異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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112.貴族の資質

 ドブローの冒険者ギルドを出て、商人ギルドに向かった。

 

・・・・・・

 

 この前、ワーレン会長に紹介してもらった事務方の者と契約についての交渉を実施。

 

「そちらから欲しいスキル融合装備品を指定してもらい、

 その装備品を生成するための10倍の資材を提供してもらうという理解で良いでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

 ただ、それだけだと問題だな。

 

「要求されるスキル融合武器を一つに限定されるとこちらも調達が難しいです。

 武器と防具を複数提示してもらって、調達可能な装備を調整させてもらえると助かります」

「そうですか。

 確かに一つだけにしてしまうと、装備品を集めるのが難しい場合もありますかね」

 ダマスカス鋼の大楯と言われたら、空きスロット付のものを調達するのが大変だし。

 

「納品までの期間をどのようにしましょうか?

 会長の話だと10日に2つ程度の装備品を提供してほしいとおっしゃってましたが。

 10日毎に資材を取りにくると煩雑になりますから、30日毎にしますか?

 例えば30日毎に6つ納品するため、初めの日にどの6つを納品するのかすり合わせして、

 それに必要な資材とカードをもらって帰るのはどうでしょうか?」

「そうですね。まずは30日で始めてみて、問題あれば変更しましょう。

 契約書には30日と記載して、問題あれば合意の上で契約変更しましょう」

 30日単位なら、ゆったりと装備集めやスキル融合ができる。

 

 あとはモンスターカードの問題か。

 

「それと、そちらから提供されるモンスターカードのリストに

 要求するスキル融合武器の必要カードが入っている事も条件に加えてほしいです。

 そうでないとカード集めが本当に大変になるので」

「それは確かにその通りですね」

 こちらは100%融合に成功するのだから、それに必要なカードが入ってればどうにでもなる。

 

「カードの提供ですが、一般的にコボルトのカードは同数必要になります。

 提供されるリストにあるカードの半分はコボルトになるように努力していただきたいです」

「分かりましたが、こちらの努力にも限界があります。無理な時はまた相談させて下さい」

 まあ、全てをガチガチに契約で固めるのは無理だろう。元の世界とは違うのだから。

 

「芋虫や海水魚等、そちらの欲しい装備品の候補に全く関係のないカードは除外して下さいね。

 まあ、芋虫くらいなら1枚、2枚紛れ込ませても良いですけど」

「鋭意、努力します」

 努力して何とかなるのだろうか。

 

 全く需要のないスキル融合に使うカードが混入しなければ、それで良いのだが。

 

「後は、カードの価格差の調整ですね。

 こちらにクーラタルのギルドの落札情報がありますので、よろしければ参考にして下さい。

 間違ってはいないと思いますが、必要ならクーラタルの商人ギルドに問い合わせするか、

 掲示板を確認してもらえれば分かります」

「なるほど。参考にさせていただきます」

 彼の方でリストに価格情報を記載してもらった。

 

「あとは、契約の更新期間をどのぐらいの日数にするかですね。

 こちらの希望は90日、季節一つ分でどうでしょうか?

 90日経過する前に、双方から契約解除の意思が示されなければ継続されるという形で」

「はい。まあ良いでしょう」

 1年契約だとドブロー側も怖いだろうから季節単位だ。我が家としては長期の方が良いけど。

 

「前回の会長との話では、報酬は金銭ではなくモンスターカードだと伺いましたが、

 それで良いのですか?」

「はい。大丈夫です。提供されるカードの1割程度の価格のカードでお願いします」

 

 二人で納品に対する規定をザックリと詰めて、書面化した。

 

■納品規定(スキル融合武器)

(契約期間)本日から92日間で計3回。

      契約期間終了前に解消意思をどちらかから示さなければ自動継続

(期日)30日以内(初回のみ32日以内)

(納品数)リストに存在するスキル融合武器から6つ。対象は初日に調整。

(ギルド側から提供)上記6つの武器を生成するのに必要な数の10倍の素材

             モンスターカードの種類、提供数は初日に調整。

(報酬)上記の提供カードの合計金額の1割程度のカード(納品時に引き渡し)

 

 初回だけ余裕を持たして、納品日は2日分だけ増やしてもらった。

 なので、契約期間は92日間。

 

「実際の要望の品というのは、もう決まってるのですか?」

「はい。会長が指定してきた装備品をリスト化してあります」

 ワーレン会長も、この作業契約に期待しているのだろうか。対応が素早いな。

 

「とりあえず、初回分の納品調整やってみます?」

「そうですね。やってみないと分からないので。やりましょう」

 

 二人で、初回納品分を試行錯誤しながら作成。

 

 しかし、ドブローだけあって見事にダマスカス鋼の装備品ばかりだ。

 次は竜革の防具も候補にすると言っていたが本当だろうか?

 

◆初回納品対象(32日後納品)

(納品対象)激情のダマスカス鋼剣1、強権のダマスカス鋼槍1、

      頑強のダマスカス鋼プレートメイル2、防毒のダマスカス鋼盾2

(提供資材)ダマスカス鋼440、革80、板20

(提供カード)コボルト45、アリ5、灌木5、羊5、サンゴ5、トカゲ5、蝶5、人魚5、

       ゴーレム5、スライム5、サイクロプス5、ウサギ5、鯉5、ハーブ5、

       つぼ式食虫植物5、はさみ式食虫植物5、ヤギ2

(報酬)トロール5、亀5、芋虫2

 

「今回は初回だから潤沢にカードがあるのでしょうが、次回は大丈夫なのでしょうか?」

「多分、大丈夫なはずです。

 スキル融合装備品を回してもらおうと思ったらカードを持ってこいって

 口伝えで広まるはずだから、これからはもっと増えるはずです。

 ただ順番待ちだから、自分の番までにまわってくるのは時間がかかるだろうけど」

 なんか阿漕な感じだな。まあ、ドブロー内で揉めなければ良いけど。

 

「今回の素材とカードを持って帰っても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですけど、そちらこそこんなに引き受けて本当に大丈夫なのですか?」

 30日もあるから大丈夫だろう。大丈夫じゃなければ契約を結ばないよ。

 

「大丈夫だと思います。

 確認したいのですが、この前の作業委託契約を次回引き受けるのは

 私じゃなくて、我が家の鍛冶師でも大丈夫なのでしょうか?」

「問題ないですね。というか、普通は鍛冶師が引き受けるものだから」

 そりゃそうか。

 

 この後、怒涛の鍛冶素材収納作業・・・・・・なんか、こんなの多いな。

 単純作業をやっていると無の境地になる。神官のジョブでも取れそうだ。もう取得済だけど。

 

 事務方と別れ、ワーレン会長に契約を結んだことを伝え、挨拶してからギルドを後にした。

 

 もう、夕食の時間が近いが、ダマスカス鋼の盾は空きスロット付きが我が家の倉庫になかったので、防具屋とダマスカス鋼工房に寄って2つ調達して帰宅した。

 

・・・・・・

 

 夕食の時間となり、エネドラとアミルに午後の出来事を報告。

 ルークと複数スキル融合武器の取引内容が確定し、3日後に正式な取引がされることを伝えた。

 

 アミルには、ドブローでスキル融合装備品の納品契約を結んだことを説明。

 合わせて、大量の素材とカードを入手したので後でリストを渡すことも伝えた。

 

「今日のルーク様との商談もそうですが、

 数十枚というカードが飛び交っているので、感覚が麻痺しそうです」

「アミルも大きな商家の鍛冶師と匹敵する仕事をしているということだな」

 俺の発言にアミルが苦笑い。

 

 今日は迷宮探索が全くできなかったので、ミラのレベリングが進まなかった。

 明日こそは育成に勤しみたい。

 

「まあ、納品までは30日ほどあるから大丈夫だ。

 スキル融合するのは6つだし、装備品は既に倉庫に格納してあるものを使える」

「なるほど。後で確認しておきます」

 剣、槍、盾、プレートメイルは全てあったはずだ。盾は今日の午後購入したのだけど。

 

「旦那様、ヴェロニカさんとシェルちゃん達が今晩、相談したい事があるそうです」

「そうか。夜遅くなると可哀想だから会議の前に話を聞こうか。伝えておいてもらえるか?」

「はい。承知しました」

 三人の中で結論が出たのだろうか。

 

 レドリックからも迷宮探索の報告。

 

「予定通り、22階層の攻略を無事終了しました。それと貝のカードがドロップしました」

「貝か、了解した。それと明日だが、もう暫く22階層の攻略を継続してもらえるか?

 準備が整ったら、23階層の攻略をしてもらおうかと思っている」

「はい。承知しました」

 貝のカードか、確か精神強化の効果だったな。

 

・・・・・・

 

 夕食と風呂を終えて主立った者が集まり、ヴェロニカ達の相談に乗ることになった。

 ヴェロニカもシェルとメリルも緊張した面持ちだ。

 

 まずはヴェロニカが口火を切った。

 

「夜遅い時間に恐れ入ります。

 シェル様とメリル様の件でユキムラ様に相談に乗っていただきたくて、

 エネドラさんにお願いいたしました。

 具体的な家名などは差し控えますが、今回お二人に起きたことの発端から

 説明させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ。構わない」

 事情を全く知らないでは、相談に乗れないだろう。

 

 具体的な固有名詞は聞かないことにしよう。

 

「まず、お二方はとある男爵領の令嬢・・・・・・元令嬢ということになります」

「男爵?伯爵ではなく?」

 俺の疑問に彼女は首を横に振った。

 

「伯爵の寄子である男爵家の元令嬢です」

「なるほど」

 伯爵というキーワードがシェルの口から出ていた気がするが、彼女自身は伯爵家の家系ではなく、寄子の男爵家の所属だったのか。

 

「伯爵というと、迷宮討伐が上手くいってないという・・・・・・?」

「いえ、セルマー伯ではなく、もう一人の伯爵の方です」

 もう一人と言ってしまった時点で固有名詞を言ってるのと同じだが、まあいいか。

 

 エルフは一公爵、一侯爵、二伯爵をキープしたいと原作ではハルツ公が言ってたか。

 セルマー伯とは別の伯爵なのだな。なんの情報もないけど。

 

「そして、その男爵家で所謂お家騒動が起きたのですが、

 その際にお二方の父上は暗殺され、

 同時にお二方は誘拐されて奴隷に落とされたということになります」

「暗殺か・・・・・・首謀者は分かっているのか?」

 

「首謀者のトップは伯爵様です。その他にも複数の男爵家が関与しております。

 お二人の誘拐と暗殺がほぼ同時に起きております。

 お二人は今日まで男爵様が暗殺されたのは知らなかったご様子です」

「それで、寄親が首謀者でその配下の寄子全員が敵だから周りに味方がいないということか」

 彼女は辛そうに頷く。

 

 伯爵が関与している段階で、ひっくり返すのは難しそうだな。

 

「それで、シェル達の男爵家はどのような者が継いだことになっているのだ?」

「暗殺された当主の長男にあたる者です」

 長男?・・・・・・肉親同士で内紛があったのか。

 

「しかし父親を殺したとあっては、その長男は領民の信頼を得られないだろう?

 なぜ、そのような無茶が通るのだ?」

「その・・・・・・長男にあたる方は領民に人気がある方なのです。

 ついこの間までは、伯爵家の令嬢の所に婿養子に行っていたのですが、

 それまでは男爵領で内政の分野では活躍されていましたので。

 それと表向きには、暗殺された男爵様は病死ということになっておりますから、

 病死した父親に代わって伯爵家で婿養子だった長男が戻ってきたので、

 領民に対する受けは良いのだと思われます」

 領民に歓迎されているってこと?

 

 人気者でも父親を殺しちゃうのか。貴族の考えることは分からないな。

 

「だが、いきなり伯爵家の回し者のような人間が男爵家に戻ってきても

 男爵家の他の家臣が納得しないのではないか?」

「それが・・・・・・恐らくですが男爵様の暗殺は男爵家内の家臣の総意によるものです。

 迷宮に入った男爵家の家臣団によって殺されたと想像しております」

 え?それって、殺された男爵側に問題があったということ?

 

「君は迷宮で男爵様が殺された証拠を何か確認したのか?」

「いえ、迷宮に行ってモンスターに殺されて亡くなったと聞いたので。

 その後、長男の方が実家に戻ってきて、対外的には病死と発表すると宣言されたので

 迷宮で殺されたのだと考えています」

 どうなのだろうなぁ。

 

 家臣が主君を殺したら、さすがに盗賊落ちじゃないのかな。

 何か薬を盛って、迷宮でモンスターに殺させたとか?

 原作のセルマー伯の時はどうだったのだろう。

 何か特別なやり方があるのだろうか。

 上位の機関でお墨付きをもらうと盗賊判定でセーフになるとか。

 

 まあ、死因を追及しても得るものは無いから、今は置いておくか。

 

「その・・・・・・気を悪くしないでほしいのだが、その亡くなった男爵様というのは、

 家臣達や領民達の評判が良くなかったのか?」

「評判が良くないというか・・・・・・政治・・・・・・特に内政面が不得手な方でして・・・・・・」

「お父さまは迷宮討伐では無類の力を発揮していたのです!

 それを周りがよってたかって・・・・・・」

 え、うーん。これは難しい問題だな。

 

 迷宮討伐の実力はあっても、内政面では問題あり?

 それは領民や家臣にとってはどちらが良いのか難しい選択だな。

 迷宮が討伐できないと領地が滅びる可能性があるので、最低限の戦闘能力は必要だとはいえ。

 

 原作のセルマー伯の首のすげ替えが、迷宮討伐の失敗ではなく、領地経営の失敗で実施されるようなものなのか?

 

「だが、迷宮討伐ができて内政がそこそこであれば、

 当主の交代なんて簡単には起きないのではないか?」

「男爵領では昨年から天候不順で不作の状態が続きまして、

 支援の嘆願が領民からあったのですが男爵領には予算が無くて・・・・・・

 領民の中に税金が払えず奴隷になる者や盗賊になる者が多く発生して

 不満が高まっていたのが原因かもしれません。

 隣接した他の男爵領に支援を求めたのですが、すげなく断られて・・・・・・」

 これは、ますますシェル達に不利な状況じゃないか。

 

 むしろ、そんな状況下で長男が戻ってきたら、皆その長男に期待してしまうだろう。

 その長男を廃しても領民の支持が得られず、結局また同じことが起きる可能性があるよな。

 少なくともその長男以上の内政能力と迷宮討伐能力がないと。

 伯爵側でも、その程度の能力の見極めをした上で長男を実家に戻したのではないだろうか。

 自分に都合の良い手駒を子供である娘付きで、男爵家に送り込んだという線もあるが。

 

「一応、全てではないが背景に関しては理解したつもりだ。

 今の話を聞く限り、長男を男爵位から追いやることも難しいし、

 血縁であるシェル達が男爵家に戻ることは困難ではないか?

 その・・・・・・シェル達とその長男の仲は?」

「父上の暗殺に加担した兄上を許すことはできません!」

 メリルも涙を浮かべて頷いている。そもそも、本人達に戻る気がないのか。

 

 あとは、その長男がシェル達の命をどこまで執拗に狙うのかってことか。

 二人があのドブローの盗賊達の所にいた理由も謎だよな。

 奴隷商人を殺したり、街道を通る商隊を襲って殺しまくっていた盗賊集団に身柄を拘束されていた事を考えると、碌でもない未来しか想像できないが。

 

「亡くなった男爵の奥方とかは?」

「あの女は敵です!」

「お二人の・・・・・・長男も含めると三人ですが・・・・・・御母堂は早くに亡くなっており、

 今の奥様は伯爵家から後妻で入った方になります。

 長男と男爵様は仲違いをしていましたが、長男と後妻の仲は良好でした」

 完全に外堀が埋められているじゃないか。

 

 どこまで陰謀だったのかはよく分からないが、少なくともこの三人よりは遥かに上手だ。

 

「それで、お前たちはいったいどうしたいのだ?」

「その、できれば・・・・・・ユキムラ様にお二方の貴族復帰への支援をしていただければと」

 支援・・・・・・か。

 

「タケダ家では貴族を目指していたり、貴族の身分を保持しようとしている家に対して、

 相応の対価を条件に支援をしている実績が何件かあるが・・・・・・」

「そ、それではお二方にも支援をお願いします!」

 短絡的な・・・・・・。

 

「話を最後まで聞いてくれ!

 相応の対価を求めるだけでなく、その家が自立していることも条件だ。

 つまり、その支援している家というのは、我々の支援が無くても迷宮討伐を目指していたり

 貴族の身分を保持するべく活動している訳だ。

 我々が彼らの生活を保障したり、保護している訳ではないぞ。

 それにタケダ家に対価が払えなくなったら、こちらから支援は打ち切る方針だ。

 その支援を受けている家の者達は我が家から支援を打ち切られても、

 迷宮討伐を目指したり、自分の目標を目指す意志のある者達だ。

 お前たちにその覚悟があるのか?」

「それは・・・・・・」

 三人とも俯いてしまった。

 

 ラファ達は貴族復帰を目指すのではなく、タケダ家の庇護下に入ってこちらの指示を従うことになった。

 彼女達には選択肢がほぼ無かったからな。

 彼女達が秘かに貴族に復帰することを願っている可能性もあるのだが。

 この三人もラファ達と同じ選択肢を受け入れられるのかな。

 

「もう一つ選択肢がある。それはタケダ家の奴隷になるというものだ。

 そうなれば我が家の庇護下に入るので、当然敵対するものはタケダ家の敵として排除する。

 ただ、その場合は貴族に復帰するという選択肢はなくなる」

「それは・・・・・・できません」

 シェルが涙目で絞り出すような声で宣言した。

 

 そうだろうな。簡単に諦めるような教育を貴族の子息としては受けてないだろうから。

 それはそれで罪な事だとも思うが、この三人に言っても仕方ない。

 

「お二方を支援していただければ、シェル様達を娶ることができます。

 貴族に復帰した際には、ユキムラ様にも利があるのではないでしょうか?

 シェル様達は未成年ですから、それまでは私がお相手を・・・・・・(ゴニョゴニヨ)」

「ちょ、ちょっと待て!」

 タケダ家の娘(うちのよめ)達の前でなんちゅーことを!

 

 だから、アミルはそんなジト目で俺を見るなっての。

 あと、チクルス。クスクス笑っているんじゃない!

 

「それはタケダ家の利益とは言い難いな。我が家は別に貴族を目指していないので」

「そうですか・・・・・」

 ヴェロニカの顔にはホッとした表情が見て取れるのだが、言ってみただけ?

 

 でもタケダ家の利益ではなくても、俺の利益には・・・・・・いやいや、アミルの目が鋭くなった。

 

「とにかく、我が家の奴隷になるか、

 自立してタケダ家の支援を受けるか・・・・・・その二つの選択肢は無理だということだな?」

「はい」

 ヴェロニカではなくシェルがハッキリと答えた。

 

「もう一つ選択肢を提案できるが、それが受け入れられるかどうか・・・・・・」

 

 

・・・・・・

 

 

 今回のシェル達の状況を考慮した上で、シンプルな提案内容を説明した。

 説明を聞き終えた三人の反応はマチマチ。

 

 シェルはあからさまに落ち込んでいた。

 メリルはなんだかよく分かっていないようだ。

 ヴェロニカは、厳しいながらもその道に活路を見出したように感じられた。

 

「あまり時間をかけられないので、今晩三人でよく話し合って明日の朝、結論をお伝えします」

「そうか。今後の人生に関わることだからジックリ考えても良いと思うが後悔しないようにな」

 

 これ以上は、全員で話し合っても意味がないので解散とした。

 と言ってもシェル達以外はそのまま会議なのだが。

 

「では、本日の会議を行う。

 明日の午前中はシェル達の対応が発生する可能性があるので、迷宮探索は午後からにする。

 午後からはクーラタルの34階層の探索をする予定だ。

 シェル達の対応がなければ、午前中は経験を共有するために魔物部屋を殲滅して回る。

 護衛部隊の方は当面は22階層の攻略を続けてもらう。

 午後からはベイルに来ている孤児院の子供達を帰宅させるので、

 レイモンドは午後の迷宮探索に組み入れないでくれ」

「承知しました」

 こんなところかな。

 

「主、相談があるのだけど・・・・・・」

「ん?ヴィルマ、どうした?」

 会議の場でヴィルマから相談なんて珍しい。

 

「主なしで迷宮探索をやってみたいのだけど・・・・・・」

「今までも、ラファ達とやっていただろう?それとは違うのか?」

 急にどうしたのだろう。

 

「あたし、イレーネ、アミルだけで・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待て、いくら何でも三人だけは許可できない。

 10階層以下の低い階層等でなくて、20階層とか30階層とかの探索をやりたいのだろう?」

 ヴィルマもイレーネも頷いている。アミルは苦笑い。

 

「急にどうしたのだ?」

「あたしらの迷宮探索は主に頼り切りだから、

 盗賊討伐とか主はここぞという時に一人で戦おうとする。

 もっとあたしらが頼りになるのなら、そんな事しないのではないか?

 主なしでも迷宮探索がちゃんとできることを自分達でも確認したい」

 み、耳の痛い話だ。

 

 別に三人を頼りにしていない訳ではないのだが・・・・・・俺の行動が言行不一致なのか。

 頼りにしていると言うのなら、ちゃんと頼れと。

 

 俺は異世界チート野郎だから・・・・・・というのは言い訳にならないか。

 

「三人だけというのは許可できないぞ。

 オリビアも加えて、回復役と魔法使いでフラウスとラファも加えてなら考えても良いが」

「それでも構わない」

「あのデカ女と?」

「フォーメーションや連携の習熟を低い階層で確認してからじゃないですか?ご主人様」

 賛成か反対かよく分からない返事だが、もう少し検討が必要だよな。

 

「俺抜きでも迷宮探索の力を確認したい、示したいという気持ちは分かったが、

 もう少し考えさせてくれないか」

「うん、分かった。また相談させて。それと、主ももっと修練場で訓練しようよ」

 ますます耳が痛いことを。

 

 でもオリビアとの連携もあるから訓練は必要だな。

 別にサボってる訳ではなく、時間がないのだけど・・・・・・言い訳は止めて実現の努力をするか。

 

「では、これで今日の会議は終了とする。夜遅くまでお疲れ様。しっかり休んでくれ」

 

 お休みの挨拶をして、解散にした。

 

 なんか最後にヴィルマに毒気を抜かれてしまったような。

 はあ、俺抜きの迷宮探索?・・・・・・しっかり考えないと。

 

 

 自室に戻って、今日のまとめ。

 

 

【拠点名】クーラタルの邸宅<本城>(2/4)▶

 

【拠点名】ベイルの屋敷<支城>(1/4)▶

 

■人材育成/採用(ユキムラ)▶

 

■軍事(ユキムラ/レドリック)▶

 

■商業/取引(ユキムラ/エネドラ/カラダン)▶

 

■開発(エネドラ/カラダン)▶

 

■生産(チクルス/アミル)▶

 

■その他/クエスト▼

①カードハンターとの取引(ベイル)

 ⇒コボルトハンター経由で依頼中(3日後、来訪予定)

 

②ダマスカス鋼工房の対応(ドブロー)

 ⇒頑強のダマスカス鋼鎧を昨日納品済。(次回、候補未定:需要はあるとのこと)

 

③ゴッゼル士爵への対応(ベイル)

(1)ゴッゼル士爵家支援対応

 ⇒士爵家へ支援策(装備、住居、生薬)の契約を締結。

 ⇒ドロップ品、モンスターカード等を逐次引取り中(記録簿管理)

 

(2)アイリス家支援対応

 ⇒三人の装備品を納品済。個別取引は随時実施中。

 

④剣術指南所の対応(ターヘラ)

(1)ケリー&マリーの奴隷契約対応

 ⇒ターヘラの商店との食料移送契約は締結済(14日後に延長契約)

 

(2)業務提携

 ⇒子供達の一組目の習熟作業完了

 ⇒明日、二組目の習熟期間が終了予定

 

⑤ベイル旧宅の商店開業準備

(1)カラダンの商人ギルド加入(ザビルの商人ギルドの予定)

 

(2)従業員育成

 ⇒ピコ、ビンス、リックは冒険者ジョブ取得済

 ⇒ピコは防具商人ジョブを取得済

 

⑥ハルツ公爵領迷宮探索依頼(ボーデ、ハルバー、ターレの迷宮のいずれか)

 ⇒ターレの迷宮探索中(12階層まで到達報告。15階層まで攻略済、次は16階層から)

 

⑦鏡工房の装飾品注文対応(ペルマスク)(対応中)

 ⇒昨日、瑪瑙のブレスレット2点を納品(70万2000ナール)

 ⇒琥珀のネックレスはブレスレットの反応を見て注文される予定

 

⑧ハインツ討伐対応

 ⇒本日、ターレの迷宮12階層でハインツ一味10名を討伐

 ⇒ハルツ侯爵に討伐報告とインテリジェンスカード提出を行う(決意の指輪の対応注意)

 

⑨エルフ男爵領内紛対応

 ⇒シェル達を旧臣ヴェロニカに引き合わせたものの帰宅困難状態

 ⇒今後の対応について、三人で検討中

 

 

 

 

 ベッドに横たわって、シェル達との話を思い返した。

 

 結局、貴族としてやっていくには迷宮討伐能力、内政能力は不可欠なのだろうな。

 他にも次世代を育てる人材育成能力や外交能力、謀略を企てる知力、領民や部下に慕われるカリスマ・・・・・・そんな超人がいるのか?

 もう、戦国シミュレーションゲームを思い出してしまう。

 ゲームであってゲームでないから、自分やこの世界の人を鑑定で見ても『軍事力B、政治力A・・・・・・』なんて見えないのだが。

 そして、国境が近ければ、隣国からのちょっかいもあるし。

 やってられないと思うのだが貴族の家に生まれれば、こなそうとするのが当たり前なのか。

 能力が追いついていなくても、目標に向かって突き進もうとするのは狂気に思える。

 

 シェル達はどの道を選択しようとするのか。

 最後に俺が提示した提案に乗るのか、我が家の奴隷になるのか、自立して再起を図るのか・・・・・・最後は自分達で選択しなければならない。

 あんな子供に選択を迫るのは酷だが、この世界は身分の上下に関わらずハードモードだからな。

 

 そして、俺抜きでの迷宮探索か。

 アミルがヴィルマの発言に反対意見を示さないってことは、三人の中では合意済なのかな。

 

 いっそ、迷宮組と護衛組の組み合わせを再構成するか。

 今の迷宮組三人にオリビア、ラファ、フラウスを加えて、護衛組の方には俺が入るか。

 でも、それぞれにメリ・デメがあるから、もう少し検討しないと。

 

 

 

(コン、コン・・・・・・)

 

 

・・・・・・

 

 マッサージを終えて、チクルスを抱き寄せる。

 

 

「ユキムラ様はシェルちゃん達がどんな決断をすると思いますか?」

「正直、分からないな。

 貴族であることへの想いが強ければ、我が家の奴隷になることはないだろう。

 だからと言って、俺が最後に提案した案に乗るかどうかもよく分からない。

 命の危険を顧みずにここを出て、

 遠い地で平民から貴族を目指す事もあり得なくはないが厳しいだろうな」

 貴族は本当に面倒臭いと思う。

 

 けれど俺が異世界から来た向こうの常識に染まった異物だから、そう感じるだけなのだろうか。

 

 この世界に違和感を覚える時、目の前の出来事をゲームの一部として捉えようとしてしまう。

 この世界に生きる人間・・・・・・シェル達も含めてゲームの住人ではないと思いながらも。

 全くの矛盾なのだけど、どうにも逃れられない。

 

「ユキムラ様、怖い顔をしていますよ」

「そうか。すまない・・・・・・」

 これ以上、怖い顔を見せたくないので照明を落とした。

 

 それでも暗闇の中でハッキリと見える彼女の肢体を眺め、後ろから抱きすくめる。

 ところどころに見える痛々しい傷に心がざわつくのを感じる。

 この娘の怪我も治したいし、エネドラの左手もなんとかしたい。

 

 今日、ヴィルマ達から相談のあった俺抜きの迷宮探索は、上位の階層への探索を遅らせることだと思っている。

 威霊仙の入手が遅れる・・・・・・その一方でヴィルマ達の感じていることを置き去りにしたまま先へ進むことにも抵抗を感じる。

 二つの選択肢を天秤にかけながら、考えては打ち消すということを繰り返す。

 

 チクルスの息遣いが荒くなってきた。

 自分もそろそろ限界に近い。

 

 彼女が体を波打たせて震えるのが見えた。

 すべすべした両脚をピンと張り、反らした彼女の背中を抱えて唇を啄む。

 

「くっ・・・・・・」

 押し殺したような声を上げ、愉悦で目を閉じる顔を眺めながら自分自身も解放した。

 

・・・・・・

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