自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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4話の誤字修正を行いました。(2025/07/31)


怪物祭、激突

 

朝。木漏れ日の中で目を覚ました俺は、街の中を席巻する熱気に起こされる。

 

「今日は…そうか、怪物祭(モンスターフィリア)か……」

 

ダンジョン探索禁止は今日が終わるまでだ。おそらく、祭りを楽しんでこい…ということなのだろう。前世では孔明並みにパリピだった自信があるので、行かない手はない。

 

早速支度し、外に出かける。当然ながら、防具はともかくとしてフレイモスは置いていく。祭りに危険物を持ち込むのは御法度だ。

大通りに出れば屋台で溢れ、焼けるソースの香りが漂ってくる。往来には人が溢れ、子供たちの笑顔が眩しい。

 

「とは言っても、誰かと一緒じゃないと祭の楽しさは半減だよなぁ。」

 

「そんな両手に食べ物を抱えておいてか?」

 

「おわ!?リヴェリアさん!」

 

「楽しんでいるようで何よりだ。」

 

一人でお祭りグルメを楽しんでいたところをリヴェリアさんに目撃されてしまった。だが、俺が目を引いたのはリヴェリアさんの装いだ。

普段の戦闘衣(バトルクロス)ではなく、質の良いドレスを身に纏い、大量の花束を抱えている。

 

「なんですか?それ…」

 

「ああ、祭りという事で祝いの品を同族たちから渡されてな。にべにするわけにもいかず、この有様だ。」

 

大変なんですねえ、と溢しながら肉串を頬張る。噛むと同時に肉汁が溢れてくる。うむ、これぞ食事という感じだ。

胡椒も効いていて大変美味。一億点をあげよう。

 

そうしていれば可愛らしいのだがな…

 

もご、もごもごごもごご(ふむ、どうかしましたか)?」

 

「いや、なんでもない。よく食うなと思ってな。」

 

その後は、方々に挨拶回りがあるというリヴェリアさんと別れ、噴水のある広場にあるカフェでモーニングコーヒーを嗜む。

気がつけば、俺に向けられる熱い視線たち。流し目を向けてみると、人々が俺の方を窺っている。中には俺を見て絵筆を走らせている者もいる。

 

なるほど、俺が美少女すぎて世人を惹きつけてしまった……か。

お父さんお母さんありがとう、俺を美人に産んでくれて。

 

「さて…コーヒーの後は…出し物でも見に行くか」

 

会計を済ませ、【ガネーシャ・ファミリア】が何やら催しを行っているという話である会場に向かうことにした。

道中で「お祭り価格」と称したぼったくり価格のポーションがバラ売りされていたり、職人たちが大放出セールと言い張ってバベルにある武器屋での売れ残りを高額で売り捌いていたり。

 

「む、あれは…ベル?」

 

露店街を歩いているベルを発見。隣にはシルさんがいる。二人は楽しそうに祭りを楽しんでいるらしい。邪魔をするわけにもいかないので、その場から離れようとすると──────。

 

ふと、建物の2階にいるアイズ先輩と目が合った。その隣から見える赤髪はロキのものだろう。彼女と対面しているのは、フードを深く被った一人の女性。

怪しい密会だ。だが【ファミリア】の政治的ゴタゴタに巻き込まれるつもりは毛頭ない。

 

速やかにそこから離れようと踵を返すと、一瞬だけ妙な視線を感じた。カフェで感じたようなそれとは違う、別種の、絡めとるような視線。

 

「………っ!?なんだ…?今の…」

 

悪寒を感じ、そそくさと足早に立ち去り、いざ会場入りをしようと、受付を済ませた…その時だった。

 

俺の足元が爆発した。

 

数秒失神していたのだろうか。俺が目を開けると、露店の天幕に突き刺さった状態で、周りからは悲鳴と怒号、民衆の逃げ惑う音が聞こえてくる。

 

「何が…起こって……」

 

視界の先で、露天商のおばちゃんが蔦のようなものに吹き飛ばされるのが見える。子供達が悲痛に泣き叫び、屋台に火がつき、燃え始める。

 

「誰が、こんなことを……」

 

幸せそうだった人々の顔は、今や絶望に彩られている。

こんなことが、許されて良いはずは……ない。

 

「クソ…50 M(メドル)近く吹っ飛ばしやがって…」

 

起き上がり、地面に突き刺さっている長剣を手に取り、引き抜く。

 

「急げ!【ロキ・ファミリア】への支援を要請しろ!」

 

ギルドの職員さんがこんな時でも冷静さを欠かず、的確に指令を飛ばしている。ぐん、と足に力を込め、彼女に迫っていた蔦を切り裂く。

 

「っ!?助かりました…!」

 

「礼はいらない。アイズ先輩を呼んできてくれ。ここは……俺が持つ」

 

無辜の民を傷つけんとする怪物の姿を見る。花のような器官をつけた、植物型の魔物だ。それならば、俺が一方的に勝つに決まっている。

 

「あなたは……?」

 

俺を誰何する声に、希望を与えるため。俺は高らかに名乗りをあげる。

 

「俺は、ヘリオドーンのアエルテス!【ロキ・ファミリア】の勇士だ!」

 

長剣を構え、走りながら魔法を唱える。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』……燃やし尽くせよ!【リュクシオン】ッ!!!」

 

俺の胸から炎が噴き出し、火炎の外套となって形どられ、それは俺に、長剣に燃え移る。

 

「なっ…炎……?嬢ちゃん、そいつはヤベェ!Lv.3でも厳しい……」

 

「それは、足を止める理由にはならない。子供たちが泣いている……貴婦人が助けを求めている。俺が戦う理由は────それだけでいい!」

 

襲いくる蔓の攻撃に剣を合わせ、斬撃を入れる。バターのように溶ける触手。炎と見て、より多くの触手が迫ってくる。

 

「そりゃあ悪手だろ……雑草」

 

俺の魔法【リュクシオン】は、近寄るもの全てを燃やす魔法だ。すなわち、攻撃しようとしてきた蔓は、全て燃えゆくのみ。

 

だが。

 

「ごっ…!?くそ、燃え残りが…!」

 

燃え残った触手で以て攻撃されれば、いくら炎の鎧を纏っていようが関係なく殴打を喰らう。口の中に鉄の味が充満する。

 

「があああっ!」

 

迫り来る触手を斬って、斬って、斬りまくる。溶解液を分泌するようで、俺の炎に接触して蒸発する。やはり、完全に優位だ。このまま押し切らせてもらう!

 

「はいだらぁぁぁぁ!!!」

 

花の部分を切り裂き、ぼん、と音を立てて怪物花は塵に変わる。肩で息をしながら、周りを見る。歓声はない。むしろ、皆さらに絶望した表情を浮かべている。

 

「何を……」

 

振り向き、そして理解する。

 

「クソッタレめ」

 

わらわらと、一体、また一体と集まってくる怪物花。

さっき受けた一撃で、肋骨がイカれたようで息をするのも苦しい。背中は焼けるように熱く、俺の後に続くものは誰一人としていない。

 

「神様…俺に、ご加護を…!」

 

こんなことなら、フレイモスも持ってくれば良かった。などと思いつつも、長剣を構えて突撃する。

180°から攻撃が飛んでくる。がむしゃらに剣を振い、蔦を斬っていく。だが──────最初に折れたのは、長剣の方だった。

 

「しまっ……がは…っ!?」

 

鳩尾に蔦の殴打が突き刺さり、10 M(メドル)ほど回転しながら吹き飛ばされる。苦痛に身を悶え、血反吐が混じった咳をしながら、蹲る。

逃げることは───出来ない。後ろには、守るべき市民がいる。

 

(とは、いっても…立てそうにないな…!)

 

そう、思った矢先。

 

 

「たすけて…お姉ちゃん……」

 

子供の、消え入りそうな声が聞こえた。

 

そうだ。俺はここで立たなければならない。

恐れはない。燃える四肢を動かして、立ち上がる。こんな所で折れている場合じゃない。

 

「……まだ、剣が折れただけじゃねぇか…ヘリオドーンのアエルテスは、ここに健在だ…!!!」

 

背中の熱と共に、炎が更に燃えあがる。それと同時に、民衆から歓声が上がる。中には、俺を鼓舞するように叫ぶ者もいる。

ベタな展開だが……嫌いじゃない。

 

「うぉおおおおっ!!!!」

 

雄叫びをあげ、折れた剣で傷を無視しながら怪物花に吶喊する。いくつも擦り傷が出来るが、流れた血はすぐに蒸発して消える。

蔦を焼きながら登り、花の中に腕を捩じ込み、魔石を直接叩き壊す。飛んできた蔦の攻撃を避け、そのまま噛みつき、炎を伝導させ、爆破してもう一体も焼き殺す。

 

「はぁ……はぁ……テメェで、終いだ…!」

 

一際大きい怪物花。蔦による殴打を連続で繰り出してくるが、それらを跳躍して回避────した先に、刺突する蔦が俺に突き刺さる。

 

「がふっ」

 

腹を貫かれた。だが、状況とは逆に笑みが溢れる。

 

「……捕まえたァ…!」

 

精神力(マインド)を全て燃やす勢いで炎の勢いを強める。剣は根本から溶け、耐火は万全のはずの防具にも火がつき始める。

慌てて引き抜こうとする怪物花を、意地で掴み…そのまま焼き払う!

 

『ギィイイイイイ………!!!』

 

「……やっと、叫びやがったな…バケモンめ」

 

断末魔の叫びを聞き終え、灰の上に降り立つ…とはいっても、情けなく落ちたと言った方が正しいが。

精神力枯渇(マインドダウン)で倒れそうになりながらも、最後の力でポーションを飲み干す。腹に空いた穴が塞がるような感覚と共に、炎の勢いが弱まる。

 

「嬢ちゃん!大丈夫か!」

 

後ろで見ていた冒険者が俺に駆け寄ってくる。

それを見て安心した俺は、気絶すると────数十秒後に目を覚ました。どうやら、水をかけて、その上で精神力(マインド)ポーションを飲ませてくれたらしい。

 

「げほっ…助かった……すまないな」

 

「嬢ちゃんこそ、一人で戦わせちまってすまねえな…」

 

互いに謝罪してなんだか気まずくなっていると、地面が揺れる音が聞こえた。嫌な想像が脳裏をよぎる。

その想像は、すぐに実現した。

 

『ギィイイイイイ…』

 

「おいおいおい……ふざけんなよ畜生め!嬢ちゃんがあんだけ倒して、まだ出てくるのかよ…!?」

 

介抱してくれていた冒険者が立ち上がり、メイスを構えながら俺の盾になるように立ち塞がる。

 

「俺よりも二回り小せえ女の子に守られてばかりいるわけにゃ行かねえ!くっ、来るなら来やがれ!俺が相手だあっ!俺はLv.2冒険者様だぞぉっ!」

 

おそらく、二人ともここで死ぬだろう。

そう思って、最期に足掻いてやろうと立ち上がる。

 

しかし。

 

「【リル・ラファーガ】!」

 

一陣の風が舞う。目の前の魔物が木っ端微塵に吹き飛び、金色の妖精と見紛うほどの美貌の少女が、俺たちの前に現れる。

 

「よく、頑張ったね。もう大丈夫─────」

 

続々と道化師の紋章をつけた戦士たちが現れる。彼らの顔は皆、殺気だっている。

 

「私たちが来た。」

 

そこから始まったのは、【ロキ・ファミリア】による蹂躙だった。魔法が乱打され、剣戟が飛び交い、戦場はすぐさま屠殺場へと変わっていった。

当然のように民衆は避難させられ、俺は端っこで寝かされることとなった。

 

起きあがろうとしたところ、ラウルという人に

「あんたはもう動かんといてください」と言われてしまったため、渋々引き下がったのであった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ベル・クラネルとアエルテス・ヘリオドーンは幼馴染である。

 

幼少期から共に過ごしてきた歳月は、当然のように互いの存在を理解させる。それが、普通の関係性ならば。

片や憧れ、片や不変(かわらず)。フィルターのかかった目で互いを見ていたがために、変化に気付くことも、本音を理解することもなかったのだ。

 

それは、ベル・クラネルがシルバーバックを打倒した今でも変わっていない。

 

「ベルくん、アエルテスくんにはまだ会わなくて良いのかい?キミはもう立派な男の子だ、いつまでも昔のままじゃないってことを教えてあげても良いんじゃないかな。」

 

「……そう、ですかね…」

 

ベルがアエルテスとの接触を拒んでいた理由。それは、『豊穣の女主人』での出来事に起因する。

あの時、幼馴染(アエルテス)に加え、自分自身も憧憬(剣姫)には並び立てないと言われた翌日のことだった。

 

「代金なら、すでに金髪の嬢ちゃん…赤い目の方に貰ってるよ」

 

「えっ?」

 

謝罪すべく『豊穣の女主人』を訪れたベルは、ミアにそう伝えられ固まった。そして、後悔が押し寄せる。

自分はその場から逃避して戦いに身を投げたというのに、幼馴染(アエルテス)はそんな自分のために気を回して、代わりに払ってくれた。

 

それが意味するのは、いつまでも彼女は自分(ベル)を「守られる側」に置いている、ということ。

何年も共に過ごしてきて、ベルは彼女が世話を焼くのは絶対に「守られる側」の人間であるということを知っていた。それ故に、暗に自分は何も変わっていないと言われている気がして、悔しくなったのだ。

 

「本当にいいのかい?」

 

神様(ヘスティア)は、そう聞いてきた。

 

「はい。僕は変わらなきゃいけないんです。でも、アエルテスちゃんが近くにいたら…僕はいつまでも守られる側にいてしまう。そんな気がするんです」

 

そうして、ベルは今に至る。

目の前には、困惑した様子のアエルテス。場所はバベル前の広場。時刻は夜。人気は無く、この場には完全武装した二人だけがいる。

 

「ベル…?急に【ロキ・ファミリア】に押しかけて俺を探してたって聞いて飛んできたけど…どういうつもりだ?」

 

「アエルテスちゃん……いや、アエルテス。僕と勝負してほしい。」

 

鋭い目つきでアエルテスを見るベル。しかし、当のアエルテスは未だに困惑した様子を隠さない。ベルはヘスティア・ナイフを引き抜き、臨戦態勢だが、アエルテスは剣すら抜かず、構えてもいない。

 

「……戦うのか?俺と、お前が?」

 

「僕は…もう今までの僕じゃない。そっちが来ないなら…僕から行くぞ!」

 

風を切り、ベルがナイフを構えて突進する。アエルテスは余裕そうに回避すると、悲しそうな顔を浮かべ、ため息をひとつ吐く。

 

「ベル…本気なんだな。」

 

「そうだ。僕は、君に証明しなきゃいけないんだ!対等でいるために…!」

 

「そうか。それなら──────」

 

啖呵を切ったベルに対し、アエルテスは静かに長剣を───黄金に輝く、黎明のような剣、フレイモスを引き抜く。

ベルの良く知る構えを取り、アエルテスはその真紅の瞳を滾らせる。

 

「このアエルテス、受けて立とう。」

 

「……ありがとう。じゃあ…行くよ。はぁっ!」

 

ナイフと長剣がぶつかり合い、火花を散らす。力の押し合いになり、互いに険しい表情を浮かべるが……勝ったのは、ベル・クラネルのほうだ。

 

「随分と…鍛え直したな。だが!」

 

しかし、押し合いに勝ったとしても、技量に関してはアエルテスに一日の長がある。毎日アイズ・ヴァレンシュタインとの鍛錬を積み、さらには神の恩恵(ファルナ)を刻まれる前から会得していた技は、ステイタス差をないものにしていた。

 

「くっ…!」

 

「まだまだ動きが甘いな。魔物専門といった動きだ」

 

長剣の連撃。技によって力が最大限に乗った攻撃は、ベルを後退させていく。

さらには、リーチ差も存分に活かされ、反撃がし難いような立ち回りをされているため、防戦一方を強いられる。

 

(戦い方が…巧い!)

 

「力ばかり成長したのか?それでは何も変わらないぞ!」

 

「分かってる…ッ!」

 

バックステップで離脱し、そのまま死角を取るようにアエルテスの周りを走る。それを見たアエルテスは、小さく息を吐き、地面に剣を突き立てる。

お前の攻撃など構えていなくとも捌ける、という明確な挑発だ。

 

「しいっ…!」

 

ナイフによる斬撃を当てようとするも、ベルは浮遊感を味わい、地面に叩きつけられる。一本背負いだ!ベルは息を吐き出し、転がって離脱する。

 

(でも、やっぱり……ステイタスは、僕のほうが上だ。)

 

まるで痛まない身体に、確信するベル。もはやベルとアエルテスには隔絶した差がある。数々の無茶を乗り越えて成長したアエルテスだが、成長補正のあるベル・クラネルには到底及ばない。

 

(なら、それを活かして戦うんだ!)

 

ダッシュで接近し、アエルテスが咎めるようにカウンターを差し込んでくるが、それが当たる直前に跳躍し、背後を取る。

しかし、裏拳が飛んできてベルは間一髪で回避する。

 

「……速いな。だが、速いと分かったなら…それに合わせて動くまで。」

 

嘘だろう?と思うベルだったが、その通りにアエルテスは動きを変えてくる。これまでは自発的に動いては来なかったアエルテスはベルを追い詰めるようにインファイトをしかけ、剣を振るう。

 

(でも、まだ捌けてる!)

 

「隙あり。」

 

アエルテスはベルに顔を近づけ、その頬に口づけを落とす。何をされたのか理解されたベルは顔を真っ赤にして硬直する──────が、直後ベルの腹に強い衝撃。

 

「美少女のキスは高くつくだろう?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら吶喊してくるアエルテス。その顔は蠱惑的であり、ベルの動きをさらに硬くする。

 

「ずっ、ズルい!?」

 

「使える武器は使っていかないとな」

 

剣戟の合間に挟まれる打撃に対応できず、ベルはいいように殴られてしまう。

数合撃ち合うだけで、ベルに相応のダメージが蓄積していく。対するアエルテスは余裕の表情を崩さない。

 

「…………まだ、俺が傷つくのが怖いか」

 

どきり、とベルの胸が高鳴る。

血だらけで立つ、その姿。今でも鮮明に思い出す。それはベルの幼き日の原風景であり、トラウマでもある。

 

「そ、れは……」

 

ベルが口淀んでいると、アエルテスは微笑む。

 

「安心しろ。ここ(オラリオ)に来てから、何度も死にかけてる。多少斬り刻まれたところで死にはしないさ」

 

呼吸が、止まった。

 

目の前の少女は、ベルの大切な幼馴染は、幼い日の憧れは、その細くしなやかな手足を幾度も傷つけられ、端正な顔は何度も苦痛に歪んだのか。

その様子を想像し、ベルは自分が許せなくなる。

 

そんな大変な時に、なんで自分が助けてあげられなかったのかと。

 

「………僕は、もう君にそんな事を言わせたくない。」

 

黒き短剣(ヘスティア・ナイフ)を構える。ベルの背中がじんわりと熱くなっていく。

 

「僕はもう……自分の弱さで後悔したくない!」

 

「…覚悟は決まったようだな。来い、ベル・クラネル!」

 

「勝負だ─────!」

 

互いに駆け出し、剣とナイフを打ち合う。一度打ち合うたびに、アエルテスの打撃がベルを打つ。だが、その度にベルも負けじと短刀でアエルテスを斬る。

切り傷が増え、痣が増え、両者は大きくのけ反る。

 

「神様……どうか俺に…」

 

「神様、僕に……」

 

互いに祈りの言葉を吐き出し…

 

「「力を!」」

 

最後の剣戟を交わす。勝ったのは、やはりベル・クラネルだ。だが、アエルテスはバックステップで大きく下がり、叫ぶ。

 

「黄金の炎よ、闇夜を斬り裂け!!」

 

フレイモスの放射能力。貯められた炎は、一回の魔法行使分。放たれた黄金の炎刃は、ベルのもとに飛来し──────ベルは、それをヘスティア・ナイフで受け止め、そのまま弾き返す!

 

「まだだ……ッ!」

 

弾き返された炎刃を受け止め、再度放つ。またも弾くベル。

 

「おお────ッ!」

 

一度、二度、三度、四度……数えきれないほど撃ち合い、次第に騒動を聞きつけ、人々が集まってくる。【ガネーシャ・ファミリア】の衛兵たちまで駆けつけ、様子を見守る。

しかし、二人の目にはそれらは映らない。もはや互いの信念のみが映っていた。

 

「負けてっ…たまるか……!俺は……ッ、ベル、お前の……道標であり続ける為に……っ!」

 

「負けるもんか……!僕は…アエルテスの隣でっ……一緒に、冒険をするんだ……っ!」

 

長きに渡る決闘。その、勝者は。

 

爆炎が巻き起こり、片方が膝をつく。立っていたのは、ベル・クラネルだった。

 

「………認めるよ。お前は変わったよ、ベル」

 

「…アエルテスは、ちっとも変わらないね。どんなに苦しい時でも、なんでもないみたいに笑うんだもん」

 

「笑うと、皆に勇気を与えられるだろ。だから、苦しい時ほど笑うんだ」

 

「……やっぱり、変わらないや。」

 

ベルは笑顔で、幼馴染に手を差し伸べた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

分かってはいたが、まさかベルに負けるとは。

魔法は使うと自動的に負けが確定するから使わなかったが、使える手札は全部使った。だが負けたのは、流石に差を感じる。

 

フレイモスの炎刃を跳ね返してきた時は心臓が止まるかと思ったが、火炎耐性のある装備を着込んでいて良かったと心底思った。

 

「はぁ……」

 

「なんや、ドチビんとこの子に負けた事まだ引きずっとんか」

 

「そりゃあね……俺の後ろで震える子だと思ってたら、いつの間にか男になってたんだもん」

 

「ま、男三日会わざれば刮目せよとはよく言ったもんってことやな。ほい、ステイタス出たで」

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.1

《基礎アビリティ》

力:F311 耐久:C627 器用:F303 敏捷:G261 魔力:G294

《発展アビリティ》

 

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

【】【】

《スキル》

【逆境奮起】

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

──────────────────

 

「耐久の伸び、やっぱエグいなぁ…」

 

「魔法を使ってる時間だけ伸びるからな。そういう点では効率がいいのかもしれん」

 

平均ランクはF。通常は早くてもHだというから、これでも上振れているほうだ。やはり、俺は特別な存在に違いない。

 

「そういえば、アイズ先輩は?」

 

「アイズたんなら【ゴブニュ・ファミリア】んとこ行ったで。武器壊してもうて謝りに行っとる」

 

詳しく話を聞くと、俺が昼間戦った魔物…食人花の出した溶解液で4000万のレイピアを壊してしまったらしい。

フレイモスで戦っていたら、と考えるとゾッとする。

 

「それと、あんま気ぃ落とさんようにな。アエたんは強いで、自分が思っとる以上にな」

 

「知ってる。俺最強だからマジで」

 

「ほ〜ん?まだベートの足元にも及ばんくせに〜」

 

うぐ、痛いところを突いてくる。

未だに俺はアイズ先輩にもティオナにも、まして見返したいベートにもまるで及ばない。無論、色々な奇跡が重なれば一撃与えられるかもしれない…くらいには成長したと思うが。

 

「そういえば、レベルアップはステイタスのどれかがDを超えたら出来るようになる…と聞いたが、俺はレベルアップ出来ないのか?」

 

レベルの差というのは、この世界において絶対的な差だ。Lv.1冒険者とLv.2冒険者の間には、子供と大人くらいの差がある。

無論、俺はLv.2の両親に鍛え上げられたアスリート並みの超人だ。おそらく神の恩恵(ファルナ)抜きでも3階層までは辿り着けるだろう。

 

「アエたんの場合は、『冒険』の敷居が高いんやろな。神さえ認める偉業を成し遂げへんとレベルアップは出来ないんは知っとるやろ?」

 

「もちろん。にしても敷居…か…」

 

かれこれ散々『冒険』してきたと思うが、それでも足りないのだろうか。

 

「ま、ウチが意図的に止めてんのもある。格上に勝つってだけでも十分にその資格はあるねんけど、ポンポン上げてたら早死にしてまうやろ?」

 

なんでも、俺が得てきた上位の経験値(エクセリア)をそのままアビリティの強化に入れているのだとか。

 

「それに…アエたんの事は気に入っとるんや。他の眷属(こども)達もおんなじくらい。せやから、ウチの勝手にいなくなるんは許さんよ」

 

そういうロキの顔は、少し寂しそうに見えた。




【人物紹介】
☆ベル・クラネル
白い髪に、赤い瞳の可愛げのある少年。背丈は165cm。
【ヘスティア・ファミリア】に所属しており、Lv.1冒険者。
【憧憬一途】という成長補正スキルを保有しており、怪物祭終了時点の平均アビリティはE。また、【憧憬一途】は原作よりも効果範囲が広くなっており、アエルテスに対しても微量ながら効果を発動している。
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