自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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敵対者(モンスター)

 

皆殺し決定、とは言ったものの。

正直な話、俺一人で異端児(ゼノス)を狩り切れるとは思わない。Lv.3相当以上の魔物がわんさかいるのだ、普通に考えて勝てるわけないだろ。

 

ではどうするか。

罠に嵌める?なるほど、確かに効果的かもしれない。

だが想像してみよう。オッタル師匠を落とし穴やシビレ罠に掛けたところで、易々と突破されるだろう。

なんなら、俺だけでも罠だけなら余裕で切り抜けられる。

 

Lv.3の生命体とは、得てしてそういうものだ。

そこで選んだのは──────。

 

「なあ、俺っちは確かに学がないのは認めるけどよ。いくらなんでも一騎打ちを挑んでくるのはバカなんじゃねえか?」

 

「俺は負けん!」

 

「それはいいんだけどよ…なんかこう、もっと罠に嵌めたりとか、毒盛ったりとか…なかったのか?」

 

「それは勇者の行いじゃない。正々堂々、正面から叩き殺してやる」

 

異端児(ゼノス)との一騎打ちによる殲滅だ。

いやまあ、俺的には複数vs俺の構図の方が有利を取れるんだが。効率は悪いと思う。でもドラクエの勇者だって幹部を一人一人抹殺して回っていたんだから、これが王道だ。

 

「それを…異端児(ゼノス)みんなの前に現れて堂々と言うのはどうなんだ?」

 

「リド、ソンナ奴サッサト片付ケテシマエ!」

 

「がんばれー!リドー!」

 

ベルたちがいなくなったのを見計らって、俺は隠れ里とやらに入っていき、リドたちに宣戦布告したのだ。

フェルズもその場に居合わせていたので、手を振ると恐れ慄いてしまった。

 

「そもそも、アエっちは何で俺たちを敵視するんだ?モンスターだから、ってだけじゃねえだろう」

 

「仲間をお前たちに殺された。そして、お前たちは強化種、ギルド指定の討伐対象になり得る。」

 

「………どういうことだ?俺っちたちは撃退はしても殺しはしねぇ。グロスも過激派だが、誓って殺しはやってねえはずだ!」

 

「ならば、この紋章に見覚えはないか!」

 

懐から【ロキ・ファミリア】の徽章(エンブレム)を取り出し、リドを睨みつける。きっと、この徽章(エンブレム)の持ち主は無念のうちに死んだのだろう。

人は死ねば終わりだ。魔物どもとは違う。

 

「それは…ラミュスがよく作ってる布の……まさか」

 

「そうだ!お前たちが殺した、【ロキ・ファミリア】の団員たちの誇りだ!覚悟しろ、敵対者(モンスター)…今宵、悪は刈り取られるだろう!」

 

指を差し、リドたちにフレイモスを向ける。

だが、リドの反応は芳しくない。思い当たる節でもあったのだろうか。

 

「……アエっち、もしかすると…俺っち達はすごい思い違いをしてる可能性がある」

 

「何だと?どう言う意味だそれは」

 

「それが……」

 

リド曰く、ラミュスというラミアは古参のメンバーであり、知恵者であるが、ある時を境に丸切り人格が変わってしまったらしく、それまでは人間に対して穏健派だったのが、急に敵対派に変わったのだとか。

 

「けど、今思えば……最初から隠してただけなのかもな。ラミュスは─────俺っち達の願いまで踏み躙りかねないってのか」

 

「なるほどな…お前たちの中の過激派は人を殺さないのか?」

 

「ああ。そんなことをしちまえば…俺っち達は皆殺しにされるに決まってる。それこそ、アエっちみてえにな」

 

ふむ。つまり、俺が倒すべきはラミュスという異端児(ゼノス)ということか。そうなれば…話は早い。敵対する相手が変わったからか、首筋の痛みも消えている。

何をもって「苦境」とするかは、正直俺にもわからなかったが─────少なくとも、異端児(ゼノス)すべてを相手取ろうとしていた状況からは一変したということだろう。

 

「で、どうするんだ?アエっち。俺っち達と戦うのか……それとも、ラミュスを倒すのか。あいつは今、下層にいるはずだが」

 

「ああ、下層に向かう。だが、忘れないでくれ。もしお前たちが人間を傷つけ、奪い、殺すのなら……その時は、俺がお前たちを責任とって皆殺しにする。」

 

「……肝に銘じとく。だからどうか、俺っちたちの夢を…守ってくれ。」

 

つまり、これは────ラミュスを殺せと、そういうことなのだろうな。やりきれない表情をしているが、リドはこの瞬間、自分たちの夢と、仲間だったものを天秤にかけたのだろう。

 

「任せろ。俺はヘリオドーンのアエルテス。人に仇なす者たちの敵であるが故に」

 

そうして、俺は下層に向かったのだった。

そこまでが……昨日の記憶である。

 

・・

・・・

 

そして、現在。

俺は30階層、『密林の峡谷』で、崩れ落ちた木の中で眼を覚ます。

 

「邪魔だ……燃え尽きろ!」

 

木を纏めて吹き飛ばし、燃え盛る外套が俺の命の無事を伝える。目の前には、恐れ慄く欠けた耳の獣人と、その隣で妖艶に微笑む蛇の瞳孔を持つ女。

片方は、俺をこの間『巨蒼の滝(グレートフォール)』の滝壺に落としやがったカス。

 

もう片方は─────おそらく、奴がラミュスだ。

 

「どいつもこいつも、【アストレア・ファミリア】の女どもはバケモンばっかか!?あの時テメェは死んだはずだろうが…!アリーゼ・ローヴェル!」

 

「誰だよそりゃあ…いきなり階段ごと爆破しやがって。俺はヘリオドーンのアエルテス。下層であってぶりだな?ええ?」

 

「騙されないぞ!!【疾風(リオン)】にあの『厄災』ごと消されたはずだろうが…!なんなんだテメェはマジでよ…!」

 

男は錯乱している。ラミュスが男の側に寄り添い、「ジュラ様」と口にする。なるほど、ジュラというのか。覚えたぞ。

 

「ふふっ、ご主人様がすみませんね。ワタシはラミュス。またお会いしましたね…『黄金の炎』。」

 

「魔石を食って人に化けたか、気持ち悪い生態だな。」

 

「魔物にだけ許された神秘です♪」

 

ジュラにしなだれかかるラミュス。異端児(ゼノス)ってのはこんなのばっかりか。人間の弱い部分に付け込み、入り込んでくる。……害獣め。

どうせ、ラミュスは俺がここまで来ることを読んでいたのだろう。

 

「御託は良い。ジュラ、アンタは半殺しにして【ガネーシャ・ファミリア】に突き出す。ラミュス、お前を殺す」

 

「ふふっ、御託をべらべらと並べているのはアエルテス様ではありませんか」

 

「ああ。もう済んでいるからな……【エン・リヴィオ】」

 

ジュラの片腕が吹き飛ぶ。前に突き落とされていた時につけていたのが功を奏したな。俺自身の魔法効果が切れたとしても、他人に付与したものは消えることはない。

思わず笑顔が浮かんでくる。動揺して、無様に転げ回る「悪」。

 

「く、くそっ…!!やれ、やっちまえラミュス!俺の最高傑作ッ!」

 

「御意に…♡」

 

巻物を取り出したかと思うと、ラミュスは指から血を出し、広げた巻物に血を刻む。それと同時に、大きな煙と共に巨大な蛇が出現する。

……口寄せの術かよ。下界の神秘ってやつだろうか?

 

「ワタシはモンスターにしてモンスターを操る者……蛇王妃(ロード・オブ・ラミア)のラミュス!さようなら、アエルテス様。行きなさい、アクア・サーペント!」

 

ごう、と音を立ててアクア・サーペントが突撃してくる。それに合わせて、俺は横っ飛びで回避し、フレイモスで漆黒の炎刃を放出しながら叩き斬る。

命を削る斬撃だ。生半可なことで、この斬撃をまともに喰らった生きていられるわけがない。

 

「あら、やられてしまいましたか。では、こういうのはどうでしょう?おいでなさい…『氷鷹』」

 

ラミュスが取り出したるは魔剣。どこからか奪ったか、盗んだものだろう。炎が消えてしまえば、俺のバフは掛け直しだ。

それを狙ったのだろうが……甘い。

 

「戦いの最中に喋るとは、余裕そうだな敵対者(モンスター)!」

 

「……っ!くうっ!」

 

【リュクシオン】の炎を脚から噴射し、爆速で加速して斬りかかる。かろうじて持っていた鉄扇で防ぐも、俺の力に押し負けて大きく後退する。

速さ×力は強さだ。それを証明するかのように、俺は追撃の漆黒炎刃を飛ばす。

 

「ふっ…!はぁっ!砕けなさい、『氷鷹』っ!」

 

莫大な氷が押し寄せてくる。奴の手元で魔剣が砕け散るのが見えた。攻めるなら────今だ。

 

「おおおおッ!!!」

 

炎が縮小し、身体が冷える…が、長剣のメリットは取り回しが良く、ある程度の質量も担保しているというところにある。

向かってくる氷山を炎刃と共に斬り裂きながら、受け切れない氷は受けつつ突き進む。

 

「は、ははは……!ジュラ様、ご覧ください!やりましたよ、あなたの敵を……ワタシの敵を、魔剣で討ちました!」

 

「それはどうかな。」

 

剣を振り抜き、ラミュスの首を半分ほど切断する。だが、肝心の魔石は破壊できていない。焦って切断面を抑えているが、治癒の魔法を使う気配はない。

トドメを刺そうと近づく。アイズ先輩は、その瞬間こそが最も油断すると言っていた。

 

なので、念には念を入れて─────。

 

「『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』」

 

「ぜひゅ……ひゅうっ……!」

 

「耐えろよ?【フォルネス・イグニオン】ッ!」

 

ラミュスが炎に包まれる。だが、悲鳴は聞こえてこない。喉が裂かれていようと、耐えられるものではないはず。

それに……奴は、武器を取り出すそぶりを見せる。

 

瞬間、鉄扇が俺の頬を掠める。

 

「っ、どういうことだ!」

 

「魔石を口の中に含んでおいたのですよ!とっておきを最初に切らされるとは…もう油断はしません!」

 

賢いな。焼けた側から完治させれば炎も消えるか。なるほど、リドから知恵者と呼ばれるだけはある。ならば、俺はその知謀を真正面から打ち砕くとしよう。

 

「来なさい、『大翼の獅子(グリフォン)』!」

 

「ちっ…!上か!」

 

ラミュスが大翼の獅子(グリフォン)を召喚し、空へ駆けていく。途中でゲイルプテラに襲撃されているようだが、それでもどんどんと上へ上がっていく。

 

「何がしたいんだ…?っ、まさか!あの先は……」

 

中層への直通路。大樹の迷宮へと繋がるが、魔物の集中砲火に遭うという危険すぎる道。魔法使いの集中砲火でもなければ全滅必至のルートだ。

そうだ、完全に失念していた。俺の目的はラミュスの討伐だが……もし、広いダンジョンの中に逃げられでもしたら、俺はきっと見失ってしまう。

 

「考えたな、畜生ッ!」

 

「追いかけられるものなら来てみなさい!ワタシは逃げられても、ジュラ様は粉々ですよ!」

 

「え!?ま、待ってくれラミュス!置いていかないでくれ!」

 

哀れジュラ。だが見捨てるのは勇者ではない……であれば。火精霊の護衣(サラマンダーウール)製の背嚢(バックパック)にジュラを入れ、連絡路へ駆け出す。

どうせ腕を失った冒険者ひとりだ。運ぶのは対して難しくはない。

 

「ま、待て!なぜオレを助ける…!?お前は、【アストレア・ファミリア】のクソ女で!」

 

「黙って助けられてろ!俺は…人を見捨てることはしねぇ!」

 

連絡路には一応階段のような構造物があるが、足場は悪い。ましてや、炎に包まれている俺とは頗る相性が悪いだろう。

それに加えて、迫り来る魔物たち。飛行型モンスターのバーゲンセールかのように、俺たちに襲い来る。

 

「はぁっ!でぇりゃっ!」

 

飛来してきたハーピィを走りながら叩き斬り、閃燕(イグアス)を真二つに切り分ける。

 

「4時の方向、セイレーン3匹だ!なんとかしろぉっ!」

 

「合点!」

 

ジュラの悲鳴に呼応して、炎刃を飛ばす。2体は切り裂けたが、もう一体は無事だ。続けて怪音波を飛ばしてくるが、俺はこれを魔法で受け、同時に跳躍。セイレーンの顔面を踏みつけにし、それをクッションに再跳躍。

 

「歯ぁ食いしばれ、舌噛むぞッ!」

 

爆発で加速し、瞬間的に音速を超える速度を出して再び連絡路を走る。閃燕(イグアス)が群れをなして襲い来るが、周囲に炎を拡散させて威力を減衰。あとは俺が受けることで対処する。

 

「……っ、げほ!まだまだっ!」

 

「ゲイルプテラだぁっ!火を噴くぞアイツら!」

 

「好都合ッ!」

 

吹いてきた炎をフレイモスで吸収し、今まで試したことのない荒技に挑んでみる。全ての炎を足に集約させ……そのまま跳ぶ!再び爆速で加速し、ゲイルプテラの首を叩き斬りながら堕とす。

そして、そこで急ブレーキを掛けながら、身体を回転させ反動を最低限まで減らしてから、二体、三体と斬って上がっていく。

 

「【暁の直光(エリオス・レイ)】ッ!!!」

 

足りない出力はフレイモスの放射機能で飛ぶ。

 

「届けっ……!届けえっ!!!」

 

ジュラの悲鳴にも似た懇願は叶い、俺たちは『大樹の迷宮』へと突入する。そのままジュラを降ろし、短刀を投げ渡す。

あとは自分でなんとかしろ。

 

「24階層まで来たが……ジュラ、18階層までは行けるか?」

 

「………奥の手を使えばな…」

 

「そうか。強く生きろよ」

 

ジュラを置いて、そのまま走り出す。終ぞ、追ってくることはなかった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ダンジョン18階層に位置する『リヴィラの街』が壊滅したのは、僅か時間にして一時間と掛からなかったという。

ディックス率いる【イケロス・ファミリア】によって異端児(ゼノス)であるラーニェの隊が殲滅され、その報復としての侵攻。

 

しかし人的被害は、たった3人だけ……の、はずだった。

 

突如として現れた、『獅子に跨る女(ラミュス)』が放った攻囲攻撃魔法により、大勢の死者が生まれたのだ。

 

「ラミュス…!何故殺シタ!?殺サナクトモ、道ハアッタノニ…ッ!」

 

半人半蛇(ラミア)のラウラが、自分とはまるで姿を変えたラミュスに詰め寄る。元は同じラミアであっても、ラミュスは「限りなく人に近い姿」をとっている。

だが、その精神性は────怪物と人間、真逆のそれであった。

 

「ラウラ…あなたは分かっていないのよ。黄金の炎はワタシ達を許さない。必ずアレは異端児(ゼノス)を殲滅するわ」

 

「コンナ事ヲ起コシタナラ……誰ダッテ…アナタを許サナイデショウ。異端児(ゼノス)ジャナイ……アナタヲ。」

 

「ふふ……それはどうかしら。ワタシは分かるのよ…だって、ワタシにも宿っているもの。」

 

ラミュスは服をはだけさせ、胸元にしかと刻まれた塔を包む炎の紋章を見せる。ラウラは目を見開いて、そして睨みつける。

 

「ダカラ何ダッテ言ウノ…!運命ナンテ無イ、決メルノハ、イツダッテ私タチダ。」

 

「運命には逆らえないのよ。ワタシはただ、心の奥底で叫ぶ声に従っただけ……人間を殺せ、全てを奪え、神々を地に下し、平伏させろ……ってね♪」

 

話にならない、と言わんばかりにラウラはグロス達の元へと去っていく。ラミュスは、焼け残った『リヴィラの街』を徘徊し…逃げ遅れた生き残りの命を刈り取っていった。

 

 

一方、地上では。

 

「緊急事態発生!緊急事態発生!リヴィラの街が壊滅しました!武装したモンスターによる大規模侵攻によるものであり、またLv.5相当のモンスターも見られたとされています!」

 

オラリオ中に鳴り響いた警告。リヴィラの街から命からがら帰ってきた冒険者たちは、口々に言う。「居てはならないものがいる」と。

それと同時に、【ロキ・ファミリア】でなければならない、とも。

 

「第二級冒険者及び、Cランク以上のファミリアには出動を命じます!これは任務(ミッション)で…え!?は、はい…分かりました。【ガネーシャ・ファミリア】以外の冒険者は待機です!待機でお願いします!」

 

ギルド上層部から出された急報。それは、名だたるファミリアに不信感を与えることとなった。独自の情報網を持つファミリアであればあるほど、それは顕著になる。

 

「アエたんは?まだ帰ってきてないんか」

 

「この騒ぎだ…巻き込まれていないといいが。18階層より下にいたなら、きっと騒ぎに気付いて戻ってくるだろう。」

 

ロキはお気に入り(アエルテス)の反応がどんどん強大になっていっているのを感じ、フィン・ディムナはカケラも疼かない親指に静観を決め込む。

そんな中、アイズ・ヴァレンシュタインはティオナとティオネの二人がかりに拘束され、足止めを喰らっていた。

 

「止めないで。行かなきゃ…私が行かないと……」

 

「アエルテスが心配なのは分かるけどさ!ちょっと、止まって…力強っ!?ねえ、アエルテスなら大丈夫だよ!!」

 

「そうよ……!なんだかんだで、いつもしれっと帰ってきてるじゃない……っ!うおっ力強っ!?」

 

ダンジョンの入り口へと向かおうとするアイズに引きずられ、飼い犬の散歩中に抵抗をやめた飼い主のような様相を呈している。

 

(ずっと訓練してあげてた私だから分かる……あの子は、きっとタダでは帰ってこない。ひとりで戦わせたらダメ…)

 

アイズが足を進めている一方で、リュー・リオンとアイシャ・ベルカ、そしてアスフィ・アル・アンドロメダの三人娘は路地裏に集結していた。

 

「借りを返しな、エルフ」

 

「リオン、お願いします。ヘルメス様調べによれば、ベル・クラネルがこの事件に深く関わっているようです。」

 

「クラネルさんが…?しかし…」

 

リューがやや難色を示した瞬間、オラリオ中に再びアナウンスが流れ始める。

 

『リヴィラの街にて【暁炎(エリュオ)】の交戦跡が確認されたとの情報が入りました!武装したモンスターの一部に、彼女がつけた黄金の炎が燻っていたとのことです!』

 

それを聞き、オラリオが()()()。一度オラリオに席巻した英雄を、死なせてなるものかと、とある百合豚は吠え、彼女に救われた人々が剣を掲げる。

鬨の声を聞くまでもなく──────リュー・リオンは、正義の使者は、躊躇うことなく木刀を手に取った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

18階層は、地獄の様相だった。

まず、()()()()()の気配がない。その上に、岩石の槍が至る所に突き刺さっている。復興は難しいだろう。

 

頭が冷たくなっていく感覚がする。

 

きっと、ここにいた人たちは今日死ぬなんてカケラも思っちゃいなかったろう。

 

「ああ、そうか……テメェは…」

 

気配を探り、敵対者(ラミュス)を見つける。

俺は静かにその方角に歩いていき、燃え盛る身体を奮い立たせながら、フレイモスを握りしめる。

 

「あら、随分と早いご帰還ですこと」

 

無言で敵対者(ラミュス)に向かって進む。

その途中で、無念の表情で死んだ冒険者の死体を見た。絶望に満ちた商人の死顔を見た。だからこそ、俺は……こいつを、討たねばならない。

 

「あら怖い。こんなに怖かったら……助けを呼びたくなってしまいますね♪ですから────アステリオス、やってしまいなさい」

 

青銅の肌を持つ猛牛(オックス)が、雷光と共に現れる。その表情は怒りに満ちている。名前付きのモンスター、ということは彼もまた異端児(ゼノス)なのだろう。

 

「……両刃斧(ラビュリス)か。大剣使いのミノタウロスなら…知り合いにいたんだがな」

 

「………その輝き。憶えている。かつて我々は同門の徒だった…あの赤き雷を見る前に、心を通わせた妹弟子妹がいた。」

 

「やっぱそうか……お前とアイツ、雰囲気が似てたからな…」

 

驚きながらも、相手を見る。圧倒的強者。背中はオッタル師匠と戦った時並みに熱くなり、首筋は言わずもがなだ。

こいつは…そうか、オッタル師匠に近づけたんだな。

 

「ならば我が名を再び刻め。兄弟子。俺はヘリオドーンのアエルテス。お前がその邪悪なる魔を守ると言うのならば……お前の魔石(しんぞう)に剣を突き立てよう。」

 

「……懐かしい名乗りだ。お前は、いつも名乗っていたな…ならば、自分も名乗らせてもらおう。」

 

兄弟子(ミノタウロス)は、両刃斧(ラビュリス)を地面に突き立て、咆哮(ハウル)と共にその名を叫ぶ。

 

「我が名アステリオス!いつか見た猛き雷光の名!アエルテス、我が妹弟子よ……お前が同胞を傷つけるのならば、俺はお前の魂に敗北を刻もう!」

 

びりびりと空気が震える。ラミュスはアステリオスの影に隠れてすでに逃げ出している。どうやら…アステリオスは奴の凶行を知らないらしい。

なるほど、ならば……剣で語り合う他はあるまい。

 

「行くぞ。」

 

「胸を貸してやる……来い、妹弟子」

 

ごう、と炎を足に溜め、その直後に剣を振り抜く。だが、それを易々と防いだアステリオスはニヤリと笑い、俺の腹に拳を捩じ込む。

それを回転して軽傷で済ませ、腕に一撃を入れる。わずかな切れ込みが入るのみだ。

 

「腕を上げたな、アエルテスよ…だが、それゆえに残念でならない。」

 

「はぁ……はぁ………何を」

 

「満身創痍のお前と戦ったところで、それは闘争にはならん。叶うなら、万全のお前と闘いたかった。」

 

「……すまんな、兄弟子。下層からダッシュで上がってきたばっかでさ」

 

「終わらせてやる。あとはゆっくり────休めッ!」

 

斧型の魔剣を振り下ろしたアステリオスは、電撃を放つと同時に俺の顔面に拳を叩き込もうとしてくる。躱そうにも、電撃が俺を痺れさせて動かさない。

 

というか、その前に……電撃で…オチる────。

 

「っ、ごはっ!」

 

前に、避けようとしたから狙いが逸れたのか、胸元を激しく強打され、無様に地面に転がる。今ので、色々な骨が逝った。

フレイモスを杖にして、なんとか立ち上がるも、相手は殆ど万全。勝てるわけがない。

 

「……見事。」

 

「どう、した……あに、弟子…おれは、まだ…やれるぞ」

 

息も絶え絶えだ。呼吸も苦しい。肺に骨のかけらでも突き刺さったのか、息をするだけでゴロゴロと音が鳴る。

 

「………同胞に仇為した冒険者は、今死んだ。ここにいるのは、我が妹弟子のみよ」

 

「…クソッタレ、かならず…おいつく……」

 

「待っている。」

 

意識の限界を迎え、倒れる直前。

俺は、聞き覚えのある誰か(リュー)の悲鳴を聞いた。

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