朝起きると・・・・・・窓を揺らす風の音と何やら水が流れるような音もする。
雨が降っているのか。
天井に向かって両腕を突き出して伸びをしながら、下の両腕は左右に広げてゆっくりと回して背中の筋を伸ばす。
毎日やっていることとはいえ、どこの筋がどう伸びてるのか時々分からなくなる。
それでも目はシッカリ覚めた。
いつもなら横にいるはずのヴィルマは既にベッドにいない。
今日は俺の方が寝過ごしたか。
昨晩のヴィルマの肢体を思い出しながら、ベッドを抜け出して窓に近づく。
先程よりは風の音が少し穏やかになったか・・・・・・大した雨ではないのかもしれない。
窓を少しだけ開けてみると、強い風と共に雨粒が室内に入り込んできたので慌てて閉じた。
この世界に来て、ここまで激しく雨が降ってる日は初めてかもしれない。
今までも小雨程度は経験しているが、この世界の人達はその程度では活動を止めたりしない。
小さく開けた窓の隙間から見た修練場は水浸しで大きな水たまりができていた。
当然、外に人はいない。
こんな状況ではさすがに朝練はできないだろう。
目が覚めてしまったので、二度寝はダメだな。
こんな時はみんな何をしてるのだろうか。
食事の準備をしてる者はいつも通りだろうが、護衛部隊の者達はどう過ごしているのか。
まさか空いた時間に掃除というのは・・・・・・奴隷身分だったらありえるのか。
(索敵)
二階のマップを見ると、イレーネ、ヴィルマ、オリビアの三人は自室にいるようだ。
ちょっと人のプライバシーを探っているみたいで後ろめたい気もする。
アミル、エネドラ、チクルスは部屋にいないが作業部屋に二つの青い点があるから、アミルとチクルスは何か作業をしているのかもしれない。
装備品や生薬の生成とか。真面目やなぁ。
別に疚しいことはないのだが、足音を殺しながら一階に降りた。
一階に降りて、索敵マップで確認すると結構な青い点が食堂にある。
まさか食堂で訓練をしているのではないだろうな。
食堂の入口から室内を見ると、普通にテーブルに座っておしゃべりしているようだ。
俺が行くと妙に緊張させるかなと思って、立ち去ろうとすると目ざとく見つけたラファが走り寄ってきた。
「ユキムラ様、どうしたのですか?こちらに来て、お話ししましょうよ」
「あ、ああぁ・・・・・・」
貴族としての威厳を感じさせることもあれば、子供のような振る舞いもする彼女の対応はなかなか難しい。
学生の頃は厳つい顔と体の割には子供には好かれる方だった。
たぶん、子供というのは体が大きい者が好きなのだろう。例外もあるだろうけど。
ネズミの着ぐるみを着たアミューズメントパークが儲かる理屈と同じはずだと思う。
お巡りさんにも好かれるようで、職質を受けることもあったが。
ラファに手を引かれて、テーブルの一角に連れていかれた。
そのテーブルには、ヘルミーネ、フラウス、ミラ、マヤ、モニカがいた。
女性ばっかりだ・・・・・・いや、我が家は女性比率が圧倒的に多いのだ。
特にクーラタルの家はそれが顕著だ。
ベイルの方はカラダンとピコ達がいる分だけ男性比率が高い。
ターヘラの方から来ている子供達も男女比率は半々ぐらいだから、ベイルはむしろ男性比率の方が高かったりする。
ミモザはクーラタルからベイルに通っているし、カラダンとピコはザビルに日帰り出張だから、昼間になるとベイルの男女比は半々ぐらいになる。
そんな訳で五人の女性が囲むテーブルのイスに俺も座ることに。
話題、話題・・・・・・女性の好みそうな話題は・・・・・・。
「今日は30階層だから、ハーフハーブが多いのですよね?
昨日は牛のモンスターだったけど、植物だと食材のドロップがないから・・・・・・」
「その分、火魔法でよく燃えますよ!」
うーん、全然、女子会っぽい会話ではない。
「ユキムラ様は最近、面白いモンスターに遭いましたか?」
「そうだな、昨日のモンスターはちょっと変わっていたかな」
『貴方、なにか面白いドラマでも観た?』と言われているようで全然違う。
でも、会話が成立するのだから不思議だ。
可愛い小物や洋服の話題を振られるよりは、よほど会話しやすい。
「アルパインというパーンに似たモンスターなのだけど・・・・・・」
昨日、ターレ迷宮で遭遇した人型のヘビー級レスラーの話題を振ってみた。
「うーん、全然、どんなモンスターか想像できないです」
人型のモンスターは少ないからなぁ。
そういえば、ミラに頼んでいた件があったな。
「ミラ、この前お願いしていたモノってどれぐらいできあがったのだ?」
「ああ、あれですか、それなりに作りました」
急に話題が振られて、ミラがしどろもどろになっている。ちょっと可愛い。
「ミラの言ってるのって、部屋にたくさんあるアレか?
ものすごい数が置いてあるじゃないか」
「そうだっけ?」
ミラと同室のマヤが指摘してきた。
ちょうど今、皆が暇しているし、ここでお披露目するか。
レドリックはいないけど、ヘルミーネはいるから。
「じゃあ、ちょっとここに持ってきてもらえるか?」
「ええぇ、ここにですか?」
ミラが少し慌てているが、別に構わないのではないか。
「ユキムラ様、ミラに何を頼んだですか?」
「何と言われても、説明が難しいのだが・・・・・・」
アレはこの世界ではなんと呼べばよいのだろうか。
「部屋に行って見るのが早いですよ。みんなでいきましょう」
「ええぇ・・・・・・マヤ、恥ずかしいよ」
ミラが照れているが、そんなに恥ずかしいモノを頼んだ記憶はない。
それよりも、女性の部屋に俺が行くことの方が恥ずかしいのだが。
いくら奴隷の主人だとはいえ。
「じゃあ、みんなでミラの部屋に行きましょうか」
「そうですよ。行って実際に見た方が早いですって」
ヘルミーネの気軽な一言に同室のマヤが賛同しているが・・・・・・俺も行くのか?
・・・・・・
結局、ラファに手を引かれて、ミラとマヤの部屋へ訪れることに。
そこで見たものは・・・・・・なかなかの光景だ。
物凄い数の木彫りのモンスターが所狭しと並んでいる。
こんなに沢山頼んだつもりはなかったのだが。
そして、全く女性らしい部屋という感じではない。
この世界にはファンシーな小物やぬいぐるみなんてないからなぁ。
貴族御用達の店にはあるのかもしれないが、俺は行ったことがない。
「ユキムラ様、この木彫りの置物をミラに頼んだのですか?」
「え?ああぁ・・・・・・まあ、そうなるのかな」
確かに一種類につき数個同じモンスターの木彫りを頼んだのだが、ここにあるのは百個どころか二百個を軽く超えているのではないだろうか。
「これを使って何か商売でも考えているのですか?」
「いや、商売ではないな。使い方というのは・・・・・・そういえば、板の方はできてるのか?」
木彫りだけではなく、板の方も頼んでいたのを忘れていた。
「はい。こちらにあります・・・・・・これですね」
「ああ、こちらも頼んだ通りのものができているな」
ミラから四角い升目の入った碁盤目状の板を受け取った。
「これは何をするものなのですか?」
「これは・・・・・・何というか、ちょっとした頭の訓練かな」
「訓練ですか?こんなもので?」
説明が難しい・・・・・・やってみるしかないな。
「ミラ、ハーフハーブとモノクタウルスとサイクロプスの木彫りはあるか?
それぞれ5個ずつ欲しいのだが。
あと、ここにいるメンバーの木彫りはできているか?」
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね・・・・・・」
ミラが棚と床に並んでいる木彫りから俺の要求したものを探し始めた。
「はい。これですね」
「ああ、ありがとう。それとそこにある板を持って、食堂に戻ろうか」
この部屋でこれ以上、説明するのは無理だ。テーブルのある場所でやろう。
・・・・・・
6人で食堂のテーブルに戻って、テーブルの上に板を2枚置いた。
「これは、迷宮の通路だと思ってくれ」
「迷宮ですか?」
板を2枚くっつけて置いた。
1枚の長方形の板には四角い升目が溝で彫られていて、縦に3列、横に6行の区切れ目がある。
縦長の板を2枚くっつけてテーブルの上に置き、更に縦の列が長くなるようになったので、縦3列の横12行の盤面となった。
「そして、今日はクーラタルの30階層の攻略だろう?
ハーフハーブ、モノクタウルス、サイクロプスの順で出現するモンスターが多いから、
このように置くと迷宮でするモンスターと遭遇する状況が再現できる訳だ」
「へぇ・・・・・・そう言われてみると、そんな感じがしますね」
盤面の升目に木彫りのモンスターを並べた。
ハーフハーブが3個、モノクタウルスとサイクロプスの木彫りを1個ずつ置いた。
前衛・後衛の並び順は適当だ。
そして、ここにいるメンバーの木彫り人形ももう一枚の板の端に配置した。
前衛がマヤ、ミラ、モニカで後衛がヘルミーネ、ラファと俺の人形。
なんだか俺の人形だけ雑っぽい作りだが、一応は腕は四本作られてある。
女の子の可愛いフィギュアに一つだけモンスターが混じってるように見えてしまう。
「まあ、普通は俺ではなくフラウスあたりが治療役として入るのだろうけど、
今は俺が神官や僧侶のジョブの者だと思ってくれ」
「ユキムラ様が治療役ってなんだか違和感ありますね」
そんなツッコミは良いからさ。
「で、この状態で迷宮に遭遇した時に、この後にモンスターがどのように動いてくるか、
それに対して自分達がどのように動けば良いのかを想像しながら考えるというものだな」
「想像するのですか?」
具体的な木彫りの人形があった方が想像しやすいだろう。
それにしても、この木彫りの人形はすごくリアルだな。ミラには才能を感じてしまう。
ハーフハーブの枝とかもシッカリと枝に見えるし、サイクロプスの腕の筋肉とかもそれっぽい。
ミラの部屋で見たコボルトもちゃんと雑魚っぽく作られていて、感心してしまった。
「この並びで遭遇した時に、初めに俺達のパーティーに接敵するのが、どれになりそうだとか、
それにどのような陣形で対応した方が良いか、
誰と誰が連携してどのモンスターを攻撃したら良いかを想像して皆で話し合ってみるんだ。
言葉だけだと分かりにくいけど、実際に木彫りのモンスターを前にして動かしながら
話をした方がお互いの考えていることがどこまで合ってるのか、違ってるのかも分かると思う。
実際にやってみたらどうだ?」
「なるほど、では・・・・・・」
リーダーのヘルミーネがモンスターをイロイロと動かし始めた。
その後は他の四人が自分の意見や疑問を話し出した。
盛り上がってきたし、もうこれはこれでいいや。
「これが、ご主人様がおっしゃっていた『具体的に見せる』というものですか?」
「おっ・・・・・・」
レドリック、いつからそこにいたのだ?
「そうだな。複数スキル融合の説明をした時の話に通じる件だ。よく覚えていたな?」
「あのカラダンさんが作った紙は結構、印象的でしたからね」
あれはカラダンの力作だったからな。今回はミラの力作だが。
「こうやって、具体的なモンスターや自分達のメンバーの木彫りの人形があれば、
イメージ付きやすいだろう?
まだ戦ったことのないモンスターについて、経験者が教えたりするのにも役立つと思う。
それに、ミラの作った木彫りの人形は結構、本物のモンスターに似てるよな?」
「確かに、かなり実物に近い感じですね」
ミラが遭ったことのないモンスターはさすがに作れないだろうけどね。
ヘルミーネ達のテーブルから少し離れ、レドリックにだけ目的の一つを明かす。
「盗賊と遭遇したり、他国の貴族や兵士と戦う状況を想定する場合にも役立つと思っている」
「なるほど。確かにモンスターとは全く違う戦い方になりますからね。
経験者も多いとは言えないので、未経験の者に教えるのには便利かもしれません」
対人戦闘は実戦に優る経験はないと思っている。
それでも経験が少なければ少ないなりに工夫の仕方があるはずだと思う。
準備があるのとないのでは生存率が違うはずだ。
普段と違った心構えを作るのにも、きっと役立つだろう。
「旦那様、そろそろ朝食の配膳をしたいのですが・・・・・・」
「あっ、・・・・・・ああ、そうだな始めてくれ。片づけるように俺から伝えておくので」
苦笑いしたエネドラから、片づけの催促があった。
食事前にゲームに夢中になった子供が母親に叱られている構図になってしまった。
朝食の準備が始まるからと説明して、迷宮シミュレーションはお開きにした。
チラチラ見ていたが、かなり盛り上がっていたようだったな。
娯楽のない世界だから、この程度のものでも遊戯感覚になるのだろうか。
迷宮は命のやり取りの場だから遊戯感覚ではダメだが、訓練の補助になると思っている。
まあ、迷宮から戻ってきた時の反省会にでも使ってくれ。
今日のような雨の日は朝練もできないから、気分転換にもなるのではないだろうか。
・・・・・・
今日の朝食はいつもより早く終えたので、ベイルの騎士団詰所に行くことにした。
というか雨の日が珍しいから、雨の街を少しだけ味わってみたかったのだ。
店に入ると天気もなにもないから、街を少し歩いてみたい・・・・・・傘などもないからマントにフードを被るだけになるのだが。
ついでに護衛部隊が討伐した盗賊のインテリジェンスカードを提示して、懸賞金の受領と士爵家へのご機嫌伺いも兼ねている。
ベイルの家の玄関にワープで移動し、外に出てみると雨は朝方よりは少し小雨になっていた。
土砂降りを経験したい訳ではないから丁度良い塩梅か。
地面は舗装されていないから大きな水たまりがあり、それを避けながら騎士団詰所に向かう。
道行く人々もマントを羽織り、フードを頭に被って足元を見ながら慎重に歩いている。
俺の振る舞いは特に周りと比べて違和感はなさそうだな。
靴は硬革の靴をなんとなく装備している。
竜革の靴を汚すのが嫌だったし、皮の靴だと染みそうな気がしたからだ。
実際に複数の靴で試すほど暇ではない。
目的地を目指してフードの中から前を見ていると、フードを被らない女性が歩いてきた。
雨に降られて、髪や顔が結構びしょ濡れの状況になっているが・・・・・・あれっ、この顔は・・・・・・。
(索敵)
確認すると色は青。そして鑑定すると・・・・・・やっぱりキャロルだ。
主人想いのアイリス家の家宰で、料理人ジョブを持つ迷宮探索者でもある。
彼女はこちらに気付かずにすれ違い、行ってしまった。
マントにフードはついているようだったが、フードも被らずにどうしたのだろうか。
あの方向だと自分の家に戻るのかもしれない。
もう詰所が近いので、彼女もゴッゼル士爵の所に行った帰りか。
彼女の表情も気になるが、詰所が間近だから門番をしているドーガに確認すれば何か知っているかもしれない。
水たまりを避けて門の中に入ろうとすると・・・・・・門番をしているのはドーガとは別人だった。
珍しくあいつがいないのは・・・・・・雨の日でサボっているのだろうか。
門番の騎士団員にドーガに用があることを伝えると、詰所の中へ呼びに行ってくれた。
こうなると雨の中、待つしかない。
やがて見知った顔がやってきた。
「よう、久しぶりだけど、どうしたんだ?」
「ああ、ちょっといくつか用事があってな。今は大丈夫か?」
こいつが一番話をしやすいから呼び出している訳だが、今日の反応は微妙そうだな。
「うーん、まあそうだな。雨だし、こっちに入ってくれ」
「分かった」
雨の中で話はしたくはないので、正直助かる。
ドーガに誘われて詰所の中に入り、廊下の途中で話をすることに。
「実はまた盗賊を迷宮で倒して・・・・・・これがインテリジェンスカードだ」
「またか。相変わらず盗賊に好かれている奴だな」
実際には俺が遭遇した訳ではないが、細かい話は割愛だ。
「それと先程キャロルとすれ違ってな。
彼女はこちらに気付かなかったようだが、
表情というか態度が変だったので何かあったのかと思って・・・・・・
お前なら何か知っているのではないか?」
「ああ、まあなぁ・・・・・・アイリス士爵が亡くなったらしい。
先程、キャロルさんが来てゴッゼル士爵に伝えてくれた。
ジーク様とロータス様は実家に戻ったので、迷宮探索は暫くできなくなるってことだな」
探索者のロータス様がいなければ迷宮探索は無理だな。
「それは、長引くのか?・・・・・・というか、アイリス家・・・・・・いや、もはやモラード家か。
三人はゴッゼル士爵家のパーティーから離脱するのか?」
「いや、それはないと思う。
キャロルさんからは引き続きモラード家として迷宮討伐に尽力するという話だったようだ。
やることは変わらないが、ジーク様もロータス様も貴族の子息ではなくなったということだな」
士爵は一代限りで世襲できないから、当主が亡くなればそれで終わりだ。
自ら迷宮討伐などをして貴族に返り咲いた時に、昔の名前を取り戻すことができるかもしれないとヘルミーネが言ってたか。
「そうか変わらないのか。変わらないけど・・・・・・変わったと思うのは当人達だけなのかな?」
「さあ、貴族じゃない俺には分からんな。
だがキャロルさんは憔悴した表情だったから、ショックはショックなのだろうな」
真面目なキャロルだから、あれだけ動揺していたのかもしれない。
だが、さきほどすれ違った彼女の表情は尋常ではない雰囲気で、声を掛けづらかったのは事実だ。
亡くなった士爵様に何か恩があるかもしれないし、これからのモラード家のことで何か思うところがあるのかもしれない。
俺だって貴族じゃないから、当事者の葛藤なんて実際のところは理解できないが。
「じゃあ、暫くは迷宮探索は停滞するけど、ジーク様達が戻ってきたら再開って感じか」
「そうだな。こっちは気長に待つしかないな。
貴族・・・・・・元貴族なのか知らんが、葬儀にどれだけ時間がかかるのか分からないし」
こちらの世界の葬儀とか見たことないしな。
アルマーとナナイの結婚の時には平民は結婚式なんてやらないってカラダンは言っていた気もするが葬式はどうなのだろうな。
後でヘルミーネあたりに貴族の葬儀については確認してみるか。
確認してもこちらが何かやることがあるとは思えないが。
「そうか。何かタケダ家側に助力が必要なら伝言をくれよ。
対価次第ではこちらも検討してみるから」
「かあぁ~、対価が必要なのかよ。これだから商家ってやつは・・・・・・」
ただ働きは御免だからな。
探索者や腕の立つ前衛のジョブを持つ者を貸してくれとかダメだからな。
「まあ、ジーク様も迷宮討伐を目指しているのは今も変わらないから、
それほど時間がかからず戻ってくるだろう」
「そうだな。そうだと良いな」
こちらもゴッゼル家やジーク様の家と取引をしているので、このまま迷宮討伐が立ち消えになるのは避けたい。
「状況は分かった。では、インテリジェンスカードの方を・・・・・・」
「分かった。分かった。士爵様はいらっしゃるので渡してくるから」
こいつがいると情報が入手しやすくて楽だ。
まあ、取引をしているから情報が全く入ってこないということもないのだろうが、直接関係者に確認する方が手っ取り早い。
暫くすると、ドーガが手に小袋を持って戻ってきた。
今日は執務室の方でのお目通りはないようだ。
ドーガから情報が入手できたから面会は不要だろう。
普通はそんなに貴族とひょいひょい会うこともないはずだし。
「ほい。懸賞金だ」
「ああ、ありがとう。次はいつ来るか分からないが、またよろしくな」
ドーガは手をヒラヒラと振りながら、廊下の奥へと消えていった。
俺を廊下に残して立ち去るとか不用心じゃないか?
このまま大人しく帰るけどさ。
公爵家よりもゴッゼル士爵家の方がセキュリティ的に杜撰になってきたのではないだろうか。
詰所の建物を出て門を通り抜け、ぬかるんだ道に戻った。
見上げると空には黒い雲が広がり、さきほどよりも雨粒が大きくなった気がする。
雨雲レーダーもなければ天気の傾向も分からないので、天気が西から東へと移り変わるのかさえ分からない。
キャロルはこの後、ジーク様達の後を追って実家に帰るのだろうか。
彼女がいないとモラード家は立ち行かない気もするから、きっと戻るのだろうな。
フードを彼女が被らなかったのは涙を洗い流すためだったのか、気分を落ち着けるためだったのか、それとも神を恨んで天を睨み・・・・・・この世界に神はいなかったか。
先程のキャロルの青ざめた表情を思い起こしながら、手近な木陰からワープで帰宅した。