自宅に戻り、昼食時にエネドラとアミルに午前中の内容を共有。
防具作成の契約の納品を終えて報酬の素材を得たこと、新しく防具納品の受託作業の契約を受けたこと、スキル融合装備の次の契約をもらったことなど。
「素材やカードは既に作業部屋の倉庫に収納してある」
「分かりました。ミラちゃんにも伝えておきますね」
仕事を増やしてしまい申し訳ない。
琥珀のネックレスと原石の納品完了、石鹸箱のカラクリを指摘されたことも報告。
「まあ、女性の商人であれば気付くでしょう。刺されるかどうかは分かりませんが」
「そうか、そういうものか」
できれば、『この程度のことで刺されることはありません』と言ってほしかった。
ちょっとしたお茶目な絵柄を入れただけなのだから。
でも、ターヘラの職人の腕が良いのか、割と綺麗な絵柄で感心したのは事実だ。
タルエムの小箱のように高級志向ではなく素朴な絵柄ではあるのだが、そこには小賢しい罠が仕掛けてある。
この程度のことでもやらないよりはマシと思っている。
・・・・・・
エネドラと二人でベイルに移動して、カラダンとピコをピックアップ。
そのままザビルの冒険者ギルドに移動して、奴隷商館に向かった。
カラダンからは面談をした時のメモは既にもらって目を通してある。
あとは、マルクからもメモをもらって、突き合わせながら面談に臨む予定だ。
ドアをノックすると昨日同様にマルクが出てきて、応接室に案内してくれた。
当主を呼びに行かずに、そのまま話が始まるようだ。
「本日はヘルマン様の体調が良くありませんので、私が代理でお話しさせていただきます」
「そうか、よろしく頼む」
こんな状態では廃業するのは時間の問題かもな。
タケダ家が出店しなかったら、どうなるのだろうかと考えてしまう。
「まずは一通り、面談させてもらえるだろうか?」
「ええ、構いません。これが我が家にいる奴隷の特徴をメモしたものです」
どれどれ・・・・・・。うん、ダメだこれは。
ジョブが探索者の奴隷の説明に、『迷宮探索経験有』としか書いてない。
そんなのジョブから明らかだし、何階層まで探索した経験があるとか記載してくれよな。
得意な武器とか、苦手な事とかの記載もない。
名前と年齢、種族はさすがに記載があるけど、それは鑑定で分かるから。
鑑定では分からない特徴や経歴を知りたかったのに。
マルクは奴隷ではないから命令されたことしかできない人間ではないと思うのだが、わざと情報を隠しているのだとしてもコレはいただけない。
報告の様式なんて指定してないからやむを得ないのは差し引いてたとしても、酷い出来だ。
元の世界で他人の業務経歴書をチェックさせられてばかりだったから、余計そう感じてしまう。
これを見てしまうと、カラダンの方が優秀ではないかと思ってしまうな。
ちゃんとOJTをやってもらえるのか不安になってきた。
マルクは家宰と名乗っているが、事務仕事が実は苦手なのではないだろうか。
情報収集専門や護衛専門とか、何か事務仕事以外の一芸に秀でているのかも。
報告する技術は情報収集する者にもあった方が良いと思うけどね。
他に事務仕事が得意な者がいるのかもしれない。
「では、面談をお願いできるだろうか?」
「はい。まずは、昨日お話ししたヘルマン様の方で引き取る者を紹介いたします」
一度、マルクが奥に引っ込み、二人の者を連れてきた。
(鑑定)
コルト(人間族 男 43才 奴隷)
商人Lv36
装備 革の靴
イザベル(エルフ族 ♀ 38才 奴隷)
薬草採取士Lv19
装備 革の靴
エルフの女性は大き目のターバンのようなものを頭に巻いて耳を隠しているが・・・・・・ヘルマンはエロ爺ぃじゃないか?
原作でも種族の違う者に介護をさせると遺産相続で揉めないとあったから、そういうことなのだろうか。
ジョブが薬草採取士だから、何が何でも欲しい人材でもないが。
ちょっと惜しい人材ではあるかな。何がというと説明が難しいが。
そして、このコルトという商人が事務方のトップかもしれない。
商人のレベルもそこそこ高いし。
そして奴隷でも商人ジョブに就いている者は我が家以外にもやはり存在すると。
エルフ女性は名前を名乗って、ヘルマンの身の回りの世話をしていることを説明してくれたが興味は既に無くなり聞き流した。
まあ、しっかりと最期の時まで面倒みてやってくれと思うだけ。
「亡くなったザフト様の教育係をしていましたコルトと申します。
今は当館で雑多な売買と経理を担当しております」
「そうか立ち入ったことを質問するが、差しさわりのない範囲で答えてほしい」
商人の男はこちらを見ながら、少し意外そうな顔をしつつも頷いた。
「この奴隷商館には、22人の奴隷が在籍していると聞いたのだが、
22人の奴隷の10日分の食費を教えてほしい」
「現時点ではお答えできません。
タケダ様の家で当館の後を引き継ぐとなった際には担当の方にお教えいたします」
十分な回答だ。
つまり、コルトという商人はちゃんと奴隷のコストを把握しており、カラダンのOJTの一部は適切にやってもらえそうだということだな。
「分かった。ありがとう。
あと、これは情報の有無だけ答えてくれれば良いのだが、
過去にここで売却した奴隷の売却額とジョブ、年齢、性別、売却先等の情報はあるだろうか?」
「ございます。さきほどと同じですが、引継ぎが決まればお教えいたします」
ああ、これで必要な情報は取れそうだな。
別の商家に顧客の情報を譲渡して良いかというと、元の世界ではアウトの場合が多いが、こちらの世界ではそんなルールはないのだろう。
「他に俺に伝えておきたいことがあれば、教えてほしい」
「では、僭越ながら・・・・・・タケダ様が質の良い奴隷を確保したいと思われるのでしたら
奴隷の教育係をキチンと抱えることをお薦めします。
入荷時に高く売れることが見込める奴隷は稀ですから、
奴隷商館に入ってからの教育が重要となります。
この後、面談でお会いになると思いますので、詳しくはその者からお聞き下さい」
うん、それはアルマーの奴隷商館での失敗例を見てきたから理解しているぞ。
そして、この後に教育係が登場するのか、これは期待できるのかな。
カラダンが面談で会わなかった連中というのは、その者達かもしれない。
そして、教育係は残してくれるということか。
ちゃんとした教育係かどうか、人となりや能力を確認する必要があるけど。
正直、コルトは欲しい人材だが連れていくのであれば仕方ない。
この後会う者達に期待しよう。
「分かった。助言感謝する」
「奴隷に感謝など、勿体無いお言葉です」
いやいや、助言してくれる者は身分によらず貴重なのだよ。
「では、次の者を呼んで参ります」
二人を連れて、マルクは退室していった。
今度は四人の奴隷を連れてきた。
(鑑定)
マテウス(人間族 男 32才 奴隷)
剣匠Lv13
装備 硬革の靴
ニケ(人間族 女 26才 奴隷)
戦士Lv27
装備 硬革の靴
ミシェル(人間族 女 29才 奴隷)
商人Lv19
装備 革の靴
ナナ(人間族 女 33才 奴隷)
農夫Lv12
装備 革の靴
カラダンの方に目を向けると首を横に振っている。
彼が作ったメモになかった者達だ。隠し玉か。
だが、この四人はヘルマン爺さんが連れていかずに残留するということだな。
「この四人は奴隷商館において奴隷の教育、戦闘奴隷の訓練、食事の準備などを行なっており、
販売する奴隷とは別枠の者達となります。
そのため、そちらのカラダンさんは面談をしていらっしゃらないことになります。
では、それぞれ自己紹介をするように」
売却奴隷ではないから、カラダンには会わせてないと。
ここからが本当の面談になる訳だ。
「マテウスと言います。戦闘奴隷の訓練と迷宮探索が主な業務となります。
この国での迷宮では18階層まで探索したことがあります。
よろしくお願いします」
「ニケと申します。主な業務はマテウスと同じです。
迷宮では18階層まで探索したことがあります。
よろしくお願いします」
「奴隷の作法、ブラヒム語を教えておりますミシェルと申します。よろしくお願いします」
「奴隷達の食事の作成を手伝っていますナナです。よろしくお願いします」
「この面談の意図は伝えてあるのか?」
「はい。この四名には今の奴隷商館がいずれは廃業することは伝えてあります。
そして、ザビルの街でタケダ様が奴隷商館を開業し、
ここの奴隷が引き継がれる可能性があることも伝えました」
なるほど、では率直に質問をぶつけてみるか。
「いくつか質問させてほしい。
マテウスが言っていた、『この国での』という話だが、出身は帝国ではないということか?」
「はい、帝国との戦いで捕虜となった戦争奴隷です。私の出身国は・・・・・・」
マテウスが自分の出自について話をしてくれた。
彼は騎士家の次男に生まれ、帝国との戦闘で捕虜となり身代金が支払われず、この国で戦争奴隷に落とされたらしい。
レドリックよりは身分が高そうだが、奴隷の経緯は似たパターンのようだ。
ちなみにニケはその時の従者だったらしい。
彼からは『戦えますオーラ』が感じられる。
彼女の方もそこそこ戦えそうな雰囲気は感じられる。
実際に模擬戦を行なってみないと分からないが、この二人は即戦力かもしれない。
「それぞれの奴隷の戦闘への向き、不向きはどのように判断している?」
「やる気があるかどうかが、ほぼ全てだと思っています。
奴隷でやってくる者のほとんどは大した戦闘技術はありませんので、
そこから技術を身に付けられるかどうかはやる気と根気に左右されます。
諦めずに意欲を持って取り組んで迷宮に行くことが続けば、
いずれは経験と技術が身に付きますので」
特に教育手法等はなく、根性論に近いな。
だが、戦う意志がなければ素質など関係ないということには賛同する。
戦わなくても生きていく道が一応はあるのだから、戦うために覚悟が必要なのは間違いない。
理由は人によって違うだろうが。
やる気のない者を迷宮に連れていっても、足手まといなだけだからな。
「作法やブラヒム語についてはどうだ?ミシェルもマテウスと同じ意見か?」
「やる気と根気が必要なのは同じですが、
学ぶことに慣れているかどうかという点が少し違うかもしれません。
奴隷の中にもちゃんと教育を受けてきた者とそうでない者がいます。
教育を受けたことがある者は直ぐに順応できますが、
そもそも教育を受けたことがない者は初めに躓きます。
そこは少し支援してやり、それでも学ぶ意欲を持たない者は切り捨てます」
こ、怖いけど一抹の真実が含まれるな。
そもそも義務教育などない世界で教育を受けている者と受けてない者の格差は激しいだろうな。
奴隷になる者には教育を受けたことがない者も一定割合いるから、そこでブラヒム語を学ぶハードルは思った以上に高いのかもしれない。
ブラヒム語を学ばないと良いジョブには就けないから、販売価格の高い奴隷にはならないと。
「ミシェルが教えられる内容はどの程度の分野に及ぶのだろうか?」
「大商家の使用人になれる程度の礼儀作法、商人の業務全般、
ブラヒム語と人間族の言葉の教育となります」
教育の方は後で詳しく訊くか。
「ミシェルが得意としている商品知識等はあるか?
例えば宝飾品に精通しているとか、食料品の販売経験が長かった等という意味だ」
「えっ、そうですね・・・・・・
奴隷となる前は私の実家は雑貨屋でしたから
雑貨や家具に関する販売経験や知識はありますが・・・・・・」
まさか、奴隷の教育以外で商売の話をされるとは思っていなかったのだろう。
先程までは冷静に淡々と答えていたのに、少し動揺しているのが可愛い。
マルクに奴隷の特徴を記載してメモを渡せと言っていたが、そもそもの視点が違ったか。
こちらは奴隷商館以外での業務も考えているが、商館の業務の範囲を超えて長所やら経験やらを記載しようという発想が出てこないのだろうな。
そのギャップは面談で徐々に埋めていかなくては。
「ナナは料理の作成を手伝っていると言っていたが、
この商館では奴隷は自分達の食事は自分達で作らせるのか?」
「はい。その通りです。
ただ、奴隷だけに任せると酷い結果になることがあるので、
私が手伝って味を整えることになります」
なるほどね。
売却用の奴隷が16人。結構な食事の量だ。
その食事を一人で作るのは現実的ではないけど、奴隷達に任せるのも現実的ではないと。
「ナナは料理以外で得意なことは何があるのだ?」
「えっ・・・・・・得意なこと・・・・・・は特にありません」
そんなことは無いだろう。
「畑仕事などはどうだ?何か植物を育てたり、子守をしたりとかは?」
「えっ、土いじりは好きで、この商館でも暇がある時はやっています。
子育ては経験があるのでできますけど・・・・・・」
混乱しているな。
「産婆やその手伝いの経験はあるか?」
「えっ?・・・・・・近所の村で子供が生まれる時に産婆さんの手伝いに参加したことはあります。
でも、それと奴隷商館と何の関係が・・・・・・」
いやいや、産婆さんの出産介助に立ち会ったのは貴重な経験だよ。
マルクが呆れたような表情で俺を見つめ、ミシェルが小さく笑っている。
こいつらのこういう表情が見たかったのだよな。
その後も俺とエネドラ、カラダンが奴隷商館業務への関係有無に関わらず様々な質問をぶつけて、面談の場が微妙な雰囲気になったが有意義な場であった。
彼らの表情は一様に微妙な感じだったが。
ただ、この四人は恐らく当たりだ。
奴隷商館を支える貴重な人材であることは間違いなく、他の分野でも活躍できそうな気がした。
「そろそろよろしいでしょうか?」
「ああ、次の者達を連れてきてくれ」
奴隷の面談を打ち切るときの言葉はテンプレなのだろうか。
その後は2グループに分けて16名を8名ずつで面談を行なったが、確かにカラダンの事前報告通りパッとしない感じだった。
猫人族の男性の若者は神官のジョブで多少戦えそうな感じだが、当然マテウスレベルではない。
今後鍛えれば戦力になるかもといったレベル。
他には、探索者4名、戦士2名、剣士2名、僧侶2名・・・・・・多分、タケダ家には迎え入れず売却候補かもしれない。
マテウスが言っていたやる気次第なのだろうが、どうだろうな。
農夫のジョブはおらず、他には村人ジョブが5名。
そのうち2名は母娘だ。
母親の方はやる気があまり感じられない無気力な様子に見えた。
娘の方は14才で未成年だ。
売買はできないはずだが、やむを得ない事情で母親についてきたらしい。
村人ジョブの方が実は化ける可能性があるのだろうか。
面談からはあまりそう感じられなかったが。
大量面談はいったん終了して、マルクがミシェルを連れて戻ってきた。
これからの話をするのだよな。コルトの方は口出ししないのか。
奴隷商館の今後の対応についてはミシェルが実はキーマンなのかもしれない。
売り物としての奴隷は微妙だが、奴隷商館を運営する人材といった意味では、必要最低限のレベルは確保できそうだと思えた。
戦闘奴隷の教育係の方は見込みがありそうで、クーラタルに異動させて別の仕事に従事してもらっても良いかもしれない。
もちろん教育係の後継者を用意した後になるだろうが。
カラダンとミシェルのサポートで経営自体は成り立つ気もする。
奴隷商館で儲けようと思ってる訳ではなく、人材獲得のインフラにしたいという思惑だ。
問題があるとしたら、必要以上にザビルに密接に関わり過ぎて、ザビルにマイナス面の何かが発生した際にそれに巻き込まれるリスクをどう捉えるかという点か。
ただ、それを言い出すとそもそも出店などできないから、許容すべきリスクなのかもしれない。
「面談が終わりましたので、今後のことについて御相談させて下さい」
「そうだな。具体的なことについて、何か提案があるか?」
マルクへの質問というよりは、ミシェルへの質問だ。
「その前に当主からの要望をお伝えしたいと思います」
「要望?・・・・・・伺おうか」
ここでヘルマン爺さんか。マルクは何を伝えようとしているのだろうか。
「まず、ザビルの防具屋の件となります。
当主の希望ですが防具屋が引き受けた納品契約について、
タケダ様の助力を得て無事完遂させてほしいということがあります」
「それは、奴隷商館の引継ぎと無関係の内容ではないか?」
ここで何故、防具屋の話になるのだろうか。
「確かにおっしゃる通りではございますが、
当主はザフト様が誘った商売の件で防具屋の家族に被害が出たことに心を痛めております。
加えて、ザビルの騎士団の戦力を増強する防具の納品が遅れることも危惧しております」
「前者は防具屋も商売に乗ったのだから自己責任の範疇では?
後者は奴隷商館の責任範疇外では?」
何か感情論が商売の中に紛れ込んではいないか?
「確かにご指摘の通りかと存じます。
ですが、当主は長年ザビルの街で商売を営んできたこともあり、
廃業した後も他の商店や騎士団が栄えることを望んでおります」
「望むのは構わないが、対価もなく他者を頼ろうとするのは商売人としてどうだろうな。
我が家がザビルに出店する決断をまだしていないという事実を忘れてはいないか?」
マルクの顔が少し歪んだように思える。断られるとは思っていなかったのだろうか。
「私からよろしいでしょうか?」
「構わないぞ、ミシェル」
こちらが事実上の家宰なのかな。それともコルトと既に相談済なのか。
「ヘルマン様はタケダ様が本件を引き受けてくれる対価として、
当家に在籍している奴隷を格安でお譲りすることも考えられているようです。
付け加えますと、防具屋の納品契約の助力をしていただけるのなら、
ザビル騎士団の有力貴族の方への仲介をさせていただき、
今後の騎士団との関係作りにも貢献できるかと考えますがいかがでしょうか?」
「前者はともかく、後者が我が家の利点になるというのは憶測に過ぎないのでは?
ザビルの騎士団との距離感は我が家の方で決めたいというのが本音だ」
それでも、騎士団と奴隷商館の関係作りは必須のようだから仲介自体は有難いと思う。
ただ、高値で売りつけられるのが嫌だというだけだ。
「では、明確な利点が示せれば交渉に乗っていただけるということでしょうか?」
「そうだな」
こ、こいつ奴隷身分でありながら、他家の当主と交渉する気満々だな。
おもしろい奴だ。カラダン以来の興味深い人材かも。
エネドラも薄っすらと驚いた表情が垣間見れる。
カラダンも何やら面白い者を見ている感じで、口角が少し上がっている。
マルクとピコは置いてけぼりだ。
家宰を名乗っておきながら、マルクはそれで良いのか?
それにしても、当主のヘルマン爺さんはチト甘っちょろいのではないだろうか。
引退間際になると、地元貢献とか綺麗に引退したいとかという気持ちが湧くのだろうか。
孫である後継者を失って、何か別のものを求めようとしているのかもしれないな。
こちらは損得で考えさせてもらうけど。
「仮にですが、我が家に在籍する奴隷全員を無償でお譲りしますと申し上げたら、
騎士団への仲介は別として、防具屋の納品契約の件を引き受けていただけますでしょうか?」
「ちょっと待て、ミシェル。ヘルマン様にお伺いを立てずに勝手に何をいったい・・・・・・」
「私には当主にご納得していただける自信があります」
マルクとミシェルの言い争いを見ながら、家宰がマルクではないことは疑いが無くなった。
この女商人、面白い。我が家に欲しくなったぞ。
傾きかけたヘルマン家に見切りをつけて、タケダ家に乗り換えようとしている気もするが。
そういう打算のため、自分の持てるものをフル動員して何とかしようとする心意気は買える。
ひょっとしたら、マテウスやニケよりも貴重な人材かもしれない。
大失敗を引き起こしそうなリスクもあるが。
あとは初めに紹介されたコルトという商人との交渉なのだろうか。
力関係は分からないが、普通に考えれば連れていくコルトの方が立場は上ではないだろうか。
それでもヘルマン爺さんかコルトを説得できる自信があるのか。
「防具屋の納品契約の期日まで時間がないぞ。
直ぐにでも決断しないと、こちらも準備に時間がかかるので間に合わない。
それと防具屋の件だが納品契約だけ凌いでも、防具商人のジョブを持つ者がいなければ
経営が破綻するのは避けられないだろう。
それが当主の意向に沿うことになるのか?」
「防具屋が潰れた後にタケダ様が出店すれば良いのではないでしょうか?
破綻した家族をこちらの奴隷商館で引き受け、
それをタケダ様にお譲りすれば人手の確保にも繋がり、
一家離散にもならないので、総じて当主の意向に沿うことになるのではないでしょうか?」
ザックリとした損得勘定では確かにその通りだな。
ただ、ミシェルの冷酷にも思える一面には注意が必要かもな。
奴隷商館にいるとこんな感じになるのだろうか。
防具屋母娘が生きていくためには、どちらが幸せなのかは分からないが。
得られるモノは4名の奴隷商館を支える人材、16名のその他大勢レベルの奴隷達、防具商人母娘の奴隷と契約の対価である50万ナール。
失うモノは納品契約に必要な防具を揃えるための鍛冶素材とアミル達の労働力。
奴隷商館と防具屋を出店する出費は店舗経営のための投資だから、別で勘定する必要があるが。
奴隷22名をタダでもらえるのなら、一考の価値があるか。
本当にミシェルが説得できるのかどうかだが・・・・・・それはこちらの与り知らないことだ。
「時間がないぞ。本当に大丈夫なのかな?」
「はい。一両日中にお返事をいたします」
マルクがドン引きした顔になっている。
気持ちは分からなくもないが、お前はお前でしっかりしろと言いたい。
「では、この後、当主に相談してなるべく早くお伝えします」
「そうか。だが、そちらの話がまとまったとしても決断するのはうちだ。
まとまったからと言っても、必ず引き受ける訳ではないからな」
俺の言葉にも全く動じずにミシェルは笑顔で頷いている。
この件がまとまらなかったら、ミシェルのこの商館での立場が無くなるのではないだろうか。
そんな事とは関係なく、実力者としての立場があり問題ないのだろうか。
ひとしきり、話が終わったのでクロージングかと思ったら、マルクからまだ何かあるようだ。
「もう一つ、当主からの要望がございます。
奴隷同士ではありますが、マテウスとニケの夫婦関係を認めていただきたいとのことです。
二人は長年、当家に尽くしており、双方とも憎からず思っているようで
当主としても二人の関係をなんとかしてやりたいと思っておられるようです」
「・・・・・・」
レドリックとポーラと同じパターンか?妊娠はしていないのだろうけど。
あと、『長年』という言葉を使えば、相手が説得できると思ってないか?
そちらでは長年であっても、こちらでは最近なのだが。
これを認めるとニケは我が家に加わって暫くすると産休・育休モードに入るということか。
社員の福利厚生を重視する我が家だが、これは判断に迷うな。
だけど俺の隣にいるエネドラはニッコリと笑っているから否定しづらい。
カラダンは少し肩を震わせている。
「先程のミシェルの提案と合わせて、こちらで判断させてもらおう。
もう他に要望はないな?」
「はい。ございません」
これ以上の要望は聞きたくない。
というか、やっぱり年取ると情に脆くなるのだろうか。
このザビルに根付いて生きてきた結果がコレか。
ベイルやクーラタルに最近越してきた俺には想像もつかない。
少し毒気を抜かれた気分になったが、マルクとミシェルに礼を告げて商館を後にした。
商館を出て、エネドラとカラダンの顔を見ると何も言わずに苦笑している。
俺が次にどのような決断を下すつもりなのか予想ができているのかもな。
はあぁ。
ベイルに二人を送り、エネドラと二人で帰宅した。