自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている   作:札幌53位

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暁の直光

 

アイズ先輩のLv.6記念のお祝いをしに行った翌日の朝。

俺はベルからリリが探していた『姿を変える盗賊』であることを教えられた。ベルの後ろには、怯えた様子で隠れるリリもいる。

 

「まあ、いいんじゃないか?」

 

俺としては「悪は処すニダ!」なる考えはないし、なにより反省しているのなら別にいいだろうとは思う。俺は何も盗まれてないし。

 

「で、でも……リリはアエルテス様を10階層に置き去りにして……」

 

「別に…一人で帰れるし。それより、大変だったんだろ。今までよく一人で頑張ったな」

 

ひとまずの和解(?)をしたあと、話はパーティ編成の話になった。ベルの覚えた魔法は炎系の魔法だ。つまり、俺の【完全燃焼(オルド・イリウス)】とすこぶる相性が悪いのだ。

そのことを説明すると、ベルは「僕が魔法を使わなければいい」と言ってきたが、リリの合理的判断によって止められた。

 

「………やはり、アエルテス様にはパーティを抜けてもらうほか無いのでは?」

 

「俺もそう思うな」

 

「そ、そんなぁっ……!」

 

すまない、ベル。ダンジョンは非情なものだ。少なくとも、俺のスキルの発動範囲がどれほどか分からない以上、迂闊にパーティは組めない。

 

「そういえばベル、アイズ先輩になんかした?凹んでたけど」

 

「ナッ!ナニモ…ナイデスヨ!」

 

「ある反応じゃねえか。何したんだよ」

 

「実は……」

 

あまりリリやヘスティアに聞かせられない内容なのか、耳打ちで教えてもらう。どうやら、膝枕をしてもらったらしいのだが、恥ずかしくて逃げてしまったらしい。

なるほど、確かに親近感が湧くな。とんでもない美人とスキンシップしたら俺も逃げるし。

 

「むぅ…二人で何をこそこそと話しているんですか!リリも混ぜてください!」

 

「ははは、ベルとは昔からの付き合いでね、互いの裸も見合った仲なんだぜフハハハハハ」

 

「おおっと!それは聞き捨てならないぞアエルテス君!ボクだってまだ見たことないのに!」

 

この場における優位は俺が握ったようだ。そう思っていると、ベルがとんでもない爆弾を投下した。

 

「懐かしいね…また入りたいなあ」

 

約二名、うち一名は神が爆発した。

多分ベルは昔のように俺と一緒に遊びたい、という旨で言ったのだろうが。ヘスティアとリリに引っ張られるベルが面白いから赤面しておこう。

 

「えっ?あっ!違っ、そういう意味じゃなくて!」

 

「「処刑ーーー!!!」」

 

哀れベル。

 

一通り用も済んだので、持ってきた菓子を摘みながら本を読む。先日痛感したが、俺はもっと物を知るべきだと思う。

いつの間にか陰謀に巻き込まれてました、じゃ格好が付かない。巻き込まれるなら、初めから知った上で飛び込みたい。

 

「うん?アエルテス君、本なんか読むのかい?何々…『ヨサノ・晶子は何故リキドウ・サンを殺さなかったか』……?なんだい、これ…?」

 

「本屋に売ってたんだよ、中身はオラリオの暗黒期で起こった抗争についてまとめられたものみたいだな」

 

「それ、著者絶対どこぞの神だよ」

 

そのうち、状況が落ち着いたのかベルとリリがダンジョンへ向かっていく。俺も本を閉じて、立ち上がる。

そろそろダンジョンに行かないと身体が鈍ってしまう。

 

 

「というわけでー!やってきました、12階層!」

 

情報によると、11〜12階層には小竜(インファントドラゴン)が出現するらしい。しかし希少種(レア)らしいので、ここで俺は数日の間リセマラをする事にした。

リセマラ──────要するに、広い部屋(ルーム)で、魔物が沸いたら即殺するというだけの狩りだ。

 

『キュルルル…』

 

「早速出てきたな、ハードアーマード。」

 

デカめのアルマジロこと、ハードアーマードが壁から生まれてきた。こいつは「力」のステイタスを上げるために効果的だ。

 

『キュルーッ!』

 

「イヤーッ!」

 

カラテシャウトと共にハードアーマードの甲殻にフレイモスで斬撃を入れる。硬い手応え。剣を引き抜けば、甲羅に少しヒビを入れた程度だった。

なるほど、虫系の魔物は火をつけて斬ればなんとかなったが、動物系の魔物はそうはいかないな。

 

「これも、学びだなッ…!」

 

『キュ!?』

 

ハードアーマードを蹴り上げ、宙に浮かせてから上段斬りを叩きつける。今度は手応えがあった。

バキリという音と共に魔石を砕かれ、そのまま塵になるハードアーマード。連日の上位者との戦闘で、こちとらすこぶる強化されているのだ。

 

「とは言っても…力はEだからな…もっと力を使うやり方で倒さないと」

 

割と自分でも勘違いしがちだが、俺のステイタスは耐久以外は全体的に低い。なのに強者と一方的とはいえやり合えているのは、ひとえに【逆境奮起】によるバフの影響が大きい。

しかし、それでもアイズ先輩には一撃も与えられないし、あの謎エルフに一撃が届いたのは死の淵ギリギリ、ぶっちぎりのピンチだったからだ。

 

すなわち────同格かちょい上くらいの相手には普通に負ける。

 

「ウリャアッ!(ガノンの唸り声)」

 

『キュウッ!』

 

いやそれにしたって硬い。ハードアーマードというだけはある。こいつをペラペラに斬るとなれば、Bは必要なんじゃないか?

そう思いつつ、狩りを続行。途中、シルバーバックというデカめの猿が現れたが、ハードアーマードよりも柔らかく、図体も大きかったため、たいして強くなかった。

 

「………ふう、一旦帰るか。」

 

帰り道。9階層に差し掛かったところで、俺は剣と剣を打ち合うような音を聞いた。

9階層に、剣を使う魔物なんかいない。恐る恐る覗いてみると──────

 

猪男が、牛男をいじめていた。

 

「え、なにこれは…?そういうプレイ……?」

 

幾度も殴られ、叩きのめされ、折れそうになっている怪物らしく醜い牛男に、その度に「立て、死にたくなければな」と冷たく言い放つ美丈夫の猪男。

なるほど、これはこれで()()だな。

 

「ま、俺には関係ねぇや……さっさとずらかろう…」

 

下手な事に巻き込まれるわけにもいかないので、そそくさと立ち去ろうとすると────いつのまにか、目の前に猪男がいる。

 

「待て、どこに行く」

 

「ですよね〜…」

 

「貴様は………丁度いい。俺が誰だか分かるか?」

 

「知らねーよ、そんなの」

 

ギロっと睨まれる。条件反射でミームなんか口走るものじゃないな。だが、その答えに満足したのか猪男は牛男を指差す。

 

「あのミノタウロスの相手をしろ。貴様にも、あれにも、研鑽し合う敵が必要だろう」

 

「ま、待ってくれ。そもそもアンタは何者なんだ?知らない奴からいきなりそんなこと言われても困る!」

 

「……ならば、俺のことは『猛者(おうじゃ)』と呼べ。気に入らんのなら、勝手に別の名で呼べ」

 

「王者…なら、キングで。俺はヘリオドーンのアエルテス。オーケー、これでお友達だな!」

 

到底断れる雰囲気ではないため、仕方なくフレイモスを引き抜き、牛男───もとい、ミノタウロスと向き合う。

相手は2〜3 M(メドル)ほどの巨躯に、筋肉質な肉体。なるほど、これは厄介だ。「デカくて強い」、これに勝る戦術などない。

 

「別に…アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

『ブモオッ!』

 

キングさんには勝てなくとも、俺には勝てると踏んだのか、ミノタウロスが大剣を構えて斬りかかってくる。

力で受けるのは下策。ここは技でいなし、そのまま返す刀で斬り伏せ──────られない!?体表が硬すぎる、フレイモスの切れ味で肉を一部切り裂けたが、それでも深傷にはならない。

 

『ブモ…!』

 

「へへっ…お前もビックリしてるみてえだな?上等ッ!」

 

『ブモッ!?』

 

今更出し惜しみしても仕方ないので、さっさと魔法を使うとしよう。相手は所詮魔物だ、いくらでも代えが効く。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』…刮目しやがれ、【リュクシオン】ッ!」

 

胸から炎が噴き出し、それは炎の外套となって俺を包む。だが、先日覚えた魔法を脚に纏わせる技術を使い、爆発的に加速する。

 

『ブモ──────オオッ!?』

 

「防いだか…だが……押し切るッ!」

 

炎の勢いを強め、加速し斬撃を浴びせるのを繰り返す。最初は対応できていたミノタウロスも、徐々に追いつかなくなり、その身に傷がだんだんと増えていく。

 

「これでトドメ…!」

 

ミノタウロスが崩れ落ち、その目に焦燥が浮かぶ。俺はフレイモスをミノタウロスの首元に叩きつけ────

 

「そこまでだ」

 

られず、強い衝撃と共にダンジョンの壁に激突していた。直後、甘い液体が俺にぶっかけられる。どうやら、回復のポーションを投げつけられたらしい。

見れば、ミノタウロスも同じように乱雑な治療を受けている。

 

『………ブモォッ』

 

「だいたい分かった。ならば…貴様ら同時に掛かって来い」

 

一瞬で、俺とミノタウロスは分かり合った。そして、同時に湧き上がってくるのは─────。

 

「舐めやがって…!」

 

『ブモォオ……ッ!』

 

炎を再び燃え上がらせ、フレイモスを構え、爆速で突撃する。ミノタウロスも、自身の得意技であるタックルを交えた斬撃を繰り出す。

同時攻撃(クロスファイア)だ。防げるはずもない。

 

だが。

 

「惜しいな、もう半秒だ」

 

0.5秒先に剣を振り翳した俺から一刀のもとに処理され、その直後にミノタウロスが叩き切られる。思い返すのは、アイズ先輩との修行。

だが、アイズ先輩のときは微かに見えた光明も…キングさん相手には、もはや何も見えない。

 

戦いは、俺の精神力(マインド)が限界ギリギリまで枯渇するまで────1時間ほど続いた。猛者(キング)さんは「それだけ続けば及第点だ」と言っていたが、悔しいものは悔しい。

回復のために帰らされた俺は、疲労しきった身体を休める暇もなく、ロキにステイタスの更新をしてもらい、そのまま眠った。

 

次の日も、俺はミノタウロスとの特訓に勤しんだ。しかし、慣れてきたのか、はたまたステイタスが強化されたことによるものか。

特訓の後にアイズ先輩との訓練も行えるようになった。

 

そんな日々が、四日ほど続いた日。

猛者(キング)師匠───本名はオッタルというらしい───から、ベルの魔法について訊かれた。無論、状況はミノタウロスと共に壁に押し付けられているのだが。

 

「うごごご……知り合い、なんですか…」

 

「質問に答えろ。」

 

「生えてるって……自己申告してましたけど……ウボァァァァ!折れる折れる折れる折れる折れたぁあ!」

 

「心配するな。一度や二度じゃないだろう」

 

「そういう問題じゃ……あっ今メキって言った!ねえ!オッタル師匠?なんで黙ってるの?ねえ!?」

 

結局四肢をバキバキに折られても動けるようにする訓練だったらしく、ミノタウロスも同じ苦痛を味わっていたため、敵同士ではあるものの、若干の憐憫を共有した気がした。

 

ダンジョンから帰ると、なにやらボロボロのベルの姿。何事かと思い話を聞くと、アイズ先輩に毎日特訓をつけてもらっているらしい。

期間は、【ロキ・ファミリア】の遠征が始まるまでの間なのだとか。

 

「で、どうよ?進捗の方は。」

 

「…うん、着実に強くなってるよ。」

 

「あごめん、ハーレムの方」

 

「そっち!?いやぁ…気になる人はいるんだけど…その……」

 

こいつマジか。ヘスティアを筆頭として、リリやエイナさん、シルさんに囲まれておいて誰にも手を出していないとは。

お堅いを通り越して怖いぞ。

 

「ふむ…」

 

十中八九、ベルの想い人はアイズ先輩だろう。前にも、「金髪の長い髪の女の子が好き」と言っていたので、間違いはない。

 

「アイズ先輩、最近ベルと何してんだろうね」

 

「なんで本人に直接訊かんの?」

 

日課のステイタス更新を済ませ、ロキに尋ねるとそっけない答えが返ってきた。いやまぁ、それはそうなんだが。

 

「なんか…友達の友人関係に首突っ込むのって気分良くなくて。全知無能(デウスデア)のロキ様なら知ってるかな〜って」

 

「流石にそこまでは知らんよ。せ、や、け、ど〜…!」

 

「?」

 

「アイズたんがウチの断りなくどこの馬の骨とも知れん男と付き合うんは絶対許さへん!アエたんも悔しくないんか!自分抜きにして二人だけで楽しんどるって聞いて!」

 

た、たしかに。そう言われるとなんだかモヤモヤしてくるな。決して、ベルに恋愛感情があるわけではない…はずだ。

だが何故だろう、このモヤッとした気持ちが拭えないのは。

 

「おっ、なんやアエたん。ようやっと女の子らしい顔しよってからに」

 

「……っ、いや…俺は元から女だろ…」

 

「せやなあ…ウチから言えることはあんまりないけど、強いていうなら────恋する乙女って感じ?」

 

「なっ……!?なな、無いわー!無い!ベルに限ってそれは……無い、はず」

 

「ま、気になるんやったら様子を見に行ったら良えよ。こういうんは放置してたら腐り落ちてまうしな」

 

確かに、そうかもしれない。

俺は…この気持ちを、確かめる必要がある。

 

「………失礼する。」

 

「はいよ〜」

 

気楽そうに手を振るロキをよそに、いつもの特訓場所──────城壁の上に足を向ける。次第に、その足は知らず知らずのうちに早くなっていき、城壁の上に着く頃には、俺は息を切らしていた。

 

「ベル!」

 

知らない動悸を抱えて走ったせいか、呼吸が苦しい。

昇る朝日が、彼らを照らす。二人は、心地よさそうに眠っていた。俺は、その光景に…どこか胸の痛みを感じ…きゅっと、自分の手を握る。

きっと、きっとこの間の傷が痛んだだけだ。

 

「………俺は…」

 

『人は愛情を知った時…憎しみのリスクを背負う。』

前世のどこかで聞いた言葉。昔は、あんなに馬鹿にしていたメンヘラ一族のことも…今となっては理解できるような気がした。

 

「ベル…」

 

足音を立てないように、そっと近づく。

眠っているベルの顔を見る。成長した、幼馴染の、男の顔だ。ハーレムを作りたい、と笑っていた…あの頃と同じ顔だ。

 

「俺は先に行くよ。」

 

熱いものがベルの頬に落ち、伝う。

これでいい。愛は人を弱くする。

 

「この気持ちは、ここに置いていく。」

 

炎の剣(フレイモス)を携え、俺はダンジョンへと足を進める。

 

剣は、冷たくなっていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

帰ってきたアエルテスの表情(カオ)を見たロキは、一抹の後悔を抱いた。

 

「ロキ、俺は冒険をする。帰ってきたら…きっと、ランクアップさせてくれ」

 

そう言った幼い少女の顔には、先刻まであった明るさは消えていた。代わりにあったのは、冷たく、だが重い覚悟だけだった。

 

「……はあ、しくったなぁ…ウチとしたことが」

 

送り出した眷属(こども)のステイタスを眺めながら、ロキはボヤく。

 

──────────────────

【アエルテス・ヘリオドーン】

Lv.1

《基礎アビリティ》

力:D587 耐久:S900 器用:C608 敏捷:E493 魔力:B732

《発展アビリティ》

 

《魔法》

【リュクシオン】

付与魔法(エンチャント)

・自身を含めた周囲に延焼する。

・詠唱式『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』

【】【】

《スキル》

【逆境奮起】

・逆境時、全能力の超高補正

・精神汚染軽減

・死への恐怖無効

完全燃焼(オルド・イリウス)

・炎に対する高耐性

・火炎誘引

──────────────────

 

「こんな短期間で耐久Sって…はぁ……どれだけボコられよったらこうなんねん…」

 

別れを切り出すかのように、アエルテスは関わってきた人々に「冒険をする」と言って回った。その中には、ギルド職員のローズや、『豊穣の女主人』のミア、シルも含まれていた。

 

当然、リュー・リオンもその中の一人だ。

 

「リューさん、俺……冒険するよ。もし、帰って来れなかったら…悪いけど、ベルには伝えないでほしいんだ。」

 

「何故そんな…死にに行くのは、冒険とは違います。冷静になりなさい!」

 

「ベルには…そうだな、聞かれたら『故郷に帰った』とでも伝えて────」

 

ぱしん、と小さな音が響く。アエルテスは乾いた笑みを溢すと、頼んだよ。と言ってそのまま立ち去ろうとする。

 

「アエルテスさん。覚えておいてください。

 ───あなたの帰りを、待つ人がいることを。」

 

「ああ、覚えてたらな。」

 

淡白にそう返したアエルテスは、そのままダンジョンの中へと潜っていく。

 

彼女の冒険が、始まろうとしていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

あれから、三日が経った。

小竜(インファントドラゴン)は未だ出て来ない。持ち込んだ食糧は7日分。これまでに狩った魔物の数は、優に200を超える。

 

辺りには、地面で魔石のエネルギーを食って燃え続ける炎と、多くの塵が散らばっている。

 

「この佳景…俺には届かぬか……」

 

すでに幾度も傷を負わされたが、それらは俺に死を感じさせることもない。血の一滴すら流させられない敵など、もはや敵とは呼べない。

 

「……うん?魔物どもが逃げていく…」

 

ずしん、ずしんと、大きな足音が響いてくる。ようやくお出ましのようだ。

 

「聞いていた話と違うな。小竜(インファントドラゴン)は4 M(メドル)ほどだと聞いたが…」

 

現れたのは、8 M(メドル)は優にあるような竜であった。これでは小竜(インファントドラゴン)どころの騒ぎじゃないな。

よく見れば、小竜(インファントドラゴン)の口は動いており、その隙間から魔石が見える。その上、変異しているのか通常種にはない翼まで生えている。

 

「なるほど、強化種か。」

 

フレイモスを構え、静かに息を吐く。口は既に、手慣れたように魔法を唱えていた。

 

「『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』…大海に火を点けろ、【リュクシオン】」

 

『────ッ!!!!』

 

魔法を使うと同時に、小竜(インファントドラゴン)が咆哮する。直後、俺の身体の動きが一瞬鈍くなる。

こいつ、咆哮(ハウル)を使うのか!

 

「ぐっ……」

 

竜の爪による斬撃を受け止め、4 M(メドル)は吹き飛ぶ。直後、飛来するのは雷光。小竜(インファントドラゴン)のブレス…いや違う!

こいつ、()()()使()()()()()()()のか!

 

「ちっ…!これが強化種か…随分と好き勝手しやがる…!」

 

纏った炎の外套を守りに回す。同じ魔法なら、魔法で対抗できない訳はない。ローズさんに教わった強化種は、大抵の場合高い知性を有しているらしい。

だが、こちとら高い知性を持った相手とは戦い慣れているのだ。

 

「爆ぜて塵、焦がして灰だ!」

 

俺の【リュクシオン】の効果には、周囲への延焼が含まれている。そしてそれは、魔力や精神力(マインド)に着火し、燃え広がる!

 

『ギャオオオオオオオオオオッ!?』

 

「はっ、虎ァ捕まえる気ぃやったんなら!お前も喰われる覚悟ぐらいしとくべきやったな!」

 

啖呵を切り、そのままフレイモスに蓄積された三日分の炎を──────叩き付ける!

 

「天地を焦がすッ!黎明をくれてやろう!」

 

渾身の一撃は、翼撃ちによって弾かれた───が、片翼をへし折ってやった。なんだ、強化種といえども大したことは……

 

『グルァァァッ!』

 

「なっ!?」

 

自身を焼く炎を物ともせず、そのまま身を翻し、尾を叩きつけてくる。フレイモスで防げども、壁に叩きつけられた時の衝撃で息が漏れる。

 

「かっ……は…!?そうか……テメェも…」

 

『ギャオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

炎耐性を持っている。小竜(インファントドラゴン)は、少なからずそうだ。そしてこいつは強化種。なるほど、驚きはしたが対して効きはしていないのか。

 

「ははっ、良いねえ…!そうこないと面白くない!」

 

完全燃焼(オルド・イリウス)】の能力で小竜(インファントドラゴン)から炎を俺に誘引し続け、それをフレイモスに流し込む。

黄金の炎刃が効いたのだ、もう一度同じのを喰らわせてやる。

 

『グオオオオッ!!!』

 

「っ、飛んだ!?いや違う────突進か!」

 

バックステップで離れた小竜(インファントドラゴン)が、そのまま翼を広げ、突っ込んでくる。前世で遊んだモンスターを狩る例のゲームを思い出す。

この距離だと……避けられない!

 

「ならばっ…!フレーム回避ぃ…ッ!」

 

突進する際に発生した僅かな地面と小竜(インファントドラゴン)との隙間。ここに向かってスライディングし、頬を掠めながらもなんとかやり過ごす。

 

「余裕!次俺が……チッ、雷撃か!」

 

ステップで雷撃を回避し、一部被弾しながらも、そのまま接近する。フレイモスを振るい、小竜(インファントドラゴン)を打ち据える。

だが、肉を浅く斬ったのみで効果は薄そうだ。

 

『グギャオオオオオッ!!!!!』

 

視界がブレ、宙から地面が見える。衝撃を自覚したのは、俺が無様に落ちて転がってからだ。

 

「サマー、ソルト……!」

 

『グルル…オオッ──────!!!』

 

「チッ…火球は効かねえよ!」

 

追撃のように放たれた火球をフレイモスで受け、吸収する。だが、防ぐのを読まれていたのか、雷撃が俺に突き刺さる。

 

「がああああ──────ッ!?!!?」

 

炎に焼かれるのとは違う、別種の熱が俺を灼いていく。背中の熱がより一層強くなる。なるほど、ようやく逆境に入ったということか。

なら、今までは…単純に俺が劣っていただけらしい。

 

「この感覚……この痛み…この痛み(ペイン)だ!」

 

心の奥底で澱んでいた灰が、燃え盛る音がする。

勝つ。勝って、俺は冒険を成し遂げる。遠いあの日、ゴブリンを倒したあの日のように!

 

『ギャオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

「うぉおおおおおおおッ!!!!」

 

小竜(インファントドラゴン)に負けじと叫びをあげ、突進する。小竜(インファントドラゴン)の放った牽制の雷撃を躱し、剣を振り下ろす。

小竜(インファントドラゴン)は腕で守るが、硬い鱗程度なら、簡単に叩き割れる。ハードアーマードがこの階層では一番硬い!

 

『ギャオオオッ!?』

 

「焼肉の時間だオラァ!」

 

フレイモスを経由して炎を竜の腕の内側で爆発させる。煙と共に仰け反る小竜(インファントドラゴン)にほくそ笑みながら、再び吶喊する。

しかし、今度は滞空して待ち構える小竜(インファントドラゴン)。学習能力は高いようだ。

 

「対応してきたか……」

 

ならば尚更のこと、ここで殺さなければ。

もはやこれは、俺が冒険を完遂するための戦いではない。ここでこの小竜(インファントドラゴン)が放置されれば、こいつは更に強くなり、手がつけられなくなる。

 

知恵を持つ魔物など、殺して然るべきだ。

そんな存在は──────決して容認しない。

 

「誰かを守るために……!俺は、生かすために死ぬ!」

 

『グッ……!?オァァアアアアア!!!!』

 

フレイモスで放った黄金の炎刃を壊れた腕で防御した小竜(インファントドラゴン)に肉薄し、その胸にクロススラッシュを喰らわせ、大きな傷跡を残す。

鮮血が俺に降りかかるが、纏う炎はそれを蒸発させていく。

 

「トドメを……がっ…!?」

 

がむしゃらに繰り出された残った腕による打撃をモロに受け、地面に引き倒される。竜は俺を掴み、そのまま口の中に放り込んだ。

燃えている人間を呑み込もうとするなど、進退両難極まったか。

 

「いや…違う────こいつ、直接ッ」

 

莫大な熱を受け、俺は吐き出される。火球を飛ばしてダメなら、直接ぶつけに来たか。なるほど、賢いやつだ。

装備はまるで傷ついていないが、問題なのは本体の方だ。竜の一撃一撃は予想以上に重く、また精神力(マインド)も残量が怪しい。

 

『グォァァアアアアア!!!!!!!』

 

竜から発される雷撃の嵐。相手も、出し惜しみしている場合ではないと悟ったのだろう。

 

「雷撃…!それもこんな大量に」

 

飛来する雷撃を炎で防ぐ。出力を上げ、更に精神力(マインド)を削り、嵐が止む頃には精神力(マインド)は底をつきかけていた。

 

「………決着を、つける他ないか」

 

再び、雷撃の嵐が飛んでくる。

小竜(インファントドラゴン)はもう動けないのだろう。俺も、これ以上防ぐ気はない。

 

ただ、真っ直ぐ。

決して走らない。相手を最大限引きつける。

 

『グ…グオオ……ッ!?グルォオオオッ!?』

 

迸る雷撃を受けながら、父上が修行中に俺にくれた言葉を思い返す。

 

「お前がもし、英雄になるのなら…きっとこの名を忘れるな。」

 

フレイモスの持ち主だった、父上の必殺技。

それは、炎を圧縮し、一筋の閃光とするものだ。

 

「うぉおおお…っ!」

 

竜の胸に、フレイモスを刺す。

そして叫ぶ。ヘリオドーンに伝わる、必殺の剣の名を。

 

「【暁の直光(エリオス・レイ)】!」

 

フレイモスから伸びた黄金の炎刃は、炎槍と化し、小竜(インファントドラゴン)を貫いていく。

 

最後の一撃は、せつなくも塵と魔石だけを遺し、その場は、静寂に包まれていた。




【技紹介】
☆暁の直光《エリオス・レイ》
炎帯剣パイリクテリア、もといフレイモスの機能解放パスワード。
所持者が叫ぶことでモードチェンジし、炎刃放射から炎槍射出へと変化する。
これは『戦鍛治姫』ナウセイアが危険視された理由の一つである、「変形武器」を作るスキルによるものである。
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