異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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113.シェル達の決断

 ヴィルマに言われたからではないが、朝頑張って起きて急いで修練場に向かった。

 チクルスに起こしてくれと言いたかったのだが、何か悪戯を仕掛けられそうなのだよなぁ。

 

 既にヴィルマもイレーネと模擬戦をしている。気合入り過ぎだろうが。

 

 ケリーとマリーもオリビア相手に戦っているが・・・・・・槍二刀流凄いな。

 確かにあれは他を寄せ付けないという感じだ。

 遠間でも近間でも、槍の柄の部分を持ち替えながら相手の攻撃を封殺したり、フェイントをかけてダメージを与えたりしている。

 なんで、あれほど器用に槍を二本使えるのだろう。

 竜騎士のジョブになってから二刀流を身に付けたはずなのに。

 しかも、やけに楽しそうで何かをつぶやいてるようだ。確認するのが怖いな。

 

 オリビアの槍二刀流と俺の剣四刀流で戦うとどうなるのだろうか?

 ちょっと興味が湧くな。

 

「ユキムラ様、宜しいでしょうか?」

「ん?」

 ヴェロニカ達三人・・・・・・結論が出たのかな。何かスッキリとした顔をしている。

 

「ユキムラ様から提案いただいた通り、シェル様、メリル様と一緒に

 ハルツ公爵様の所に行こうと思います。

 お口添えをお願いしたいと思います」

「君も自分の家を捨てることになるのだが、本当に良いのか?」

 二人は寄る辺ない状態だが、ヴェロニカには別の選択肢もあるはず。

 

 回答は分かり切っているが、最後だから確認したい。

 

「構いません。私の忠誠はお二人のためにあります」

「分かった。では、今日の午前中に皆でボーデに行こう」

 三人でそう決めたのなら、もうこれ以上は言うまい。

 

 それはそれで大変だと思うが、貴族を諦めないのなら悪い選択肢ではないと思う。

 二人は魔法使いのジョブを持っているが、それについては結局一言も口に出さなかったな。

 俺の奴隷になるのなら我が家にとって強力な戦力アップになったかもしれないが、貴族への道を捨てられないのなら縁がなかったということだ。

 

「最後にユキムラ様と一手お手合わせをお願いします」

「そうか、三人まとめてでも良いぞ」

 最後ぐらいは、当主としての力を見せるか。

 

 でも、四刀流は大人げないから、三刀流ぐらいまでにするか。

 

・・・・・・

 

「強すぎます・・・・・・個人というより騎士団と戦ってるような」

「盗賊があれだけいても勝てない訳ですね。ハハ・・・・・・」

「やっぱり、私達はここを離れない方が良いのでは・・・・・・」

 最後のセリフは聞かなかったことにしよう。

 

 三人がかりでも、さすがに騎士Lv13、剣士Lv2、戦士Lv2に負ける訳にはいかない。

 二刀流でも余裕だったな。三刀流は大人げなかった。

 三対一は、ヴィルマとケリー&マリーと経験済だし。

 この三人もやる気はあるのだが、尖った攻撃力とか変則的な動きも無いから非常に戦い易い。

 連携もまだまだだ。

 ケリーとマリーの連携と比べるのは酷かもしれないが。

 

・・・・・・

 

 朝食時に、三人の決断についてエネドラ達に説明した。

 三人の見送りも兼ねて、エネドラとカラダンも俺と一緒にハルツ公の所に行くことになった。

 忘れないうちに、カラダンに二人の奴隷所有を解除してもらった。その際にひと悶着。

 

「もう、これはユキムラ様に責任を取ってもらうしかないかと・・・・・・」

 ヴェロニカが何か言っていたようだが、ガン無視した。

 

「三人とも、ちょっと来てもらえるか?」

 二階の作業部屋に三人を案内した。ここは装備品の倉庫がある場所だ。

 

 竜革のジャケット、竜革のグローブ、竜革の靴、ダマスカス鋼の額金を数セットずつ置いた。

 剣はレイピアを何本か。いずれもスキルは付与されていない。

 

「まあ、なんだ。我が家からの餞別だ。

 特に二人は丸腰だから何も装備品を身に着けずに外に出るのは拙い。

 これから世話になる所に舐められる訳にはいかないからな。

 ヴェロニカも二人を護衛するのなら、もう少し良い装備にすべきだろう。

 それぞれに合った装備品を選んでくれ」

「あ、ありがとうございます。大切に使います」

 魔法使いなら、ひもろぎのスタッフが定番だが、二人のジョブは知らないことになってるし。

 

 スキル融合武器は甘やかし過ぎになるから、餞別はあくまで通常装備だ。

 

 今後、二人・・・・・・三人か・・・・・・はきっと迷宮に行くのだろう。

 貧弱な装備で、直ぐに死なれても寝覚めが悪い。

 防具はタケダ家の標準品だからタケダ菱が刻印されているものがある。

 タケダ菱が入った防具を装備した者がアチコチに出現していくのが、なんだか可笑しい。

 

 選び終わり、三人ともアイテムボックス持ちではないので古い装備はここに置いていくことに。

 

・・・・・・

 

 三人の泊まっていた部屋で、各々が身の回りの物をリュックに詰めている。

 俺は当然、部屋の外で待機だ。カラダンと雑談している。

 ヴェロニカも何も持たずに来たので、二人と同じくリュックを与えた。

 エネドラがこっそりと我が家の石鹸を渡していたが、見て見ぬふりだ。

 単に宣伝のためかもしれないが。

 

「では、出発するか」

 

 玄関からボーデの冒険者ギルドにワープで移動。

 そのまま、城の門まで歩き、騎士団の者に用件を告げた。

 用件を告げると、少し騎士団が慌ただしくなった。

 

 騎士団員を伴って、いつもの執務室へ。今回は六人が後に付いてぞろぞろと移動。

 

・・・・・・

 

 部屋に入ると、ハルツ公だけでなく、ゴスラー騎士団長とカシア様までいらっしゃる。

 やはり用件を聞いたら、そうなるよな。

 

 ハルツ公は挨拶もそこそこに本題に入ってきた。

 

「それで、ハインツの一味を討伐したと聞いたのだが真か?」

「ハインツの一味かどうかは分かりませんが、

 盗賊らしき者を昨日、ターレの迷宮の12階層で討伐しました。

 その際に、お互いの名前を呼び合ったのを聞いており、

 ハインツという名とシモンという名を耳にしたように感じました。

 その二人はエルフ族の領内で暴れている有名な盗賊だと伺ったので、御報告に参りました。

 こちらに討伐した盗賊のインテリジェンスカードがありますので、

 ご確認いただければと思います」

 ゴスラー騎士団長にインテリジェンスカード10枚を差し出した。

 

 会話もせずに側面から奇襲で討伐したので、名前を呼び合ってたというのは作り話だ。

 

 すぐに騎士団員が呼ばれ、インテリジェンスカードの確認を始めたようだ。

 

「タケダ殿は、兇賊のハインツという賊をご存知ですか」

「いえ、詳しくは知りません」

 実際、会話することもなく首を切ってしまったので、原作の知識以上は何もない。

 

 この世界が原作と違う可能性もあるから、知らないフリをするのが適切だろう。

 

「血を見ることの好きな荒っぽい盗賊で、各地を荒らしまわっています。

 嘘か真か、エレーヌの神殿で兇賊のジョブに就いたというのが売りの男です。

 本当かどうかは分かりませんが。

 いずれにしても、相当手ごわい相手には違いなく、

 戦ったかもしれないタケダ殿の感想を聞いてみたかった次第です」

「そのような怖ろしい相手なのですか。

 あいにく乱戦だったので、そこまで手強かったのかどうかは・・・・・・」

 奇襲をかけて瞬殺したとは説明できない。

 

「元々は隣のセルマー領を本拠地とする賊で、

 セルマー伯の騎士団員を何人も返り討ちにしている凶悪な賊です。

 ハインツの第一の手下でシモンという海賊がまた恐ろしいほどの片手剣の使い手です。

 セルマー伯の騎士団で返り討ちにされた者にはかなりの手練れもいました。

 魔法を使わないとすると、うちの騎士団にも敵う者がいるかどうか」

「片手剣を使っていた盗賊は多くいたので、

 誰がシモンだったのか、本当にシモンがいたのかも分かりません」

 片手剣の使い手なら、もっと良い武器を使っていてくれても良かったのに。

 

 ただのレイピアだったものな。せめてエストックぐらいは使っていても良さそうなのに。

 

「団長」

「どうだ」

「ハインツの一味です。間違いありません」

 後から入室した騎士団員がインテリジェンスカードの確認をしたようだ。

 

「ハインツの一味を倒すとは驚きました。実にたいしたものです」

「無我夢中でした。それに私の配下には優秀な者がいますので」

 ちゃんとヴィルマ達が活躍したこともアピールしておく。ここにはいないけど。

 

「ハインツ、シモン・・・・・・最後はエルマーです」

「おお、名だたる盗賊を討伐できたのか。これは素晴らしい」

 シモンのカードも確認できて良かった。

 

 原作踏襲で『シモンのカードはありません』と言われたらビックリだ。

 

「こちらが懸賞金です」

 

 騎士団員がギルド神殿を操作すると、ボックスからお金が出てきた。

 

「タケダ殿はギルド神殿から貨幣が出ているところを見るのは初めてか」

「いえ、まあ・・・・・・」

 ここはYesともNoとも言わず、曖昧に答えておく。

 

 ベイルの士爵様の執務室で散々見ましたとは言えない。

 

「あれが余の騎士団のギルド神殿じゃ。騎士の叙任もここで行う。

 もしタケダ殿が騎士になりたければ、

 余の騎士団に入るなら今この場で騎士への転職を執り行なってもよいが、どうじゃ」

「いえ、今の暮らしに慣れておりますので」

 騎士になるには戦士の経験を積まなければならないはずだが、俺が戦士の経験を積んでいると思っているのだろうか?

 

 災害救助支援では冒険者として活躍しているのを知ってるはずなのだが。

 騎士どころか聖騎士のジョブも持っていたりするが、それは公言できない。

 

「これを・・・・・・」

 騎士団員が懸賞金の入った巾着袋をハルツ公に差し出してきた。

 

「これがタケダ殿が倒したハインツ一味の懸賞金だ」

「確かに」

 この場で中身を確認するようなことはせず、そのままリュックに仕舞った。

 

「タケダ様、ありがとうございます。

 ハインツが跋扈していたのは私の実家に当たるセルマー伯の領内です。

 私の知り合いもハインツに殺されました。

 タケダ様はわたくしにとっても仇をとってくれたことになります」

「滅相もありません。お役に立てて光栄です」

 ようやくカシア様が口を開いた。

 

 この後の交渉に向けて、カシア様の歓心を買っておくことが重要なので助かった。

 

「ハインツかその一味で、指輪を装備しておる者がいなかったか」

「そういえば討伐した後に指輪を回収した気がします。

 ですが、今は持ってきておりません」

 今すぐに渡すのは悪手だと思うので、渡すのは保留だ。

 

 この後の交渉が終わるまでは、交渉材料となる可能性があるので手元に持っておきたい。

 

「そうか、では次に来る際に持ってきてもらうことは可能だろうか?」

「指輪をですか?」

 理由は知っているが、すっとぼけて訊き返す。

 

「盗賊を討伐した際に回収したものは討伐した者が得ることは理解しておる。

 だが、ハインツの一味が持っているかもしれない指輪というのは、

 少し位置づけが違ってだな・・・・・・」

 しらばっくれて小首を傾げる俺の視線の先に、歯切れの悪いハルツ公の表情。

 

「まあ、次にここに来た時でもよい。鏡の納品もあるであろう?」

「鏡の方は非常に好評で、既に納品された鏡は全てタルエムを使った装飾を施しました。

 次の入荷が待ち遠しいです」

 おっ、これは願ってもないカシア様からの援護射撃が。

 

「それはともかく、懸賞金とは別にタケダ殿には褒美を与えなければならぬな。

 なにせハインツやシモンを討伐してくれたのだから」

「もったいないお言葉です」

 シモンのインテリジェンスカードを回収できてよかった。

 

 タケダ家にとっても、公爵にとっても、ゴスラー騎士団長の胃腸にとっても。

 

 ハインツ一味の討伐報告のおかげで、つかみはOKというところだろうか。

 

「なにか望みの褒美はあるか?さきほどの騎士団への加入でも良いぞ」

「畏れながら、お願いしたいことがあります」

 ハルツ公の言葉に応じながら、視線をシェル達の方に向けた。

 

 ヴェロニカは頷いて、覚悟を決めた表情になった。ここからが本番だ。

 

「実は、こちらにいる三人というのは・・・・・・」

 

 ハルツ公に三人の出自や今に至る経緯をヴェロニカの口から説明させた。

 俺の方はたまたま盗賊退治をした際に、二人を保護しただけだと強調しておいた。

 

 ハインツ一味の討伐報告のどさくさに紛れて、それなりの装備にした三人を連れてきたのは、一味を討伐した仲間という偽装のためだ。

 エネドラやカラダンは迷宮で戦う者というの感じではないが、三人はそれなりの装備にすれば執務室に入れるかなと思っていた。

 本来なら、武装した者を簡単に城の奥まで招き入れるべきではないが、身代わりのミサンガなどもありハルツ公のセキュリティは緩い。

 そのため偽装しなくても大丈夫だと思うのだが、途中で三人が足止めされると困るから。

 見る者が見れば、この三人がハインツ一味と互角に戦えるとは思わないだろうが。

 

 

「それで、タケダ殿の願いというのは?」

「この三人の身柄を保護するのに助力をいただきたく」

 ハルツ公の目が少し厳しくなった気がする。

 

「その三人を我が領で保護してほしいという意味かな?」

「いえ、そうではございません」

 ハルツ公が小首を傾げ、俺はヴェロニカに目配せした。

 

 ヴェロニカが口を開き、

 

「私達三人をカッサンドラ様の下に送るための助力をいただきたいのです」

「カッ・・・・・・」

 ヴェロニカの言葉に、ハルツ公が発したのは一文字だけだった。

 

 ハルツ公がゴスラー騎士団長の方に視線を向けると、そっと目を逸らされた。

 逃げたな、ゴスラー。

 

 ハルツ公が俺の方に視線を戻した。

 さきほどの余裕は無くなり、苦々しい表情だ。

 

「先程の褒美の件は、是非、カッサンドラ様にこの三人を保護していただくための

 後ろ盾となっていただきたいということになります。

 さすがに公爵様の領内で

 この三人を保護していただきたい等という厚かましいお願いはできませんので」

「むっ・・・・・・」

 ちゃんとハードルを下げて、お願いしていますというポーズだ。

 

 ハルツ公を経由するのも、シェル達を狙うかもしれない伯爵や配下貴族への牽制のため。

 なによりも、おばば様が三人を守るための最大の牽制になるのではないかと考え、昨晩、三人に提案を行なった。

 原作でセルマー伯の娘や、他に問題を抱えた娘への睨みを利かせられるカッサンドラおばば様は対伯爵への最大の防壁となるだろうと予想している。

 

 貴族同士のグダグダに割って入るのではなく、貴族には貴族をぶつける方が合理的だろう。

 シェルやメリルには、おばば様の庇護下で貴族としての返り咲きができるように研鑽を積んでもらいたい。

 良い嫁ぎ先を紹介してもらうのも良いし、仲間を募って迷宮討伐したいのならそれも良いだろう・・・・・・そう簡単にはいかないだろうが。

 

 おばば様に保護してもらえるのが、当人にとって幸福かどうかは分からないが。

 

 現に、この提案をした際にはシェルは嫌そうな顔をして、『ひぃ』と言っていたし。

 『ひぃ』は一回だけだったが・・・・・・。

 

「さすがに一族の長にもあたる方に、手ぶらでお願いするわけにはいかないでしょうから・・・・・・」

 カラダンに視線を向けると彼は頷いて、リュックから鏡を取り出して進み出た。

 

「さきほど、先日納品した鏡が無くなったと伺いましたが、

 本日、装飾のない鏡を5つほど持って参りました。

 カッサンドラ様へタルエムの装飾を施した鏡を贈られるのはいかがでしょうか?」

「・・・・・・」

 カシア様の目がパァッと喜びに満ちたものとなったが、逆にハルツ公の目は死んだ魚のようになってしまった。

 

 カシアが進み出て、鏡の方に寄ってきた。

 今回のターゲットはハルツ公ではなく、カシア様だ。

 この方がウンと言えば、話は終了になるはずだと考えている。

 

 シェル達を保護した後、カッサンドラおばば様への保護を依頼する作戦を考えた時には、鏡の納品や石鹸の献上のタイミングでの依頼を想定していた。

 だが、ハインツ一味の討伐が発生したため、急遽、その事案を利用することに変更した。

 ハインツ達はカシア様の実家のセルマー伯領を荒らし回っていたので、ハインツ討伐の報告をすればカシア様が顔を出すのは明らかだと思ったからだ。

 

 それに加えて報告のタイミングに合わせ、鏡を献上するといったカシア様の歓心を買えそうなネタを用意してきた。

 

 これでどうだろうか?ハルツ公は表情が消えているが、後はカシア様次第だ。

 

 あれっ?

 

 カシア様は鏡を持ったカラダンの前を素通りして、シェルの所に行ってしまった。

 両手でシェルの両方の頬を包み込んだ。

 

 実は、この二人は知り合い?

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 この間は?

 

「この・・・・・・頬の張り、髪の毛の艶・・・・・・これはいったい?」

「むっ・・・・・・これは、ユキムラ様の家で石鹸を使わさせていただいたおかげです。

 私とメリルは三日間、ヴェロニカは一日使っただけですが、その効果だと思います」

 

 カシア様が猛禽のような目で俺を見据えた。

 

 状態異常にかかったように、俺の体は硬直。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 均衡を破ったのはエネドラだった。

 

「恐れながら、発言することをお許し下さい・・・・・・。

 こちらにシェル様が先程お話しした

 タケダ家で近日中に売り出す予定の石鹸をお持ちしております。

 お許しいただけるのなら、

 カッサンドラ様へお三方をお送りする迷惑料としてお受け取りください」

「受け取ります!」

 即答だ。

 

 いつかハルツ公の領内に向けた宣伝のため、貴族用石鹸を献上しようと話をしていたが、まさか今日持ってきているとは思わなかった。

 

「待て、カシア。カッサンドラ様の所に行くのは・・・・・・」

「この可哀想な娘達のために、エルフ族の重鎮たる公爵が動かずしてどうするのですか?」

 

「それでも、カッサンドラ様の所に行くというのは・・・・・・」

「何か問題でも?」

 

 将を射んとする者はまず馬を射よの言葉通り、カシア様に狙いを定めのが功を奏したようだ。

 実際には馬ではなく、ドラゴンの気もするが。

 

「鏡はこちらに置けばよろしいでしょうか?」

「構いません」

 置いてきぼりになったカラダンに気付いたようだ。

 

 鏡を5つと石鹸の小箱を1つテーブルの上に置いた。

 これで目的は達成できただろうか。

 

「では、改めて、この三人の件、よろしくお願いいたします」

「はい。この娘達がハルツ公の後ろ盾で、

 カッサンドラおばば様の所に送られることを触れまわっておきますし、

 三人の境遇もしっかりと説明しておきます」

 もはや、ハルツ公は何も言葉を発せず、カシア様が全てしゃべっている。

 

 ゴスラー騎士団長は、あらぬ方向に視線を向け空気に徹しているのが分かる。

 

 それはともかく、三人のことはもうハルツ公に委ねるだけだ。

 俺、エネドラ、カラダンの三人はハルツ公、カシア様、ゴスラー騎士団長に深々と頭を下げた。

 

 執務室を去ろうとした俺達に三人が遠慮がちに近寄ってきた。

 カシア様が笑っているので、許可された行動なのだろう。

 

「ユキムラ様、お世話になりました」

 シェルが代表して俺に声をかけ、三人が頭を下げた。

 

「しっかりと研鑽を積んで・・・・・・元気でな」

 おばば様の所が楽な場所とは思わないけど、命を狙われることはないだろう。

 

「シェルちゃん、また遊びにいらっしゃい」

 ん?それはどうだろうな。外に出ない方が良いのではないか。

 

「はい、また、ユキムラ様の家に参ります。よろしいですよね?」

「・・・・・・」

 

「そこは、いつでもおいで・・・・・・とおっしゃるところでは?」

「まあ、未成年のうちは歓迎しよう」

 子供好きではないが、子供は保護されるべきだろう。

 

 今が元の世界で言えば2月末ぐらいだから、未成年の期間はあと10か月程度だ。

 月の概念がこちらにはないらしいが。

 10か月など直ぐだから、未成年のうちにはもう来ないだろう。研鑽を積んでいなさい。

 

「聞きましたか?メリル。あと二年くらいは遊びに行けますよ」

 ああ、メリルは13才だから、二年弱か。まあいいや。

 

 でも、おばば様とかは連れてこないでね。フリじゃないからね。

 

「じゃあ、またな」

「はい」

 

 執務室を出る前に、改めてハルツ公他二人に頭を下げて・・・・・・退室した。

 ハルツ公の目はなるべく見ないようにして。

 

 騎士団員の案内で門まで戻り、城を後にした。

 

 ハインツの一味も討伐して、ある程度の武力もハルツ公に示せたし、石鹸の宣伝もできた。

 シェル達も一応は安全な場所に送り届けられるだろうから、まずまずの出来だと思う。

 100点満点ではないだろうが、合格点にはなんとか達しているかもしれない。

 

 ドブローの盗賊の意図や伯爵領内での動き等、不明な点も多いが、全てを俺が把握しなくても良いだろう。

 ハルツ公の迷宮攻略の手助けもして、某伯爵からちょっかいをかけられてもハルツ公の助力を得られる程度の貢献はしなければな。

 そして、これからは迷宮攻略や配下のための時間をもう少し取りたい。

 

 

「旦那様?」

「ああ、悪い悪い。さて、クーラタルへ戻ろうか」

 

 適当な木陰からベイルの自宅にゲートを繋げてカラダンを帰らせ、俺達二人はクーラタルの自宅に戻った。

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