異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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019.市場と盗賊

 昨日の風呂が良かったのか、朝の目覚めがとても気持ち良い。

 窓を開けると、まだ少し薄暗いが、もう気の早い連中は動き出している時間だろう。

 新しい(本当は中古)ベッドの上で、思いっきり伸びをしながら、体をゴキゴキ鳴らす。

 今日も、迷宮日和かな。天気は関係ないけど。

 

 寝室に置いておいた水の入った桶で顔を洗い、布で顔をぬぐう。

 昨晩、夜食にBLTサンドを2つ食べたのだが、もう腹が減っている。

 今日もベイルの旅亭で朝食だな。

 

 雨だと行くのが億劫になるのだが、異世界に来てから、ずっと天気が良い。

 この国にも雨季があるのだろうか?

 夏の暑いのは嫌だな。だが、この家には冷暖房装置がある。大っぴらには自慢できないが。

 

 トイレに行って用を足し、顔を洗った水で手も洗い流し、そのままトイレに流す。

 一応、この家には下水が通っているようで、下水路(?)を通じて、流れていくらしい。

 詳しくはよく分からないが、世話人の女主人の人がそんなことを言っていた。

 

 髪に櫛を入れて、装備を装着し、元の世界から持ってきた鏡で身だしなみチェック。

 玄関の鍵を閉め、ベイルの旅亭まで歩いて向かう。

 この時間でも、道を歩いている人が結構いるが、見た感じは商人っぽい者か迷宮探索者。

 鑑定してみると、そんな感じだ。盗賊はいない・・・・・・と思ったが、チラホラいるな。

 

 ボイルにコボルトスクロースを4つ渡して、木札をもらって朝食だ。

 こちらの世界の朝食は夕食より少し少な目という感じで、日本人の感覚から言うとかなりのボリュームだ。

 1日2食が基本だからだろう。俺は三食食べたい派なのだが。この量でも問題ない。

 そして、この旅亭の食事はやはり美味い。これが最も重要だ。

 

 朝から美味いものを食べれば、迷宮探索も捗るというものだ。

 元の世界でも武道にしろ、仕事にしろ、朝食を食べないと良い結果が出てなかった気がする。

 

 木札を返却して、コボルトスクロース3個とお昼の弁当を交換した。

 ボイルに礼を言い、旅亭を後にした。まずは探索者ギルドだ。

 

 探索者ギルドは既に開いていたが、カウンターの方はさすがに、並んでいる者はいない。

 窓口は一つしかないので、そこに行って、毒針を10本購入した。

 一本60ナール、結構高いが仕方ない。毒針はアイテムボックスの中に仕舞った。

 

 迷宮に行く前に一仕事。装備の洗浄作業だ。

 自宅に戻って風呂場に直行。湯舟には、ぬるま湯があるので有効に利用する。

 昨日、迷宮で手に入れた装備品。鎧が8つもあるので、とても面倒だ。

 

 汚れが酷いものは、直接お湯をかけ、とにかく水分を拭いとる。

 金属製の鎧じゃないので、軽いのが少しだけ救いか。だんだん慣れてきたような気がする。

 いい加減な扱いになってきたとも言うかもしれない。硬革系の鎧だけ、少し丁寧に扱う。

 

 皮の鎧を洗浄しようとして、手が止まる。

 これって、2階層で全滅したパーティーのものだろうか。この胸の部分の汚れは血だよな。

 2階層なら、グリーンキャタピラーかニードルウッドだ。

 あの程度のモンスターが鎧を貫通するような攻撃なんてありえるのだろうか?

 防御力の弱い皮の鎧なら、モンスターの攻撃でもクリティカルが出れば、あり得るのか。

 包囲され、何十回と打ち続けられると、クリティカルが出ることもあるかもしれない。

 ニードルウッドもグリーンキャタピラーも、俺はフラガラッハで一撃で沈めてきた。

 迷宮で油断は命取りだ。気の緩みを戒めないと。

 

 洗い終わった防具に目を向けた。

 本当なら金属はさび止めになる油を塗ったり、皮系の防具は油を塗ったりするのだろう。

 今は手元にないので、諦めよう。オリーブオイルは昨晩使って減ってしまったし。

 

 武器屋や防具屋の親父にちゃんと聞いておけばよかった。アミルに訊いてみるか。

 ざっとは綺麗になったと思うので、空き部屋に暖房を入れて、乾かすことにした。

 

 今日はベイルの街で市が立つ日だ。

 ワープで移動するのではなく、街をぶらつきながら迷宮に向かうことにした。

 5日前に見たほどではないが、道の端々に簡易な店舗が結構できていた。

 早くから来て、早めに売ってしまおうということかもしれない。

 

 中古服を扱ってそうな店の前で足を止め、売り子のおばさんと話をする。

 ドワーフの着れそうな小柄な人用のコートはないものか。

 おばさんのお勧めを数点見せてもらい、女性が羽織っても自然そうなものを選んだ。

 50ナール・・・・・・商人でもないし単品だから値引きも利かないけど、安いので購入。

 

 こちらの世界って、迷宮のドロップ品や装備品は、それなりの値段だけど、食材や衣類とかって安い気がする。

 ジョブが無くても簡単に作り出せるからなのかね。

 アミル用のコート(マント?)は、迷宮探索には不要だから、自宅に戻って置いてきた。

 

 索敵スキルを使いながら、道々確認してみると、徐々に盗賊の赤い点が増えてきた気がする。

 市の立つ日は、商人だけでなく、盗賊も活発になるのか。嫌な感じだな。

 門を出るころには、距離をおいて、赤い点6つが俺を追うように付いてくる。

 こいつら、市のアチコチに分散していたのに、俺が迷宮に向かい始めると急に集まってきた。

 全く・・・・・・俺が弱く見えるのかな?いや、ソロで行動しているからカモだと思っているのか。

 

 迷宮の入口に着くと、複数のパーティーがたむろしている。

 そして、入口の案内人から少し離れたところに赤い点の集団。

 それ以外はグレーだから通常の探索者達。盗賊ばかりで、気が滅入る。

 

 案内人の探索者に話しかけた。

「2階層はグリーンキャタピラーだと聞いてるのだが、間違いないか?」

 たむろしている盗賊達に見えるように、指を二本立てて、質問した。

 

「ああ、間違いない。糸を吐いてくるから気をつけろよ」

「ありがとう。分かってるよ。危なくなったら、すぐ逃げるようにするから」

 案内人との話を打ち切り、迷宮の入口に入った。

 入る直前に近くにいた盗賊達が動き出そうとしているのが索敵スキルのマップで見て取れた。

 

 2階層の小部屋に入ると、索敵で周囲のエリアを確認して、走り出す。

 小部屋を出て、左側の廊下にニードルウッドがいたので、フラガラッハで倒す。

 ブランチを拾って、また走り、十字路のところで左に曲がる。

 

 索敵で再度確認すると、十字路近辺にはモンスターも他のパーティーもいない。

 そして、小部屋に赤い点が6つ忙しく動いており、通路の方に出ようとしているところだ。

 彼らに見えるように・・・・・・ゆっくりと元来た十字路を横切る。

 

 索敵のマップで相手の動きを確認すると、少し歩調を速めて、こちらに近づいてくる。

 足を止めて、右の方に視線を向ける。

 やがて、6人が俺を見つけて、近づいてくるのが分かった。

 

 盗賊の6人パーティーに向けて、話しかけた。

「お前らも芋虫のカード狙いか?」

 世間話のように話しかけると、先頭の一人が黙ってうなずいた。

 無詠唱で、6人の後ろにファイヤーウォールを出す。

 

「芋虫狙うのに、魔法使いが必要なのか?」

 俺は、6人の後ろを指さしながら話しかけ、念のため鑑定で再確認。

 

盗賊Lv23

装備 レイピア 革の鎧 革のグローブ 革の靴

 

盗賊Lv20

装備 鉄の剣 革の鎧 皮のグローブ 革の靴

 

盗賊Lv16

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮の帽子 皮の靴

 

盗賊Lv18

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮のグローブ 革の靴

 

盗賊Lv15

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮の帽子 皮の靴

 

探索者Lv16

装備 シミター 鉄の鎧 革の鎧 革の靴

 

「はぁ?なんだこりゃ」

 6人の注意が後方に向いた瞬間、オーバーホエルミング。

 

 前にいた3人の盗賊の首をデュランダルで刎ね、後方の中央にいた探索者の首も刎ねる。

 オーバーホエルミングは切れたが、そのまま左側の盗賊Lv18の首を刎ねた。

 

 ようやく、5人が切り捨てられたのに気づいた盗賊Lv20が剣を構えた。

 構わず、デュランダルで袈裟懸けで切り捨て、念のため首を刎ねた。

 

「ふぅ」

 一つ、大きく息を吐き、盗賊達の左手首をフラガラッハで淡々と切断する。

 ここから先はルーティンだ。念のため、索敵で周囲を警戒しながら、淡々と作業する。

 

 盗賊達のリュックにあったのは、金貨が6枚と銀貨、銅貨が数十枚。

 他にも魔結晶が青1つ、紫が5つと盗賊のリーダーらしき奴が持っていた芋虫のカードが1枚。

 なんだか自分では全然、カードがドロップせずに、他人から入手してばかりだな。

 やがて、6人が迷宮に飲み込まれていく。何度見てもシュールな光景だ。

 

 インテリジェンスカードは、まだ出てこないだろうから、近くの壁から風呂場にワープで移動。

 左手6本が入ったリュックを風呂場の床に置いた。なかなかホラーな光景になってしまった。

 

 再び、ベイルの1階層の小部屋にワープした。

 小部屋に1組、パーティーがいたが、こちらは全員グレーだ。

 索敵で見ると、北側の通路を赤い点が6つ移動している。

 こっちは俺を市場から追ってきた奴らかもしれないな。

 

 盗賊達の進行方向とは逆の十字路の陰の壁にワープで移動。

 角からゆっくりと、6人を後ろから鑑定。

 市場で見かけた盗賊が一人いたので、やはり追ってきた奴らだな。

 一人だけレベルが高いのがいたので覚えていた。何故か他の奴らのレベルは低い。

 

盗賊Lv34

装備 鋼鉄の剣 硬革の鎧 革の帽子 硬革の靴

 

盗賊Lv18

装備 鉄の剣 革の鎧 皮の靴

 

盗賊Lv13

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮の靴

 

盗賊Lv11

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮の靴

 

盗賊Lv14

装備 鉄の剣 皮の鎧 皮の靴

 

探索者Lv17

装備 鉄の槍 革の鎧 皮の靴

 

 ここまで、熱心に探索者狩りをするのなら、モンスターでも狩れって思うぞ。

 心の中で悪態をつきながら、盗賊達が十字路を曲がったのを索敵で確認して、十字路の陰の壁にワープした。

 

 索敵で6人が前を歩いているのを確認して、オーバーホエルミング。

 後ろから駆け寄り、3人の首をデュランダルで刎ねる。

 オーバーホエルミングはここで切れた。前を歩いていた盗賊の一人が振り返ったので、その男の首も刎ねる。

 残りの二人は剣を構えたが、構わずに剣の上から横なぎに二人共デュランダルで切り捨てた。

 

 なんか、対人戦の経験がどんどん上がっていくな。

 まあ、盗賊達がこちらに剣を向ける前に倒しているので、大した経験ではないが。

 実際、盗賊を討伐してもレベルが上がってないから、経験値はほとんど入ってないのだろう。

 それでも、奇襲のバリエーションは確実に増えている気がする。

 

 余計なことを考えてる時間もないので、6人の左腕を切断。

 大して時間も空けず、装備品とリュックを残して、死体は迷宮に飲み込まれていった。

 

 盗賊達のリュックにあったのは、金貨が3枚と銀貨は先ほどよりもたくさんと銅貨が少し。

 金貨はあのレベルが高かった盗賊の所持品だった。親分格だったのかもしれない。

 他にも魔結晶が青2つ、紫が4つ。

 そして、リュックから生えた左腕6本。殺伐とした光景だ。

 

 近くの壁から再び、新居の風呂場にワープ。

 既にリュックから生えた左手6本が鎮座している。その隣に新たなリュックを置いた。

 今日はアミルを商館へ迎えにいき、新居にも招こうかと思っていたのだが大丈夫だろうか?

 いや、風呂場で何をする訳でもないのだが。

 食堂やアミルの部屋を見てもらって、足りないものを買物する計画だったのだが、うーん。

 

 風呂場の壁から、ベイル3階層の小部屋にワープで移動。

 これだけ盗賊が蔓延ってるのだから、3階層のコボルトハンター達が気になる。

 中間部屋の方にもワープして索敵で確認したが、どうやら3階層には盗賊はいないようだ。

 そしてグレーの点が3つ移動しているので、コボルトハンター達かもしれない。

 安心した訳でもないのだが、これ以上、俺にできることはないので自宅の玄関へワープ。

 

 なんか疲れた。食堂で朝、沸かして作ったハーブティーを出して飲み干す。

 今日は遊び人取得のためのレベリングをする計画だったはずなのだが。

 まあ、命を狙われたので、これは正当防衛でやむを得ない。

 過剰防衛ではないはずだ。少なくとも、この世界では。

 

 ちょっと、心を静めるためにも、装備の洗浄をやろう。

 血を洗い流せば、きっと心も洗い流されるに違いない。

 それにアミルを招いた新居に腕が12本生えているのは、心情的に嫌なので。

 

 心を無にして、装備品をひたすら洗う。朝も洗ったはずだが、それでも洗う。

 血を洗い流したので、これで完全犯罪・・・・・・じゃない、完全に綺麗になったはずだ。

 それでも血の匂いはまだ残ってるのだが、この世界には換気扇がないので仕方ない。

 風呂を沸かす時に、きっと匂いは消えるだろう。そう願いたい。

 

 そして、朝洗った装備品を乾かしている部屋に、12人分の装備品を並べた。

 これはこれで、またシュール光景だ。まあ、昼飯食う頃には乾いてるだろう。

 

 そして、風呂場に戻ると、腕12本からインテリジェンスカードが出ていた。

 まあ、ずっと前から出ていたのだろうけど、そちらを見てなかったからな。

 カードは回収して、二階の机の引き出しに入れた。

 腕の入ったリュックはどうするか。

 とりあえず、玄関に行く。そして、何も持たずに、ベイル3階層の中間部屋にワープした。

 

 誰もいない。が、この中間部屋に腕12本を置く訳にはいかない。

 万が一、誰か探索者が入ってきたら、仰天するだろう。俺だったら、速攻でUターンだ。

 

 仕方ないので、魔物部屋の周囲に誰もいないのを確認して、玄関にワープ。

 腕12本の生えたリュックを2つ持って、魔物部屋の通路にワープ。

 

 周囲と魔物部屋の中を確認。モンスターの数は20匹ほどに増えている。

 モンスターの比較的少ない壁の近くにワープし、リュックを放り投げてゲートから戻った。

 もう、いいや。これで盗賊退治の後始末は完了と。

 

 いや、インテリジェンスカードの換金があったか。

 元々は5枚持っていたが、12枚更に増えたんだよな。

 

 クーラタルの騎士団詰め所に17枚いきなり持っていくのは不自然か。

 クーラタルの迷宮で17人盗賊がいたと主張するのは無理がある気もするし、近くの村で倒したと言うにも、どこの村だ?・・・・・・という話になる。

 

 ベイルとクーラタルで分けて提出するか。クーラタルが6枚、ベイルが11枚?うーむ。

 まあ、それは後で考えるか。気を取り直して、遊び人のジョブ取得に励もう。

 今度は、歩いて行かずに真っすぐ迷宮に直行だな。

 ベイルの3階層の中間部屋にワープした。

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