自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

5 / 32
UA、感想、評価、お気に入り登録、ありがとうございます!


人間性の喪失と、原初の輝き

 

早速魔法を試そう。

誰かに見られたら奥の手がバレることになるので、いつもの城壁の上で魔法を使うことにした。ここなら、何が起きても大丈夫だろう。

 

「ええと…確か……『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』────出でよ、【リュクシオン】!」

 

そう唱えると、俺の胸あたりから炎が噴き出し、それは徐々にマントの形を取っていく。戦闘衣(バトルクロス)に巻き付くように展開された炎は、次第に俺に燃え移る。

 

「………って、熱いな!?」

 

俺に付与された炎は、逆境判定になったのか【逆境奮起】が発動し、背中がじりじりと熱くなってくる。

いや、全身が熱いから今更なのだが。それでも日本の真夏日のような熱気だ。

 

「あ、解除の仕方わかんねえ。」

 

そして、ごりごりと俺の中に倦怠感が迫ってくる。それに呼応するように背中も熱くなっていく。なるほど、これは──────地雷じゃな?

 

 

・・・

・・

 

 

と、いうわけで一日ぶりの気絶だ。

精神力枯渇(マインドダウン)で、倒れていたところを、【ガネーシャ・ファミリア】の衛兵が目撃し、わざわざ運んできてくれたらしい。

 

「ま、あるあるってやっちゃな。ステイタスは更新しといたけど、耐久と魔力の微々たる成長やから紙には残さんといたよ。」

 

「あるあるなんだ…」

 

「魔法覚えたての子供は皆そうやって気絶するんや。それに、アエたんの魔法、発動中ずうっと精神力(マインド)消費するタイプやろうから、ダウンも早かったんやろね」

 

「そんな馬鹿な…」

 

少し落ち込みかけたが、逆に考えるとこれはチャンスだ。俺がチート転生者ではなく、微妙な能力が実は最強だった!的な方のテンプレ転生者だとすれば辻褄が合う。

きっと覚醒には段階があるのだろう。今だって、フレイモスに炎を纏わせればチャージ可能だ。

 

「で?()()()()はこれからどないするん?」

 

「……ダンジョンに行ってきます。ありがとう、神ロキ」

 

「気ぃつけや〜」

 

主神(ロキ)の優しさに触れ、じーんとしながらバベルに向かう。その麓の広場で、見覚えのある小さな人影を見つける。

 

「リリ、昨日は行けなくてすまな……なんだお前らは?」

 

駆け寄ってみれば、エルフの男がリリに掴みかかっていた。その周りには、怒った様子のエルフが数名。何やら事情があるようだが。

ひとまず落ち着かせるため、リリを掴む手を握り、睨みつける。

 

「小さい子に手を出すとは、感心しないな。エルフ君」

 

「君も騙されているのか。哀れなことだ、美しい少女よ。この小人族(パルゥム)は、私の財布を盗んだのだ。リヴェリア様に誓っても良い。私は、この目で確かに見たのだ!」

 

「リヴェリアさん?なんでそこでリヴェリアさんが……って、そこは良いんだ。リリ、説明してもらえるかい?」

 

「実は────」

 

話を聞くと、どうやらリリは裏路地で小人族(パルゥム)とぶつかった際、そいつが落とした財布を拾っていたらしい。

ほとほと信じがたい嘘だが、疑ってかかるのは良くない。

 

「それに、リリは小人族(パルゥム)なんかじゃありません!犬人(シアンスロープ)ですっ!」

 

フードをとったリリの頭には、犬耳が生えており、確かに小人族(パルゥム)ではないことが確認できる。

 

「な………!?」

 

「さあ、離してやるんだ。リリ、その財布を彼に渡してあげてくれないか」

 

優しく言うと、リリは素直に財布をポケットから出し、エルフの男に渡す。

 

「はい…確かに、渡しました」

 

「中身も…盗られていないな。どうやら人違いを起こしていたようだ、すまなかった。この件は詫びよう」

 

深く頭を下げるエルフの男性。彼も被害者だ、気が動転していたんだろう。

そのままダンジョンに潜っていったエルフたちを見送り、俺の陰に隠れていたリリがようやく元気な様子で微笑む。

 

「冒険者様、それじゃあ行きましょうか!」

 

「ああ、すまない。俺はヘリオドーンのアエルテス。冒険者だ。気軽にアエルテスと呼んでくれ」

 

「はい!アエルテス様!」

 

サポーターとは、どんな仕事をする人たちなのかよく分かっていなかったが、どうやら戦闘後にドロップアイテムを勝手に回収してくれる役割の人だったようだ。

なるほど、これは確かに雇ってよかった。魔石を回収する時間を省略できるのはデカい。

 

「ちなみにアエルテス様、今日はどのくらいまで潜られるご予定ですか?」

 

「そうだな…7〜9階層で群れを潰したあと、10階層まで潜るつもりだが」

 

キラーアントの群れは、俺の戦闘経験を積むのにピッタリの場所だ。襲いくる魔物の群れを潰せば稼ぎにもなるし、なにより足りていない敏捷と器用のステイタスを上げるチャンスでもある。

 

「む、群れですか?いくらアエルテス様がお強くても、無理があるんじゃ……」

 

「なぜ出来ないと?一度やったんだぞ。だが、守り切れる自信は無いから、俺からあまり離れるなよ。」

 

情けない話だが、俺の実力ではまだ遠く離れた非戦闘員を守れるだけの強さは無い。かと言って、ゴブリンやコボルトのような雑魚で効率の悪い稼ぎをするつもりはない。

 

「は、はい…」

 

というわけで7階層。早速俺はキラーアントを半殺しにし、適当な道に投げる。

 

「アエルテス様!??!?な、何をなさっているんですか!?」

 

「さあ、狩りの時間だ…離れるなよ、リリ。」

 

リリを背後に隠し、剣を構える。

 

『ギギ……ギチチィイイイ!!!!』

 

キラーアントの仲間呼びだ。聞きつけたこの階層のキラーアントの群れが、一斉に部屋(ルーム)に飛び込んでくる!

 

「ききき、来てます来てます来てますぅぅっ!?」

 

「我が心は不動…」

 

静かに目を瞑り、接敵する瞬間に斬撃、開眼。一度はやってみたかったシチュエーションだ。だが、今はリリの護衛中。真面目にやろう。

俺が戦場に選んだのは、袋小路になっている部屋(ルーム)であり、退路を自ら断つと同時に敵の来る方向を制限できる場所だ。

 

「はっ!せいっ!そこっ!甘い!」

 

第一波は訳5匹ほど。続く第二波は敢えて討ち漏らした奴が呼び9匹に。騒ぎを聞きつけた野良魔物も加わり、13匹、17匹とどんどん増えていく。

押し寄せてくるとは言っても、二、三体の編隊が順番に、疎に襲ってくるだけだ。俺と言う個に攻撃するためには、どうしてもスペースが限られているからな。

 

「…………掃討、完了。」

 

第七波まで倒し、持ち込んでいた小麦粉袋を投擲し、火を付けて生き残りを焼却する。これにより、程よくダンジョンが傷つき、小一時間は安全が取れる。

 

「リリ、怪我はないか?…といっても、討ち漏らしは一つもないんだけど…」

 

振り向くと、小さな口をぽかんと開け、目を丸くするリリの無傷の姿がある。

 

「──────あ」

 

「あ?」

 

「頭おかしいんじゃないですかっ!?これじゃ命が幾つあっても足りません!あなたに恐れという感情はないんですかっ!?」

 

「無い。」

 

実際、死ぬかもしれないことに対する恐怖や、死そのものに対する恐怖はまるでないのだ。すこし、配慮に欠けていただろうか。

 

「………はあ、もういいです。魔石を回収しますから、警戒をお願いします、アエルテス様。」

 

「ああ。任せろ」

 

ぷりぷり怒りながらも迅速に魔石を拾い集め、大きな背嚢(バックパック)にしまっていくリリを横目に、仕事の邪魔をしまいと剣を地面に突き立て、辺りを睥睨する。

5分とちょっとで回収作業が終わり、たくさん回収出来て若干嬉しそうな声色のリリがやってくる。

 

「それじゃあ、同じことをあと二回やるぞ」

 

「えっ」

 

そして辿り着いた10階層。リリは俺の側を離れなくなってしまった。

…今度からこの狩り方は一人の時だけにしよう。

 

「アエルテス様、10階層からは霧が出るなどの環境(ギミック)が出てきます。いつも以上に警戒をお願いしますね。」

 

言われたようにより警戒度合いを高める。と言っても、普段と変わらず警戒しながら歩いているだけなのだが。

 

「……!前方10 M(メドル)、オークです。」

 

「かしこまっ!」

 

言い慣れた了承の意を示し、正々堂々と構える。

そういえば、この世界のゴブリンやオークにはメスがいるようで、特にダンジョン産の魔物は人間を殺すことしか頭にないのか、女と見ても殺意しか向けてこないようだ。

 

『ブヒィッ!!』

 

「本当にブヒブヒ鳴くんだ。いいね、らしくなってきた」

 

ここ最近はファンタジーが現実に馴染んできてしまったせいか、ややテンションが落ちていたが、やはりお決まりの魔物が出るとテンションが上がる。

 

「さぁ────闘ろうか」

 

オークの得物は天然武器(ネイチャーウェポン)の槍だ。近接戦闘における槍は、ほとんど最強と言って良い。リーチの長さとはそれだけで強みであり、突いてよし、薙いでよしの万能武器だ。

対する俺は長剣。取り回しは槍に勝るが、リーチで負ける。

ならば、自ずと選択肢は限られる。

 

「前進、あるのみッ!」

 

深く沈んだ体勢から、屈んだ姿勢で横薙ぎに斬り素早くバックステップ。体勢を揺らがされたオークの懐に入り、そのまま斬り抜ける!これぞ、前世でやっていたゲームで最強と名高い『猟犬戦技』だ。

 

『ピギャッ…!?』

 

「初見殺しだ。悪く思え」

 

そのまま塵と化すオークを見送り、満足感と共に剣を収める。魔石を回収し、リリに預けようと振り向くと─────。

 

「リリ?」

 

そこには、誰もいなかった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

()()()()()()()はそう唱えると、ダンジョンの1階層で姿を変える。現れたのは、栗毛の小人族(パルゥム)だ。

 

「まったく、付き合ってられません」

 

10階層に残してきた冒険者(アエルテス)のめちゃくちゃな旅程に文句を言いながら、リリルカ・アーデはため息をつく。

背嚢(バックパック)に沢山詰まった魔石を換金すれば、25万ヴァリスはくだらないだろうと目算をつけ、ほくそ笑む。

 

「さて、あとはギルドに行くだけですね」

 

もはやリリの頭の中には、先刻裏切った冒険者のことなど頭になく、ただ稼げる額だけに興味津々だった。──────それ故に、普段ならしないようなミスもしてしまう。

 

「ねえ、あなた…アエルテスと一緒にダンジョンに潜っていった子だよね」

 

「アエルテス様?それがどうかし……けっ、『剣姫』!?アイズ・ヴァレンシュタイン様が、どうしてリリなんかに…」

 

油断していた小人族(パルゥム)のもとに現れたのは、冷たい目をした【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者。

 

「答えて。あなた、何階層まで降りたの?」

 

「人違いじゃありませんか?そのアエルテス様と一緒にいたのは本当に小人族(パルゥム)でしたか?」

 

いつもの常套句で撒こうとするが、アイズの追撃は止まない。

 

「答えて。あなた、何階層まで降りたの?」

 

「いや、だから……」

 

「答えて。あなた─────」

 

「10階層ですっ!なんなんですか!?もう!」

 

聞くと、アイズは興味深そうにする。

 

「アエルテスが言ってたの。人にどうしても物を聞きたいときは、同じ言葉を畳み掛けろって。本当は、拷問とセットらしいけど」

 

あの異常者(バカ)はここにきてもリリを脅かすのか、と戦慄するも、言った当人はさほど気にせずに前世で読んだ作品の出来事を語っただけである。

 

「じゃあ、行くから。またね」

 

どんっ、と風が吹き荒れ、リリの目の前からアイズが消える。呆然としながらも、リリはただ一つ「帰ろう」と思ったのだった。

 

 

 

一方そのころ、アイズ・ヴァレンシュタインは。

猛スピードで10階層まで辿り着くと、そこにあったのは地獄絵図であった。

すべての魔物が生きたまま腹を掻っ捌かれ、倒れている様子と、その中心で叫びながら燃える知り合い(アエルテス)の姿。

 

「リリぃいいい!!!どこだぁぁぁぁ!!!喰われたのかぁぁぁぁ!!!!」

 

「……何を、しているの…?」

 

心底困惑した様子で、燃えながらオークの腹を切り裂き、血まみれになったアエルテスに問う。

 

「……アイズ先輩…」

 

力が抜けたのか、燃えたまま地面に蹲るアエルテス。ジュワ、ジュワと何かが蒸発する音が聞こえる。嗚咽を漏らしているアエルテスからだ。

 

「俺は…弱いっ…!仲間ひとりも救えないっ……!」

 

「リリ…って人なら、さっき1階で見たけど…」

 

「それは本当です?」

 

「うん…だから泣かないで。あと魔物にはちゃんとトドメ刺して」

 

窘められ、すこし俯くアエルテスだったが、すぐに元気そうな表情を浮かべる。

 

「アイズ先輩、俺の魔法見てくれる?」

 

「いいよ」

 

ぐぐ…と力を込める素振りを見せると、斬られた魔物たちがあっという間に燃え尽きる。アイズが聞くよりも先に、自信満々そうにアエルテスが語り始める。

 

なんでも、無我夢中で炎をばら撒いていたら延焼させた相手についた炎の威力を調節できることに気がついたのだとか。

 

「でもね、アイズ先輩。これ精神力(マインド)の消費がすごい重くってぇ…もう耐えられ────」

 

「……また、気絶してる。」

 

アエルテスが鎮火するのを待ち、アイズは自身よりも小柄な少女を背負って焼け野原と化した10階層を歩く。

途中、魔物が襲ってきたが、「ユリ」と叫ぶ謎の男たちによって護衛され、【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)に運び込む頃には、すっかり日も暮れていた。

 

(妙に生暖かい目を向けられたけど、なんだったんだろう)

 

アイズはロキにあった事を報告し、その場にちょこんと座る。

 

「ほい、ステイタス更新完了っと。魔力と耐久がべらぼうに伸びて、器用さがちょい伸びたくらいやな。」

 

ステイタスが記された紙を読み、「なるほど」と一言だけ呟くと、アエルテスは何の感慨もなさそうに起き上がる。

そのまま武器を手にし、装備を身につけ、端正な顔を一切歪めることなくアイズに向き直る。

 

「アイズ先輩、今日も特訓お願いできるか?」

 

「いいよ。いつものとこでやろっか」

 

そう言って出ていった二人を見て、部屋にはロキと────窓の外から会話を聞いていたベートがいる。

入っておいで、という声と共に入ってくるベートに、ロキは開口一番に言う。

 

「単刀直入に言うで。アエたん、昔のアイズたんみたいになっとらん?」

 

「人間味が薄いってンならそうかもなァ。だが、()()()()()()()。ありゃマジだ。本気で自分のことを勇者か何かだと思っていやがる。」

 

「ん〜、ウチが言いたいのはそれもあるねんけど…()()()()()()()()()と思わへん?さっきのアイズたんの報告は聞いとったやろ?」

 

アイズの報告─────すなわち、アエルテスがどこぞのサポーターに裏切られ、10階層に置き去りにされたことだ。

 

「安否を確認してすぐに落ち着くのは、まぁ気味が悪ィな。普通の冒険者なら、裏切られたと思ってキレるのが正しい反応だろ」

 

「才能は…平凡なんやけどねえ。魔法スロットは多いけど、ほんまにそんぐらい。」

 

「平凡だぁ?平凡なやつがこんなステイタスの伸び方するかよ」

 

「もし、ベートが同じ状況に見舞われたならもっと伸びてたと思うで?アエたんの成長は苦難あってのもんや。それに…あの子の魔法。1()()()()()()()()()()()()()()みたいやん」

 

アエルテスの魔法、【リュクシオン】。それは、己を燃やし、仲間すら燃やし、近寄るものを全て拒む炎の鎧。

 

「ハッ…!それじゃ『勇者』じゃなくて『兵器』じゃねえか。守るものもテメェから傷つけちまうなら、滑稽な話だな」

 

「随分と興味深い話をしているね、混ぜてもらっても良いかい?」

 

ベートが嘲笑すると、扉を開けて【ロキ・ファミリア】の団長であるフィン・ディムナが参入してくる。彼の二つ名は『勇者(ブレイバー)』。故に、興味を引かれたのだろう。

 

「かまへんかまへん、丁度【ファミリア】の団長の意見も聞きたかったとこやし」

 

「それは良かった。件の彼女のステイタスを確認しても良いかい?」

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.1

《基礎アビリティ》

力:G249 耐久:D517 器用:G233 敏捷:H192 魔力:H166

《発展アビリティ》

 

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

【】【】

《スキル》

【逆境奮起】

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

──────────────────

 

「なるほど…確かに、これでは団体行動は厳しそうだね。それに────言葉を選ばないのなら、早死にしそうだ」

 

フィンの指摘は、冒険者としては真っ当なものだ。

単独行動を余儀なくされ、死にかねない状況でも前に進んでいく。これでは、到底長生きなど不可能だからだ。

 

「冒険者は、臆病であるほどに長生きする。どの冒険者も、基本的に安定志向なのは臆病さからだ。もちろん、臆病なことは良いことだと僕は考えているよ」

 

そう前置きした上で、フィンは人差し指をあげて提案する。

 

「死の恐怖を抱かなくとも、喪失の恐怖はあるはずだ。陳腐な言い方にはなるけど、彼女に『友人を失う恐怖』を教えてあげれば良い。」

 

「せやねえ…明日は確か『怪物祭(モンスターフィリア)』やったろ?アエたんが帰ってきたら、明日中はダンジョン禁止令出したるわ。フィン、同席頼める?」

 

「構わないよ。面識はないけれど、彼女も【ファミリア】の一員なら、その管理もまた僕の責務だ」

 

閑話休題(しばらくして)

 

フィンに呼ばれていると知り、慌てて戻ってきたアエルテスがロキたちのいる部屋に入ってくる。慌てて、とは言っても、余裕そうな笑みを浮かべているが。

 

「やあ、はじめましてアエルテス。僕はフィン。【ロキ・ファミリア】の団長だ。『勇者(ブレイバー)』という名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

「浅学な物でね。寡聞にして存じ上げないな。」

 

「なら、覚えておいてくれ。本題に移ろうか───」

 

フィンが懇切丁寧に、ダンジョン探索禁止について説明し始める。はじめは余裕そうな笑みを崩さなかったが、人間性について触れ始めた時からその笑みは崩れ、困惑するような顔に変わっていた。

 

「結論から言えば、君という人間は【ファミリア】の財産だ。だから、それが徒に浪費されることは僕たちも望まないということだね。分かったかい?」

 

「わ、分かり…ました……」

 

アエルテスの瞳孔は震え、泣きそうな顔をしている。無理もない話だ、とフィンは子供を泣かせてしまったことに罪悪感が生まれる。

しかし、その眼からは涙の一滴も流れてはいない。

 

「要件はそれだけかな。退出していいよ」

 

「はい…」

 

ふらふらと立ち上がり、そのまま扉を閉めて出ていくアエルテスを見送り、フィンはため息をつく。

 

「ロキ、人間性が薄れているという話だったけれど……少し違うようだね。修羅場を連続で越えすぎて、現実味が薄れているだけだと見たよ」

 

「なるほどやねえ…何度も死に掛けると、どうしてもゲーム感覚になってくモン…か。その通りかもしれへんなあ」

 

「まだ14歳の少女なのだろう?男勝りな口調で誤魔化していても、根っこのところは年相応だ。」

 

ロキはフィンの人物眼に喫驚しつつ、同時に納得するのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

知らない間に俺の人間性が失われていたとは…。

しかし、確かに指摘の通り魔物との戦いを「狩り」と呼んだり、効率を重視し始めていたのは事実だ。

そのせいで、今日はリリを怖がらせてしまったのだし。

 

「そうは言っても…何をしようかな。」

 

宿屋に財布を置き、することもないので鍛錬場でぼうっと空を見上げてここ最近の自分の言動を振り返る。

オラリオに来たばかりの時は、俺は自分を特別だと信じて疑わなかった。だが、圧倒的な存在を前にしても、俺は立ち向かえる勇気があったはずだ。

 

今俺を突き動かしているのは、勇気ではなく────狂気、なのかもしれない。

 

「………勇者は、初めから勇者ではなかった」

 

そうだ。俺の大好きなRPGでも言っていたじゃないか。勇者とは、名乗るものではなく、巨大な悪と立ち向かう、勇気ある者のことだと。

今の俺は名前を借りて好き放題しているだけの偽勇者だ。俺が目指していたのは、そんなものじゃない。

 

城壁の淵に立ち、下を見下ろす。

以前の俺ならば恐怖で足が竦んでいたであろう高さから、地上を見る。そこには【ガネーシャ・ファミリア】の人々が行き来しており、カーゴに魔物を入れて運搬している。

 

「………他の転生者も、こんな思いをしたのかな」

 

思えば、俺が読んでいた小説の中の転生者たちも、社会的な苦難に陥ることが多かった。彼らほどのバイタリティがあれば、怒りに火を灯し、強くなれたのだろうか。

 

「なんの、ために──────」

 

俺は見返したかったはずだ。遥かな高み(ベート・ローガ)に、強さを証明したかったはずだ。なぜ、そう思ったのだろう。

……俺は、英雄になりたいからだ。勇気ある者として、人々の道標となる、そんな英雄に。

 

俺をこの世界に転生させたであろう神様は、きっとそれを望んでいるはずだ。

 

「望まれたことを、望まれたように。それが俺の…責務であるならば。」

 

覚悟を改め、城壁の上に戻ろうと振り向くと────羽帽子の伊達男が真後ろにいた。

 

「うおっ!?い、いつからいたんだ!?」

 

「おおおう!危ない!落ちてしまうよ!」

 

安全なように伊達男の手を取って城壁の上に戻ると、少しの平静が場に訪れる。

 

「初めまして、オレはヘルメス。趣味は人間観察ってとこかな。君は?」

 

「ヘリオドーンのアエルテス。趣味は…特にないな。強いて言えば戦いかな。よろしく、ヘルメス」

 

「ああよろしく。ところで、興味深い独り言を言っていたね。責務ってのは、なんだい?」

 

それ聞く?独り言だのに。それに、誓いはあまり人前に出すものではない気がするんだが…。

ヘルメスから感じる「話したくなるオーラ」を無視しつつ、当たり障りのないことを言っておくことにした。

 

「そりゃあ、【ファミリア】の一員として、強くならないとナ〜って…」

 

「神の前では嘘をつけない。知らなかったのなら、覚えておくといい。」

 

ヘルメスが鋭い目つきを向けてくる。なるほど、神々がいつも見透かしたような事を言ってくるのはこれが原因か。

俺が適当言ってるのもバレバレ、というわけだ。

 

「……神様から、頂いたんですよ。俺が生まれる、ずっと前から。人々を照らす、英雄になりなさいって」

 

きっとそのはずだ。

 

「母上が下さった俺の名前…『黄金の炎』、アエルテス。きっと、その炎は希望の光であるはずだから。」

 

一通り聞くと、ヘルメスは少し考え込む素ぶりを見せ、徐に口を開く。

 

「世界は、英雄を欲している。」

 

役者のような身振りで、仰々しく、天高らかに、その言葉の一つ一つを俺にぶつけてくる。何が目的だ…?

 

「ヘリオドーンのダイナー、彼の未完の英雄譚を完成させるのは君か?炎帯剣(パイリクテリア)を携えながら、救世を願う少女よ」

 

「ええと…俺は誰かの後を継ぐ気はないですよ。俺の人生は俺のものですから。」

 

「近いうちに、君は冒険をすることになるだろう。その時は、ぜひ特等席で見せてもらうとしよう。礼と言ってはなんだが、君にこれを授けよう」

 

ヘルメスは 変な本を 渡してきた!

 

「じゃあまたね、ヘリオドーンのアエルテスちゃん」

 

嵐のような(ひと)だったな。

しかし、この本…どうしたものか。ファミリアに持って帰るのもアレだし、適当なところに寄付してしまうか。

 

 

そんなわけで、やってきたのは『豊穣の女主人』。

ここに訪れるのは、この間ベルの無銭飲食ぶんの代金を払いにきて以来だ。

 

「え?本…ですか?いいんですか?」

 

「俺は本は読まないし、本が好きな子がいたら渡してあげてくれ」

 

適当な理由をつけて本をシルさんに押し付け、俺はその場を後にした。

 

それが何であるかなど、知りたくもない。

変質者が渡してきたものをおいそれと受け取るほど、俺は馬鹿じゃないからな。




【魔法紹介】
☆リュクシオン
・付与魔法。
・自身を含めた周囲に延焼する。
・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』
アエルテスに発現した一つ目の魔法。自分諸共「燃焼」の状態異常にする産廃魔法。発動中は常に精神力を消耗する。また、自力での解除不可。精神力枯渇で気絶しても、残っている僅かな精神力を消費して燃え続ける。鎮火された場合、それ以上の消費はない。
魔法の実態を知ったリヴェリアは頭を抱えたという。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。