自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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獣狩りの夜

 

「アエルテス、剣先が鈍い。あと0.02秒早く踏み込んでたら当てられてたよ」

 

ずんばらり、と肩口から切り裂かれ、俺は声をあげて倒れる。別に痛いからではなく、一瞬余計な思考が挟まったことによる悔しさからである。

 

「いやぁ…最近は考えないといけないことが多くてね。前みたいに、敵を倒すためだけに武器を振るえていない気がする」

 

俺の脳裏を一瞬よぎったのは、異端児(ゼノス)の姿。断じて殺さねばならない敵である…のだが、このままではベル達と対立しかねない。

それだけは何としても避けなければ。俺のためにも、【ロキ・ファミリア】の皆のためにも。

 

その為なら、俺はなんだってやってやる。

 

「……そう。なら────私以外、何も考えられなくしてあげる」

 

傷をポーションで癒す俺に、追撃の3連撃。閃燕(イグアス)との戦闘で高速戦闘に最適化された俺の目は、確かにその攻撃を捉える。

腕、足、胸を狙った攻撃だ。腕への攻撃を避け、足への攻撃を躱し、胸への攻撃をフレイモスで弾く。的確に狙われたら嫌な位置への攻撃。

 

「釣られるかッ!」

 

直後、()()()()()()()()()()()()()()()

必殺の三段突きを凌ぎきったと油断した相手に振るわれるお咎めの即死攻撃。

だが、人読みもあるが身体に叩き込まれた経験則(いたみ)による条件反射だ。

 

「うん、無意識回避…できてるね。じゃあ、もっと追い込むね」

 

「そうなるよね!!」

 

結局、俺は朝になるまでにこれでもかと迷いを衣服ごと断ち切られた。これがキルラキルかぁ、タメになるなぁ。

 

・・・

・・

 

朝方。俺は流した汗と血を洗い落とそうと浴場(バニオ)に訪れ、服を洗濯機に入れ、ロッカーに鍵を閉める。

さわさわと流れるシャワーで汗と垢を落としていく。ボディーソープは普通泡立たないのに、なぜかここの物はよく泡立つ。

 

「新手の覗き対策か?誰が作って…【万能者(ペルセウス)】産かァ…」

 

アスフィさんが作った物なら納得だ。これならどんな覗きも防止できるだろう─────人間相手なら、の話だが。

 

「あら、また会ったわね。貴女とは浴場で縁があるのかしら?」

 

「うおっ、でっけえメロン。お久しぶりですねフレイヤ様」

 

「ふふっ…あなたは正直なのね。前みたいに赤くなって逃げないのかしら?」

 

まさか。俺はイシュタルの一件以降、顔が良くて胸の大きい女性たちには耐性があるのだ。嘘だ。めっちゃ良い匂いするしあるはずのない息子がファイティングポーズを取っている。

 

「あら、赤くなってる。かわいいわね」

 

「お、お戯れを…拙僧、禁欲中の身にて……」

 

「ヘルメスと何を企んでいたの?」

 

いきなりぶっ込んで来るんじゃん。フレイヤ様ってもしかして腹の探り合いとか下手くそなのか?

何やら妖しく目をピカピカ光らせているが、まぁ何かしらの奸計に巻き込まれているのだろう。

その証拠に、炎に包まれた塔の紋章がそれに呼応するようにピカピカ光っているのだから。

 

「あの首筋痛いので、それやめてもらっても?」

 

「あらごめんなさい。意識しないと勝手に出ちゃうのよ」

 

妖艶に笑うフレイヤ様。この人、俺を見てるようでどこか俺を見てないんだよな。なんというか、俺の奥深くを見られている感覚。

どうにも慣れない。というか、この感覚で思い出した…この人、ちょいちょい俺のこと見てんな?

 

「……フレイヤ様から見て、俺はどうですか。」

 

気になって、聞いてみることにした。ロキやタケミカヅチからは完全に子供扱いされているからな。たまには別の神からの視点も知っておきたい。

期待して待っていると、フレイヤ様はニコリと微笑み、俺の頬を撫ぜる。

 

「────前見た時よりも、輝いて見えるわ。」

 

おっふ。破壊力えっぐ。

美神ってのはこういう一つ一つの所作で惚れさせに来るから危険だ。危うく完堕ちしかけるところだった、あぶね〜…。

 

「……ありがとうございます。そろそろ辛抱効かないので上がりますね。」

 

「ええ、また会いましょう?貴女が壊滅の誘惑に打ち勝てることを祈っているわ」

 

そんな変なことを聞きながら、俺は風呂から上がり、洗濯が済まされた装備を着込み、俺は【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)に着き、ステイタスを更新し、3時間の仮眠をとる。

 

「あれ?アエルテスじゃん、これからダンジョン?暇だし一緒に着いてこっかな〜。良い?」

 

寝室を出る時に、ティオナと鉢合わせた。

 

「ん〜、また今度でいいか?俺、これからやらないといけない事があるんだ」

 

「……アエルテス、悪いことは言わないからさあ。やめときなよ、その用事。」

 

「ごめん、どうしても俺がやらないと。これは神様から与えられた使命だから」

 

「……………そう。じゃあ、約束してよ!帰ったら一緒に美味しいスイーツ食べ行こ!」

 

引き留めるのを諦めたのか、ティオナが引き下がる。すまんな、本当にすまん。

『黄昏の館』の門を開け、ダンジョンへと足を進める。時刻は昼。人通りは少ない。俺は、ただ無言でその光景を眺める。

 

「アエルテスじゃねェか、何して……オイ、誰か殺すのか」

 

「ベート、俺はこれからダンジョンに行くんだよ?モンスターを殺すだけさ」

 

「オレの耳は誤魔化せても…鼻は誤魔化せねェ。その匂いは────」

 

「俺は、すべき事をする。誰よりも早く、着実に。」

 

「…………気に食わねェな。何がテメェをそんなに駆り立てる?オレを超えるんじゃなかったか、あァ?」

 

やっぱり、ベートは俺のことをよく見ていてくれてるな。いや、俺が気づいてないだけで、ファミリアの仲間達はみんな俺のことをちゃんと見てくれてるのかもしれない。

 

「チッ……いいか、教えてやる。憎しみは刃を研ぐが、憎しみじゃ敵は斬れねえ。いつだって敵を殺すのは、テメェの意志だ。忘れんなよ」

 

「ごめん、ありがとう。また明日」

 

ベートは舌打ちをして立ち去っていく。

これは嫌われたかな。まぁ、悲しいが…あとでちゃんと仲直りしよう。

 

ダンジョンの中に入ろうというところで、俺は見覚えのある人影を見かける。リューさんだ。

今日はやけに人と出会うな。きっと今日は良い日に違いない。

 

「私から言えることは一つしかありません。」

 

「………。」

 

「あまり壊しすぎないように。『厄災』が出ます。ご武運を」

 

「ご忠告どうも。肝に銘じておくよ」

 

ダンジョンに潜り、一階、また一階と降りていく。

魔物は近付いてこない。そこで、ようやく気がつく────俺の首筋から、燃え盛る塔の紋章が消えていないことに。

 

「ああ、なんだ。」

 

自分にしては、やけに冷徹な声が出る。

それが可笑しくて、くつくつと笑いが漏れ出る。

 

「闇堕ちって、大したことないじゃん」

 

正確には「殺意の波動」状態というべきか。

フェルズの計画を知った俺は、何よりも早く異端児(ゼノス)を狩ると誓った。

 

俺の大事な幼馴染(ベル・クラネル)を、守ると誓った少女(リリルカ・アーデ)を、大恩ある女神(ヘスティア)を、その仲間達が()()()()()()のために犠牲にされそうになっている。

 

それには飽き足らず。

人間とモンスターの融和だと?

呆れた連中だ。フェルズは人間だったので命までは奪わなかったが、痛みを教えてやった。

 

「『開け、ダイダロスの扉よ』」

 

ダンジョン18階層。奈落の楽園(アンダーリゾート)のとある一角。

俺は『扉』を開き、その中にいる仲間たちに声をかける。

 

「……どっから入って来やがった…?いや、まぁ良い…お前なら。だが、ここに来たってことは…」

 

ディックスの言葉に静かに頷く。

そして高らかに、その場にいる全員に告げる。

 

「ヘリオドーンのアエルテスの名に於いて────獣狩りの夜が来たことをここに宣言しよう!」

 

上がる歓声。作戦を説明し、さらに歓声が上がる。

士気は上々だ。ディックスも稼ぎどきだ!と嬉しそうにしている。

 

そう。俺は──────

 

「喋るモンスターどもを全滅させる!例外はない!」

 

心を持つ獣(ゼノス)を、殺しに来たのだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

満身創痍のフェルズからアエルテスの動向を知らされた【ヘスティア、ファミリア】たちは、ダンジョンへ潜る前に集まり、会議を行なっていた。

 

「……しっかし、困ったな。あの【暁炎(エリュオ)】が本気で()りにくるなら、俺たちの戦力じゃ自分の身はともかくとして、ウィーネへの攻撃は防げんぞ?」

 

腕を組み、唸るヴェルフ。彼は戦争遊戯(ウォーゲーム)において、縦横無尽に暴れ散らかすアエルテスを目撃していた一人だ。

故に、敵対した時の苛烈さも良く知っている。

 

「ええ。アエルテス様はお言葉ですが狂人です。とは言っても…いわゆる『正義の狂人』なのでしょうが。味方につければ頼もしいことこの上ありませんが…正直、追いかけられるのはもう御免です」

 

「うう…アイシャさん諸共焼かれた時を思い出します。怖いお方ですが、それと同時に…英雄らしい方でもあります。苦境にも一人で立ち向かう強靭な精神力もありますし…」

 

苦い顔をするリリと春姫。彼女たちは、直接その牙にかかった事のある者同士だ。追いかけられ、迫られ、命に手をかけられる間際まで追い詰められた記憶が未だ鮮明に残る。

 

「……僕が、アエルテスを説得する。分かり合えなかったら…殴ってでも止めます。昔からの幼馴染だから。」

 

決心したベルの言葉を聞き、(ミコト)が口を開く。

 

「自分は、あの方が魔物を赦すとは到底思えません。第一に、あの方はかつて『オーガに仲間をたくさん食われた』と言っていました。そして、アエルテス殿はその屍の上に立っているのだと」

 

だから、赦すはずはない。と主張する(ミコト)

ベルは思い切りアエルテスの顔をビンタしてやりたくなったが、ヴェルフにリリ、春姫まで暗い顔になっている。

 

(アエルテス、まさかレンゴクさんの話をしたの…!?)

 

「……で、どうするんだい?」

 

ベルが内心で頭を抱えていると、眠ったウィーネに膝枕をしながらヘスティアがつぶやく。

 

「ボクが思うに、アエルテス君はキミたちと敵対したとしても命までは絶対に取らないし、もしキミたちと戦って、キミたちの一人が途中で魔物に襲われそうになったら、あの子は魔物を倒しにいく。」

 

そういう子だよ、あの子は。と言って、ヘスティアは真っ直ぐな目を向ける。神の前では嘘を付けない。それと同時に、その人物の本質もある程度は見抜く。

 

「可哀想だけど、あの子は英雄にしかなれない。他の道なんてないんだよ。人類の敵は、あの子の敵だ。あの子は、かつてボクにそう言って聞かせてくれたものさ」

 

「その、高潔な英雄サマは……心のあるモンスターでさえ殺すってのか?」

 

「ああ、きっとそうだろうね。あの子にとっての『救世』は…モンスターを、この世から抹消することなんだから」

 

ベルは、雷に打たれたような思いだった。

幼い頃から「勇者になる」「英雄になる」「救世主になる」と楽しそうに夢を語っていた少女の言葉が、今になって重みとなってベルにのしかかって来るのだから。

 

(でも、僕は。)

 

ベルは、心の中で炎が燃えるのを感じる。

怒りではない。憎しみでもない。それは、尊き聖火。

女神ヘスティアが与えたものではない、透明な魂。

 

(アエルテスが、「世界の英雄」になるのなら)

 

じわり、とベルは背中に熱が帯びるのを感じる。

 

(僕は、「誰かの英雄」になりたい。)

 

それは誰でもない。ウィーネでも、リリでも、ヴェルフでも、ヘスティアでも、春姫でも、シルでも、アエルテスでもない。

大切な人を守りたい、という強い願い。人が抱くに相応しい、英雄の大望である。

 

「やっぱり、アエルテスは僕が止めます。僕はウィーネを助けたい。理由とか理屈とかじゃない、僕がそうしたいからそうするんだ。」

 

緊迫感のあったファミリアの空気が明るくなる。

彼らは、一様にベルに惹かれて集まって来た者たち。そのベルが「やる」と言ったならば、全力で手伝わねば、それは不義理であるのだから。

 

「決まりだね!決行は今日の夜!アエルテス君もまだ動いてはいないだろうし、指定された時間に指定された場所へ!頑張るんだぞ、キミたち!」

 

ヘスティアの檄に、勇ましい声をあげる英雄たち。

もはや彼らの目に迷いはなかった。

 

 

一方そのころ。

アエルテスのステイタスシートを眺めていたロキはため息をつく。一見、何の変わりもないものだったが…彼女に生えかけている「可能性」に溜息をついたのだ。

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.3

《基礎アビリティ》

力:C648 耐久:B703 器用:C677 敏捷:C605 魔力:C696

《発展アビリティ》

不屈:H 解放:I

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

・解放式【エン・リヴィオ】

【フォルネス・イグニオン】

・侵食魔法

・命を削る黒焔を纏い、射出する。

・詠唱式『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』

【】

《スキル》

逆境奮起(アグニ・コロナ)

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

・刻印顕現中、成長補正

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

《発現可能スキル》秘匿

処刑人(エクスキューショナー)】削除済み

・対魔物戦闘時、全能力の高補正

・魔石を砕いた場合、永続的な強化を獲得

・六境転倒

・人倫喪失

──────────────────

 

「ないわ………」

 

顔を手で覆い、自身の手で消した【処刑人】という名のスキルの効果を見る。ともすれば、可能性を摘む行為に他ならない──────だが、きっとマトモな神ならば誰だってこうする。

 

「ねえ聞いて!アエルテスがね!」

 

「なんや、ティオナ…今ちょっとだいぶ……いや結構凹んでんねん。ちょっと横にさせてくれん?」

 

「違うの!あの子…なんて言うんだっけ、ほら…おとぎ話のお姫様にそっくりになってて…ニーベルングの復讐姫みたいな…つまり!なんかやばいかも!」

 

「そういうことならオレもあるぜ、あの野郎ォ…完全にキマってやがる。初めてここに来た時みてェに、テメェを英雄か何かだと疑ってねえような、オレたちには計り知れねぇ何かに急かされてるような目をしてやがった」

 

ファミリア幹部二人の報告に、ロキは顔を顰める。またお気に入りの眷属(こども)が無茶をしようとしている、と分かったからだ。

 

「それで、君たちはみすみす彼女を行かせたのかい?」

 

扉に寄っ掛かり、腕を組んで呆れながら言うフィン。アエルテスを独りにしないのではなかったのか、と言いたげな瞳で二人を見る。

 

「ん〜、なんていうか。それは違くない?もちろん、あたしが手伝ってもいいんだけどさ〜。それじゃ英雄っぽくなーい」

 

「戦士が命懸けてやるつってんだ、不粋な真似はしねぇよ」

 

きっぱりと告げる二人に、フィンは溜息をつく。ロキの方を見ても、首を横に振るばかりだ。どうやら、ロキでさえ何も聞かされてないらしい…と諦めるフィン。

 

「あの…私の部屋にこんなのが置いてあったんだけど。」

 

自室から戻ってきたアイズが、一枚の紙切れを渡す。それを読んだ幹部たちは、その内容について戦慄することになる。

その、内容とは──────。

 

『救世の使命を果たす。一週間…いや一ヶ月……待って、一年!そう、一年と半年経って戻らなければ、俺の墓碑には魔物の灰を撒いてくれ。───無名の英雄より』

 

「なんや結構余裕そうやなかいか!!!!!!!」

 

ロキの絶叫が『黄昏の館』に響き渡った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「良かったのか?俺たちの味方についちまってよ」

 

俺の隣で鳥人(ハーピィ)を拷問するディックスに、俺は魔物の悲鳴を聞きながら紅茶を啜る。

ここは22階層の中で隠された魔物の湧かない場所。根城にするならここが一番らしい。

 

「良い。これもベルを守ることにつながる。たとえ俺がアイツらと敵対しようともな」

 

「運命とやらの導きか?」

 

「……どうやら、運命は俺に殺戮者になることを望んでいるらしくてな。神フレイヤからも注意されたよ。だがな──────俺を自由にして良いのは、俺だけ……だろ?ディックス」

 

「ああ、そうだ。運命から、血から、呪縛から逃れられる瞬間ってのは良い。俺を自由にして良いのは俺だけ、それは誰にも否定できねえ。出来やしねえ」

 

拳をこつん、とぶつけ合って笑う。目の前の陰惨な光景から目を背ければ、そこには美しい友情があった。

 

「な……ぜ…こんな、ことを……!」

 

ディックスと楽しく喋っていると、ハーピィがそう問いかけてきた。どうやら知能は高いらしい。ディックスたちが秘密裏に捕らえていた異端児(ゼノス)たちを見て、俺は学んだ。

 

異端児(ゼノス)にも、頭のいい奴と悪い奴がいると。

 

「さあな…なんでだと思う?ハーピィ」

 

「よくも……私を…騙した……!ベル・クラネルの名前を出して……!」

 

「そうすれば信じてしまうお前が悪い。さて……いい加減隠し里とやらを吐く気にはなったか」

 

近づこうとすると、ハーピィは羽刃を飛ばしてきた。俺はそれをノールックで躱し、詠唱を済ませておいた魔法を使う。

 

「【フォルネス・イグニオン】」

 

人間のそれと変わらない絶叫が響き渡る。こいつは既に他のディックスの仲間に色々された後で酷い匂いがしていたから、ちょうど良かった。

これで一匹。もう後には戻れない。ベルとは敵対する定めにある。

 

「……あれ、まだ生きてんだ。しぶといね…」

 

身体が半分焼け残り、ギリギリ生きながらえているハーピィ。なんともしぶとい奴だ。流石は強化種と言ったところか。

ヘルメスから渡された時計を見て、時刻を確認する。そろそろベル達が20階層に着く頃合いだな。

 

「俺はそろそろ行く。ハメを外しすぎんなよ?ディックス」

 

「ああ。また後でなァ、アエルテス」

 

グッドサインを送り合い、俺は20階層に行き…魔物を狩りながらベルたちの気配を探る。なるほど、洞窟に入って行ったのか。

追って確かめるとしよう。

 

「と、止まってくださいぃ……」

 

だが、その足を止める者がいた。黒い長髪に、綺麗な垂れ目、オドオドとした表情の少女────カサンドラ・イリオンがいた。

こうして会うのは実に戦争遊戯(ウォーゲーム)以来だな。懐かしいものだ。

 

「どうした?困りごとか。怪我をしているなら、ポーションはいくつかあるが…」

 

「え、あの…違くて……頼まれてるんです。あなたを足止めするように……ダフネちゃんは猛反対したんだけど…今、あなたを行かせると、最悪の予言が実現しちゃうから…」

 

「ほう、聞かせてくれ。あ、ちょっと待っててね。俺の近くでしゃがんで。少し熱いよ」

 

フレイモスから黄金の炎刃を円状に振い、近くの木々を軒並み切り倒していく。こうすることで炎上し、しばらくは魔物も湧かなくなる。

リューさんの忠告通り、威力は抑えめで、破壊しすぎないようにしている。

 

「ひぃ……え、えっとですね。『白兎は竜を連れ、闇の奥底へと沈んでゆく。汝、心せよ。壊滅の焔は迫る。汝、心せよ。獣狩りの夜を終わらせたくば、汝の献身を以て火を鎮めよ』…って」

 

「ふうん。いいね、じゃあ…今から18階層まで送り返すからね。カサンドラちゃんだっけ?あんま無茶したらダメだぜ、ここは危険だからな」

 

「わっ、あっ、離してくださいぃ…!せ、せめてお米様抱っこじゃなくてお姫様抱っこがぁ…!」

 

「君以外とふてぶてしいな?」

 

ベルの気配は動かなくなった。位置は特定した…あとはカサンドラを連れて18階層まで走り、そのまま戻ってくるだけだ。

Lv.3ともなれば、たった2階層踏破なんて余裕だ。

 

しかし……困ったのは、その後だった。

 

「お願いしますぅぅ…!見捨てないでぇ…!わたし一人じゃ地上に帰れなくてぇ…」

 

「用事が済んだら帰してあげるから!ねえ離して!うおっこいつ力強っ!?」

 

結構、見かけたパーティにカサンドラを押し付けるのに2時間も掛かってしまった。ここから20階層までは30分程度。合計3時間のロスだ。

あまりにも手痛すぎる妨害に俺は舌を巻いた。

 

そして、20階層。ベルたちのいる洞窟での気配を探り……辿り着いた。だが、ここで飛び出すのはド三流。

奴らは楽しそうに宴を開いているようだ。中からは、ベルとリドの話し声が聞こえる。

 

「リドさん、僕のアエルテスはきっと貴方たちを襲います。だから、その時は……僕を呼んでください。そうしたら、僕がアエルテスを止めます。」

 

「ベルっちってアエっちの親友だったのか?アエっちはまあ、確かに魔物嫌いなのかもしれねぇけどよ。でも、話が通じねえ相手じゃねえよ。」

 

「それは、僕が一番知ってます。でも、アエルテスは一度決めたことは必ず実行します。だから…」

 

「ただまぁ、俺っち達の中にアエっちを恨んでる奴は多い。ラミュスが傷つけられたってのもあるしな。俺っちとアエっち、ベルっちとアエっちなら分かり合えるのかも知れねぇけど──── 異端児(ゼノス)とはもう無理だ」

 

訪れる沈黙。なるほど、リドは魔物にしては出来た奴だと思ったが…どうやら奴だけは他と何か違うようだ。

どこか達観しているというか、大人だ。

 

というかベル。さっきしれっと「僕のアエルテス」呼ばわりしなかったか?俺はどちらかと言えば「ロキのアエルテス」なんだが。

こいつめ、最近遊んであげてないから妬いてんのか?

 

「…とりあえず、リドは保留か」

 

奴には聞きたいことがある。一番話が通じそうで、人を殺してないと言っていたからな。人を殺していないのなら……まあ、場合によっては許してやらなくもない。

 

「……だが、その他は皆殺し決定だな」

 

フレイモスの柄を、静かに握りしめた。




【スキル紹介】
処刑人(エクスキューショナー)
・対魔物戦闘時、全能力の高補正
・魔石を砕いた場合、永続的な強化を獲得
・六境転倒
・人倫喪失
アエルテスに生える可能性があったスキル。現在はロキによって削除され、封印されている。使えば使うほど強くなる性質があるが、人間性を失う諸刃の剣。
もしアエルテス本人がこれを見た場合、即座に消してくれと嘆願するほどの代物。要するにゴミ。生えるきっかけになったのは、【フォルネス・イグニオン】で魔物を殺戮して回っていたこと。
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