自宅に戻り、エネドラ達に奴隷を五人購入したことを告げた。
15才の男性の若者三人と三十代後半の女性一人、二十代前半の迷宮探索者の巫女一人だと伝えたが、エネドラの表情は特に変わらず。
昼食の追加分の用意と先にお風呂に入れさせるための要員の調整を始める冷静な対応。
事前に増える可能性は伝えておいたものの、五人は想定外だと思っていたので少しは動揺するのかと思ったのだが。
「旦那様、今晩の会議の後に午前中の取引の件について報告と相談があります」
「そうか、分かった。時間を取るのでよろしく頼む」
複数のタスクをこなしながら適確にさばいていく。頼もしい限りだ。
「それとルーク殿より伝言があり、
オークションでモンスターカードの落札をしたので、取りに来て頂きたいそうです」
「そうか、分かった。時間がある時にギルドに行ってこよう」
ひょっとしたら、次の等価交換の取引を期待しているのかもしれないな。
丁度良いから、何かスキル融合して持っていくか。
それも今晩のエネドラの取引の話と合わせて決めてしまうか。
「旦那様、カラダンは自室におりますので、お話しされてきたらいかがでしょうか?」
俺の方に助言するまでの余裕があるのか。
「ああ。分かった。レドリックにも伝えておいてもらえるだろうか?
この後、五人と正式な奴隷契約を結ぶのだが、
従来通りエネドラに死後相続の手続きを行いたいので同行してもらえるだろうか?」
「承知しました。旦那様」
この安定感は凄いな。無茶振りしている俺が言うのもアレだが。
・・・・・・
カラダンの部屋に行き、用向きを伝えた。
「希望通り、商人候補と探索者者候補の三人の若者を購入した。
全員、村人ジョブの15才男性で人間族だ。
カラダンの奴隷商人ジョブの取得条件を満たすために、
これからターヘラの奴隷商館に来てほしいのだが、どうだろうか?」
「なるほど。では、同行させて頂きます」
カラダンと食堂に戻り、エネドラも連れてターヘラのアルマーの所にワープした。
アルマーから五人に、今回の奴隷契約先は俺であることを事前に説明してくれたようだ。
話が早くなるので有難い。
「遅くなって申し訳ない。アルマーも知っているだろうが、この前世話になったカラダンだ。
実はカラダンに奴隷商人のジョブを取得してもらおうかと思っている」
「奴隷を奴隷商人のジョブに就けるのですか?それはまた、なんとも・・・・・・」
アルマーが呆れたような顔をしている。
彼にこれだけ呆れられるということは、俺も相当なタマということだろうか。
「奴隷商人というのは世間からの評判があまりよくないジョブとなっています。
ですが、それだけに信用というのが重要です。
奴隷というのは、一般的にやはり評判がよくありませんし、信用もありません。
なので、奴隷に奴隷商人をやらせるというのは、あまり感心されない行為となります」
「まあ、そうだな・・・・・・」
アルマーに諭されてしまっている。攻守逆転した気分だ。
というか、この男、少しの間にかなり成長してないか。
実は俺の知らないところで、ナナイと婚約でもしたのじゃないだろうな?
別に婚約報告を俺にする義務などはないのだが。
「アルマーの言うことは尤もなことだと思っている。
だが、その信用というのは俺が・・・・・・タケダ家の名にかけて守るつもりだ。
カラダンが俺の奴隷であるので、カラダンの過失は俺の過失になることも理解した上で、
彼を奴隷商人のジョブに就けたいと思っている。
そして、それが本人の希望でもあるのだ」
「ユキムラ様が商人のジョブの奴隷を探していたのは知っていたのですが、
まさか奴隷商人の候補だとは思っていませんでした」
いや、カラダンとの奴隷契約の時は俺も思っていなかったのだけど。多分、カラダン自身も。
今回の三人も一人は商人候補で、防具商人を目指すのだけど、それも説明できないな。
アルマーから見ると、俺は奇行ばかりが目につく者というイメージが作られているだろうか。
もう開き直るしかないな。
「奴隷を奴隷商人にすることは、商人ギルドの規約に反するのだろうか?」
「いえ、そのような話は聞いた事ありません。
武器商人や防具商人等では
実際に奴隷でそのジョブに就いた者が居たと父から聞いたことはあります。
非常に珍しいですが、大きな商会では過去にあったようです」
では、ここはゴリ押しするか。
「それで、やはりアルマーの意見としては、
奴隷に奴隷商人のジョブを就ける手助けはできないということだろうか?」
「いえ、そこまでは。ただ、ちゃんと伝えるべき事は伝えないと拙いと思っただけです」
アルマーに釘を刺される日が来ようとは。
『男子、三日会わざれば刮目して見よ』の慣用句を思い出してしまった。
双子の奴隷契約で、あたふたしていたアルマーを見たのがちょうど3日前だったか。
万が一、実は規定違反で盗賊落ちとかになっても、今なら俺のパーティジョブ設定のスキルでジョブの変更はできるだろう。
恐らくは大丈夫だと思うが。
カラダンのジョブは探索者から今は商人に戻してある。
「では、カラダンに対して
もちろん手続き料は正規の料金を支払うつもりだ」
「私も成人になった直後に、奴隷商人のジョブ取得条件を満たすため、
父から同じことをしてもらったのを思い出しました」
うっ、なんか情に絡めて、俺に揺さぶりをかけてる訳じゃないだろうな?
少しだけ物言いがついたが、奴隷契約でカラダンへの形式的な売買が実施された。
金額は仕入れ値と同額で手続きは正規の料金。
そして、その後に正式な俺への奴隷契約とエネドラへの死後相続の手続きもなされた。
カラダンのジョブが盗賊ジョブになることはなかった。
三人の仕入れ値が合計で22万ナールで、販売価格は仕入れ値の2倍で44万ナール。
手続きの手数料は俺とエネドラで五人分で合計5000ナール。
カラダンのジョブ取得のための手数料は助言料金も含めて5000ナールにした。
全部で45万ナールだが仕入れ代金は俺が支払ったので、アルマーに23万ナールを支払った。
3割引はセットしていない。情が湧いたのではないと思いたい。
この利益で奴隷の仕入れ資金の足しにでもして、いつか我が家に貢献してくれ。
アルマーに投資したと思うことにしよう。回収できない投資かもしれないが。
「奴隷の仕入れ経験までさせてもらって、これ程のお金をもらえるなんて感謝しています」
「これはアルマーの働きに対する正当な報酬なのだから、感謝される筋合いのことではない。
もっと自信を持った方が良いと思うぞ」
俺の口調もなんだかターヘラのおばちゃんに近づいてきた気もする。
気を付けないと、17才にして小うるさい年寄りのようになってしまう。
あのおばちゃんの働きには感謝しているのだが。
アルマーに今日の対応の礼を言って、五人の新しい奴隷とともに我が家に戻ることにした。
エネドラとカラダンに先にゲートをくぐってもらい、その後に五人を続かせた。
「アルマー、今日のオークションは必要だった奴隷を得るというだけでなく、
こちらも、いろいろと勉強になった。良い機会を与えてくれて感謝している」
「こちらこそ、経験を積めて有難かったです。ありがとうございました」
最後にもう一度アルマーに礼を告げてゲートをくぐって商館を後にした。
エネドラは既に厨房の方に向かっており、玄関先でカラダンが履き物の履き替えルールを説明し始めたところのようだ。
索敵で確認すると、ヘルミーネの部隊も迷宮攻略を終えて我が家に向かっている最中だ。
新しい奴隷の受入と午後の準備も並行して実施しないとな。
毎度のこととはいえ、なかなか慌ただしい。
先に食堂に向かわさせてもらって、エネドラに今後の事を確認。
「昼食の始まる前に五人の紹介をしたいと思うのだが、どうだろうか?」
「そうですね。良いのではないでしょうか。
その後、女性二人は風呂に入れてしまいましょう。チクルスとモニカが付き添います。
男性三人はカラダンと一緒に食事をさせた後、
女性と入れ替わりで、そのままカラダンに風呂の入り方を教えてもらいます。
女性二人は昼食を取ってもらって、
部屋割りやこの家のことはチクルスとモニカに説明させます。
迷宮探索や護衛任務の事はレドリックが説明します。
剣術指南所の対応は、昼食が終わって準備ができましたら、
旦那様と私で向かいましょう」
「そうだな。それで進めようか」
なにかもう、立て板に水のように説明され、全てがエネドラによって円滑に仕切られていく。
五人がカラダンに連れられて食堂に入ってきた。
食事が配膳されないテーブルに適当に座ってもらい、俺とカラダンでオリエンテーリング。
初めにカラダンも含めて、今日の午後の予定を軽く説明。
エネドラが俺に説明してくれたことを、俺の口で言うだけ。
この家では食事は朝昼晩の三食で、この後は昼食になるのだが昼食前に簡単に自己紹介をしてほしいと伝えた。
その後は、男性・女性に分かれて指示に従って行動すると。
基本的には体の洗浄、昼食、今後の説明であると伝えた。
現時点では、『風呂』という言葉は避けておいた。習うより慣れよだ。
男性はカラダンから説明し、女性はチクルスとモニカという者が来て説明すると伝えた。
予定の説明後はカラダンから幼馴染三人組に、俺から薬草採取士のミモザと巫女のフラウスに対して、この家でやってほしいことを説明。
「ミモザ、基本的には家事をやってほしいのだが、君のジョブは薬草採取士だったよな。
そのジョブを生かして生薬をするのはどうだろう?」
「素材があるのなら生薬はできる限り生成した方が良いと思います。
お力になりたいと思います」
「では、余力がある時には生薬も作ってもらいたい。
生薬生成や家事については、この後にチクルスから説明してもらう予定だ」
ミモザが頷いたので、大枠は合わせられたか。
彼女は奴隷になったのが最近なのに、非常に落ち着いており、堂々としているように見える。
経験によるものなのか、元々の性格由来なのか。
それでも、チクルスのジョブが薬師だと知ったら、さすがに彼女も驚くだろうな。
彼女も気合を入れてパワーレベリングしたら、我が家で二人目の薬師になるのも直ぐだろう。
「それと、奴隷契約の面談の時にも俺が質問していたと思うが、
実はこの家に子供が生まれる予定の者がいる。
ポーラという人間族の女性だが、そちらの手助けもやってほしい。
チクルスの方が近所の産婆さんに既に支援をお願いしているのだが、
我が家には出産経験者も育児経験者も居ないので、
可能な限りポーラを助けてやってもらいたいと思っている」
「特に専門家ではありませんが出産や育児を経験しているので、
その時の記憶を頼りにお手伝いいたします」
「よろしく頼む。
家事や生薬生成よりもポーラの手助けの方が優先度が高いので、そのつもりでいてくれ」
「分かりました」
エネドラがターヘラから戻ってきたらフォローしてもらう必要があるだろうが、これでミモザの方は大丈夫か。
「フラウス、我が家では迷宮探索を専門に行う俺のパーティと、
この家の警備、護衛を行いながら迷宮探索で鍛える二種類の部隊がある。
君には後者の部隊に加わってほしい。
その部隊も普段は護衛を行う組と迷宮に行く組が分かれて行動している。
もうすぐ、迷宮に行った部隊が戻ってくる頃だ。
この家の警備、護衛を束ねている者はレドリックという者だが、後で紹介する。
基本的にはレドリックの指示に従ってくれ」
「分かりました」
「武器は何を使いたい?」
「選べるのでしたら、槍をお願いします。剣も扱えますが、槍の方が得意です」
巫女って好んで槍を使うのかな。ラファも槍を使うし。
回復を行うジョブだから、自分自身が怪我しないようにリーチのある武器を使うのだろうか。
「防具は後ほど配るので、何か問題点があれば教えてくれ」
「分かりました。防具はなんでも大丈夫です」
我が家は安全重視なので、チンケな防具を配備する訳にはいかない。
ヘルミーネ達に配備した装備と同等の防具を用意しよう。
そういえば、身代わりのミサンガは在庫切れだった。
それだけは迷宮に行かない者から借りて使いまわさせてもらうしかないか。
レドリックが来たので、丁度よいから今後の話をしてしまおう。
「レドリック、こちらが新しく迎え入れたフラウスだ。
巫女のジョブに就いていて、迷宮探索の経験はもちろんある。
護衛隊の一人になる。
訓練などで状態を把握したら護衛や迷宮探索の任務につけてくれ」
「レドリックだ。よろしく頼むぞ」
「フラウスと申します。
このような迷宮で受けた傷だらけのなりをしていますが、
迷宮や護衛ではお役に立ってみせますので、どうぞ宜しくお願いします」
うーん、フラウスの傷について事前に言っておいた方が良かったか。
ただ、安易に『名誉の負傷』と片づける訳にもいかないから言葉選びが難しいのだよな。
玄関の方が騒がしくなってきた。ヘルミーネ達が戻ってきたようだ。
「レドリック、護衛や迷宮探索の説明を頼んでも良いか?
俺はヘルミーネの所に行ってくるので」
「お任せ下さい。ご主人様」
テーブルを離れてヘルミーネの居る廊下に向かった。
ヘルミーネの所に行って、迷宮のドロップ品を受領した。
今回の迷宮探索分までのドロップ品のうち、双子の取り分を計算して、午後に向かう剣術指南所に食材を届けなければならないので。
今回は大丈夫だが、双子達が本格的に迷宮探索を行い始めると、かなりの食材アイテムを渡すことになるな。
一日、迷宮に行くと双子の取り分が40個程のアイテムになりそうだ。
一週間のうち一日休んでも週に240個、二週間単位で里帰りさせるから480個か。
半分は我が家で子供を引き受けるとしても、240個か。
探索者のアイテムボックス換算だとLv16じゃないと足りないぞ。
剣術指南所の探索者のジョブに就いている子供二人はLv3だったからアイテムボックスの数が全然足りないな。
発想を変えないと、これはダメだな。
肉の食材アイテム等は探索者の子供のアイテムボックスに入れて、後はターヘラのおばちゃんの店に頼んで、鮮度が重要な食料を好きに買って持って帰れるようにしてやるか。
おばちゃんの店とは新規の商売の話もしなければならないから、ついでに調整してしまおう。
こういう細かい事はカラダンに考えさせるか。奴の方がきっと得意なはずだ。
・・・・・・
昼食の時間となり、全員席に着いたので、五人を軽く俺が紹介した後、五人に自己紹介をしてもらった。
ミモザは年相応の落ち着いた口調で、ポーラの出産のフォローをする旨も宣言していた。
ポーラやレドリックの表情も明るい。
やっぱり、ある程度の年齢層の者も居てもらわないとバランス悪いよな。
幼馴染三人組は元気に各地を飛び回ることを宣言。
だが、同様の事に興味を持つ者がほとんど居ないので共感は得られなかったようだ。
うちは戦闘民族が多いから仕方がない。
フラウスは真面目に護衛と迷宮探索に全力を尽くすことを宣言。真面目だ。
体中の傷は迷宮で受けた傷だと説明し、戦闘では足を引っ張らないように頑張ると主張。
やはり真面目だ。まあ、我が家だと同じような性格はヘルミーネぐらいだろうか。
別に他の者が不真面目だと思っている訳ではないが、任務に殉じそうな性格という意味でだ。
食事が始まり、幼馴染三人組はカラダンと同じテーブルで昼食を頂くことに。
エネドラの差配で、三人分の追加は昼食開始に間に合ったようだ。
ミモザとフラウスはこれから風呂場に行き、多分、人生で初の風呂を経験することになる。
チクルスとモニカに連れていかれようとするフラウスの前にラファが立ちはだかった。
えっ、どうしたの?
ラファはフラウスよりも身長が低いのに、フラウスを抱きしめている。
これは一体?
「よく頑張りました。あなたの勇気と献身に心からの敬意を・・・・・・」
ヘルミーネに近寄って事情を確認。
「まさか、昔の家臣か何か?」
「ラファ様は、あの者が仲間を助けようと懸命に努力した事に感じ入ったようです。
別にラファ様の知り合いでもなんでもありません」
それだけで、あの行動に出るのか。元貴族の感性は俺にはよく分からないな。
フラウスがラファの前に跪いて跪礼のような事をしている。
なんか不思議空間が展開されている気がする。
ラファが元貴族というだけで俺が色眼鏡で見過ぎなのだろうか。
フラウスのやった行為は称賛されこそすれ、非難される事ではないはずだしな。
結果的には仲間は救えなかったものの、最後まで努力し迷宮脱出まで漕ぎつけたのだから。
ただ、『ラファ様大好き教』の信者がまた一人増えたのでなければ良いのだが・・・・・・。
やがて、チクルスに促されてフラウスは風呂場に連れていかれた。
ラファも席に戻り、優雅な食事を始めた。
ヘルミーネと穏やかな表情で食事と会話を楽しんでいるようだ。
まあ、フラウスも我が家に馴染めそうだということで良いのだろうか?
何か妙に真面目な派閥ができそうな予感がするのだけど。
チクルスがぶち壊してるくれる事に期待しよう。
あいつの悪戯は、真面目人間を暴走させてしまうリスクも伴うので注意が必要だが。
カラダン達のテーブルはピコ達三人と楽しそうな食事になっている。
食事が美味しいのと三人の将来に少しだけ光が見えてきたからなのかもしれない。
この三人のパワーレベリングも考えないといけないな。
フラウスもそうだし、ミモザもか。
そういえば、公爵から領内の迷宮に入ってくれと依頼があったな。
あの依頼をこなしながら、パワーレベリングも同時にこなすか。