緊張を強いられた交渉は無事終わったが、終わってみれば短い時間の出来事だった。
貴族とはいえ、二人の子供を無事守れたかもしれないと思うとスッキリした気分だ。
昼食までは少し時間があるので、残りの時間は・・・・・・修練場に行くか。
昨晩のヴィルマの訴えも記憶に残っている。
裏庭に行くと、オリビアとイレーネが模擬戦中だった。
やはりリーチの短い木刀ではイレーネの方が分が悪い。
器用に近距離・中距離の間で、木の槍を使ってダメージを与えようとするオリビアにイレーネは防戦一方だ。
こうして見ると、迷宮では無双の振る舞いをする俺達だって、数の多い敵に囲まれるとヤバいってことなのだろうな。
オリビアの二刀流は、よく連携の取れた二人の敵と戦っているようなものだろう。
本当に二人ではないから、後ろに回り込まれたりはしないが、その分息の合った攻撃だ。
あ、良い一撃がイレーネに入った。もう止めた方が良いな。
「その辺にしたらどうだ?訓練とはいえ大怪我をされたら困るぞ」
「主、やっときたのか!」
俺は二人に話しかけているのに、ヴィルマが返事をしてきた。
オリビアは誇らしげに攻撃をストップした。
それに比べて、イレーネは悔しそうな顔を隠そうともしない。
少し涙目になっている気がする。後でフォローが必要だな。
イレーネは一人で、木陰の方まで歩いていってしまった。
庭に面した納屋から木の剣を四本取り出した。訓練で四本使うのは久しぶりだな。
「オリビア、俺が相手をしよう」
「うふふ・・・・・・お姉ちゃんが可愛がってあげるから」
俺だけに聞こえる小声で言ってるつもりだろうが、ヴィルマには聞こえてるぞ。
距離をお互いに詰めて、オリビアの間合いになったところで攻防が始まった。
リーチのある木の槍の攻撃を木の両手剣を複数使いながら受け流す。
木製であっても彼女の膂力で打ち据えられたら、かなりのダメージが入るだろう。
二本で受け流したり、三本で受け流したりしながら徐々に間合いを詰め、彼女の懐に迫る。
左手の掌で槍の柄を滑らせながら、短い間合いでも槍の穂先を突き出してくる。
だが、その程度は剣で受け流せる。近距離戦は俺だって得意なのだ。
右側から笛鳴りのような音を響かせ、木の槍が迫る。
木の剣二本を時間差と角度差をつけて上の方に流す。
木の装備品の軽さなら、彼女の膂力でも俺の受け流しは十分有効のようだ。
更に距離を詰めて、手数の多い攻撃を繰り出した。
「わっ、わっ・・・・・・」
「どうした?可愛がってくれるのではないのか?」
竜人族娘の驚く時の声はやっぱり『わっ』なのだな。
この勝負は見えた気がするな。
木の槍の攻撃力の低さでは、彼女の槍二刀流は単に面倒くさい手数と近・中距離の幻惑を引き起こすだけのトリッキーな小技に過ぎない。
近距離に入って四刀流で面制圧をかけてしまえば、彼女の二刀流は怖くないや。
単純にジャンケンのような力関係か。
オリビアも二刀流の相手なんて、レドリックとかモニカぐらいだろう。
三刀流以上の経験なんて三人がかりでの勝負でない限りはある訳ないし。
いくつか良い打撃が入ったところで、オリビアがギブアップした。
「生意気、生意気・・・・・・」
小声で恨み節を言ってるが、ガン無視だ。
「相手が悪かったな」
彼女に一声かけて、模擬戦を終了した。
ヴィルマが俺と戦う素振りをしていたが、それよりもイレーネのフォローが先だ。
「ヴィルマ、オリビアとの戦いを見せてくれ」
「分かった、主、見ててくれ」
二人の戦いを視界に入れながら、イレーネの座っている場所に急いだ。
近づくと彼女の目は少し赤く、不貞腐れているようにも見えた。
「御館様は強いな。あのデカ女に楽々勝った」
「相性の問題だ。あいつは、自分以上の手数の敵と戦ったことがないのだろう。
槍のリーチがあっても木製だから遠慮なく距離を詰められるしな」
別に謙遜でもなく事実を淡々と告げただけだ。
「でも、あたしはデカ女に負けてばかりで悔しい。あいつは生意気だ」
「生意気だから、少し鼻っ柱を折ってやったんだよ。
それに模擬戦と迷宮での戦いは別物だ。
あいつが迷宮でどれだけ戦えるかは、まだ分からないぞ。
それでも、頼りになりそうな奴だとは感じたのではないか?
これから迷宮で一緒に戦っていく仲間だ。
仲良くなれとまでは言わないが、少しずつで良いから実力は認めてやれよ。
そして、お前の実力も思い知らせてやれ」
無言で彼女は頷いた。
修練場では、ヴィルマとオリビアが戦っている。
イレーネと同じく彼女もオリビアの槍二刀流には苦戦している。
持ち前の体の柔らかさを生かした回避や、木の両手剣を使った器用な使いまわしで打撃の芯を外しているが、それでも明らかにやりにくそうだ。
何本か良い一撃が入って、ヴィルマが負けを認めた。
「イレーネ、俺と模擬戦しようぜ」
「うん」
二人で、ヴィルマとオリビアの所に向かった。
「次は俺とイレーネがやる」
「主、その次はあたしとだぞ!」
はいはい。順番ね。
木の剣を一本だけ持って、イレーネと対峙した。
「御館様、手加減されるのは好きじゃない」
「今は剣一本で戦いたいんだ。模擬戦だけど、今からやるのは真剣勝負だ」
彼女はムスッとした顔になったが、それ以上は反論せずに木刀を構えた。
いつもと違って手数の勝負はできないから、剣の技量だけの勝負だ。
こちらから一気に距離を詰めて、左からから右に横薙ぎに剣を振るう。
さすがに、こんな馬鹿正直な戦法は通じない。
右に彼女は素早く動いて躱された・・・・・・が、右へ右へと移動しながら、剣を鋭く突き出して追撃をかける。
ことごとく躱され・・・・・・繰り出されたカウンターの刺突を俺も間一髪避けた。
やっぱり剣の技量は俺より高い気がする。
いつも自分が有利な状況で戦っていたから、久しく感じてなかった緊張感だ。
イレーネの刺突を躱しながら、こちらも剣を小刻みに繰り出す。
彼女の攻撃が俺の頬や肩を掠るが、構わず剣を振るう・・・・・・が、ことごとく躱された。
もっと剣の速度、しなやかさ、多彩さが欲しい・・・・・・だが、今は手元にあるもので勝負するしかない。
いくつか渾身の一撃を試みるものの全て躱され、三本カウンターを入れられたところで降参した。
「俺の負けだ、イレーネ」
「手加減されて勝っても嬉しくない」
模擬戦を始めた時と同様にふくれっ面。
「手加減したつもりはないぞ。
自分がいつも有利な状態で戦っていると、ここぞという時に困るからな。
だから、剣一本で真剣勝負をしたかったのだ。
俺抜きで迷宮探索したいお前たちだって、そうじゃないのか?」
「!」
俺の言葉に何か思う所があるのだろうか。ふくれっ面ではなくなった。
どっちも可愛いと思ったのは、身びいきだろうか。
「模擬戦での勝ち負けには拘らない。
全力を尽くして負けるのなら、そこから得るものがきっとあるだろう。
それを積み重ねるだけだ」
「御館様抜きでの迷宮攻略をやらせてほしい。もっと強くなれるかもしれない」
真剣な眼差しで訴えかけられたら、断れないよな。
「ちゃんと考えるから、それまで待ってくれ。
迷宮では死と隣り合わせだ。模擬戦とは違うからな。でも、お前の気持ちは伝わったぞ」
「分かった。待つから」
彼女は口角を少し上げながら引き下がっていった。
「主、あたしを忘れないよな?」
「ああ、分かってるって」
再び、木の剣一本を構えて彼女と対峙。
今回はどちらも少しずつ距離を詰める。
ヴィルマの振った剣をギリギリ躱してカウンター・・・・・・こちらも避けられた。
やっぱりヴィルマの回避能力は俺より上だな。
イレーネには剣の技量で劣り、回避とカウンターの上手さではヴィルマに劣る。
彼女達を迎え入れてから油断してなかったつもりが、いつの間にか引き離されている。
努力していた者とそれを怠っていた者の差か。油断してないとか片腹痛いか。
何度かカウンター勝負に出て、俺が一本入れる間に五本ぐらい入れられた。
「俺の負けだ」
「主、楽しそうだな!」
楽しいな。やるべきことがある時の俺はとっても楽しいのだ。
彼女との模擬戦を終えて、木陰に移動しようと思ったら、ケリーとマリーが待ち構えていた。
その後ろにフラウスとヘルミーネの姿も見えた。
分かりました。全員と戦えば良いのだろう。
一通り戦って、昼食の時間になったのでお開きにした。
・・・・・・
昼食を終えて、迷宮組は玄関に集合。
そこには何故か完全武装のオリビアもいる。
「連れていって・・・・・・」
「今から行くのは34階層だぞ。
この前まで迷宮に入った事すらなかったオリビアを連れていくのは無茶だろう」
彼女は俺の腕をガッチリ持ったままだ。
「お姉ちゃんは何だってできるから大丈夫だよ」
「いや、無理だろう?」
何でもできるような器用なキャラだっけ?
剣は相当酷い出来だったぞ。
デュランダルをこん棒のように取り扱った奴って、お前だけだよ。
あれっ、でも装備品が前に渡したものと違っている。
オリビア(竜人族 ♀ 18才 奴隷)
竜騎士Lv27
装備
ダマスカス鋼の槍(空3)
ダマスカス鋼の槍(空2)
ダマスカス鋼のプレートメイル(空4)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
耐土のダマスカス鋼額金(土耐性、火耐性、水耐性、風耐性)
ダマスカス鋼のデミグリーヴ(空3)
身代わりのミサンガ
アミルが苦笑しながら説明。
「どうしても迷宮に行きたいって・・・・・・とりあえず、倉庫にあったあり合わせの装備と
昨日、大量に入手したモンスターカードからグローブと額金に融合したものを渡したのですが、
拙かったですか?」
「いや、融合したのは頼んでおいた装備品だから問題ないのだが・・・・・・」
アミルを説得したのか。もう仕方ないかな。
「主、行きたいのなら行かせれば良いのでは?」
「どうせ、そのデカ女の所までモンスターは辿り着けないよ。その前に倒すから」
これは俺以外の迷宮組の総意というやつなのだろうか?
「分かった。だが、危ないと判断したら帰らせるからな。絶対、無茶するなよ」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せて!」
とっても不安だ。
いつかは、試さなければならないのだが・・・・・・34階層の出現モンスターのうち半分くらいはコボルトケンプファーだから、なんとかなるか。
連携がダメダメだった場合も、強制送還にしよう。
クーラタルの34階層の小部屋にワープで移動。
「34階層になると、道幅も少し広くなり、階層の面積も大きくなっている。
探索には時間がかかるかもしれないが、焦らずにやっていこう。
この階層で新規に出現するのは、コボルトケンプファーだ。
低階層で戦ったコボルトのボスだったモンスターが通常モンスターとして出てくる。
コボルトケンプファーよりも一つの下の階層で戦ったドライブドラゴンの方が強敵のはずだ。
この階層では、コボルトケンプファー、ドライブドラゴン、ロックバードの順に多い。
半分ぐらいはコボルトケンプファーだが、
残り半分ぐらいは空を飛んでくるモンスターなのでそちらから片づけよう。
ボスはコボルトイェーガーだ。34階層のボス戦からボスが2匹現れるので注意しよう。
通常モンスターのドロップがコボルトスクロースで、ボスドロップがコボルトフラワーだ。
オリビアは初戦は後方で見学をしてくれ。分かったな」
「了解」
「了解」
「了解」
「り・・・・・・了解」
「じゃあ、探索を始めるぞ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
小部屋を出て、俺を先頭に適当な方向に歩き出した。
アミルがオリビアに戦闘のフォーメーションやサインプレーの説明をしてくれている。
だが、直ぐに理解はできないだろうから、見て覚えるしかない。
初っ端の相手は・・・・・・コボルトケンプファーが2匹にドライブドラゴンが1匹だ。
「コボルトケンプファー2、ドライブドラゴン1。1番だ。
ドライブドラゴンが突っ込んでくるぞ。注意しろ!」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
「主は、今回は手を出さないで」
「分かったが、無理はするなよ」
魔法を撃つのは控えるが、博徒のスキルは使おう。
ドライブドラゴンが浮遊しながら急速に近づいてきた。
(状態異常耐性ダウン)
あとは、ヴィルマ達に任せよう。
立ち止まって、二人の戦いを見守る。
ヴィルマがドライブドラゴンの鼻先に剣を撃ち込み、アミルが胴体に槍の重い一撃を加える。
イレーネは回り込んで刺突の連打を繰り返す・・・・・・隙の無い連携で早々に石化させた。
遅れてコボルトケンプファーが2匹近づいてきた。
ヴィルマ、イレーネが一匹ずつ引き受けて、アミルが交互に槍でちょっかいをかける。
博徒のスキルを使うまでもなく、連打を繰り返して二匹とも煙に変えた。
やはりコボルト系は脆いな。
オリビアと共に石になったドライブドラゴンを叩きながら・・・・・・全てが煙に変わった。
「34階層になっても、コボルトケンプファーは弱いな」
「だから、魔法はなるべく使わずに戦わせてほしい」
この調子なら、問題ないか。
「ドライブドラゴンの数が多い時は雷魔法を使うぞ。それ以外は使わないことにする」
「了解!」
「了解」
「了解」
「り・・・・・・了解。お姉ちゃんも戦いたいのだけど」
「分かった。次にチャンスがあれば戦ってみよう」
「うん!」
コボルト相手なら、問題ないだろう。
「前にコボルトケンプファー1、ドライブドラゴン2。後ろにドライブドラゴン1。1番だ。
ドライブドラゴン3匹が突っ込んでくるぞ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
(サンダーストーム、サンダーストーム)
雷魔法二連発を放ち、相手が来るのを待ち受ける。
ドライブドラゴンはどれも麻痺しなかったか。
ヴィルマとイレーネが両翼から前に出た。俺はそのままの位置で待機。
(状態異常耐性ダウン)
イレーネの前のドライブドラゴンに博徒のスキルをかける。
ヴィルマの後ろに俺が移動し、イレーネの後ろにアミルが移動した。
アミルは槍のリーチを生かして、イレーネとヴィルマの前の敵に牽制し始めた。
三匹目のドライブドラゴンが近づいてきた。
(オーバーホエルミング)
二匹のドライブドラゴンの間を通って三匹目の前に躍り出る。
そのまま、デュランダルと硬直のエストックで滅多打ちにして・・・・・・石化させた。
コボルトケンプファーまでは、まだ距離がある。
イレーネが相手していたドライブドラゴンも石化した。
ヴィルマは目の前のドライブドラゴンの攻撃をいなしながら、イレーネの連打を援護する。
オリビアも攻撃に加わろうとしたが、その前に石化した。
「オリビア、コボルトケンプファーと戦ってみろ」
「了解」
最後に辿り着いた相手に、オリビアの槍二刀流が炸裂した。
怒涛の突きが立て続けに入って、ズタボロにされながら煙に変わった。
石化されたドライブドラゴンを皆で適当に刻んで全滅させた。
オリビアはさすがにコボルトケンプファーぐらいなら楽勝だな。
俺のセブンスジョブの影響もあるのだろうが。
ドロップ品を拾い、次の敵に備えて、歩き出した。
「コボルトケンプファー2。1番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
「次はお姉ちゃんに任せて」
オリビアの宣言に、ヴィルマとイレーネの顔を見ると、『やらせてみよう』という反応だ。
「分かった。危なそうだったら手を出すぞ」
コボルトケンプファーが二匹、近づいてきた。
オリビアは槍をそれぞれ突き出して、左右の敵の腹に強烈な一撃を加えた。
そのまま左右の槍を強振して、左のコボルトケンプファーを左の壁に、右の方を右の壁に叩きつける。
壁にぶつかって棒立ちになったコボルトケンプファー達の頭に二匹同時に槍の強烈な突きを連打し続けて・・・・・・煙に変えた。
結構、えぐい攻撃だ。
ベイルの3階層で散々コボルトに酷いことをしてきた俺ですら、彼らに同情してしまった。
性別が分からないから彼か彼女かは置いておくとして。
二本の槍を器用に操る姿を見ると、ドライブドラゴンと戦わせてみたくなるな。
この前まで村人ジョブだったというのに。
「コボルトケンプファー2、ドライブドラゴン1。1番だ。
ドライブドラゴンはオリビアが戦ってみろ。他の者は援護だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
ドライブドラゴンが突出して近づいてきた。
オリビアが一、二歩前に進み出て正面から待ち受ける。
近づいてきて、口を大きく開けたドライブドラゴンの顔に二本の槍の正確な連打が放たれた。
首を動かしながら避けようとしているのに、正確に槍が追随してダメージを与えている。
本当に器用だな。
やがて、同じ攻撃に飽きたのか、顔と胴体に左右の槍で交互に打撃を繰り返し始めた。
空中を動き回って攻撃の機会を探ろうとするが、その機会を彼女が全く与えない。
見えない壁に阻まれて先に進めなくなってしまったように錯覚してしまう。
脇を通ってコボルトケンプファーがやってきたので、俺が二匹ともデュランダルで瞬殺した。
オリビアはドライブドラゴンに攻撃のターンを与えないまま、煙に変えた。
オリビアのドライブドラゴンとの相性が良過ぎるな。
スキル無しの槍で与えるダメージが低いため、倒すのに多少時間がかかるが危なげが全くない。
竜騎士の名に恥じない戦いぶりといったところだろうか。
あとは、単騎ではなく他の者との連携か。槍の長さが逆に禍いしないかどうかだな。
その後も、モンスターの組み合わせを見ながら、こちらの編成をいろいろと試してみたが全く問題は発生しなかった。
オリビアはイレーネやヴィルマと並んで待ち受ける場合も、細かく前後に動いて位置を変える。
槍を繰り出す時も味方の邪魔にならないように、柄を持つ位置を変えて長さを調節しながら戦うという器用さを発揮している。
ロックバードのような空中を自由自在に動き回るモンスターも二本の槍で上手く罠にはめて空中から地面に叩き落とす。
コボルトケンプファーもわざと懐近くまで招き入れて、槍の石突の部分で連打して幻惑させながら槍を袈裟懸けにして仕留めるなど、余裕を見せた戦いをする。
探索後半の俺の役目は、ドライブドラゴンが多い時のみ雷魔法を放つだけの存在に成り下がっていた。
とはいえ、魔物部屋を見つければ殲滅させるのは俺の役目なので、キッチリと片づけた。
全滅したパーティはいなかったようだ。
待機部屋も見つけて、ボス戦前の確認。
「今日は普通に扉から入って、ボスの近くまで駆けつけて戦う。
俺は雷魔法と博徒のスキルを使うことだけするので、後は四人で戦ってみてくれ。
戦闘の指揮はアミルが執ってもらえるか?34階層からボスが2匹になる。
誰がどのモンスターと戦うかの指示もアミルに任せる」
「えっ、分かりました。ちょっと待って下さいね。今、考えますから」
これから俺抜きで戦うのなら、ボス戦も誰かが考えて作戦を立てなければならない。
今回はその練習をしてもらおう。
「では、ボスの一体はオリビアさんとヴィルマさんが受け持って下さい。
もう一体は、私とイレーネさんが受け持ちます。
ご主人様は博徒のスキルをそれにかけて下さい。
ヴィルマさんはオリビアさんの援護をお願いします。
問題なければ、これで臨みたいと思います」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
俺も『了解』を言う側に回ってみたかったのだ。
「では、入ります。みなさん、十分に注意して下さい」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
五人がボス部屋に侵入すると、モンスターが現れ始める。
急いで走って配置につく。
ボスはコボルトイェーガーで2体現れた。
両方ともコボルト系だから、はっきり言って余裕があるはずだ。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
イレーネの前のコボルトイェーガーに博徒のスキルをかける。
アミルは念のために牽制をかけ、イレーネの刺突の援護。
もう一体のボスのコボルトイェーガーをオリビアが滅多打ちにしている。
ボス部屋は広くて彼女の槍二刀流が伸び伸びと戦える。
一方で、ヴィルマはオリビアの攻撃を見ながら、隙をついて斬撃を与えている。
コボルト系2匹だと、もうこれ以上やることはないだろう。
34階層のボス戦は余裕か。
コボルト系モンスターだと34階層以上の強さがよく分からないな。
明日は35階層の攻略をして、もう一度確かめる必要があるか。
やがて、コボルトイェーガー二匹が煙に変わった。
ドロップ品を拾って、35階層の小部屋に抜けた。
「今日はこれで終わりにしようか。この後、俺はターヘラに行かなければならないので」
ゲートを自宅の玄関に繋げて、五人で帰宅した。
解散したのだが、ヴィルマとイレーネとオリビアはそのまま修練場へ。
「アミル、ミラはそろそろダマスカス鋼や竜革の装備品が扱えるようになってるはずだ」
「そうですか、ではミラちゃんに竜革の防具の生成に挑戦してもらいますね」
ミラは先程の34階層のレベリングで鍛冶師のLv40に達した。
恐らくはダマスカス鋼や竜革の装備品生成が可能な水準に達したはずだ。
アミルは二階に上がったので、着替えて作業部屋だろうな。
ミラも迷宮から戻ってきてるだろうから、合流するのかもしれない。
そして、玄関でケリーとマリーが待ち受けていた。
「探索が終わったので、ターヘラに行きたいのだな?」
「うん」
レイモンドは子供達を送ったのだろうけど、双子は迷宮探索に行ってたので出遅れたな。
今晩は里帰りの日だから、俺が送るか。
ヴィルマ達は訓練で外れているから、双子をパーティに加えた。
ターヘラの剣術指南所の食糧庫の壁にゲートを繋げた。
「これで、そのまま剣術指南所まで繋がっているぞ」
「主、ありがとう」
「御館様、ありがとう」
ケリーはヴィルマ派、マリーはイレーネ派なのだな。
二人は喜び勇んでゲートをくぐり抜けていった。
ターヘラのゲートの方に顔を出してみると、二人が駆け出していく後ろ姿が見えた。
里帰りが嬉しいのか、それともそのまま広場に行って訓練に参加したいのかどっちだ。
俺もターヘラに行って、二組目の帰宅報告に顔を出しておかなければならない。
玄関のゲートを閉じ、着替えのために自室に戻った。