自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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宿敵(ラミュス)

 

消えていく。

ぼんやりとした夢兆の中で、████という個が解け、混ざっていく感覚。

これは……俺の「死の記憶」だ。この夢を見るのは、いつぶりだろうか。

 

「          」

 

大きな光が俺を挽肉にして、存在を圧縮する。

たぶん、トラックだろう。5tかな。そんな益体もないことを考えながら、大切な思い出たちが糸になって解けていく。

くたばって消えたあの日、俺には何もなくなった。やっと見つけた縁を、白い輝きを、失いたくはない。失うわけにはいかない。

 

お前が俺に価値を与えてくれたんだ、ベル。

 

憧れているという言葉、向けられる目、この世界に独りぼっちの俺を、お前だけは認めてくれた。お前に語った物語の英雄に、俺はなれただろうか?

誰かに理解されたかった。誰かに愛されたかった。欺瞞と空虚で満ちた、空っぽの器を満たして欲しかった。

 

両親は、俺のことを愛さなかった。

見ていたのは、アエルテスという器だ。力を詰め込むことしか頭になく、Lv.4という大望を果たすための道具としてしか使わなかった。

 

「          」

 

さっきから誰だ?俺に語りかけてくるのは。

何も分からない。何も理解できない。だけど、暖かくて、懐かしい。──────俺が、ずっと求めていた神様…なのか?

 

「──────────」

 

やはり……そうだったのか。俺の旅路は神様に見られていた!ならば…起きなければ。神様、見ててくださいよぉ!

このヘリオドーンのアエルテス、貴方の期待に応えて見せましょう。

 

ああ、神よ!我が愛しの神よ…!俺は、きっと────。

 

「何を言うてんねん。アエたんの神はウチやろ」

 

……ロキ?いや、そんなはずはない。だって、俺は独りで…。

ベルとは…もう分かり合えないかもしれない。だって、俺はモンスターを殺さないといけない。でも、ベルはモンスターを救いたがってる。

本当の俺を受け入れてくれるひとなんて、もう、どこにもいない。

 

「阿呆。周りを見てみぃ。ホンマにアエたんは独りなんか、その目で、耳で、しっかり確認せえ!」

 

浮かんでくる、残響のこだま。それに触れると、声が聞こえてくる。

 

『アエルテス、今日も帰ってこないねー』

『ああ、心配だ。あの子は自分を勘定に入れていない。ふとした瞬間に消えてしまいそうな、そんな危うさがある』

 

これは、ティオナとリヴェリアさんか?俺は…こんなにも心配をかけていたのか。

 

『もっと、私たちに甘えてもいいんだけどねえ。第二級冒険者とはいえ、まだ14歳の子供なんだから。』

『アエルテスはガキじゃねえ。だが、大人でもねえ。大人ぶろうとしてるだけの、力の強え子供だ。』

『ベート、あの子の事になると随分と饒舌ね?』

『あんだけ吠えられる奴を、俺は侮辱しねえ。』

 

その声は、温かくて。俺と言う存在を認めてくれていて。

 

『アイズ、またバベルを眺めていたのかい?』

『うん。戻ってくるかもしれないから。』

 

俺には、帰りを待つ人たちがいるのだと。

生きて帰らなければならない理由があるのだと。俺を奮い立たせる。

 

「ようやっと、ウチを見たな。」

 

ああ。ロキ、いままでちゃんと向き合わなくてすまなかった。

俺は─────行くよ。

 

【ロキ・ファミリア】のアエルテスとして。

 

 

・・・

・・

 

 

 

「……【ノア・ヒール】!」

 

目を開ける。絶好調だ。みんなの声を聞いたからな。

俺はゆっくりと起き上がり、自分の身体が動くことを確かめる。目の前には、泣きじゃくるリューさんがいる。

そうだ、リューさんだって、俺の大切な友人だ。

 

「…良かった……ほんとうに、よかった……!」

 

抱きついてくるリューさん。なるほど、俺の血で汚れた床を見て理解した。俺は今の今まで死にかけていたのだろう。

痛む身体を抑え、ふらふらと近場の薬屋だった瓦礫を漁る。やはりあったか、回復のポーション。

 

「……アエルテス、駄目です…行ってはいけません。もし貴女が死んでしまえば、私は…」

 

「リューさん。俺はやっぱり正義の勇者だ。」

 

地面に突き立てられていたフレイモスを引き抜き、飾られていた黒い騎士のような装備を着込む。都合が良いことに、耐火仕様が施されている。

神よ、其はどこまで俺に愛をばら撒いてくれるのだろうか。

 

「みんなを泣かせるモンスターを…倒さないと。もう俺は、独りじゃないから。」

 

「アエルテス、貴方は…」

 

「だから……征くよ。世界を救いに…正義を為しに。」

 

リューさんに向けて、勇者のように微笑み、俺は足を踏み出す。誰もいないダンジョンをリューさんと共に歩き、地上へと出る。

道中で、リューさんができる限りの回復を施してくれた。そのせいで精神力疲労(マインドダウン)を起こしてしまい、今では俺の背中で眠っている。

 

「……貴女は…!よくぞ、生きて戻った!」

 

「朗報だ……【暁炎(エリュオ)】復活ッ!アエルテス・ヘリオドーン復活ッ!!!」

 

ダンジョンの入り口を警備していた【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちが色めき立つ。彼らは口々に言う。

完全に死んだと思われていた人間が甦り、そして凱旋を果たしたのだと。

 

「この人を頼む。話は彼女から聞いている……シャクティさんのことは気の毒だったな。生きているのなら、ゆっくり休ませてやってくれ」

 

リューさんを預け、俺は【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)へ足を進める。ダイダロス通りを通り、ロキの元へ。

……だが、その最中。俺は見てしまった。

 

「────ディックス?」

 

左半身を潰され、折れた槍を片手に、その心臓に儀礼剣を突き刺されている友人の姿を。その目から生気は失われており、無念と恐怖だけがあった。

ディックスの前で屈み、目を閉じさせ、黙祷する。

 

「……涙はここに置いていく。さようなら、ディックス。お前と過ごした時間は…得難いものだった。」

 

儀礼剣を引き抜き、懐に仕舞う。

友人(ディックス)を殺したのは、おそらくラミュスだろう。仇は討ってやる。そして、お前が輪廻に囚われないように、敵対者(ラミュス)の魂を灼いてやる。

 

「……ただいま、ロキ。」

 

「おかえり。話は…全部終わったら聞くわ。背中出し」

 

黙ってそれに従う。

そして、ロキの呟きと共に…俺は起き上がる。

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.4

《基礎アビリティ》

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

《発展アビリティ》

不屈:G 解放:H 狩人:I

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

・解放式【エン・リヴィオ】

【フォルネス・イグニオン】

・侵食魔法

・命を削る黒焔を纏い、射出する。

・詠唱式『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』

【】

《スキル》

逆境奮起(アグニ・コロナ)

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

・刻印顕現中、成長補正

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

──────────────────

 

「ランクアップ、おめでとさん。けど、ホンマに『狩人』で良かったん?」

 

そう尋ねてくるロキに、俺は無言で頷く。

今必要なのは、「特別」ではない。一度打倒したモンスターに対する補正を得られるという純然たる「力」だ。

 

「……端的に説明するわ。今、オラリオはめちゃくちゃな状況や。突然現れた謎の竜女(ヴィーヴル)を追い回してる最中でな、どこぞに隠れたのか、未だ捜索中や。」

 

聞くに、何かしらの要因で額石のない竜女(ヴィーヴル)が街に出現。そのままダイダロス通りに消え、ベルと共にその行方をくらませたのだという。

十中八九、ウィーネが暴走したのだろう。被害届は出ていないらしく、人的被害はゼロだとか。

 

「………ロキ、俺はずっとアンタに黙ってたことがある。」

 

立ち上がり、武器を手に取り、鎧を着込んでロキを見る。俺の言いたいことなんてお見通しかのように、その顔には物寂しげな表情が浮かんでいる。

 

「俺は、ロキを神として崇めたり、好きだと思ったことなんか────一度もない。」

 

「…………そっか、はは…ウチ、」

 

「でも。」

 

ロキの言葉を遮るように、言葉を重ねる。

 

「俺は、ロキ…アンタのことを、ずっとどこかで、親のように思ってた。そして、それはこれからも変わらない。」

 

俺を見つけてくれて、俺を気にかけてくれて、何から何まで世話を焼いてくれた。ロキは神のような、手の届かない存在なんかじゃない。

ロキは、俺の…【ロキ・ファミリア】の親だ。

 

「今までありがとう。これからもよろしく、ロキ」

 

これで心残りはないな。俺が今から行くのは、おそらく決死の闘争だ。言いたいことは、言えるうちに言っておかなければ。

さよならは言わない。俺は必ず生きて帰り、家族を安心させる。家族の心の平穏さえ守れない人間が、どうして勇者を名乗れようか。

 

「行ってきます。」

 

扉を開け、俺は街へと繰り出す。

その間際に、小さく。慈愛と安堵に満ちた声で「いってらっしゃい」と聞こえた。

 

 

ダイダロス通りに着くと、人は一人だって歩いてはいなかった。皆、モンスターの襲撃に怯えているのだろう。

気配を探り、ベルの気配を感じとる。高速で移動し、焦っているような…そんな気配。

 

「……これは…もしや。」

 

そんな中発見したのは、人造迷宮(クノッソス)への裏道。よくよく探ってみれば、魔物の匂いがする。リド達がここにいるのか?

中に入って調べようとした──────その時。

 

「も、モンスターが出たぞおっ!【リトル・ルーキー】も一緒だ!」

 

「ちっ…!後回しだ、今はベルが最優先…!」

 

ひとまず高いところから見つけようと、ダイダロス通りでも一際高い場所に登っていくと……【ロキ・ファミリア】の幹部陣が軒並み勢揃いしていた。

すでに気がついていたのか、フィン団長だけが俺の方を向き、にっこりと微笑む。

 

「おかえり、アエルテス。ロキに何か言われたかい?」

 

「ロキは俺のママだったかもしれん」

 

苦笑するフィン団長。いや、ロキはめちゃくちゃママみあるだろ。理解しないとは言わせない。俺よりも長く在籍してるんだからな。

そんなことを考えていると、ティオナが突進、もとい抱きついてくる。

 

「おかえりー!心配したんだからね!あれ?なんか雰囲気変わった?」

 

「レベルが上がった。俺は今…この世で最も強い」

 

「ってことはLv.4!?おめでとー!」

 

無邪気なティオナに手を引かれつつ、アイズ先輩のもとへ連れていかれる。しかし、アイズ先輩はそれどころではないらしい。

地上の光景を見て、冷たい表情と困惑を併せたような表情をしている。

 

「これは………」

 

「っ、何です!?」

 

アイズ先輩の呟きは妥当なものだった。俺たちの視界の先には、ウィーネを庇うベルの姿があったからだ。

確かに、これは絶句するわ。俺でもどうかと思う。動機としては理解できるが、だとしても悪手に過ぎる。

 

「モンスターを…庇ってるの?」

 

「そんな事が知れたら……あのフィン団長、黙ってませんね…」

 

「僕はここにいるんだけどね。おほん、ベル・クラネル!君が庇っているのはモンスターだ、どういうつもりかな?」

 

優しげな口調とは裏腹に、厳しく突き刺すような視線を向けるフィン団長。ものすごい気迫だ。Lv.1冒険者なんか、このオーラを浴びたらしめやかに失禁して爆発四散するんじゃなかろうか。

 

「危ないよー!君の後ろにいるのはLv.3くらいのモンスターでー!」

 

ティオナからの援護射撃。竜女(ヴィーヴル)希少種(レア)だが、それと同時に並大抵の冒険者よりも遥かに強力だ…と、ローズさんが教えてくれた。

つまり、今ベルがしているように槍で釘付けにされているとはいえ、竜女(ヴィーヴル)に背を向けて他所(俺たち)に注視しているというのは──────自殺行為とも言える。

 

「チッ…あの兎野郎。どけアイズ、俺がやる。ついて来いアエルテス、兎野郎はお前が抑えてろ」

 

「合点。いつでも出られるよ」

 

ナチュラルについて来いと言ってくるベート。なんだか認められている感じがして嬉しい。俺は喜び勇んでフレイモスを構える……が、フィン団長がそれを制止した。

 

「まぁ、彼の主張を聞いてみようじゃないか。それでいいね?ベート、アエルテス。」

 

「チッ……仕留め損なっても知らねェぞ」

 

【ロキ・ファミリア】の全員が、ベルの動向を見守る中。俺はひとり、確かに兄弟子(アステリオス)が近づいているのを察知していた。

あっちはまだ俺たちに気がついていないようだが、時間の問題だろう。なら、俺が発破を掛けてやるしかない。

 

「ベル、決めろ!お前はどうするのか!」

 

「アエルテス…!無事でよかった……!」

 

「俺のことはいい!お前、自分が何してるのか分かってるんだろうな!俺をズタズタにした奴らの仲間の前で立ち塞がるなんて、冗談のつもりか!?」

 

「違う!僕は………ぼ、僕は……」

 

安堵から一変、苦悩の表情へと変わったベル。可哀想だが、このままだと兄弟子がまとめてぶっ壊しにくるので…早めに決めてもらおう。

 

「僕の……僕の獲物だっ!だから……手を出さないでください!」

 

ぽかん、と呆れるファミリアの仲間達を見ながら、それは無理だろ……と思いつつ俺は地上に降り立つ。兄弟子はもう近くまで来ている。

ここで乱戦が起こるぐらいなら、もっとマシな場所でやるべきだ。たとえばそう、円形闘技場(コロッセウム)とか。

 

『アアアアッ!!』

 

「っ、ウィーネ!待って!」

 

槍を抜き去り、走り出すウィーネ。それを追いかけるようにベルもまた走り去る。

フィン団長にハンドサインで行ってくるように伝え、俺はベル達を追う。それと同時に、各地から咆哮が響き渡る。

 

「……っ、異端児(ゼノス)たちめ…!何をする気で……うお!!?」

 

『グォオオオオオオッ!』

 

走って追いかけていると、道の脇からリドが飛び出し、切り掛かって来る。だが、その動きは心なしか緩慢で、長剣で受けてみるととても軽いものだった。

なるほど、話したい事があるんだな?

 

「……良いか、斬り合いながらでいいから話を聞いてくれ!ラミュスが罪を追及しようとした仲間を殺して食った!」

 

「その罪とは!?」

 

「アステリオスを唆して、アエっちを襲わせたこと!そして、人間を襲って殺してたこと!他にも必要か!?」

 

Lv.5相当とLv.4の斬り合いは、戯れとはいえ大迫力だ。故に、こうして話していても案外バレなかったりする。

しかし、そうか。兄弟子は敵対者(ラミュス)に唆されていたのか。仲間想いの男なら、確かに「仲間を傷つけられた」として黙っているわけにもいかないのだろう。

 

「今じゃラミュスは俺っち達の中でも敵になった、なっちまった!」

 

「お前は手を汚したくないんだろ、なら……俺が始末してやるッ!」

 

「あんがとよ……見つけたら呼ぶからな。グォァァアアアアアッ!!!!!』

 

リドは叫び、離脱していく。ベル達の気配は遠い。一気に屋根上を駆けていくとしよう。気になるのは、ラミュスの動向だが……あの女の事だ、一番嫌なタイミングで襲って来るに違いない。

 

オラリオまで出てきた奴は、きっとその外に出ようと画策するだろう。そして、それが一番叶う位置は─────バベル!

 

バベルを振り向いた直後、その最上階で爆発が起こる。それと同時に、人影が落下していくのが見える。あれか。

 

「落下点からして…闘技場の近くか!」

 

ちょうど、ベル達が向かっている方面と同じでもある。傷ついた奴の行動原理なんて決まっている。魔石を喰らいに行くのだろう。

そして、狙うのは──────おそらく、ウィーネの魔石だ。

 

視界の先では、ウィーネがベルと向き合っている。そして、その影に、忍び寄る魔の手が……まずい、間に合わない。

 

「……くそっ、なんとかなれ…!ロキ、俺に翼を……!」

 

ウィーネの魔石(しんぞう)に、鋭いものが突き刺さった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ベル・クラネルの目の前で、胸を貫かれるウィーネ。

その胸からは、()()()()()が生えている。投げ、突き刺したのは、【イケロス・ファミリア】の副団長。グランである。

 

「ははは!やった、やってやったぞバケモノめ!見てるかァ、ディックス!オレはやった、やってやったぞ!」

 

狂笑するグランは、その直後に自身の右半身を抉り取られる。襲ったのは、唯一の回復リソースを奪われ、怒り狂ったラミュスであった。

だが、グランとてLv.4の精鋭。右半身を失ったぐらいでは、そう易々と死なない。

 

「いまだァァァ!!!!【リトル・ルーキー】ごと吹っ飛ばせぇええ!!!」

 

魔法が詠唱され、闘技場(コロッセウム)が揺れる。落ちていくベル・クラネルとウィーネを眺め、そして────自分のもとに跳んでくる、アエルテスの姿を見て、グランはニヤリと笑う。

 

「グランっ…!俺は………いや、もう眠ってくれ。俺が…仇を討ってやるからな。」

 

グランは、少しの時間を共にした少女の顔を見ると、少し安心したように、優しい焔に包まれ永い眠りについた。

 

(お前って、意外とよく泣くよな…)

 

最期に思ったのは──────そんな、他愛もないことだった。

 

ラミュスはそれをお構いなしに、先ほど食らった異端児(ゼノス)の魔石で生えた翼でアエルテスから離れようとする。

階下で、失われた命の蘇生という奇跡が起ころうとしているなか、二人の壊滅者は吼える。

 

「良い加減にしろぉおおおおおおおおッ!!!!」

 

「曙光を以て、お前に壊滅をくれてやろうッ!!!」

 

ラミュスは今や、翼の生えた美女────まさしく、天使のような姿を取っている。眺めていた魔法使いたちは、口々に「神の使徒だ」と言ったという。

対するアエルテスは、黄金の装飾が為された黒い全身鎧に、黄金の炎の外套(マント)をはためかせる、暗黒騎士のような姿を取っている。

 

「……神話の戦いだ」

 

誰かがそう口にした。

しかし、それは正確ではない。これは、大いなる意志に導かれた魔物と、救世の運命を勝手に背負おうとしている、凡人の戦いなのだから。

 

「はああああっ!!!」

 

「バケモノめっ……!」

 

ラミュスの放つ岩槍を黄金に燃ゆる長剣で斬り伏せ、獰猛な笑みでアエルテスが近づいていく。飛んでいるラミュスに対し、跳んでいるアエルテス。だが、その速度は段違いであった。

 

(なぜだっ…!?なぜ、地の利があるのにワタシが追い詰められる!?)

 

弱っているとはいえ、Lv.5上位相当にまで成ったラミュスだったが、受けたダメージといえばオッタルによる強打、そして落下によるダメージだ。

無論、無視できるダメージではないのは確かだが、それでも8割ほどの力は出るはずであった。

 

「不思議そうだな、羽虫(ラミュス)。」

 

剣の猛攻を鉄扇で防御しながら飛ぶラミュスに、アエルテスは淡々と告げる。

 

「俺のステイタス構成は、どれも格上殺し(ジャイアントキリング)に長けている。お前のようなのは、格好のカモなんだよ!」

 

フレイモスによる強殴打を受け、ラミュスは地面に叩きつけられる。その直後にアエルテスが黄金の炎刃と共に斬り込む。

空中戦から一転、地上戦に持ち込まれたラミュスは身体能力のゴリ押しでフレイモスを弾く…が、儀礼剣による追撃が襲いくる。

 

「長剣と儀礼剣の二刀流……ならば、ワタシも手を増やすとしましょうか!」

 

巻物を取り出し、ラミュスは自身の持つ最後の魔物を召喚する。出てくるは、木竜(グリーンドラゴン)。その強化種。

樹木の槍が地を這い、アエルテスに向かっていく。だが、アエルテスは淡々とそれを焼き斬り、断ち、木槍の波とも言える攻撃を破っていく。

 

通常の木竜(グリーンドラゴン)ではそれで終わりのはず────だった。しかし、この木竜(グリーンドラゴン)は強化種だ。

 

故に。

 

「がふっ……!?」

 

アエルテスを激しく打つ、()()()()()()。この木竜(グリーンドラゴン)は、切断された攻撃を一撃だけやり直せるという能力を持ち合わせていた。

その攻撃は、アエルテスを貫くには至らずとも、体制を崩すことは出来た。

 

『ギャオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

畳み掛けるように、木竜(グリーンドラゴン)の樹木の槍が押し寄せていく。それは、アエルテスを包み──────3分間の間、それが続いた。

ラミュスはほくそ笑む。これだけの間、攻撃を受け続けていたのなら、どんな豪傑だろうとも確実に死ぬと確信したからだ。

 

しかし、黄金の炎は消えることはない。

 

爆発と共に木片が飛び散り、ラミュスに襲いかかる。思わず目を閉じた、その瞬間。ラミュスはその翼を半分切り落とされる。

 

「……っぐ、あがぁっ!?な、なぜぇっ…!」

 

片方の翼を斬られ、ドス黒い血が流れる。続けて、クナイと共に火炎石が投擲され、足元ごと爆破される。

そして唱えられる──────解放式。

 

「弾けろ。【エン・リヴィオ】ッ!」

 

その瞬間、()()()()()が爆発する。もはや住人のいなくなったダイダロス通りの一区画が木っ端微塵に消し飛ぶ。

爆発した木片に火がつき、それがさらに爆発し…と繰り返し、ラミュスをこれでもかと焼いていく。

 

「爆発が爆発を呼び寄せ続ける、一点集中の爆破だ!これをくらって、タダで済むと思うなよ!」

 

しかし、煙が晴れ────現れたのは、竜の相を携えて完全回復した、ラミュスの姿であった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

なんなんだコイツ、しぶと過ぎるだろう。

卑劣様の互乗起爆札を参考にした策も、こうも易々と耐えられると自信無くなってくるな。

 

「これだけは……やりたくなかったのですがね…ふふっ、流石は我が運命」

 

「気持ち悪ぃ、お前と俺は違えんだよ敵対者(モンスター)。」

 

ず、と木槍の気配がしたのでサイドステップすると、その場に単品の木槍が生えてくる。なるほど、こいつ……食ったな、自分の召喚獣(きりふだ)を。

そして強くなって全回復…か。Lv.6はあると見て良いな。

 

「…………そろそろか。」

 

「何がです?あなたの死期でしょうか」

 

身体の芯から、力が湧き上がってくるのを感じる。思えば、これが初めての発動になるのか。

力が皮膚の下で暴れ、今すぐにでも目の前の敵を引き裂こうとする。

 

「折角だ……見せてやろう。俺の力を」

 

軽く地面を蹴り、呆然としているラミュス、その胴体を真二つに斬る。驚愕したようで、慌てて翼をはためかせて大きく飛び退いている。

なるほど、これなら……通るな。だが、俺には分かる。このままだと…決定打に欠けると。

 

「ふ、ふふっ…多少速くなった程度で、何を粋がっておられるのやら。ワタシは、魔石を潰されない限り死にませんよ!」

 

木で以てその肉体を再生するラミュス。ほらな、ジリ貧なんだこのままだと。

俺一人では勝てない──────ならば、()()()()()()()()()()じゃないか。

 

「来てくれると思ってたよ………アイズ先輩。」

 

「遅くなってごめん。初めてだけど…合わせられるよね」

 

風の魔法を起動した【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタインが、俺の隣に立っている。

 

「当然ッ!」

 

決戦の火蓋は、今ようやく切られたのだ。

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