引き続き異世界に転移させられた日本人視点の閑話です。
盗賊の襲撃を退けた日から、迷宮でモンスターを倒す日々が始まった。
1階層のコボルトは一撃で難なく倒せる。
動きも遅く、こちらが攻撃を受けることもない。
稀に攻撃を受けることがあっても、デュランダルのHP吸収ですぐさま回復しながら倒せる。
辛いのはひたすらモンスターを探して歩き回ることだ。
戦うのは一瞬で終わるが、コボルトを探すのがシンドイ。
一人で迷宮の通路を歩き回ってモンスターを探さなければならない。
手元に筆記用具もないからマッピングもできないので勘を頼りにウロウロする。
ボス部屋に行ってボスを倒せば次の階層に行けるので、さっさと先に進むようにエレーヌ様から言われたが、肝心のボス部屋がなかなか見つけられなかった。
救いは迷宮の中で遭難する心配がないことだ。
エレーヌ様にもらったワープのスキルで、直ぐに迷宮の出口や村に帰れるから。
ワープがなかったら、心が折れていたかもしれない。
こんな便利なスキルをもらえたことで、本当にゲームの世界に来たのだと実感した。
・・・・・・
2日目の終わり頃には最奥のボス部屋でコボルトケンプファーと対峙した。
「受け渡されし英霊の |御霊<<みたま>>の息吹解き放て 神速 オーバーホエルミング」
英雄のスキルであるオーバーホエルミングはスゴイ。
相手の動きがスローモーションになっている間、デュランダルで滅多切りにすればダメージを受けることなくボスモンスターも瞬殺。
エレーヌ様が英雄は特別なジョブであるとおっしゃっていたのも納得の強さだ。
詠唱の言葉が少し照れ臭いが、一人で迷宮に入っているので慣れてしまった。
・・・・・・
迷宮に入って3日目で2階層に突入した。
2階層のモンスターはコラーゲンコーラル・・・・・・なんだか分からないが頭が固くて丸いちょこちょこ飛び跳ねるモンスターだ。
コボルトと同じくデュランダルで瞬殺できるのは良かった。
鑑定で見ると2階層からLv2のモンスターが出てくるようで、コラーゲンコーラルだけでなくコボルトも出現した。
Lv2になったからと言って、コボルトが2倍強くはならないようで瞬殺できるのは同じだった。
コラーゲンコーラルのドロップ品は『コーラルゼラチン』というものだが、用途は全く分からない。
1階層のドロップ品は塩とナイフ。ボスが砂糖だ。
これらは迷宮攻略では全く役に立たないが用途としては分かり易い。
コボルトを倒せば倒すだけ増えてしまうが、村の人に渡すと喜ばれるのでまだマシだ。
『コーラルゼラチン』は用途が分からないので、無駄にたまっていくだけ。
増えすぎると、ワープで村に戻ってアイテムを置いていく。
村長の厚意で家を一つ借りられたのでアイテムを置けるのだが、アイテムでいっぱいになってしまうのが予想に難くない。
村ではアイテムを売買する商店もないので、どうしようもない。
そのうち、迷宮に捨ててしまうかもしれない。
2階層に上がって昼前には英雄がLv2になった。
だが、目指すのはLv8・・・・・・まだ遠い。
一人で黙々と2階層のモンスターを倒した。
4日目の終わりには階層ボスのコラージュコーラルと戦った。
だが、オーバーホエルミングを使えば瞬殺なのは1階層と全く変わらず。
ドロップ品は『接着剤』・・・・・・用途が分かるだけまだマシか。何に使うかは別として。
・・・・・・
5日目から3階層に突入した。
3階層のモンスターはナイーブオリーブ。
そして3階層だからLv3なのか。段々分かってきたぞ。
このモンスターもデュランダルで一撃だった。
いつか一撃で倒せない階層になるのだろうか。その日が不安だ。
このモンスターのドロップ品は『オリーブオイル』。これは分かり易い。
村の人に渡すと喜ばれ、食べ物と交換してもらえるのが助かる。
この村も別に裕福ではないので、いくら盗賊を撃退した立役者とはいえ、ただ飯をずっと喰らっていると心証が悪くなるだろう。
5日目の午前中には英雄ジョブがLv3になっていた。
6日目の終盤に階層ボスと対決。
ボスはパームバウムというモンスターだったが、オーバーホエルミングをかけてデュランダルで連打すれば難なく倒せてホッとした。
ドロップ品は『パームオイル』か『オリーブオイル』よりは品質が良いのだろうか。
どこにも売れないので、その価値が全く分からない。
正直なところ、見た目の違いもそれほどない気もする。
村の人達にあげて喜んでもらえるから良いか。
英雄のジョブで一人で戦っていると、このまま一人でどこまでもいけるのではないかと勘違いしそうで怖い。
まだ3階層程度なので、浮かれてる場合ではない。
ボス部屋を後にして4階層に抜けたタイミングで、エレーヌ様が現れた。
(頑張っているようですね。前の者達と比べると英雄ジョブはさすがに優秀ですね)
「他の・・・・・・スミスさん達も英雄ジョブにすることはできないのですか?」
(それは無理ね。彼らはもう条件を満たせないわ)
「私はデュランダルをもらえたから運が良かったということですか?」
(さあ、どうかしら。そんなことよりも・・・・・・
あなたの魂の器がまた空いたからスキルを一つ増やしておくわね。
・・・・・・これでいいわ。引き続き頑張りなさい)
「あ、はい。ありがとうございます・・・・・・って行ってしまわれた」
(鑑定)
新井 一平(人間族 男 17才 自由民)
英雄Lv4
装備 デュランダル
英雄がLv4になっていたのか。
器が広がったというのはスキルポイントが3つ増えたということなのだろうか。
Lv8まで、あと4つレベルを上げなければならない。
6日目でLv4というのは順調なのだろうな。
(鑑定)
ジョブ 英雄
効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇 体力中上昇
知力中上昇 精神中上昇 器用中上昇 敏捷中上昇
スキル オーバーホエルミング ワープ 獲得経験値二倍 必要経験値二分の一
スキルに『必要経験値二分の一』が増えている。
『獲得経験値二倍』と合わせると成長速度が4倍になるのだろうか。
これは少しワクワクするな。
やっていることが単調作業に近いのは変わらないのだけど。
だけど・・・・・・階層ボスをひたすら倒す方が効率的かもしれない。
モンスターを探し回る時間がかかり過ぎて効率が悪いと思う。
もし、さきほどエレーヌ様にもらったスキルでレベル上げの速度が4倍になるなら、階層ボスだけを倒す方が良いだろう。
(ワープ)
壁に空いた黒い穴をくぐって、ボス部屋の直前の部屋まで移動した。
目の前のボス部屋の扉は開いている。
ボスを倒しても扉は閉じたままだったのに。
中に入ると・・・・・・煙からパームバウムが現れた。
「受け渡されし英霊の |御霊<<みたま>>の息吹解き放て 神速 オーバーホエルミング」
スローモーションになったパームバウムをデュランダルで瞬殺。
パームオイルを拾って、入ってきた方向の壁に向かってワープを念じて、一つ前の部屋に戻った。
扉が開いている・・・・・・これで階層ボスの周回ができるな。
物凄い単純作業になるけど、多分これが一番効率的だと思う。
よし、頑張ろう。
・・・・・・
7日目にLv5を超えて、Lv6に到達した。
やはり成長速度が4倍になっているのだろうか。
それともボス周回で効率が上がったからだろうか。両方の効果かもしれない。
目標が見えてきた。もう、このままボス周回を続けよう。
非常に単調な作業で2つの部屋を行ったり来たりするだけだ。
もはやドロップ品のパームオイルはあちこちに投げ捨てている。
それでも、しばらくすると消滅しているようだ。
迷宮でリサイクルされているのかもしれない。
8日目にもLv7に上がり、その日の終わりにようやく英雄のジョブがLv8まで上がった。
ようやく目標達成できた・・・・・・だけど、それって成長速度を促進していたスキルがなくなることを意味するのだよな。
なんだか、やるせない気分になってきた。
(英雄ジョブがLv8になったようね。これで『異世界言語(全言語)』が器に入るわ。
・・・・・・これでいいわね。
これで、あなたは世界の誰とでも会話ができるわ。
あとはナックルの村人ジョブのレベルを上げなさい。
あなたは鑑定でジョブのレベルが分かるから簡単よね?)
成長の加速スキルがあった方がもっと簡単だと思いますけど・・・・・・。
(ダメよ。もうこれ以上のスキルは与えられないわ。
さっさとサーチのパーティーに入ってスミスのレベルを上げなさい。
その後はクーラタルの街へ行って、レイリアに会うのよ。
レイリアはこの世界のジョブのことを全て知ってるわ)
レイリアさんはクーラタルの街のどこにいるのですか?
(酒場にいるはずよ。クーラタルは小さな街だから、すぐに分かるわ)
酒場でジョブの変更って、ベタな展開だな。
(レイリアはサーチを正式な探索者にできるし、スミスも探索者にできるわ。
そして、スミスを鍛冶師のジョブにするのよ。
そうすれば、迷宮の討伐に近づくはずだから)
「鍛冶師のジョブを得ると直ぐに武器や防具が作れるようになるのですか?」
(迷宮でモンスターを倒して装備品を生成する鍛冶素材を得る必要があるわね。
迷宮で武器がドロップすることもあるけど、大した武器ではないはずよ)
そのドロップ品でサーチさんが戦っているのを見ました。
鍛冶素材の収集から?・・・・・・道のりが遠い。
(デュランダルだけで迷宮討伐するのなら止めないわ)
「迷宮の討伐って、何階層ぐらいまで攻略すれば良いのですか?」
(今からなら・・・・・・10年間は50階層ね)
5・・・・・・50階層?・・・・・・絶望的な目標じゃないか。
(分かったのなら、早く鍛冶師のジョブを得ることね。サーチ達と合流したら?)
そうします・・・・・・はぁぁ。
・・・・・・
ワープで村まで戻り、サーチさん達を探した。
迷宮での戦闘があまりに効率が悪くて、村で待機してもらっているからだ。
だが、ナックルさんが僧侶のジョブを得たところで、武器や防具がすぐに良くなる訳ではない。
鍛冶師のジョブを得るために探索者ジョブをLv10に?
これも長い道のりだ。
その先に鍛冶師のための素材集めが必要・・・・・・塩やナイフで武器が生成できるのだろうか?
とっても不安だ。
サーチさん達は畑の方にいた。
この村の出身だから、普段通りの生活をしているらしい。
マコスさんはこの村の出身ではないが、何かを発散するために畑仕事を手伝っている。
「サーチさん、お待たせしました。
ようやく、そちらのパーティーに合流できるようになりました。
エレーヌ様に言われたので、ナックルさんのジョブ取得のために一緒に頑張りましょう」
「なんだか、今日は一段と疲れているように見えるけど大丈夫か?」
さっきのエレーヌ様を聞いて、ドッと疲れたのかも。
でも、一人で悩まずに皆と相談しよう。これからはこの人達とパーティーを組むのだから。
おかしいな。エルフの魔法使いの女の子とパーティーを組む予定だったのに・・・・・・。
まだ6人パーティーの5人までしか埋まってないからチャンスはあるか?
「これからの迷宮探索について相談させて下さい」
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サーチさん達四人に今後の迷宮探索方法について提案した。
ナックルさんの村人ジョブのレベルを上げるために、サーチさん、ナックルさんと俺の三人だけで3階層の階層ボスの周回をしたいと。
人数を減らすことやボス周回という概念の説明が困難だったが無理やり納得してもらった。
実際、ボスにダメージを与えられる攻撃ができるのが俺だけだったので、三人で戦おうと五人で戦おうと今はあまり変わらないからと。
初めは難色を示していたスミスさんも、実際にボス周回のやり方を見せて納得してもらった。
というか、あまりに単純な移動作業に辟易したというのが実情かもしれない。
延々とボス周回して、3日目にナックルさんに僧侶ジョブの選択確認の啓示が降りたようだ。
村人のジョブが無事Lv5になったのだな。
俺の英雄もLv9になっていた。
これでパーティーメンバーのジョブレベルが、
サーチ :探索者(仮)Lv5
スミス :村人Lv3
ナックル:僧侶(仮)Lv1
マコス :色魔Lv1
なんだかハードモードのダンジョン探索RPGのデコボコパーティーのようだ。
ナックルさんが僧侶になった翌日、皆で集まって今後の相談。
「エレーヌ様から、クーラタルの街に行けと言われてますが、その街に行ったことありますか?」
「ないけど、ベイルの街から馬車で3日ほどの距離らしいぞ」
3日って結構な距離だな。
「この村からベイルまでは歩いて半日だからベイルで一泊して、
クーラタルの街まで野営しながら、馬車で3日かけて移動することになるな」
「そうなると、馬車に乗せてもらうためのお金が必要になりますよね?
私は無一文ですけど、皆さんお金を持ってますか?」
迷宮でいくらアイテムを得ても、全然お金が貯まらない。
普通のゲームとは全然違うぞ。
「あの皆さんは、ここを旅立たれますか?」
「えっ・・・・・・」
気付けば村長さんが傍らに立っていた。
そういえば、旅立つにしても村長さんに挨拶してからだよな。
「盗賊を討伐していただきましたので、遅ればせながらこれを・・・・・・」
「ああぁ・・・・・・ありがとうございます」
村長が手に袋を持っていて、ジャラジャラ音がするので硬貨が入ってるのだろう。
「些少ですが、金貨1枚分の銀貨100枚が入っております」
「ひゅー、1万ナールか。太っ腹だな」
マコスさんが太っ腹と言ってるが、この世界の貨幣価値が分からない。
口ぶりからすると、結構な大金なのだろうか。
「旅立ちの日が決まれば教えて下さい。村民全員で見送らさせていただきます」
「いえ、そこまでしていただかなくても。お金をもらえただけで十分ですから」
村長は丁寧なお辞儀をしながら去っていった。
「1万ナールあれば、クーラタルの路銀として十分なのでしょうか?」
「そうだな。5人ならベイルで一泊して、馬車に3日間乗っても十分お釣りがくるだろう」
そうか、それならクーラタルに行くのは問題ない。
問題ないのだけど、そこからどうするかだよな。
レイリアさんに会って、スミスさんが探索者のジョブを得て、またここに戻ってきて・・・・・・今度はワープで戻れるのか。
それから、ここで迷宮探索しながら村の人達と物々交換しながら暮らすのか?
「じゃあ、明日にでも出発するか。俺は家族に伝えておくわ」
「ああ、俺もな」
サーチさん、スミスさん、ナックルさんはこの村に家族がいる。
三人は自分達の家の方に戻っていった。
マコスさんと俺の二人は家族がいない。
彼の出身は本人が語りたがらないので不明だが、ベイルでもクーラタルでもないようだ。
「マコスさんは、このまま迷宮探索を続けて問題ないのですか?」
「どうだろうな。
正直、俺に向いているとは思えないのだけど。
エレーヌ様に言われたからやってるだけで」
彼は頭をかきながら、遠くを見つめている。
大丈夫なのだろうか。迷宮での戦闘は命の危険を伴う。
50階層の攻略など、本当に命懸けになるだろう。
だけど、そもそも俺だって50階層まで攻略できるかと訊かれたら、デュランダルがあっても自信がない。
「じゃあ、また明日な・・・・・・」
「はい。ではまた」
彼も借りている家に戻っていった。俺も戻ろう。
その晩はあまり眠れなかった。
成り行きで異世界転移して、チートアイテムとチートスキルをもらって英雄のジョブも得た。
だが目標の50階層の迷宮攻略は遥か遠い道のりで、成功する保証もない命懸けの行為。
低い階層でなら、充分に戦えて英雄のレベルも少しは上がったが・・・・・・50階層ということはモンスターはLv50なのだよな。
今と同じように楽勝で戦えるとはとても思えない。
そして仲間のメンバーのジョブの実力も分からない・・・・・・これで本当に上手くいくのだろうか。
そして、何のために迷宮を攻略するのかという疑問。
初めはチートスキルとチートアイテムをもらい強ジョブを得て浮かれていたが、厳しい現実が待ち構えているのが分かってきた。
あれ以来、エレーヌ様は姿を現さない。
とにかくクーラタルという街まで行って、レイリアという人に会うしかないのか。
エレーヌ様とラグナス様と会った時にいたけど、全く喋らなかった人だよな。
そこで、迷宮討伐からドロップアウトしたら、どうなるのか確認してみよう。
お読みいただき、ありがとうございました。
本話で一連の閑話を終わらせる予定だったのですが、まとまり切らず『その5』まで続きます。
今しばらくお付き合いください。