昼食を終えて、剣術指南所に行く準備の最終点検。
ナナイ達に渡す食材はアイテムボックスに収納済。
同行者はエネドラ、ケリー、マリー、ヴィルマ、イレーネの五人で既にパーティに入れた。
子供達を受け入れて作業を行うための契約書はエネドラの方で用意してある。
カラダンは本日受け入れたピコ達三人の対応を任せたので、居残り組だ。
フラウスとミモザの二人はチクルスとモニカに対応してもらい、家事の話ではポーラ、護衛や戦闘面ではレドリックにフォローしてもらう。
今日受け入れた五人を任せる体制はできているから出発しても大丈夫か。
ターヘラの冒険者ギルドに六人でワープで移動。
ギルドの壁をくぐって外に出ると、ケリーとマリーは元の自分達の家に向かって駆け出していってしまった。
「ヴィルマ、イレーネ、二人を追ってくれ。大丈夫だと思うが、念のためだ」
「分かった、主」
二人も双子を追って駆け出した。
「短い間だけど、離れていたから寂しかったかな?」
「どうでしょうか。我が家に居る時は全然そんな素振りはなかったようですけど」
気づかないうちにホームシックにかかっているとかあるのかな。
とはいえ、俺とエネドラはアルマーの商館に行くので、剣術指南所に向かうことはできない。
今日はアルマーも立ち会いたいということだったので、迎えに行かなければならないから。
アルマーの商館に向かって、エネドラとのんびり歩く。
二人だけでこうして歩くのは初めてじゃないだろうか。
なんだか気恥ずかしい。
「今日は天気が良いので少し暖かいな」
「そうですね。まだまだ肌寒いですけど、今日は暖かくて気持ち良いですね」
気の利いた話ができない男がするのは、だいたい天気の話だ。
「仕事が忙し過ぎて、体に負担がかかってないか?
エネドラばかりを頼りにして申し訳ないと思っているのだが」
「忙しいと言えば忙しいですけど、やりがいも感じていますので大丈夫です」
話題が無くなれば仕事の話を・・・・・・ダメな男だな。
「旦那様の方こそ、ご自身が忙しいのに周りに気配りし過ぎではないですか?
もう少し気を楽にした方が良いですよ。もっと私達を頼って下さい」
そして逆に気を遣われてしまった。でも、この笑顔が見られたのだからヨシとしよう。
アルマーの商館が見えてきた。
ドアをノックする・・・・・・と直ぐに彼が出てきた。
「ケリーとマリーは、この街に着くなり、すっ飛んでいってしまったよ。
準備ができたら、俺達も向かおうか」
「はい。直ぐに準備を終えますので少々お待ち下さい」
この館の外で待つのは久しぶり?・・・・・・いやいや、外で待つ方がおかしいのだけど。
天気も良いので、外でエネドラと二人で待つのは嫌ではないけどね。
やがて、アルマーが出てきたので三人に剣術指南所に向かった。
・・・・・・
アルマー、ナナイ、エネドラの三人と食堂のテーブルを囲んでいる。
この施設の責任者のオッサンはいない。
ケリーとマリー、ヴィルマとイレーネの四人と共に広場で模擬戦をしているらしい。
ヴィルマとイレーネは早々にパーティから外れて、訓練モードに移行している。
逆に双子は俺のパーティに入っていた方が実力差が縮まって面白いようで、そのままだ。
あの二人は別にホームシックではなく、師匠と剣を交わしたかっただけではないのだろうか?
我が家の二人もだけどさ。
四人が生き生きと模擬戦をしている姿が目に浮かぶ。
俺のどうでも良い感想を余所に、子供達を迎え入れるための条件が詰められていく。
「では、こちらに受け入れるのは7人単位で、初めのうちは7日間で一組目を受け入れて、
その後の7日間に二組目を受け入れるといった感じでどうでしょうか?
どちらの組も初めは食事の準備や掃除をしたりして、
我が家に慣れてもらうのが目的で、その合間にこちらでやってほしい作業を教えます」
「はい。それでお願いします」
「ナナイ、食事の作り方や掃除の仕方を教える者がどのような人なのかを確認しないと・・・・・・」
エネドラとナナイの会話に対してアルマーが援護射撃をしている。
こいつ、本当に短期間で変わったな。
何か根性が据わったというか、先を見通そうとするようになったというか。
そして、呼び方が『ナナイさん』から『ナナイ』になっている。
これは大きな変化ではないだろうか。
その後もエネドラの説明にアルマーがちょいちょい確認を入れるという展開。
もっとも、アルマーの指摘で崩れる契約内容や作業環境ではないので確認レベル程度だ。
それでも、ナナイがこの作業契約を理解するという意味では非常に役に立っているはずだ。
ナナイから見たアルマーの株を上げるのにも、きっと役立っているのだろうな。
まだまだ甘い指摘や考え方も目に付くけど、成長途上と思えば悪くはない気がする。
契約が終わった後で、その甘い点は指摘しておこう。
エネドラの説明とアルマーの質疑応答が順調に進んで、契約の内容は決まった。
・期間は1年間を想定。季節毎に自動更新で、双方から契約更新拒否の意思表示が可能
・15日毎に7人が作業に従事。衣食住と往復の人員輸送はタケダ家持ち
・15日毎に7人のグループを入れ替える
・7人がそれぞれ、1日のうち半日程度の単純作業を実施できたら1日とカウントして、
30日単位分の労働で1万ナールをタケダ家が支払う
残りの半日は自分達の食事の作成や自分の部屋や家の周りの掃除を行う
・初めの14日分(2グルーブ)は衣食住は保証するが、習熟期間として扱い、賃金はなし
・タケダ家に居る間に体調不良となった場合は、タケダ家側で責任を持って対応する
その場合も労働日数扱いとする
・1年のうち5日は全休の日を設定できる。事前にタケダ家に通知すること
その他にも長期に作業を休止したい場合には、孤児院側から事前に申し入れる事は可能
ざっくりとは、こんな感じだ。
「この内容で宜しければ、明日、契約書をお持ちしますので確認の上、サインをお願いします」
「分かりました」
エネドラの言葉にナナイがアルマーの顔を見た。
アルマーが頷き、ナナイも契約内容に同意した。
もう、ナナイはアルマーに頼り切りな感じだな。
なんだか、チクルスを召喚したくなってきたぞ。
契約内容の詰めが終わったので、ナナイの案内で食糧庫に向かった。
アイテムボックスに収納してきた食材アイテムを渡すためだ。
「ユキムラさんのおかげで、うちの食糧庫が補修されて、食料の保存が楽になりました」
「えっ、どういうこと?」
俺のおかげはないだろう。
「店の方が食料を持ってきてくれた翌日に、今度は大工の人を連れてきてくれて
古くなって傷んでいた食糧庫の壁や内装を補修してくれました。
店の人に訊いたら、ユキムラさんとの契約でやったから代金は要らないと言われました。
補修したいと思っていたのですけど、道具も補修できる者も居なかったので、
放ったらかしにしてしまっていました。とても助かりました」
「そうか、別にナナイの方から補修してほしいと申し出た訳ではないのだよな?」
「はい。こちらから何も。お店の人からの提案で補修してくれました」
「なるほど」
あのツンデレおばちゃんの差し金か。グッジョブだな。
確かにナナイから申し出があったら、極力融通を利かせてくれとは頼んではいたけど、要望がなくても積極的に支援したのだな。
口は悪いが、仕事も早いし気が利くな。年の功か。
「ところで、ナナイ。アルマーとナニかあったか?」
ナナイは真っ赤になって、俯いてしまった。はい、回答はもう頂きました。
アルマーは成長したようだが、ナナイは成長していないのか。
いや、見えない所がイロイロと成長しているのかもしれない。どうでもよい事なのだが。
なんか、俺の方がセクハラオヤジになってきたような気もする。
ツンデレおばちゃんの影響ではないから、誰の影響だ?
元の世界でも、こんな言葉を職場の同僚にしたことはなかったはずだ。
コンプライアンスの『コ』の字もない、異世界に順応し過ぎているのかもしれない。
「では、アイテムボックスに入れない食材と今日の分の肉をここに置いておく。
探索者の子供は・・・・・・」
「今、呼びに行かせてます・・・・・・来たみたいですね」
この前の子供二人がドアから顔を出して、中を覗いていた。
二人がアイテムボックス操作を詠唱したので、二人に肉を次々に手渡して収納してもらう。
入りきらなかった分は今日の夕食に使うことになる。
「こんなところかな」
「はい。ありがとうございました。おかげさまで、ここの食料事情がすごく良くなりました」
「あの双子の働きによるものだから、二人を褒めてやってくれ」
「はい。でも、提案してもらったおかげですから」
こっちも利があってやってる訳だから、お互い様だ。
食糧庫を出て、アルマーとエネドラが居るテーブルに戻った。
契約内容も合意できたし、明日の受け入れについてもナナイの了解を得られた。
双子の迷宮での働き分の食材アイテムも渡したし、これで終わりかな。
いや、一つ言っておかなければならないことがあるか。
「ナナイ、双子の迷宮での働きが思っていたよりも良くて、
食材アイテムなどを渡す数が非常に多くなりそうだ。
あの二人の子供のアイテムボックスの数では足りなくなりそうだから、
そのうち別の方法を考えようかと思っている。
多分、肉だと食べきれないほどの数になるかもしれないので」
「そうなのですか。今までの食事の事情からすると、考えられないような事ですね」
確かに、ちょっとサービスし過ぎたかもね。
だけど、双子のやる気に繋がってるのだから、悪い選択ではなかったと思っている。
「ナナイ、ユキムラさんさえ良ければ、
食材アイテムの替わりに生薬をもらえばどうだろう?」
「確かに、生薬があれば助かるわ・・・・・・
傷は私の治療魔法で治せるけど、それ以外なら生薬が欲しいかも」
「ああ、別に生薬でも良いぞ。うちには薬草採取士の者がいるからな」
本日、奴隷契約したミモザではなく、本当は薬師様なのだけどね。
「明日、残りの食材アイテムを持ってくるけど、その次以降は生薬を考えてみるか。
具体的などのような生薬が必要かは、その時に確認してすり合わせしよう」
「はい。お願いします」
帰ったら、チクルスとミモザに相談するか。
じゃあ、これで終了かな。ヴィルマとイレーネはどうしようかな。
しばらく放牧しておいて、後で回収するか。
「あの、ユキムラさん、相談があるのですけど」
「ん?なんだアルマー」
ナナイとの婚約の仲人をしてくれというのじゃないだろうな。
「今、ユキムラさんのパーティに入れてもらっているのですけど、
それを取り止めて、別の者をパーティにいれてもらうことはできないでしょうか?」
「別の者に入れ替える?」
孤児院の探索者の子供二人と入れ替えたいということだろうか?
レベルが見えてしまう探索者のパワーレベリングはちょっと困るな。
「はい、その通りです。
これから奴隷を購入しようと思っていまして、
その奴隷と入れ替えたいということです」
「これから購入?」
「はい、この後、ドブローにもう一度行って、
ユキムラさんから頂いたお金で村人のジョブの奴隷を買ってこようかと思っています。
奴隷オークションが終わるまで時間がありますから、まだ間に合います。
冒険者にお金を払ってドブローまで移動して、
午前中のユキムラさんに倣って、探索者や戦闘職をやりたそうな村人ジョブの者を購入します。
その後、その村人をユキムラさんのパーティに入れてもらって
経験を共有させてもらえば早く希望のジョブに就けるようになると考えたからです」
なるほど。それはアリかもしれないな。
「買った奴隷を更に鍛えるのは、ニムラルさんに協力してもらうつもりです。
ニムラルさんは、どうも迷宮に行きたがってるようなので、
最低、探索者と治療が可能なジョブの二人を得られれば迷宮に送り出せます。
ニムラルさんが居ない間、私がここで子供たちの面倒を見ることを条件にするつもりです。
迷宮でのドロップ品の取り分は折半にするなど、これから交渉するつもりです。
そうすれば、どちらにも得な話になると思っています」
「そうか。分かった。入れ替える件は了解だ。
それとドブローに行くなら俺が送ってやるし、
今後の事もあるから、俺も奴隷を選びに付き合おう」
うちはさすがに、今すぐこれ以上の奴隷を追加するのは無しだが、何かの参考になるだろう。
こいつが、ここまでやる気になったのなら、ちょっとだけ手助けしようじゃないか。
エネドラの方を見ると、無言で頷いてくれた。うちの重鎮の了解は得られたと。
「そうですか。とても心強くて、有難いです」
「まあ、この剣術指南所のためになるのだから、うちにとっても利のあることだ。
感謝されるほどの事ではない。
それにアルマーに経験を共有するのを別の者にするだけなのだから、
正当な対価なので感謝は不要だ」
俺の後ろにターヘラのおばちゃんの背後霊が映っているかもしれない。
おばちゃんは死んではいないが。
それにしても、アルマーは本当に著しい成長だ。
男を変えるのは、やはり女なのかもしれない。
この後、ナナイに振られたら、引きこもりニートに大変身するリスクもあるが今は後押ししてやろう。
ただ、なんか引っかかるのだよな。
気のせいか少しだけ違和感を覚えるのだ。その正体は分からないが。
「エネドラは我が家に戻った方が良いだろう。
ヴィルマとイレーネはドブローでのアルマーの取引が終わったら、俺が回収するよ。
アルマー、俺はエネドラを送ってくるから少しだけ待っていてくれ」
「はい、分かりました」
エネドラが書類等を仕舞って立ち上がったので、二人で建物を出た。
「急に決めてしまったけど、あれで良かったと思うか?」
「別に問題ないでしょう。
アルマーさんは急激に成長しようとしていますね。
危うい所もありますが、今は流れに任せても良いのではないでしょうか」
そうだな。きっと失敗することもあるけど、それも経験だ。
適当な木陰からゲートを開いて、エネドラと自宅の玄関に出た。
「じゃあ、俺はアルマーの手伝いをしてくるので、今日の五人の件を任せても良いか?」
「はい。お任せ下さい」
結局、エネドラに丸投げしてしまい、甘えてしまってるな。感謝の言葉しかない。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ、旦那様」
ゲートから再び戻って、アルマーとナナイのいる食堂に。
二人がイチャコラとかしてたら気まずいかなと思っていたのだが、何やら真剣な話をしているようだった。
時間もないので、二人の居るテーブルに歩いていった。
「待たせたな。ドブローに行こうか」
「はい。お願いします」
アルマーをパーティに入れて外に出た。
今度は、ドブローの商人ギルドの絨毯に直接移動できるので、二人で急いで移動。
建物の外に出て、テントのある広場の方に向かった。
午前中よりはテントの数は減ったが、まだまだ商談は可能な数の商人はいるようだ。
ここからもアルマーは頑張りを見せた。
午前中に実施した質問や面談の経験を生かして、村人や農夫の若者と会話を重ね、迷宮に入りたさそうな者を選び出しては面談を実施した。
候補を絞ってからの、奴隷商人との折衝も粘り強く交渉を重ねていた。
その結果、ピコ達を選んだ時よりも安い金額での買い付けに成功した。
俺は面談や交渉では一切口出しをしなかった。
よっぽと拙い時は割り込もうと思っていたが、幸い、その機会は訪れなかった。
この経験は俺にも役立ったが、カラダンを同行させても良かったかもな。
今回は急で時間もなかったから仕方ないのだが。
奴隷商人のジョブをカラダンが得たら、今度はアルマーにカラダンのOJTをしてもらっても良いかもしれない。
アルマーの購入できたのは村人ジョブの者が三人。
探索者、剣士、僧侶をそれぞれ、やってくれそうな男達だった。
女性を選ばなかったのはナナイの事を意識したのではないかと邪推してしまう。
三人合わせて合計10万ナール。ピコ達の時より2万ナール安い。
三人をパーティに入れて、ターヘラの冒険者ギルドにワープした。
アルマーはここでパーティから外した。
残りの期間は本日購入した奴隷用に使うためだ。
「では、三人の育成計画は明日また相談しよう。
今日は、その三人の受け入れで、そちらもそれどころではないだろうからな。
明日は孤児院の子供達を迎えにくるのでアルマーも同席するだろう?
その時に、時間をとって相談しようか」
「はい。宜しくお願いします。今日は本当にいろいろありがとうございました」
新しい奴隷の受け入れは本当に大変だ。特に急に意思決定した場合はな。経験者は語る。
アルマーには俺の右腕にあたるエネドラも居ないし、他に助力してくれる奴もいないから。
それも大切な経験だ。頑張れ、アルマー!
「剣士や僧侶のジョブの取得方法は俺も知っているから、その手助けもできると思う。
装備もまあ、貸してやるから心配するな」
「はい。ありがとうございます。また明日、相談させてください」
「ああ、今日は忙しくなると思うが、頑張れよ」
アルマー達と別れて、剣術指南所に向かった。
俺の方が年齢的には若いのだが、元の世界の年齢に引っ張られているせいか、どうも若手社員の育成みたいな目で見てしまうのだよな。
剣術指南所とアルマーの商会が安定すれば、きっとタケダ家にも利益になるはずだろう。
購入した奴隷三人を念のため索敵で赤色チェックしたのだが、三人だけでなくアルマーも青色になっていた。
アルマーが青になったので、所有している三人もフラグが変わって青くなったのだろうな。
人の色が赤だの青だの見えるのは気分が良くない事もあるけど、少しだけ気持ちが良かった。
お読みいただき、ありがとうございました。
まさか、アルマーの話でここまで引っ張ることになるとは。
予想外のキャラの活躍で本編が全く進まない・・・・・・。