自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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※誤字脱字修正をしました。(2026/05/01)


言いつけを破る

 

日が明けて、俺はロキに介抱されながら街を歩く。

実のところ介抱は必要なく、ランクアップした肉体は重症後即行動に適応してくれている。

 

「あ、そういえばロキ。俺、ここ最近収入ゼロだわ。支払い頼んで良い?」

 

「え?無いん?一銭も?」

 

「いやあるにはあるけど、元々俺はダンジョン攻略勢だぜ。ここ最近俺がしたのって、対人とか陰謀とか策略とかそんなんばっかだぞ。」

 

実際、異端児(ゼノス)騒動の辺りから俺は殆ど魔石や戦利品(ドロップアイテム)を換金していないし、獲得もほとんどしていない。

たった数日とはいえ、元々固定収入のない冒険者だ。すぐに使い果たしてしまうのだ。

 

「そういえばそうやったな……せや!ドチビんとこ行くで。アエたん、気になってたんちゃう?」

 

「あんまり……?兄弟子、もといアステリオスと戦って生き残ったんなら大丈夫だろ。少なくとも今の俺と同じぐらいの強さはあるはずだし。」

 

「ええからええから!とにかく行くでー!」

 

と、いうわけで。

【ヘスティア・ファミリア】前に訪れた俺たちは、神ヘスティアを待っていたのだが──────。

 

「え、『遠征』ぃ!?」

 

ロキが俺の方を見る。なんだっていうんだ。

 

「ああ。ベル君たちは昨日から『下層』まで遠征なんだとさ。しかも!あのアマゾネス君が一緒だ!うう……ベル君の貞操が心配でならないよぅ……」

 

「アマゾネス?」

 

「おや、キミのところに話が行っていたものだと思っていたんだけどね。ベル君から聞かなかったかい?【ロキ・ファミリア】宛に手紙を送ったはずだけど。」

 

どうやら、元【イシュタル・ファミリア】のアイシャとかいうアマゾネスがベルたちの下層進出に付き合うつもりで、俺にも付いてきて欲しいとのことだった。

今回の『遠征』には、【タケミカヅチ・ファミリア】と【ミアハ・ファミリア】も一枚噛んでいるとのことでもあった。

 

「ははあ。なるほどな……今から行けば間に合うかな。」

 

「アカーン!三週間!三週間は安静にしとかなアカン!」

 

なるほど。これを危惧していたわけか。おおよその狙いは分かる。現状、【ヘスティア・ファミリア】は台風の目であり、異端児(ゼノス)関連のきな臭い流れにさらに巻き込まれる可能性を考えていたのだろう。

俺のファミリア内での立場ももっと悪くなるかも知れないと踏んだのかもしれないが。

 

「というか、アエルテス君はなんでそんな怪我をしているんだい?ロキ、キミまさか……」

 

「んなわけあるかい!はぁ……まぁ、これは広めるつもりやったからええけどな。アエたんは、都市最強(オッタル)()()()()()()()()()()()()んや。せやろ?アエたん。」

 

じっ、とこちらを見つめるロキ。神に嘘はつけないので、俺は黙って頷く。

 

「むむむ……フレイヤめ、どういう腹積りなんだ……?」

 

正しくは、フレイヤ様とロキの共謀だろうが、これは言わない方がいいやつだ。

 

「ま、そういうことや。アエたんはドチビんとこの『遠征』には助力出来へんで。」

 

「そうかい。まあそれはそれで良いさ。ボクはベル君たちを信じる!」

 

・・・

・・

 

その夜。俺はこっそりと抜け出し、ダンジョンに来ていた。

魔法を使わなければ良いのだ。剣技だけで下層まで追いついてやる。

 

「フフフ……しかも、大容量バックパックもある。稼ぐぞう。」

 

身体を慣らすのも兼ねて、魔物の群れに突撃し、フレイモスを軽く振るって全滅させる。もはや上層程度のモンスターでは相手にすらならない。

無論、こんな雑魚では稼ぎにすらならない。全員魔石を砕いてある。

 

「……うん?もうこんな所まで。」

 

あっという間に、ダンジョン18階層。ゴライアスはすでに討伐済みだったので戦うことはできなかったが、早く着けたのならそれに越したことはない。

 

「あっ、【暁炎(エリュオ)】じゃねえか。どうしたんだその包帯?」

 

再建中のリヴィラの街に着くと、いの一番にボールスが話しかけてくる。未だ火傷は継続中。包帯は取れていない。

定期的に薬浸しになった包帯を取り替える必要があるらしいので、リヴィラで補給を受けていくとしよう。

 

「ところで、【ヘスティア・ファミリア】の連中を見なかった?俺、そいつら追っかけてきたんだけど。」

 

「ああ、アイツらなら随分前に『下層』へ行くっつって降りてったぞ。だが、見慣れねえ面子もいたな?おそらくは派閥連合チームでも組んだんだろう。」

 

「なるほどなあ。」

 

「ところで聞いてくれよ【暁炎(エリュオ)】。ここ最近、死人が増えててな。何者かはわからねえが、殺人鬼がこの辺りの階層を彷徨いてるらしい。どいつもこいつも上級冒険者だった……お前を気をつけろよ。」

 

「はあ。俺が負けるわけないだろ。」

 

「ま、お前の不死身具合は知ってるつもりだけどな。だがその怪我だ、どうしたんだ?それ。」

 

「オッタル師匠とバトった。」

 

「なんで生きてんだ?」

 

そんなことを話しつつ、雑貨屋でポーションと包帯を購入し、包帯を取り替える。横でボールスが「うわぁ」とか情けない声をあげていたが、火傷痕が醜いからってそんな反応はしなくていいだろうに。

 

「そんなに酷いのか?火傷。」

 

「いやそうじゃなくてだな。いや前は隠せよせめて。じゃなくて……お前の火傷痕が治ってく様子がどうにも気持ち悪くてな。」

 

「またまた〜……うわキモ」

 

ボールスの言う通り、俺の体組織が再生していく様子はそれはもうキモかった。言うなれば、肉や細胞が触手のようになって互いに結合している様子だ。

グロすぎる。血もなんだかブヨブヨしているし、膿も酷いことになっている。

 

「ごめん。すぐ隠すわ……」

 

「そうしてくれ。だから前は隠せよ。痴女かテメーは?」

 

「バカ女という意味なら間違ってはないと思う。まあ減るもんでもないし。」

 

装備を着直し、包帯も巻き直した。あとは下層へ向かうだけなのだが……どうにも、殺人鬼の方が気になって仕方がない。

ベル達は無事だろうか。

 

「とりあえず俺は24階層まで走ってくるわ。そこ拠点にしてベルたちを捜索する。戻らなかったらロキに報告よろしく頼むわ。」

 

「お前の実力を疑うわけじゃないが、大丈夫なのか?」

 

「ま、大丈夫だろ。」

 

若干乾いた思考になってるか?と思いつつ、『大樹の迷宮』に入っていく。実際、【フォルネス・イグニオン】を使った反動で精神が蝕まれているのはなんとなく分かる。

普段なら考えないような冷たい考えが、心の中にすっと入り込んでくるような。そんな感覚だ。

 

「しかし……回転しながら斬るってのはいいな。叩き斬るよりも切れ味が良い。」

 

二刀一流とでも言うべき、身体の動きと剣の動きを完全に一致させた流動剣術。前回はフレイモスだけだったが、今回は買っておいた長剣も一緒だ。

ただし、我流なので時間があるときにでもアイズ先輩に手解きしてもらい、最適化を済ませよう。

 

我流剣術は見た目だけカッコよくて実用性が無いものの方が多いしね。昔、俺もよく考えたものだ。

 

「……羽音。魔法が使えないんじゃ、やりずらいが……構わない。全部叩き切れば良い。」

 

長剣で魔物を引き寄せ、フレイモスで寄ってきた順に叩き斬る。もはや一瞬の抵抗もなく斬り伏せられる魔物たちに、強くなった実感と身体の衰えを感じる。

無意識的に怪我を庇ったような動きになってしまっている。

 

「さっさと治さないとな。せいッ!」

 

俺がいるのは、ダンジョン22階層。拠点とする予定の24階層まではまだ遠い。ベル達の行軍スピードはおそらく鈍重。すぐにでも追いつけるだろう。

Lv.1の狐人(ルナール)に、小人族(パルゥム)のサポーター。Lv.4が二人いるとはいえ、行軍スピードが速くなるわけがない。

 

あるいは、ベルとアイシャの二人だけなら話は別だったかもしれないが。

たらればの話だし、気にすることもないだろう。

 

「そう考えれば……24階層にいると見て間違いなさそうだ。」

 

そうこうしているうちに、道に焼け焦げた跡が見つかる。まだ微かに燃え残っていたので、フレイモスに炎を吸わせておいた。

魔法が使えない今、小さい積み重ねが大事なのだ。

 

「この炎は……ベルのものだろうな。そうでなければファイアーバードとかだ。そっちなら……狩るか♠︎」

 

レアモンスターの素材は、非常に高く売れる。金欠気味である俺にとって、レアモンスターとの邂逅ほど嬉しいものはない。

後に残っている炎の残滓を追い、狭い道から大量に押し寄せてくる魔物を斬っては捨てる。

 

「効率よく火を稼がないとな……そうだ。久しぶりにアレ使うか。」

 

松脂を剣に塗りたくり、地面に剣を擦り付け、敢えて火花を散らして着火する。これで『大樹の迷宮』は楽勝だ。

普段から魔法にばっかり頼っていたせいか、炎が切れかかると同時に松脂を塗らないといけないのは手間だったが、ある種の原点回帰だ。

 

「楽しんで行こう。」

 

強者との戦いや冒険は好きだ。死への恐怖が無くなっているぶん、アドレナリンだけが分泌されてそう感じるだけかもしれないが。

だが、それと同時に雑魚を蹂躙するのも悪くはない。だってイキれるからね。強い相手には出来ないような恥ずかしいセリフだって言えちゃうぞ。

 

「全員、処刑だ!!!!」

 

跳び上がり、剣を振るいながら落下する。地面に若干のクレーターができ、そのまま足蹴りでマッドビートルを粉砕。

ボブゴブリンの首をねじ切り、投擲して他のモンスターの頭部を潰す。まるでニンジャだな。

 

「大剣で敵の頭を潰すときは……なんだ、もう終わったのか。」

 

魔物の群れを殲滅し終え、道が拓ける。そんな調子で先に進み、俺は『中層』最後のフロアである24階層へと足を踏み入れていた。

これまで、俺がこの辺りまでは何回も来ている。

 

もはや手慣れたものだ。

 

「さて……匂うな。飯の匂いだ。」

 

出現するモンスターが極端に少ない。ということは、ここで野営しているのだろう。

 

「ここか。随分と立派なテントを貼ったもんだな……」

 

しげしげと野営地を眺めていると、中に複数人が眠っているのだろう。呼吸からして10人ほど。8人は寝ていて、2人は起きている。

どこにも荒い息がないことから、怪我人はいなさそうだ。

 

「いるんだろう?【暁炎(エリュオ)】。心配性なアンタのことだ、どうせベル・クラネルを追いかけてきたんだろ。」

 

「えっ?アエルテスいるの?良かった、来てくれたなら助かるよ」

 

フフフ…バレてる。

しかし今、俺がこの場にいるのを知っていていいのはなかなか地上に戻ってこないモルドぐらいだ。

ここは、お得意の変装を使わせてもらう。

 

「地獄にいる。」

 

グルグルお面を被り、黒字に赤い雲の書かれたマントを羽織り、ベル達の前に躍り出る。

 

「アエルテスだろ。」

「どうしてそんな格好で?」

 

「は、上級冒険者ということか……そう簡単にはいかないか……。」

 

「金髪が見えてるんだよ。いいから変装を解きな。」

 

くそう。

 

 

 

 

「アエルテス様も付いてくることになったのですね。」

 

野営地の朝。俺はあの後一度18階層に戻り、ボールスに伝言を頼んでから速攻戻ってきた。時間的に、みんなが起き始めたころには戻れてよかったな。

 

「煉獄杏寿郎殿が居てくださるのであれば、ベル殿、アイシャ殿と合わせてさらに頼もしい仲間が増えるということですね。かたじけない。」

 

「イヤ……俺たちは魚じゃない。人間だ。」

 

「お、桜花ぁ…また(ミコト)ちゃんが分からない話をしてるよぉ……」

 

「アエルテス、これ以上(ミコト)に妙なことを教え込まないでくれ。」

 

遠征のメンバーは、ベル、リリ、ヴェルフ、(ミコト)、春姫の【ヘスティア・ファミリア】グループに加え、桜花、千草の【タケミカヅチ・ファミリア】グループ。

そこにカサンドラとダフネの【ミアハ・ファミリア】グループとアイシャの10人構成だ。

 

「うーん……」

 

「なんだい、そんな渋い顔して。こんな大量派閥の連合部隊が負けるとでも?」

 

メンツを見て唸っていると、アイシャが絡んでくる。俺が悩む理由は、当然戦力だ。

ベルや俺、アイシャならばこのあたりは楽に突破出来ようものだが、そもそもとしてギルドから提示されている推奨レベルは3〜4。

何某かの強化があるにせよ、ベルとアイシャが何らかの事情で倒れたとき、パーティの全滅が確約されている。

 

「アエルテス様の懸念は判ります。リリたち足手纏いがどのように動くべきか……そうではありませんか?」

 

「それもあるけどね。前に俺、妙な奴に落とされてんだよ。滝壺に。」

 

「ふざけろ。そんなバカな話があってたまるかよ……闇派閥(イヴィルス)でもあるまいし。」

 

「どうだかな。このあたりは実際きな臭いんだよ。だからこうして付いてきた訳なんだが。」

 

半分嘘だ。俺の目的は別にダンジョンでの稼ぎであって、ベルたちの援護は理由付けにすぎない。

無論、ボールスが言っていた「殺人鬼」に興味がないわけではないが、どちらかと言えば稼ぎがメインだ。

 

「ひとまず、アエルテス様には一番大変な殿を務めていただきます。ベル様とアイシャ様は前線に出て、ヴェルフ様と桜花様は後衛の防護を、リリと千草様で援護射撃をしつつ、(ミコト)様、ダフネ様は遊撃を。春姫様の『切り札』に関しては適宜指示を出します。回復はカサンドラ様しか使えませんので、可能な限り精神力(マインド)の節約をお願いします。」

 

テキパキと指示を出していくリリ。軍師が板についてきた、という印象だ。戦術指揮も妥当なものばかり。

俺含めた一行は、リリの指示に従って連絡路を降りていく。

 

「でっけぇ……」

 

25階層。誰が呟いたか、感嘆の声が上がる。25〜27階層までをブチ抜く巨大な滝。俺としては苦い思い出のある、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』についた。

 

「アエルテス様は確か、最高到達階層は28階層でしたね。歩きながらでいいので、ここで危険な魔物を教えていただけますか?」

 

殿を務めながら歩いていると、ひょこっとリリが隣にやってきて、そんなことを聞いてくる。

 

閃燕(イグアス)だな。あいつに出会ったら、Lv.2以下の冒険者は死を覚悟した方がいい。」

 

今のパーティで、閃燕(イグアス)を捌けるのはLv.4以上のメンバーだけだろう。アイシャは少し相性が悪いかもしれないが。

 

「それよか、お前たちが心配するべきなのは階層主(アンフィス・バエナ)だろ。まだ討伐報告はなかったはずだし、いつ移動してくるか分からない状況でのんびり出来るはずもない。」

 

「アンフィス・バエナですか……実際のところ、リリ達が束になって掛かっても勝てるかどうかは怪しい相手ですね。確か、アエルテス様はまだLv.4でしたよね。」

 

「いいや、Lv.5だよ。俺はね……」

 

ニヤリと笑い、前方にいるベルたちを見る。期せずとも、リリの判断は正しかった。Lv.4×2の前衛と、Lv.5の殿。無敵の布陣と言っていいだろう。

これならば、どんな逆境が来ようとも跳ね返せる。

 

「……なるほど。ひとまず、今回の目標について話しておきますね。今回の指令(ミッション)は"ブルークラブの鋼殻"10個、"アクアサーペントのヒレ"3枚か、"レイダーフィッシュの牙"30本。レアモンスターの"カーバンクルの秘晶"なら一つでいいそうです。」

 

「とりあえず向かってくる敵全部斬り殺せばOK。そうだな?」

 

「アエルテス様はそれでいいかも知れませんが、リリ達は今回、ギルドからの指令(ミッション)で来ています。出来ればこちらに合わせていただければと。」

 

「ウス。」

 

丁重に嗜められたので、俺は与えられた役割を全うするとしよう。

どうやら聞くところによれば、ベル達の到達階層目標はすでに達成しているらしく、24階層をメイン拠点として25階層をじっくり探索する腹積りのようだ。

 

実に堅実でいい作戦だな。

 

「しかし、全員が水精霊の羽衣(ウンディーネ・クロス)か。しかも皆の装備が新調されてる……随分とカネが掛かったんじゃないのか?」

 

「お気づきになられましたか、アエルテス様。」

 

ギギギ…と擬音がつきそうなぐらいにこっちを向くリリ。その瞳は、切羽詰まったものがある。

 

「そうなんです。リリ達はこの『遠征』で、とてつもなーくお金を使ってしまったので……正直、モンスターにやられてる暇とか無いんですよ。なので、アエルテス様が来てくださって助かっています。」

 

「そーいうもんか。」

 

「くっちゃべってる暇はないよ!ほら、お出ましだ!」

 

パーティ正面から、真っ直ぐ歩くカニの群れが襲来してくる。愛でも歌ってやりたいが、そうも言ってられまい。

無論、今回は俺は手を出さない。いやピンチになりそうなら手を出すが、だとしても今回の俺はズバリ!保護者枠だ。保護者は保護者らしくしていないとな。

 

「うげえ、カニが真っ直ぐ歩いてる!?」

 

「言ってる場合か!行くぞ!」

 

桜花、ヴェルフ、アイシャが先に飛び出し、続いてベルも吶喊する。戦闘自体はほんの数秒で終わった。

まあ楽に勝てる相手だろうし、苦戦されても困るがな。

 

「やりました!最初から"ブルークラブの鋼殻"が2つも手に入るなんて!」

 

「2つも!?」

 

「……どうかしましたか?アエルテス様。」

 

「すまん発作だ。気にしないでくれ。」

 

危なかった。いやなにも間に合ってはいないが、つい反射的に言葉が飛び出してしまった。

インターネットやサブカルチャーに触れている人間なら、気持ちはわかるはずだ。

 

「ああ、そうだ。この辺りの水辺を歩くときは用心しな。」

 

「え?」

 

アイシャの言葉に春姫が反応するよりも速く、俺は長剣を振るう。レイダーフィッシュが春姫にアンブッシュを仕掛けようとしていたからだ。

……なんか韻を踏んでしまったが、ともかく無事で良かった。

 

「レイダーフィッシュがアンブッシュ………ふふ。」

 

「でぇい!」

「はぁっ!」

 

俺が少しツボっていると、もう一匹が襲撃をかけていたようで、アイシャと(ミコト)の連携攻撃で沈んだようだった。

 

「やるね【絶†影】。これならあのへっぽこ狐のお守りを任せても良さそうだ。」

 

「自分は昨晩、春姫殿に必ず護ると誓ったばかりですから。」

 

(ミコト)ちゃぁん!」

 

(ミコト)に抱きつく春姫。それを見ていたパーティメンバーはそろって「おお」と感嘆の声をあげながら拍手している。

仲が良さそうで何よりだ。

 

「……おい、あれ。迷宮珊瑚(アンダーコーラル)じゃないか?ヘファイストス様のところで見たことがある。いい素材になるんだ、採取していかないか?」

 

少し進み、ヴェルフが出し抜けにそんなことを言ってくる。

 

「いいですかヴェルフ様!先程水の恐怖は学んだではありませんか!ここは慎重にですね……!」

 

迷宮珊瑚(アンダーコーラル)は高く売れるんだよねえ。おや?よく見たら真珠(パール)のほうもあるじゃないか。」

 

「おい、採取したいですか?先 自己してください」

 

すでに俺は対岸にいる。具体的には、アイシャが「高く売れる」と言ったタイミングにはもう跳んでいた。

何か罠的なものはないし、さっさと採取を済ませてしまおう。

 

「あーっ!!?アエルテス様、取り尽くさないでください!?ベル様、(ミコト)様、お願いします!」

 

早速俺は小刀を使って採取を開始する。そういえば、前世でやってたモンスターをハントするゲームでもこういうふうに採取に勤しんでいたっけか。

 

「ふふ……コーラルよ、ダンジョンと共にあれ……」

 

「目が怖いよ?アエルテス。」

 

「アエルテス殿も金欠だという話ですので……」

 

一通り採取を終え、パーティに合流しようと思った────その矢先。(ミコト)が跳び上がった瞬間に出現(スポーン)する巨大魚。

誰もが食われる。そう思ったが………(ミコト)がぐるりと身体を捻り、足を満月状に回転殴打!

 

「メイアルーアジ・コンパッソ!?」

「サマーソルトでしょ!?」

 

怯んだ隙にベルが魚にとどめを刺し、対岸へと渡る。俺はついでなので火傷を治すべく少し流れの若い方に飛び込み、泳いで対岸へと渡る。

 

「今のは、出発前にタケミカヅチ様より授かった技です。早速役立てることができました。ところで、メイアルーアジ・コンパッソとは…?」

 

「ええと……前屈みになって、そのままの勢いで後ろ蹴りを放つ感じの技だ。不意打ちにも使えるからオススメだぞ。」

 

「なるほど。流石は布瑠部由良由良八握剣異戒神将魔虚羅殿ですね!」

 

「なんて?」

 

そんなことを話している間に、ヴェルフたちが採取品の鑑定を行なっている。どうやら、珊瑚ひとつで350万ヴァリスは行くらしい。勝ったな。これで人生アガりだ。

俺の現在の採取量は3個。だいたい1050万ヴァリスの収益だ。俺ここに住もうかな。

 

「しっかし……一つの階層で登ったり降りたりと、面倒な地形だな。」

 

「それが下層ってもんさ。」

 

少し歩き、正規ルートの半分といった頃。俺の強化された聴覚は、足音を聞き取る。無論、パーティメンバー以外のものだ。

俺は黙って前に出て、フレイモスを構える。

 

「ん?アエルテス、どうし……いや、誰か来る。皆、構えて。」

 

「どことも『遠征』期間は被ってないハズだろう?となると……異常事態(イレギュラー)か、探索中の冒険者か。そのどっちかだねぇ。」

 

刻印は反応していない。俺をピンチに追いやるような状況ではないということだ。だが、あくまで適応は俺一名のみ。

パーティメンバーのお守りをする以上、警戒を努めないといけないのも保護者の辛いところだな。

 

「……ルヴィスさん!?」

 

現れたのは、片腕の欠損した、血まみれのエルフ。ベルの知り合いか。

 

「あの寄生木(ヤドリギ)……見覚えがあるな。」

 

俺がアッシュを下層から救った時のことだ。妙な苔の巨人(モス・ヒュージ)がいた。その時も、似たような症状だったように思える。

あの時の俺で圧倒できたのだ、今回は……楽勝だろう。

 

「に、げろ……!」

 

ルヴィスが倒れ、奥からモス・ヒュージが現れる。もはや躊躇うまでもない。

 

「ベル!」

 

「分かってるッ!」

 

誰よりも先にベルが駆け出し、俺は魔法を唱える。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』……【リュクシオン】ッ!」

 

ごう、と音を立てて黄金の炎が俺の外套となって纏われる。それと同時に、耐え難い苦痛が全身に走る。だが、この痛みこそが俺に戦いの実感をもたらすのだ。

 

『─────ッ、オオアアッ!?』

 

動揺したように種マシンガンを放つ構えのモス・ヒュージ。

 

「それに、当たるなァッ!」

 

全員が防護姿勢を取る。だが、俺には関係ない。近づいてきたならすぐに燃やし尽くすだけだ。

振りかぶられた水晶棍棒をかわし、フレイモスで一撃を与える。連射が止まり、ベルもすぐさま吶喊する。

 

「待ちな!深追いするんじゃないよ!」

 

アイシャの静止に、ベルが止まる。どうやらモス・ヒュージは撤退していくらしい。ここで俺が追いかけて、始末しに行ってもいいが……。

 

「千草!しっかりしろ、千草ァ!」

 

「………保護者失格だな。」

 

ため息を吐き、被弾してしまった千草に近づき、容体を見るのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『ハァッ……ハァァッ………!?』

 

苔の巨人(モス・ヒュージ)は、必死に逃げ惑いながら自身に植え付けられたトラウマを頭から追い出そうとしていた。

黄金の炎。自身を焼き、芽生えた心に消えない傷を残した黒焔のあるじ。

 

『オオ────!』

 

手に持った水晶の棍棒で水晶の壁を壊し、隠していた冒険者(エサ)たちを取り出す。黄金の炎に植え付けられた恐怖を、同じく『詩』を歌って攻撃してきたこの者たちを屠ることで解消しようとしていたのだ。

 

「ひぃっ……」

 

怯え、目を見開き、後ずさろうとするエルフたち。あまりの恐怖に失禁し、その無様な姿にモス・ヒュージは嘲笑する。

自分は強者だ。あのような(メス)一匹に、怯えるような存在ではない。

 

『……オオッ!』

 

己の満足のために、か弱き冒険者を叩き潰そうとした──────その時だった。黒き炎が、三発。モス・ヒュージの顔面に叩きつけられる。

 

『ッ、エエッ!?エ、ハァッ!?』

 

「ドーモ。モス・ヒュージ=サン。アエルテスです。」

 

殺戮者のエントリーだ!黒炎に燃やされた箇所を素早くパージし、モス・ヒュージは大きく後退。だが、その隙を逃さずアエルテスが股下に潜り込む。

 

「イヤーッ!」

 

『グワーッ!?』

 

火炎逆袈裟斬りだ!火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)といえど、Lv.5の攻撃にはひとたまりもない。

モス・ヒュージが勝てないと悟り、撤退しようとした……その瞬間。

 

「【ファイアボルト】!」

 

いと速き炎雷がモス・ヒュージを打ち据える。悲鳴をあげ、近くの水路を探す。だが、このままでは終われない。

次の一手を、次の一手を考えなければ──── ()()()()()()()()()()()。逃げと攻めを一体化した策。

 

『ハッ……!オオオオアア!!!!』

 

モス・ヒュージ決死の策略。蔦を地面に突き刺し、白髪の方を捉え、掴んで離さない。

あの黒炎が自分を燃やし尽くせば、死神の仲間らしい白髪も燃え尽きるだろう。

 

『ハハッ……ハァッ!?』

 

眼前には、真顔の死神。直後に走る激痛に、モス・ヒュージは己が斬りつけられたのを自覚した。

勝ち誇っている暇はない。逃げなければ。少なくとも、今すぐに火を消さなければならない。でなければ、自分は燃やし尽くされてしまう。

 

『グググ……デアッ!』

 

急流の中に入る。当然、白髪の方も一緒だ。深く、深く流されて行った先に─────掴める石がある。

モス・ヒュージは自分を産んだ迷宮(はは)に感謝しながらも、流されていく白髪の少年を見送る。

 

『…………。』

 

ひとまず安堵し、自分もまた安全な場所へと降り立つ。歩き慣れた迷宮を歩いて行き、冒険者たちの死体置き場に辿り着く──────だが。

 

「よう。」

 

『……………ハ?』

 

黄金の炎をゆらめかせる、死神がいた。

 

「お前、異端児(ゼノス)か?それなら俺の言葉が分かるだろう……」

 

『…………ッ?』

 

死神は、冷たい表情のまま訳のわからぬ鳴き声をあげている。初めて、モス・ヒュージのなかに声が生まれた。

同族を食い殺せ(つよくなれ)」でも、「人間を根絶やしにしろ(ははのねがい)」でもなく。ただ、ひたすらに単純な生物としての本能。

 

すなわち──────「生存本能(しにたくない)」という魂の底からの叫びだった。

 

『ウワァァッ!?アアアアッ!!!』

 

「怖いんだろう。俺が。」

 

理解出来ない。それ故に恐ろしい。

こんな事ならば、あの時─────冒険者たちの言葉を話す同族を喰らっておけば、こんな恐怖を感じることはなかったはず。

 

『ハァッ、ハァッ……!』

 

逃げる。逃げる。逃げる。背後から黒い焔が自分を焼く。焼かれるたびにその部分を引き剥がし、さらに深くへと逃げるために水の中に飛び込む。

同族を捻り殺し、その魔石を取り込み、力にする。

 

「どこ行くんだよ。」

 

『ヒィッ!?』

 

また逃げる。逃避の中、モス・ヒュージは思考を回す。自身は追い詰めたことはあれど、追い詰められた経験は少ない。

こんなことはあってはならない。そんなことがあっていいはずがない。だが──────。

 

『アウ………。』

 

認めなければならない。芽生えた知性は、悦楽から抜け出し、恐怖を知り、脱皮を果たそうとしていた。

 

人間が何故霊長に成り上がったのか……その理由は、恐怖にあると言われている。

恐ろしいものは、何としてでも排除しなければならない。従い、馴れ合い、共生する?

 

『────オオ。』

 

否。そんなことは()()()()()。敵は、敵だ。

あの異端の同族たちも、この水の楽園にいるあのマーメイドも、何も分かっていない。

人間とは、それ以外の死神であり、迷宮(はは)の意思は、きっと恐れから来ているものであると。

 

「へえ。」

 

手に入れる必要がある。死神を克服するためには、死神の力の源を理解する必要がある。

腕で棍棒を削り、刃にする。自分には「技」がない。決まった「型」がない。ならば、他から学べ。牙を研げ。力を究めろ。

 

「剣士の真似事……いや、俺の真似かよ?」

 

『ウオオオオオオッ!!!!』

 

叩き潰すような一閃。死神は軽々と躱す。当たれば致命的。Lv.5以上の潜在能力(ポテンシャル)と、Lv.5の冒険者。

これは、ただのチャンバラではない。間に入れば、即座にミンチ肉となって死亡するような死闘。

 

『オオアアアアッ!』

 

斬り合い中の種射出!側転回避し死神は無傷!

死神は水晶剣を踏みつけ、近すぎる間合いを埋めるため、燃えたぎる拳でモス・ヒュージを殴りつける。

古代オラリオ神話において、クラーケンは仲間たちの恨みを買い、ボコボコに打ちのめされ、全身の骨を失ったとされている。

 

死神の攻撃は、まさにそれを彷彿とさせるような連撃であった。

 

『ウグ─────オオオオッ!!!』

 

通常ならば戒めを解き、後退するところであるが……モス・ヒュージ前進!梃子の原理を本能的に理解し、理性的に活用したのだ。

 

「ぬおっ!?」

 

前進の勢いのまま、モス・ヒュージは剣を上段に構え、トドメを刺そうと振りかぶる。だが、功を焦ったところを回し蹴りが捉える!

おお、見よ。これが──────かつて25階層で死神・アエルテスが口走った、格闘奥義。

 

「メイアルーアジ……コン、パッソ!」

 

殴る蹴るなどの暴行は、基本的に生と死を争う場面では有効ではない。だが、それはあくまでもLv.1などの者たちに限られる。

幾たびものランクアップを経たものたちの徒手空拳は、それだけで致死量の打撃を浴びせることができるのだ。

 

『〜〜ッ、グオウ…!』

 

殴られ、熱くなっていた思考が冷めていく。モス・ヒュージは、勝利が目的ではないことを思い出し、雌伏の時であることを悟る。

いずれ必ず勝つために。今は、退かなければならない!

 

『オオオオオ──────ッ!!!!』

 

雄叫びを上げ、死神へと立ち向かう。死神は構え、悍ましい笑みを浮かべ、漆黒の炎を剣に纏わせる。まともに喰らえば死ぬ。次はない。

だが──────自分の狙いは、生存だ。

 

「来いッ!モンスターッ!!!!!」

 

『オオオ────グオアアッ!!』

 

モス・ヒュージは跳んだ。死神を飛び越え、廊下を走る。剣を以て道を壊して塞ぎ、しばらくの間、死神が自分を追って来れないように、念入りに壊す。

 

『ハァッ……ハァッ………!ウオオオオオ!!!!』

 

歓喜の雄叫びをあげながら、モス・ヒュージは走る。走り、少しでも生存可能性の高い方へ。今の自分が怖いのは、白髪の少年と金髪の死神だ。

逆に言えば──────それ以外は、簡単に勝てる。

 

モス・ヒュージは、覚悟を決めた瞳でブルークラブの群れを眺めるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

まさか逃げられるとは。

最後の方は、怪物(モンスター)特有の凶暴な赤い瞳ではなく、理知を備えた瞳だった。おそらく、異端児(ゼノス)のように知性を得たのだろう。

でなければ、あんな怯えた瞳で見てくるはずがないからな。

 

「しっかし……27階層まで追いかけてきたのはいいが、っ、ぐぅ……いってえ……」

 

魔法を使いすぎた反動で、まだ治っていない火傷がじくじく痛む。

寝っ転がり、痛みに歯噛みしつつ汲んでおいた水で自分の炎を消す。首元の紋章は反応しない。だが、事実として俺は今動けていない。

 

「ん……誰か来るな。」

 

起き上がり、フレイモスを構える。だが、現れたのは──────まさかの人物だった。

 

「アエルテス、ここにいたんだ。」

 

「あっ……アイズ先輩!?」

 

現れたのは、アイズ先輩。水でずぶ濡れになっていることから、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を降ってきたのだろう。

さすがはLv.6。次元が違う。

 

「帰ろう。ロキが心配してた。」

 

「あれ、『下層』に稼ぎにいくってボールスに伝えてなかったっけ。」

 

「……アエルテスは、三週間はダンジョンに潜っちゃダメだって聞いた。だから、連れ戻しに来たの。」

 

そういうことだったか。しかし妙だ。アイズ先輩の姿が、随分とボロボロなのだ。無論、巨蒼の滝(グレート・フォール)を降ってきたのならボロボロにはなるだろうが。

 

「その怪我、どうしたんです?」

 

「………オラリオで一番強い人と戦ったの。」

 

「なるほどね。」

 

どうやら、アイズ先輩もオッタル師匠と訓練していたらしい。とは言っても、俺とは違って最初から相手をしてもらったようだが。

比較的軽傷で済んでいるのも、アイズ先輩の強さの故だろう。

 

「俺もオッタル師匠と戦わせてもらいましたよ。これで俺も、第一級冒険者。アイズ先輩に追いつく日も近いですね。」

 

「うん、頑張って。じゃあ行こう?」

 

「行くってどこに………」

 

「地上。ロキは、アエルテスをクノッソスの件から遠ざけたかったみたいだけど、フィンはそうじゃないみない。」

 

私たちなら半日で行けるでしょ、と呟き、走り出すアイズ先輩に俺は瞠目しながらついていく。結局──────俺は、ベル達がモス・ヒュージに勝ったのか、負けたのかは分からなかった。

 

 

 

 

地上に辿り着き、俺は待っていたとばかりにフィン団長に司令書を渡される。

 

「おかえり、アエルテス。今作戦において、君の存在は不可欠だ。こちらは神ディオニュソス、君には彼を護衛してもらうのが目的だ。」

 

「よろしく頼むよ。英雄アエルテス。驚異の子。君は、はるか昔にモンスターを討伐したそうじゃないか。それも、神の恩恵(ファルナ)抜きで。」

 

フィン団長から紹介されたのは、貴公子もかくやといった風貌の男神。その瞳の奥には、好奇とは別の、何か後ろ暗いものが見えている。

フレイヤ様のもとで修行していたから分かるようになった、神の視線。

 

「アエルテス?どうしたんだい、神ディオニュソスをじっと見て。」

 

「君のように美しい人に見つめられてしまうと、なんだか照れくさいね。どうしたのかな?私の顔に何かついているかい?」

 

じわり、と首元の紋章が熱を帯びる。

燃える塔の紋章が──────まるで、歓喜するように反応しているのだ。だが、これを今言う必要はないだろう。

 

「……目と鼻と口が付いています。」

 

「………?ふふっ、()()()()()()()()()()()()()()()()ともかくよろしく頼むよ。」

 

フィン団長は俺の様子見て、親指をポケットの中に入れる。なるほど、団長も何かに気が付いているが、その確証は掴めていないといったところか。

 

「ええ、よろしくお願いします。ディオニュソスくん。」

 

「おお!気安く呼んでくれたまえよ。英雄に友好的に思われることほど、喜ばしいことはないからね。少なくとも、『様』付けよりは仲が良さそうじゃないか?」

 

「はい。フィン団長、ちょっといいですか?」

 

「いいとも。むしろ、僕の方から君と話すべきだと思っていたぐらいだ。こっちで話そうか。」

 

ディオニュソスのいない場所まで来て、俺はフィン団長に刻印を見せながら言う。

 

「アレ……ヤバいですよ。俺の勘なんですけど、すぐ殺した方がいいんじゃないですか?」

 

「ああ。だが、僕らに神は殺せない。神を殺せるのは神だけだ。君に、何か考えがあるのかい?その瞳の奥に宿る暗い炎に、賭けろとでも?」

 

「まさか。俺だって別に人間やら神やらは殺したくないですよ。それと、フィン団長が感じてる俺のナンカは魔法による精神汚染なんで……気にしないでくださいね。」

 

「分かった。それで、どうする?ロキは既に【ディオニュソス・ファミリア】の参戦に了承した。【ロキ・ファミリア】の面々も、今回のクノッソス攻略戦には神ディオニュソスが必要だと考えているだろう。」

 

怪しいから潰す、というのが出来ない状況なのか。それに、ディオニュソスは俺のことを何か特別に見ているらしい。

18階層で起こっている殺人事件のこともあるし、地上に戻ればコレだ。面倒ったらありゃしない。

 

「悩んでいるようだね、アエルテス。君はベートと似たところがある。けれど、ベートはああ見えて気遣いや戦略を考えている。君はどうかな?」

 

「……ひとまず、俺はフィン団長の命令に従ってディオニュソスを見張っておきます。ただ、問題が発生した場合は……ディオニュソスを拘束し、インタビューします。」

 

「なるほど。それなら大丈夫そうだ。あとのことは頼んだよ。それと……今回の相手はモンスターじゃない。くれぐれも迷わないでくれ。」

 

「………はあ。」

 

そろそろ、モンスターやダンジョンとしっかり向き合いたいものだ。

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