自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

17 / 32
UA、評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます!


凡人の証明

 

忍者修行をある程度終え、サポーター知識がついてきた頃。

俺はいよいよ19階層に足を踏み入れた。Lv.3になったベルに引き離されないよう、俺も自分のためにダンジョンに潜ることにしたのだ。

 

ダンジョン19階層、通称『大樹の迷宮』。

ギルド職員のローズさんには、ここから先の単独(ソロ)での攻略は殆ど不可、さらには、死んだことすら気づかれない場合が多いのだとか。

 

「なるほど、これは壮観だ……」

 

目下には、毒キノコ型魔物ダークファンガスの群れ。奴らへの対処法は魔剣での砲撃や、魔法での焼却らしいが…こんな奴ら相手にいちいち魔法を使っていてはな。

 

「暁に照らしてやろう!」

 

松脂を使い、フレイモスに火を付けて毒胞子まみれのダークファンガスたちに着火する。超高密度の粉塵だ、何もかも燃え尽きるだろう。

 

『ギノーーーーッ!!!!!!!』

 

「おお、よく燃えてるな」

 

凄まじい爆音と共に、ダークファンガスが一掃される。上空に飛んでいた蜻蛉型魔物も一緒に焼き払われている。

それと同時に、俺に向かって爆炎が飛んでくる。【完全燃焼(オルド・イリウス)】の工夫した使い道として、起こした爆発の炎をある程度誘引できるというものがある。

これでフレイモスに好きなだけチャージできるのだから、省エネだ。

 

「しかし、これだけ破壊しても元に戻るのだから、ダンジョンも凄まじいな」

 

目の前に広がるのは、焼け焦げ、吹き飛び、粉塵から木々に引火し、タチの悪い山火事のような風態を見せる『大樹の迷宮』だ。

これは暫く消えないだろうな。19階層に新しく人が来たら迷惑になる、消火を試みるか。

 

「よっ…と。来い、炎ども」

 

下に降り、フレイモスを構える。炎が一斉に俺に近づいてくるので、順番に吸収しながら約1時間ほど炎と格闘した。

案外これも運動になる。日々鍛錬だな。

 

「さて…もうここには魔物は出てこないな。次に行くとしよう」

 

地面に残った魔石を回収し、フレイモスを鞘に収める。今日持ち込んできている背嚢(バックパック)は大容量のもので、ある程度の食料と水以外は全てドロップアイテムで埋める予定だ。

 

数十ほどの魔石を回収できた。これ全部でいくらになるんだ…?

 

「で、だ……さっきから俺に話しかけたそうにしてるアンタは誰だ?」

 

回収をしているなか、途中から好奇の視線を感じたので聞いてみることにした。もしかしたら、お礼を言いたいのかも知れないからな。

 

「んだ、バレてたのか……よう【暁炎(エリュオ)】。俺はディックス・ペルディクス。二つ名は…まぁ良いか。この辺りのバケモノどもを殺したのはお前か?」

 

現れたのは、煙水晶(スモーキークォーツ)のゴーグルを掛けた、朱色の槍を持つ男。軽装であることから、近くに仲間でもいるのだろうか。

 

「ああ。狙ってたのか?だったらすまんな、俺が全滅させちまったよ」

 

「いや…それは良い。物凄ぇ爆発が見えたもんでな、ちょっと見に来ただけだ……だが、俺は運が良い。【暁炎(エリュオ)】、お前には興味があったからな」

 

「あと数時間はここに魔物は湧かないだろう、いいぜ、お話なら付き合うよ。折角だから、お仲間さんも一緒にどうかな?」

 

「良いさ、俺の仲間が露払いしてくれる」

 

木の影から刺青ハゲのおじさんが手を振ってくれる。異世界のハゲはなんだかんだ言って強いからな、頼りにさせてもらおう。

 

「さて、なんの話をしようか?ええと…ディックスさん」

 

「ディックスだけで良い。で、話なんだが…俺の主神、イケロス様からお前の話を聞いて、戦争遊戯(ウォーゲーム)を見たぜ」

 

なんでも、笑顔で敵を蹂躙する様を見ていたようで、ファンになってくれたようだ。それで俺の戦いをもっと見たい、という話をしてくれた。

それなら、応えてあげるのも吝かではない。市民の期待に応えてこそだからな。

 

「ディックスさえ良ければ、俺と一緒にダンジョン探索しないか?まだLv.2だが、そこそこの戦力にはなるはずだぞ」

 

「へぇ…良いのか?なら、着いてきてもらおうか。俺たちは今日、調査に来ててな……」

 

ディックスたちはどうやら、「喋るモンスター」や「ダンジョンに響く謎の歌」の調査をしているらしい。

それについては、俺も気になっていたところだ。リドのことも含めて、調べられるなら御の字だ。

 

「ところで、【暁炎(エリュオ)】。もし、怪物どもが人間とおんなじ言葉を喋るとしたら…お前はどうする?」

 

ダンジョン20階層で探索している時、ディックスがだしぬけにそんなことを聞いてきた。異端児(ゼノス)について何か知っているのだろうか?

 

「殺す。人の言葉を喋ったところで、魔物は魔物だ。俺は勇者だからな、そもそもとして存在を許容できない。それと、俺のことはアエルテスと呼んでくれ。」

 

「勇者ね…だが気に入った。そうだよなぁ?バケモノが人間と同じ言葉を喋るなんてあっちゃならねえ話だ。」

 

ゴーグルの下で何か恍惚とした目になるディックス。なるほど、こいつは魔物に何か特別な恨みを抱えていて、それを倒すことで満たされるタイプの人間なんだろう。

モノは違うが、アイズ先輩も同じような目をする時があるし、【ロキ・ファミリア】内外でもよく見かけることから、割とあるんだろう。

 

「ディックス、ファイアバードだ!俺たちの装備じゃ届かねえ!」

 

「ああ?ちっ、めんどくせぇ…!」

 

見れば、炎を纏ったデカめの鳥が襲いかかってきている。炎なら、俺の出番だな。

 

「っ、おい待てアエルテス!Lv.2のお前じゃ無理だ!」

 

ディックスの警告を無視して、木々を蹴り、跳躍しながら炎をフレイモスに吸わせ、背中に飛び乗る。体感温度は30度。ややあったかいぐらいだ。俺の魔法より火力が低いな。

 

「全て────問題なし。殺すッ!」

 

ファイアバードの首筋にフレイモスを突き立て、そのまま地面に引きずり下ろし、介錯!ゴウランガ!そのままファイアバードは塵となって爆発四散!

 

ふう、と一息ついてディックスたちのもとへ戻る。ハゲのおじさん──グランは感心したように立ち尽くしている。

 

「手慣れてんな、お前…危険に身を置くことでしか生を実感できねえタイプか?」

 

「いや…そんなことはないぞ?でも格下狩りは楽しくないかもな。戦ってる感じがしない。」

 

「最高だなぁ?おい」

 

実際、ダンジョンで大して強くもない相手を収入のために屠殺しているしている時は、前世でのバイトがチラついて嫌な気分になる。

なんで俺は異世界に来てまで労働をせにゃならんのか、と。

 

「ちなみに俺は格下を痛めつけてる時が一番面白え。奴ら、ギャーギャー泣き喚きやがるからな」

 

「まあ、敵がなんか喚いてるのが面白いのはわかる」

 

先程見せた戦いが功を奏したのか、ディックスが割と前線で戦わせてくれるようになったので、現在は俺が突っ込み、ディックスがカバーし、グランが強力な一撃を叩き込む…という理想的なパーティ戦ができている。

 

「やべえ!ブラッティー・ハイヴだ!デッドリーホーネットの群れが来るぞ!」

 

「アエルテス!炎で焼き払っちまえ!」

 

「任された!全員、処刑だ!」

 

おそらく、俺がこの世界に来てから初めてのマトモな連携。大量に湧く蜂どもを焼き殺しつつ、俺は感動していた。

 

「まずは…巣からぶっ潰す!【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!」

 

フレイモスを変形させ、炎槍で以てブラッティー・ハイヴを焼き尽くす。こいつはデッドリーホーネットの巣なので、さっさと焼き払ってしまうのが理想的だ。

横を見れば、ディックスやグランが楽しそうに蜂を撃破している。

 

「負けてはいられないな!」

 

そのまま松脂を塗り、フレイモスに着火してデッドリーホーネットに斬撃を加える。なかなかに硬いが、所詮はキチンで出来た甲殻だ。

そのまま力任せに叩き斬り、火がついてデッドリーホーネットが燃えていく。

 

「はっ、パープル・モスの鱗粉だ!燃え尽きろ!」

 

上層で採ってきた鱗粉をばら撒き、着火する。そうすると面白いように翅が焼け焦げたデッドリーホーネットたちが墜落していく。

そのまま地面で蠢いているデッドリーホーネットたちを一匹ずつ力を込めて叩き斬っていく。正直、虫が苦手なのでさっさと死んで欲しいのだ。

 

「そっちは終わったみたいだな、にしても随分とむごい殺り方をするもんだ」

 

「だって気持ち悪いし。仕方ないでしょ、呪いみたいなもんよ」

 

「…………確かに、呪いなら仕方ねえな。」

 

妙な納得をされたが、それ以降少しだけ距離が近くなったような気がする。

やはりパーティというのは良い、あっという間に21階層前までついてしまった。あとは階段を下るだけ…なのだが。

 

「…待て。声が聞こえないか?」

 

20階層から出ようという時、小さく声が聞こえてきた。明確に俺たち以外の声。そして、冒険者というにはあまりにも声が幼い。

 

「本当かアエルテス。よし、お前ら!全員で確認だ、3人1チームで捜索にあたれ!アエルテス、お前は俺とグランのチームに来い」

 

「不安ならオレが守るぜ。オレはLv.4だし、ディックスはLv.5だ。仮にどんなバケモンが出てきてもなんとかなるだろ」

 

リドの事を思い出してやや強張っていた表情を見抜かれたのか、グランが肩を叩きながらそう言う。こいつ、顔は悪人だが案外悪いやつじゃないのかもしれない。

 

「……ここだ。」

 

捜索は僅か5分程度で終わった。妙に整った外見のラミアが、ダンジョンにある横道に逃げ込んだのを見かけたディックスによって発見されたからだ。

目の前には、少女のようなラミアが怯えた目線を俺に向けている。

 

「……ラミアってどんな魔物だっけか」

 

「半分は女、半分は蛇のバケモノだったはずだな。ディックス、こいつどうするんだ?」

 

「普段通りに…と行きたいが、今日はゲストがいるんでな。ここで殺しちまうか」

 

槍を構えるディックス。しかし、ラミアは俺から視線を離さない。Lv.5冒険者よりも恐ろしいものがいるかのように。

試しにフレイモスを引き抜いてみると、その表情はさらに深い絶望へと変わっていく。

 

「……あぁ?おいアエルテス、お前何したんだ?」

 

「さぁ…?強いて言うなら、さっき森を焼き払ったぐらいじゃないか?」

 

「それだろ絶対」

 

それにしても、なぜこうも怯えるのだろうか。魔物なのだから、魔物らしく襲ってくれば俺も殺しやすいものを。

まあ、魔物は魔物だ。油断すれば喉元を食いちぎってくるような獣相手に、同情は一切ない。

 

「ア…アア……炎、黄金ノ、炎……」

 

「喋ったな。魔物が……人の言葉を」

 

ということは、こいつは魔法を詠唱出来る可能性があるということ。魔法を詠唱する魔物の恐ろしさは身をもって知っている。

フレイモスを振り抜き、魔石ごと斬り裂こうとしたが、それはラミアの腕によって防がれる。

 

「硬いな…やはり強化種か。Lv.4相当といったところか?」

 

「ウ……ウウ………」

 

「すまない、泣きたい気持ちは分かるぞラミア。知らない人間3人に囲まれて追い詰められたら怖いよな。」

 

ディックスが怪訝な表情を浮かべる。槍を少し握ったようだが、安心して欲しい。俺は魔物に情けをかけたりはしない。

 

「助ケテ……ラーニェ…フィア……」

 

「それは仲間の名前か?よく話してくれた、偉いぞ。仲間はどこにいるんだ?話してくれたら助けてあげよう。」

 

「………くっ…」

 

ディックスが苦笑を漏らす。俺の真意に気がついたようだ。相手が理知を持つモンスターなのなら、拷問(インタビュー)が効く。

喋るモンスター…リドには命を見逃された恩があるが、それ以外はどうだって良い。むしろ、危険だ。あんな危険なモンスターがそう何体もいてたまるか。

 

それに────勇者の使命は、世に平穏をもたらすことだ。

 

「イヤ…!話サナイ…!」

 

「そうか、死ね────ぶぇあ!?」

 

後ろから強い衝撃。壁に激突し、視界が白黒する。黒い煙が上がり、数名の気配がやってくる。例の『ラーニェ』だか『フィア』だか言った仲間だろうか。

 

「敵襲だ…!避けろ、お前ら!」

 

二名の大柄な男が飛び退く気配。ぶち抜かせてもらう。チャージ4日分の──────

 

「【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!!!」

 

極太の黄金炎槍が螺旋を描きながら通路を吹き荒らしていき、何名かの悲鳴と、苦痛に堪える声が聞こえてくる。

視界は煙で遮られているが、決して逃しはしない。

 

「クソッタレが…!『迷い込め、果てなき悪夢(げんそう)』…【フォベートール・ダイダロス】ッ!気配を探れ、炎のガキ!」

 

数名の暴れ出す気配。ディックスは身バレ対策に俺の名を呼ばなかった。この緊急時でも冷静とは、さすがはLv.5。

俺が吹っ飛ばされたのはラミアのいる壁側、ならば【暁の直光(エリオス・レイ)】で逃げられなかっただろう。

 

「死ね!魔物=サン!死ね!」

 

「キャアッ!?」

 

何かを切り裂いた感触。だが深手ではないようで、少し転んだだけで済んだようだ。だが、位置は把握できた。

背中はすでに熱く、首筋は痛い。Lv.5とLv.4の仲間がいてなおも難局だということだ。

 

「待ちやがれ、ゴミめら!」

 

黄金の炎刃を連射し、横道から出るも、そこに立っていたのは武装したオークだけだった。舐めやがって、殿はオーク一匹で十分だとでも言うつもりか。

 

『ブヒィイイイッ!!!』

 

「退け、アエルテス」

 

後ろから朱槍が飛び、オークの魔石を貫く。ゴーグルを擦りながらディックスが面倒そうに横道から出てくる。

塵になったオークは、身につけていた鎧や武器を落とす。

 

「………こいつ」

 

だが、そのオークは。

 

【ロキ・ファミリア】のエンブレムの入った、鎧を着ていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「アエたんが最近変?」

 

「うん、そうなの。」

 

【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)、『黄昏の館』の談話室にて、アイズとロキが話している。その内容は、アエルテスがある日を境に戦い方に優しさがなくなった、という内容であった。

 

「言うて元々、アエたんの戦い方はそうやったんやないの?自分でも両親にみっちり鍛えられた〜言うてたし」

 

「技のキレは変わらないんだけど…でも、容赦なく相手を追い詰めるやり方になってる」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の後に、って事やんな?せやけど、多分…」

 

敵討ちだろう、とロキは考える。数日前、アエルテスが暗い表情で自分に【ロキ・ファミリア】のエンブレムがついた鎧を見せてきたのだ。

アエルテスが言うに、魔物に奪われていたのだという。

 

(せやけど、ここでアイズたんにその事を言うたら…アイズたんまで仇討ちに動きかねん)

 

ロキには持ってこられた鎧に見覚えがあった。それはオラリオ暗黒期に失踪したファミリア団員のものと同じだったからだ。

であるならば、アイズの知り合いである者の遺品だ。それがモンスターに奪われ、使われていたとなれば。

 

(止まらん、やろなあ……ファミリアに愛着持ってくれんのはええんやけど、愛が強すぎると闇を生み出すんも、また事実やな)

 

そう思いながら、適当に「成長期なんやろ」と誤魔化しておく。アイズも、それには納得していないらしく、すこし不機嫌そうだ。

そんな中、談話室に渦中の人(アエルテス)が入ってくる。

 

「この眼は闇をよく見通す────Revolution」

 

などと寝ぼけた事を言いながら。

それを見てロキは安心するが、同時に、その目の奥にある憎悪を見逃さなかった。

 

「アエルテス、話があるの。」

 

そしてそれは、アイズ・ヴァレンシュタインも同じだった。自身と似た憎悪を抱えたアエルテスの心の中の炎を、見逃すはずもない。

 

「アイズ先輩が俺に?何か用ですか」

 

「うん。アエルテスは─────モンスターを、憎んでいる?」

 

少しの沈黙。しかし、アエルテスは小さく微笑むと、ぞっとするような顔で頷く。

 

「そっか。なら、迷わないで。勇者になるんでしょ、だったらモンスターを倒して、モンスターのせいで泣いている人を助けないと」

 

「………その通りだ。俺は、少しの間憎しみに突き動かされていた。だが、そんなのは勇者じゃない。俺は正義の為に、魔物を殺す。」

 

「うん。それで良いよ。頑張ろうね」

 

手を繋ぎ、微笑むアイズ。少し照れながらも、微笑み返すアエルテス。ロキは、その中に素早く入っていくと──────満面の笑みで二人の胸元に頭を埋めた。

 

「アイズたんとアエたんが仲良しで嬉しいねんけど〜、ウチも混ぜてや〜っ!うおっ柔らか、極楽かいなココ」

 

「ロキ…」

 

「おお、マジか。殺されても文句言えねえぞコレ」

 

アイズによって顔面を凹まされるロキ。状況が落ち着き、アエルテスはステイタスを更新する。アイズもその場に居合わせ、その様子を見ていた。

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.2

《基礎アビリティ》

力:B753 耐久:S987 器用:B711 敏捷:C689 魔力:A898

《発展アビリティ》

不屈:I

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

・解放式【エン・リヴィオ】

【】【】

《スキル》

逆境奮起(アグニ・コロナ)

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

・刻印顕現中、成長補正

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

──────────────────

 

 

「アエたん、日課の魔法で燃え尽きる奴以外に魔法使ってへんやろ。パーティでも出来たん?」

 

今まで、魔力と耐久の伸びが一次関数的に伸びていたのが、魔力の伸びがやや悪くなっているのに気がついたロキがそう言う。

 

「実は…ディックスっていう仲間?友達?が出来て…今日は24階層まで行ったんだ」

 

「ディックス…【暴蛮者(ヘイザー)】?Lv.5冒険者の」

 

「アエたんに…男?ドチビんとこの少年はどないしたん?」

 

そういうのじゃねえよ、と呆れながらアエルテスが自分とディックスが臨時のパーティを組んだ事を説明する。

 

「ふうん…まあ、ほどほどにな。もうじきランクアップも近いんや、修行はそろそろええやろ」

 

「まあね。それにしても……Lv.3かぁ。ベル、お前は何をしているんだ……」

 

窓の外を見て、アエルテスが呟く。日は、落ちかけていた。

 

アエルテスがベルのことを考えている最中、オラリオの歓楽街では、女神イシュタルもまた、ベル・クラネルのことを考えていた。

 

「……それは本当なのか?あのベル・クラネルに、フレイヤがご執心とは」

 

「あ、ああ………この間なんか、ベル君のために贈り物を渡そうとしててね……それに、フレイヤの関心はベル君の幼馴染のアエルテスちゃんにも注がれてる………がくっ」

 

イシュタルと話すのは、骨抜きにされたヘルメスだ。

精も根も尽き果てたヘルメスは失神し、イシュタルはそれを見たあと、バベルの上にいるであろうフレイヤを睨みつける。

 

「だが…良いことを聞いた。都市最強派閥などと粋がっているあの女たちに、痛い目を見せる良い機会だ。お前たち、ベル・クラネルを捕まえな!アエルテス・ヘリオドーンの方は…娼婦にでもしちまいな!」

 

「まさか…あの【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に戦争を?」

 

「そんな…嘘でしょう?」

 

「お気に入りがヤられたと知ったら、あの美神…黙ってませんね」

 

二名の捕獲を命じられた眷属たちは、ベル・クラネルはともかくとして、歓楽街にも来たことのないアエルテスを捕まえるのには懐疑的であった。

だが、フリュネ・ジャミールは剛毅に笑い、イシュタルの発言を一蹴する。

 

「イシュタル様ぁ、あんなブスを娼婦にしたって意味なんかないよ!アタイぐらいの美貌でもなけりゃあね!」

 

「黙れフリュネ。売れようが売れまいが、フレイヤ(あいつ)のお気に入りを娼婦にしてやるのが良いんだよ。奴らは娼婦を下に見ているからねぇ…」

 

イシュタルには、必ず成し遂げられると言う確信があった。ベル・クラネルはLv.3とはいえ、レベルブーストさえあれば容易い。

その上、幼馴染だというアエルテスはLv.2で、Lv.3冒険者を多く抱える【イシュタル・ファミリア】ならば余裕だと考えたのだ。

 

だが。

 

「【暴蛮者(ヘイザー)】に妨害を受けた、だと?」

 

「はい…!奴らの探索中に妙な歌声が聞こえ、奴らがそれに気を引かれた瞬間に【暁炎(エリュオ)】を攫おうとしたのですが…気がつけば、同士討ちをしていて……」

 

「くそっ…!奴らは我々と協力関係にあるのではなかったのか!」

 

ある時は、肝心なタイミングで襲撃されて怒ったディックスに妨害を受け。

 

「申し上げます!デリンジャー率いるLv.2で構成された戦闘娼婦(バーベラ)部隊が【暁炎(エリュオ)】に壊滅させられました!」

 

「馬鹿な!?出発前は10人編成だったはずだ、なぜ負けるんだ!」

 

「そ、それが……魔物の群れを嗾けたようですが、群れごと焼き払われて、数時間焼かれ続けていて…」

 

「ええいっ、もういい!ベル・クラネル捕獲に回す予定だったアイシャたちをアエルテス捕獲に回せ!」

 

ある時は部隊ごと焼き払われ、イシュタルは我慢の限界を迎えた。焼かれた娼婦たちは、口々に「マダラが…」や「卑劣…」などと口走っていたのもある。

つまるところ、ふざけ倒された状態で自慢の部隊を纏めて焼き払われたというのが気に食わなかったのだ。

 

そして、任務を任せれたアイシャは。

 

「やめろめろめろアマゾネスめろ、良い加減にしろ良い加減…」

 

と、謎のラップを披露する狂人とダンジョンで対面することになったのだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

俺は今、訳の分からない格好をした女の人たちに囲まれている。

これだけ聞くと羨ましいように思えるかもしれないが、彼女たちはアマゾネスで、戦闘娼婦(バーベラ)と呼ばれる人たちだ。

 

彼女たちの目的は、おそらく────俺の命だろう。

 

「アンタが【暁炎(エリュオ)】かい?随分と陽気な奴だねぇ。それと、その下手くそな歌をやめな、不愉快だよ」

 

「お前、この間焼き払った奴らよりも強いだろう。見れば分かるぞ」

 

目の前にいるのは、黒い長髪に褐色、デカい胸の、大刀を持ったアマゾネスだ。確か、【麗傑(アンティアネイラ)】と呼ばれていた。

 

「うちの妹分たちが世話になったようだね。話は聞いてるよ。自分のことを『うちはマダラ』とか、『卑劣様』って呼称してるみたいじゃないか。偽名のつもりかい?」

 

「だったらさっきの俺のセリフは聞いてるだろ。この()()()()()()にはどんな術も通用しないとな」

 

「言ってないだろそれ」

 

どの道、こいつらは理由も言わずに襲いかかってくる狂人どもだ。まともなレスポンスなど、ハナからする気はない。

こいつらは卑怯だ。数で囲んで、魔物どもを嗾けてきたりする。そんなに俺が殺したいのか?

 

「……さっさとかかって来い、時間の無駄だ。」

 

「はっ、舐めんじゃないよッ!お前たち、春姫の詠唱が終わるまでに削りな!」

 

む、魔法使いが裏に控えているのか。なら好都合だ。その春姫とやらから潰させてもらおう。

迫ってきたアマゾネスの首を掴み、激しく揺らして失神させ、簡易的な武器にして剣を振りかざしてきたアマゾネスに投げつける。

 

「くそぉ…っ!アイシャの姉御!こいつ強い!」

 

「まだかかるよ!踏ん張りな!」

 

アマゾネスの戦闘スタイルは、基本的に徒手空拳が多いようだ。確かに手数は増え、強化されたステイタスでなら強いかもしれないが。

鍛え抜かれた拳と剣なら、剣の方が勝つに決まっている。

 

「真の英雄は目で殺す!」

 

「ぐあっ…!こいつ、目潰しして来やがった!」

 

「それじゃ目で殺すというよりは目を殺すじゃんよー!」

 

賊が上手いこと言いやがって。

だが、殴りかかって来たやつの拳は剣で切り裂いてやった。数日は拳を握れないだろう。悪く思え。

 

「悪いね、【暁炎(エリュオ)】…準備完了だよ。」

 

「なんかのオーラを纏っているな。強化でもされたか?」

 

「アンタの身体で確かめてみなッ!」

 

突撃してくるアイシャとかいうアマゾネスの攻撃を避け、サマーソルトで反撃する。背中はすでに熱く、首筋の痛みはさらに増す。なるほど、相当強化されたな?

 

「ほらほらどうした!?さっきまでの威勢が無くなってるじゃないか!」

 

挑発を無視し、攻撃をフレイモスで弾きながら周囲を確認する。少し遠くに、金色の耳が見えた。なるほど、あれが魔法使いか。

 

「見つけたぞ」

 

「っ!ざけんな…アンタの相手はアタシだよ!」

 

魔法使いのほうに駆けていくと、アイシャが止めてくる。なるほど、随分と大切にしているようだ。だが、こういう時の対処法は─────ディックスが教えてくれた。

 

「【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!!!」

 

「なっ」

 

黄金の炎槍がアイシャを捉え、その奥にいた魔法使いのもとへ叩きつけられる。

「誰かが目的を庇った時は、無視して目的を狙え」…ディックスの訓示だ。確かに、これは実に効果的だな。

 

「アイシャさんっ…!」

 

「下がってな、春姫…あいつ、お前を殺す気だよ」

 

何を悲劇ぶっているんだコイツら…俺に襲いかかって来なければこんな事にはならなかったのに。

良い加減苛立ってきた。理由もなく襲撃されて、こっちはマトモに探索できなくてヤキモキさせられているんだ。

 

「さようなら、戦闘娼婦(バーベラ)。できれば俺を、許さないでほしい」

 

フレイモスを構えチャージを解放し、3日分の炎を以て、戦いを終わらせようとした──────その時。

俺を抑えようと、倒れていた戦闘娼婦(バーベラ)たちが俺にしがみついてくる。

 

「アイシャ!今だよ!私たちごとやって!」

 

このまま引き剥がすためにフレイモスを振り回せば、3日分の炎が彼女たちに当たるだろう。そんなことをすれば、殺してしまう。

勇者として、それはあり得ない。

 

「お前たち……ああ、分かったよ!『猛々しき戦士よ、たくましき豪傑よ、欲深き非道の英傑よ!女帝(おう)帝帯(おび)が欲しくば証明せよ!我が身を満たし我が身を貫き、我が身を殺し証明せよ! 飢える我が()はヒッポリュテ!』」

 

ならば…ここは、受ける他はない。

 

「【ヘル・カイオス】ッ!!!」

 

剣から衝撃波が飛ばされ、アマゾネスたちごと俺を斬り裂かんと迫ってくる。俺は全身を捩り、アマゾネスを振り解く。巻き込まれれば、死んでしまうだろうからな。

 

「が………っ、は……!」

 

そのまま袈裟に受け、今度は俺が壁に叩きつけられる。土砂の粉塵が舞い、床に墜落し、俺は…自分の意識がまだある事を確認し、笑みを浮かべる。

地面には大量に血が滴り、動くたびに痛みが俺を襲う。敵は一度吹っ飛ばされただけの、Lv.4相当の冒険者。

 

「……いいね、俄然…やる気出てきた。げほっ」

 

身体はまだ動く。傷口は深い。どうせ殺されるなら、自分から死地に飛び込んでしまおう。心頭滅却。火もまた涼し。

 

「我が名は、ヘリオドーンのアエルテス!如何なる逆境をも打ち砕く、真の勇者である!我が、暁の炎を以て…汝を打ち砕こう!」

 

フレイモスを強く握りしめる。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』…」

 

「あんだけやられて……詠唱!?バケモノか、あいつは…!」

 

「地獄、行きだ…!【リュクシオン】ッ!」

 

胸から炎が噴き出し、それは外套となって俺を包む。

一歩進み、周囲に延焼させながらまた一歩と歩いていく。倒れていたアマゾネスたちに引火し、新鮮な悲鳴がダンジョンに響き渡る。

 

「こいつ……自分ごと燃やしてるってのかい…!アンタ、それ以上こっちに近寄るんじゃないよ!」

 

「連れないなあ、俺と遊ぼうぜ…姉ちゃんよ」

 

フレイモスを構え、吶喊。瞬時に、通り道にいたアマゾネスたちに着火していく。アイシャはそれを見て顔を歪める。

俺と戦うということは、彼女たちを見捨てるということ。そして、彼女たちを助けるということは、春姫を見捨てるということ。

 

「二つに一つだ!お前が、選びな!」

 

「舐めんじゃないよっ!」

 

大刀と長剣で鍔迫り合う。だが、近寄ってしまったのが運の尽きだったな。【リュクシオン】の炎は、付近のもの全てに引火する!

 

「っぐあ…!」

 

「ちょっと燃えたぐらいで弱音を吐くのか、脆いな」

 

「くそっ!」

 

大振りの攻撃をかわし、黄金の炎刃を繰り出しながら剣を振るう。放射機能は、別に遠距離でないと使えないなんてことはない。

銃だって、近距離で撃ったほうが威力が高い。そういうものだ。

 

「そこ、隙だ。」

 

「く……がはっ!?」

 

春姫を対象にした炎刃を防いだアイシャの顔面を掴み、そのまま地面に叩きつける─────前に、腕を切り落とそうとしてきたので回避する。

確かに動きは速いが、()()。まるで、能力向上に身体がついて行っていないような。

 

「………はぁ、はぁ……ランクアップ…?」

 

「……っ!」

 

図星か。なるほど、春姫の与える付与魔法(エンチャント)は、対象をランクアップさせるものと見て良いだろう。

だとしたら、現在のアイシャのレベルは4。普通なら勝てないと思うだろうが、俺は違う。

 

()()()も済ませていないのだ、マトモに動ける道理はない。

 

「距離感覚が掴みづらいか?女。」

 

当然だ、ランクアップしたて且つ、互いに燃えているんだ。この場には、陽炎が充満している。まともな視界などあったものではない。

 

「御名答っ…だけどね!経験の差が違うんだよ!」

 

「かはっ…」

 

回し蹴りを受け、大きくのけぞる。不屈のアビリティは既に発動済み。さっきの魔法で、致死量のダメージを耐えるのに使ってしまった。

背中が熱くなり、首筋が更に痛くなる。血が流れるほどだ、なるほど。これは死が近いな。

 

「………なんで、笑っていられるんだい。狂人め!」

 

「え?ああ……笑ってたか、俺…そうか…」

 

「諦めな!アンタはもう勝てっこないよ!」

 

勝てない、というのは弱者の言葉だ。

俺はチート転生勇者。圧倒的強者だ。勝てないわけがないだろう。

 

「あー、そうか?そうかなぁ…そーかもなぁ!」

 

「こいつ…ハイになって……」

 

フレイモスをしまい、天を仰ぎ、両の手を握りしめる。そして、高らかに宣言する。

 

「【エン・リヴィオ】!」

 

着火していた全てのものが爆発する。アマゾネスたちは数ヶ月は火傷に苦しむ事になるだろう。アイシャは、きっと咄嗟に春姫を庇った事を後悔するだろう。

俺は、このまま瓦礫に押し潰されるだろう。

 

だが。

 

「────以上。これにて終了。言葉はもう不要です」

 

俺は、負けてない。これだけが、今は重要だった。




【キャラクター紹介】
☆襲われていたラミア
異端児たちの一人。Lv.4相当。名前は「ラミュス」
モンスターから逃げ、中層を彷徨いていたところを【暁の直光】で焼かれたことで炎に対するトラウマがある。リドたちと合流するまでに、襲ってきた8人の冒険者を殺害していた凶悪な魔物。
リドたちとはぐれ、20階層に住んでいたがアエルテスの起こした山火事によって棲家を炙り出された。歌うことが好きで、フェルズから歌の本を貰ったりしている。

刺繍が趣味で、殺した冒険者のエンブレムを使ってハンカチを作る。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。