自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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偉業には届かず

 

今日は【ロキ・ファミリア】の面々が『遠征』から帰る日だという。

ついでに一緒に帰りたいが、フィン団長は「親指が疼く」と言って帰してくれなかった。

 

「で、なんで俺ぁアンタらに囲まれにゃいけないんだ?」

 

迷宮(ダンジョン)18階層、『奈落の楽園(アンダーリゾート)』にあるリヴィラの街で、俺はチンピラ数人に囲まれていた。

 

「理由なら、恨まれてるアンタ自身の胸に聞いてみな」

 

「セクハラか?大胆なやつだな」

 

フレイモスを構え、臨戦態勢に入ろうとすると─── 疾風(かぜ)が、彼らを薙ぎ払った。その跡に立つのは、見覚えのある緑色の外套。

俺を襲ってきた、謎エルフだ。

 

「あっ、あんた……こんな所まで追いかけて来やがったのかよ……!」

 

目を見開き、あの時のことを思い返す。もう手札は相手に割れている。対して、あちらは未知数な部分が多い。

ならば、先手必勝。殺される前に焼き殺してくれる!

 

「……警戒を解いてください。戦いに来たわけではありません」

 

「誰か信じられるかっての!顔も見せねえ卑怯者に…俺が負けるわけねぇだろ!正々堂々、死ぬまでやろう」

 

OK♠︎と返ってくることを若干期待しつつ、剣を構える。だが、謎エルフはフードを外すと────見覚えのある顔が出てきた。

 

「……………リュー、さん…?」

 

「…黙っていて、すみませんでした。あの時のことを償うため、ここに来ました。」

 

謎エルフは、どうやらリューさんだったらしい。そうと分かったので構えを解き、剣をしまう。なんでこんな所に?という疑問はない。

俺は身をもってその強さを知っているからな。

 

「この度は、本当に…申し訳ありませんでした。」

 

深々と頭を下げてくるリューさん。聞くに、俺の持っているフレイモスはヤバいやつが作ったヤバい武器で、その持ち主は大体闇派閥(イヴィルス)の者たちだったから、殺してまわっていたらしい。

 

いや怖。

 

だがまあ、俺は生きているし、親も殺されてはいないだろう。カルドニアも死んでないみたいだし。怒る理由はない。

 

「そう頭を下げないでくれ、リューさん。俺は君と生きて話せることが何よりも嬉しいよ」

 

勇者スマイルを向けて、手を差し伸べる。受けた傷を赦すのが勇者というものだしな。これぐらいなんてことはない。

 

「……貴女は、本当に…もう少し、自分を大切にするべきだ。」

 

「俺の命に、さほど価値はない。」

 

だから大丈夫、と言うとリューさんはその表情をやや曇らせる。しまった…語録の使い所を間違えたようだ。

 

「神ロキから言われました。アエルテス、貴女を独りにしないでほしい…と。なので、その…少し街を歩きませんか?」

 

「美人とのデートなら、喜んで。」

 

互いにわだかまりも解けたので、リヴィラの街を歩くことにした。全体的に物価が高く、地上では300ヴァリスほどのポーションも、ここで買えば30000ヴァリスする。

舐めてんのか?と思ったが、人件費や運搬難度も含めての値段だと言う。

 

「それでも、何割かは不当に収益を得ているようですが。」

 

「舐めてんだべ?やっぱこの値段はよ」

 

宿屋の値段は一泊90000ヴァリス。舐めた値段を提示してきた宿の主人をタコ殴りにしてやりたかったが、リューさんが手を握ってくれていたので抑えられた。

ケッ、命拾いしたな。

 

「アエルテスは意外と喧嘩早いのですね」

 

三度目の揉め事を止められた時、リューさんが出し抜けにそんなことを言ってきた。

 

「悔しいじゃんね。舐められっぱなしってのは」

 

「負けず嫌い、ということですね」

 

そうとも言う。ベートだっていつか超えてみせるし、アイズ先輩だって、オッタル師匠だってそうだ。彼らを超えて、俺は名実ともにチート勇者になるのだ。

 

それにしても、先程俺に絡んできたチンピラたちがどうにも気になる。リューさんとのデート中で無粋だが、調べに行こう。

 

「すみません、少し急用を思い出しました。俺はこれで失礼します」

 

「…私も、友人に呼ばれていたことを思い出しました。では、またお会いしましょう」

 

気を遣わせてしまったな、と少し反省しつつ、街を一望できる高台に向かって走っていく。

ここは観光地なのか、人が大勢集まっている様子だ。

 

「おっと、ここから先は通さねえぜ?」

「通りたかったら──────ぶべら!」

 

邪魔をしてきたチンピラの顔面にグーを叩き込み、一撃で伸す。

チンピラは多いし、物価は高いし、舐めた連中しかいない。俺は怒っている。猛烈に舐め腐られたからだ。

 

「どけ。騒ぎを起こしたくはない」

 

フレイモスを構え、敵を睨みつける。道を塞ぐのは6人程度か。ならば…死なない程度に痛めつけさせてもらう!

 

「こいつッ、やる気か!?舐めんな!やっちまえ!」

 

「群れたところで、貴様には何も出来ない」

 

剣を振りかざしてきた男の手首の筋に斬り込みを入れ、剣を取り落とさせる。続く斧使いは崖の上から蹴り落とし、怯んだ様子の女魔法使いのもとに走り出す。

 

「ひっ…!こ、来ないでぇえっ!『我は謀議の───」

 

「女だからって手加減すると思ったのか?」

 

魔法使いの首根っこを掴み、強く握ってから地面に叩きのめし、息を吐こうとするもそれを首を絞めることで阻止。

そのまま髪を掴み、地面に数度叩きつけてから、怒りの形相で迫ってくる双剣使いに炎刃を飛ばす。

 

「そいつを放……ぎゃあっ!」

 

「あと二匹。」

 

「ひ、ひぃあああっ!」

 

「行け!俺が相手だバケモノ女!」

 

大刀使いが飛びかかってくるが、その剣を横薙ぎに叩き折り、そのまま剣の峰で殴り続ける。白目を剥き、気絶したのを見てからついでにもう1発殴って、しばらくおねんねしてもらおう。

 

「モルド!やべェのが来た…!っ、後続には他の連中も!」

 

弓が冒険者達を襲う。【タケミカヅチ・ファミリア】の面々にヴェルフ、そしてリューさんも来ている。メンツ的に、上にいるのはベルなのだろう。

なら、あとはボコボコにするだけだ。

 

「全員、処刑だ!」

 

フレイモスの炎刃を振り回し、ばたばたと敵を薙ぎ倒していく。ちょうど、上の方も決着がついたようで、大男の情けない声が聞こえる。

 

「しゃあっ、皆殺しだァァァ!!!!」

 

上がったテンションで以て、ついでに魔法をぶちかまそうとした──────その時だった。背後から、猛烈な気配。

これは…知っている。濃厚な、神の気配!

 

「────やめるんだ。剣を収めなさい、子供達。」

 

咄嗟に跪く【タケミカヅチ・ファミリア】の面々。他の冒険者たちも、戦いの手を止め、剣を収めている。

この場において、唯一の臨戦態勢を取れているのは…俺一人だ。

 

「キミも、もうやめるんだ。アエルテス君」

 

ぐん、と重圧が降りかかる。普段は情けないロリ巨乳女神だというのに、今、この場この時においては───最も恐ろしい。

 

「ああ、そういえばキミは神の重圧にも耐えれるんだっけ。それなら、お願いだ。キミ自身の意志で、戦いをやめておくれ」

 

「お願い……だあ?そんな、バカみたいな圧を出しておいて……脅迫ってンだぜそれ……」

 

奥歯が震えて、汗が止まらない。神々しく光るヘスティアから、視線を離せない。フレイモスを握る手は強くなり、息が漏れる。

 

「ベル君は、キミたちが争うことを望まない。そして、それはボクもだ。」

 

「はッ、その圧を解いたなら考えてやらァな…!」

 

ここで屈してしまっても良いと、理性は言う。

屈さない理由はないからだ。だが、俺の本能は…ここで折れてはならないと叫んでいる。

 

「強情だな、キミも。分かったよ、神威は解こう」

 

その場に張り詰めていた緊張感が解け、俺は地面に剣を突き刺し、息を荒げてヘスティアを見る。

 

「はぁ…はぁ……冗談、キツイぜ…」

 

ヘスティアはすでにベルのもとに向かって走り出している。

一人だけ立ったまま、汗もダラダラでため息をつく。だが、これで一件落着…とは、ならなかった。

 

「……地震?」

 

ダンジョンが、()()()。女性の叫び声のような音と共に、18階層の「空」に髑髏と、巨大な人型が映る。

次から次へと、息つく暇もないな。

 

「嫌な揺れだ…クラネルさん、アエルテス、何かが来ます」

 

リューさんの警告も束の間。天井が割れ、黒い、大きな巨人が降ってくる。

ベルは顔を引き攣らせ、リューさんは厳しい顔をし、冒険者たちは一様に青ざめる。そんな中、俺は──────。

 

「待っていたぞォ!ゴラ間ァ!!」

 

意気揚々とゴライアスのいる森まで飛び込み、笑顔を向ける。

だが、ゴライアスの足元付近で怪我をしているパーティを発見したので戦うのは一旦後にしておこう。

 

「お前は後!まずは救助を行う!」

 

パーティのもとに走り、瓦礫に足を埋められていたサポーターの子を救助し、改めてゴライアスと向き合う。

 

「黒いゴライアス…」

 

相対した瞬間、俺の背中が熱くなる。なるほど、こいつと戦うこと、それ自体が逆境というわけか。面白い。

儀礼剣を抜き、高らかに宣誓する。

 

「ヘリオドーンのアエルテス!この名において、汝を撃ち果たそう。覚悟しろ、ゴライアス!」

 

一番槍を貰うべく、魔法を唱える。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』……【リュクシオン】!」

 

胸から炎が噴き出し、それと同時に首筋が灼けるように熱くなる。炎は外套となり、俺を包む。

魔力を操作し、脚から炎を噴射しようと思った…矢先。

 

『グルルル……』

 

「バグベアー、だったか。それにミノタウロスもいるな。邪魔をするな、失せろ!」

 

フレイモスを横薙ぎに振り回し、黄金の炎刃を円形に飛ばす。それだけで魔物は両断される。一体、避けた魔物がいるな。アルミラージか。

 

「2個目はどうする?白兎。」

 

『ギュッ!』

 

アルミラージを両断し、そのままゴライアスに吶喊する。やはり、空を飛べると言うのは便利だな。これは飛んでいると言うよりは吹っ飛んでいるだが。

 

『──────』

 

「っ、咆哮(ハウル)か!」

 

二回目の突進に合わせ、ゴライアスが咆哮(ハウル)を飛ばしてくる。叫んでるだけのくせに(キャノン)なのは何なんだマジで。

 

「ごあっ」

 

押し負け、地面に叩きつけられると同時に咆哮(ハウル)の爆発が俺を襲う。だが、これもまた魔力で編まれたものだ。

ならば、炎に変えて────フレイモスに吸わせるのみ!

 

「う、ぐ……おおおおっ……しゃーんなろー!」

 

炎が治まり、フレイモスには傷ひとつない。上出来だ。俺に外傷は殆どない。むしろ、痛いのは首筋だけだ。

 

「なんか分かんねえけど…調子がいいぜぇ〜……鬱だぜ」

 

ごう、と炎を燃やし、笑顔で跳ぶ。再び咆哮(ハウル)が飛んでくるが、これをフレイモスで受ける前に炎で燃やし、吸収する。

そしてそのまま炎で加速し、ゴライアスに吸収した分の炎刃をぶち込む。

 

『ゴアアアア──────ッ!!?』

 

「さらにもう一発!」

 

チャージ4分。炎刃を叩き込んで顔面を吹き飛ばす。ここまでやれば、流石に死んだだろう。

 

「はっ、俺もなかなか強く────」

 

「アエルテス!再生しています!」

 

「は?」

 

瞬間、俺はダンジョンの壁に叩きつけられていた。口から血がどばどば流れていく。今ので骨が逝ったな。だが、どんどん調子が上がっていく気がする。

 

「あ゛ー、いてぇな。痛え。けど、良い。なかなかだ」

 

「アエルテス様!」

 

落下地点にリリが駆けつけてくる。ポーションを手渡してきたので、それを飲み込んで傷を癒やし、再度燃えながら跳ぶ。

炎は未だ燃えている。むしろ、傷が増えるたびに燃え盛る。

 

「笑ってる…」

 

リリのその声を置き去りにして、黒いゴライアスに突撃する。ゴライアスの目標はすでに他の冒険者に移ったのか、横がガラ空きだ。

 

「その心臓(ませき)────貰い受ける!」

 

ゴライアスの魔石めがけ、フレイモスを突き刺す。あとは変形すれば、貫いて殺せるはずだ!

 

「【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!」

 

よし、貫いた………いや、違う!こいつ…貫かれると同時に再生している…!?また同じ攻撃を貰ってはまずい。さっさと退かなければ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

巨大な炎雷が、俺とゴライアスのもとに到来する。だが、それはゴライアスには当たらず─────俺に、突き刺さる。

 

「しまっ……忘れてた、【完全燃焼(オルド・イリウス)】が…!」

 

炎に包まれる前にフレイモスで吸収し、そのまま放射……できない!?ベル、あいつどれだけの力を込めて…!

 

「ああーっ!?」

 

ベルの声と共に炎に飲み込まれ、久方ぶりに炎でまともなダメージを受ける。燃やされる気持ちってこんなんだったなそういえば。

 

「けほっ、けほ…!だから共闘したくなかったんだ…」

 

『グルル…!』

 

「雑魚どもか……良いだろう」

 

バグベアーを頭から裂き、デッドリーホーネットを炎で焼き尽くす。せっかく全身が燃えているんだ、ちょうど良い。

 

『キュイ!?』

 

「虫ィ掴むのは嫌なんだけどな!燃えちまえよ!」

 

羽を引きちぎり、炎をばら撒く。【リュクシオン】には引火作用がある。そして毛はよく燃えるものだ。

 

『ギャアアアアアアアッ!!!!!』

 

大勢の魔物の悲鳴を聞いて俺はほくそ笑む。炎に塗れて死ぬ魔物どもを見るのは気分がいい…が、そんなことをしている場合ではない。

遠くから見るに、砲撃を受けているゴライアスは傷ついているようだが……。

 

『──────』

 

「再生するのかよ……やべえなマジで」

 

冷や汗が蒸発し、空を見上げる。アスフィさんが飛びながら爆薬を撒いている。だが…よく見れば、黄金の炎は、未だゴライアスの傷口を僅かに焼いていた。

相手が無限に再生する敵ならば…永遠に焼き続ければ、敵は死ぬのではないか?

 

「試してみるか…」

 

再び跳躍し、狙いを定める。狙うは顎だ。咆哮(ハウル)さえなければ、戦局は楽になるだろう。

 

『ゴアアアアッ!!!!!!!!』

 

拳打ちがベルを捉える。だが、その前に桜花が庇ったようで、二人纏めて数十M(メドル)ほど吹き飛ばされている。

 

「リオン!弾丸(エリュオ)が来ます!」

 

警告どうも。その通り、俺はゴライアスに向かって跳び───放たれたライフルの弾のようにゴライアスに激突する。

深く刺し込まれたフレイモスから、黄金の炎刃をその顎に突き立てる。

 

「暁が昇るッ!」

 

そのまま顎を吹き飛ばし、その隙に【リュクシオン】で延焼させる。これで再生できないはずだ。削ぎ落とせる範囲ならば、この戦法は通じる。

ならば、俺がすることは一つ。

 

「膾斬りだ!」

 

斬り込みを入れ、延焼させる。少しずつ、少しずつゴライアスを削る。ここからは俺の独壇場だ。

 

「ふゥうううッ!……はぁっ、燃え尽きろ!」

 

回転しながら斬り下ろし、まさに立体機動のような回転斬りを喰らわせ、火を付ける。それと同時に、鐘の音が聞こえてくる。

なぜだか分からないが、俺はそれがベルのものであると分かった。理由なんてない、ただ漠然と、ベルだと思った。

 

「火月ィイイイ!!!!」

 

「【ルミノス・ウインド】!」

 

「【フツノミタマ】!」

 

次々に魔法が炸裂していく。全ては、英雄(ベル)の道を切り拓くためのように。それなら、俺もたまには花を持たせてやろうじゃないか。

 

「全部持ってけ!【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!!!」

 

ベルの放った極光の一撃に、炎を乗せる。

黄金の光は、そのままゴライアスを包み────跡には、魔石を露出したその姿がある。

 

「行け、ベル…!走れ!」

 

白い兎が、走って跳ぶ。彼は、炎に焼かれながらも、ゆっくりと再生を始めるゴライアスの魔石にナイフを突き立てると、純白の塵と共に、地面に降り立った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ダンジョン18階層、とある樹上にて。

傍観者(ヘルメス)は手を広げ、高らかに叫ぶ。

 

「ヘルメスの名において確かに見届けたぞ!ゼウス、貴方の孫は次代を担うに足る英雄であると!」

 

興奮冷めやらぬまま、ヘルメスはその視線をベルに定める。

 

「にしても…【黄金の炎(アエルテス)】、君がオレに言った言葉は的を射ていたな。けれど、オレは信じているよ。」

 

天を仰ぎ、ヘルメスは呟く。そこには、ある種の確信があった。

 

「君の言う『焦土の夢』は、他ならぬ君の娘によって阻止されるだろうことをね」

 

そのころ、地上では。

ベルと共に戻ったアエルテスは、【ロキ・ファミリア】の面々に正式に迎え入れられていた。ベートとの軋轢も無くなり、拠点(ホーム)にいない理由が無くなったからだ。

 

「はい、ここがアエルテスの部屋ね〜!ウチは大所帯だから、外で生活してる団員も結構いるんだけどね、大体はプライベートが欲しい人だったりがそうしてるよ」

 

「ずっと貴方とは話してみたかったのよね、すごい根性があるってロキがずっと自慢するものだから気になってて」

 

ティオナ、ティオネの二人のコミュ強による拠点(ホーム)案内は、元々大して身体の接触を伴う、女子らしいコミュニケーションを得意としていないアエルテスにとっては困惑の連続だった。

 

「なあ、胸が当たってんだけど?」

 

「? 別に気にすることでもないでしょ」

 

風呂場の紹介をされたときも、ついでに一緒に入ろうと言い出したティオナに頭を抱えて叫ぶ猫のような反応をした。

しかし、そこに助け舟を出したのは主神、ロキであった。

 

「アカンよ、アエたんはウチとアイズたんと一緒に入るんや。二人のおっぱいはウチのモンやで」

 

「誰のもんでもねぇよ?」

 

真顔でそんな事を言うロキに連れられ、アエルテスはロキの部屋まで連行される。そこには、フィンとリヴェリアもいた。

フィンは、【ファミリア】の団長として、何やらきな臭いことに巻き込まれたであろうアエルテスのステイタスを確認する義務があった。

当然、神聖文字(ヒエログリフ)を読めるリヴェリアもだ。

 

「あの、ロキさん?フィン団長とリヴェリアさんが見ている中で脱ぐのはちょっと恥ずかしいんですけど」

 

「更新しとる間はあっち向いてて貰うから、大人しく服脱ぎや〜」

 

瞳を揺らしながらフィンを見るアエルテスであったが、「どうぞごゆっくり」と返されてしまい、恥を忍んで来ている衣服を脱ぎ始めた。

 

「ほい、じゃあ更新始めるで〜」

 

神血(イコル)を垂らし、その小さく柔らかな背中にステイタスを刻み込んでいく。そして、未知に目を輝かせ、微笑む。

 

「随分とおもろい事になったな。ほい、更新完了やで」

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.2

《基礎アビリティ》

力:E410 耐久:C633 器用:E457 敏捷:F362 魔力:C607

《発展アビリティ》

不屈:I

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

・解放式【エン・リヴィオ】

【】【】

《スキル》

逆境奮起(アグニ・コロナ)

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

・刻印顕現中、成長補正

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

──────────────────

 

「やはり、何者かの影響を強く受けたようだね」

 

フィンが切り出し、リヴェリアが頷く。明確なスキル及び魔法の変化。ロキはこれを「どこぞの阿呆が目をつけた」と判断したのか、不機嫌になっている。

 

「この刻印というのは?アエルテス、覚えはあるかい?」

 

「そういえば…首元が痛かったです。逆境に立たされてから、ずっと。でも調子はすごい良かったんですよね」

 

「少し見せてくれないか?うーん…逆境か。よし」

 

フィンが槍を抜き、無防備なアエルテスに突きつける。リヴェリアも杖を抜き、臨戦態勢を取る。すると、アエルテスの背中は熱を帯びていき────

 

「痛っ…!」

 

その首元には、()()()()()()()の刻印がくっきりと現れていた。それを見て、フィンは矛を収め、リヴェリアも杖をしまう。

ロキは、頬杖をついて頷いたあと、「決まりやな」と呟く。

 

「アエたん、自分に何か分からんことが起きて怖がる気持ちはよう分かる。せやけど、アエたんは一人やない。いつでも【ファミリア】を頼ってええんよ。ウチらは家族なんやから」

 

塔を呑み込む炎、その紋様を見たアエルテスは。己の知識にある壊滅を幻視し、震える手でステイタスの書かれた紙を握りしめる。

 

「……俺の運命が、たとえ破滅へ向かうものだったとして…それでも、頼ってもいいのか…?」

 

不安げに見るアエルテスに、ロキは微笑む。

 

「ええんやで、子供は甘えてこそやしな!」

 

さめざめと泣きながら「ベッドメイクしてくる…」と言い退室したアエルテス。残された三名は、深刻な表情を浮かべる。

 

「あの紋様について、アエたんは何か知っとる。そしてそれが良くないモンやってのもな。魔導書(グリモア)に教えられた…ってのだと辻褄が合わんやろ」

 

手元には、リヴェリアが模写した、塔を呑み込む炎の紋章。

 

「アエルテス…彼女が(バベル)を呑み込む炎の厄災だというのは、少し違和感があるな。彼女の行動原理は、極めて英雄的に過ぎる。」

 

「それは僕も思う所だ。彼女に非英雄的行動をさせる選択を取ろうとすると、どうにも親指が疼く。そうなると、アエルテス本人の素養は厄災で間違いはないのだろう。だが──────」

 

「アエたん本人が、それを自分の行動で抑えとる。そういうことやな?」

 

これまでにフィンは、何度かアエルテスを使って非英雄的行動───たとえば、最たる例は18階層に残さない選択肢を選ぼうとしたとき───をさせようとしていた。

フィンの勘は、それが危険であると警告したのだ。

 

「だが、モンスター以外に生まれつきの厄災などいるだろうか?彼女の両親についてはまだ調べが付いていないんだろう?」

 

「いや。それが、『暗黒期』に闇派閥(イヴィルス)に加担していた元【ゼウス・ファミリア】のメンバーの一人に、『黄金の炎(アエルテス)』という魔法使いがいたところまで調べはついている。」

 

「その者はどうなったのだ?」

 

「死んだ。というよりは、行方をくらませた…の方が正しいね。彼女は、都市(オラリオ)の一角を焼き払えるほどの異常火力者だったわけだが…とある英雄との一騎討ちの後に、その姿を消したんだ。」

 

「その英雄っちゅうのは?」

 

「英雄ダイナー。燃え盛る剣を使う、真紅の瞳の剣士だ。」

 

ダイナーと聞き、ロキは懐かしそうな顔をする。

 

「んで、その二人の娘がアエたんやって話かいな?言うとくけど、アエたんは才能の塊やないで。そないな英雄の血を引いとったら、今頃Lv.3に手が届いてもおかしない筈や。」

 

ロキは、今回の『黒いゴライアス』討伐でアエルテスがランクアップを果たすと確信していた。だが、神の恩恵(ファルナ)が出した答えは「否」であった。

まるで、「誰かと協力して成し遂げた偉業など、偉業ではない」とでも言いたげな風であった。

 

「少なくとも…おんなじ条件でよーいドンしたなら、アイズたんと出会うたばっかりのドチビんとこの少年のほうが成長は早いやろ。」

 

あれだけの逆境を何度も乗り越えてコレやしな、と付け加えるロキ。事実、アエルテスと他冒険者の間には隔絶した才能の差がある。

経験の差でゴリ押しているだけで、他と同じように歩んでいれば、未だにLv.1であるほどには。

 

「彼女の才能もそうだ。アエルテスが闇派閥(イヴィルス)の残党であるとは信じ難い。それに…僕は、彼女の善性に賭けてみたいと思う。」

 

その場にいた者たちは頷き、合意する。

時刻は朝方。『黄昏の館』に、暁が昇る頃合いであった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

人間とは、なぜ争いをやめないのだろう。

 

「テメッコラー!ザッコンナコラー!スッゾオラー!」

 

「ドグサレッガー!ナンオラー!チェッコラー!」

 

目の前で繰り広げられているのは、ヴェルフと見知らぬ小人族(パルゥム)含めた数人との喧嘩だ。ヤクザスラングが飛び交い、ヴェルフの行きつけだという『火蜂亭』が荒れに荒れる。

 

「なあリリ、ベルの友達付き合いは考えた方がいいぞ?」

 

「もうっ!男性の方はなぜこうも喧嘩っ早いのでしょうか!」

 

避けるベル、ぷんすこ怒るリリ。荒ぶるヴェルフ。

元はと言えば、太陽のマークがついたチンピラどもがヘスティアを侮辱したのが原因だが、一番最初に手を出したのはヴェルフであった。

 

「ま、少なくとも俺は関係な──────」

 

「スカッツラシテッコラー!」

 

俺の顔に、酒がぶち撒けられる。

舐めやがって。

 

「野郎ぶっ殺してやらァ……」

 

ゆらりと立ち上がり、拳を握る…が、ぐいっと襟を引っ張られて椅子に座らされる。誰かと思えば、ベートがそこにいた。

 

「ロキん顔に泥塗るンじゃねぇ。分かったら今日は俺に付き合え」

 

「むぅ……」

 

俺も酒を頼み、一杯呷る。タオルで掛かった酒を拭きながら、ベートの方を向く。こいつ、普段は口が悪いが割と道理を弁えた人なのでは?

 

「何見てやがるアエルテス。俺の顔に変なモンでもついてッかよ」

 

「いや…綺麗な顔してんなぁって…」

 

「テメェもどっこいどっこいだろ…あん?」

 

後ろで大きな音がした。それと同時に、ベルの悲鳴が聞こえる。振り向いて見れば、陰湿そうなイケメンがベルを蹴り飛ばしていた。

そして、ベルは何やら罵声を浴びせられている。

 

「アエルテス。」

 

「殺したらダメなのね、了解」

 

「違えよアホ。ダサくねェやり方を見せてやる」

 

そう言うと、ベートは威圧感をぶわ、と強める。その場の空気が止まる。

 

「ダセェ真似してんじゃねェ、酒が不味くなんだろうが」

 

おお。カッコいい。陰湿なイケメンもビビりまくっている。

 

「フン……覚えておくことだな。行くぞ!お前ら!」

 

彼らが行った後、ベル達も怪我を治すために退店していく。残ったのは、俺とベートだけだ。

ベートは酒を飲み、静かにツマミを口にする。その様子をじっと眺めていると、居心地が悪くなったのか、睨みつけてきた。

 

「見てねェでなんか話せよ、多少うるせえ方が酒も進むってモンだろ」

 

「あ、じゃあさっきのダサすぎるイケメン君って誰なの?」

 

「見る目はあるみてェだな。さっきの雑魚はヒュアキントス、Lv.3の癖に振る舞いが雑魚そのものだ」

 

「俺より格上じゃん。でも俺のことは雑魚呼ばわりしないよね、なんで?」

 

「はっ!力だけつけたガキと、使い方を弁えてる戦士じゃ程度が違えんだよ」

 

「めっちゃ認めてくれてんじゃ〜ん、好き…」

 

「お前って好感度0か100しかねえの?」

 

その後も、ベートと夜通し他愛もない話を続けた。

朝帰りすると、ロキに案の定絡まれたが、まぁこれも一つの思い出だろう。




【魔法紹介】
☆リュクシオン
付与魔法(エンチャント)
・自身を含めた周囲に延焼する。
・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』
・解放式【エン・リヴィオ】

神染魔導書により、進化した魔法。自分以外に延焼しているものに対して【エン・リヴィオ】を発動できる。
発動時、それが持つ精神力や魔力を食い荒らし、爆発する。
これまでは工夫しなければまるで使えなかった産廃魔法だったが、Lv.2にしてようやく使える魔法となった。ただし、【エン・リヴィオ】で爆発させたぶんの精神力を消費するため、燃費は相変わらず最悪。
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