不自然な赤い点4つが、待機部屋の近辺をうろちょろしている。恐らくは盗賊だな。
先程から近くでモンスターと戦っている灰色の点(恐らく他のパーティー)を窺うように、通路の角からチラチラと様子見しているようだ。
脳筋全開モードの延長で、「やってしまうか?」と思い始めている。
こちらの位置は盗賊からは知られていないはず。
後ろの角からこっそり鑑定(※)で確認した限りでは、
※名前、年齢、種族名は省略
盗賊Lv18
装備 鋼鉄の剣 革の鎧 革の靴
盗賊Lv16
装備 鉄の剣 革の鎧 皮の靴
盗賊Lv19
装備 鉄の剣 革の鎧 革の靴
探索者Lv18
装備 鋼鉄の槍 革の鎧 皮の靴
初回盗賊イベントで倒したウーゴと比べれば、レベルはかなり低いが装備は悪くない。
狙われてるパーティーは3人だが、この階層を探索してるなら高レベルではないのだろう。
不意打ちされれば全滅しかねないので、こちらから攻撃して挟撃してしまうか。
ほむらのレイピアは収納して、フラガラッハ一本にする。
モンスターが倒され、盗賊達が動き出すタイミングを見計らって、ドロップ品のジャックナイフを2つのパーティーが接敵しそうな十字路の方に放り投げた。
探索しているパーティーの不意打ちはこれで何とか防げないか?
投げると同時にいったん角に身を潜めて、盗賊達の死角に入る。
それにしても、盗賊達はモンスターと戦っている最中に奇襲しないのだな。
何故なんだろう。ドロップ品も狙っているのか?後ろから奇襲した方が楽だと思うのだけど。
索敵で見ると、探索者のパーティーと盗賊達がにらみ合いとなり、探索者のパーティーがジリジリと後ろに下がっていくように見える。
盗賊達がある程度、探索者達の方に向かったところで、俺は駆け出して盗賊達の元いた通路の角に滑り込み、挟撃の機会を窺う。
何か怒鳴りあってるようで、こちらに気づいた様子はない。
怪我人が出る前に、挟み撃ちしよう。
「おい、手助けは必要か?」
探索者のパーティーに声をかける。
声に驚いた盗賊達が俺に向けて威嚇の怒声を放つが、雑魚感が半端ない。
探索者Lv18の男だけが背後の俺に注意を向け、残りの3人は探索者達に向かおうとするので、ダッシュで探索者Lv18に近づき袈裟懸けでフラガラッハを振るう。
一刀で探索者を倒し、勢いのまま、盗賊Lv19の男を後ろから切り捨てる。
残りの盗賊Lv18の男はあっけに取られた感じになったが、さらに横一文字で斬首。
一番レベルの低かった盗賊は俺に背を向けたままだったので、後ろから袈裟懸けで仕留めた。
「この4人のインテリジェンスカードは俺がもらっても良いか?」
探索者達も一瞬のうちに4人の盗賊達を切り捨てた俺に驚いて思考停止してしまったのか、黙って首を縦に振るだけだった。
左腕を4本を切り捨て、暫くすると装備を残して4人の姿が迷宮に飲み込まれた。
盗賊達のリュックと思われるものも残ったままだ。魔結晶でも入ってるだろうか?
気を取り直して、俺は目の前の探索者達に向き直り、
「装備品はどうする?半々くらいで山分けにするか?」
一応、総どりはマズイかと思って、3人に確認。
「いや、こっちは助かったのだから、お礼がてら、そっちでもらってくれ」
よくよく鑑定してみると、3人は探索者Lv9、戦士Lv5、僧侶Lv4。
初心者ではないが、この3階層にいなければならない程弱くもなさそうだ。
「じゃあ、ありがたくもらっておくよ。俺はユキムラって言うんだ。よろしくな」
3人もそれぞれ名乗った。
鑑定で分かってるのだが、レベル順に、ガルム、ギル、グレンというらしい。
なんだ、3兄弟か?
雑談がてら話をすると、彼らはコボルトのカードを狙った自称コボルトハンターとのこと。
なるほど。コボルトのカードのドロップを狙って、この階層に居座るのも悪くはないのか?
彼らも一撃とはいかないまでも、2人と1人で分かれて1匹ずつ相手にすれば、1人が凌いでいるうちに残りの2人が1匹を仕留めていけば、3人でもこの階層はやっていけるそうだ。
「コボルトのカードは結構出るのか?」
なんとはなしに話を振ると、
「うーん、出たり出なかったりだな。
二日連続で出る時もあれば、十日で1枚しか出ないこともある。ほんと、運任せな感じだ」
そうなのか、まあでも、五日で1枚も出れば十分な気もするがな。
「ところで、今はコボルトのカードは持ってるのか?」
興が乗ってきたのでズケズケと質問してみた。
「ああ、2枚持ってるぜ。これで、3人で15日程は宿暮らしができるんだ」
いくらぐらいで15日なのかは、人それぞれだが、彼らにしては良い収入源のようだ。
「ちなみに、その2枚を俺に売ってもらえたりはできるのか?」
盗賊討伐のお礼に寄越せとは言えないが、真っ当な取引なら交渉するのに吝かではない。
「マジか?
モンスターカードなんてドワーフか商人の知り合いでもいなければ意味ないだろう?
お前、本当に欲しいのか?」
「それで、2枚でいくらなんだ?」
物欲しそうな顔を見せずに、相場感を確認したい。
原作ではルークから主人公が5000ナール前後くらいでオークションで手にしていたか?
その他に手数料500ナールがかかるのだったっけ。
「なっ、2枚欲しいのか?うーん、どうする?」
3人でちょっと俺から離れて作戦会議らしい。
その間に、俺は盗賊達の装備をアイテムボックスに放り込む。
結構、血が付着してるので、宿屋の裏の井戸で洗い流さないとダメだな。
戦利品は
鋼鉄の剣1、鉄の剣2、鋼鉄の槍1、革の鎧4、革の靴2、皮の靴2
魔結晶は紫が4つ、金貨が4枚と銀貨と銅貨が数十枚
その中で鉄の剣1本だけ、空きスロットが1つあった。他はなし。
うーん、鉄の剣にスロットがあってもなぁ。
鋼鉄製の武器が手に入った。空きスロットがこっちにあれば、なお良かったが贅沢か?
今更だが、盗賊が探索者達を狙うにしても、パーティーには探索者がいるのだな?
パーティーを組まないと戦力的な底上げができずに苦戦するだろうし、一応、迷宮探索もしてるなら探索者は必須か?
探索者だと懸賞金はかかってないのだろうな・・・・・・有名ならかかってる可能性もあるが、レベル低かったし無理かな。
「あー、一応、助けてもらった借りはあるが、俺達も生活がかかってるのでな。
商人への売値より安くはできないぞ」
おっ、これは脈ありか?1枚5000以下なら、買いだな。
「ああ、それはモチロンだ。それで2枚でいくらで売ってくれるんだ?」
相手は商人ではないから、3割引きは使えない。まあ、値段しだいだ。
「うん?そちらはいくらなら出せるんだ?」
まあ、そうだよな。
見知らぬ相手に手の内はさらせないよな。うーん、いくらと言うか、ちょっと強気に出るか。
「2枚で9000ナールでどうだ?」
ルークの手数料込価格が5500ナールぐらいなら、2割引き程度の価格だ。
「えっ、マジ?そんなに出せるの。じゃあ、売ってやってもいいぜ」
ありゃ、強気のつもりが、割高だったか。
でも、まあ、商人を通すよりは安上がりのはずだ。失敗ではないぞ。
「じゃあ、交渉成立だな。ちなみに、今後も買取りって可能なのか?
もちろん、都合よくそちらで手に入ったらってことだけど」
定期的にコボルトのカードを手に入れられるルートを確保できると嬉しいのだが。
「あー、まあ、今回と同じ値段で買取りしてくれるのなら、考えてもいいかなぁ」
ガルムの言葉に残りの2人もうなずいている。
「じゃあ、頼むよ。まあ、入手できるかどうかは運任せだって言っていたから、
入手できた時だけで良いので。せっつくこともできないしな」
よしよし、これは良い感じだ。まあ、鍛冶師のメンバーはまだいないのだが。
「うしっ。じゃあ、入手できたら知らせるよ」
お互いに、連絡先となる宿屋の情報を交換する。
連絡したい時は、お互いの宿屋の店主に言づけてもらうことにした。
9000ナール払って、コボルトのカード2枚を手に入れた。
自力で得たものではないが、この世界に来て初めてのモンスターカードだ。
うーん、俄然やる気が出てきた。今日はアランの商館に行ってみるかな。
ちなみにカード狙いの探索者は、どの迷宮でも一定数はいるらしい。
今回、ベイルに新しく迷宮が出現したのを聞きつけて、ガルム達は急いでやってきたらしい。
コボルトはそこそこの人気で、早めに階層を巡回(場所取り?)すると、他のハンター達は遠慮して他に行くことがあるらしい。
まあ、でも盗賊にとっては恰好の獲物という線もあるが。
カードを盗賊がさばけるのかは知らんが。
3人と別れて、俺はボス部屋の方に向かう。
3階層を突破して、4階層まで到達してから、今日の探索を終わりにしよう。
ボスのコボルトケンプファーは・・・・・・うん、さすがにコボルトだけあって、楽勝だった。
ドロップ品もコボルトスクロースだが、売らずにキープしておくか。
少し早いが、今日はこの後いろいろやりたいことがあるので、探索は早めに切り上げた。
今日はコボルトのカードを2枚入手したせいで、大赤字だったが実りある探索だった。
種族固有ジョブの鬼武者を得たし、コボルトのカードの定期入手先(?)も得た。
探索者を始め、個々のジョブも大幅にレベルが上がったしな。
そして、探索者と戦士がレベル30を超えたので、いくつかジョブが解放された。
武器商人、防具商人、賞金稼ぎだ。
槍でモンスターを倒していないので、騎士は取得できていない。
今日、盗賊から鋼鉄の槍を得たので、明日以降は取得したい。
Lv3の階層だとレベルキャップは30よりは上らしい。
正直、階層+25ぐらいではないかと思っていたのだが。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
探索者Lv33 英雄Lv22 鬼武者Lv19 剣士Lv28 薬草採取士Lv32 商人Lv26
装備 フラガラッハ ほむらのレイピア アルフレイル 皮の靴
所持金 27万8870ナール
冒険者ギルドを出て、次に向かったのは騎士団の詰所だ。
盗賊のインテリジェンスカード4枚の懸賞金への換金だ。1枚は探索者だが。
詰所の門番は先日と同じ男だった。軽く会釈をする。
「あれっ?この前の・・・・・・」
顔を覚えられてしまったか・・・・・・門番って、交代制じゃないのか?
あまり騎士団の人間にマークされたくないんだよなぁ。
「今回は迷宮で盗賊に襲われていた探索者がいて、たまたま討伐する形になりました」
苦笑いをしながら、インテリジェンスカード4枚を提示した。
「分かった。ちょっと待っててくれ」
門番はインテリジェンスカードを持って、奥に行ってしまった。待つことしばし。
そして・・・・・・はい、また前回同様、女騎士様が登場されました。
「また、其方か」
面倒臭くなったのか、インテリジェンスカードのチェックもない。
異世界のセキュリティーは甘いようだ。
ギルド神殿から取り出した懸賞金の袋を前回よりは気持ち丁寧に渡してくれた。
渡してくれたのは門番の男だが。女騎士様は念のため確認に来たのか?
「盗賊討伐の件、感謝する」
塩対応ではあるが、前回よりは塩味が少し薄くなったような気がする。
まあ、ちゃんと懸賞金がもらえれば、こちらとしては良いのだけど。
「では、失礼いたします」
こちらは丁寧なあいさつを返して、騎士団の詰め所を後にした。
で、結論から言うと、3人のみ懸賞金はかかっていたようで金額はまあ微妙だ。
79500ナール・・・・・・ウーゴのような高レベル者でもないし、妥当な金額なのだろうか。
アランの商館に行く前に、若干、資金が増えたのは僥倖だ。
今後も、今日のように迷宮で見かけたら狩るのも良いかもしれないな。
索敵スキルで敵判定や盗賊識別が簡単にできるし。
原作でも、主人公の金策のメインは盗賊退治だったよな。
俺も同じ道を歩んでいると言えなくもない。
盗賊から得た装備は、宿屋の裏の井戸で血を洗い流してから不要なものは売却だな。
時間も食ったので、急いでアランの商館に向かおう。
(2025/8/3加筆)
お読みいただき、ありがとうございます。
コボルトハンターについてのお話です。
モンスターカードは自分で迷宮でドロップを狙うか、オークションで入手するかということで、他のルートはないのか?・・・・・・ということで試みで登場させました。
商家はお抱え(の奴隷)パーティーにドロップを狙わせているのでは?どこか別の仕入れルートを持っているのでは?・・・・・・等、いろいろ考えました。
買う側だけでなく、売る側(拾った迷宮探索者)もオークションにかけるのでしょうけど、果たして全部、オークションにかけるのだろうかという疑問がありました。
売る側も500ナール手数料払うなら、500ナール未満で値段下げて、かつ商人は談合しているから、自分達にとって都合の良い値段の仕入れルートを持ってるのではないだろうかと。
だから、懇意にしてる商人とツーカーなコボルトハンター達みたいな者がいてもおかしくはないのでは?・・・・・・と妄想しました。
オークションが盛んではない街は、移動コストもかかるから安く仕入れられるのでは?・・・・・・とも考えました。
まあ、全ては妄想の産物です。