自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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決着、その後

 

思えば、こうしてアイズ先輩と肩を並べるのは初めてだ。

普段は正面から向き合っていた細剣(レイピア)も、横から見ればまた違った見えるものだ。

 

「アエルテス。合わせて…『目覚めよ(テンペスト)』」

 

「『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』…」

 

押し寄せる木槍の波を斬り払いながら並行詠唱を行う。もはや手慣れたものだ。そもそも、魔法は足を止めるものだと言うが──────。

俺に言わせれば、時間の無駄だ。

 

「【リル・ラファーガ】!」

 

「【フォルネス・イグニオン】ッ!」

 

突き抜ける突風に黒い焔が纏わりつき、それは黒い風となって木々を端から焼いていく。黒い火災旋風だ。

絶え間なく流される風に、炎が絡み付いてしばらくは消えないだろう。

 

「岩が来るよ。対処任せるね」

 

「りょうっ……かい!」

 

岩槍を力任せに叩き斬り、その瓦礫をアイズ先輩が軽やかに跳んでいく。それに続いて俺も地面を駆け、アイズ先輩への対処に思考を割かれたラミュスに急襲をかける。

 

「星になりなッ!」

 

炎刃を纏わせたフレイモスで、斬撃と同時に炎刃を放射する。チャージ1時間分の、中規模斬撃だ。喰らえばタダでは済むまい。

大きく怯んだラミュスに、アイズ先輩が追い討ちをかける。

 

レイピアによる刺突。的確に急所を狙う────フリをしつつ、着実にダメージを稼ぐ切り方だ。

 

「はっ…!言ったではありませんか!()()()()()()にはどんな術も通用しないと!いくら抉られたとて、このように再生を…なっ!?」

 

「便利な炎だね、この魔法」

 

アイズ先輩のレイピア、「デスぺレート」には、俺の【フォルネス・イグニオン】が付与(エンチャント)されている。

正しくは、付与(エンチャント)というよりは侵食(イロージョン)なのだが。

 

「馬鹿な、それは炎魔法のはずでは…!?」

 

「残念ッ!そいつは侵食魔法だ!」

 

軽快な風切り音と共に両手、両足を切断されるラミュス。切り口からは黒焔が立ち昇る。再生しても、再生してからすぐにまた燃えて消えるだろう。

しかし、切断された手足から木を肉体から生やし、新たな手足として生やす。その手には木刃が生えている。

 

「油断を、しましたねッ!」

 

木刃がアイズ先輩に迫る。変則的な攻撃。通常なら避けられるはずもない──────それが、アイズ先輩一人ならば、の話だが。

 

「俺の仲間は、誰一人傷つけさせやしなーいよ!」

 

木刃をフレイモスで防ぎ、そのまま受け止める。魔法の爆発力に加えてLv.6相当の潜在能力(ポテンシャル)の攻撃だ。受け切れるわけもない…ならば!

 

「ぐ、っう…あああああっ!!!!!!!」

 

()()()()()()()、激しい痛みに苦悶の声をあげる。酷いことに、この木刃を受けると内部で枝分かれして組織をズタズタにしてくるのだ。

だが、利き手じゃないほうを犠牲にして拘束できた。これでいい。

 

「な、イカれ…ぐあっ!卑怯な…」

 

そのまま引っ張り、口に含んだ針を撃ち、眼を潰す。二代目火影の使った天泣!Lv.4の身体能力ならば……実現は容易だ。

炎を纏った針は、ラミュスの両目を焼く。腕や足などの単純な構造なら木でも再生できるだろうが…目は時間がかかるだろう。

 

「まだです!」

 

だが、ラミュスは最後の足掻きとして、最も効果的で──────最も愚かな策を講じた。

全身から棘を生やし、引き剥がそうとしたのだ。だが、付け焼き刃の攻撃など、俺には刺さらない。

 

「………くそ…!」

 

……終わりだ。

 

「アイズ先輩!トドメを!」

 

「大丈夫。」

 

俺が言う前に、ラミュスの胸には黒焔に揺れるデスぺレートが突き刺さって────おらず。ギリギリのところで無理矢理生やした腕の集合体に防がれている。

だが、今が好機!俺はそのまま腕に突き刺さった木刃ごと引き抜く。ぶちぶちと言った痛々しい音と絶叫を上げたくなるような痛みが俺を襲う。

 

「ううう……ああああ!!!!!!!」

 

ラミュスの後ろに回り、黒焔を纏わせたフレイモスをその背に突き刺す!

 

「爆ぜろぉおおおおおッ!!!!」

 

ラミュスの身体の中で無数の黒焔が炸裂する。

直後、ラミュスの魂の絶叫が──────響かなかった。

おかしい、この魔法を喰らった奴は、須く存在ごと焼かれる痛みに苛まれるはずだが。

 

「終わりだ、ラミュス……これで、決着だ。」

 

「ええ……その、ようですね。」

 

場に、静寂が訪れる。

アイズ先輩は何やら納得している様子で、「怪人じゃなくて本当に怪物(モンスター)なんだ」と呟く。

怪人…そんなのもいるのか。

 

「夢を、見ていたんです……其は、ワタシを見て…魔王に、なるのだと……魔なる者に、産まれた…ワタシへの………」

 

ぽつり、とラミュスが零す。

それは転生者である俺も見た夢。生まれに何か特別な意義があると捉え、使命を抱いた瞬間がラミュスにもあったのだろう。

 

「奇遇だな。俺は神様に…勇者になるという使命を背負わされて生まれてきた。だが……俺はお前とは違う。」

 

「……………。」

 

推し黙るラミュス。

 

戦闘が終わった判定になったのか、はたまたラミュスの戦闘意思がなくなったのか、『解放』のスキルが切れる。

どっ、と押し寄せてくる疲労感。そして全身を数分間にわたり強打されたことでの痛みもセットだ。

 

「ようやく、分かったんだ。俺は、独りじゃなかったって。ずっと見てくれていた人たちがいるんだって。だから、俺は…それに応えたい。」

 

生まれてから、孤独を感じてきた。転生したこの身に、意味はあるのかと。この人生は、すべて夢現なのではないかと。

勇者の使命がなければ、俺もきっと……。

 

「………アナタは、ワタシ…です、よ。おなじ、運命のもと生まれ……違う立場の者を…傷つけることでしか、存在を担保できない…哀れな生き物、です」

 

「……だとしても。俺には、家族がいる。命に換えても惜しくはない、仲間がいる。等しく愛情を注いでくれる、(ロキ)だっている。お前とは違う。」

 

ラミュスは、目を細めて、空を見上げる。

すでに、身体の崩壊は始まっている。亀裂は、顔にまで届き──────。

 

「かぞく…かぁ……いい、なぁ…」

 

そう言い残し、同胞(ラミュス)は灰と消えた。

さらばだ。ラミュス、同じ運命を歩み、袂を分かった同胞よ。

 

戦いが終わり、俺は弱めた火を揉み消して魔法を終了させる。アイズ先輩の表情は変わらない。冷たい、魔物に向ける目だ。

フレイモスをしまい、アイズ先輩に近づくと俺に気がついたのか、柔らかな表情に戻り、デスぺレートを納刀する。

 

「ただいま!」

 

「うん、おかえり」

 

勇者でもなんでもない、屈託のない笑みをアイズ先輩に向ける。帰ってきたのは、優しい微笑みだった。

 

 

・・・

・・

 

 

ファミリアの拠点(ホーム)に戻ってきた俺たちを出迎えてくれたのは、飛び込んできたロキの熱い抱擁だった。

 

「ああ、めっちゃええ香り…ホンマに戦闘後なん?ずるいやろ…あー良え、四つの山に挟まってここは盆地か言うて…最高や」

 

「ただいま、ロキ。心配かけてごめん。」

 

「うわ、アエたんが見たことないぐらい優しい顔しとる!!!!!!!!みんな!見て!!!!!!!!」

 

突然騒ぎ出すロキ。なんだなんだと駆けつけてきたファミリアの団員達も俺の顔を見て「おお」などと歓声を上げる。

なにが「おお」だよ。俺の顔は美少女フェイスのまま変わってねえよ。

 

「ホントだ、憑き物が落ちたみたい!」

 

「なんていうか…ハングリーさはそのままに、険しさが無くなった感じ?」

 

その後も、俺の顔面についての品評会が行われた。

曰く。「年相応の顔」であったり、「余所余所しくなくなった」であったり。そんな風に思われてたの?俺。

いやしかし、俺はロキに、ファミリアに向き合うと決めたんだ。ここで受け流すわけにはいかない。

 

「つまり────ちゅっ♡かわいくてごめん…ってコト!?」

 

「それはさておき、アエルテス。君たちが戦った、あのモンスターについて説明してもらおうかな。」

 

「はい」

 

フィン団長に連れられて会議室兼食堂に連れて来られる。すでに幹部は勢揃いしており、俺にくっ付いてロキも一緒に入室した。中には、ほぼ全ての団員たちがいる。

めちゃくちゃ抵抗していたが、ロキはリヴェリアさんに引っ剥がされ、大人しくしている。

 

「さて…まず、アイズとアエルテスの両名が討伐した怪人についてだけれど、アイズ。戦ってみてどうだった?」

 

ピリッとした空気が張り詰める。前から思っていたが、フィン団長は雰囲気を作るのが上手い気がする。これが【勇者(ブレイバー)】の二つ名を冠する男の話術か。

 

「だいたい…Lv.6くらい?私より少し強いぐらい。でも、防御力は低かった。たぶん、あの時はアエルテスもLv.5くらいの潜在能力(ポテンシャル)があったし…」

 

「Lv.6とLv.5相当の二人がかりでそれか…また現れた時に備える必要がありそうだね。アエルテス、あの怪人について、知ってることを教えてくれ。」

 

「アイツは…所謂、異端児(ゼノス)と呼ばれる理知を備えた怪物(モンスター)の一体だ。だけど、勘違いしないで欲しいのが…アイツ───ラミュスは、特別な個体だったってことかな」

 

その場の全員に、誤解がないように異端児(ゼノス)が原則人間を傷つけないこと、穏健派もいること、一番の過激派は俺とアイズ先輩がブチ殺したことを伝える。

また、友人(ディックス)を殺されたことも忘れずに伝えた。

 

「……現状、その異端児(ゼノス)と友好関係を結べる気がしないな。だが、そのリドという個体のグループとは連絡を取ってもいいかもしれない。」

 

けど、地上には居させることはできない。と強く言うフィン団長。俺としても、地上に魔物がのさばるのは許容できない。

勇者とか英雄とか以前に、俺のスタンス────人類の敵は倒す、というものに変わりはない。

 

会議はつつがなく進行していく…訳もなく。団員たちが叫ぶ。

 

「フィン団長!本気で言っているんですか、モンスターですよ!?人類の敵、許せぬ存在、ありえない話です!」

「まさか、新入りの話を鵜呑みにする気ですか!?アエルテスはLv.4とはいえ、まだ子供!何も分かっていない子供の判断に委ねるというのですか!」

「僕も容認できない。モンスターは悪だ、分かり合えない宿敵だ。」

 

当然だ。相手はモンスター、俺も当初は殺す気でいたのだからな。

無論、20階層で対面する前はそのつもりだった。だが、そこで教えられたラミュスの存在。そして話して分かった、彼らの理知の深さ。そして──────どことなく、共感してしまったが故に、見逃した。

彼らは俺だ。夢を持ちながら生まれ、そして理想の為に戦う。

 

そう思うと、俺が苦しめて殺したハーピィも夢を持っていたのだろうか、と思い、居た堪れなくなる。

あの時は、それが正しいと思っていたし、俺も後悔はしていない。全ては過去。終わったことだ。

 

「一つ良いか?何の理由(ワケ)があってソイツらが地上に出たのかは知らねェけどよ、あのミノはどうすんだ。アイズぐらいしか対処できねぇぞ」

 

「兄……アステリオスか。あれはLv.7相当の化け物だよ。やるなら、相応の覚悟を持った方がいい。もちろん、彼は出来る限り不殺を掲げてるっぽいけど」

 

まあ、俺は殺されかけたんだが。と呟くと、空気が重くなる。兄弟子はなんというか、手加減が下手くそだから……結果的に治療可能なリューさんを無傷で放っておいたあたり、その辺は理解しているのだろう。

 

「決まりだ。【ロキ・ファミリア】の方針としては、異端児(ゼノス)の穏健派と、ダンジョン内で協調する方針を取りつつ、過激派や人間の殺害歴がある者には注視を向ける。その交渉役は…アエルテス、君に任せよう。」

 

再び非難の嵐が舞う。まあ、そりゃあそうか。俺のような入って数ヶ月の新参が彼らを代表して…いや、人類の敵とも言える者たちの代表を務めるなど、言語道断に違いないだろうからな。

 

「この件は、君たち団員には隠す気でいた。だが、敢えて話したのには理由がある。それは──────勝利する為だ。アエルテスにはまだ話してなかったね…」

 

聞くに、今【ロキ・ファミリア】は闇派閥(イヴィルス)との抗争中らしい。それに勝つ為に、異端児(ゼノス)たちとの協力も辞さない姿勢だという。

ともかく、フィン団長はこれから見極めるのだ、と言って話を締めくくる。

 

「その任、拝領した。」

 

その場に跪き、騎士らしい礼儀作法で任を受ける。だが、非難は噴出する。

どうやら団員たちは受け入れ難いらしい。それもそうだ。

 

「未だに異端児(ゼノス)たちは地上に居座っている。彼らを然るべきところ(ダンジョン)に帰し、オラリオに平定を齎そう。各員、それぞれ最良だと思うことをするんだ。いいね?」

 

話し合いがひと段落つき、この場はフィン団長のその発言で締め括られることになった。

 

部屋から退室した後、俺は数人の団員に囲まれた。どうやら、どうしても撤回させたいか、それとも他に何かあるのだろうか?

 

「あなた、モンスターを倒すんじゃなかったの。何が英雄よ、見損なった」

 

「俺は地上に巣食う魔物を殺す。一匹残らずだ。だけど……俺は、分からなくなってしまった。異端児(ゼノス)に、自分の影を見てしまった。」

 

納得のいく説明じゃないのは分かっている。だが、剣を交わしたからこそ理解できた。リドやラミュスの目には、俺と同じ希望が宿っていたのだから。

英雄として、希望の芽を摘むわけには……いかなくなってしまった。

 

「……正気じゃないわ。あなた…狂っているのよ、可哀想に。分かってる?あなた、自分で言ってることとやってる事の区別が付いてないんじゃない?」

 

そうかもしれないな。

きっと、俺は狂っているのだろう。モンスターに絆され、フィン団長にあんな判断をさせてしまった。

英雄になる、なんて言っておいて、モンスターを庇い立てるなど、ダブルスタンダードも良いところだ。

 

「若くして狂うなんて、哀れね。もう良いわ、あなたは……ひとりでイカれてなさい」

 

立ち去る団員たち。俺には、その背中に手を伸ばそうにも、その勇気はまだ無かった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

月明かりが照らす中。

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの心中は穏やかではなかった。

 

なんだかんだでずっと面倒を見ている弟子(アエルテス)から、自身と同じ────魔物への憎悪が薄れていたように感じたのだ。

少し前まで、魔物は絶対に殺すという誓いを立てている自分のように、冷酷に、残忍に剣を振るうアエルテスの姿は、アイズからしてみれば共感の持てるものであった。

 

だが。

 

(あの時、あの怪人(ラミュス)が砕け散るとき、アエルテス…哀しそう?だった…)

 

最後に見せた表情。それは確かに哀悼であり、そして決別でもあった。それだけでなく、会議の時に異端児(ゼノス)を庇うような言動も、アイズの心をざわつかせるものであった。

 

「モンスターは…モンスターだよ。」

 

ぼそりと呟き、アイズはモンスターの血で濡れた手と足跡を幻視する。理知を備えているから何だというのか。

敵は敵。分かり合うことはない。ありえない。あってはならない。

 

それに加えて、時たま様子を見ている少年(ベル)の様子も変だった。明確に魔物を庇うような姿勢を見せていた。

 

(うん、やっぱり…直接聞いてみるべきだよね)

 

善は急げ、とやってきたのは『豊穣の女主人』。これまでの疲れを癒すかのようにリューの胸に顔を埋め、酔っ払い、でろでろになっているアエルテスの背後に立つ。

 

「ちょっと話がしたいの。ついてきて。」

 

「んぇ…アッ、アイズ先輩!?違うんスよ、サボってるワケじゃ…」

 

「じゃあここで良いかな。」

 

ナチュラルに椅子を持ってきて、アエルテスの隣に座るアイズ。その様子を見ていた男が無言で歓喜し、涙を流した。

 

「【剣姫】…アエルテスは疲れている、少し休ませてあげて欲しい。傷は癒えたとはいえ、冒険者にも休息は必要だ。」

 

「そのままでいいよ。気になることがあるの……アエルテス、君は…モンスターについて、どう思うか。それが知りたいの。」

 

きっぱりと、真剣な目線を向けるアイズ。アエルテスは寝ぼけ眼で、だがしっかりとした意志を孕んだ目でアイズと目を合わせる。

 

「モンスターは…敵。でも、敵だからといって……全てを否定するのは早計。」

 

アエルテスは言う。手を出されてからでは遅いのだと。だからこそ、ダンジョン内に隔離しなければならないと。

そうすれば、少なくとも理不尽に奪われることはなくなるはずだからと。

 

「……私は、モンスターは…全部倒すべき、だと思う。教えて、どうしてあなたは戦うの?使命とか、運命とかじゃない。あなたの答えを教えてほしい。」

 

これまで、アエルテスは戦う理由を問われた時、ほとんどの場面で使命と運命を理由にしてきた。そんなこと考えたことなかったな、と思いつつも、アエルテスは慎重に言葉を選ぶ。

 

「長いこと、世界の為に…って走ってきた。14年間の間、ずっとだ。だから…俺から使命や運命を抜くことは出来ないことをまず分かってほしい」

 

「………。」

 

憧憬(ユメ)を、見たんだ。世界を救って、栄光の名の下に勇者になる。そんな憧憬(ユメ)を。」

 

アエルテスは語る。これまでの自分の半生を。生まれた時から続く、自我の記憶。それは、一つの物語であり、その中には戦う動機などはひとつもない。

魂に刻まれた、闘争本能なのだとアイズは解釈した。

 

「でも…今は理想のためだけに戦ってるワケじゃない。友人と、仲間がいる。俺は……たとえ嫌われようとも、皆のいる世界のために戦うって、決めたんだ。」

 

長い時間をかけて、借り物の使命は自分の決意へと変わったのだと、そう説明するアエルテス。魔物は魔物。異端児(ゼノス)異端児(ゼノス)

そこには大きな違いがあるのだと、そう説いた。そして、自分が迷っていると言うことも。

 

「分からないんだ。俺は…ブレブレだ。悪だと思っていた者たちが、話せば意外と分かり合えたり、善だと思われていた奴が、突然悪になったり…」

 

「そっか。」

 

アイズ・ヴァレンシュタインの中で、アエルテス・ヘリオドーンという少女は良くも悪くも、「ブレない子」という印象だった。

しかし、今目の前で苦悩しているアエルテスを見ると、それが間違いだったことに気がつく。

 

「はぁ…闇堕ちだとか、英雄だとか、難しいよ。」

 

「アエルテスは…あの喋るモンスターたちを殺すべきだった。そしたら、悩むこともなかったんじゃないかな」

 

きっぱりと言うと、アエルテスは頭を捻る。

 

「俺は……うん、やっぱり悩むことにするよ。迷って、悩んでこその人生だし。」

 

だから、もし間違えた道を進もうとしていたら助けてね。と笑顔で言うアエルテス。

 

「ごめん、話が逸れたな。戦う理由だっけ……そうだなあ。傷つく誰かの心を守ることが出来るなら、俺は戦い続けるよ。」

 

やっぱり、違う。動機は同じでも、行き着く先が違う。とアイズは確信する。

復讐を終着点とする自分に対して、目の前でとろんとした顔をしている彼女は、救世を、人助けを終着点としている。

 

「君は、自分のためには戦ってないんだね」

 

「そんなことないさ。自己満だしね、どの道。アイズ先輩はどうなの?」

 

「……私は、復讐のためだよ。」

 

そうか、と穏やかな顔で頷くアエルテス。彼女とて、友人が似たような願いで戦っていたのを知っているからだ。

 

そこでアイズは気がつく。アエルテスは、今の所はモンスターとしか殺し合いをしていないのだと。悪意(レヴィス)に晒されず、自分だけの闘争をしているのだと。

 

(少し、羨ましいな。)

 

フィンは、アエルテスを闇派閥(イヴィルス)との戦いに駆り出すつもりだろう。先程の会議で、アエルテスがポロッと溢した言葉。

人造迷宮(クノッソス)の中に」という、【ロキ・ファミリア】の幹部陣なら聞き逃せない言葉。

 

「それじゃ、私はいくから。また明日、今日はゆっくり休んでね。」

 

店を出て、アイズは帰宅する。

その四日後。【ヘスティア・ファミリア】による異端児(ゼノス)帰還作戦が実行に移され─────同時に、フィン考案の異端児(ゼノス)との接触を図る作成が開始された。

 

しかし。アイズ・ヴァレンシュタイン含め、全ての団員に告げられた作戦は、「衝突しても構わないから、その正体を確かめてこい」というものだった。

 

「目下の課題はベル・クラネルだ。彼は自分の意思か、あるいは何者かの思惑かによって目が集まる立場にいる。」

 

そう説明するフィン。事実、ベルはウィーネを庇ったことによってダイダロス通りはおろか、その噂を聞きつけたオラリオ中の人間から悪い意味で注目を集めていた。

故に、フィンが意図せずともひっきりなしに情報は入ってくる。

 

「フィン団長、相手はベル・クラネルだけじゃなく…【ヘスティア・ファミリア】なら、気をつけるべき相手がいます」

 

「アエルテス、何か知っているのかい?」

 

「はい。【ヘスティア・ファミリア】には、姿を自由自在に変えられる優秀なサポーターがいます。背丈はフィン団長と近いくらいですね。」

 

あの小人族(パルゥム)の少女か、と合点がいくフィン。それもあってか、槍を持たない自分の報告は聞くなという指示を出してから、配置を決める。

大まかに全員の配置が決まってからというもの、アイズは自分からベルの監視を買って出た。

 

「良いのかい?アイズ、君はベル・クラネルに随分入れ込んでいるみたいだが…」

 

「大丈夫。この子も連れて行くから。」

 

ぐい、とその場にいたアエルテスを引き寄せると、アイズは自信ありげに言う。

ベル・クラネルについて知り尽くした…と思われているアエルテスがいれば、その行動をコントロールできる上に、ルート特定も容易だと考えたからだ。

 

「アイズ、アエルテスは【ヘスティア・ファミリア】全体の監視と、緊急時の制圧チームに組み込んでいる。魔剣の対処はガレスに、対モンスターの遊撃はティオナ、ティオネ、ベートに頼んでいる。」

 

だから、行くなら君一人だ。というフィン。やや不服気味に了承すると、アイズはダイダロス通りの地上に降り、人々の噂に耳を傾ける。

聞こえてくるのは、あまり良い噂とは言えなかった。

 

やれ、「女の敵」だの。「怪物趣味」や「許せぬ敵」、「ニンジャ殺すべし。」など。どれも荒唐無稽でめちゃくちゃなものだったが……そのおかげで、アイズは簡単にベルの位置情報を割り出せた。

 

そして、視界の先にはギルド職員エイナ・チュールに怒られているベル・クラネルの姿。

 

「怒られてる…」

 

うっすらと聞こえてくるのは、連絡がなかっただの、相談してほしいだのと言った、若い恋人がするようなものである。

 

(ベルって、誰かと付き合ってたの?)

 

普段自分に見せているような、純朴そうな言動とは裏腹に、ちゃんとそういう相手はいるんだ…と思うアイズ。

続けてやってきたのは、穏やかな雰囲気の犬人(シアンスロープ)のナァーザだ。

 

「撫でられてる……」

 

その後も、リューとアイシャに絡まれたりしたベルを見て、アイズはベルが不良なのかと疑ったのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「で、俺に任されたのが……お前らの監視なんだが」

 

()()()()()()()に向かって俺は声を投げかける。静かなダイダロス通りには、よく声が通る。それも、息を呑む音もハッキリと聞こえるほどには。

 

「いるんだろう。この気配は…ヴェルフ、そして(ミコト)だな?」

 

そう言うと、透明の幕を脱いで(ミコト)が魔剣を構えた状態で現れる。そんな警戒しなくたって良いのに。別に殺しにきたワケじゃないんだから。

 

「自分ひとりです。アエルテス殿、何の御用ですか」

 

ヴェルフの気配が遠のく。確か、そっちはガレスさんが見張っている地域だったはず。運のない奴め。二人がかりで俺を相手取った方が良いに決まってるのに。

 

「いや…そうだな、無駄話に付き合ってくれるならそれで良い。」

 

「……話ですか。」

 

「そ。きっと気に入ってくれるはずだ。これは古くから続く犠牲の話だからな。」

 

息を呑む(ミコト)。残念だったな、俺が今からするのは、本当に意味のない話だ。

【ロキ・ファミリア】総出で作戦に当たっている現状、相手の戦闘員一人を釘付けに出来るだけでも御の字の活躍といえる。

 

「今から話すのは、(ミコト)…お前たち【タケミカヅチ・ファミリア】についての真実(おおうそ)だ。」

 

「…………。」

 

(ミコト)の表情が固くなる。よし、釣れた。

 

「あの夜…奴がヤマト家を含む『朝廷』の上層部を皆殺しにしたのは事実だ。」

 

そんな事実は知らないし、そもそもヤマト家が里の上層部だとかいうのも知らない。今適当にでっち上げた話だ。

『奴』というのも全く存じ上げない。

 

過去を利用するようで悪いが、これも【ヘスティア・ファミリア】の戦力を拘束するため。悪く思うなよ。

 

「嘘です……」

 

「そして『朝廷』を抜けた……」

 

「信じられません、そんなの!」

 

「そしてそうする事が、『朝廷』から下された任務だった。」

 

当然、信じられる訳もない。だって嘘だもん。

だが(ミコト)は動揺した表情で俺を見る。何か心当たりでもあるんだろうか。口からは、小さく「マダラ」と言う言葉が出てくる。

そっかあ、居るんだマダラ。いや多分、マダラ・ナントカみたいな名前だろうが。

 

「それがマダラの真実への入り口だ……」

 

適当に話を合わせておく。こうやって嘘は補強されていくんだね。パパ。

 

「任務ですか…」

 

「そうだ。あの夜マダラは己を殺し、任務をやり遂げたのだ。」

 

剣を下げ、俺の話に釘付けになっている(ミコト)。純粋な子を騙してるみたいで気分が悪いが、これも任務のうちだ。

 

「飲み込めてきたようだな……」

 

「どういう事ですか…」

 

「マダラの話をするには…アマテラスを含む『朝廷』の上層部の時代まで話を遡らねばならない。」

 

「嘘だ…」

 

「ヤマト家は犠牲になったのだ……古くから続く犠牲……犠牲の犠牲にな」

 

「犠牲…」

 

「犠牲だ…」

 

そんなアホなやり取りをしていると、後ろからガツンと拳骨が下される。見れば、桜花(オウカ)が呆れた顔で立っていた。

しまった、まともな奴が来た!

 

「マダラってお前それ、(ミコト)が昔自分で考えた悪役の名前だろうが。(ミコト)(ミコト)で本当にいたんだ!…みたいな顔をするな」

 

「万華鏡写輪眼!」

 

「アエルテス、あんたの事は尊敬してるし、恩もあるが、困ったら適当なことを言って誤魔化そうとする悪癖は何とかした方が良いぞ?」

 

「ごめんなさい…」

 

見事に諭されてしまった。こうなったら仕方ない、単刀直入に話してみることにしよう。

無論、桜花には話せないことも色々あるから内容は掻い摘むが。

 

(ミコト)、俺たちはお前たちの敵じゃない。目的は一緒で、彼らを家に帰してやりたいだけなんだ」

 

「……そう言うと思っていました。やはり、リリ殿の慧眼には脱帽です────ねッ!」

 

氷の魔剣が起動し、俺を包む。寒い…だが、この程度ならあまり問題ではない。若干身体に霜がつくレベルなら、俺の耐久にかかればノーダメージだ。

固くてよかった、ナンチャラ製薬™。

 

(ミコト)ォ!?何してんだお前!!?」

 

桜花(オウカ)殿、これには訳があるので…また後で話します!」

 

魔剣を連発する(ミコト)だったが、Lv.4の俺には屁でもない。【逆境奮起(アグニ・コロナ)】すら起動しないのだ、この程度なら余裕で耐えられる。

俺はゆっくりと(ミコト)に近づいていき…そのまま抱きつく。

 

「これなら、魔剣は撃てないな?」

 

「自分が本当にそこにいるとお思いで?」

 

ぼん、と煙が上がり、気がつけば俺は服を着た丸太にハグしていた。これは────空蝉の術!?実在したのか、忍術!

タケミカヅチめ、隠してやがったな!!!!!!!

 

「しばらく眠っていてくださいっ!」

 

「ぐはっ」

 

脳天に踵落としを食らう。だが……ステイタスの暴力というのは、斯くも残酷なものか。おそらく、以前なら気絶していたであろう攻撃も、俺には微塵も通らない。

 

「痛いものは痛いんだけどなぁ…」

 

「……まるで効いていない…アエルテス殿、レベルはおいくつですか?」

 

「私の戦闘力は……53万です」

 

「その、適当なことを言うのはやめて貰えませんか」

 

言う訳ないだろう。少なくとも、ギルドから正式に公表があるまではダンマリが正解だ。それに、俺がLv.4だと知られたら、きっとリリはそれに対応した策を打ってくるに違いない。

 

「ごめんごめん、言えないからしょうがないね。代わりに、身をもって教えてあげよう」

 

フレイモスを引き抜き、儀礼剣を構える。狙うは魔剣。作ったヴェルフには悪いが、アレを全部砕いて、少しでも時間を稼がせてもらおう。

 

「痛くはしない。存分に楽しもうか」

 

悪い顔で言うと、隣で桜花が呆れたように言う。

 

「なあ、俺もう帰っていいか?」

 

「すみません桜花殿…少し付き合って貰います」

 

「ダメだよ桜花、終わったらメシ行こう。奢るよ」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】全員分で頼む、とふざけたことを抜かし始めたので小突いて、俺たちは互いに剣を振りかぶった。

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