自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている 作:札幌53位
──────ダンジョンが、哭いた。
「一緒だ……あの時と、あれが……また……」
絶望するようなリューさんの声。困惑する様子のベルも、全力で警戒している俺を見て「これはまずい」と判断したのかナイフを構える。
「ああ……アリーゼ……」
「あ、あの……」
心がどこかに行っていたのか、茫然としていたリューさんがベルの声でハッとする。
「逃げて……逃げなさい!今すぐにここから!貴方だけでも!っ、アエルテス!クラネルさんを逃して!」
「それが出来るならしてる……リューさんも、ベルも守るためには……俺がここで立ってないとダメだ。」
何が起こるかは分からない。だが、ジュラは確信したように叫ぶ。
「もう遅え、もう"絶望"の中だ!」
直後。ダンジョンの中に、冒険者たちの悲鳴が木霊する。知っている声もある。今すぐにでも助けに行かなければ──────。
「待って……行ってはダメ……」
リューさんが、俺の肩を掴む。
「なぜ止めるんだ、リューさん。俺は行かなければならない。一人でも多く、助けなければならないんだ!」
「行けば、貴女は死ぬ。だから、どうか……いなくならないで……」
「…………。」
相当だな。リューさんの顔を見ても、ここまで絶望に満ちた表情はないかもしれない。それぐらいには怯え、憔悴している。
「行かせられねえよなぁ!?あの怪物と戦ったお前の方が、そのヤバさは知ってるもんなぁ!」
「何が来るんですか……ジュラさん、あなたのせいですか!」
「まだ気づかねえのかよ、ベル・クラネル。【
「………ッ」
リューさんの拳が握られる。
「五年前……【アストレア・ファミリア】と俺たち【ルドラ・ファミリア】は抗争中でなぁ。正義だかなんだか知らねえが、俺たちを邪魔する連中は目障りでしょうがなかった……だからダンジョンで嵌めてやったんだよ!」
「貴様……!」
「あの日も、今日みたいに火炎石をしこたま用意したんだ。ダンジョンを爆破して、誘い出した【
まるで演劇でもしているかのように朗々とジュラは語る。自身の悪夢を、自身に忘れえぬ復讐心を植え付けた元凶を。
「────だが、【アストレア・ファミリア】の連中はくたばらなかった。しぶてえにも程がある。逆に、俺たちは窮地に立たされた。しかしだ……俺たちにも予想外のことが起きた。」
「予想外……?」
「ッ、フフフフ……生まれちまったのさ!それまで見たことも聞いたこともねえ、すげえ奴が!アッハハハ!ヒヒヒッ……ハハハハハッ!」
ジュラの高笑いが響く。これは……聞いておいた方が良さそうだ。おそらく、今現れている
「あの時……俺以外の仲間は皆殺しにされた。そして!【アストレア・ファミリア】のクソ女どももなぁ!」
歯軋りの音がする。リューさんからだ。
「俺はこの五年間調べ上げた!つるんでいた
こいつ……言ってることは最悪だが、やってることは凄いな。よく頑張ったと褒めてやりたいところだが、よくもまあそんな執念が続くものだ。
ちょっと気持ち悪いぞ。
「何がきっかけだったのか……どうすればあのバケモノを呼び出せるのか──────徹底的に!」
哀れな男だ。その執念を別の方向に向ければ、きっと大成できたはずだ。勿体無い。
「その結果分かったのさ……中層よりも下の階層で、ダンジョンの修復が追いつかないほどの破壊を行えば、奴はその階層に生まれ落ちると!そして、25階層から27階層がひとつの階層として捉えられてるってこともなぁ!」
「………それを、一人で調べたのか?ジュラ。」
「ああそうさ!【
「どうして……どうしてそんな恐ろしいモンスターを!?」
ベルが問う。当然の疑問だ。
「決まってんだろ……俺がテイムするためだよ!あのバケモノの女も、その実験の一環だった!知恵があるとダメだ、反抗される。なら、知恵のねえ奴こそが俺の理想のモンスターッ!」
「怪物は、喋ってはならないってか?同意するぜ。」
「分かってくれると思ってたさ!【
「そうでもないさ。少なくとも、生態やらに関してはお前に一日の長があるだろう。」
「ああ、なら分かるだろ……あの時、俺は見惚れちまった。何もかもぶっ壊して、全てをぶっ殺す。何よりも……それこそ女神なんかより美しいアイツに……恋をしてしまったんだよ!分かるだろ!?」
「分かるぞ。」
実際のところ、なんもかんも全部破壊する破壊の化身とも呼べる存在は美しいだろう。何かを極めたモノというのは、それだけで美しさがある。
残念ながら、俺の立場ではその美しさとやらを否定しなければならないのだが。
「バカな!あの怪物を手懐けられるわけがない!アレはそういうものでは─────」
「普通の方法ならなぁ!だが……俺にはこれがある。」
そう言って、ラムトンを操っていた
なるほど、勝算はあるらしい。
「ジュラ、お前は………どこまでも人間らしい。恐怖を乗り越えるため、成長し、学習しようともがいている。その点については、俺はお前に尊敬の念を抱かせてもらう。」
「アエルテス、何を……!」
「だから、お前の摂理に則って──────人間として、お前という脅威を排除させてもらおう。」
「出来ねえさ……お前には……アエルテス、テメェはテメェを殺せても他人は殺せねえ。そういう人間だ一目で分かるぜ。なんせ……お前の狂った聖戦はまだ終わっちゃいねえんだろうからなぁ!?」
「…………。」
図星だ。口では散々殺す殺す言っておきながら、俺はなんだかんだで人間は殺さないだろう。特に、俺が【ロキ・ファミリア】で厄介になっているうちは。
少なくとも──────バレる殺しはできない。
「【
「……黙れ。」
「あ、違うか。お前が仲間をぶち殺したんだったなぁ〜っ!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!黙れ!黙れ……黙れ……っ!」
こっちも図星か。ジュラめ、口が上手すぎるぞ。
もう暴力で止めるしかない気がしてきた。マスター・レッドゴリラ=サン、俺に道を示してくれ。
何事も暴力で解決しようと足を動かした──────その時。ボールスたちの悲鳴が廊下から近づいてくる。
「……死の匂いだ。」
「た、助け───」
中華風の娘が噛み砕かれ、真っ二つになる。
瞬間、俺の全身の血が沸騰し、戦闘態勢に入る。
「おい、死ね。」
フレイモスが殺戮者の腕を打ち据える。硬い。だが切れないほどではない。見たところ全身凶器。なるほど、確かにこれなら冒険者を殺戮するのにも苦労はないだろう。
「そ、そうだ────【
連撃に次ぐ連撃。全て捌くが、攻めに転じるのは難しい。特に──────
「ひっ………あ、ああ……!?た、助かった……!」
「すっこんでろ!くっ……!」
「死ね!『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』……【フォルネス・イグニオン】!」
「いけない!アエルテス、魔法はダメだ!」
「え?っ、とぉ!?」
リューさんの忠告を聞き、間一髪で跳ね返ってきた魔法を躱す。見てから回避余裕でした。まあ自分の魔法でくたばるアホはいないだろう。
特に、魔法戦士タイプなら尚更だ。
「初見殺し特化タイプね……なるほど。」
『──────。』
殺戮者と睨み合う。奴は俺ばかりに注視したくはなさそうだ。どちらかといえば、より多くを殺したいのだろう。
「さて……本気出しますか。」
俺は【リュクシオン】の詠唱を始めるのだった。
◆◆◆◆◆◆
黄金の炎を纏い、現れた
爪による斬撃を防ぎ、返す刀で反撃を入れ、まるで互角かのように戦う第一級冒険者の姿。
「速さと力に特化したモンスターか……ベル!お前の力が必要だ!」
「分かってる────ッ!」
ベル・クラネルは既に動いている。
「初撃で決める!」
「守りは俺がなんとかする!攻めは任せた!」
「はああっ!!!」
冒険者から受け取った大剣を振りかぶり、ベルは気合いの入った一撃を叩きつける─────が、ジャガーノートの姿は既にない。
瞬時に壁に跳び、張り付いている。
「っ、
横薙ぎの一閃を交わされ、背後に立たれるベル。ジャガーノートの攻撃を大剣で受ける────前に、アエルテスが割り込む。
「くっ、うおお……!重すぎんだろ……!」
「助かった!でりゃあああっ!」
ベルとアエルテスの連携攻撃。冒険者たちには、少なくとも優勢に見えた。
だが………実際は違う。アエルテスの防御は完璧ではない。受けるたびに、確実に肉体にはダメージを負っている。
さらには、魔法を使用していることによる激痛の発生。これらは、アエルテスの集中を大いに乱していた。
「しまっ……!」
守りが破られ、ベル・クラネルの大剣が破壊されたのは戦いが始まってから1分後のことだった。
「クラネルさん!」
「まずい、迎撃を……ッ!?」
皆が、固まった。ヘスティア・ナイフを引き抜こうとしたベルの腕が、肩先から丸ごと、斬り飛ばされたからだ。
「ぐっ、あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!!?」
血が噴き出す。激痛にベル・クラネルが悶える。
「っ、てめぇ────なっ…その、構えは……」
ジャガーノートが身体を捻る。後ろ脚で跳び、連続で回転し、全身でもってアエルテスを斬り付ける。
一合、二合、三合、四合──────繰り返される重く、素早い斬撃を武器で受け流しながら、アエルテスは遠くまで吹き飛んでいく。
「パレルモ……なんで、テメェが……ぐはっ!」
「避けて!」
ベル・クラネルが激痛の中でなんとか止血しようと立ち上がった、その瞬間。ジャガーノートの尻尾が、ベルの首を捉えた。
ばきり、と嫌な音が鳴り──────ベル・クラネルはごろごろと無様に転がっていく。
その様子を、ベルの幼馴染は────アエルテス・ヘリオドーンは、見ていた。見てしまった。
「あ、ああ………」
リュー・リオンの悲痛な声が洩れる。
「ベルぅううう!!!!」
リューの悲痛な叫びと共に、アエルテスは立ち上がる。その表情は髪で隠れ、読み取れない。周囲の冒険者が、立ち上がったアエルテスを見る。
その表情を、見てしまったアマゾネスは……僅かに失禁した。
「…………おい。」
ジャガーノートに迫る速度で飛びかかり、炎の一撃が襲う。反射するべく、真っ向から受けるジャガーノートだが────直後、自身を焼く痛みに絶叫する。
『─────ッ!?』
「恐怖しろ。」
何度も、何度も斬り付け、その怒りを晴らさんと飛び回るアエルテス。その瞳に涙は流れていない。ただ、真っ直ぐ、敵を殺すためだけに見開かれている。
「まずは、腕。」
『──────!?』
ジャガーノートの片腕が捥がれる。捥がれたのは、ベルが奪われた右腕だ。アエルテスの赤い瞳が、妖しく光る。
赤い双眸同士が見つめ合い、互いに相手を「殺害相手」としか見ていない。
「今だ!【
「やめ……」
ボールスたちの砲撃がジャガーノートを襲う。だが、それらは全て反射され──────全てが、アエルテスの方へ押し寄せてくる。
「なっ……が、う……ぐ……」
即座に大隙が出来たアエルテスを仕留めんと、ジャガーノートが爪で刺し貫き、そのまま噛み付く。ばき、ぼき、と嫌な音を立ててアエルテスが潰されていく。
流石に噛み砕けなかったのか、思い切り首を振り、アエルテスは投げ捨てられる。
誰の目にも、「死んだ」と分かる様だった。
「お………」
お前ら、仇を取れと叫びたい気持ちをグッと呑み、ボールスは叫ぶ。
「お前ら逃げるぞ!【
冒険者たちが逃げていく。残されたのは────リュー・リオンのみ。
ベル・クラネルは既に爆風で水面に落下している。
「アエルテス……」
ズタズタに引き裂かれたアエルテスは、燃え盛ったまま動く気配もない。
リュー・リオンは、これまで何度も見てきた。アエルテス・ヘリオドーンが、今とは比べ物にならないぐらいにズタズタにされても、立ち上がり、起き上がってきた所を。
故に──────。
「貴女を、信じます。だからどうか……私が倒れる前に、立ち上がってください。はぁあああっ!!」
木刀を握り締め、疾風は駆ける。
ジャガーノートの攻撃を二度、三度と避け、一撃を入れ、離脱し、再び避ける。
「ぐあっ!」
爪の攻撃で木刀が叩き折られる。壁に激突しながらも、即座にリューは立ち上がり、短刀で戦う。数合、打ち合えども折れない、鋭い短刀だ。
「あぐっ!?」
尻尾に打ち付けられ、足の骨が叩き折れる。
殺される。リューはそう直感しながらも、英雄の到来を待つ。
不屈の英雄が、黄金の炎と共に自分を助けてくれる──────そんな、ありもしない幻想を抱きながら。
(……シル、ミア母さん……みんな………)
思い返すのは、幸せだった時間。自分が復讐のために置き去りにしようとした、家族の姿。
諦め、目を閉じようとした──────その瞬間。
「リューさん!」
*
「リューさん…アエルテス……」
《ゴライアスのマフラー》を腕に巻きつけ、神様のナイフを構える。
ボールスさんたちはいない。きっと、アエルテスが死ぬ気で逃したんだろう。
「ありがとう。これで……ちゃんと戦える。」
攻撃が飛んでくるが、それを全て弾く。
やっぱりそうだ、このマフラーと神様のナイフがあれば、僕は戦える!
「マフラーを、あんな形で……?」
ヴェルフとカサンドラさんが託してくれたこのマフラーで、勝機を掴む。
「はああーっ!!」
神様のナイフを怪物の心臓部に突き刺す。しかし、魔石を砕く感覚がない。
「魔石がない!?ぐっ!」
『──────!』
振り回され、落とされた所を怪物の爪が襲う。
「ぐあっ!?」
防ぎ切れなかった攻撃が僕の肩を切り裂く。けど、致命傷じゃない。まだ戦える。
チラリと倒れ伏すアエルテスの姿を見て、僕は再び立ち向かう。
「しいっ!」
アエルテスは、僕の英雄だ。こんなところで倒れるわけがない。
それに──────倒れるアエルテスの炎は、勢いを強めている。
「はっ!せやっ!」
両手を使った近接戦闘。おそらくアエルテスが斬ったであろう片腕が転がっている。
これで、だいぶ有利が取れている。ありがとう、と心の中で感謝しながらも冷静に局面を見る。
「勝負だ……!」
走り出し、数回打ち合う。攻撃を受け流し、攻めに転じれる。
怪物の尻尾が水晶を打ち砕き、僕に向かって破片が飛ばされる。たかが水晶だ、ダメージは通らない。
「………跳躍を封じられても、やっぱり速い!」
腕がなく、近接戦闘でも怪物は速い。けれど、ここで逃せばリリ達や他の冒険者を殺しにいく。
そんなことは絶対させない。ここで、倒す!
「はああーっ!せいっ!」
怪物の攻撃をかわし、再び心臓部へとナイフを差し込む。怪物が悲鳴をあげる。
効いていないわけじゃない。それなら、勝ち目がある!アエルテスだって言っていた。
「……血が出るなら、ドラゴンだって殺せる!」
手を構え、魔法を放つ。
「【ファイアボルト】!」
当然、相手には効かない。アエルテスの黒い焔が跳ね返されてたのを見た。あれが回数制限か、一定以下の火力を無効にするのかはわからない。
でも──────僕には、戦う力がある。
「はああああーーっ!!」
『──────!』
跳ね返ってくる魔法を、僕は神様のナイフで受ける。
それと同時に、【
「はあああっ!!!
避けようとする怪物。だが、その背後から────
「
炎の光槍が、怪物を貫く!同時に、僕の攻撃が怪物を打ち据え──────。
爆炎が昇った。
◆◆◆◆◆◆
「はぁ……はぁ、くそ……やったか!」
思わずそんなことを口走ってしまう。だが、それもそのはず。ベルの必殺技と俺の必殺技が噛み合い、特大の攻撃を当てたのだ。
これで死んでてくれなかったら困る。
「………困る、んだけどなぁ!」
『──────。』
怪物は傷ついた様子ではあるが立ち上がる。
俺は【
「っ、マジか!?」
怪物の頭上に、宝珠が飛ぶ。ジュラめ、うまいこと隙を突いてきやがったな!?
だが、今なら分かる。こいつは──────この怪物は、人の手に負える代物ではない。
「ハハハハッ!期待してなかったが、まさか本当にバケモノの膝をつかせちまうとはなぁ!?だが、これでコイツは俺のモンだ!」
「ジュラ……!」
「行け!俺だけの怪物!あの【
さく。とジュラの上半身と下半身が泣き別れになる。長いこと生きてきた悪役の、あまりにも呆気ない最期。
だが───命令は通ったらしい。
「ラムトン!?まだ生きて………しまっ!?」
ラムトンがリューさんを呑み込まんと襲いかかる。ベルはすでに駆け出し、リューさんと共にラムトンに呑み込まれる。
それを追い、殺戮者もラムトンを追いかけて深くまで潜っていく。
「…………おい、おいおいおい……ふざけんなよ。」
ある程度元気になった身体を水で消火しつつ、ラムトンが潜って行った穴を見つめる。
深い。あまりにも深い。ここから落ちれば、間違いなく死ぬ。しかし、今優先すべきは──────俺の命ではない。
「………っ」
ごくりと喉が鳴る。ここから落ちれば、昇ってくるまでに最低でも五日以上はかかる。行き先はおそらく深層。
さらには、深層であの怪物と戦う可能性すらある。
「だとすれば…………っ、この揺れは?」
再びの揺れ。ラムトンといい、あの怪物といい、今日はダンジョンがよく揺れる日だ。
そして──────聞き覚えのある咆哮を、俺の耳は聞いてしまう。
「………この声、アンフィス・バエナか?だとすれば……拙い、カサンドラたちがヤバい!」
ベルもリューさんも、互いに高レベルな冒険者だ。俺がアンフィス・バエナを討伐して戻ってくるまでは死なないだろう。
いや──────死ぬわけがない。ベルが着いててリューさんを死なせるなど、ありえない。
「今は……約束を優先する!」
アンフィス・バエナが湧いたであろう位置に、走って向かおうとした……その時だった。
俺を、一つの声が呼んだ。
「待ッテ!」
「………あ?」
見れば、人魚───というよりはマーメイドが、水面から俺を覗いていた。
「アナタノ事、リド達ガ話シテタ……金色ノ炎。悪イ人ジャナイッテ。オ願イ、ベル達ヲ助ケニ行ッテ欲シイノ……!」
「………
「今、ダンジョンハ怖イノ……ダカラ……」
「分かった。助けに行く。だけど優先順位を付けさせてくれ。上の階層で、ベルの友達が大変な目に遭うかもしれないんだ。そしたら、ベルはすごく傷つくし、辛くて泣いてしまうかもしれない。」
「ベル、泣ク……?」
「そうだ。だから、俺が誰も泣かぬように何とかしてくる。君は、リドたちに連絡を入れてくれ。ベルを助けるように、ってな。」
「分カッタ!」
水の下に潜っていくマーメイド。よし、これで憂いはないな。あとは……走るだけだ。
・・・
・・
・
25階層までの道は、冒険者の死骸で満ちていた。
中には、話したことのある奴もいる。
そいつら全員に手を合わせてやることは出来ないので、装備についている徽章を剥がして持っていく。
「すまない。」
Lv.5の脚力で走っていく。道中では、破壊痕やラムトンが暴れ回った跡などが残っている。
「俺たちの他にもラムトンと戦った連中がいるのか?」
既に倒された後なのか、地響きはない。だが警戒は怠らない。
今のところ、『不屈』は発動済みで、かつ『解放』も発動済みだ。調子がいい。遥かにいい。
「………しっかし、俺がまたボロ雑巾になったと知られたら……あのロキ、黙ってないな。報告されないよう、立ち回るのが賢明だ。」
道中、モンスターは一切出てこなかった。ジュラの語っていた通り、ダンジョンが修復のために全力を尽くしている結果だろう。
おそらく、アンフィス・バエナの出現もその一環だ。
原因の排除。それこそが現在のダンジョンの至上命題なのだろう。
「奴の研究ノートが残ってればいいが。」
希くば、クノッソス侵攻作戦の時に見つかるといいが。
「さて………ここが決戦のバトルフィールドってわけね。」
走りながら、巨大な湖を見る。どうやら、アンフィス・バエナと【ヘスティア・ファミリア】たちが戦っているようだ。
距離にして約数キロ。あと少し走れば間に合うぐらいだ。
「………耐えててくれよ。」
俺は、カサンドラの悲痛な表情を思い出しながら、そう願うしかなかった。