自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

18 / 32
UA、評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます!


迷宮都市の外で

 

薄ぼんやりとした照明が視界を照らす。

見る限り、ここは冷たい雰囲気に見せびらかすように付けられた拷問器具。そして、目の前には派手な格好をした女神。

 

そうか、俺はあの後、結局捕まってしまったのか。

傷は治療されているようだが……不甲斐ない。

 

「俺に何をしようっていうんだ、女神。」

 

鎖で繋がれた四肢に力を込め、女神を睨む。いままで神の神威を何度も何度も受けてきたんだ、大したものじゃない。

それに──────俺は、こいつよりも綺麗な人(フレイヤ)を知っている。

 

「初めましてだねぇ、【暁炎(エリュオ)】。アイシャたちの話ぶりから聞くに、どんな暴れん坊かと思ったら…こんな小娘だなんてねえ?」

 

「……聞いたことがあるぞ、その褐色の肌、品性のカケラもない服、男を魅惑する仕草…美神、イシュタルだろう。」

 

「ほう?物知りじゃあないか。ヘルメスあたりの入れ知恵かい」

 

「いや、『レターパックで現金送れ』という本で読んだ。」

 

「それ絶対どこぞの神が書いたやつだろ」

 

少し呆れた表情を見せながらもイシュタルが近づいてくる。イシュタルは突然俺の服を脱がせ始める…が、手に噛みついてそれを防ぐ。

 

「っと、危ないだろう!神を傷つけようとするとは罰当たりな。良かろう、では脱がさずとも良い。魅了を掛けて、お前から脱ぐようにしてやる」

 

拘束具の錠を外され、イシュタルが俺に顔を近づけてくる。目と目が触れ合うほど近くで、何やら妙な力が俺に注がれる。

即座に、背中が熱くなり、首元に痛みが走る。これは…窮地だ。なら、逆転の発想で行こう。

 

汚されるぐらいなら、汚してしまえばいいのだ。

 

「さぁ、私好みに────んむっ!?」

 

イシュタルの口を塞ぎ、舌を入れ、その細い腰を掴んで離さない。俺としても人生初キスがこんな美人とやれるのだから光栄なことだな。

そして、逆境で強化された冒険者の肺活量を舐めてはいけない。5分でも10分でも息を止められるのだ。

 

「んーっ!?んー!!」

 

それに、英雄は色を好むという。

なら俺はチート転生勇者として、色で制させてもらう。女神?よく分かんねーけど全員抱いたぜ。

 

「ぷはっ……あ、あんた…結構大胆で……んんっ!?」

 

だが、さすがは美の女神にして歓楽街の女王と言ったところか。10分を過ぎたくらいで抵抗する力が抜けてきたようなので、そのまま離してやる。

 

「よし。うまく行ったな。じゃあな女神様、良い夢見ろよ」

 

へたり込んだイシュタルを放置し、扉を蹴破って外へ出る。蹴破られる鉄扉さん側にも問題があると思う。

拷問部屋なら、もっと強度をあげておくべきだったな。

 

「な…なんで……アンタ、イシュタル様の魅了を受けたんじゃ…」

 

部屋の外に出ると、守衛のアマゾネスが一人立っていた。武器は槍…対して、俺は武器も装備もそのまんまだ。

イシュタルが自分で脱がせようとする変態でなければ不味かったな。運がいい。

 

「魅了?ああ、メロメロにされてたぜ。エロがんなってマジで」

 

少なくとも、男とキスするよりかはマシだ。

だが助かった。これで身体まで男なら多分俺は我慢できていなかった。俺は長男だから耐えられた。

 

「へ、へぇ〜…すっご…どう?アタシでも試してみない?」

 

「俺をここから出してくれるならな。でなければ無理矢理にでも帰る。」

 

「出す出す、ほら早く!」

 

モテ期到来か?いよいよチート転生勇者らしくなってきたな。

アマゾネスの女の子に案内され、屋敷の外に出してもらう。よし……覚悟を決めるか。

 

「さ、早く────もがっ!!!」

 

「御免。」

 

フレイモスで思い切り頭を叩き、白目を剥いたところを首を掴み、ガクガク揺らして気絶させる。他人を気絶させるならこれが一番です。

意識があるなら神だってオトしてみせる。

 

歓楽街の外らへんまで出ようとすると、何やら戦いの気配がする。それと同時に、見知った気配も。

その方角に走ってみると、ちょうど【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の両軍が【イシュタル・ファミリア】の勢力を蹂躙して回っていた。

 

「な…何があったんだ。ここにバケモンでも湧いたのか…?!」

 

建物ごと壊す勢いで暴れる【フレイヤ・ファミリア】の団員たち。ちょうど、俺が今さっきまで居た建物に向かって直進しているようだ。

対して、【ロキ・ファミリア】の面々は建物を壊してはいないものの、大勢が散らばって何かを探して回っている。

 

「おーい!ちょっと、そこのお前…ケビンだっけ?何があったんだ!」

 

度々お世話になっているケビンを見つけたので、とっ捕まえて話を聞こうと近づく。すると…ケビンは、大声で叫んだ。

 

「いたぞぉ!!いたぞぉおおおおおお!!!!!!!」

 

「うわっビックリした、プレデターかよ!」

 

それと同時に、【ロキ・ファミリア】の見知ったメンバーが集まってくる。フィン団長はもちろんのこと、アイズ先輩に、リヴェリアさん、ティオナ、ティオネ、ガレスさん、そしてベートまでいるとは。

幹部が勢揃いで、いったい何を探していたと言うんだ?!

 

「アエルテス、君が攫われたと聞いて僕たちは慌てて君を助けにきたんだ。ご丁寧に、神イシュタル本人から君を娼婦にするという予告付きでね。」

 

「そしたらロキの奴、それはもう恐ろしい剣幕で『戦争や!』と言っておってのう。まあ、仲間に手を出されて黙っていられるほどワシらも薄情ではないということだ」

 

「あ、初めて喋りましたよねガレスさん。どうも…」

 

「そうだったか?まぁ良い。ともかく、お主は帰れ。ロキが心労で倒れては敵わん」

 

俺の頭をポン、と叩くガレスさん。だが、次の瞬間には、その場にいた殆どの者が瞋恚の目を歓楽街に向けていた。

 

俺はこの次の日、【イシュタル・ファミリア】が完膚なきまでに壊滅し、団員も散り散りになったことを知った。

 

「アエたんっ!無事…みたいやな。はぁ…ホンマにもう、心配かけよってからに!」

 

『黄昏の館』に帰ると、ロキが開口一番に抱きついてくる。相当心配をかけてしまったようだ。申し訳ない。

まあ、悪いのは襲ってきた【イシュタル・ファミリア】と、それを倒せなかった俺自身の弱さだ。

 

「すまない、ロキ。俺が弱かったせいだ。今度は負けない」

 

「そういう事ちゃうわ阿呆…ま、でも無事に帰ってきてくれてよかったわ。手ェ出されてないんやろ?」

 

「手は出たかなぁ…」

 

起こったことを一部隠して説明すると、ロキは「やっぱ結構暴れん坊さんやね?」と呟く。なんでだ、俺のどこが暴れん坊だというのだ。

良いのか?俺には富士山をバックに馬に乗る覚悟が出来てる。

 

「そんなことより、ロキ!ステイタス更新してくれないか?」

 

俺の目算が正しければ、昨日の戦いで、俺はレベルが上がっているはずだ。

 

「はいはい…ま、アエたんが楽しそうなら何よりやわ────うわ、ランクアップしとる!?」

 

やはりな。たった一人で、同格の相手複数人を蹴散らし、格上を自分諸共吹っ飛ばしたのは偉業に含まれるらしい。

そういうことなら、Lv.4は近そうだ。やり方さえ覚えてしまえば、きっと偉業を成すのも容易い。

 

…容易く成せる偉業というのは、果たして偉業と呼べるのか甚だ疑問だが。

 

「アエたん、良いニュースと凄い良いニュースがあるんやけど、どっちから聞きたい?」

 

「良いニュースで………って、どっちも良いのかよ」

 

どうやら、『精癒』というレアアビリティが生える可能性があるのだとか。相変わらず『狩人』はあるらしい。

そして、『解放』というロキすら聞いたことのないアビリティの存在があることも伝えられた。

 

「解放…って、なんやろね。覚醒でもするんか?」

 

「さぁ…?モンスターとの戦闘中、2分45秒が経過するとアビリティに補正でも入るんじゃないか?」

 

「なしてそんな具体的やねん」

 

結局、俺が選んだのは精神力(マインド)を常時回復する『精癒』より、効果の分からない『解放』を選ぶことにした。

そして、二つ目の良いニュースは──────。

 

「魔法、生えとるで。」

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.3

《基礎アビリティ》

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

《発展アビリティ》

不屈:H 解放:I

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

・解放式【エン・リヴィオ】

【フォルネス・イグニオン】

・侵食魔法

・命を削る黒焔を纏い、射出する。

・詠唱式『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』

【】

《スキル》

逆境奮起(アグニ・コロナ)

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

・刻印顕現中、成長補正

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

──────────────────

 

……めちゃくちゃ不穏じゃねえか。

なんだ侵食魔法って。何が侵食されるんだ?正気か?それとも命か?

使ってみないことには分からないな。

 

「…しかし、Lv.3かぁ。」

 

「感慨深そうやな。せやけど、ここからが冒険者の怖いところやで?成長して、強くなったと思い込んだ冒険者は大抵、一人で下層に挑んでポックリ…なんて話はよう聞くからな」

 

「おお」

 

それなら、一人で下層まで潜るのは危険そうだな。

ディックスたちに言って、一緒についてきて貰おうかな。と考えてから思いとどまる。

彼らは例の『喋るモンスター』に執着していた。故に、それが出た20階層付近から動こうとはしないだろう。

 

短い間だったが、彼らとは別々に動くことにしよう。

 

それにしても、早く魔法を使いたい。ようやくコスパのいい魔法が生えたかもしれないんだ。

 

「アエた〜ん、早速魔法使ってみたそうな顔しとるな?」

 

「なぜ分かった。」

 

「顔に書いてあるわ。でも────ダメやで」

 

「(´・ω・`)そんなー」

 

なんでも、見るからにヤバそうなのをおいそれと使わせるわけにはいかないのだとか。まあ、それもそうか。

 

そして、訪れたのはダンジョン5階層。

早速ゴブリンが出てきたので、魔法を放ってみることにする。

 

「『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』」

 

『ゴブー!』

 

「【フォルネス・イグニオン】ッ!!」

 

魔法を唱えると同時に、翳した手の先から黒い焔が噴射され、ゴブリンを呑み込む。衝撃力はフレイモスの炎刃を3分チャージしたぐらいの威力だ。

だが、それ以上に──────恐ろしいのは、その炎の性質だ。

 

『ゴブ!?ガ、ァガァァッ!!?』

 

「うひ…こりゃひでえ……」

 

炎は、ゴブリンの魔石を砕いたのにも関わらず、その体組織を灼いていき、その存在を丸ごと焼き払った。

いくら魔物といえども、命を失った後も焼かれ続けるのは流石に可哀想というか…引く。

 

「しかも何がエグいって、これもしかしてその存在が消えるまで燃え続ける奴じゃん…?」

 

試しに、10階層まで降りてオーク相手に黒焔をぶつけてみる。精神力(マインド)には余裕がある…というより、殆ど消費していない。

 

『ブヒ…アアッ…!?ピギャアアアッ!!!』

 

「もうやだこの魔法…」

 

オークが聞いたことのないような絶叫をあげながら消滅していく様を見て、俺は激しく後悔した。強いよ?うん、確かに強いんだけどさ。

どいつもこいつも、世界の終わりみたいな顔して死ぬもんだから溜まったもんじゃない。

 

「しかも、多分これ死体残んねえよな……ん?」

 

悲観しながらオークの跡地を見てみると、わずかに燃え残った塵がある。もしかすると、もしかするのではないか?

そう思い、多少頑丈な魔物を探しに中層まで降りてきた。

 

「【フォルネス・イグニオン】ッ!」

 

『グオッ!?オグォオオオオ!!!??』

 

相変わらず痛そうだが、それでも黒焔はライガーファングの身体を半分消し飛ばしてから鎮火した。

魔石を残して消えたライガーファングのドロップアイテムを回収し、俺はほくそ笑む。やはり、使い勝手のいい魔法だ。

 

多少の精神的苦痛に耐えれば、高火力かつ、スリップダメージを与えられる炎の魔法を手に入れたということだ。

気分は一転、魔物の絶叫を聞きながら魔法の威力調整や整形を行っていると、見知った気配が近づいてくる。

 

「よう、派手にやってるじゃねえか」

 

「ディックス!」

 

朱槍のゴーグル男、ディックスが気分良さげに現れた。

俺はディックスにLv.3になったこと、そして下層に行くからパーティから外れることを伝えた。

 

「おう、分かった。だが、お前とはまたどこかで共闘出来そうだ。」

 

「俺もそうであることを望むよ」

 

「ところで…さっきの魔法はなんだ?バケモノどもが随分と泣き喚いていたようだが」

 

「ああ…実はな」

 

ディックスに俺が調べたことを話すと、ウキウキした様子で俺の魔法を褒めてくれた。やっぱり、魔物嫌いの人間に見せたらウケるんだなこれ。

 

「アエルテス…今度、18階層に来たら声掛けろよ。普段そこにいるからな」

 

「ああ、またなディックス。」

 

カラッとした雰囲気の中ディックスと別れ、俺は地上に帰る。

だが、地上には────額に青筋を浮かべたロキが待っていた。

 

「魔法使うな言うたやろボケーーーッ!」

 

「なんで分かったァーーッ!」

 

「カマ掛けじゃホンマに使うとったんかボケーッ!ボケーッ!ボケーッ!」

 

結局、俺は反省のために三日間のダンジョン禁止を命じられたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

国家系ファミリアであるラキア王国は、戦争によってその領土を増やしてきた軍事国家だ。

その威を示すため、毎度のようにオラリオに侵攻してきてはサクッと撃退されている、Lv.1ばかりの烏合の衆──────もとい、軍隊は、どうせ負けると踏んで諦めムードに包まれていた。

 

それもそのはず、オラリオから出てきた冒険者ひとりに、100人隊がやられ、陣営には商売に来た【ディアヒケント・ファミリア】の薬師たちや、元【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスたちが男漁りに来たりするからだ。

もはや、真面目に戦争をしている者は一人もいない。

 

だが。何名かは、大真面目に戦争をしようとしていた。

 

一人は、ラキア王国の主神、アレス。

一人は、アレスの腹心、マリウス。

一人は、【ロキ・ファミリア】の狂人、アエルテス。

 

小高い丘の上に陣取った【ロキ・ファミリア】の陣営の中で、既に戦勝ムードの団員たちに、Lv.3になりたてのアエルテスが一喝する。

 

「なぜこうも気楽でいるんだ?戦争なんだぞ…」

 

「戦争とはいっても、ちょっと魔法を見せただけで相手は逃げていくからね。適当にあしらってやるのがいいのさ」

 

「え?じゃあ俺が1000人斬りしたのって無駄?」

 

この前に、アエルテスは勢いよく名乗りを上げ、格好つけながらラキア王国の軍団を1000人打ちのめしていたのだ。

1000人殺せば英雄だ!と勢い勇んで出撃し、殺しはしなかったものの相当に痛めつけたアエルテスからしてみれば、無駄骨も良いところである。

 

「無駄じゃないさ。見てごらん」

 

フィンが槍で敵陣を指す。そこには、ほぼ壊滅状態になりながら逃げ惑う兵士たちの姿がある。

 

「アエルテス、君の活躍であっという間に逃げていくだろう?こうすることで、損耗を抑えられたんだ。感謝しているよ」

 

「んな馬鹿な……釣り野伏じゃないんですか?」

 

「ツリノブセ、という戦術は聞いたことがないが、多分ちがうだろう。」

 

アエルテスの前世は元々現代人であり、生半可な戦術知識を持ち合わせていた。大体が教科書やインターネットで調べたものではあるが。

それ故、変に知識があるせいで相手の動きをやたらと勘ぐって動くのだ。特に、戦争に関しては。

 

「うん?あれは……アイズ、あの女神に見覚えはあるかい?」

 

フィンが目ざとく、オラリオから猛ダッシュで離れていく者たちを見つけた。

 

「あれは…ベルのとこの神様じゃない?」

 

それは、大真面目に戦争をしていたアレスとマリウスが、戦時中なのにホイホイ外に出てきてしまったヘスティアを攫っている光景であった。

 

「アイズ先輩、それマ────ジだな?なんだこれ、どうなってんだ?」

 

困惑するアエルテス。アイズ・ヴァレンシュタインも、どうしたら良いか分からなそうにしている。

そこで、一番初めに飛び出したのはアエルテスだ。彼女は、自分にとっても恩のある女神が攫われて黙っていられなかったのだ。

 

「待つんだ……って、もう行っちゃったか」

 

「行かせちゃって良かったの〜?」

 

ティオナが呑気に聞くと、フィンは縦に首肯して楽しそうにする。

 

「まあ、地図は渡してあるしすぐに帰ってくるだろう。」

 

その風格は、まさしく親のそれであった。 

 

 

一方、追いかけているアエルテスはというと。

 

「迷った……」

 

三日間の追跡の後、道に迷っていた。

 

「どうしよう……雨も降ってきたし、地図は意味わからないし」

 

こと、中世やそれに準ずる文明期においての地図は、戦術的価値が非常に高く、また読まれても大丈夫なように難解に書かれていることが多かった。

 

「ええと…ああもう!神聖文字(ヒエログリフ)とギリシャ文字が一緒って抜かしたのは誰だよ!俺だよ!」

 

アエルテスが地図を渡される前、フィンから「神聖文字(ヒエログリフ)は読めるかい?」と聞かれ、ギリシャ文字との類似性を見出していたアエルテスは二つ返事で「読める!」と回答したのだ。

そして、渡されたのは100% 神聖文字(ヒエログリフ)で書かれた地図である。

 

「なんだよヒエログリフって、エロくないグリフか何かか?」

 

現在、アエルテスがいる場所は、本来彼女がたどり着くべきだったアレス達から山一つほど離れた場所だ。

 

「山脈地帯で雨……土砂崩れとかありそうで嫌だな」

 

アエルテスの懸念は、同じくアレス達を追っているベル、そしてアイズに振りかかることになるのだが、それはまた別の話だ。

 

「【暁炎(エリュオ)】!ここにいましたか、ここにいる、と言うことは神ヘスティアの捜索依頼に参加していると見て良いのですね?」

 

「うん?ああ、まぁそうだ。位置を知っているのか?」

 

飛翔してきたアスフィがアエルテスを見つけ、地面に降り立つ。すでにアレス達にマーキングを済ませたのか、少しの余裕がある表情をしている。

 

「飛びますよ。」

 

(運んでいってくれるのかな?)

 

アスフィがアエルテスの肩に触れ…魔道具(マジックアイテム)を起動する。すると、瞬時にアレスたちのいる馬車にアエルテスは転移させられる。

到着と同時に、アエルテスは歓喜し、アレスとマリウスは恐怖した。

 

「ヒャハハハハハァ!くらえ卑劣斬り!」

 

「ぬわーっ!?こいつ、どこから出てきやがった!?アレス様、ここは俺が一緒に落ちますんで、さっさと逃げてください!」

 

転移すると同時に切り掛かってきたアエルテスの攻撃を捌きながら、マリウスがタックルして馬車から共に身を投げ出す。

雨の降る道に、二人の戦士が立ち並ぶ。

 

「ヘスティアはどうした」

 

「さっき暴れてて白い髪の少年と一緒に落ちましたよ!女神様が狙いなら、さっさと追いかけたらどうだ!?」

 

「はっ…一度剣を交えた相手に背を向けて逃げるなど言語道断。俺はヘリオドーンのアエルテス!貴様に敗北をくれてやる!」

 

「くっそぉ…貧乏籤を引かせやがってあの主神…!我が名はマリウス、ラキア王国の第一王子にして、軍神アレスが腹心!せいぜい遊んでやる、覚悟しろよ!」

 

名乗りをあげ、初めてちゃんと名乗りを返されたアエルテスは少し驚いた顔をしたあと、優しげに口を歪める。

 

「素敵だ…やはり人間は素晴らしい」

 

「はっ、14だかそこらで良く鍛え上げたな!ステイタスだけじゃないだろう、その強さ!」

 

剣と剣がぶつかり合い、やや力で勝るマリウスが押す…が、アエルテスもそれに負けじと技で返す。

質実剛健に対する、一意専心の技量特化。その差は、微塵もなかった。

 

「それにその剣技。型があるだろう。他の冒険者にはない、必殺の型が!」

 

「よくご存知で…だが───これは生憎後付けでね!」

 

炎を幻視させるほど素早く、力強い斬撃が繰り出され、将軍(マリウス)は水のような滑らかな斬撃でもってそれを返す。

互いの剣技とは正反対に、気質は炎と水であった。

 

「見たことない技だ…我流か?」

 

「俺が尊敬する炎柱、煉獄杏寿郎の技だ。覚えておけ」

 

再び両雄が激突する。剣士は何度か打ち合えば、互いの腹の(うち)が見えると言うが、これは直喩ではなく、事実アエルテスとマリウスはその剣から互いの性格を見抜いていた。

 

「そのレンゴクとやらはどんな人なんだ!」

 

「煉獄さんは上弦の参(グレーターオーガ)相手に神の恩恵(ファルナ)なしで渡り合い、剣一本で敵を瀕死に追いやった!」

 

剣を交えながら、アエルテスが語るのは夢幻を破り、下弦の壱(ハイ・オーガ)を斬り、そして守るべき民衆を誰一人死なせることなく、戦い抜いた壮絶な物語。

 

「煉獄さんは誰も死なせなかった!猗窩座、お前の負けだ!」

 

「ああそうだ!レンゴクさんは最後まで逃げなかった!圧倒的に不利だというのに、守るべき者たちを守り抜いた!」

 

互いに剣を止めず、それでも感極まって涙を流す。神々が見れば噴飯ものの光景だが、下界の人々にとって、現代で描かれた歴史に名を残す傑作は刺激がとても強いのだ。

 

「それで……タンジェロたちはどうなったんだ」

 

「彼らは、煉獄さんの遺志を継ぎ…鬼舞辻無惨(オーガロード)を倒すため、戦い続ける」

 

戦いは、一昼夜続いた。互いにLv.3、そして、しっかりと訓練を積み、技を、肉体を鍛え上げた英雄同士だ。

ただでさえ強い神の恩恵(ファルナ)持ちの、実力が互角の戦士二人が戦えば、決着はつかないのも道理だった。

 

「はぁ……はぁ………マリウスよ、雨が止んできたな…」

 

「ああ…そうだな。一旦休むか?」

 

「ふざけろ。誰が……いや…休むか……」

 

朝日が二人を照らし、互いに剣を引いた。

もはや決着など、眼中には無かった。あったのは、「剣を交えることで会話できる」ということのみであった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

結局マリウス君とは決着が付かなかった。

というよりは、別に彼に悪意があったわけではなく、いつもアレス神に振り回されている可哀想な人だと分かったからだ。

 

「で、辿り着いたのが……ここか。」

 

結局数日彷徨って辿り着いたのは、寂れた村だった。だが、じりじりと背中は熱を発しているし、首筋は微妙に痛い。

 

「こんな村に何があるって言うんだ…」

 

常に剣のグリップを握り、いつでも抜刀できるようにしながら入村。何もプレッシャーは感じず、強者の気配もない。

だが、神の恩恵(ファルナ)は「ここに俺よりも格上の怪物がいる」と教えてくる。

 

そしてそれは、村の中心部に行くにつれて強くなっていく。

息が荒くなる。身体はすでに戦う姿勢だ。

 

「アエルテス?どうしてここに…」

 

「ベルじゃん…それに、アイズ先輩まで?」

 

二人は、河川に落ちてそのまま流されていったらしい。そして辿り着いたのがこの村だったという。

どうやら、この村には隻眼の黒竜とやらが落としたナニカがあり、俺のスキルはそれに反応していたようだ。

 

この場所にいたらおちおち寝てもいられない。

俺は帰らせてもらう。そう思い、踵を返すと。

 

『──────』

 

ぞわり、と黒竜のナニカからプレッシャーがかかる。剣を引き抜き、即座に飛び退いて臨戦態勢を取る。

ベルとアイズ先輩が不思議そうに俺を見る。脂汗が止まらない。()()()()()()()()()()()

 

「アエルテス?どうかしたの?」

 

どうかしたどころの話ではない。今にも背中は燃え、首がはち切れそうだというのに。

 

███████(まだ足りぬ)

 

「は……?」

 

聞き取れないが、意味は理解できる思念を発し、プレッシャーはふっと消えた。

そして、これは誰かに言ってはならないのだと。そう思った。

 

結局、俺はヘスティアの無事を確認し、オラリオまでの地図を貰い、帰還した。

……二度とあの村には行かない。嫌な予感がする。




【魔法紹介】
☆フォルネス・イグニオン
・侵食魔法
・命を削る黒焔を纏い、射出する。
・詠唱式『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』
術者以外に中ダメージとスリップダメージを与える炎属性の魔法。この攻撃を受けた相手は、細胞の一つ一つが焼き切れていく感覚を味わうことになる。
アエルテスにようやく生えた使い勝手のいい攻撃魔法であり、精神力消費も少ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。