異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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020.引継ぎ

 アルマーへの遺産対応をした翌日は剣術指南所に子供達を送り届ける日だ。

 業務提携の契約を結び、習熟期間を経て本格作業に入った子供達の1組目の作業期間が終わったから。

 カラダンの報告では、順調に石鹸の量産作業が進んだらしい。

 積みあがってきた石鹸セットを売りさばかないと。

 

 

 カラダンとピコがザビルの奴隷商館の対応にかかりっきりになったせいで、ビンスとリックの二人が活躍せざるを得なかった。

 二人とも子供達の面倒を上手く見ながら石鹸作成の作業を軌道に乗せてくれたらしい。

 カラダンとピコが抜けても、頑張って対応してくれたビンスとリックには感謝だ。

 そして、カラダンとピコはザビルの引継ぎ対応で今後も不在になる。

 ベイルの責任者には新しくミモザが就任する。

 カラダンから事前に引継ぎをしてもらっているとはいえ、なかなか大変な役目だ。

 エネドラとチクルスのフォローがあるので少しはマシなのだろうが。

 

 今日は子供達を送りがてら、ミモザの紹介もする予定だ。

 こういう時は流石に責任者の俺は顔を出さなければならない。

 

 ターヘラに行こうとしたところで、増築工事の件で引き留められた。

 しかも、これはエネドラでは対応できない内容だった。

 

「この、小さい部屋の排水の穴はどこに開ければいいんだ?」

「ああ、こっちの壁に近い位置だ」

 大工の親方の疑問に答える。

 

 シャワー室なんてこの世界にはないから、立ったまま水やお湯を体に浴びて、流れ落ちる水がどこの穴に流れていくかなんて俺以外には説明できない。

 親方に渡した部屋の見取り図なんて大雑把だし、シャワー室の排水位置を設計した図面などない。

 エネドラも横で聞いているが、俺の説明を聞いたところでチンプンカンプンだろう。

 俺の説明もたいがい適当だし。

 

「とりあえずは分かった。この辺りに穴を開ければいいいんだな。

 あとはそれぞれの小部屋に同じように穴を開けていくから」

「ああ、それで大丈夫だ。穴の位置は壁に向かって同じ位置にしてくれよ」

 親方は頷いてくれたから大丈夫だろう。

 

 壁に向かって上側に温水と給水の蛇口を設置する。

 どのシャワー室でも同じ使い勝手にするため、同じ位置に蛇口や排水溝を付けたい。

 

 親方の疑問に答え終わって、エネドラと共に家に戻る。

 

「旦那様は不思議なものを思いつきますね。トイレの洗浄設備とか」

 洗浄設備って、ウォシュレットのことか。

 

 シャワーもウォシュレットも元の世界のモノだからなぁ。

 完成後はシャワーもウォシュレット同様、この家ではなくてはならないものになるだろう。

 特に夏場は必需品だ。

 

 それにしても惜しかった。

 親方の傍にエネドラがいなければ、秘密基地の相談ができたのだが。

 また、親方と二人っきりになる機会を窺おう。

 

 玄関に戻ったが、ターヘラに出向くのが随分遅くなってしまった。急がなくては。

 

「じゃあ、ターヘラに行って、カラダンからミモザへの引継ぎの件をナナイに説明してくる」

「はい。いってらっしゃいませ、旦那様」

 剣術指南所の食糧庫の壁にワープで移動。

 

・・・・・・

 

 食堂に向かうと、何やら大勢の人だかり。

 今日は子供達は帰宅するだけで、二組目を受け入れるのは明後日だ。

 なので、特に何のイベントもなく解散して、食堂はガラガラだと思ったのだが何やらざわついている模様。

 

 カラダンの姿を見かけたので声をかけた。

 

「なんか、盛り上がっているみたいだけど、どうしたのだ?」

「えーと、アルマーさんがナナイさんに結婚を申し込みました」

 はあ?一晩考えて直ぐに実行に移したのか。

 

「それで?」

「ナナイさんは受けたみたいです。条件付きで」

 玉砕しなかったのか。それはめでたい・・・・・・のか?

 

「ニムラルは反対しなかったのか?」

「特に反対はしてないみたいですね」

 『娘が欲しければ俺を倒してからにしろ』なんて展開はなかった訳ね。

 

 まあ、あのオッサンは何も考えてないだけかもしれないが。

 

「それで条件って?」

「ここの孤児院の仕事を続けることですね。

 ナナイさんがいなくなると、ここは破綻しますから良かったです」

 確かに。

 

 それにしても、アルマーとナナイが結婚ねぇ。

 この世界の平民の結婚って、どんな感じなのだろうね。

 結婚式ってあるのかなぁ。この世界に来て見たことないから、無さそうな気もするけど。

 

 それよか、性奴隷の説明もまともにできなかった二人が、初夜を無事迎えられるのかね。

 それこそ余計なお世話だが。

 

「子供達は結婚の意味とか理解してそうだったのか?」

「さあ?女の子達は騒いでいたから理解しているのかもしれません。

 男の子達は分かっているのかどうか」

 やっぱり、この世界でも女の子の方がませているのかな。

 

 二人には、そのうち何か贈ってやるかな。

 ナナイの(ゲンコツ)対策用でアルマーのために身代わりのミサンガとか。

 

「騒ぎが収まったら、カラダンからミモザへの引継ぎの件を切り出すか?」

「ああ、もう既にナナイさんには説明しました。アルマーさんも横にいましたね。

 彼女の方から子供達には説明してくれるようです。

 実際に対応しているのはビンスとリックなので、恐らく問題ないと思いますけど。

 子供達も二人に懐いているので」

 そうか。じゃあ、俺の役目はもう終わりか。

 

 まさに顔を出しただけって感じだな。

 せめて、二人に祝福でもして帰るか。

 

「ミモザへの引継ぎは昨晩の報告では順調って話だったよな?」

「はい。石鹸の作成はクーラタルでも彼女はやっていたので問題ないです。

 子供達の対応も慣れているみたいだから大丈夫でしょう。

 問題があるとしたら、お金の・・・・・・収支計算ですね。

 彼女のジョブは商人ではないので、計算は苦手みたいですから。

 その辺りは夜になったら私がフォローします。

 ザビルには当面は通いなので、夜は時間が空いていますから」

 さすがはエマーロ族は夜に強いな。

 

 そして、薬草採取士のミモザにはカルクのスキルがないから計算では苦戦と。

 こればっかりは当面は仕方ないか。

 

「ビンスかリックのどちらかを商人のジョブにしておくこともできるが」

「そうですね。ただ、商人にするとアイテムボックスが使えなくなるので不便なのですよね。

 ゴッゼル士爵様の対応で迷宮ドロップ品が大量に持ち込まれることがあるので、

 アイテムボックスが使えると直ぐに受け取れますから」

 なるほど、一長一短あるのか。

 

「ゴッゼル士爵様達の迷宮探索は順調そうだな」

「探索が順調なのかは分かりかねますが、

 ドロップ品とモンスターカードは定期的に納めていただいていますので

 我が家の目論見通りではありますね」

 実に商人らしい表現。

 

 俺にとってはそちらの方が好感が持てる。

 

 アルマーとナナイへの人だかりがすごいな。

 特に彼女はこの場所にとって大切な人間だからな。

 子供達の嬉しそうな顔に取り囲まれて幸せそうだ。

 

 家族を持ったアルマーの責任は一気に重たくなった。

 その責任に相応しい行動と結果を出さなければ・・・・・・ニムラルのおっさんがアルマーの(たま)奪い(とり)にくるかもな。

 

「こういう場合って、結婚のためのお祝いで宴でも開くものなのかな?」

「えっ?そんなのないと思いますよ。ギルドに届出して終わりかと。

 貴族や大商家の結婚なら違うかもしれませんけど」

 ふーん、そんなにあっさりとしているのか。

 

 まあ、贈り物をするぐらいはアリだろう。

 

「ここで、やらなければならないことで残っているのは?

 双子の稼いだドロップ品を渡すのと次回の日程の確認ぐらいだっけ?」

「日程の確認は既に終わっていて、計画通りに明後日に二組目を受け入れることで

 ナナイさんとは話がついています。

 ドロップ品を渡すのは、もうしばらくしてからにしようと思います」

 まあ、この目出度いイベントに水を差すのも悪いから後回しにせざるを得ない。

 

「双子は明日のいつ戻る予定か分かるか?」

「明日の朝イチです。

 もう何度も里帰りしているので、あまり長居をしなくても良いみたいです」

 あいつらホームシックとは無縁だったな。

 

 しばらくすると、子供達は一人、二人と離れていった。

 どの子も笑顔だ。イベントに飢えていたのかな。

 

 タイミングを見て、二人に近寄った。

 

「ナナイ、アルマーと結婚することになったんだって?おめでとう」

「ありがとうございます」

 ナナイは頬を少し赤くしながらも笑顔だ。

 

「昨晩考えて・・・・・・どうしても自分の気持ちを抑えきれずに・・・・・・ナナイに・・・・・・」

 泣くな、アルマー。彼女が笑顔の時はお前も笑顔になれ。

 

「それで、結婚したら一緒に暮らすのか?」

 その瞬間、二人は真っ赤になって俯いた。

 

 この辺りは全然、二人とも成長していないな。

 まだ俺も二人と会ってから大して経ってないのだけど。

 

「いえ、彼女は孤児院の仕事がありますから、僕がここに時々手伝いに通う感じです。

 うちの戦闘奴隷の面倒をニムラルさんにみてもらっていますし」

「ふーん」

 それだと今まで大して変わらないじゃん。

 

 逢引きする時はアルマーの館ですれば良いのか。

 館には奴隷もいるけど、ノーカウントなのかもしれない。

 

「結婚したからには、今まで以上に堅実に商売しないとな。

 奴隷商人が没落して家族ともども奴隷落ちなんてのは絶対にダメだからな?」

「はい。連帯保証人になってもらったユキムラさんの顔に泥を塗るようなことはしません」

 くっ、『連帯保証人』という言葉がボディーブローのように効いてくる。

 

 その言葉、なんとかならんのか?

 

「まあ、俺の話はともかく、ナナイのために頑張れよ。無理せずにな」

「はい、大丈夫です。彼女も奴隷商館の経営内容を確認すると言ってますから」

 本当に大丈夫なのだろうか。

 

 彼女は孤児院で14人の子供達と大人二人分の切り盛りをしてきたから、アルマーよりはマシかもしれない。

 高額な奴隷を多く購入する等、無謀な投資でもしない限りは。

 

 その後は二人とも通常モードに戻り、カラダンがナナイへドロップ品の受け渡しを行なった。

 アイテムボックスから取り出すのはレイモンドだけど。

 ミモザも傍らでメモを取りながら引継ぎを行なっている。

 

 双子の迷宮で稼ぐドロップ品の数はかなりの量で、孤児院の子供達全員分の食費を軽くオーバーしている。

 オーバーした分は生薬や装備品にして渡すようにした。

 まさにタ●ガーマスクの伊達●人状態だ。

 一年、この状態が続ければ孤児院の経営状態もかなり改善するだろう。

 双子は迷宮でも修練場での模擬戦でも生き生きと活躍しているから、一年ぐらいの現状維持は問題ない気がする。

 

 そして、双子の件とは別に石鹸の委託作業の収入もある。

 収入よりも子供達が外の世界を知ることで得るものの方が大きいと思っているけど。

 

「じゃあ、これからはミモザが責任者となるのでよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします、ミモザさん」

 ナナイとミモザでお互いにお辞儀をする。なんだか日本にいた時を思い出す光景。

 

 剣術指南所での引継ぎを終えたので、皆でベイルの家に戻った。

 ミモザはベイルで確認作業があるようだ。ビンスとリックの部屋に向かった。

 

 俺はカラダンとピコを連れてクーラタルの自宅にワープで移動。

 

 カラダンとピコの護衛をピックアップするためだ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様。今から出発しますか?」

「ああ、待たせたな。レドリック」

 今日の護衛は久々のレドリックだ。

 

 護衛部隊はターレ迷宮の探索が休みなので、留守番組が多くいる。

 双子が里帰りしているが、それでも6人いるので邸宅の護衛としては充分な戦力。

 食事を作る手伝いや訓練などもやっているが、頭数は多い。

 なので、レドリックも久しぶりに遠くの街に連れていくことにした。

 マテウスに会わせてみたいというのもある。

 

 ザビルの冒険者ギルドにワープして、奴隷商館に向かった。

 

・・・・・・

 

 応接室で少し待たされたが、マルクがコルトとミシェルを連れてやってきた。

 挨拶を交わして、本題に入る。

 

「ダマスカス鋼の防具の準備ができた。納品できるように持ってきている。

 そちらの準備状況を教えてもらいたい。騎士団の方とは話がついたのか?」

「はい。領主様には合意していただきました。

 これから騎士団の方に伝えてきますので、

 午後にもう一度こちらに来ていただけますでしょうか?」

 領主・・・・・・だと?

 

 そして、ミシェルはニッコニッコの笑顔だな。面白がりやがって。

 

「交渉の相手はザビルの領主の方なのか?」

「はい。ザビル子爵です」

 子爵・・・・・・確か男爵よりも上の爵位だったか。

 

 ゴスラー騎士団長も子爵だったよな。

 

「分かった。では午後にもう一度出直してこよう。

 そういえば、マテウスは今日はどうしているのだ?」

「迷宮に出ております」

 レドリックに会わせてみたかったのだが、残念。

 

 仕切り直しのため、いったん奴隷商館を後にした。

 

・・・・・・

 

「昼食はクーラタルに戻って食べるか。それまでには少し時間があるな。

 ザビルの商人ギルドでカラダンとピコの登録をしてしまうか。

 そして、カラダンは奴隷商人への転職をするか」

「もう納品完了も間近ですし、

 正式に活動するには正規の手続きをしてしまった方が良いかと思います」

 ちゃっちゃっと済ませるか。

 

 エネドラの登録の時も直ぐに終わったしな。

 

 四人で商人ギルドに向かった。

 さすがにクーラタルと比べると規模は小さいが、それでも立派な建物ではあるな。

 

 受付で用件を伝えると、職員が来て奥の一室に案内された。

 

「ここで手続きを行います。商人の登録が2名ということで間違いないでしょうか?」

「ああ、その通りだが、

 こちらの者・・・・・・カラダンという名だが・・・・・・奴隷商人へのジョブ変更をしたい」

 俺の言葉に職員がギョッとした顔をした。

 

「では、こちらの方がヘルマン様の店の後を継がれる・・・・・・」

「まだ正式に決まった訳ではないので、内密にな」

 既に奴隷商人協会には筒抜けだったが、あまり駄々洩れも困る。

 

 引継ぎが不調に終わる可能性もゼロではないのだし。

 

「では、こちらに・・・・・・」

 書類の記載が完了し、登録料二人分の6万ナールを支払うと二人は奥に連れていかれた。

 

 カラダンは奴隷商人のジョブのまま、ピコは冒険者から商人にジョブ変更してある。

 転職先のジョブのままでギルド神殿で転職できることは既に試してある。

 ピコは冒険者の方が活躍機会が多いが、各街で迷宮探索者相手にカラダンとカード収集をしてもらうから、防具商人の方が便利かもしれない。

 ただ、15才という年でいきなり防具商人になると悪目立ちするから、初めは商人のジョブで登録する。

 既に防具商人のジョブを得ているのだが。

 どこかで見切りを付けて転職させたいな。

 

 やがて、少し赤い顔をしたピコとにこやかな顔をしたカラダンが戻ってきた。

 無事終わったようだな。

 

 職員に礼を告げて、ギルドを後にした。

 

「なにか分からないうちに、ピカッと光ったと思ったら終わってました。

 これで商人になったのですね」

「そうだな。今は冒険者にジョブを戻したけど・・・・・・」

 俺の言葉に微妙な表情のピコ。

 

 だって、商人のジョブってイマイチ使い勝手が悪いし。

 

 今日はベイルに子供達がいないからベイルでの食事はなく、クーラタルに全員集合だ。

 昼飯を食べるためにクーラタルの自宅に四人で戻った。

 

・・・・・・

 

 俺の目の前には、木製の剣を構えた二人の男が練兵場で対峙しているのが見える。

 一人は、両手に木刀を二本構えたレドリック。

 もう一人は、木の剣を構えたザビル騎士団長のリカルド男爵。

 

 

 どうして、こうなった?

 

 

 昼食を終えて、ザビルの奴隷商館に行き、そのまま領主の館に連れていかれた。

 取り急ぎ、騎士団員に納品対象の防具一式を引き渡して、問題ないことを確認。

 50万ナールをその場で受け取るのかと思ったら、領主の執務室に連れていかれて報酬を受領。

 

 その場にいた騎士団長のリカルド様が、レドリックと模擬戦をやりたいと言い出しやがった。

 そして、目の前の状況へと至る。

 

 ザビルの領主であるガルシア様こと、ザビル子爵も面白がっている。

 ハルツ公よりも酷くない?

 

 

リカルド・エルナンド・アンザビル(人間族 男 42歳 男爵)

聖騎士Lv19

装備 木の剣 竜革の鎧 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

 

レドリック(人間族 男 25才 奴隷)

剣聖Lv32

装備 木刀 木刀 竜革の鎧 竜革の靴 耐火のダマスカス鋼額金 耐毒の竜革グローブ

    身代わりのミサンガ

 

 

 聖騎士Lv19 vs 剣聖Lv32 で防具だけ見れば勝っている。

 防具鑑定上は1属性でも実際には4属性だし、状態異常も4つ耐性があるのだ。

 まあ、魔法攻撃も状態異常付与の攻撃もできないから互角か。

 というか、貴族の男爵と我が家の奴隷でほぼ同じレベルの装備ということに苦笑してしまう。

 

 

 リカルド男爵は獰猛な笑みを湛えながら、ゆっくりとレドリックとの間合いを詰めていく。

 木の剣を横一閃で振るも、レドリックは微動だにせず。

 間合いの外からの斬撃であるのを見切っている。

 

 ゆらりとレドリックが自然に間合いを詰め、二刀による連撃を開始。

 盾を持たない男爵は木の剣で受けながら、軽やかに躱していく。

 だが、レドリックの連撃は男爵の回避を嘲笑うように、回転速度を上げて手数を増やす。

 一発、二発は鎧に入っているのが遠目にも分かる。

 

 木刀の一撃だからダメージがほとんどないだけだ。

 男爵の顔から笑みが消えて、無表情になった。

 レドリックの斬撃にカウンターを入れようと木の剣を振るうが、もう一方の手の木刀でカウンター返しが炸裂する。

 

 

 俺の近くにザビル子爵が無造作に寄ってきた。

 

ガルシア・エルナンド・アンザビル(人間族 男 32歳 子爵)

聖騎士Lv11

装備 激情のダマスカス鋼剣 竜革の鎧 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

 それにしても、この子爵も前衛でバリバリ戦いそうな雰囲気だな。

 スキル融合装備で身を固めてはないから、今後の取引に期待できるのかな。

 

 

「あの剣匠の男、強いな。うちのリカルドも相当な猛者のはずだが・・・・・・押されているな」

「普段から鍛えておりますから」

 ザビル子爵が戦いの感想を漏らしたが、実際にはレドリックは剣匠でなく剣聖だ。

 

 剣聖のジョブを得てそれほど経ってはいないが、レドリックが負けるとは全く思っていない。

 確実に勝ちを拾うなら俺のセブンスジョブを乗せた状態でやるのだが、今回の目的は違うのでレドリックには素の力で模擬戦を戦ってもらっている。

 

「リカルド様はいつもあのように模擬戦を挑まれるのですか?」

「強そうな者にはな」

 迷惑な奴だな。迷宮攻略では活躍しそうだけど。

 

 

 その後もレドリックは連撃の手を緩めずに、攻防一体の木刀捌きを披露する。

 既に何発もレドリックの木刀の一撃が男爵の防具に入っている。

 

 

 男爵は大きくバックステップで下がった後、手にした木の剣を放り捨てた。

 

「かぁ~、負けた負けた。アンタ、強いな」

 貴族とは思えない言葉遣い。でも潔く負けを認める姿勢は嫌いじゃない。

 

 レドリックは男爵様に返事はせずに、代わりに一礼をすると俺のいる方に戻ってきた。

 

「ご主人様、このような感じで良かったのでしょうか?」

「ああ、問題ないぞ」

 

 ザビルの騎士団長と対人戦を行なってみて、自分達がどのレベルであるかを確認したかった。

 俺の複数ジョブ効果も乗せずに勝ったのだから、結果はまずまず。

 実戦では必ずしも同じ結果が出るとは思わないが、この街ぐらいの騎士団長と同等の力量をレドリックが持っていることが確認できた。

 今後はこれを基準に他の者の育成をしていこう。レドリックの剣の技量も考慮しないとな。

 

 いきなりの模擬戦で当惑したが、結果には大満足だ。

 

 そして、同行したマルクとコルトの驚いた表情を拝めたのにも満足だ。

 新興の商家だけど、このぐらいの軍事力は持っているのだよ。

 

 しかも、まだ切り札と言えるヴィルマ達主力の実力は見せていない。

 本当の切り札は俺だけどね。

 

 

「防具の納品だけではなく、戦いでも活躍しそうだな。今後とも期待させてもらうぞ」

「勿体ないお言葉で・・・・・・」

 ザビル子爵の言葉に適当な相槌を打っておく。

 

 

 正直、ザビルの騎士団との距離感をどこまで詰めるかは、まだまだ検討が必要だ。

 領主のザビル子爵は悪徳領主という感じには見えない。

 脳筋集団の長という疑惑はあるが、ベイルよりは今後の迷宮攻略の確度は高いのかも。

 情報収集という点では、今日は合格点かもしれない。

 

 

 ザビルの奴隷商館の者達と共に、子爵様と男爵様にお礼を言って、領主の館を後にした。

 男爵がレドリックに向けて、『また戦おうぜ!』などと言っていたが、笑顔でスルーした。

 うちのエースクラスは安売りしないのだ。

 

 とはいえ、今度はケリーかマリーをけしかけてみるのも面白いかな。いや自重自重・・・・・・。

 

・・・・・・

 

 奴隷商館にいったん戻り、主立った面子で今後の相談。

 

「防具の納品も終わったので、明日から引継ぎを開始するという理解で良いか?」

「はい。問題ありません。明日から、よろしくお願いします」

 レドリックの模擬戦を見て、先程まで毒気を抜かれていたコルトは再起動したようだ。

 

「当面はカラダンに何名か付けて、ここに通わせる。

 夜にはタケダ家の拠点に戻らせるので、そのつもりでいてくれ」

「はい。分かりました」

 

「防具屋の母娘の件はどうなっているのだ?」

「納品が終わりましたので、奴隷契約を行います」

 奴隷契約をしてしまったら、借金がチャラになるのではなかったのか?

 

「借金の方はどうするのだ?」

「本日までの防具屋の売り上げと奴隷契約による代金で返済にあてます。

 不足分は消滅ですな。残った防具は借金した先に引き渡しますが」

 本当にそんな乱暴な論理が成り立つのか。

 

 まあ、奴隷契約後にカチコミに来る奴がいたら、跳ね除けてもらうしかないのだけど。

 マテウスやニケなど我が家の所属奴隷に怪我があると困るが。

 カラダン達に何かあっても困るので、護衛の者はちゃんと付ける予定だ。

 

 

 その後は明日の引継ぎ内容を少し確認して、奴隷商館を後にした。

 

・・・・・・

 

 翌日、迷宮組はクーラタルの33階層の攻略を無事終了した。

 33階層と言えば、ドライブドラゴン戦。

 俺抜きの迷宮探索をしたいと言い出した迷宮組の合否を占う試験に該当するものだったが、これを無事クリアした。

 

 これで、ヴィルマ達も自分達の本当の力を実感できたのではないだろうか。

 

 一方で、ターレ攻略組も33階層の攻略を終えた。

 俺が入っての護衛部隊の育成も一区切り。

 

 明日からは俺は迷宮組に復帰して、ターレの34階層に挑む。

 その先にあるのは・・・・・・ターレ迷宮の討伐だ。

 

 護衛組の方へはラファとフラウスが戻り、クーラタルの23階層から攻略を行う。

 こちらは俺や迷宮組の者がいなくても33階層までを攻略できるかという確認だ。

 こちらも最後の33階層のドライブドラゴンが最終関門。

 

 ラファとフラウスは迷宮組に同行して既にクリアしている。

 二人の走破経験者もいるし、ターレ迷宮で鍛え上げた護衛部隊なら、問題なく33階層までいけるのではないかと思っている。

 とはいえ、迷宮は命のやりとりなので、一階層ずつ走破して実力の確認をしてもらいたい。

 

 明日からは久しぶりに迷宮組のみんなと探索ができるので、とても楽しみだ。




お読みいただき、ありがとうございました。
2章に入りメインストーリーを進めたい関係で、少し駆け足の描写になりました。
次の話は少し毛色の違う話になる予定です。
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