自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている 作:札幌53位
【ヘスティア・ファミリア】の面々にも言わずに俺は一人、透明になりながら戦場を俯瞰する。
平野部、そして砦があるだけの単純なものだ。
ルールは互いの大将を討ち取った方の勝ちというシンプルなもの。
視線の先では、すでに陣地の設営が始まっている。俺がいるのは、塔についている尖塔の上だ。
「飯盒の設営は?」
「はっ、相手は4人だぞ?助っ人がいたとしても6人だ。すぐにでも終わるだろ」
「ま、それもそうか。」
設営係の連中は、攻城戦だというのに籠城の構えもなく、ただ武器や防具、矢やアイテム類を補充するのみだ。
これじゃあダメだな、もし敵が毎日のように嫌がらせのように攻撃してきた時の備えが出来ていない。
「数は…20。この配置からして手練れの防衛部隊か」
城門から砦に入ってくる物々しい連中。なるほど、短期決戦を仕掛けるつもりだな?だが、まぁ戦術的に見れば間違ってはいないだろう。
相手はLv.2。それに比べ、自分たちの大将はLv.3だ。負けるはずがないとタカを括っているのだろう。
無論、俺とて彼らの立場ならそう考える。
20
ちなみに、アイズ先輩との訓練のうちの一つに、高所からの飛び降り訓練があった。そのせいで、高所から降りる時に躊躇いがなくなった。
「ベル、俺だ。ヒュアキントスの位置を把握した。」
「本当に!?ありがとう、アエルテス…」
見たままを伝えていると、陣営にいたヴェルフと命も駆け寄ってくる。彼らは
あとは…リリもいるはずだが、どうにも見当たらない。
「ベル殿、ヴェルフ殿、アエルテス殿。もし、戦局が芳しくなければ…囮役はやはり必要でしょう。その時は、自分の魔法で。」
「出来るのか?」
「やってみせます。囮役は…自分がやります」
覚悟を決めたような命の表情。ベルもヴェルフも、あまり乗り気ではないようだ。理屈の上では理解できるが、感情の上ではやりたくなさそうな顔だ。
命も、自分がそう長くは保たないことを理解しているようだ。
「囮役はもちろん俺が行く。お前たちはこれからの【ヘスティア・ファミリア】を支えていく火の意志だ。」
「駄目です!貴女は鬼札なんですよ!?武人たるもの、仲間のために身を張るのは本望!囮役は、自分が!」
このままだとイタチごっこだな。いや、トビラマごっこかもしれん。
どうしても、というのでメインの陽動は命が、もしダメそうなら俺が、というふうに決まった。実のところ。俺の仕事は開幕に終わってしまうので暇だというのが本音だ。
「命、この戦いが終わったら…俺に忍術を教えてくれないか?俺あれやりたい、神威雷切」
「カムイライキリ?存じませんが、タケミカヅチ様に伺ってみますね。」
よし、本職のニンジャに忍術を教わる約束を取り付けられたぞ。チャクラの練り方から教えてもらおう。
「では、俺は行く。勝利を!」
透明化の兜───ハデスヘッドというらしい───を被り、少し後には戦場になるであろう荒野を行く。当然、足跡を残さないように跳躍しながら進んでいる。
何やら慌てているルアンとかいう
耳をそばだて、中に人がいないことを確認してから侵入する。
「さて……あとは待機だな。」
「むぐーっ!?」
「お前は……ルアン?」
地下倉庫には、縛られたルアンがいた。ということは、さっきのルアンは偽者のルアンで、このルアンが本物のルアンだということか。
よく見れば、頭にはたんこぶが出来ており、尚且つ目には痣が出来ている。リリめ、相当痛めつけたな?
「少し…話をしようか、ルアン。」
「むぐぐーっ!?」
話すことなんかない、とでも言いたそうな目つきで睨みつけてくる
もちろん、漫画からの引用ばかりだが。どうせこいつらに言っても分からないだろう。
ハデスヘッドを脱ぎ、ルアンに顔を見せる。反抗的だったその顔は、やや引き攣ったものになる。
「俺の故郷には、死者蘇生の術があってな……人間を生贄にし、死者を蘇生し、操るという禁術なんだが。どう使うと思う?」
「むぐぐ……」
「伝説の英雄を現代に甦らせるとでも言いたいのか?」
ルアンは首肯する。なるほど、確かに普通はそう考えるだろう。だが、俺の尊敬する人はそんな使い方はしない。
「違うな。死者蘇生の術、それは本来、適当な死者を蘇らせ、情報を吐けるだけ吐き出させてから人間爆弾として敵の本拠地に送り込むというやり方だ」
「むぐっ!?」
驚き、そして顔を青ざめさせるルアン。
「飲み込めてきたようだな……」
腕組みをして適当な木箱に腰掛ける。普段持ち歩かない鎖を手に取り、ジャララ…と鳴らしながら言葉を重ねる。
「お前は犠牲になったのだ…古くから続く犠牲…その犠牲にな」
「もごご…?」
「そもそもはオラリオが生まれた時からある大きな犠牲だ。お前は犠牲になったのだ。その犠牲に…お前はなった。犠牲の犠牲にな」
「
「犠牲だ」
「
「お前は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな」
そうして、ルアンに向かって手を伸ばす。表情が絶望に変わり、死に物狂いでもがいている。当然、全部漫画やミームからの引用だ。適当な事で他人を揶揄っている時が一番面白い。自分でもだいぶアレな趣味だとは思う。
などと、適当なことを話していると、外が騒がしくなってくる。どうやら
「始まったか…では、開幕の銅鑼を鳴らすとしよう」
フレイモスを引き抜き、ハデスヘッドをかぶって、ここ数日、ダンジョン内外問わずにずっと溜めていた炎を解放する。
「神々よ、御照覧あれ。もはや戦場に呵責なし。我が神よ、許したまえ!空前絶後!」
烈日が昇り、火蓋が切って落とされた。
◆◆◆◆◆
『
司会役のイブリ・アチャーが銅鑼を鳴らすと同時に、巨大な黄金の炎刃が砦を貫く。観戦していた神々は熱狂の声を上げる。
『な、なんだ今のはァァァ!!??黄金の炎が昇ったぞぉおおお!!!』
観戦していたロキはニヤリと笑う。となりには、歯噛みするアポロン。計画通り、とヘスティアは真剣な目で見る。
【ロキ・ファミリア】の
「今のって!」
「アエルテスの剣だろォな。だが、奴の本命はそこじゃねえ。見てろ、おもしれェもんが見れるぞ」
ベートが言う通り、一瞬で瓦礫の山となった砦の中から、燃え盛る人影が出てくる。アエルテスだ。その表情は笑顔で彩られている。
『おおっと!?これは…【
それと同時に、【
外に出てくるのは────黄金の炎から逃れてきた敗残兵だ。
「貴様…エルフか!我々の同胞を焼き払った魔剣を使うとは、恥を知れ!」
「あいにく、友人を助けるのに恥も外聞も必要ない。それに……アエルテスから逃れてきた敗残者が、どうして恥を語れようか」
「舐めるなッ!」
だが、城壁は次々と破壊される。その間から、ヤマト・命が城内に侵入する。
城内はその半分以上が破壊されており、地上では燃え盛る剣士がアポロンの手勢を蹂躙して回っている。
(やはり…規格外ですね。ああも狂いながら戦えるとは)
その姿は、まさに狂人。
「ならば、自分も────神武闘征!【フツノミタマ】!」
重力の結界が張られ、その場にいた数名の手練れを巻き添えにして拘束する。
「自分と、少し付き合って貰います!」
残った尖塔には、避難してきたヒュアキントスが逃げていた、が────
「次から、次へと!お前たちは、どいつもこいつも下から建物を壊すのが好きなのか!?」
叫ぶヒュアキントス。青筋が浮かんだ顔には、困惑と怒りが混じっていた。いい加減にしろ、と全身で表現している。
「……勝つって、決めたんです。」
「知ったことかぁ!なんでこう、正々堂々と城を攻略しないんだ!?ふざけているのか【リトル・ルーキー】!……いや、お前だけじゃない…一番ふざけてるのは【
全ギレである。ヒュアキントスはアポロンに見初められるほどに美形である。そんな美人が怒っている様は─────ベルの背筋を震撼させた。
大体の原因は忍者に影響されすぎたアエルテスのせいなのだが、本人はそれを知らない。
「殺してやる…殺してやるぞベル・クラネル。元はと言えば貴様がアポロン様の目を奪ったからだ!貴様さえいなければこんなふざけた事にはならなかったはずだぁ!」
「………なら、勝負だ!」
「良かろう…もはやアポロン様の意向など知ったことか!殺す!」
フランベルジュを構え、ヒュアキントスが吶喊する。その剣先は怒りで僅かに震えている。速く、そして大雑把な剣先。
ベルにとっては、容易く避けられる斬撃だ。
「速い…以前見た時よりも遥かに…!何なんだ……!お前は誰だ、ベル・クラネルッ!」
「はあああっ!」
「っ!?バカな!私のフランベルジュを……!」
動揺するヒュアキントス。追撃を加えようとするベルに、カサンドラが抱きついて止めようとする。それを好機と捉えたのか、ヒュアキントスは魔法を唱え始める。
「だめっ!うううう……っ!」
「か、カサンドラさん!?」
「『我が名は愛、光の寵児、我が太陽にこの身を捧ぐ!我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ!放つ火輪の一投!来れ、西方の風!』…【アロ・ゼフュロス】!」
光輪がベルを襲う。回転し、ベルを切り裂かんと飛来する。回避するベルだが、光輪はベルを追尾し、さらに飛来する。
「やあああっ!ベル様、避けてくださいっ!」
リリがカサンドラを引き剥がす。
「ははは!どうだ避けられんぞ!」
「自動追尾!?くっ…」
ベルを切り裂き、光輪は─────爆発する。
しかし。この場には、炎を吸引する者がいる。
その者は、爆炎を吸い寄せながら、笑顔で飛び込んでくる。
「待っていたぞォ!この
炎を纏った剣士が、赤い瞳を歓喜に見開く。
「ふざけ……!」
「余所見をしていていいのか?ヒュアキントス」
鐘の音が鳴る。ベル・クラネルの握りしめた拳が、ヒュアキントスの顔面に目掛けて振り抜かれる。
「しまっ」
「はぁああああああっ!!!!!!!」
ばきり、と嫌な音と共に、ヒュアキントスはその端正な顔面をひしゃげさせられ、吹き飛び、倒れる。
それと同時に銅鑼が鳴り、オラリオが歓声に包まれる。
◆◆◆◆◆
まあ、当然と言えば当然か。戦争は質だよアニキ。
「それで、えーと…なんでアエルテスちゃんはここに?」
「なんでって、そりゃ…お前の言う通りに
「ほ、ほら!報酬はベル君の無事ってことで……ダメ?」
「ダメに決まってるだろ」
今は、ヘルメスに報酬をせびる為にわざわざ呼び出し、カフェの奥の席で問い詰めている最中だ。なんでも、リューさんには何かしらの情報を渡したのだとか。
なら俺になんかあってもいいだろ。
「とは言っても、君が欲しいものが分からないからねえ。試練も望まない、かと言って即物的なモノはオレのポリシーに反するからなあ」
「そうだなぁ。それなら、誰も知らないような噂をひとつ教えてくれ。たとえば、色違いモンスターの出し方とか」
「詐欺罪で訴えられそうなことを聞くね…良いだろう。それなら──────」
ヘルメスが語ったのは、ダンジョンに蔓延る「妖怪」の話。誰もいないはずなのに人の声が聞こえただの、下層で歌が聞こえただのと言った、荒唐無稽な話だった。
「……よしんばそれが本当だったとして、それが色違いモンスターとどう繋がるんだよ」
「それがね、最近きな臭い動きがあるんだよ。どれも目撃階層は中層だから行ってみると良い。」
なるほど、木竜を倒したいと言っていた俺にはちょうど良い噂話というわけだ。こいつ、話が上手いな。良いだろう、ヘルメスの話に乗ってみるとしよう。
だが、その前に。俺にはしなければならないことがある。
それは──────。
「よく来たな、アエルテス!忍びの術を学びたいと
武神タケミカヅチとの忍術トレーニングだ。
「いやそれはありがたいんですが、ですがよ?なんで【ヘスティア・ファミリア】の敷地内でやるんですか?」
「うちの拠点では少々手狭でな。ヘスティアに頼み、借り受けた。」
「がんばれー、アエルテスー!」
ベルの声援を聞きながら、やたらと脚と横乳が強調された着物…いや、KIMONO姿でタケミカヅチと向き合う。
こんなバカみたいな格好で忍術を!?出来らぁ!
「まず、基本のレッスンだ。アエルテス、お前は忍者を何と心得る?」
「忍び耐える者です。」
「ほう?確かにそうかもしれんが、忍者とは基本的に隠密行動を主とし、確実に任務を遂行する者たちのことを言う。」
顔が赤くなるのを感じる。いや確かにそうだけどさ、こう、もっと浪漫というかなんというか。
「そして…何か勘違いをしているのかも知れないが、忍者とは冒険者で言うところのサポーター職だ。」
「え」
「驚いたぞ。
術は?火遁は?豪火球は?俺の神威雷切は?
なんだよ、異世界なのにそういうところだけリアルなのかよ。いや確かに、普通に考えれば手裏剣を投げるより普通に斬りかかった方が強いに決まってる。
忍術なんて無くとも、魔法があればそれっぽい事はできる。
「まあ、落胆する気持ちは分からんでもない。
タケミカヅチ、違うんだ。俺が勝手に期待してガッカリしてるだけなんだ。その生暖かい目をやめろ。心が痛い。
「そういうわけだ。忍術、それでも学ぶか?」
「やりますよ、せっかく時間取ってくれたんですから…」
「その意気や良し。まずはお前の実力を測っておきたい。さあ、来い!」
タケミカヅチが柔術の構えをとる。それに応じ、俺は素流の構えをとる。幼い頃から剣を握っていたからとは言え、別に拳を握れないわけじゃないからな。
「怪我しても知りませんよ」
「まあ見せてみ……おっと!」
一応警告をしてから、等速直線運動でスライドしながら拳を当てる。無論、威力は殺しているが。万が一にも訓練で神を殺したら後が怖いからな。
「手加減は不要。全力で打ってこい!」
「柔術使いに全力を出すとそれ以上の威力で帰ってくるだろ…お断りッ!だ!」
飛び回し蹴りをお見舞いする。それを掴もうとするタケミカヅチ。掛かったな。
蹴りの途中でスピンをかけ、その首に足を掛けて寝技を仕掛けてやる!
「投げ…!なかなかにやる!なら、俺も剛を使おうか!」
背中に衝撃。威力としては弱いが、大きく吹き飛ばされる。内功だか功夫だかだろうか。
「アアアアエルテス見え見え見えてて!!!」
「は?ああ、服が乱れちまったか。見苦しいものを見せたな」
ベルが何やら慌てていたので溢れたのを隠し、再び向き合う。なるほど、武神に名を違えない技だ。手加減をするのもやめだ。
ここからは本気を出させてもらう。
「雑魚とばかり戦わされていてな、楽しくなってきた。」
「それはなによりだ。」
静かに拳を握り、寸頸で地面に亀裂を作り、小石を飛ばす。小技だが、さあ…どう出る、武神。
「小手先だな。だが実践向けだ。いいぞ、もっと来い!」
「……マジかよ」
100はあった小石を全て摘んだタケミカヅチは、腕を組んで頷く。水の流れのような動きで、自分に到達する前に全て回収してのけるとは。
なら、次はもっと大きな石を──────
「……あ。しまった…アエルテス、ここはヘスティアの屋敷だ。あまり庭を荒らすとまずいぞ」
「木遁・演劇会の術」
怒りのツインテールが揺れる音がした。大丈夫、俺は木だ。あとでヘスティアには謝れば良いだろう。俺は木だ。
「くぉらぁぁぁぁ!!!!何をしてるんだキミたちはぁぁぁぁ!!!!!!!」
「「すみませんでした」」
俺たちは土下座をした。
「美しい…!本気のDOGEZAだ…!ボクがこの域に達したのは20代後半…!って、謝ったってダメだ!帰るなら、庭を戻してから戻るんだ!」
結局、忍術修行はそのほとんどを土砂工事に費やしたのだった。