異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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084.アイリス家の家宰

 昼食を終えて、エネドラから修正版の契約書を2セット受領。

 確認したが、特に問題なさそうなので、このままベイルに向かうことに。

 

 魔物部屋殲滅ツアーをしている間に、ターレのマラソン後に水浴びをした髪が乾いていた。

 午後から、貴族と交渉なので間に合って良かった。

 でも、契約にケリがついて、家の購入手続きも終わったら、また走るのだよな。うーん。

 

「旦那様、士爵様との契約締結の場に私とカラダンが同行することはできないでしょうか?」

「むっ、そうか。そうだな・・・・・・」

 今後の事を考えると、この二人も貴族との交渉の場を経験してもらった方が良いか。

 

「分かった。二人とも来てもらおうか。

 基本的には俺が話を進めるが、何か気になる点があれば上手く助言してほしい」

「承知しました。ありがとうございます。

 カラダンには事前に説明しており、ベイルで待っております」

 そうか、じゃあ、ベイルの自宅経由で向かうか。

 

 エネドラをパーティに入れて、ベイルの玄関にワープ。

 既にカラダンが廊下で待ち受けていた。

 

「じゃあ、一緒に行こうか、カラダン」

「はい、ありがとうございます」

 カラダンの提案だったのかな、どちらでも良いけど。

 

 三人で歩いて騎士団の詰所まで向かう。

 

「子供達の様子はどうだ?」

「そうですね。今のところ、大きな問題もなく掃除や食事の準備の練習をしています。

 ピコ達が思っていた以上に面倒見がよくて、子供達とも上手くやっているようです」

 彼らも親を鉱山の事故で失っているから、似たような境遇同士で共感が持てるのかな。

 

 奴隷契約の時にも、同じ村の子供達の面倒を見ていたとも言ってたから、その経験も生きているのかもしれない。

 

「今日、ターレの迷宮にピコ達を連れていった時に、リックが迷宮で戦いたいって言い出した。

 さすがに訓練もしてないから止めたけど、リックは護衛として強くなりたいって言ってたぞ。

 ちゃんと訓練を受けて、レドリックから許可を得てからにしろって伝えたけど」

「はい。ビンスからも、その話は聞きました。

 戦闘技術はあった方が良いのですが、護衛はそればかりじゃないですからね」

 そうそう、護衛としての責務ってのもあるしな。

 

「今は三人とも探索者のLv16だけど、そのうちLv50になって冒険者になるから、

 そうなったら、多少の戦闘訓練をした方が良いかもな。

 遠隔地だと、他の者を護衛を出しにくい時もあるし、戦闘技術はあって困らないしな」

「そうですね。そのうち考えたいと思います」

 ベイルでも訓練させるかな。

 

 ちょうど士爵家とも、そういう契約を結ぶし。

 

 詰所に着くと、やはりドーガが門番をしている。

 

「おっ、来たな。今日は三人か」

「ああ、こっちの二人は俺の優秀な参謀達だ。俺よりも丁重な扱いで頼むぞ」

 軽口を叩きながら、奥へと進む。

 

「今日は、カミーユ爺さんは当然居るよな?」

「そりゃ、まあな」

 居ない訳ないよな。

 

「モンスターカードは入手できたのか?」

「ん?全然ダメだったらしいぞ」

 ぶっちゃけてくれて、ありがとう。これで勝つる。

 

「うちとの契約がダメになったら、どうする気なのだ?」

「おいおい、それは困るな。そうならないように、上手く説得してくれよ」

 お前、どっちの味方なんだよ。

 

 執務室に着いたので、ドーガが形ばかりのノックをして、入室していった。

 仕方なく、そのまま俺達三人も続く。

 

 むっ、見慣れない者がいるな。

 

(鑑定)

 

 

キャロル(人間族 女 23才)

料理人Lv13

装備 身代わりのミサンガ

 

 この女性がドーガの言っていた、士爵様の妹君に随行してくる料理のできる人?

 ジョブが料理人?

 料理人って、探索者Lv30まで鍛えないと取得できなかったよな。

 ただ、料理ができるというだけでなく、迷宮で戦える者なのか。

 23才で探索者Lv30まで鍛え上げて、料理人Lv12まで達しているのは平民だったら凄いな。

 実際、彼女の佇まいは体幹もしっかりしてそうで、戦えますオーラが出ているぞ。

 

 金髪で短く切り揃えた髪型に、少し吊り目気味だが色白な美人で仕事できますオーラもある。

 鑑定で料理人のジョブと知らなければ、有能な後方支援型の官僚タイプだと勘違いしそうだ。

 

 装備品に、なんで身代わりのミサンガ?

 この前の盗賊討伐作戦で士爵家側は誰一人、身代わりのミサンガを装備してなかったはず。

 家名もないから貴族ではないのだろうけど・・・・・・いろいろとおかしくないか?

 

 索敵で確認するとグレー。赤くはないから敵ではないのだろうけど、なんだか不気味だな。

 まあ、塩爺の青も不気味なのだが。

 

 ドーガに勧められて、三人でソファに座った。

 初めにエネドラとカラダンの紹介をした。

 

 だが、士爵家側から謎の女性の紹介はなく、彼女もドーガの後ろに立ったまま。

 

「こちらが先日の契約書の修正版となります。修正内容は・・・・・・」

 俺の方から、スキル融合武器の供与と交換に士爵家側の所有するカードの提供、供与する内容を金銭ではなく生薬に変更した・・・・・・等々、修正内容を淡々と説明。

 

 契約書を見ているのは塩爺・・・・・・見終わると後ろに居たキャロルという女性に手渡した。

 彼女は契約書を眼光鋭く見ている・・・・・・なんだこれは?

 

「契約書の内容に修正していただきたい箇所が数点ございます。

 士爵家側の提供するドロップ品やモンスターカードの中から

 アイリス家に該当する分を除外していただきたく存じます」

「除外するというのは一体どのような意図で?」

 というか、別の家の名前が出てきたけど、それは一体どういうことだ?

 

「まず、この後ろの女性はキャロルという名で、アイリス家の配下の者だ。

 アイリス家というのは・・・・・・その、我が家の元寄子にあたる家だ。

 今は同格の士爵家ではあるのだが。

 今回、我が家のパーティにアイリス家の者が2名加わることになっている。

 彼女が除外してほしいと述べているのは、その2名分を意味するのであろう」

 士爵様が一応は補足してくれたが、情報提供であって意図の説明にはなっていない。

 

 この期に及んで、まだ変更をするのか?

 ドロップ品の提供が1/3減るってことは、こちらの支援もそれに応じて減らさなければならないのだけど大丈夫か?

 

「この前はモンスターカードの提供を拒否して、今度はドロップ品の提供を拒否か?

 まったく、元寄親のゴッゼル家をなんだと思っておるのか!」

 

 おっ、塩爺とこのキャロルという女性は対立関係か?

 そして、カードをたかりに行って、すげなく断られた先はこのアイリス家ということか。

 

 外野で見ている分には面白いのだけど、当事者だから揉め事を楽しんでばかりはいられない。

 

「今から契約内容の再検討をしたり、契約書の修正をしていると、

 住居やスキル融合武器の提供がとても期日には間に合わなくなります」

「それは困る。セレナが到着する日は決まっているのだ。

 それまでに住まいと、武器はなんとしてでも用意しておかなければならない」

 じゃあ、この状況をあんたが収拾してくれよ・・・・・・とは言いたくても言えない。

 

 そして、妹君の名前はセレナというのか。

 

「住まいについては、士爵家側でその住居を借りる旨の一筆を記載すれば宜しいかと。

 スキル融合武器については、

 武器との交換で所有カードと不足分のカードを交換する個別の契約を用意すれば良いのでは?

 一年契約の方は改めて修正した内容で合意を得るしかないと考えます」

 確かにその通りかもしれないけど・・・・・・スケジュール通りやるにはそれしかないか。

 

 こっちはイロイロと修正と調整作業が入るから面倒なのだが。

 

 このキャロルという女性、ここにいるゴッゼル家の三人よりも遥かに頭が切れる気がするな。

 元寄子の家系と言っていたが、下剋上?

 いや、それなら落ち目のゴッゼル家側に2名派遣する意図がよく分からないな。

 契約主体をアイリス家に替えてくれと主張している訳でもないし。

 

 情報が足りなさ過ぎて判断に迷う。このまま、支援の契約を進めてよいものかどうか。

 

 契約自体を流してしまう選択肢もあるが、どうだろうか。

 いや、それよりも情報収集をするのが先か。

 

「正直、この時点での契約内容の修正には躊躇いたします。

 もう少し当方にも判断に足るだけの情報提供をお願いしたいです。

 そもそもアイリス家というのが、今回の件にどう関連しているのか?

 ゴッゼル家の方は当主自らが契約の場にいるのに、

 アイリス家の方は、何故、この方が派遣されているのか等、状況が把握できません」

「私は、このタケダ家の当主の方と人払いをした上での話し合いを望みます」

 はあ、何言ってるの?

 

 貴族を差し置いて、この平民の女性が俺とサシで話すのは無理筋じゃないか?

 

「よかろう、キャロルとタケダ殿で話し合うが良い。

 他の者はこの部屋から退出せよ。私も含めてだ」

 正気か?貴族がそれで良いのか?この女性に丸投げするのか。

 

 士爵様の意図もよく分からない。それだけ、この者を信用しているってこと?

 

 塩爺はブツブツ言いながら、士爵様に促されて一緒に退出していった。

 ドーガ・・・・・・相変わらずニヤニヤしていてムカつく・・・・・・も後を追って出ていった。

 エネドラとカラダンも困惑気味で退出する。

 

 そして、俺とキャロルという女性の一対一か。

 

「改めまして、アイリス士爵家で家宰の真似事をしておりますキャロルと申します。

 ゴッゼル家とタケダ家の契約の場を乱してしまい、誠に申し訳なく思っております。

 こちらとしても、ゴッゼル家とタケダ家の契約を邪魔する意図はございません。

 私から提供できる情報があれば御説明いたしますので、遠慮なく御指示いただきたく存じます」

 

 『家宰』そのものではなく、『家宰の真似事』か。

 

「まず、アイリス家の話からお聞かせ下さい。

 この場にアイリス家の当主または、それに準ずる方がいらっしゃらないのは何故でしょうか?」

「当主は御病気で伏せっております。

 次期当主の方は遠方で貴族教育を受けており、また年齢も15才ということもあり、

 この場にお出しすることができません。

 ここに駆けつけられる者の中で一番適任だったのが私であったため、私がここに参りました。

 それから、私はただの使用人ですから、敬語は不要です」

 その話をそのまま信じるのなら、アイリス家も人手不足なのか?

 

 でも、このキャロルという女性は才媛っぽいし、アイリス家の方が人材はマシなのか?

 ああ、セレナという妹君が優秀かどうか分からないから優劣の判断は保留だな。

 

「ゴッゼル家のパーティに2名を参加させると判断した理由を聞かせてくれ。

 可能なら、その2名の方についての情報提供もしてもらいたい」

「パーティに加わると判断されたのは次期当主の・・・・・・ジーク様です。

 ジーク様とロータス様の2名がパーティに加わります。

 ロータス様はジーク様の腹違いの兄ですが庶子であるため、アイリス家の継承権はございません。

 付け加えますと、ジーク様とセレナ様は婚約しております」

 なんだか、すごい複雑な人間関係だな。

 

 次期当主というのも、キャロルの主張だけで裏付けが取れないから話半分に聞いておかないと。

 

 そして、キャロルの『ジーク様』という言葉に熱を帯びた何かを感じたぞ。

 当主の男に横恋慕しているとかじゃないだろうな。

 

「加わる予定のお二方のジョブを教えてほしい」

「ジーク様は戦士で、ロータス様は探索者となります」

 探索者をアイリス家側が出しているというのは注意が必要だな。

 

 探索者がいないと迷宮探索ができないのだから。

 ある意味、ドーガよりも重要な役回りだ。

 

「キャロルさんは、士爵家のパーティには加入しないのか?

 あなたは戦える人間のように見えるのだが」

「ラディア様が参加できない時だけ加わると思います」

 やっぱり戦える女性か。

 

「ドーガから、新居に移ったら料理ができる女性が妹君と一緒に来ると聞いていたのだが、

 それは君のことだろうか?」

「いえ、違います。

 セレナ様付きのイネスさんという方がいらっしゃるので、その方の事ではないかと思います。

 そもそも、アイリス家はタケダ様の用意する家とは別に住まいを既に借りております。

 ジーク様とロータス様と私はそちらの家で過ごすことになります」

 さすがに婚約中とはいえ、婚姻予定の男女が同じ屋根の下というのは貴族としては拙いか。

 

 えーと、まとめると(メモメモ・・・・・・)

 

■ゴッゼル家

ラディア・マキシナント・ゴッゼル(人間族 女 28才 士爵) :士爵家当主

騎士Lv8

 

カミーユ・ロザリンド・アンゲリナ(人間族 男 54才) :(役に立たない)お目付け役

騎士Lv32

 

ドーガ(人間族 男 27才) :腐れ縁でゴッゼル家に仕えている

戦士Lv17

 

セレナ :士爵様の妹君で巫女。ジークの許嫁。士爵家パーティに加入予定

 

イネス :ゴッゼル家の家事担当?

 

■アイリス家

ジーク :アイリス家次期当主?セレナと婚約。戦士で士爵家パーティに加入予定

 

ロータス :アイリス家庶子(継承権無し)。探索者で士爵家パーティに加入予定

 

キャロル(人間族 女 23才) :アイリス家の事実上の家宰?士爵家パーティに随時加入

料理人Lv13

 

 

「立ち入ったことを尋ねるが、ジーク様は戦士ということだが、

 士爵家を継ぐためには騎士にならないと拙いのではないか?」

 

 ・・・・・・返事はないか。俺の方を親の仇でも見るような目で見つめている。

 この目を見ると、この件には簡単に立ち入らない方が良いのだろうか。

 それとも、これは何かを隠蔽するためのポーズか。

 

 心の中の葛藤にケリがついたのか、彼女が口を開いた。

 

「御指摘の通りでございます。

 御病気中の当主に替わって家を継ぐためには、

 ジーク様はなんとしても騎士になる必要がございます。

 そのためにゴッゼル家のパーティに加わって修練を積み重ね、

 可能ならば迷宮攻略の実績を得たいと考えております」

「そうか」

 キャロルの言葉をどこまで信じるかによるが、アイリス家にはアイリス家の事情アリと。

 

 しかし、迷宮攻略とは大きく出たな。ちょっと実現可能とは思えない。

 騎士のジョブになれるかどうかは、今のジークとやらのレベル次第かもしれないが、当主の病状がどの程度のもので、時間がどれぐらいあるのか。

 そもそも、現当主が死ぬのかどうかも分からないし。

 何か手柄をあげないと騎士に叙任させてもらえないのだろうか。

 

 正直、アイリス家の事情に我が家が関わる必要はないし、ゴッゼル家との支援と対価のバランスだけ取れば良いだけだ。

 その支援契約にアイリス家の横槍が入らなければ良いのだしな。

 

「ゴッゼル家の迷宮攻略を支援する立場なら、ドロップ品を提供しても良いのではないか?

 ドロップ品の分配を家別に分けたいというのは、次期当主の意向を考慮しての判断なのか?」

「家別に分配していただきたいというのは私の意見であって、

 次期当主の意向を反映しておりません」

 なんだって?自分の主人の意向を確認せずにやろうというのか?

 

 家が違うのだから、分け前を別にするというのは論理的には分かる。

 だが、パーティのリーダシップを取るのはゴッゼル家ではないのだろうか。

 

「それはいくらなんでも、家宰の領分をわきまえない振る舞いなのではないか?」

「はい。おっしゃる通りです。

 ですが、それはアイリス家内でのお話ですから、

 ゴッゼル家との契約とは切り離して考えていただきたく存じます」

 物は言いようだが、次期アイリス家当主とタケダ家が揉めるようでは困るのだよな。

 

 そのジークという当主はゴッゼル家のパーティに加わる予定なのだし、これからも接点がありそうな貴族との揉め事は困る。

 会議冒頭の彼女の冷静さと比べると、今は衝動的な行動に出ている気がする。

 感情面で暴走する何かがあるのか、主への忠誠心が裏目に出ようとしているのか。

 

「こちらとしては、それは飲めないな。

 貴族との揉め事は極力回避したいのだ。

 今のこの状況下では、こちらが用意した契約書をそのまま合意してもらう事は困難だろう。

 だが、家毎にドロップ品を分ける案も、受け入れることはできないので保留にしよう。

 家毎に分けて分配することを次期当主が合意した旨の一筆を君が持ってきたら、

 その時は契約書に反映しよう。

 期日は明日中だ。それが絶対条件だ」

「それは・・・・・・でも・・・・・・」

 当主が了解したという言質が取れているのなら、こちらは言い訳のしようがある。

 

 それくらいは受け入れてもらわないと、契約変更するのは危なくてできない。

 ドロップ品を分けるパターンと分けないパターンの2種類を用意しておけば、どちらでも対応できるだろう。

 

「それは無理です・・・・・・」

「君はそもそも何故そこまで、ドロップ品を家毎に分けることに拘るのだ?」

 キャロルが、その判断をする理由を確認しないとな。

 

「それは、ゴッゼル家の契約においては、

 ゴッゼル家の受けとる利益がゴッゼル家に属する者に優先して配分されると考えるからです」

 なるほど、そういうことか。

 

 同じパーティに属していても、タケダ家側が提供する住居、生薬、装備品がゴッゼル家の判断でその使い処を決められてしまうのが不服なのか。

 

「それは、同じパーティ内で相談して決めれば良いだけなのではないか?

 その程度の事は、平民のパーティであっても不公平がないように運用するように考えるぞ。

 それができないようでは、パーティでの迷宮攻略など無理ではないか?」

「それは分かっております。

 分かっておりますが、我が主は士爵様を敬愛していますし、妹君と婚約しておりますから、

 ゴッゼル家の判断に異を唱えることはないでしょう」

 うーん、それは勝手にやってくれということなのだが、我が家としては。

 

「分かりました。では、契約変更の件は撤回いたします。

 ですが、アイリス家としての個別の取引については応じていただきたく存じます」

「個別の取引とは?」

 次々と手を変え品を変え、よくやるな。

 

 優秀なのだろうけど、暴走気味なのが気になるな。

 

「契約書にはドロップ品やモンスターカードと引き換えに

 生薬や装備、スキル融合装備を提供していただけると記載がありました。

 それと同等のモノをアイリス家が提供するのなら、

 装備品やスキル融合武器の提供の取引に応じていただきたく存じます」

「一年の長期契約などではなく、単発の取引という意味でか?」

 キャロルは頷いた。

 

 それは、士爵家間の揉め事にはならずに、タケダ家の利益になるか個別に判断できるからアリと言えばアリか。

 だが、そもそも対価に見合うものをアイリス家が提供できるのだろうか?

 

「タケダ家としても、こちらの利益になるなら取引には応じることを検討するのは可能だ。

 口で言うのが簡単だが、その対価に見合うものをそちらは用意できるのか?」

「ここに今、当方で今すぐ提供できる素材とモンスターカードの一覧がございます」

 キャロルは、俺に目録のようなものを提示してきた。

 

(素材)

 竜革72個、ダマスカス鋼25個、鋼鉄32個、鉄82個、革43個、皮124個、板87個

 

(モンスターカード)

 コボルト7、ウサギ2、羊1、サンゴ1、アリ1、灌木1、サイクロプス1、スライム1

 ヤギ1、豚1、つぼ式食虫植物1、はさみ式食虫植物1、トカゲ1、ゴーレム1、芋虫2

 海水魚1、竜1

 

 竜のカードがある・・・・・・これは、一考の余地があるな。

 

「これはアイリス家の所有する素材とカードということか?」

「いえ、これは私個人の所有物です」

 個人でこれだけの・・・・・・今まで、彼女が料理人Lv12になるまでに集めたものということか。

 

 カードはてんでバラバラだが、それだけに個人で集めましたという生々しい感じがするな。

 豚や海水魚といった、我が家では外れ扱いにしていたカードもある。

 

 素材やカードからすると、ソロで集められるとは思えないからパーティで参加して、個人の活躍で分け前を分捕ってきたということか?

 ルークと取引した時にはカードのリストを見ても、ただの情報としてしか見ていなかった。

 だが、このカードのリストを見ると彼女が戦ってきた迷宮での戦歴が見えそうだ。

 

 アイリス家から、これだけの素材やカードを窃盗してたら盗賊になっているだろうし、索敵で見たら赤い点になっているだろうから、彼女の言葉は真実なのだろうか。

 

「これからも、私やジーク様、ロータス様は

 ゴッゼル家のパーティとは別に迷宮に入る機会があると思います。

 そこで得たドロップ品やモンスターカードで、

 アイリス家の装備品やスキル融合装備の融通をしていただきたく存じます」

「先程も述べたが、対価に見合うものが提供できるのなら個別の取引には応じるつもりだ」

 そこまで、アイリス家のため・・・・・・ジークという主のためにやるのか。

 

 自称『貴族の使用人』の彼女に何がここまでさせるのか。

 ここまでして良い装備を整えても、迷宮でしくじれば、この前の魔物部屋でゴッゼル家のパーティが半壊したように迷宮に飲み込まれてしまう者が出てしまう。

 そうならないために、装備を整える・・・・・・そして上位の階層に挑み、更に危険に身を投じる。

 

 いたちごっこな気もするが、それでも貴族は迷宮で戦い、盗賊を討伐し、隣国とも戦うのか。

 

 感傷に浸っていても仕方ないし、こちらはこちらで商売に徹するか。

 

「ゴッゼル家との契約締結後になるが、

 希望の装備品やスキル融合装備品があれば教えてほしい。

 必ずしも希望するものが用意できるとは限らないが、最大限、考慮したい」

「はい。では後ほど、お願いします」

 あと、一つあったな。

 

「それで、装備を生成するのであれば、アイリス家の家紋を教えてほしい。

 こちらで抱えている鍛冶師に、その紋章を刻むように注文をだしておく」

「それは・・・・・・ありがとうございます」

 なんだ、そんな笑顔もできるのか、そっちの方がよっぽど良いぞ。主の受けも良いだろう。

 

 まだ、交渉材料があるか。

 

「ゴッゼル家とは戦争の情報や訓練と交換に対価を供与しているが、

 君がゴッゼル家とは別にそれを提供できるのなら、

 その対価を別に提供することは可能だ。

 これも、アイリス家の次期当主と揉めないことが前提条件だ」

「それは・・・・・・検討してみます。ありがとうございます」

 彼女は優秀そうだし、モチベーションがあがる報奨があった方が成果が出るかもな。

 

 キャロルとの話を終えて、退席していた面々に入室をお願いした。

 

 入室してきた面々に俺の方から、キャロルが元の契約内容に合意したことを伝えた。

 

 結局、塩爺がこちらの提示した契約条件に難色を示して、内容の修正が必要になったけどね。

 ただ、こちらにとっても望ましい修正内容になりそうだったので、受け入れることになった。

 

 塩爺の希望は、士爵家側からのドロップ品とカードの提供を一年単位での固定数とし、超過分を提供した場合には装備品やスキル融合装備の供与の取引に応じるというものだ。

 

 固定数に達しなかった場合には、供与する対価を減らすことに士爵家側は合意するし、士爵家側がより積極的にドロップ品やカードを集めるだろうから塩爺の希望を受けることにした。

 塩爺も交渉する時は、ちゃんとするのだな。正直、甘く見ていたよ。

 

 スキル融合武器の希望は、吸精の鋼鉄槍。これは当主の意向だが、塩爺も異論はないようだ。

 

 キャロルの提言通り、士爵家側で住居を借りる旨の一筆をもらった。

 それ以外は、明日の午後に修正版の契約書をここに持ち寄って最終確認することになった。

 なんか、何度も客先に提案書を持ち寄ってはダメ出しを喰らって、翌日に再提出していた元の世界の仕事を思い出してしまったよ。

 

 異世界でも、商談や取引になると同じだな。書類が手書きだから大変さが違うけど。

 ステークホルダーが多いと面倒になることも変わらない。

 

 キャロルの登場というか、アイリス家のことまでは想定できるはずもなかった。

 塩爺はキャロルに対抗心を燃やしたのではないかという疑惑もあるが、姫様のためなのかな。

 

 まあ、カードも素材もより集まり易くなったはずだと思って割り切ろう。

 

 士爵家の面々に挨拶をして、執務室を退出した。

 ドーガとキャロルも一緒だ。

 

 こいつは話がまとまった事にご満悦だ。こっちは大変なのだが。

 

「お前、アイリス家のこと、事前に知っていただろう?」

「知ってはいたけど、こんな事になるとは思わなかったな。

 初めはどうなることかと思ったが、思っていたよりも上手くいって良かったな?」

 これで上手くいった事になるのか?・・・・・・まあ、士爵家側は望み通りなのか。

 

 あとは、タケダ家のために働いて返してもらうしかないな。お前も、その一人だ。

 

 ドーガと別れて門を出て、キャロルに案内され、アイリス家が借りている家に案内された。

 詰所からは、それほど遠くないし、我が家にも近いようだ。

 家の広さは、我が家ほど大きくはないが、三人しかいないのなら十分な広さに思えた。

 

 彼女に食堂のような場所に案内され、三人でテーブルに着いた。

 特別、華美という調度品ではないけど、品の良い茶器でハーブティーを淹れてもらった。

 

「それで、どのようなスキル融合装備品を望むのだ?」

「毒耐性の防具が第一優先です。

 こちらで用意できる素材が多くないので、靴か頭装備が希望です」

 やはり、命を優先するなら、毒耐性になるか。

 

 アイリス家側の方は装備生成に必要素材の4倍ルール適用だから、彼女個人が申し出た素材だけでは作れる防具に限界がある。

 それでも、武器屋や防具屋で装備を購入する場合の半額程度になるのだからマシだけど。

 素材のリストから、作れそうな防具の助言をして、追加の検討事項も伝えた。

 

「ゴッゼル家に提供する装備で、アイリス家の装備も賄えるなら、それを使った方が良い。

 それでは不足だと思う部分だけ、こちらに装備品の生成を依頼したらどうだ?

 具体的には武器と鎧装備だな。

 武器の供与は基本的には鋼鉄製だから、

 腕力的に問題ないのならダマスカス鋼製にするのも良いだろう。

 盾を持って、ダマスカス鋼製のエストックを使う手もある。

 両手剣よりは攻撃力は落ちるが安全性は高まるはずだ」

「うっ・・・・・・ジーク様とも相談しないと決められません」

 そりゃ、そうだろう。特に武器の方は使う本人の了解なしには無理だろうな。

 

「身代わりのミサンガは二人とも持っているのか?」

「はい。私達三人とも所有しております」

 ゴッゼル家側より優秀だな。

 

「先程も言ったゴッゼル家からの装備品の融通と二人の要望の確認が重要だ。

 アイリス家への装備生成は、二人がベイルに到着してからジックリ考えたらどうだ?

 いきなり迷宮の上位階層を探索するのでなければ、まだ時間はあるだろう。

 それまでは手持ちの装備と明後日配布される装備で間に合わせれば良いと思う」

「はい。お二方が到着したら相談します。その後は、また相談に乗ってください」

 結局、また問題解決の手伝いをしているような気がする。

 

 そして対象の家が増えていっている。

 芽が出るかは分からないが、投資とはそういうものだと割り切ろう。

 

 アイリス家を後にして、世話人の所に三人で向かうことにした。




お読みいただき、ありがとうございました。
ちょっと、話の切れ目が作れなくて長くなってしまい、申し訳なかったです。
今後の展開にも影響する話だったので手を抜けませんでした。
キャロルはゴッゼル家配下にしようと思っていたのですけど、諸事情でアイリス家に移動させました。

キャラクターが増え過ぎてきたので、そのうち登場人物紹介も作ろうかと思いますが、一章の最後の方になるかもしれません。
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