目を覚ますと、横にヴィルマの寝顔が。
少し開けた口元に犬歯が小さく覗いてる。
この角度の寝顔が一番好きかもしれない。
視線に気づかれたのか、目を覚ましてしまった。
昨日の続きを・・・・・・と手を伸ばすと、スルリと躱されてしまった。
「今日は、主も訓練に行こうよ」
朝の挨拶をする前にこれだ・・・・・・活動的というか、好戦的というか。
今日は迷宮に行くのも午後になってからだし、少し体を動かすか。
ベッドから体を起こして伸びをする。
彼女は、上着を羽織ると少し照れながら、そそくさと出ていってしまった。
急いで修練場に行きたいのは分かるけど、あの恰好で廊下を歩くのはどうかと思う。
索敵で確認した限りでは、誰も居なかったのでセーフだけど。
・・・・・・
今日の朝食は、いつもより賑やかに感じた。
訓練の際に、近々、新しい装備品が配布されるというのが伝わったかららしい。
後から入った連中は、先に入った者よりは少し劣る装備だったので、テンションが少し上がってるのかもしれない。
ケリーとマリーは特にそのような感じで、ヴィルマ、イレーネと双子を囲むテーブルは楽し気な感じだ。
ヴィルマとイレーネは、もう少しすると迷宮組の探索が再開されることもあるのだろうが。
レドリックによると、ケリーとマリーはそれぞれ、両手剣、片手剣に分かれて使いこなすのを希望しているらしい。
パワー重視か手数重視なのかって事なのだろうか。
後から換えても良いのだけどね。
あとは、前衛をこなせる者を追加したい。
今は対人戦も結構こなせる者が増えたから、今までとタイプの違う者が欲しいな。
ジョブやレベルの兼ね合いもあるから、そう簡単ではないのだろうけど。
レベルは低くても、パワーレベリングでなんとかなるので、後は本人のやる気次第か。
・・・・・・
食事を終えて、エネドラより一足早くベイルに向かった。
ベイルの自宅でカラダンにも一声かけて、先に士爵家の方で準備に入った。
準備と言っても、食堂にあるテーブルに額金、グローブ、靴を広げるのと、廊下を挟んだ空き部屋に鎧と武器を並べる程度だ。
直ぐに準備作業は終わってしまった。
暫くすると、エネドラとカラダンがやってきた。
エネドラは手に袋を持っている。
「お願いしていたものは用意できたか?急に頼んで悪かったな」
「ご依頼のあった通り、2つ準備いたしました。私の方こそ気付かず申し訳ありませんでした」
いやいや、俺だって今朝急に思いついたくらいだし、用意できたエネドラの方が凄いだろう。
(コン、コン・・・・・・)
あっ、しまった。玄関の外で待っていた方が良かったかな。
ドアを開けると、キャロルと二人の男性の姿が。アイリス家の方々か。
(鑑定)
ジーク・モラード(人間族 男 15才)
戦士Lv9
装備 身代わりのミサンガ
ロータス・モラード(人間族 男 24才)
探索者Lv23
装備 身代わりのミサンガ
キャロル(人間族 女 23才)
料理人Lv13
装備 身代わりのミサンガ
ジーク様もロータス様も金髪碧眼の優男貴族風で、とても迷宮に入ってモンスターと戦うようには見えないな。
キャロルも見えないと言えば見えないのだが。
人の良さそうな眼差しで、これからの交渉を思うと少し安堵してしまう。
「お初にお目にかかります。タケダ家の当主、ユキムラ タケダと申します・・・・・・」
相手は貴族の関係者なので、最大限、丁寧な挨拶を行う。
と言っても、あくまで自分の知る限りの・・・・・・というレベルで、この世界の貴族への挨拶など正式には知らない。
「丁寧な挨拶、ありがとうございます。
自分は爵位を持たない者なので、かしこまった挨拶は不要ですよ。
アイリス士爵家嫡男のジーク・モラードと申します。
この度は、うちのキャロルがご迷惑をおかけしたそうで、
当主に成り代わりまして謝罪いたします」
「いえ、迷惑などとは思っておりません」
とりあえず、嫡男の方は真っ当そうな人間で良かった。
それにしても、戦士Lv9か。
15才の割には高いけど、騎士のジョブ取得や迷宮討伐は程遠いな。
「私はジークの兄でロータス・モラードと申します。
ゴッゼル家の迷宮討伐に御助力いただいているそうで、感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
兄貴の方も真っ当な人間だ。
最近、貴族の関係者では、おかしな人間ばかり見てきたから凄く新鮮に感じる。
士爵位の継承権有無で名前の末尾に『アイリス』があるはずではないのか?
ジークという若者にはゴスラーやハルツ公のような爵位が表示されていないから、本当に爵位がまだ無いってことだろうけど、よく分からないな。
兄貴の方は探索者Lv23か。
これはキャロルの方が迷宮探索の経験があるということだろうか。
キャロルは探索者Lv30を経て、料理人になっている訳だからな。
それにしても、何故、料理人なのだろうか。今更だけど。
迷宮食材のドロップ品を狙ってるのか?まあ、今はよいか。
「外に居ると目立ちますので、中の方にどうぞ。
と言っても、本日からこの家はゴッゼル士爵様の家になるのですが」
「そうですね。では失礼して・・・・・・」
三人を招き入れて、とりあえずは食堂の向かいの空き部屋に入ってもらった。
ここには鎧や剣などが多く置かれている。
「これが、タケダ殿から士爵家に供与されるという装備品ですね」
「はい。好みの話もありますので、
供与する数よりも多く展示して、好きな装備品を選んでいただく形となります」
「なるほど。まずはゴッゼル家の方々が選んだ後に我々が選ぶのでしょうな」
まあ、順番から言えばそうなのだろうな。
ゴッゼル士爵様はマジカルアーマーを装備していたから、この鎧を使うとは思わないけど。
「キャロルから聞きましたが、
タケダ殿の方から我が家の方に、ゴッゼル士爵家とは別に
装備品の融通をしていただけるそうで、改めて感謝申し上げます」
「いえ、正当な取引によるものですから、こちらとしましても感謝は不要にございます」
穏やかな笑みを浮かべながら、会話が進む。
貴族の割には、あまり表裏がない感じなのかもしれない。
それはそれで、不安要素なのだが。
「あの・・・・・・タケダ様、ジーク様達に武器の相談をしたのですが、結局、決めきれずに。
ここでの対応が終わりましたら、我が家の方でご相談に乗っていただきたいのですが」
「ああ、別に構わない。こちらも、いくつか提案を持ってきているのですり合わせをしよう」
キャロルの顔がホッとしたようだ。
「それで、立ち入った事を伺うようですが、
ゴッゼル士爵家の方にいったん供与した装備品がアイリス家に渡ることになるのですが、
装備品は貸与という形になるのでしょうか?
それとも、アイリス家の方に所有権が移るのでしょうか?」
「事前のゴッゼル家との取り決めでは貸与ではなく譲渡となり、我が家に所有権が移ります」
そうか、それなら後の提案がやり易くなるな。
「分かりました。譲渡の件を含めて、この後に提案させていただきますので、
よろしくお願いいたします」
「キャロルから聞きましたが、なかなか聡明な御仁のようですね。
こちらこそ、よろしくお願いいたします」
何を事前に聞いているのだろうか、とっても気になるな。
おっと、ゴッゼル家の人々が到着したようだ。
ドアを直接開けて、家に入ってきた・・・・・・当然、先頭はここに来たことがあるドーガだ。
「この前来た時よりも、全然綺麗になっているな。さすがに商家の対応は丁寧だな」
今日、土足で入ってきた人達によって台無しになりつつあるけど、今は綺麗だよ。
「アイリス家の面々も着いていたか。ジーク、ロータス、久しいな」
「ラディア様の方も、ご機嫌麗しく・・・・・・」
ジーク様、顔が少し赤いけど、婚約者が居る身でそれは良いのか?
キャロルの顔が能面のようになっていますが・・・・・・。
塩爺の顔は渋面になっているし、ドーガの奴はニヤニヤしていやがるし、なんだコレ。
これで、セレナ嬢が居ると、カオスな状況になるのかな。
「では、早速ですが、
タケダ家の方で用意した装備や生薬について受け渡しをしたいと思います。
後ほど、この家の部屋のご案内をいたしますが、まずは装備品等の受取をお願いします」
急にアホらしくなってきたので、空気を読まずに先に進めることにした。
あっ、ロータス様の方は笑っている。ここにマトモな人が居たようで安心した。
「食堂のテーブルの方に滋養丸20個と強壮丸40個が置いてあります。お確かめを」
「ロータス、君のアイテムボックスに収納しておくように」
そうか、こっちは探索者に収納させるのか。
「はい、承知しました。ラディア様」
ロータス様は食堂に行って、生薬を数えながらアイテムボックスに収納を始めた。
彼のゴッゼル士爵様への態度は普通だな。
敬意は払っているものの、距離感は適切な気がする。年齢相応の分別だろうか。
装備品については昨日説明した通り、好きな装備品を選んでもらう形式にしている事を改めて説明した。
ゴッゼル家の面々が歩き回りながら、自分の好みの装備を選択していく。
竜革のグローブやダマスカス鋼の額金といった量産品はアミルが武田菱の家紋を入れている。
武田菱の入った防具を士爵家の面々が装備すると、なんだか士爵家がタケダ家の家臣団になった錯覚を起こしそうで面白い。
士爵家が選び終えると、アイリス家にバトンタッチ。
「キャロル、私は自前の伝世品の鎧を使っているから、ここにある鎧を使う気はない。
もし良ければ、代わりに君が選んでくれ。
その鎧はアイリス家の所有物ということで構わない」
「ありがとうございます。ラディア様」
キャロルはもっと良い鎧を使っているのだったりしてな。
料理人のジョブまで取得しているのだし。
でも、この後の話もあるから選んでもらった方が良いか。
この前、塩爺は鉄の鎧、ドーガは硬革の鎧を装備していた気もするが、今回の鎧は予備にでもするのだろうか。
真剣な顔で鎧を選んでいた。
アイリス家が選び終わるのを待つ間に、スキル融合装備品を取り出した。
「これが、お約束の吸精の鋼鉄槍となります」
「なるほど、この後、商人ギルドだったな」
そうです。見た目はただの鋼鉄の槍なので、確かめて下さい。
士爵様が塩爺になにやら合図を送って、塩爺が箱を持ってきた。
これはモンスターカードだろうな。
(コン、コン・・・・・・)
「おっ、来たようじゃな」
なんだ?引っ越しソバとか頼んではいないのだけど。
塩爺が不敵な笑みを浮かべている気がする。
まさか、この状態で家具とか運び入れるために引越し業者が来たのではないだろうな?
今、家具類や荷物を運び入れられると、カオスの状態になるのだが。
恐る恐るドアを開けると、男が一人立っているだけだ。
鑑定すると、探索者Lv19・・・・・・まさか、ロータス様は当て馬で、別の探索者を用意していた?
「お預かりしたものを届けにまいりました」
ん?家具はアイテムボックスに入らないよな。
とりあえず、俺では対応できないので、塩爺が居る部屋まで探索者の男を案内した。
「そこで、少しの間待つように。もうすぐ装備品を選び終えるのでテーブルが空く」
テーブルの上に置くってことは小物ってことか。
まさか、祝いの竜肉とか?原作では迷宮内で竜肉を切ってそのまま食っていたよな。
やがて、アイリス家の人々も選択し終わったので、テーブルの上に残った装備品を片づけた。
テーブルの周りには俺と士爵様と塩爺と見知らぬ探索者の男のみ。
「この上に出してくれ」
「承知しました」
探索者の男はアイテムボックスの詠唱をして、何やら次々とアイテムを出し始めた。
ダマスカス鋼15個、竜革25個、鋼鉄40個。
食い物ではない・・・・・・が、どういう趣向だ?
「あとはこちらを・・・・・・」
「うむ」
塩爺が探索者から受け取っているのは、モンスターカードっぽいな。
「えーと、これは一体?」
「貴様は先日、迷宮ドロップ品やモンスターカードが入手できたら、
納めるタイミングはいつでも構わないと申していたではないか。
これは、ベイルの心ある商人が士爵家へ献上を申し出たものだ。
契約に従い、これを納品するので、
ドロップ品は既定の階層換算でどの程度の個数になるのか個別に精算するように。
モンスターカードも年間20枚のうち、
ここにある8枚を既に納品したものとして扱うようにしっかりと記録せよ」
ふーん、ああそうですか。
心無い商人としては、納品が前倒されるのはウェルカムなのですけどね。
モンスターカードは当たりがあると良いな。
あと、偉そうに言ってるけど、キャロルが個人で集めてきた素材の方が数が多いぞ。
でも昨日の今日で、これだけ集められるのは士爵家の威光に依るものか。
塩爺が商人相手にカツアゲしてきたのではなく、真面目な士爵様が迷宮攻略や盗賊討伐に尽力した成果じゃないのかな。
盗賊討伐なら俺もこの前、盗賊達を震え上がらせたのだから俺のおかげかもしれない。
カラダンを呼んで、記録帳を急いで取りにいかせた。
精算した結果、テーブルにある鍛冶資材だけで、30日分の納品をクリアしていた。
「30日分の納品は既に規定数に到達しており、
次の1000個のうち、75個分を納品している計算になります」
「そうか、この分では一年分など楽勝だな」
いやいや、塩爺、迷宮を
魔物部屋で死にかかったのは誰でしたっけ?・・・・・・と言いたい。
何故か、俺の方も口の中が塩苦い味がしてきた。
それでも、俺のお株を奪うような商人っぽい取引をやっているから、文句を言う筋合いでもないな。
実際、この素材とモンスターカードの前倒し納品は助かるし、ある意味目論見通りのリターンが得られそうな訳だ。
テーブルの上の素材をアイテムボックスに仕舞い、カラダンに記録を指示した。
「カラダン、予定よりも早いが、納品の記録の方を頼む。
モンスターカードの方はギルドで鑑定したら、後ほど報告する」
「はい。承知しました、旦那様」
ギルドで鑑定しないと分からないカードをいきなり人前で記録する訳にもいかない。
面倒だが、必要なステップだから諦めるしかない。
届け物が終わった探索者が立ち去った後、士爵家の面々に部屋を案内した。
と言っても、水回りの説明や厨房の説明をしたのだが、普段そういった作業をほとんどしない連中なので、あまり興味を持たれなかった。
これは、明日ここに到着するイネスという家事を行う者と話をしないとダメな予感がする。
唯一、ドーガだけが井戸の場所を確認した程度で、説明は終了。
ドーガの話では、荷物は本日の午後から順次到着するとのこと。
「士爵様、これをどうぞ」
「これは?」
それは、タケダ家で作成した石鹸です。
エネドラに無理言って、それなりの包装をしてもらい持ってきてもらったのだ。
包装と言っても、小奇麗な小箱に入れてもらっただけなのだが。
引っ越しの時に石鹸持ってくるとか、元の世界の新聞配達みたいだな。
気に入りましたら、次からは有料でお買い求め下さい。
コボルトのモンスターカードとの交換も受け付けております。口に出しては言わないけど。
「近々、我が家で売り出そうとしている石鹸です」
「ほう、石鹸か。では、有難く」
女性だから、こうしたものに興味があるのだろうか。妹君へ贈るのかな。
いつもよりは、少し表情が柔らかくなったような気もする。
その後、俺はドーガとロータス様を伴って、エネドラ達と一緒に商人ギルドへ。
塩爺も士爵様も立ち会わないのは意外だったが、アイテムボックス持ちのロータス様にドーガをお目付け役として付けたのか。
スキル融合武器の武器鑑定とギルド神殿を使ったカードの鑑定は問題なく終了した。
一部メモとカードが合ってなかったのだが・・・・・・と思っても、受け取ってしまえば関係ない。
追加の8枚のモンスターカードはコボルト6枚と芋虫2枚だった。
カードは特に珍しいものも何もないのだが、コボルトは不足しがちなので素直に嬉しかった。
でも、キャロルが集めたカードと比べると味気なく思うのは気のせいだろうか。
見た目はなんの変わりもないカードのはずだけど。
ギルドから士爵家に戻り、士爵様と塩爺に挨拶をして本日の引き渡しは完了とした。
なお、鍵は引っ越し担当のドーガに預けた。
鍵は引っ越し作業の旗振りをする者に持っていてもらうのが妥当だろう。
契約先の主に鍵を引き渡すのが普通な気もするが、士爵様はあまり興味がなさそうだし。
引っ越しの手伝いを求めるドーガの視線を無視して、士爵家を後にした。
これからアイリス家と取引があるので、引っ越し作業に構っている暇などないのだ。
ジーク様一行と共に、俺達三人はアイリス家にお邪魔することになった。
テーブルに三人で座り、キャロルがハーブティーを淹れてくれた。
「それでは、お二方に確認した内容を教えてもらえるだろうか?」
席に着いたキャロルに早速本題の話を振った。
「両手剣か片手剣であるのなら、ジーク様は片手剣の方が慣れているそうです。
ジーク様は今はレイピアと鋼鉄の盾を使っています。
ロータス様は両手剣、片手剣、槍のいずれも使えるそうです。
鋼鉄製であれば、全ての武器を使ったことがあり、ダマスカス鋼製は未経験だそうです」
「ジーク様は片手剣を使いたいということで、ロータス様は特に拘りがないということか」
これだけだと、何も決められないのだろうな。
「まずは士爵家パーティ内での位置づけから確認しましょう。
6人パーティのジョブの内訳ですが、
騎士2名、戦士2名、探索者1名、巫女1名。
攻撃役は主に騎士2名と戦士2名が担うのでしょうが、
戦士には攻撃系アクティブジョブのラッシュがあります。
通常なら戦士の攻撃力をあてにしたいところでしょう。
騎士の一人が士爵様であることを考えると、
前衛にカミーユ様、ドーガ、そしてジーク様が並ぶことになるかもしれません。
その場合、後衛にセレナ様、ロータス様、士爵様が控えることになるかと」
「前にご一緒した時の布陣もそのようになっていたと思います」
分析内容にロータス様のお墨付きをもらった。
「その場合は、ジーク様は盾を構えて
攻撃力のある片手剣を手にするバランスの取れた装備が良いのかもしれません。
可能ならダマスカス鋼製のエストックで、盾は無理のない範囲の重量で鉄か鋼鉄製を利用。
ロータス様は前衛の後ろから攻撃するのなら、
鋼鉄製かダマスカス鋼製の槍が良いかもしれません」
「確かにそれがイメージしやすいかもしれない」
他にも考えることはあるよな。
「士爵様が外れて、キャロルが入る場合は士爵様の位置にキャロルが配置されるのでしょうか?
その場合は、キャロルも同様に槍を構えた方が良いかもしれません。
キャロルは槍の経験は?」
「はい。使ったことがあります。いつもは片手剣ですが」
もう一つのパターンも考えないと。
「アイリス家だけで迷宮に入る場合があると聞いたが、その場合はキャロルが前衛に立つのか?」
「はい。そうなります」
三人になるとバランスもへったくれもないか。治療役もいないのだし。
「ジーク様とキャロルが前衛に立って後衛のロータス様が槍で突く、もしくは三人が横に並んで、
真ん中の盾を構えたジーグ様の両脇をキャロルとロータス様が並ぶ感じでしょうか。
その場合はキャロルは片手剣でも槍でも使い易い方が良いのかもしれないな」
「はい。どちらでも使いこなせます」
頼もしいな。
「今、話をしたことをまとめると、
ジーク様に求められているのは、前衛を支えるだけの防御力が重要に思えます。
魔法使いの居ないパーティで、近接戦闘でのダメージが主軸の場合は
戦闘が長期化しやすいので、生き残るためには防御力を疎かにできません。
まず、防具を考えて、
その後で最大限攻撃力を上げられる武器を考えてみたらどうでしょうか?」
「確かに、その通りかもしれません」
ここからは、昨晩作った提案が生きるかな。
「まず、今回の契約でタケダ家が供与した装備ですが、
ダマスカス鋼の額金、硬革の鎧、竜革のグローブ、竜革の靴・・・・・・となります。
先日、キャロルが来た時に毒耐性のスキル装備を求めていたので、
提供して下さった素材とモンスターカードと交換の場合は、
竜革の鎧を2つと耐毒の竜革靴を1つ用意することが可能です」
「毒耐性のスキル融合武器を用意した上で、鎧を竜革にできるのですか?
それは心強いですね」
何かを軸に考えないと決まらないから、それを取っ掛かりにしょう。
「はい。つまりですね、先程の防具が、
ダマスカス鋼の額金、竜革の鎧、竜革のグローブ、防毒の竜革靴・・・・・・となる訳です。
これを基本装備とした上で、
両手に何を持って攻撃力を最大にできるのか考えてはどうでしょうか?
例えば、片手にダマスカス鋼製のエストックを持って、盾に何を持てるのか?
逆に盾に良い装備を持たせると、攻撃用の装備はどこまで持てるのか?
・・・・・・といったようにです」
「エストックは持ったことがないから、イメージがつきにくいな」
じゃあ、持ってみるのが早いじゃん。
「では、ここにエストック、レイピア、シミター、ダマスカス鋼の盾、鋼鉄の盾、鉄の盾と
竜革の鎧を出しますので実際に装備してみましょう」
「確かに、それが一番かも」
テーブルの上に次々と装備品を出して、実際にジーク様に装備してもらった。
「ダマスカス鋼の盾は重過ぎる。
エストックと鉄の盾か、レイピアと鋼鉄の盾のどちらかにするか迷います。
レイピアと鋼鉄の盾は今、使っている装備そのままですけど」
「そうですか、将来、迷宮で経験を積めば
重たい装備品に替えられることを念頭に、どちらにするかを決めるのはいかがでしょうか?」
まあ、攻撃に重点を置くか、防御に重点を置くかで決めるのだろうな。
「では、エストックと鉄の盾を使ってみたいです」
「なるほど、分かりました」
やっぱり、男の子は攻撃力重視か。
「次にロータス様の装備品ですが基本的にはジーク様と同じで、
ダマスカス鋼の額金、竜革の鎧、竜革のグローブ、竜革の靴 となります。
この防具に対して、武器はダマスカス鋼の槍かエストックを選択できますが、
いかがいたしましょうか?
ダマスカス鋼の槍は今、ここに出すことも可能です」
「では、実際に手に取って確かめてみたい」
まあ、そうなるよな。
アイテムボックスから、ダマスカス鋼の槍を出して、ロータス様に渡した。
「ダマスカス鋼の槍は、問題なく使えそうですね」
「そうですか。問題なさそうで、良かったです」
ロータス様も嬉しそうだ。
「さすがにダマスカス鋼製は無理ですが、
鋼鉄製であれば詠唱中断を付与したスキル融合武器も用意可能です」
「えっ?」
ダマスカス鋼製でも原価的には可能だが、士爵家とのバランスもあるし、悪目立ちし過ぎる。
強権のダマスカス鋼槍だと、クーラタルのオークションでも目玉商品になりえる。
貴族でもない若者に持たせるのは無理だろう。
既に耐毒の竜革靴でも高級品だし。
「頂いた素材とモンスターカードを全てタケダ家に頂けるのなら可能ですね。
それと、冒頭お話しした耐毒の竜革靴もですが、納品まで3日程お時間を頂くことになります」
「それは・・・・・・それは可能なのですか?かなり有難いお話なのですが」
もらった素材とモンスターカードがかなりの量だから可能なのだよな。
「はい。問題ありません。
では、強権の鋼鉄槍をお使いいただくということで宜しいでしょうか?」
「お使いいただくって・・・・・・大丈夫ですけど・・・・・・大丈夫ですか?」
ロータス様、変な言葉遣いになっているけど、大丈夫ですか?
「では、こちらから納品する装備品をまとめますと、
耐毒の竜革靴を1つ、強権の鋼鉄槍を1つ、竜革の鎧を2つということになります。
納品は3日後になりますけど、宜しいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。キャロルも大丈夫か?」
さっきから、キャロルがポカンとしているけど、こちらも大丈夫だろうか?
全部、君が用意した素材とモンスターカードを交換した結果なのだけど。
それでも、こっちには大きなメリットがある取引なのだよね。
エネドラが、俺の腕をちょいちょい・・・・・・と突いている。忘れていませんよ。
「では、ジーク様、これをどうぞ」
「これは、なんでしょうか?」
それは、タケダ家で作成した石鹸です。先程、士爵家にも献上しました。
「近々、我が家で売り出そうとしている石鹸です」
「石鹸ですか。装備品だけでなく、石鹸まで頂いて・・・・・・ありがとうございます。
キャロル、これを仕舞ってきて」
ん?なんか、おかしな流れだな。
彼女の居ない所で内緒話をしたいのかな。こちらも都合が良いのだけど。
キャロルが退席したところで、ジーク様とロータス様が顔を近づけてきた。
「それで、相談なのですが・・・・・・」
「キャロルの装備品も質の良いものに更新したいということですね?」
数瞬置いて、二人は破顔した。
「こちらはキャロル用の防具の提案となります」
「既に用意していたのですね」
昨晩作成したキャロル用の防具の提案リストを二人に提示した。
「竜革のジャケット、竜革のグローブ、竜革の靴、ダマスカス鋼の額金となります」
「これなら、大丈夫か。キャロルは既にエストックを持っているし」
攻撃に特化していたのか、勇ましいな。
「では、これも3日後に納品ということで良いでしょうか?
素材とモンスターカードは本日、お引き取りしますので、
これが契約書と素材等の受領証となります」
「はい。是非、お願いします」
少し強引だったけど、取引はまとまったからヨシとしよう。
本当は、ギルド神殿に行って確認しないとダメなのだけど、この二人は舞い上がってしまって気づいてないな。
面倒だから、このままの流れでいかせてもらおう。アイリス家を信用していますという事で。
結局、キャロルが用意してくれた大量の素材とモンスターカードで我が家も潤った。
三人にも喜んでもらえたし、WinーWinかな。
ちょっと甘いという気もするけど。
その分、今後の素材集めやモンスターカードの収集に精を出してもらおう。
きっと、今回の件で今まで以上に収集したくなるはずだから。無理は禁物だけど。
あとは、3日後以降にアイリス家の装備品を見た塩爺の反応も楽しみだ。
今まで以上に対抗心でも燃やして、素材やモンスターカードを集めてくれることに期待だ。
勇み足で、迷宮で足を掬われないと良いのだが。
先日のように都合よく助けにいけるとは思えないので。
「もし、更新した装備で不要な装備品ができましたら、
下取りに出して別の装備品との交換も可能です。是非、ご検討ください」
「はい。ありがとうございます」
なんか車のディーラーのようなセリフになったが、装備品を逐次交換していくのは迷宮探索者の基本だ。
素材とモンスターカードを引き取って、アイリス家を後にした。
なんとか、士爵家対応もアイリス家対応も道筋がついたかな。
アイリス家の人々はお互いの事を思いやり、雰囲気も悪くはない良い主従関係だ。
だけど、それを考慮に入れても迷宮の討伐など、現実的な話には思えない。
今日、提案した装備品を身に着けたとしてもだ。
詠唱中断でモンスターのスキル攻撃を防ぎ、吸精の鋼鉄槍でMP吸収しながら回復する巫女が居ても、攻撃力が貧弱な気がする。
ドーガとジーク様のラッシュでどこまで迷宮探索を進められるのだろうか。
彼らの行く末はとても明るいものとは言えないだろう。
武田菱の入った装備品を迷宮で拾いたくないから、無理は絶対にしないでほしい。
これ以上、我が家としても干渉できないし、リターンがあると思うから投資するだけだな。
ベイルの自宅に戻り、カラダンとエネドラに今日までの準備に対する感謝の言葉を伝えた。
この二人が居なかったら、ここまで順調にはこなせなかっただろう。本当に感謝だ。
カラダンと別れて、二人でクーラタルの自宅にワープで移動した。