異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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016.繁忙期

 今朝の朝練の最初の相手はミラ。

 最近、彼女との模擬戦の回数が増えてきた。

 周囲が配慮しているのか、意図的に彼女が俺と戦えるように順番待ちを調整している気もする。

 愛されているな、ミラ。

 

 ミラは鍛冶師とは別に剣士系のジョブの育成をしている。

 先日までのターレ迷宮攻略の経験で彼女のジョブは剣士を通り越して剣匠まで取得した。

 まだ取得したばかりでレベルは低いのだが。

 

 今、ミラの右手にある装備品は鑑定上は木刀なのだが、見た目は木製の槍。

 見た目詐欺なのだが、様になっている。

 

 鋭い槍の突きにしか見えない木刀による刺突を躱しながら、こちらの攻撃をしっかりと盾で受ける姿に混乱してしまう。

 他のラノベやゲームなら槍持ちで盾持ちはいくらでも登場するのだが、いせはれの世界では見たことないから。

 

 リーチの長い木刀・・・・・・見た目が槍の武器を繰り出す彼女の姿には気負いも感じられず、淡々と俺を追い込もうと詰め寄ってくる。

 こちらも足を止めて、突きを剣でいなしながら相手の懐に入るタイミングを窺う。

 ぶっちゃけ凄い楽しい。思わず口元が緩むのを我慢するのが大変だ。

 

 槍の取り回しはオリビアかヘルミーネに習ったのだろうか。

 体重を乗せた鋭い突きで、重心もしっかりしている。

 実際には剣なのに、その振る舞いが槍なのだから油断すると混乱してペースを彼女に握られそうになってしまう。

 

 暫く足を止めて、彼女の攻撃を躱すことを続けた。

 これでは彼女の修練にならないと感じ、間を詰めることに。

 ジリジリと前進して、こちらの剣の間合いに彼女を捉えようとする。

 

 こちらの圧力に負けまいと、集中して盾を扱おうとしているのが伝わってくる。

 彼女の重い攻撃を躱しながら剣で何度か牽制をしかけ、武器を持つ右手にも斬撃を試みる。

 懐に入ってしまえば、剣技の優劣の勝負になる。

 

 盾を使って防ごうとする彼女の隙をついて、斬撃と刺突を織り交ぜながら右腕と胴に一本ずつ打撃を入れた。

 

「参りました。ご主人様」

「日に日に武器の扱いが上手くなっているな。凄く努力しているのが分かるぞ」

 負けても彼女の顔は笑顔だ。

 

 負け惜しみではなく、自分の戦い方が理想に近づいているのを感じているかもしれない。

 下がっていく彼女にオリビアとヘルミーネとフラウスまでが近づいていった。

 師匠が周りにたくさんいるから、まだまだ成長しそうだな。

 剣士系ジョブなのに槍の先生ばかりだが。

 

 

「次、お願いします」

「いいぞ」

 今度はマヤか。

 

 マヤもターレ迷宮の探索で最近になって急成長した。

 俺の必要経験値系のボーナススキルで剣匠がLv50を越えて剣聖のジョブを取得した。

 ただ、剣聖のジョブには変更せずに剣匠のままにしている。

 おかげで、Lv51になってしまった。

 

 彼女も盾持ちの戦闘スタイルが合ってるようなので、二刀流前提のアクティブスキルの剣聖よりは剣匠でしばらく頑張ってみたいらしい。

 剣匠のアクティブ攻撃スキルは剣士と同じスラッシュで片手でも利用できるから。

 

 手にしている武器がミラと違って、普通の片手剣の木刀なので錯覚に陥ることはない。

 お互いに距離を詰めて、間合いに入ったところで剣による打ち合い。

 

 しばらくは彼女との剣を使ったコミュニケーションを楽しむ。

 剣による打ち合いとたまに盾で防がれるといった膠着状態を続けてみる。

 彼女の口角も少し上がっているのが分かるので、楽しめているようだ。こっちも楽しいぞ。

 

 徐々に攻撃のピッチを上げて、彼女を追い込む。

 3本ぐらい刺突が決まったところで彼女が降参を申し出た。

 

「また、明日もお願いします」

「ああ、構わないぞ」

 模擬戦デートの予約を取られてしまった。

 

 木陰の方に下がっていく彼女の行く先には、レドリックとモニカがいる。

 あちらは本当に剣の師匠だな。

 

 

「ユキムラ様、お願いします」

「分かった」

 次はラファか。

 

 木の槍を構えた姿はこれまた様になっている。

 でも、お前のジョブは魔道士だろうが。

 なんで、うちの連中は見た目詐欺の集団になってしまったのだろうか。

 

 魔道士のジョブを取得した後、魔物部屋を使ってパワーレベリングしたので、魔道士のレベルもそこそこ上がった。

 14才にして魔道士で槍使いとか、訳分からないよな。

 元の世界でも14才というのは難しい年頃だったっけ?そんなアニメがあったような・・・・・・。

 

 それでも、俺の剣の前にはまだまだ子供扱いできるレベルだ。

 何本か打撃が入って、彼女は涙目で去っていった。

 

 15才、15才、14才・・・・・・という連戦で我が家の若手の成長が実感できた。

 この世界では17才の俺が爺臭く考えるのもアレだが。

 俺の方こそ見た目詐欺なのか。

 

 

・・・・・・

 

 朝練を終え、朝食時にアミルにミラの武器について確認。

 

「ミラちゃんはタケダ家で槍を使っている人達に相談に乗ってもらいながら、

 自分に合う槍の形をした片手剣を試作しています。

 今はまだ木製ですけど、形が決まったら鉄製で1本生成してみるようです」

「前にも言ったが、鉄や鋼鉄の重さで試してみないと実戦では使えないだろうから、

 試しに武器生成するのは全然構わないぞ」

 今朝模擬戦をやってみた感じでは、少し短めの槍にするのかもな。

 

「握る部分を複数作るようですね。その微調整が終われば鉄製で作ると思います」

「そうか、最終的には迷宮で使う武器になるから納得できるものを作ってもらえれば良いぞ」

 握る箇所を複数か・・・・・・オリビアの槍もそんな感じだったな。

 

 オリビアの使っている槍には木の()の部分に革製の握る部分が複数あったはずだ。

 片手剣の場合は、木製の()はないから剣の(つか)が長く伸びて、そこに複数の革を張る感じになるのだろうか。

 そうなると見た目の長さの半分以上が剣柄になるのか?

 剣身は槍の穂に該当するのだろうか。うーん、考えるだけでもおもしろいな。

 

「あ、それとドブローで受託した竜革の防具の納品契約ですが、納品物が全て準備できました」

「は?もう終わったのか。

 与えられていた30日の作業期間のうち、まだ10日ぐらいしか経ってないけど」

 アミルはニッコリと頷く。

 

「午後の時間が空いてることが多かったので、作業が捗りました」

「そうか、今日はドブローに行くから納品してくるかな。

 納品すれば、報酬で竜革がもらえるし」

 だけど、そうやって早め早めに対応するから仕事がドンドン増えていくのだという疑惑も。

 

「納品物は、鍛冶素材の倉庫の方に収納してあります」

「そうか、ありがとう」

 せっかくアミルとミラが頑張ったのだから、倉庫に寝かせておくよりは納品してくるか。

 

 なんだろう。

 別にこの世界には月がないので月末、月初という概念はないのだが、なんか月が変わる時の繁忙期を思い出させるな。

 月末納品、月初受注とか・・・・・・。

 

「次の納品の依頼も受けてきてもらって構いません。

 ミラちゃんも今はやる気に溢れているので」

「えっ?」

 15、6才でこんなに働かせても大丈夫なのだろうか。

 

 元の世界の年齢でつい考えてしまうのだが、こちらの世界では成人なのだよなぁ。

 

「まあ、依頼がもらえるか分からないけど確認してみるよ」

「はい。お願いします」

 今はミラもアミルもイケイケだよな。やる気があるのは良いことなのだろうけど。

 

「迷宮の方も頼むぞ。油断するなよ」

「はい、お任せください」

 頼もしい言葉と表情。

 

 ベイルで身請けした頃の自信なさげな表情は最近見たことがない。

 鍛冶師と迷宮での経験で成長したのだろうな。

 

・・・・・・

 

 ドブローの鍛冶師ギルドに訪ね、取引の相談をしている事務方の者を呼び出してもらった。

 

「お待ちしてましたよ。いろいろと相談したいことがありまして」

「そうか、まずは先に納品の方から片づけさせてほしい」

 先日、取り交わした契約書を取り出して彼に見せた。

 

「まず、竜革の防具を納品する作業受託契約の納品からだ。

 納品物はどこへ置いたらよい?」

 数が数だけに、前のテーブルの上に置ける量ではない。

 

「もう、納品できるのですか?また契約期間の1/3しか経ってないのですが」

「うちの鍛冶師は優秀だからな」

 本当は2馬力で作成しているのだが、それにしたって破格の製造能力だ。

 

 慌てて彼は納品担当の者を呼び出し、納品物を確認するための別室に案内された。

 

「こちらにお願いします。

 検品で問題なかったものから収納していきますので、ドンドン出して下さい」

「分かった」

 アイテムボックスから竜革のジャケット、竜革のグローブ、竜革の靴を取り出していく。

 

 各々60個だ。特に竜革のジャケットはでかいのでスペースが必要だ。

 それでも納品担当者は手際よく確認して、次々に収納していく。

 

「納品物としては問題ないものばかりです」

「そうか、それは良かった」

 武田菱が小さく刻印されているのだが、あまり気にしていないようだ。

 

 ひょっとしたら、一つ二つぐらいは納品NGとなるのかと思っていたが杞憂だった。

 

「では、これが報酬となりますので、確認をお願いします」

「ああ、確認させてもらおう」

 書類に記載された報酬は竜革が300と革が20だ。生成した装備品に使った素材の1/3。

 

「それで、うちの鍛冶師が言うには受託契約があれば、また引き受けたいそうだ」

「竜革の素材はまだまだ在庫がありますから、

 こちらとしては是非お願いしたいくらいですが大丈夫ですか?」

 真顔で心配されると俺も不安になるが、きっと大丈夫だ。契約期間は30日間だから。

 

「ああ、大丈夫だ。今回も同じ防具類だろうか?」

「そうですね。同じとなります」

 それなら引き受けるか。一度、納品実績があるものを作る方が良いだろう。

 

「ダマスカス鋼の防具でも引き受けられるが・・・・・・」

「ドブローではそれは難しいですね。3年待ちぐらいですけど、待ちますか?」

 首を横に振るしかない。どんだけダマスカス鋼に人気があるんだよ。

 

 竜革だって良い装備品が作れるのに。皆が皆、重戦士な訳でもないだろう。

 

「では、竜革の方で頼む」

「はい。では、直ぐに契約書と素材を用意させますので、あちらでお待ちください」

 

 事務方の男と元の部屋に戻って次の契約の話を始めた。

 

「次はスキル融合装備の納品の方だ。

 6つの納品対象のうち4つが用意できたので、途中で納品しても良いだろうか?」

「それはこちらとしてもありがたいですね。

 鑑定できる者を呼びますので納品対象を教えて下さい」

「防毒のダマスカス鋼盾が2つと激情のダマスカス鋼剣が1本、強権のダマスカス鋼槍が1本だ」

 彼は別の職員を呼んで、武器商人と防具商人の手配を依頼したようだ。

 

 このギルドも人材が豊かなのかな。仕事がスムーズに流れていくように感じる。

 活気があると言ってもよいのかもしれない。

 

 アイテムボックスから4つの装備品を取り出してテーブルの上に並べた。

 彼は一部納品のための預かり証を作成して俺に渡した。

 さすがに、この場で直ぐには鑑定できないので、後日結果を教えてくれるそうだ。

 

「残りの2つも融合が上手くいったら、そのうち持ってくるから」

「よろしくお願いします。それと、この契約の次の依頼をもう出しても良いですか?

 先日もお伝えしましたけど、この件は口コミでドブローの街に流しています。

 その結果、ギルドにカードを持ち込んでくる探索者が急増しました。

 なので、次の依頼を早々に出してしまいたいのです」

「それは構わないが、我が家がこの件に関わっているということは内密に頼むぞ。

 契約書面にはないが、その条件で引き受けたのだから」

 彼はコクコクと頷いているが、いずれは漏れてしまうだろうとは思っている。

 

 積極的に宣伝したい訳ではないので、伝わるのは遅ければ遅いほど良い。

 

「こちらが次の装備品の候補リストとカードの一覧です」

「確認するので、ちょっと待ってくれ」

 激情のダマスカス鋼剣と頑強の竜革ジャケットと頑強のダマスカス鋼盾が2つずつだな。

 

 前回、竜革の防具がなかったから指摘したけど、今回は取り込んでくれた訳か。

 そして、カードは確かに今回は結構揃っているな。コボルトもちゃんと半分はありそうだ。

 それにしても、これだけ良いスキル融合装備が提供されれば、迷宮攻略も捗るだろうな。

 

「ちょ、ちょっと報酬に竜のカードですか?」

「その分、早めに納品するように努力するぞ」

「え~、うーん、まあ良いでしょう。本当に早めに納品して下さいよ」

「鋭意、努力させてもらおう」

 せっかく竜のカードがあったのだから、いただきたい。

 

 さすがダマスカス鋼をジャンジャン持ち込んでくるだけあって、ドブローの探索者には手練れが多いのだろうか。

 正直、ここ最近だけに限ればクーラタルでルークと等価交換の取引をやっているよりドブローの方が効率が良い。

 ただ、流通量はクーラタルの方が圧倒的に多いだろうから、ドブローはいずれは頭打ちになるかもしれない。

 今は特需の期間だから、遠慮なく儲けさせてもらおう。金ではなくカードだが。

 

「こちらの契約書に記載のあるカードと素材を準備しますので、少々お待ちください」

「ああ、承知した」

 彼が退出するのと入れ替わりに先程の納品を担当してくれた者が入室してきた。

 

「初回契約の報酬と新しい契約の素材が準備できましたので、こちらにお越しください」

「分かった、すぐに行こう」

 納品した部屋へ逆戻りだ。行ったり来たりだな。

 

 前回の報酬と新しい契約の素材である竜革と革をひたすらアイテムボックスに積み込む。

 トータルで1000を超えているとか、公爵領での災害支援作業を思い出す。

 無心で淡々と収納を行う・・・・・・というか、もう放り捨てる感じで入れていく。

 

 ようやく、収納作業が終わり一息ついていたら、何やら事務所の方が騒がしい。

 賑やかなのは、活気がある証拠なのかね。

 

 事務方の男が職員を連れてやったきた。

 

「こちらの男からスキル融合装備の次の納品用の素材とカードを受け取って下さい。

 これが契約書と素材等のリストです。後で受領書に署名をするようにお願いします」

「分かった。それにしても、ここは賑やかで活気があるな。

 別の鍛冶師ギルドに行ったことがあるが、こんなに賑やかではなかったな」

 俺の言葉に彼は微妙な表情を浮かべた。

 

「今のアレはちょっと違いますね。

 どうやら鉱山で落盤事故があったようで、それでざわついているようです」

「そうだったのか。知らなかったとはいえ悪いこと言ったな。スマン」

 彼は首を横に振った。

 

「いえ、時々あることでどうしようもない事故ですから気にしなくても」

「うちも動かせる人員が何名か家に詰めているので、何かできることがあれば・・・・・・」

 再び、彼は首を横に振る。

 

「まあ、今から駆けつけてどうにかなるものでもないです。

 近くに治療する者も常駐しているので、助かる者は助かるし、助からない者は助からない。

 そういうものらしいです。

 うちのギルドにも家族に関係者がいますから、その者達は現地に向かったみたいです」

「そうか。分かった」

 まあ、部外者が行ったところで、イロイロと訊いて回らなければならないし迷惑なだけか。

 

「それより、素材の受取をお願いします」

「分かった」

 再び、収納作業の苦行が始まった。

 

 今度は1000には満たず、500をちょっと超える程度だ。

 だからと言っても苦行は苦行なのだが。

 

 収納作業を終えて、本日の鍛冶師ギルドでの用件は完了。

 

「では、次にスキル融合装備が用意できたら来るので」

「早めに頼みますよ~」

「ああ、なるべく努力する」

 おかしい。朝、アミルに自重を促していたはずなのに。

 

 作業を増やしているのはやはり俺なのだろう。

 

 ギルドを出て、ダマスカス鋼の工房に向かった。

 

・・・・・・

 

「なんか鍛冶師ギルドの方でスキル融合装備が出回っているって聞いたけど、お前の仕業か?」

「さあ、なんのことやら・・・・・・」

 ここは惚けてしまおう。

 

「そういえば、知り合いにスキル融合防具を贈るとか言ってたのはどうする?

 調達可能なら、こちらで引き受けても良いが」

「ああ、また頼めるか?」

 今日は納品と御用聞きの日だな。

 

「希望の品は?」

「頑強のダマスカス鋼盾か耐毒のダマスカス鋼盾あたりだな」

 そういえば、空きスロット付きのダマスカス鋼盾の在庫はもう無かった。

 

 アミルかミラに生成してもらっても良いけど、ここで調達できるならしておくか。

 

「分かった。ちょっと、工房の装備品を見せてもらっても良いか?」

「ああ、別に構わないぞ」

 店主は俺の案内などせず、工房に戻って鍛冶師仕事を始めてしまった。

 

 勝手知ったる倉庫だから自由に見させてもらうけど。

 

 相変わらずの大量の装備品だが、結構な頻度で確認しに来ているから掘り出し物は多くない。

 空きスロットが4つの装備品はない。こんなに大量にあっても、そんなものだ。

 ダマスカス鋼の剣とエストックと槍に空きスロット3つのものがあったので、1本ずつ調達。

 他には空きスロットが2つのダマスカス鋼の盾を1つと空きスロット1つのダマスカス鋼の盾を3つ選択。

 

「それで、代金なのだけど・・・・・・」

「別に要らないから持ってけ」

 アバウト過ぎるだろう。

 

「そう言っても、後でダマスカス鋼の素材の報酬ももらうぞ」

「別に構わないぞ。こちらの欲しいスキル融合装備を持ってきてくれるのなら」

 こんなので、よく倒産しないな。

 

 実は俺の知らない所に優秀な経営者か商人でも潜んでいるのだろうか。

 

「じゃあ、頼んだぞ」

 

(バタン・・・・・・)

 

 俺の返事も聞かずに扉は閉められた。

 そのまま工房で鍛冶師の作業に勤しむのだろう。

 

 必要な防具は入手できたからヨシとしよう。ただでもらってしまったのだが、

 「ただより怖いものはない」と言われるが、工房の親父は覚えていないのだから大丈夫だろう。

 ちゃんとスキル融合装備でお返しはするし。

 

 まだ時間があるから、ペルマスクに行ってネックレスの納品を済ませよう。

 

・・・・・・

 

 今日は鏡と関係ないので、ワッペンを見せて入市税を払わずにペルマスクに入らせてもらった。

 ギルドを出て、いつもの案内人に連れられて店舗の方の応接室に。

 今日も親方は連れずに奥さんと案内人のみで商談開始。

 

「こちらが希望しているネックレス3つ。

 一つは最高級品、残りの2つの高級品で、

 こちらの少し小さめの琥珀の方が知り合いの方向けなので確認を・・・・・・」

「今回は早かったですね。確認させてもらいましょう」

 鋭い目をした女店主が品物を確認し始めた。あとは見守るしかない。

 

 彼女の確認が終わったので、値引き交渉を開始。

 とはいえ、こちらもあまり引けないので、30万1つ、20万2つで着地。

 

 それでも3割アップが効いたので、合計91万ナール。

 原作ヒロインは3割アップ無しでそのぐらいの値段で交渉していたのは凄くないだろうか。

 

「そして、こちらが琥珀の原石10個。こちらも確認を・・・・・・」

「確認しますね」

 ボーデの琥珀商で仕入れた琥珀の原石も売ってしまおう。

 

 琥珀は定期購入契約の範疇外だから、売れる時に売る。

 

「問題ないでしょう。全部いただきます」

 

 こちらは値引きバトルなどなく、1個4000ナールで10個あるから3割アップで5万2000ナールで売却。

 これで、ペルマスクの商談は終了か。

 

「ところで、あなたはなかなか阿漕な商売をされようとしていますね?」

「はぁ?」

 いや、改めて言われると阿漕な商売をしていなくもない。

 

 どれのことを言われているのか、分からないが。

 

「えーと・・・・・・」

「石鹸のことです」

 石鹸のどのことだろうか。

 

 石鹸の原材料費がほぼタダみたいなことに気付いたのか?

 石鹸の商品に貴族用と平民の富裕層向けに分けていることか?

 

「あの石鹸の入った箱のことです・・・・・・」

 ああぁ、さすがに商人だから気付いたか。

 

「あんな箱を作って、あなたはそのうち誰かに刺されますよ」

「刺されるって・・・・・・」

 いやいや、そこまで酷いことはしてないつもりなのだが。

 

「まあ、せっかくですから、そのまま販売させてもらいますけど」

「ソウデスカ」

 結局、同じ穴の(ムジナ)ではないだろうか。貉というよりは狐のような気もするけど。

 

 石鹸の箱には、石鹸を1つずつ収めるための窪みを作ってあり、石鹸を取り出すとそこには花の模様が見えるようになる。

 石鹸をどんどん使っていくと、穴が次々と露わになり様々な花の模様が見えてくる。

 まあ、使ったらここに石鹸を補充しましょうね・・・・・・というのを促すための誘導策だ。

 それを綺麗な模様と見るか、石鹸が無くなって寂しい絵柄と見るかは人それぞれだが。

 

 本当に石鹸を補充して買いたくなるのかは、正直よく分からない。

 だが、人は穴が空いてる(パンツにあながあいてる)とそこに何かを埋めたくなるものだと思う。

 それは俺に限った話ではないはず。

 

 エネドラからは『そのカラクリはあざとい』って言われたけど、彼女も止めなかったよな。

 その意味では、この女店主と一緒だ。

 だから俺も無罪のはず。

 

 女店主と俺は見つめ合いながら、悪い笑みを浮かべている。

 やはり、同じ穴の貉だ。きっと上手く鏡と抱き合わせで売りさばいてくれるだろう。

 こちらの目的はリピーターの獲得だ。

 

 女店主と案内人に礼を言って、工房の店舗を後にした。

 昼食は自宅の美味い食事を食べたいので、ギルドで退去の手続きをして自宅に戻った。

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