自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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【疾風】討伐隊

 

フィン団長に作戦を伝えられた次の日。18階層にいるボールスからの伝言が俺の元に届く。

なんでも、ベルたちが『強化種』のモス・ヒュージを倒したという喜ばしいニュースだ。

 

だが──────それだけではない。

 

「……【疾風】の討伐。リオンって……リュー・リオン?一体何が……」

 

あの辺については、ある程度調べてある。

数年前に発生した『異常事態(イレギュラー)』により壊滅したファミリアの団員の一人。Lv.4の冒険者だったはずだ。

 

「ンなばかな……正義を掲げてる人が人殺しなんて………………いや、するかもしれないが、少なくとも、ただ殺してるわけじゃないだろう……」

 

「あ、あたまをかかえて、どうしたの。」

 

場所は【フレイヤ・ファミリア】の拠点(ホーム)こと『戦いの野(フォールクヴァング)』。

アイズ先輩に「とりあえずついてきて」と言われ、着いてきたは良いものの……そこでは、すでに三日三晩アイズ先輩がオッタル師匠にボコボコにされている現場であった。

 

「アイズ先輩。それがですね、ボールスからのSOSでして。」

 

「えす……?」

 

「助けが欲しいってことですね。なんでも、凶悪な殺人鬼がダンジョン内に出てきたから俺の力を借りたいのだとか。でもその殺人鬼、知り合いの可能性があって……。」

 

「そうなんだ………あっ」

 

アイズ先輩の背後から、仏頂面のオッタル師匠が現れる。オッタル師匠は、俺を一瞥すると鼻を鳴らし、たった一言言う。

 

「行け。残る7日間で全てを片付けてこい。」

 

「はい。」

 

と、いうわけで。

やってきました18階層。もはや慣れたもので、縦穴を一気に降ってあっという間に到着だ。レベルが低い頃はあんなに苦戦したのを考えれば、感慨深いものがあるな。

 

「おおっ!来てくれたか!!【暁炎(エリュオ)】!」

 

リヴィラの街に着くなり、ボールスの喜色満面の笑みが俺を出迎える。よく見れば、俺を見るなり既に解決したかのようにホッと胸を撫で下ろす冒険者たちの姿もある。

 

「おい、あんまワクワクさせんなよ……状況は?」

 

「ああ……今朝、ジャンの奴が殺された。モンスターの仕業じゃねえ、確かに人間による傷だった。」

「俺、マントで身を隠した奴が走っていくのを見たぞ!」

「ああ、下の階層に潜っていった。」

 

なるほどな。つまりは【疾風】を捕まえて、ふんじばってから地上に連れて帰ればいいわけだ。

たしか、懸賞金も出ていたはず。

俺がどうしようか考えていると、見覚えのある白髪──────ベル・クラネルが前に出てきた。

 

「アエルテス。僕は【疾風】がやったんじゃないと思う。あの黒いゴライアスの時も、アステリオスさんの時も……【疾風】は僕たちと一緒に戦ってくれた。そんなことするとは思えないんだ。」

 

「それを確認するためにも、まずは【疾風】を見つけないとな。信じるも信じないも好きにすればいい。俺は【疾風】の捜索に参加するつもりで来たんだからな。」

 

なんだか納得が行っていないような顔を向けてくるベルに、俺の真意────リューさんの件を穏便に終わらせるという意思をこっそり伝える。

だが、それはそうと俺は対外的には【疾風】討伐のために呼ばれた助っ人だ。その辺は考えて動かなければな。

 

「アエルテス、あとでテントに。」

 

「情熱的なお誘いだな。受けて立とう。」

 

「………え?お前らってまさか……」

 

「何でも良いから段取りを聞かせろボールス。余計なこと言ったら口を縫い合わすぞ。」

 

「分かった、分かったから妙な動きをしないでくれ!?」

 

よかった。妙な勘ぐりをされたら、危うく北斗羅漢撃が出るところだった。逃げられんぞ。

ちなみに、ボールスが言っている妙な動きとは朧のことだ。俺も既にLv.5、豪鬼の動きぐらい真似できる。

 

「はぁ……段取りっつっても、【疾風】には8000万ヴァリスの賞金がついてる。ま、そう簡単には行かねえだろうよ。相手はLv.4、お前さんなら圧倒できる相手だろ。」

 

「マジで8000万ヴァリスが魅力的すぎるんだよな。せや!捕まえてから脱獄させてまた捕まえれば【疾風】ロンダリングが……」

 

「邪悪の化身かよ?」

 

流石に無罪の友人ではやらないが、しかし有罪の他人ならロンダリングしてもあんまり気は悪くないだろう。泣かれたらちょっと考えてしまうかもしれない。

今度試してみるか。

 

「ま、とりあえず【暁炎(エリュオ)】には主戦力になってもらうつもりだ。頼めるか?」

 

「それは良いけど、俺七日もしたら帰るよ?普通にファミリアの用事があるんだわ。」

 

「なら、七日間みっちり働いてくれ。報酬はお前に優先的に取り分を渡す。それでいいな?」

 

「おうともよ。んじゃ、俺はベルとアツい夜を過ごしてくるから邪魔させんなよ。」

 

ボールスを適当にあしらい、ベルたちのテントの中に入る。真っ先に、俺が蔦を治療した千草が駆け寄ってくる。

 

「アエルテスさん!昨日は、その……ありがとうございます!あの……やっぱり、神宵雷府総司駆雷掣電追魔払穢天君とお呼びしたほうが……?」

 

(ミコト)を睨む。(ミコト)は何も知らないと言ったふうに口笛を吹いている。こ、こいつッ!!!

 

「アエルテスでいい。それで……リューさんが何でこんなことに巻き込まれてるんだ?事情を知ってる奴はいるか?」

 

「事情というか推察だけど、ウチは【疾風】がやったとは考えにくいかな。あんな滅多刺しにする殺し方である必要はないから。偽装の可能性が高いと思う。」

 

「僕も、あの証人たちは嘘をついていると思う。リューさんは黒いゴライアスの時、一番目立つ戦い方をしてた。あの人がリューさんのことを知ってるなら、その事を知ってないとおかしい。」

 

「【疾風】を仕留めようって焚き付けてたのも、なんだか不自然だったしね。」

 

なるほど。つまるところ、ほぼ確で白。黒いのは証人たちか。なら、この件はもっと単純になるな。

俺があの証人たちを消してしまえばいい。無論、精神汚染のせいでこういう考えに至ったかもしれないというのは考慮した上でだ。

 

最も効率的なのは、おそらく──────。

 

暁炎(エリュオ)。アンタまさか、あの証人たちをブチ殺して解決しようなんて考えてないだろうね?」

 

「そんなわけ……あります。普通に殺してから考えようと思ってました。」

 

「はぁ……【万能者(ペルセウス)】から聞いたよ。アンタ、ヤバめの精神汚染喰らってるんだってねえ。一緒に行動するなら、って言い含められてんだよ。」

 

「うう……疑わしきは罰せよでは?」

 

「罰せず、な。殺伐としすぎだろ。」

 

ヴェルフからツッコミが入る。ごもっともです。

 

「ベル……」

 

「ダメだよ。」

 

「……はい。」

 

くっ、この平和主義者たちめ。まぁそれで良いのかもしれないが。

いざとなれば、というよりは時間が無くなったら速攻最短ルートでこの難事件に()()をぶちこんでやる。

 

「話を戻すけど、僕はリューさんがやったとは思えない。きっと、何かに巻き込まれているんだと思う。もしそうだとしたら──────助けたい。」

 

「なるほどね。俺は賛成…っていうか、お前ら全員既に討伐隊に入ってリューさんを先んじて発見する気なんだろ?俺も混ぜてくれ。」

 

とは言っても、7日間限定だが。と枕詞を付けてだが。

 

 

 

 

「あ、あのぅ……」

 

俺が出発前に未だ治らない火傷を治すための包帯を取り替えていると、カサンドラがおずおずと話しかけてくる。

 

「夢で、見たんです……討伐隊の皆さんだけでなく、私たちも……災厄に殺されてしまう夢を。」

 

「おん。それで?」

 

「でも……その中に、アエルテスさんはいませんでした。ですので、きっと……アエルテスさんがこの局面を変える鍵になるのでは、と……」

 

「当然だ。俺は勇者だし英雄だからね。いくらでも頼ってくれ。いづづ…っ、かぁ……滲みる……!」

 

じんわりと火傷痕が痛む。だが、昨日よりはマシになってきている。魔法を使えば激痛は走るが、治りが遅くなるわけではない。

 

「あ、あの……お願いします。約束していただけませんか……?厄災を、必ず退けると……そうしたら……」

 

「ならば、本当に困った時──────俺の名を叫べ。そうしたら、すぐにでも駆けつけてやる。」

 

英雄スマイルでグッドサインを出す。予知夢だの悪夢だの白昼夢だの紅楼夢だの、何だかよく分からないが、助けを求めるものに俺は手を差し伸べる。

それが勇者であり、英雄ってもんだ。ここ最近は戦い詰めで忘れかけていたが、原点回帰のお時間というわけだな。

 

「さて……俺はそろそろ出る。ベルとは集団戦においては相性が……悪いことはないが、ベルのバリューを活かせなくなる。この辺りでお暇させてもらうぜ。」

 

「ま、待って!」

 

「うん?」

 

行こうとして振り返ると、カサンドラは俯きながらも、真っ直ぐに俺の方を向く。

 

「もし……変えられない運命があったとして、逆らう力も無かったとしたら……どう、しますか?」

 

「……もし、何をしてもダメなら……明日に託すよ。」

 

そう言い残し、俺はボールス達の元へと歩いていく。既に討伐隊は準備完了。全員集まったところで、俺たちは『大樹の迷宮』へと足を踏み入れるのだった。

 

しかし、ここまで大人数になるとはな。

中層を数十人もの人数で降りていく光景はなかなかに壮観だ。それと同時に、俺たちを襲いにくるモンスターも即座に撃ち落とされ、俺の出る幕はすぐさま無くなってしまう。

 

「ふわぁ……退屈だな。」

 

現在、俺たちがいるのは21階層。ここまで時間をかけて大人数で捜索していたが、全てが徒労に終わった。

 

「二度とダンジョンでの捜索依頼は受けないようにしましょう。割に合いません!」

 

ぷんすこ怒るリリを尻目に、この後に控えているであろうアンフィス・バエナとの戦いに想いを寄せる。

アレはまだ倒されていなかったはず。倒したとすれば──────オッタル師匠ぐらいしかいないだろう。

 

「あの……リリさん、階層主は……。」

 

「アンフィス・バエナですか?何やらアエルテス様はまだいるかも、との事でしたが、そんなことはありません。アンフィス・バエナは【フレイヤ・ファミリア】の冒険者様がたによって討伐されています。」

 

仕事が早いよフレイヤ様。おそらくは、俺の動きを予想して──────あるいは、ベル達の行動を先読みして潰させておいたのだろう。

抜かりのないことだ。うっ視線がどこかから。

 

「ボールス!」

 

「あれは……マンモス・フールの群れか!?お前らやるぞォ!【暁炎(エリュオ)】、一番槍はお前が行け!【白兎の脚(ラビット・フット)】も行け!」

 

迫り来るデカいマンモスの群れ。マンモスは元々デカいだろって?うるせーな。

ともかく、デカいマンモスの群れが来ているようだ。アンフィス・バエナより先に、このゾウの群れを何とかしよう。

 

「涙雨──────」

 

抜刀。

 

「降りて溢るる、渡川──────」

 

一閃。一閃。また一閃。黄金松脂を塗りたくられた長剣が紫電に瞬く。

次の瞬間、ばらりと斬れて魔石と化するはマンモス・フール。それを見た冒険者たちも雄叫びをあげ、突撃していく。

 

「引導を渡してやろう。」

 

やはりLv.5は格が違った。今ならキングベヒんモスでも倒せそうな勢いだ。ベヒーモスもう死んでるんだっけ?分からない。

俺のログにはないな。

 

マンモスの群れを倒し終え、俺たちは再び捜索に入った。俺が階層を駆け回り、魔物を見つけては殺し、見つけては殺しを繰り返したことによって作業は大幅短縮。

 

半日で24階層まで辿り着くことができた。

道中、特にこれと言って目ぼしいものは無く────一方的に、魔石が集まっていくばかりだった。

 

「このまま見つからないでいてくれる方が、楽ではあるんだがな。」

 

「そうも言ってられねえぞ。【暁炎(エリュオ)】。お前が飛び回ってたとき、振動があった。おそらくは爆発だ。今から俺たち全員で『下層』へ向かう。先導を頼む!」

 

「了解。」

 

ボールスに言われ、俺は24階層を駆け、25階層へと辿り着く。どうやら、爆発は未だ続いており、27階層に何かがあるようだった。

 

「ここからはパーティを厳選するぞ!他の野郎どもはこの連絡路の見張りだ!」

 

「的確な指示だ。お前たち、この俺────ヘリオドーンのアエルテスが先導する!命が惜しければ、俺から離れるなよ!」

 

「「「おおおおっ!!!!」」」

 

久々の英雄ムーブで心が躍る。だが、懸念すべきはベル達の様子だ。

見たところ、カサンドラは相当予知夢を気に病んでいる。しきりに「行くのやめませんか?」とベル達に訴えかけているのだ。

 

「アエルテス。ちょっといい?」

 

「ダフネか。どうした?」

 

「カサンドラの提案で、アンタについていくのはベル・クラネルだけになったよ。ウチらは待機。戦力的にはこれで大丈夫だとは思うけど、一応確認だけ。」

 

なるほど。アイシャは来ないのか。少しだけ心配だが、まあ気にすることでもないだろう。

そもそも俺はLv.5。圧倒的な「「「「強者」」」」なのだからな。

 

「分かった。カサンドラには困ったら俺の名前を叫ぶように伝えてある。ダフネも俺のことを頼ってくれ。少し時間はかかるかもだが、何としてでも助けに行く。」

 

「そんな事態が起こるとは思えないけど、この前の『強化種』のこともあるし、用心はしとく。それじゃ。」

 

俺が立ち上がり、支度を済ませると─────少し遠くで、カサンドラがよろける。何事かと瞠目していると、少し眩暈がして気絶していたようだ。

ホッとして粥でも飲ませてやるかと近付けば……カサンドラは、怯えきった目線で俺を見る。

 

「………ぁ、ああ………」

 

「え、あ……ごめん。お粥嫌いだった?すまない、気が付かなかっ─────」

 

「……『黄金の炎は、必ず苦難を超えた苦難に陥り、絶望の果てに追いやられるであろう』。」

 

「……………マジか。」

 

ギョッとしてカサンドラを見ると、その目には涙を浮かべている。あまりの様子に、看病していたダフネさえも目を見開いている。

 

「大マジです……アエルテスさん、やっぱり貴女も行かない方が──────!」

 

必死の形相で俺に迫るカサンドラ。なるほど確かに、不吉な予言というのはあるのだろうし、彼女の経験則からしても当たるのだろう。

だが──────ここで退くのは、勇者ではない。

 

「いいや、約束しただろう。必ず助けに来ると……覚えておけ、仲間ってのは……他の仲間のために犠牲になっても、痛くないもんだ。」

 

カスの毒親からの引用だが、まあ言葉自体は立派なもんだ。ありがたく使わせてもらおう。

その言葉を聞いて安心したのか、カサンドラの表情は少しだけ明るくなった。

 

「それじゃ……俺は行ってくる。また会おう!」

 

身を翻し、俺はボールス達の先頭を歩いていく。

【疾風】捜索は、まだ始まったばかりだった。

 

 

・・・

・・

 

 

「マーマンだ!って、もう死んでやがる!?」

 

迷宮(ダンジョン)27階層。『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の最深部で、俺たち【疾風】捜索隊は戦っていた。

側面からはライトクォーツによるレーザー攻撃。俺はそれを軽々と躱し、ターゲットを自分に集中させる。

 

「はああっ!!」

 

そこに、ベルによる突撃からの鞭打。無論、鞭打とは言えども手をムチのようにしならせて叩くアレではない。

いつの間にか巻いていた黒いマフラーを一閃したのだ。

 

「敵一掃。ちょろいもんだぜ。」

 

「やったね、アエルテス!」

 

ベルとのコンビ戦闘は、魔法を互いに縛られる代わりに近接戦闘におけるシンパシーが高い。普段はやらないが、格下から同格相手ならすごく刺さりやすい戦術でもある。

 

「【白兎の脚(ラビット・フット)】。お前、本当に27階層は初めてか?」

 

「あ、はい。」

 

「なんつうか……強くなったな。今のお前なら安心して前衛を任せられる。【暁炎(エリュオ)】ともども、頼りにしてるぜ。」

 

「ありがとうございます……?」

 

「めんどくせえのは全部てめぇらに任せた。あ、レアドロップが出たら山分けだからな。」

 

「それにしても、すげぇ強くなったな!ベル・クラネル!」

 

あっという間にベルがパーティの皆に囲まれる。うむうむ。我が幼馴染は大したやつだ。

俺の成長が早かったり強かったりするのは、俺が世界に選ばれし伝説の勇者だからだというのは事実だ。

 

だがしかし、ベルは……ベル・クラネルは違う。正真正銘、才能と努力だけでのし上がってきた本物の英雄だ。

俺みたいなのとは違う。基礎のない、ゼロからの状態でここまで来たのだ。賞賛に値する。

 

「小休止は終わりだ……ボールス、みんなに指示を頼む。」

 

「分かった。俺もちょうど、そろそろ行こうかと考えてたところだ──────お前ら!そろそろ行くぞ!」

 

再び27階層を歩き始め、探索を続けていると……妙な大穴が空いていた。

ボールスによれば、この辺りの階層ではこんな穴見たことがないという。そして───この歌。Lv.5の強化された聴覚には、微かにだがはっきりと聞こえる。

 

「歌?なんだ……」

 

「くそ……どこまでも異常事態(イレギュラー)か!」

 

「っ、僕見てきます!」

 

何かに勘付いた様子のベルが、歌声の方向へ走っていく。冒険者が静止の声を上げるが、聞く耳を持たずに走っていく。

 

「アエルテス!あいつ止めなくていいのか!?お前の幼馴染なんだろ?!」

 

「構わん。ベルがああいう突飛な事をするときは、何か考えがあってのことだ。錯乱していたなら、状況判断して戻ってくるだろう。」

 

実際、俺はベルが何を考えているかはわからない。だが、間違いなく考えなしのことではないのは分かる。

もしかしたら、単純に俺たちから離れたかったのかもしれないが。それは定かではない。

 

「……血の匂い。ボールス!こっちから、血の匂いがする!火薬もだ!」

 

「何ぃ!?でかした、おい【暁炎(エリュオ)】!白兎の脚(ラビット・フット)は信じていいんだろうな!?」

 

「ああ。何かあれば俺が責任を取る。さっさと行こう。」

 

獣人の嗅覚(はな)を頼りつつ、俺たちは血の匂いがする場所まで走っていく。

辿り着いてみれば、そこには爆破跡と複数人の死体の山があった。どれも、討伐隊のメンバーではない。

 

「くそっ、こっちもダメだ!」

 

「偉いことになってやがるな……心配するな!俺たちには、【暁炎(エリュオ)】の守りがある!しっかり探せよ!」

 

どうせ生きちゃいないだろう。それに、生きてたとしても──────火薬の香りがリューさんの犯行を否定している。

その手のやり方はしない人だろうし、やるならもう少しスマートにやるはずだ。昔俺にやったように。

 

「お、ベル。おかえり。そのドワーフは……」

 

「ぁ……アエルテス。その、これは……」

 

「てめえ【白兎の脚(ラビット・フット)】!どこ行ってやがった!?」

 

「単独行動してすみません!その……」

 

「まあ良いだろ。帰ってきたんだからな。おそらくそのドワーフの死体は、十中八九【疾風】の仕業に違いない。」

 

手足への切傷、殴り抜かれた身体。リューさんが18階層で殺したという男の死体と完全に一致している。

だが………少し面倒になったな。死体の種類が違う。

 

「いたぞ!生存者だ!」

 

と、考え込もうとしたところで生存者が見つかったらしい。

確認しに、俺が行くと──────俺を27階層に叩き落とし、30階層から18階層まで運んでやったお騒がせバカことジュラくんがいた。

 

もっとも、顔を焼いてバレないように誤魔化しているのだが。吹き飛ばしてやった片腕を必死に抑えている。

 

「おい口は効けるか!?何があったんだ!」

 

「……っ、【疾風】が、【疾風】……が………」

 

ジュラと目が合う。にっこりと笑ってみる。

 

「う、うわぁアアアアアーーーーーっ!!!??!金髪コワイ!【疾風】ナンデ!?アイエエエエ!!!!」

 

「ははっ、おもろ。」

 

「おい下がれ【暁炎(エリュオ)】。なんか可哀想だろ。」

 

「いいや……こいつ、闇派閥(イヴィルス)だぜ。そんでもってコイツとは面識がある……テメッコラー!スッゾオラー!ナマッコラー!?」

 

「んなことは分かってる。そんでもって恐喝はやめろ。何言ってるか分からねえ。こいつは賞金首……【ルドラ・ファミリア】の団員で、【疾風】の敵だ。」

 

「お、おれは……あれから悪いことなんざ一度もっ…!いや……………一回!そう、魔物に操られちまって、一回悪いことはしちまったぐらいだ!」

 

「二回だろ。俺のこと27回層に突き落としたよなぁ?真面目にやってぇ!」

 

「あ、あれは……お前の姿が【疾風】そっくりだったもんで、動転して……」

 

「なんだって良いだろ。お前は生きてて、ジュラは死にかけてる。今はそれだけでいい。」

 

ボールスの言葉にすごすごと引き下がり、俺は少し離れて武器を抜いておく。コイツがいつ何をやらかすか分かったもんじゃないからな。

 

「どうするんだ、ボールス……」

 

「どうって……決まってんだろ。俺たちは何のためにここに来た?賞金首のエルフを討つためだろう。やることは何も変わらねえ。むしろ、追加報酬が増えてラッキーってとこだな。」

 

冒険者の質問に、意気揚々と答えるボールス。この生き汚い獣人(ジュラ)が、果たしてそう上手く拘束できるとは思わないけどな。

 

「んじゃ、とりあえず手と足の腱斬っとくか?」

 

「こいつを運ぶ奴の手間を考えろ。手の指だけにしておけ。」

 

「えっ」

 

ジュラに近づいて、一本ずつへし折ってやろうとした──────その時。

 

「【疾風】が出たぞー!」

 

背後から迫り来る影。走ってくるのは、リューさんの姿。無実ではなかったが、まあそんなもんだろう。

 

「かかれーっ!」

 

「「「うおおおおお!!!!」」」」

 

「どけぇええええ!!!!」

 

リューさんが冒険者たちを一網打尽にしていく。元気いっぱいだな。

 

「死ね!【疾風】!死ね!」

 

「はぁっ!」

 

「グワーッ!?」

 

一人、また一人と冒険者たちが蹴散らされていく。気持ちは人を強くするというが、強くなりすぎだろ。俺と18階層まで一緒に行った時はこうじゃなかったはずだ。

 

「ベル。辛いなら俺がやる……下がってろ!」

 

前に出て、フレイモスではないほうの長剣を握る。ジュラはすでに逃亡済み。あの程度、どうせ探せば見つかるだろう。

それよか今はリューさんだ。落ち着いて話を聞かなければ。

 

「アエルテス、また……貴女を傷つけたくはない。退け!」

 

「出来ないよ。あなたには……っと!」

 

木刀が振るわれる。だが、しっかりと受けて押し返す。その力量差に驚いたような顔を見せるリューさん。

以前の俺とは、圧倒的に格が違うのだ。

 

「ここだァーーーっ!!!!」

 

「ボールス!?」

 

好機と見たボールスがジャンプ斬りをお見舞いするも、かわされ、蹴散らされる。

その隙を縫ってリューさんは俺の横を抜け、ベルのもとへ向かう。

 

「邪魔だ。」

 

「リューさっ……待って!」

 

跳び上がり、ジュラを追うリューさん。ベルは未だ迷っているようだ。

 

「追うぞ、ベル!」

 

「っ、うん!行こう!」

 

ベルに発破をかけ、二人で走っていく。

直後、リューさんの魔法が壁を破壊する。その先には──────転び、恐怖に目を見開くジュラがいた。

 

「べ、ベル・クラネル……!アエルテス・ヘリオドーン……!!た、頼む!俺を助けてくれ!あいつから……【疾風】から俺を!」

 

土煙の向こうから現れる、緑色の影。リューさんは怒り心頭といった表情でジュラへ向かってくる。

 

「頼む!前みたいに、俺を助けてくれよぉっ……!もう、二度と悪いことなんざしねぇから………そうだ、全財産を孤児院に寄付したって良い……!だから、たのむ…………()()()()()()…」

 

震える声で、涙を流しながらそんなことを宣うジュラ。そのあまりの身勝手さに、俺は怒りを覚える。

こいつのせいで、【アストレア・ファミリア】は……リューさんは不幸になったのだ。

 

そのくせに、助けて欲しいだと?

 

「ふざけんな。都合が良すぎるだろ……」

 

だが、俺は──────。

 

「アエルテス、何をしてるの!?どうして、リューさんに剣を……」

 

「馬鹿野郎が……そこに、助けを求める奴がいたからに決まってんだろ。くそっ!」

 

自分自身を馬鹿だと思いながらも、俺を剣を抜き放つ。一度助けた命を、失わせるわけにはいかない。それに──────人は、変われる。

どんな人間にだって、正しい道へと進む権利がある。

 

「どうして、貴女はいつも……退きなさい。邪魔だ。そこにいては、その男を斬れない。」

 

「駄目だ……アエルテス、やめて!リューさんも、落ち着いてください!」

 

木刀がベルに突き付けられる。リューさんは本気だ。

そして俺も──────本気で、この人を止める。命は取らない……だが、少しばかり止まってもらう必要がある。

 

「私の過ちはジュラ、貴様をあの時殺しておかなかったことだ。そして───アエルテス。貴女に出逢ってしまったことだ。貴女は、その愚か者のせいで私に…………倒されなければならなくなってしまった。」

 

「…………俺、は。」

 

「ッ!」

 

カン、と軽い音が鳴る。俺の両手に握られていたはずの長剣が、弾き飛ばされている。

迷いすぎた──────そう思うのも束の間、俺はリューさんに蹴飛ばされていた。ダメージはほぼ無い。手加減されている。

 

「迷うぐらいならば……そこで見ていなさい。」

 

「くっ……」

 

俺には、出来ない。仲間(かぞく)と同じぐらいに大切に思っている人を斬るなんて──────そんなこと、出来るはずがない。

ならば、斬るべきは誰か?そんなもの、もちろん決まっている。ジュラだ。奴は死ぬべき悪人だ。

 

だが……死なせはしない。

 

(………もし、やるならば。もっと油断している時だ。)

 

怯えるジュラをチラリと見る。油断も隙もない。

俺の計画では、こいつを再起不能になるぐらいに斬り刻み、地上に連れ帰ることで手打ちにするというものだ。

なんとかして、油断させたいところだが。

 

「クラネルさん。貴方もです。邪魔をするならば、貴方であろうとも……斬り捨てる。」

 

「……リヴィラの街で死人が出ました。あなたの姿を見たという人もいます。」

 

「黙りなさい。」

 

ベルの手元に、赤い石が光る。あれは────火炎石?俺もよく使ったから分かる。あの石は、まさしく火炎石だ。

ようやく全て繋がった。ジュラに落とされた時の爆発───そして、先程の死体。ベルは先んじて火炎石を見つけていたから、リューさんの無実の証拠を掴んでいたんだ。

 

「答えてください!あなたがやったんですか!?」

 

「私ではない!」

 

小広間に響く問答。だが、それで決した。

俺は、リューさんを手放しで信じることは出来ない。過去は消えないし、その罪禍は永劫背負わねばならないものだ。

しかし──────此度の殺しは、ジュラのもの。

 

「……はっ。」

 

剣を握り、己の中の冷たく黒い焔に魂を浸す。

もう殺そう。こいつは──────ジュラには、三度目の正直もあるかと思ったが……こいつは三度、俺の前で悪事を犯した。

 

「ど、どうしたんだよ?早く俺を助けてくれよ……?」

 

「リューさんはやってないって言った。だから僕は、それを信じる。」

 

リューさんの目が見開かれる。

ちくしょうめ。羨ましいなあ。こんなに真っ直ぐ人を信じれて、こんなに眩しい言葉を吐けるなんて。けど、それは時に毒となってベルを蝕むだろう。

だから、俺がその毒を飲み込んでやるんだ。

 

「ああ……ジュラ、俺……涙が出そうだよ。」

 

「なっ、なんだ……?!俺を助けてくれるんじゃないのかよ?」

 

「君がいくら謝ったところで、君が助かるわけないじゃないか………まずは、お前を一万枚にする。」

 

「は、はぁ!?テメーまで狂ったのか……狂人め!」

 

「リューさん。すまない、俺はアンタを疑ってた。けど、俺も……信じたい。疑っておいて、今更虫のいい話だってのは承知の上だけどな。」

 

ジュラに剣を向ける。

 

「……この男に、地獄の苦痛を味合わせることで手打ちにしろと?」

 

「そうだ。二度と悪の芽が生えないように……徹底的に痛めつけて、糾す。リューさんには悪いけど……コイツは殺させない。死ぬより辛い目に遭ってもらうからだ。」

 

「…………そのようなこと、貴女にさせたくない。」

 

やや目を伏せて、そう言うリューさん。こんな哀しい目をする人には、やはり復讐は向いてない。

リューさんにも、ベルにも……後ろ暗いことはさせない。俺は英雄になる。英雄は、清濁併せて全て飲み込んでこその英雄だ。

 

「背負うよ。全部……リューさんのぶんまで。だから──────」

 

パリン、と軽い音と共に、ジュラがポーションを頭から振り掛ける。その表情は、恐怖と怒り、そして別のナニカに支配されている。

 

「何良い話風に終わらそうとしてんだゴミども!ベル・クラネルもリヴィラの連中も使えねぇなぁ!アエルテス・ヘリオドーンは特に死ねよな!」

 

鞭を振るい、地面を叩きつける。ラミュスの時に使っていたアレか。

 

「……疑ってすみません。リューさん。」

 

「クラネルさんこそ、愚かな私を信じてくれて……ありがとう。」

 

互いに頷きあうベルとリューさん。

 

「お前も舞うか?」

 

「ぐぅっ……!?なあ、そのノーモーションで斬りかかってくるのやめてくれねえか?!」

 

「砂利と本気で戦う大人がいるか?」

 

ジュラに肉薄し、剣を交わす。よそ見厳禁だ。ベルやリューさんと俺では、殺意の透明さで差がある。

対人戦をしてる時のアイズ先輩みたいに、ただ純然と敵を斬るだけの動き。これを習得しているか否かで、勝敗は段違いに分かれるだろう。

 

「クソが!自己陶酔は帰ってやってろ!出てこい、俺のモンスターッ!!!」

 

ピシャリ、とジュラが地面を叩き、轟音が響く。岩が崩れ、ずるりとそいつは出てこようとする。

 

「遅えよクズ……どわぁっ!!」

 

「アエルテス!危ない!」

 

追撃しようとしたところをベルに背中をぐいと引っ張られ、大きく後退させられる。それと同時に俺が元いた場所から巨大な蛇が突撃してくる。

もしマトモに食らっていたら、怪我をしてしまうところだった。

 

「……凶兆(ラムトン)。階層を移動する超巨大級モンスターです。あれは本来、深層のモンスターのはず……」

 

「クノッソスから連れてきたんだよ!行けラムトン!」

 

「なるほどな……」

 

ラムトンとやらの攻撃をかわしながら俺は思考する。どうやら、クノッソスには大量のモンスターがいる可能性がある。

そして、それを使役する闇派閥(イヴィルス)も。

 

「てめぇら………ディックスの遺産を弄びやがって……」

 

「くそっ……ラムトン!ベル・クラネルを追え!【暁炎(エリュオ)】、テメェは俺と戦え!」

 

「俺の相手が出来ると思ったのかよッ!」

 

「はっ!時間稼ぎだけならなァ!」

 

ジュラに斬りかかるも、どうにも上手く躱される。ラムトンが大暴れしている影響で注意力が散漫になっているのもあるが、よくもまあ避けるものだ。

 

「へへっ……テメェのその動き………【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】ソックリだ!全部、全部()()()()()()ぜぇ!!」

 

「ずっとイメトレしてたって訳ね……じゃあ死ね!」

 

「ぐっ、う……!でぇあ!跳べ、ラムトンッ!」

 

ラムトンが命令通り跳び、ベルに襲いかかる。ダンジョンがめちゃくちゃに壊れていく。ここまで壊れるダンジョンは見たことがない。

まあ、無駄にモンスターが湧かなくなるのは好都合だが。

 

「ハァッ……ちょっとタンマ………死ね!アエルテス!死ね!」

 

「おおっ、元気だな?」

 

上手いこと鞭で反撃しようとしてくるが、攻撃は当たらない。避けることに専念するのをやめたせいで少し隙が生まれた。

 

「ごあっ」

 

ジュラを蹴り飛ばし、追撃しようとすると────突然現れたラムトンが俺を弾き飛ばす。受け身を取り、ダメージを最小限に抑える。

流石はLv.5の身体。これぐらいじゃびくともしない。

 

「ジュラぁぁぁ!!!」

 

「ラムトンッ!」

 

激昂し、飛びかかったリューさんも同じように弾き飛ばされる。なかなかにお利口なヘビさんだな。

 

「ハハハハッ!お利口だろう?」

 

「お利口だわ……」

 

「お手もお座りも出来るんだぜ?なんでこんなにお利口か……教えてやろうか?この魔道具(マジックアイテム)だよぉ!!」

 

肩をすくめる。こいつ、自分の手の内をベラベラと語るタイプなのか。戦士として見どころはあると思っていたが、これじゃダメだな。

だが、悪役としては満点だ。こうでなくちゃな。

 

「アエルテス、これって……」

 

「ああ。魂の形がヴィランそのものだな。」

 

「だよね……やっぱり、悪人はみんなああいう感じなんだ。」

 

ジュラは興奮しているのか、手を震わせながらリューさんを睨む。

 

「【疾風(リオン)】、てめぇだ……てめぇさえ居なければ、こんなことしなくて良かったんだ!てめぇのせいでさぁ!あの時絶対忘れないッ!お前さあ、しかもっ……!俺のファミリアを壊滅させた時っ………!あの時お前ッ!お前の血塗れの姿が今でも瞼の裏で再生されんだよ!この……この目の前にお前がいるとなぁ……!ムカつくんだよッ!」

 

「二人とも。作戦を伝えます。」

 

リューさんはジュラの叫びを一切無視。もう少し反応してあげてもいいんじゃないかな。

 

「ラムトンとは一度戦ったことがある。負ける道理はない。クラネルさんはラムトンが潜ろうとしたら魔法で妨害を。アエルテスと私でラムトンを倒します。私は背面から、アエルテスは正面から当たります。良いですね?」

 

「分かりました。」

「任しとけ。」

 

俺たちが武器を構え、進もうとすると─────ジュラはリューさんではなく、ベルの方に矛先を向けてきた。

 

「ベル・クラネル、その女どもと一緒にいると命が幾つあっても足りねえぜ?」

 

「聞くなクラネルさん。」

 

「【疾風(リオン)】が俺を見つけて、何人が犠牲になったと思う?ジャンの野郎もそうだ。通路にいた野郎どもも……」

 

「ジュラ!くだらない話で時間を稼ぐつもりか!」

 

「【暁炎(エリュオ)】だってそうさ!こいつの目を見てみろよ?人を殺す顔だぜ?いや……何人も殺してるんだろう。気持ち悪いとは思わねえのか?こいつは誰にでもある感情を──────死への恐怖を持ってねえ!」

 

「八つ裂きにしてやるよ」

 

「聞いたか!?やっぱりそうだ……こいつは敵対者には一切の情けをかけやしねえ!」

 

良いだろ別に……それぐらい普通だと思うんだけど?

 

「もういいや、行くぞッ!」

 

これ以上御託を並べられても時間の無駄だ。俺はラムトンに向かって走り出し、それに続いてリューさんとベルも走り出す。

ベルが跳び上がり、牽制の斬撃を放ったところで俺が正面から回転斬りをお見舞いする。

 

『ギシャアアア!?』

 

「やっと鳴いたな。」

 

ラムトンの背後からはリューさんが登り、魔法を唱えながら攻撃を加える。

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

翠緑の閃光がラムトンを打ち据え、連射されるごとに叫び声を上げて激しく突き刺さる。悶え、苦しみ、ラムトンは壁に激突して岩に押し潰され、死亡する。

勝ったな。いやしかし、これが通じるなら早めにやっておくべきだったな。

 

「少し痛むぞ、ジュラ。」

 

「ッ、がぁあああっ!!!!?」

 

即座にジュラの肩口を小刀で刺す。動けば激痛。動けはしない。このままコイツを拷問し、地上に連れて帰る。

 

「っ、ヒッ……ヒヒヒッ!バカども、が……!俺は、囮だ!」

 

「…………なんだと?」

 

「お前らが俺を、必死こいて追いかけてる隙に……がああああっ!!!小刀をぐりぐりするのやめろ!!!」

 

「続きをどうぞ。」

 

「ハァ……ハァ…………俺の、手下どもが……火炎石を……点火させてるだろうさ……ひひっ、ヒャハハハハァ!!!!巨蒼の滝(グレート・フォール)で一つに繋がってるこの領域は、一つの階層と同義だ……少なくとも、迷宮(ダンジョン)はそう錯覚する!」

 

迷宮(ダンジョン)が錯覚する……?」

 

「………まさか。」

 

リューさんの顔が強張る。

 

「そうだよ!"絶望"を呼んだんだよ!!!!!!!」

 

「ジュラぁぁぁ!!!!」

 

リューさんがジュラの胸ぐらを掴み、激昂する。刺さったままの小刀が痛いのか、顔を僅かに歪めながらもジュラは狂気的な笑みを崩さない。

 

「自分が何をしたのか、何をやったのか分かっているのか!?」

 

「お前にやられたこの五年間、ずっと俺は調べてたんだよ……!あれを呼び出すにはどこがいいか…どうしたら出来るのか!」

 

「………っ!」

 

「お前のその綺麗な顔を、どうやったらぐちゃぐちゃに出来るのか!ずっと考えていたんだ……!」

 

「貴様ぁーっ!!」

 

リューさんがジュラに手を掛けようとした────その時。猛烈な殺意と視線を感じ、俺は迷いなくフレイモスを構える。

その、直後。

 

──────ダンジョンが、哭いた。

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