、見たところ同郷じゃなさそうだが。なぜそんなに米を欲しがるんだ?」

 

「そりゃあんた、米は俺たちのソウルフードだろうがよ」

 

顔を見合わせる5人。どうやら、俺が日本人か懐疑的なようだ。ここはアッピルをしておかないとな。忍者は汚いし。

 

「あーえっと、俺は……『朝廷』のある場所から来ててな。厳密には違うんだが、まぁ大体お前らの故郷と似たような場所で生きてたことがある。」

 

「『朝廷』の…ああ、なら同郷か。疑ってすまない」

 

納得したようで、同郷トークが始まった。話を聞くに、思ったよりも時代が古そうだった。そのなかで、適当に話を合わせていたら、いつの間にか俺の肩書きは増えまくってしまった。

なんだよ「新撰組三番隊隊長」で「鬼殺隊炎柱」で「火影」って。舐めてんのか?

 

「にしても、それほどの実力者なら確かに前衛を任せるのも吝かではないな。皆、アエルテスをパーティに加えてもいいか?」

 

「自分は歓迎します。よろしくお願いします、アエルテス────いえ、鬼殺隊炎柱・煉獄殿」

 

「よろしく、お願いします……新撰組三番隊隊長さん……」

 

「ごめんアエルテスって呼んでもらってもいいかな」

 

紆余曲折あって…というよりは、俺が嘘の自己紹介で鬼狩りの話や流浪する剣士の話をしただけなのだが、ひとまず【タケミカヅチ・ファミリア】の面々とパーティを組むことができた。

これでサポーター問題も解決すればいいんだが。

 

「とりあえず、ダンジョンに潜るときは呼んでくれ。俺は基本的に【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)にいるから。」

 

「えっ、【ロキ・ファミリア】…?」

 

「てことで、じゃあね〜」

 

手を振り、帰りに『豊穣の女主人』へ寄っていく。時刻は夕方、そろそろ開店の時間だ。

ぼけーっと突っ立って開くのを待っていると、遠くの方からリリの声が聞こえる。目的地はここのようだ。

 

「どれ、ひとつ盗み聞きしてやるか」

 

そう思い、屋上まで跳躍。身を屈め、耳をそば立てる。

どれどれ……?

 

「ベル様、本当にあの鍛治師をパーティに入れるのですか?どこの誰とも知らない鍛治師を何の疑いもせずにリリの許可なしに加入させるなんて!見損ないましたよベル様!」

 

「鍛治師じゃなくて、ヴェルフ・クロッゾさん。僕はヴェルフって呼んでるよ。」

 

「クロッゾ…?魔剣鍛治師のですか?」

 

魔剣だと?おい待てリリ助。この世界には魔剣があるのか?それは捨て置けないぞ。もっと詳しく話してくれ。魔剣があるなら聖剣はあるんだろうな。

 

「クロッゾの魔剣……それは、エルフとも深い因縁が…」

 

リューさんが会話に入ってきた。どうやら、魔剣はエルフの里を焼きまくったものらしく、振るだけで魔法が飛び出るドッキリトンデモソードらしい。

 

「だいたい銃じゃねえ?それ。」

 

「銃というものが何かは知りませんが、盗み聞きは関心しませんよ。『暁炎(エリュオ)』。」

 

「うわ────んんっ!?」

 

後ろから声をかけられ、慌てて大声を出そうとしたら唇に指を添えられた。相手をよく見れば、空色の髪に怜悧な表情を浮かべるメガネ美人さんが立っていた。

 

「あ、あんたは…?」

 

「アスフィ・アル・アンドロメダです。今日は、ヘルメス様より貴女に贈り物をと言われたので来ました。」

 

「ヘルメスって…」

 

あの胡散臭い伊達男か。口ぶりからして父上の知り合いらしいが、どうにも信用ならないんだよな。こう、道を踏み外したら手段を選ばなそうで。

アスフィさんは俺に包みに巻かれた棒状の何かを渡してくる。

 

中身を確認すると、包まれていたのは真っ黒な儀礼剣だった。

 

「それは、魔道具(マジックアイテム)晩鐘の鍵(エリゴール)】です。今はただの長剣に過ぎませんが、所有者が悪意を受けるたびに、その力を増していきます。」

 

「性格悪…」

 

「……とにかく、渡しましたからね。今度は、ベル・クラネルに渡したりしないように。」

 

バレテーラ。だがまあ、明らかに何かを企んでいる連中の言うことなんて信じるわけがない。これは死蔵しておこう。

そうこうしていたら、『豊穣の女主人』の開店時間がやってきたようで、階下がガヤガヤしてくる。

 

「では、私はこれで。」

 

何かを被ったかと思うと、アスフィさんは透明になって消えてしまった。そういうアイテムがあるのかな?

まぁいい。誰がどのような手練手管で俺に策謀を持ちかけようと──────

 

正面から、打ち砕くのみだ。

 

・・・

・・

 

とは言ったものの、まさか策謀もなにも関係なくピンチに陥るとは思ってもいなかった。

 

千草(チグサ)ァ!しっかりしろ、千草!」

 

ダンジョン13階層。俺一人なら余裕をもって対処できたはずの階層で、俺と【タケミカヅチ・ファミリア】の面々は苦境に陥っていた。

人は言う。ダンジョンとは狡猾なものであると。たった一人で潜った俺を狩るよりも、纏めて狩りに来るのだ。

 

「ポーションは!?」

 

「今飲ませたので最後です…っ!」

 

俺がヘルハウンドの火炎放射を一人で受け切っていたところを、後ろからアルミラージが襲い、弓手(アーチャー)である千草をめためたに切り裂いたのだ。

 

「アエルテス!あとどれだけ耐えられる!?」

 

「火炎放射だけなら30分は余裕だ!」

 

ヘルハウンドの突撃に合わせて胴体を真っ二つにし、空いた隙間に吶喊して二体、三体と斬り伏せる。だが、残るヘルハウンドは14体。

数が多すぎる。この間潜ったときは何だったんだと思うほどに多い。

 

「クソッ…手が足りねえ…!なんとかなれ!」

 

アスフィさん…もといヘルメスから貰った儀礼剣を取り出し、二刀流の構えになる。それと同時に、多くの視線が俺を突き刺す。────正確には、儀礼剣を。

 

「なるほど…!こりゃあいい!ヘイト吸引かよ!」

 

『ガルルァァッ!ギャウン!?』

 

涎を撒き散らし、飛びかかってくるヘルハウンドを儀礼剣で刺し殺す。なるほど、ヘイト吸引だけじゃなくて凶暴化も含まれているというわけか。

ヘルメスめ、センスのある贈り物をするじゃないか。

 

桜花(オウカ)ァ!さっさと行けェ!前衛は『絶†影』に任せて、千草はお前が背負え!俺のことはいい、20体は受け取ってやるから、さっさと逃げちまえ!」

 

「だが……っ!」

 

松脂を塗り、フレイモスを燃え上がらせてヘルハウンドの喉を突く。火炎袋に引火したのか、そのまま爆発四散!

 

「逃げる度胸もねぇのか根性なし!今お前がすべきことは、テメェの仲間を生きてここから帰すことだろう!」

 

「お前はどうするんだ!?」

 

跳躍し、炎刃を6方向に撒き散らし、一瞬だけ空いた空間に降り立ち、桜花に背を向け、笑顔で叫ぶ。

 

「我が名はヘリオドーンのアエルテス!『暁炎(エリュオ)』の名において、この明けない夜のような難局に、黎明を齎そう!」

 

決まった──────。

今の俺、めちゃくちゃカッコいいんじゃないか!?

やはり暁炎(エリュオ)という二つ名を貰ってよかった。

 

「ぐっ………すまん……っ!行くぞ皆!英雄の献身を無駄にするなァ!」

 

「申し訳ありません、アエルテス殿…!貴方は立派な柱でした…!」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】の離脱を確認し、俺は敵に向き合う。10体ほど逃してしまったが、逃げ切れるだろう。

想定外のピンチだが、俺は今、猛烈に勇者している。それだけで十分に戦う気力が湧いてくる。

 

「それに────テメェらを逃したら、【タケミカヅチ・ファミリア】のみんなが死んじまうだろ」

 

彼らとは、数日間探索を共にしただけの仲だ。だが、彼らは俺のマンガを元にした与太話を楽しんで聞いてくれた。

彼らは、俺を信じてくれた。戦う理由なんか、それだけで十分すぎる。

 

「俺は俺の責務を全うする!ここにいる誰も、死なせはしない!」

 

Lv.2のステイタスによって可能となった、アニメの如き動き。これによって、俺はさらに夢を広げることができる。

 

「炎の呼吸────肆ノ型!盛炎のうねり!」

 

炎を纏ったフレイモスを横薙ぎに振り、自身もまた回転することで周囲の魔物を炎刃で切り裂きながら寄せ付けない。

やはり、漫画やアニメで使われている剣技を実際に使ってみると意外と使いやすいあたり、考えられているのだなぁと実感する。

 

『グルルァ!!!』

 

「ちっ…炎による微量のダメージはもはや考慮しなくていいか…!」

 

ヘルハウンドの炎を無視し、そのまま首を切断する。無論、儀礼剣を途中で掲げ、ヘイトを吸うのを忘れない。

それにしても、パーティでのダンジョン攻略は非効率的だと常々思う。進行スピードは遅いし、一人でも負傷したら撤退を余儀なくさせられる。

 

「19!まだまだァッ!」

 

アルミラージが隙を見計らって攻撃を差し込んでくるが、それをカウンターで抹殺。もう可愛い可愛くないとか言っている場合ではない。

だが、動物型モンスターは──────

 

「やべっ、視界が……ぐはっ!」

 

斬られれば、血を撒き散らすのだ。運悪く俺の目元に血が飛び散り、目を瞑らされる。好機と見たのか、一斉に襲いかかってくる魔物たち。

普段、苦境に立たされているときは魔法を使っていたから、すっかり失念していた。

 

【逆境奮起】はすでに起動している。

ならば、ここで使ってしまうか。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』───燃やし尽くすぞ、【リュクシオン】!」

 

胸から炎が噴き出し、それは外套となって俺を包む。途端に燃え上がる肉の音。視界を塞いでいた血が蒸発し、確認してみればアルミラージが燃えながら転がっていた。

 

「動物だもんな。炎は…怖えよな!」

 

地面にフレイモスを突き立て、爆発させる。それと同時に複数体の魔物が吹き飛び、絶命する。囲まれた時にはこれが一番だ。

 

「さんっざん火ぃ吹いてくれたからなァ…!お陰で、撃ち放題だぜ!」

 

黄金の炎刃を乱射し、爆発を起こしていると────牛頭のモンスター、ミノタウロスが階を跨いでやってきた。

 

「出オチ失礼!【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!」

 

『ブモ!?』

 

ミノタウロスの魔石をそのままブチ抜くと、フレイモスが何やらスラッシュアックスの剣形態────要するに、剣先から何かを発射できる機構────のような形状に変化している。

 

「なん、なんですか?これは…まぁいいや、ブッ殺す!」

 

フレイモスの放射機能を使おうと剣を振り回すと、それはレーザーとなって壁を、床を、天井をぶち抜いて射出された。

 

「………こわ。変形解除…あっ出来た。」

 

オーバーパワーすぎるので、流石に使わないでおこう。それに、俺に向かってきていた魔物はあと数匹。さっさと片付けよう、と思った矢先。

儀礼剣が咄嗟に大きな音を鳴らした。

 

「なっ……うお!」

 

「……チイッ!」

 

咄嗟に防御したのが功を奏し、俺に斬りかかってきていた蜥蜴人(リザードマン)の攻撃を逸らすことができた。

それにしても、随分と重い一撃だったな。アイズ先輩ほどはあるだろう。

 

「出たな、異常事態(イレギュラー)。武装したリザードマン…ふむ、名付けて【刀龍(サムライトカゲ)】と言ったところか?」

 

「ダッサ…………ギャウ」

 

こいつ、喋ったぞ。

 

「お前今喋ったよな」

 

「ギャウ?ギャウギャーウ!」

 

「誤魔化さなくて良いって。もう無理だから」

 

目の前のリザードマンは、何か動揺した様子で剣を構える。誤魔化そうったってそうはいかないぞ。知恵をつけたモンスターは全員殺す。

良いモンスターは死んだモンスターだけだからな。

 

「なんでも良いけど…俺に攻撃してきたって事は、()()()()()()で良いんだな?」

 

フレイモスを構え、リザードマンを睨みつける。背中の熱が上がる。それが意味するところは────命が掛かった逆境。

 

「……グルァァァッ!」

 

二刀を構え、リザードマンが臨戦態勢に入る。

だが、知恵のある敵が相手ならば…名乗らねばなるまい。魔物相手といえども、戦士に対して名乗りをあげないのは無礼だからな。

 

「俺はヘリオドーンのアエルテス。戦士として、貴殿を討ち果たそう。名を名乗れ!」

 

フレイモスを突きつけ、睨みつける。すると、リザードマンは小さくため息をつく。

 

「……今日あったことは、絶対に他の奴には言わないでくれよ」

 

「やはり知恵のある魔物か………良いだろう。勇者は約束を違えない。これは、俺たち二人の秘密としよう」

 

予想以上に道理を弁えた奴のようだ。知恵ある獣程度なら、名乗りを返さない上に、なんなら名乗っている最中に殺しに来てもおかしくないのに。

 

「オレっちはリド。異端児(ゼノス)のリド。仲間をアンタに傷つけられたんで、倒しに来たぜ」

 

「………さっきの光線か。それはすまなかった。」

 

素直に謝罪すると、リドと名乗ったリザードマンはぽかん、と目を丸くしてニヤリと笑う。なるほど、こいつは俺が悪意を持ってやったのだと勘違いしていたわけだな。

 

「……一度切り掛かっちまった以上、アンタの敵対心を解くのは無理そうだ。オレっちはこのまま退いてもいいが…どうする?」

 

「一つ聞かせろ。お前…人間を殺したことはあるか?」

 

そう訊くと、リドはしばらく考え込んだ後、苦しそうに「あるぜ」と答えた。まぁ、どうせ襲ってきたやつを返り討ちにしたとか、その程度だろう。

でなければ、こんな罪深い顔をするはずがない。

 

「ならば……殺すしかないな。悪く思え、俺は勇者としての責務を全うする」

 

「アエっちとは分かり合えそうだったんだが……ま、オレっちモンスターと、アンタら人間の立場の性ってもんだよな。」

 

「……フ、確かにな…」

 

互いに苦笑し、剣を構え、突撃する。

剣戟は、わずかな間だけ広間(ルーム)に響いた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ベル・クラネルたちは、初の中層に大苦戦していた。

前衛のヴェルフはLv.1。パーティ唯一のLv.2であるベルはエイナから中層探索許可が降りたとはいえ、それでも格下2人をカバーしながら戦うのには無理があった。

 

「【ファイアボルト】!【ファイアボルト】!【ファイアボルト】ッ!」

 

「ベル様、魔法を使いすぎです!ヴェルフ様、前に出過ぎてベル様が動きにくくなっています!」

 

「っだぁ!分かってる!ベル、前は頼む!俺はリリ助の後ろのを────せやぁッ!」

 

リリが指示を飛ばし、ヴェルフが守り、ベルがその穴を埋める。3人パーティとしては理想的な前衛型構成であったが、それ以上に、中層においては通用するかは怪しい代物であった。

 

「リリ、あと何体いるの!?」

 

「さ、30ほどかと…!うう…こんなの、アエルテス様ぐらいしか捌けませんよぉっ!?」

 

以前にも怪物行進(モンスターパレード)を経験しているリリは、若干のトラウマを抱きながらも冷静でいられているが、ヴェルフに関してはキャパオーバー気味だ。

 

「……っ、放火来ます!」

 

「『燃え尽きろ、外法の業』…【ウィル・オ・ウィスプ】!」

 

ヘルハウンドたちの口元が爆発し、そのまま絶命に至る。だが、アルミラージによる攻撃は止まず、ヴェルフを傷つけていく。

魔法詠唱中に攻撃されれば、避けられるものも避けられないのだ。

 

「まずっ……」

 

「【ファイアボルト】ッ!」

 

ヴェルフの首を狙った一撃を放とうとしたアルミラージが撃ち抜かれ、そのまま塵と化す。確かにパーティは危機に瀕していたが──────それでも、3人の力が合わされば負けることはなかった。

 

何も、起こらなければの話だが。

 

「…っ!?9時の方向、別パーティが走ってきます!これは…」

 

アエルテスによって逃がされた【タケミカヅチ・ファミリア】だ。彼らはベルたちのパーティを見つけると、そのまま素通りしていく。

 

「……すまん、本当にすまんっ…!」

 

その後ろには、逃げる時には10体程度だった魔物の群れが今や25体ほどに増え、追いかけてきている。ダンジョン内では、ほとんど禁忌とされている行為。それこそ──────

 

怪物進呈(パス・パレード)ですっ!ヴェルフ様、ベル様、()()()()()!」

 

「ふざけろ……!」

 

「そんな……!?」

 

絶望する前衛。だが、リリの目は死んでいない。

怪物進呈(パス・パレード)の直後に、黄金の閃光が一瞬だけ壁を突き抜けるのを見たからだ。

 

「この付近にアエルテス様がいらっしゃいます!彼女なら、私たちに協力してくれるはずです…!少なくとも、ベル様がいらっしゃいますから!」

 

「分かった、突破口を作るよ!ヴェルフ、チャージするまで時間を稼いで!」

 

「誰だか知らねえが、頼って良いんだな!?任せろ…っ!」

 

ベルの左手に、白い光が収束していく。【英雄願望(アルゴノゥト)】だ。チャージ時間は30秒ほど。

 

「【ファイアボルト】!」

 

炎の雷光が炸裂し、道ができる。その方に向かって走ろうとした─────その瞬間。ばきり、という音と共にベルたちの足場が崩れていく。

 

「嘘……」

 

「ふざけろっ……!?」

 

「ベル様っ…!」

 

三者三様の反応をしながら、深くへ落ちていく。

落ちた先は────15階層。ミノタウロスを始めとした、強力なモンスターが湧いて出てくる場所。

 

彼らの決死行が始まった。

 

最初に起き上がったのは、ベル・クラネルだった。周囲には、リリとヴェルフが倒れている。

ベルは迅速に気絶しているヴェルフに紐を結び、比較的軽傷だったリリを起こす。

 

「……ぅ、ベルさま…?ここは…何階層、ですか?」

 

上を見上げ、ベルは自身の階層を概算する。

 

「多分…15階層。行こう、リリ。ヴェルフは僕が運ぶから、地上まで帰るんだ。」

 

「駄目、です。ベル様、リリ達はこれから18階層に行かなければなりません……」

 

18階層、と聞いてベルは納得する。『奈落の楽園(アンダーリゾート)』のある階層まで行ければ、そこには安全地帯(セーフゾーン)がある。

リリは、それを狙っているのだ。

 

そうして、18階層に向けて足を進めたベル達だったが、当然の如く15階層にはモンスターがいる。ミノタウロスを始めとして、ライガーファングやヘルハウンドが待ち構えていた。

 

『ギャウッ!』

 

「ヘルハウンド……!リリ、僕の後ろに隠れて!」

 

『グルォアアッ!』

 

左手を構え、ベルはリリとヴェルフの前に立ち魔法を発動する。

 

「【ファイアボルト】!」

 

『グルッ…!グアアッ!』

 

ステップ回避で避けたヘルハウンドは、ベルに噛み付く。確かなダメージを受けたベルは、痛みで悶絶しながらもその喉元にヘスティア・ナイフを突き立て、撃破する。

 

「はぁ…はぁ……リリ…ポーションはある?」

 

「それが……先ほどの落下で、全て……」

 

「そんな……いや、ここで絶望してる場合じゃない」

 

ベルは前を向き直す。脳裏に映ったのは、笑顔で難局に立ち向かう金色の憧憬(アエルテス)の姿。

 

(そうだ。アエルテスなら、きっとこんな時に笑うはず。)

 

一歩、また一歩と歩みを進めるベルたちだったが、先に進むにつれて魔物の数は増えていく。

 

「ヘルハウンド、三体…!」

 

【ファイアボルト】は三方向には放てない。一体を撃破して、二体目を魔法で撃ち抜けたとしても、三体目は手が足りない。

 

「火炎放射、来ます…!ベル様!」

 

絶体絶命。だが、それを救ったのは。

 

「【ウィル・オ・ウィスプ】!」

 

反魔法(アンチマジック)を持つ、ヴェルフ・クロッゾだった。ヴェルフは自身に巻かれた縄を解き、よろよろと立ち上がる。

 

「前衛は、多い方がいい…だろ?」

 

「ヴェルフ!ありがとう、助かったよ!」

 

喜んだのも束の間。その数十分後には、ミノタウロスが2体待ち構えていた。

ベルのステイタスでは、一体を相手取るのが限度だ。

 

「……おいおい、ふざけろ…!」

 

「ヴェルフ、数分持ち堪えれる?その間に一体は僕が……」

 

「無理だな。持って30秒ってとこだろ…それに、咆哮(ハウル)による強制停止(レストレイト)もある。」

 

「………なら、僕が2体やる…」

 

ベルが足を踏み出す。必ず死ぬ、と感じつつ、ベルは勇敢にも前に進む──────が。その直後だった。

 

『ブモォオ……オッ!?』

 

一体のミノタウロスを、一条の閃光が貫く。

続けざまに、もう一体のミノタウロスの首が炎を纏った長剣によって斬り落とされる。

 

光と共に現れた剣士は、ベル達を見ると、笑顔を向けて手を差し伸べた。

 

「ハッピーエンドを、返してもらいに来た!」

 

 

 

一方そのころ。情けなくも地上に帰り着いた【タケミカヅチ・ファミリア】の面々は。

 

「タケミカヅチ様!ギルドに、救援をお願いします!」

 

「私からもお願いです!恩人を、黙って見過ごせるほど弱くなりたくありません!」

 

カシマ・桜花とヤマト・命の二人が、土下座をしながら主神であるタケミカヅチにアエルテスの救難を頼み込んでいた。

救難依頼は非常に高くつく。貧乏ファミリアである【タケミカヅチ・ファミリア】には、到底払える額ではなかった。

 

「……そのアエルテス嬢に魔物を任せ、さらには見知らぬパーティに魔物を押し付け、逃げ帰ってきた……というわけか。この莫迦者め、だがよく生きて帰ってきたな」

 

げんこつを食らわせたタケミカヅチは、仕方ないと言って立ち上がる。その直後。彼の友神(ゆうじん)であるヘスティアが駆け込んできたのだ。

 

「タケ!大変だ、ベル君たちが帰ってきてないんだよ!神の恩恵(ファルナ)での繋がりは感じるけど、普段なら帰ってる時間に帰ってないんだ!」

 

「ふむ…ベルというのは、どんな見た目だった?」

 

「え?えっと…白い髪に、くりくりした丸くて赤い目、背はボクより大きいくらいかな」

 

タケミカヅチが深くため息をつく。【タケミカヅチ・ファミリア】の面々は、非常に気まずそうな顔になる。

 

「ヘスティア、どうやら俺はお前に謝らなければならないようだ。」

 

「え?え?どういうことだい…?」

 

事情を説明したタケミカヅチが話し終えると、ヘスティアは意外にも冷静な様子であった。

 

「確かに、君たちも生きるのに必死だったんだから仕方なかったんだろう。でもね、ボクは怒っているんだよ。どうするつもりだい?」

 

「謝罪を──────」

 

「謝罪するんなら、ウチにもして貰おか」

 

割り込んできたのは、【ロキ・ファミリア】の主神ロキである。ロキは額に青筋を浮かべ、壁に寄りかかっている。

 

「ロキ…!」

 

「ウチのアエたんを、13階層に置き去りにして、ごめんなさいで済むわけないやろ。アエたんは確かに強いで?Lv.2にしては完成された強さや。Lv.4の相手にも多分手が届くぐらいには強いはずやけど…」

 

やけど、と続けるロキから、怒りを含んだ神威が漏れる。

 

()()()を独りにした罪は重いぞ。」

 

その場にいた超常存在(デウスデア)以外の存在は、一様に息を呑む。当然だ。悪神の怒りに触れて無事で居られるものなど存在しないのだから。

 

「……っ、謹んで申し上げます!どうか、どうか私たちに…アエルテス殿および、ベル殿パーティの捜索をさせてください!」

 

「俺からも頼みます!言われたからじゃない、ここで逃げちまったら、俺に託してくれたアエルテスに申し訳が立たねえ!」

 

その答えに満足したのか、はたまた失望したのか。ロキは小さくため息をつくと、わざとらしく拍手をする。

 

「そんじゃ、任せるで。まだアエたんの気配は感じるけど……消えかけや。もし間に合わんかったら、全員潰すから、覚悟しとき」

 

実際のところ、アエルテスの気配は一日に一回は必ず消えかけているのだが、ロキは敢えてそれを言わずにタケミカヅチの背中を叩く。

 

「ボクの名前でベル君たちの捜索依頼を出す。当然、ボクも行くからな!この目で安否を確認しないと、安心できないんだ!」

 

そう宣言するヘスティアの肩を、伊達男の手が叩く。そこには、緑色のローブを着たエルフと、げっそりしているアスフィの姿があった。

 

「それなら、このオレも連れて行って貰おう。もちろん、護衛には【疾風】とアスフィを連れていく。どちらも上級冒険者だ、戦力増強にもなるんじゃないのかい?」

 

「ヘルメス!」

 

「ハーイ♪オレだぜ」

 

予想だにしない参戦者によって、事態は解決へと向かっていく。

 

その中で、ロキだけはヘルメスの狙いを疑っていた。

 

(アエたんに渡したとかいう儀礼剣のこともそうやし、ウチのアエたんに直接ちょっかい掛けるつもりなんか?こいつ…)

 

アエルテスは、模範的眷属としてあった事をそのままロキに報告していた。当然、路地裏で襲ってきた【疾風】のことも。もちろん、【疾風】ことリュー・リオンはすでにロキに対し、秘密裏に謝罪を述べている。今回来たのも、その償いだろう。という確信はロキにはあった。

無論、アエルテスの自信に満ちた「全部真正面から粉砕するわ!」という大言壮語を信じて送り出してはいるが──────それでも、不安は拭えない。

 

(ま、アエたんなら何とかするやろ。神の思い通りにはなるんやないで〜?おもんないからな…)

 

ロキは、己の眷属に期待を寄せつつ、目を細めるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

いやあ助かった。

リドとかいうリザードマンとの勝負に負けた後、命までは取られず、起き上がった時用に万能薬(エリクサー)まで置いて行ってくれるとは。

 

この恩は忘れないぞ、リド君。

それはそれとして魔物は殺すが。ケースバイケースというやつだ。

 

「さて…壊した壁はもうすぐ塞がるみたいだな。」

 

このまま帰ってもいいのだが、せっかく全回復したんだ。18階層『奈落の楽園(アンダーリゾート)』まで行ってみるのもアリだな。

 

「わざわざ探索するのも面倒だ。床を───ぶち抜く!」

 

フレイモスを変形させ、溜まっていた炎で地面に穴を開ける。大体15階層までは穴が空いたな。人が一人通れるほどの穴だが、塞がるまでには二、三分もないだろう。

さっさと飛び込むとしようか。

 

「む。あれはミノタウロスか。」

 

飛び降りている最中、落下地点にミノタウロスがいることに気がついた。

 

「みーずぐーる、まッ!…と」

 

回転斬りでミノタウロスの首を落とし、付近の様子を見る。すると、そこには傷ついてボロボロの様子のベル達がいた。

 

「ハッピーエンドを、返してもらいに来た!」

 

安心させるために勇者らしいセリフを吐く。心底安心したのか、ベルは床にへたり込んでしまったようだ。

 

「ベル!……アンタ、何者だ?助けてくれたことには感謝するが…」

 

赤毛の男が尋ねてきたので、俺は堂々と答える。

 

「ヘリオドーンのアエルテス。お前たちを救いに来た。」

 

理由はいま適当にでっち上げたが、まぁ知り合いが困っていて助けないのは勇者失格だ。そういう事にしておこう。

 

「……本当に助かる。俺達は18階層まで向かってるんだが…援護を頼んでもいいか?」

 

「無論だ。俺が道を切り拓いてやろう」

 

ベル一行が なかまに 加わった!

 

とは言っても、見る限り使い物にならなそうだ。ベルは満身創痍、赤毛の男はそもそも戦闘職には見えない。リリは論外だ。

極力魔法は使わず、そして迅速に18階層に向かう必要がありそうだな。

 

「そういえば、名前を聞いていなかったな。赤毛の兄ちゃん、名前は?」

 

「……ヴェルフだ。よろしく頼む」

 

「魔剣鍛治師だとかいう奴か。よろしくね」

 

露骨に嫌そうな顔をされた。なるほど、ヴェルフは魔剣鍛治師呼ばわりされるのが嫌なのか。覚えておこう。

 

こうして、俺たちの18階層を目指す旅が始まったのだった。




【武器紹介】
晩鐘の鍵(エリゴール)
製作者はアスフィ・アル・アンドロメダ。『戦鍛治姫』ナウセイアの設計図を基に作成されたものであり、『神秘』のアビリティが必須であるが故にこれまで作られてこなかった作品。
効果としては、対魔物に対するヘイト誘引、および凶暴化、優先敵対権の獲得などがある。
設計思想としては、これを敵対ファミリアの持ち物に忍び込ませ、ダンジョン内で合法的に敵を殲滅するというもの。これを渡すように指示されたアスフィはドン引きしていた模様。
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