決闘の翌日はターレの迷宮に無事入ることができた。
昨日はバラダム家に邪魔されたのだよな。
入口にいた騎士団の兄ちゃんには『昨日は大変でしたね』と労われてしまった。
可愛い娘達を連れているから、『大変』が『お楽しみ』に一瞬聞こえたはのは内緒だ。
決闘は・・・・・・少しだけ楽しめたが、結果は惨憺たるものだったけど。
入口から普通に入って34階層のスタート地点である小部屋に移動。
「ターレの34階層の新規モンスターは、ホワイトキャタピラーで、ドロップ品は白糸だ。
既に低階層のボスで戦っているが、グリーンキャタピラーよりはデカくて白い。
糸を吐きだすので、オリビアとアミルは詠唱中断のスキルで破棄させてくれ。
毒攻撃もあるが耐性防具を装備しているので心配はしていない。
だが一応は注意してくれ。
ボスはシルバーキャタピラーで、ホワイトキャタピラーよりも更にデカいらしい。
ボス戦ではそいつが二匹出てくる。
ドロップ品はシルバースレッドで、レアドロップ品がミスリルスレッドだ。
この階層はホワイトキャタピラー、グミスライム、シザーリザード、ケープカープの順に多い。
動きの速い奴はあまりいないが、遠隔攻撃とシザーリザードの魔法攻撃には注意が必要だ。
俺の魔法は雷魔法を使っていく。
アミルの方から何かあるか?」
「特にありません、ご主人様」
「では、攻略を開始しよう」
小部屋を出て、適当な方向に進み始める。
久々の迷宮組の探索にワクワクしてしまうのだが、冷静にいかなければ。
初戦の相手はホワイトキャタピラー3匹。シンプルだな。
「前に、ホワイトキャタピラー3。3番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
待つと糸の攻撃があるから、全員で突撃するしかない。
陣形は前の中央がオリビア、右にヴィルマ、左にイレーネ。後ろが右に俺、左にアミル。
全員で駆け出したが、オリビアは重装備なので移動は速くない。
ヴィルマとイレーネに置いていかれるだろう。
なんなら俺も追い越していくし。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
雷魔法を二発放ち、初戦を開始した。
残念ながら麻痺したモンスターはいない。
じりじりとこちらに近づいてくる。
魔法陣が2つ浮かんだのが見える。
どうするか・・・・・・デュランダルでキャンセルしても良いが。
初戦は皆の動きを見たいので様子見でスルーだ。
ヴィルマとイレーネは接敵したモンスターに攻撃を開始。
相手のいない一匹がイレーネに向けて糸を吐いたが、彼女はそれを軽やかなステップで躱す。
「キャッ・・・・・・」
俺の後ろでオリビアの可愛い声がした。
振り向くと白い糸を浴びた彼女がしかめっ面で、白い粘つく糸を振り解こうと暴れている。
(ブチッ、ブチッ・・・・・・」)
可愛い声に反して膂力に任せ、地面にへばり付いた白い糸を引きちぎりながら前進を始めた。
引きちぎられた糸がまた地面に触れてへばり付き、それをまた引きちぎるという繰り返し。
移動速度はガクッと落ちるが彼女は前進を止めない。
「もおぅ~最悪ぅ~」
緊張感の無い可愛らしい声なのに・・・・・・やっていることは脳筋な所業。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
再び雷魔法を放つが、やはり麻痺はなし。今回はハズレ回のようだ。
オリビアの到着は遅れそうなので、相手のいないモンスターを俺が受け持つ。
ヴィルマの前の奴は麻痺になったので、彼女は鋭く短い間隔の連撃を開始した。
イレーネの相手に魔法陣が浮かんだので、デュランダルでキャンセル。
超速スキルを使わずにひたすら叩き続けて、目の前の奴を煙に変えた。
左を見ると、硬直した芋虫をイレーネがつまらなそうに叩いている。
やる気のない坊さんが、木魚を叩いているように見えてしまう。
「ユキムラ君、ありがとう~」
オリビアがニコニコしながら、やってきた。
彼女にまとわりついていた糸を吐いた奴を煙に変えたので、粘着性の糸は消滅したようだ。
全滅した後に残ったドロップ品はやはり3つの白糸。
粘つき感のない白い糸のボール。
よく知らないが服飾用の素材らしく、チクルスが欲しがっているものだ。
彼女によって、何か恐るべき新兵器が生み出されなければ良いのだが。
それにしても、ドライブドラゴンやレムゴーレムを子供扱いする移動要塞のオリビアにも相性の悪いモンスターがいるということだな。
遠隔での物理攻撃や魔法攻撃ぐらいならびくともしない彼女だが、文字通り搦め手の糸の攻撃には辟易させられているようだ。
全てのモンスターに強い奴なんていないので、ないものねだりだな。
モンスターは距離を取って下がりながらスキル攻撃をかけまくるといった知恵はなさそうなので、普通に近づいてきたら彼女の餌食だ。
それでも面倒な相手であることは間違いないので、スキルを使われる前に叩くのが良い。
詠唱中断ができるのは、俺、オリビア、アミルだが移動速度から考えると俺の役目だ。
俺が前にしゃしゃり出るとヴィルマとイレーネが良い顔しないんだよなぁ。
オリビアが追いついてきたら、場所を譲るか。
倒さずに露払いだけする感じで。
その後も適度にスキルを俺がキャンセルさせながら、淡々とモンスターを倒し続ける。
久しぶりに見るヴィルマとイレーネの戦闘は、水を得た魚というかキレッキレの動きで目の前の敵を斬りまくっている。
相手の攻撃が当たるような気配は微塵もない。
オリビアはオリビアで槍二本を器用に使いながら、ホワイトキャタピラーを地面にめり込ませて、弾ませながら、転がしながら・・・・・・無力化させている。
あの状態では、さすがにスキル攻撃はできないらしい。
糸のスキル攻撃にかなりムカついているようだ。
アミルは三人に的確な指示を与えつつ、スキルのキャンセルと牽制に余念がない。
俺が迷宮組から外れて護衛部隊に合流する前の彼女達の動き・・・・・・それよりは少しだけ自信に満ちた振る舞いにも見える。
わずかな期間であっても、彼女達が成長したはずだと信じてしまうのは欲目なのかもしれない。
糸攻撃を先に俺が潰すようになると、殲滅速度がグンと上がり始めた。
シザーリザードの魔法攻撃はたまに受けるが、火魔法の耐性防具を装備させているので大した問題にはならない。
たまに全体手当を施す程度だ。
それにしても俺以外の四人の動きというか連携が流れるようにスムーズになっている。
移動要塞と化したオリビアが崩すと両翼の二人が斬撃を見舞う。
両翼の二人が崩し役になると、オリビアの豪快な槍攻撃が炸裂する。
彼女の剛腕による槍の攻撃はそのまま相手の体勢を崩すことになるので、両翼の攻撃につながりやすい。
レベルが上がったおかげで、三人の攻撃にクリティカルダメージが発生する頻度も増えた。
好循環が生まれている。
それに加えて、俺のサンダーストームで麻痺を起こさせると、一気に戦局が傾く。
34階層ぐらいでは今の迷宮組に死角はなさそうだ。
ひらすら殲滅を繰り返して、中間部屋を見つけた時点で昼食タイム。
・・・・・・
その後も探索を続け、魔物部屋を殲滅してボス部屋前の待機部屋に到着。
彼女達のレベルはアミルは冒険者Lv42、ヴィルマは百獣王Lv52、イレーネは刺客Lv52、オリビアは竜騎士Lv51になった。
3人がLv50に達しているのだが上位のジョブ取得はできていない。
そもそも上位のジョブがないのか、何か条件を満たしていないのか。
少なくとも刺客の次はくのいちがあると思うのだが。
ホワイトキャタピラーを倒しまくったせいか、芋虫のモンスターカードがドロップした。
ドロップしたのは嬉しいのだが、そこそこ高い階層で取得したものとしては微妙なカード。
それはともかく、今日はボス戦が終了したら迷宮探索は終了予定。
忘れないうちに、ペルマスクに行って石鹸セットを納品したいので。
「アミル、指示を任せても良いか?」
「はい。大丈夫です。
ボス戦はシルバーキャタピラーが2匹です。
いつも通り、オリビアさんが2匹の中央でスキル攻撃の破棄をお願いします。
右をヴィルマさん、左がイレーネさん、私は遊撃で適宜参加します。
ご主人様は雷魔法をお願いします」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
今回は小荷駄隊外しではなく、普通に走って戦闘準備。
扉が閉まり、モンスター登場のエフェクト開始・・・・・・シルバーキャタピラーが2匹が現れた。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
2発放ったが、麻痺はなし。
オリビアの重い槍攻撃が二匹のシルバーキャタピラーを激しく揺らす。
ヴィルマとイレーネはそれぞれボスの外側を回り込み、連続の斬撃と刺突を打ち込み始めた。
アミルも少し遠間から、右側のボスに重い突きを繰り返す。
激しく揺れるシルバーキャタピラーを見ていると、気持ち悪くなりそうだ。
別に自分が揺らされている訳ではないのに。
初めに状態異常になったのは、イレーネが対峙していたボス。
揺れていたのに、急に硬直して石化した。揺らされた挙句に固められて悲惨の一言。
興味を失った彼女はヴィルマの方のボスにちょっかいをかけにいこうとして・・・・・・ヴィルマの方のボスも麻痺になったか。
Uターンしたイレーネは石化したボスをガンガンと突き始めた。俺もそれに加わる。
残りの一匹はヴィルマが短い斬撃を繰り返して麻痺を切らさないように注意しながら、オリビアとアミルの激しい突きを繰り返され・・・・・・煙に変わった。
俺の目の前のボスも煙に変わった。
残ったボスドロップはミスリルスレッドではなく、シルバースレッドが2つ。
見た目は綺麗な銀色のボールで、遠くにあるとパチンコ玉に見えなくもない。
遠近感がおかしくなりそうだけど。
拾い上げてアイテムボックスに収納。
35階層に抜けて、本日の探索は終了とした。
ゲートを自宅の玄関につなげで皆で帰宅。
アミルは二階に上がり、三人は修練場へと向かっていった。
俺はエネドラに帰宅を報告へ。
「旦那様、ザビルの領主様から伝言のようです」
「子爵様から?」
ひょっとしたら来るかと思っていたのだが、やっぱり来たか。
「分かった。ペルマスクに石鹸の納品もあるし、これから行ってくる」
「そうですか。お気を付けていってらっしゃいませ」
背負子を背負って子爵様の所には行けないので、結局は自宅に一度戻るけどね。
・・・・・・
石鹸セットを満載した背負子を背負ってペルマスクの冒険者ギルドにワープで移動。
今日は鏡の仕入れではないので、ワッペンを使って入場する。
ギルドを出ると、いつもの案内人が待ち受けている。
ずっと入口で待っているのも凄いと思うけど。ここの商人は皆、出待ちなのかな。
応接室で待つこと2、3分。
上機嫌の女店主が現れた。
「今回は早かったですね」
「お得意様の注文だからな」
「なら、もう少し安くしていただいてもよろしくてよ」
「もっと大量に購入してもらえるのなら、検討してもよいかな」
狐と狸の会話である。
「注文通り、通常の石鹸セットを20セットと貴族向けの最高級品の石鹸10セットだ。
確認してもらいたい」
「はい。それでは、ここに出してください」
背負子からひたすら取り出して、テーブルの上に積み上げていく。
平民用と貴族用の石鹸の箱は実は見た目の違いはそれほど大きくない。
多少、貴族用の方が豪華だね・・・・・・と思えるぐらい。
大量生産できるように箱も必要以上に凝った装飾はしないようにしている。
薄利多売ではないが、今は広範囲に買ってもらうことを主眼に置いている。
「大丈夫ですね。では・・・・・・」
売り上げは3割アップが効いて、5万8500ナール。
「次は鏡の仕入れの時に来る予定だ」
「瑪瑙や琥珀の原石だけでなく、石鹸もお忘れなく」
大きく頷いて握手した。
大切なビジネスパートナーだ。今後も長い付き合いにしたい。
鏡の工房の店舗を後にして、ギルドに向かった。
空の背負子を背負ってるのだが、中に鏡が入ってないかはチェックされる。
チェックが終わり、ギルドからワープで自宅に移動した。
背負子を置いて、今度はザビルの冒険者ギルドに移動。
なかなか忙しい。
この前マルク達に案内してもらった領主の館に行き、守衛をしている騎士に用向きを伝えた。
待合室に待たされること数分で呼び出しがかかった。
思っていたよりも早い。
急ぎの用事ということか。
・・・・・・
「呼び出された理由は分かっているのではないか?」
挨拶が終わった後、開口一番の子爵様の台詞がこれだ。
「ひょっとして、防具屋のことでしょうか?」
「ほう。分かっているではないか」
なんか、原作でもハルツ公が主人公に似たようなセリフを言っていたな。
意味は違う気もするが。
「では、いつ出店する予定なのだ?」
「さて、遅くとも30日後ぐらいまでではないかと」
俺の返事はお気に召さなかったようだ。彼の表情は冴えない。
「そんなにかかるのか?もっと早められないのか?」
「いろいろと課題があります故」
簡単には出店できない事情がこちらにもあるのだ。
「課題とは?」
「店舗の準備、護衛の用意が大きな課題でしょうか」
他にもあるけど、まあ2つに比べれば小さい。
「商品となる防具を準備するのは造作もないのか?
店舗は従来の防具屋をそのまま使えば良いのではないか?
防具屋に何故、護衛が必要なのだ?」
「ご存じかと思いますが、ザビルに構えている奴隷商館から引継を行なってもらって、
奴隷商館を構えようと思っております。
防具屋はその奴隷商館と併設させようと考えているため、
それなりの規模の店舗を探そうとしていますから、それが一点目の課題となります」
一応、彼は頷いてはいる。
「二点目の護衛の件は、防具を営む店員に関わる話です。
防具屋の店員には、今まで防具屋を営んできた者を据える予定なのですが、
その者は借金が返せず奴隷に落ちたという経緯がございます。
そのような者が防具屋で再び働こうとすれば、
借金をしていた者などにどのような扱いを受けるか分かりません。
それ故、当面は警護する者が必要になります。
手っ取り早いのは奴隷商館ともども防具屋を警護させるのが良いと思っておりますが、
店舗の用意と奴隷商館の引継を考えるとそれなりに出店まで時間がかかると考える次第です」
「それでは遅すぎる。
ザビルには今、防具屋が営業してない状態で迷宮探索をしている者や騎士団員含め、
難儀している状態だ。
なんとか早く出店させられないのか?
護衛が必要だというのなら、騎士団員を派遣しても良いぞ」
はぁ?騎士団に護衛される防具屋なんて聞いたことないぞ。
ある意味、最高の護衛戦力だけど。
戦闘力も権威もあるし。
無体なことをされたら、そのまま逮捕だからな。
「本当に騎士団員など派遣できるのですか?ただの防具屋の経営ですが」
「命じればできるのだから可能だ。
それなら、今の防具屋をそのまま使えるのではないか?
その借金をした者を黙らせれば良いのなら、こちらから話をつけるぞ。
なにか、その者に便宜を図ってやれば良いのだろう?
奴隷商館の商人に事情を訊けば良いのだな?」
子爵様は傍にいた文官に何か指示を出している。
奴隷商館のマルクの名前が出ているから文官に事情聴取させに行かせるのかも。
権力者っておっかないね。
その借金した者から別の恨みを買わなければ良いのだけど。
「では、こちらから騎士団員を派遣しよう。
その店員となる奴隷の奴隷商館から防具屋までの往復と
営業中の身の安全は騎士団が保証しよう。
それと借金をした者を黙らせる手はずもこちらで整えよう。
それなら課題はないのだな?
その二つを前提に最速で出店するように」
「微力ですが、全力を尽くすようにいたします」
最後は命令になっているし。だが課題を解決されてしまったら、拒否できない。
しかし奴隷を守るために騎士団員を派遣するなど、いせはれの世界でも聞いたことないぞ。
俺も大概な非常識人間だと思うけど、この子爵様も前例とか関係なく目的志向だな。
脳筋とはちょっと違う感じだな。
『借金取りが来たら、その者の首を刎ねれば良いのでは?』とは言ってないし。
「では、早速準備をするように。話はこれで終わりだ」
ここにもせっかちな貴族がいたようだ。
ハルツ公とはちょっとタイプが違う気もするが。
追い立てられるように領主の館を後にした。
さて、奴隷商館の方に行かざるを得なくなったな。
昨日、訪問したばかりなのに。
ザビルの奴隷商館に行き、マルクとカラダンに面会を求めた。
・・・・・・
応接室で待っていると昨日とは違い、二人は早々に姿を現した。
挨拶もすっ飛ばして、こちらに詰め寄らんばかりに本題へ。
「子爵様の配下が我が家に来て、あの防具屋母娘に金を貸した者のことを訊かれたのですが?」
「ザビルで防具屋を直ぐにでも営業されることを子爵様は望んでおられるのだ」
俺は二人に、領主の館でのやりとりを説明した。
「なんと、防具屋のために奴隷を騎士団で護衛するのですか?それはまた・・・・・・」
「俺も驚いた」
どうやら、奴隷を騎士団が守るのはザビルでは当たり前ではなかったようだ。
『ザビルではそれが普通ですけど、何か?』と言われなくて良かった。
「領主様の方で、借金した者に話をつけると言っていた。
どう話をつけるのかは分からないが。
騎士団の権威に逆らうことはないと思うが、気に留めておいてくれ」
「分かりましたが・・・・・・何をどうするのやら」
それは俺も同意見だが、何かが起きるまではこちらも動きようがない。
「それよりも、領主様の命令だから元の防具屋の場所で急遽開業さぜるを得ないかもしれない。
その店舗での営業は一時的なものだ。
最終的にはカラダンが見つけてくる奴隷商館と併設する店舗の方で営業することになるだろう。
まずは防具屋をやっていたサライと話をさせてくれ」
「分かりました。呼んで参ります」
カラダンがサライを呼びに退室していった。
「なんとも急な話ですな」
「貴族様のやることだからな」
とはいえ、防具屋がなくなった時点ではある程度予想していたことだ。
子爵様のやり方は、こちらの想定外だったけど。
やがて、カラダンがサライと娘のティナまで連れてやってきた。
「ちょっとタケダ家だけで話をしたいので、外してもらえるだろうか?」
「むっ、分かりました。後でどのような結論になったのか教えて下さい」
マルクはこの件にあまり関わりたくないのか、アッサリと退室していった。
「さて、サライ。君には早々に防具屋の営業を再開してもらうことになりそうだ」
「えっ?
カラダンさんからはいずれ防具屋をザビルでやってもらうとは伺ってましたが、
それが早まったのでしょうか?」
早まったのだ。しかも可及的速やかにだ。
「そうだな。領主様の命令でもある。
元の防具屋の店舗を使って、とりあえず営業を再開せよとのことだ」
「それは嬉しいのですが、私のジョブでは・・・・・・」
まあ、そうなるよね。
彼女のジョブは商人Lv25で、探索者のレベルも低い。
普通なら、防具商人になるまで、まだまだ時間がかかる。普通なら・・・・・・。
だが、サライの探索者のレベルが低いことは知られていないので、37才の彼女が防具商人のジョブを取得したとしても問題にはならないはず。
15才のピコが取得していたら、注目を浴びてしまうよな。
「ちょっと俺のパーティに入ってもらえるか?」
「えっ、はい」
その瞬間、カラダンが肩を震わせ始めた。
何をやるか分かったのだろう。だから笑うな、カラダン!
彼女が加わったのを確認。
「ちょっと迷宮に行ってくるから、カラダンは玄関まで同行してくれ。
君達母娘はここで待っていてくれ」
「えっ?はい・・・・・・」
訳がわからないよな。
カラダンと出口に向かいながら、この後の段取りを話した。
「とりあえず、防具商人のジョブが取れるまで迷宮で経験を共有させるので、
あの母娘には口止めを頼むぞ。
まあ、何が起きたのかは分からないだろうし、言っても誰も信じないとは思うが」
「承知しました。旦那様」
商館の玄関を出て、適当な木陰から自宅までワープで移動。
修練場に行くと・・・・・・いたいた、双子が訓練をやっている。
「おーい、ケリーとマリー、こっちに来てくれ」
双子は最近、百獣王のジョブを取得したのだけどレベルがまだまだ低い。
ついでだから、小荷駄隊に入れてパワーレベリングしてしまおう。
双子を小荷駄隊に入れて、クーラタルの35階層の中間部屋に一人で移動。
35、34、33、32、31階層の魔物部屋を殲滅して回った。
33階層のドライブドラゴンは少し時間がかかったが正味2時間弱だ。
サライは商人Lv30、探索者Lv30まで上げて、無事に防具商人のジョブが取得できた。
防具商人もLv9まで上がった。
双子は百獣王Lv24だ。もう少し上げたかったが別の機会にしよう。
ザビルの奴隷商館に戻って、再び、母娘と対面。
何故かその場にはミシェルまでいる。
「サライ、商人ギルドに行こうか。カラダンも付いてきてくれ」
「えっ、何故?」
困惑するサライと笑みを浮かべているカラダン。
ミシェルは面白いものを見るような興味深げな表情。
「ミシェル、サライを連れ出すが、直ぐに戻ってくる。
マルクに伝えておいてくれるか?」
「私も同行させてもらっても良いでしょうか?」
「ダメだ。そのうち教えてやるから、今は我慢してくれ」
そんな不満げな表情をされても、今はだめなのだ。
・・・・・・
奴隷商館を出て、商人ギルドに向かった。
陽もだいぶ暮れかかってきた。急がないとな。
ギルドに着くと、係の者が寄ってきた。
この職員はこの前、カラダンとピコを登録した時に対応してくれた人だな。
職員に今回の登録について説明。
「この女性の商人ギルドの登録と防具商人への転職を頼む。
ひょっとしたら過去にどこかのギルドに登録されているかもしれないが、
ここのギルドに登録しても問題ないか?」
「はい。別の街の商人ギルドに移籍した扱いになるので問題ありません」
なら、問題ないか。
「では、手続きを頼む。登録料は3万ナールだったな」
「はい。では、奥の部屋にどうぞ」
カラダン達を登録した時の部屋に案内された。
サライに書類を記入させ、ギルドへの登録料金は俺の方で支払った。
「では、こちらへ・・・・・・」
「えーと、私は何をしに・・・・・・」
サライは今一つ自分が何をするのか分からない。
「付いていって、言う通りにすれば良いから」
「は、はぁ・・・・・・」
分からないまま、職員に連れられていった。
「カラダン、彼女への後の説明を任せて良いか?
奴隷商人のスキルでインテリジェンスカードを見せれば納得せざるを得ないから」
「そうですね。まあ、見せるのが一番分かり易いでしょう」
俺もそう思う。
ギルドで転職する前にアレコレ説明しても良いのだけど、絶対に理解できないから。
インテリジェンスカードを見せるのが手っ取り早いのだ。
やがて、訳も分からないまま転職を終えてサライが戻ってきた。
転職も何もジョブは防具商人だったのだが。
「では、帰ろうか。世話になったな」
「いえ、防具屋がザビルには今ありませんので、とっても助かります」
この職員は防具商人ジョブへの転職の意図がちゃんと分かっているようだ。
この部屋で状況を理解していないのがサライだけというのが、なんとも哀れだが。
あとでちゃんとカラダンから説明してもらってくれ。
仕事を振れる優秀な部下がいるというのは素晴らしい事だ。
奴隷商館までカラダンとサライを送り、俺はワープで自宅まで帰宅した。
今日は時間切れだったが、明日は防具屋を開業する段取りを確認しないとダメだな。
でも午前中は秘密基地の対応もあるし。うーん、午後か。迷宮探索ができない。
子爵様も常識外の行動だったが、先程の俺も子爵様のことをとやかく言えないかもなぁ。