異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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お読みいただき、ありがとうございます。

本話で当該タイトルの閑話は一区切りです。


閑話006 世界で初めての(その5)

 翌日、村人達の見送りを受けてベイルの街へ出発した。

 この村出身の三人の家族がほとんどだったので、村人総出という感じではなかったが。

 それにしても、三人とも結婚していたのか。

 ナックルさんが結婚していたのは一番の衝撃だった。アレでも結婚できるのかと。

 

 三人とも年齢的にはおかしくないけど、一緒に迷宮探索していた時はそんな話をしてなかったので、かなり驚いたぞ。

 それに嫁さん、メッチャ美人じゃん。

 思わずデュランダルと交換してくれと言いかけたぞ。

 それにしても家族がいるのに、あんな危険な迷宮でコボルトと戦っていて良かったのか?

 エレーヌ様に命じられていたとはいえ。

 

 サーチさんとスミスさんは赤ちゃんが生まれたばかりのようだった。

 どうでもよいけどドワーフって、赤ちゃんの時は髭もじゃではないのだな。

 髪の毛もフワフワな感じで、かなり可愛かった。

 スミスさんとお嫁さんが赤ちゃんをあやしていたのを見てホッコリとしてしまった。

 

 畑の収穫物をベイルで取引する村人が二人いたので便乗させてもらい、それぞれの馬車に分かれて乗ることにした。

 窮屈だったけど、歩かずに街まで行けるのは非常に助かる。

 

 ベイルの街までは、スミスさんと同じ馬車の荷台に乗ってノンビリと進んだ。

 途中、馬車に揺られながら、とりとめもない話をした。

 生まれたばかりの赤ちゃんの話、村で採れる野菜の話、村の近くに迷宮が出現してからの話等。

 

 彼の家族は全員ドワーフ族なのだが、あの村に流れ流れて住み着いたらしい。

 当時は周りが人間族ばかりで言葉が通じず大変だったらしい。

 必死になって、言葉を覚えたけど文字の読み書きまではできないと。

 そのうち、ドワーフがもう一家族流れてきて、気楽にドワーフ族同士で会話できるようになったとのこと。

 

 強い武器を作って村での狩猟に役立て、受け入れてくれた村に恩返しをしたかったようだ。

 今は迷宮で通用する武器を作るため、鍛冶師のジョブを目指しているのは良いのだろうか。

 

 半日も馬車で揺られているうちにベイルの街に着いた。

 転移させられた村よりは確かにデカい。

 木製だけど、村よりも立派な柵もあり頑丈そうだ。

 

 村にはなかった商店もあった。

 パンや小麦、野菜等も売っている。

 買い取りもしているので、村の人はここで野菜を買い取ってもらっているようだ。

 

 クーラタルに行くまでの食料として固く焼きしめたパンを買った。

 物凄く固そうで、水につけないと食べられなさそう。

 村でもらった水袋に水を入れて、漬けて食べることになるなぁ。

 ハムや調味料もないから、元の世界のパンが恋しい。

 

 迷宮でドロップした塩や砂糖も買い取ってもらった。

 少しだけだが、旅の路銀も増えた。

 

 翌朝出発する馬車の約束を取り付けて、宿を探すことにした。

 

 マコスさんは『久しぶりだ』と言いながら、治安の悪そうな街の方角に消えていったが、ちゃんと明日の朝戻ってくるのだろうか。

 

 俺達は宿で四人部屋を借りて一泊することに。

 久しぶりのまともなベッドだ。

 元の世界のホテルを考えると貧相だが、それでも村の寝床よりは数段マシだ。

 酒場で食事をすると、村の食事よりは美味しくて涙が出そうになったのは内緒だ。

 でも、風呂に入りたい。

 水を浸した手ぬぐいで体を拭いても全くサッパリしないのだよなぁ。

 

 相部屋で眠れないかと思ったが、疲れていたのかアッという間に眠りに落ちた。

 

・・・・・・

 

 翌日、馬車が出発する荷物の集積場に行くと、既にマコスさんが待っていた。

 妙にスッキリした顔をしていたのが腹立たしい。

 だが、自分の金を使ったのだから文句も言えない。

 村長からもらった金は俺が管理しているが、銀貨の多さと重さに辟易する。

 だが、銀貨でないと使い勝手が悪いので仕方ない。

 元の世界のキャッシュレスが懐かしい。

 

 料金を支払って馬車に乗った。

 今度は人間用だから皆同じ馬車だが狭いのは変わらなかった。

 

 馬車に揺られて3日間。

 初めて街道での野営も経験して、寒さを我慢しながら眠り、そして起きて馬車に揺られて・・・・・・をひたすら繰り返した。

 結構、キツイ。

 迷宮で単純作業のボス周回をしている方が全然ラクチンだと思えた。

 

 それでも、きっちり3日目の昼にはクーラタルの街に着いてくれたのでホッとした。

 

 着いたようだが・・・・・・これが街?

 ベイルの街はまがりなりにも木の塀があったが、ここにはそんなものはない。

 塀がないから門もない・・・・・・畑と家がまばらに存在していて、村と街の中間の存在に思える。

 

 この小さな街にレイリアさんがいるのだろうか。

 でも店や酒場や宿などはかろうじてあるようだ。

 よくこんな場所で営業しているな・・・・・・不思議に感じてしまう。

 

 宿を確保したいがレイリアさんに会うのが優先なので、酒場らしき場所に行くことにした。

 道行く人に聞いたが、クーラタルには酒場が一軒しかなくて、食事も酒も提供しているので昼間から営業しているらしい。

 店の外観は新しい・・・・・・というか綺麗な方だ。

 そして建物もまあまあ大きい。宿屋も兼ねているのかもしれない。

 

 酒場に入ると客は全くいないが・・・・・・テーブルに一人だけ座っている人がいる。

 いた・・・・・・この女性に間違いないはずだろうけど。

 

「おい、この人が本当にレイリアさんなのか?エレーヌ様ではなくて?」

「はい。多分・・・・・・そうです」

 皆そりゃ、驚くよな。でも、説明よりも先にやっておかないと・・・・・・。

 

(鑑定)

 

 

レイリア(使徒)

エレーヌの神官

装備 なし

 

 間違いなく、レイリアさんだ。

 彼女の顔はエレーヌ様と瓜二つだ。

 

 レイリアさんは使徒と情報が表示されて、性別もなければ年齢も表示されない。

 ある意味、エレーヌ様と同じだ。

 

 エレーヌ様は『世界を創る者』という種族だかジョブだか分からない情報が表示されていた。

 一方でレイリアさんは種族等が表示される箇所に『使徒』と表示され、ジョブが表示される箇所に『エレーヌの神官』と表示されている。

 『上級鑑定』のスキルを持っていた時は所持スキルがたくさん表示されていたが、今は『鑑定』スキルになってしまったから見えなくなった。

 

 エレーヌ様からレイリアさんに会えと言われて来たのだから、とにかく話をしよう。

 ここで情報をイロイロ聞き出せるかもしれない。

 

「あの・・・・・・お久しぶりです。

 エレーヌ様とラグナス様とお会いした時にレイリアさんにもお会いしましたよね?

 私のことを覚えていますか?」

「・・・・・・」

 言葉は発しないけど、無表情のまま彼女は頷いた。

 

 顔の造りが全く同じ・・・・・・違いは無表情なところ。

 エレーヌ様には表情があり、言葉というか思念は人間の会話に近い。

 

「エレーヌ様から、サーチさんを正式な探索者とするように言われたのですが、

 レイリアさんにお願いすれば良いのでしょうか?」

「はい・・・・・・」

 ちゃんと喋れるのだな。初めて声を聞いたけど、エレーヌ様の声に似ている。

 

「こちらのパーティーに入りなさい・・・・・・」

「えっ、ああ、ちょっと待って。こちらのパーティーを解散するから」

 サーチさんはパーティーを解散して、レイリアさんのいるテーブルの対面のイスに腰かけた。

 

「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」

 サーチさんをパーティーに誘ったのか。でも何故?

 

「終わりました・・・・・・」

 何が終わったのだろうか?

 

 サーチさんも得心が行かず、首を傾げている。

 

(鑑定)

 

 

サーチ(人間族 男 23才)

探索者Lv3

装備 ジャックナイフ

 

 あっ、『(仮)』の文字が消えている。これが正式な探索者になるということ?

 

「サーチさん、あなたは正式な探索者ジョブになったようですよ」

「俺には何も違いが分からないのだが、そうなのか?」

 いや、俺だって違いなんて分からない。分かるのは表示されている文字の違いだけだ。

 

 

「スミスさんを探索者のジョブにしなさいとエレーヌ様から言われたのですけど、どうすれば良いのか分かります?」

 

「こちらのパーティーに入りなさい・・・・・・」

 スミスさんに向かって、レイリアさんは語りかけた。

 

 まだ、スミスさんの紹介もしてないのに・・・・・・なんだか、背筋のあたりがゾクゾクしてきた。

 

「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」

 スミスさんもパーティーに誘ったようだ。

 

「終わりました・・・・・・」

 これって・・・・・・?

 

(鑑定)

 

 

スミス(ドワーフ族 ♂ 25才)

探索者Lv1

装備 なし

 

 探索者ジョブになっている。

 

 その後、ナックルさんは僧侶のジョブに、マコスさんも正式な色魔のジョブにしてもらった。

 ジョブの変更をしてもらっている間、レイリアさんの顔は全くの無表情。

 淡々とジョブの変更をしている。

 

 言われたままにジョブ変更をしているのではなく、何が正しいのか決まっていて、それに従いジョブ変更をしているという感じだ。

 見ていて、凄く薄気味悪い。

 

 

(無事、ジョブが取得できたようですね)

 

「あっ、エレーヌ様。

 サーチさんとマコスさんは正式なジョブになりました。

 スミスさんは探索者に、ナックルさんも僧侶のジョブになりました。

 スミスさんはLv10になれば鍛冶師のジョブになれるのですよね?」

 エレーヌ様は、テーブルの横にいきなり出現した。

 

 レイリアさんと全く同じ顔、同じ格好をした女性がいきなり二人いるのに、少し離れた所にいる酒場の店主は驚いた表情には見えない。

 顔が見えていないのか・・・・・・それともエレーヌ様が見えているのは我々だけなのだろうか。

 

(そうね。Lv10まで成長すれば鍛冶師のジョブになれるはずよ)

 

「迷宮でドロップしたアイテムなどを換金する場所はこの世界にあるのでしょうか?」

 

(そうね。レイリア、ギルド神殿が一つだけあったわね。それで探索者ギルドを作りなさい)

 

「はい・・・・・・」

 

(これが探索者ギルドのギルド神殿よ。

 これがあれば迷宮のドロップ品を持ってくれば、この世界のお金に変更できるわ)

 

「それは非常に助かります」

 

(それと、これがあれば探索者ジョブの取得ができるわ)

 

「探索者ジョブへはレイリアさんにお願いして変更してもらうのでは?」

 

(レイリアがここにいるのは今から10年間だけよ。

 ギルド神殿を使って探索者ギルドを作る必要があるの。

 他のジョブ・・・・・・僧侶や鍛冶師も同じね。

 同じジョブの者をたくさん増やそうと思ったらギルドを作りなさい。

 そのために迷宮を討伐してギルド神殿をここに持ってこなければなりません。

 ギルド神殿を使って、レイリアが指定されたジョブのギルドを作ってくれるわ)

 

「レイリアさんがいなくなったら・・・・・・」

 

(新しいギルドは作れなくなるわ。

 だから、その前に迷宮を多く討伐してギルド神殿を持ってきなさい。

 あとは・・・・・・そうね。では、こうしましょうか。

 レイリアが去る時にその者に最も適したジョブになれるギルド神殿を一つ残しましょう。

 専用のギルド神殿もなく、レイリアがいなくなってもジョブの取得条件さえ満たせば、

 新しくジョブが見つかった場合でも、そこでジョブの変更ができるでしょう)

 

「迷宮は各地にたくさんあるのですか?」

 

(今は、あなたが転移した村に50階層の迷宮が一つあるわ。

 それが討伐されると新たに迷宮が二つ出現するわ。

 一つ迷宮が討伐される度に二つずつ出現するの。

 どこに出現したかはレイリアに聞けば分かるわ)

 

「どんどん増えていくのですね。

 迷宮からはモンスターが出てくるとサーチさんから聞いたのですけど、大丈夫なのですか?」

 

(大丈夫かどうかは知らないけど、

 10年間は最大でも50階層の迷宮が10個までしか増えないわ)

 

 上限があるのか。

 それでも10年間で多くの迷宮を討伐しないと沢山のジョブのギルドを作れないのか。

 

「この世界にジョブの数はいくつあるのですか?」

 

(それは自分達で見つけ出しなさい。私やレイリアが教えることはないわ)

 

「迷宮のアイテムの用途や武器の作り方を知るにはどうしたら良いのですか?」

 

(この探索者ギルドのギルド神殿に新しいアイテムを納めなさい。

 そうすれば、レイリアが新しく納めたアイテム一つにつき一つだけ質問の回答をしてくれるわ。

 ただし、自分達で見つけ出していないジョブや素材については教えられないわ)

 

「サーチさん、アイテムボックスに迷宮でドロップしたアイテムを収納してましたよね。

 今、いくつか出せますか?

 塩、砂糖、オリーブオイル・・・・・・なんでも良いので」

「ああ、ちょっと待ってろ。

 八百(やお)千五百(ちいほ)のお宝を 収めし蔵の掛け金(かけがね)の アイテムボックス オープン」

 砂糖、塩、ナイフ、オリーブオイルか・・・・・・4つは質問ができるということか。

 

「塩・・・・・・ですけど、これで質問に一つ答えてくれるのですか?」

「はい・・・・・・コボルトソルトですね」

 レイリアさんは俺からアイテムを受け取って、目の前の探索者のギルド神殿とやらに納めた。

 

 すると、硬貨が4枚でてきたが・・・・・・銅貨4枚?・・・・・・4ナールか。安過ぎるな。

 

「探索者のジョブ取得条件を教えて下さい」

 探索者は迷宮探索をするためのカギとなるジョブだと思う。

 

 鍛冶師になるにも必要だし、迷宮探索をしようとしたらパーティーも組まなければならないし、ワープのスキルがなければダンジョンウォークも必須だ。

 

「迷宮に入れば取得できます」

「サーチさんが迷宮に入ったら啓示を受けたって言ってたのは本当だったのか」

「お前、俺の言うことを疑ってたのか?」

 苦笑いをして誤魔化した・・・・・・だって、僧侶のジョブ取得かなり大変だったじゃないですか。

 

「砂糖、オリーブオイル、ナイフ・・・・・・これで追加で3つ質問に回答してもらえるのですね」

「はい・・・・・・コボルトスクロース、オリーブオイル、ジャックナイフ」

 銅貨がまたジャラジャラ出てきた。これを持って帰るのかと思うと憂鬱になった。

 

「英雄のジョブの取得条件を教えて下さい」

「初陣で盗賊Lv20以上の者を3人以上倒すこと、または初陣で盗賊集団を15人以上倒すこと」

 無理難題だろうが!

 

 初陣って村人Lv1で一度もモンスターと戦ったことがない者ってこと?

 そんなのデュランダルがなければ絶対に無理だよ。

 

「デュランダルの作り方を教えて下さい」

「・・・・・・」

 あれ、レイリアさんは黙ったままだ。

 

(デュランダルの作り方が知りたければ、

 デュランダルを武器生成するのに必要な素材をギルドに納めてから質問することね。

 デュランダルに限らず他の装備品も同じだけど)

 

 デュランダルを大量生産できれば迷宮討伐に近づくと思ったのに・・・・・・。

 

 僧侶のジョブも迷宮攻略には鍵となるけど、素手でモンスターを倒すことと村人Lv5だよな。

 色魔のジョブは・・・・・・後回しだ。

 

 

「これの使い道を教えてください」

 俺は村長からもらった手帳サイズの板を差し出した。

 

 死んだ盗賊達の左腕から出てきたものらしい。

 

「インテリジェンスカード。

 その者の情報が記載されたもので、

 特定のジョブの者が変更したり情報を提示させることが可能。

 特定のギルド神殿で利用可能」

 なんだか、情報がマスクされている。

 

 未発見のジョブが含まれる用途なのだろうか。

 使い道がほとんど分からないが、鑑定で表示される情報はこのインテリジェンスカードというものから読み取ってるのかもしれない。

 

「魔法使いのジョブを得るにはどうしたら良いのですか?

 ドワーフ族の者を鍛冶師のジョブに就けたようにエルフの仲間を探せば良いのですか?」

 エロフ・・・・・・もといエルフの魔法使いを是非加えたい。

 

 俺はすがるような目でレイリアさんではなく、エレーヌ様の方を見つめた。

 

(あなた、何故この世界に魔法使いのジョブがあるのを知ってるの?

 ・・・・・・まあ英雄と並んで難しいから手がかりぐらいは。

 魔法使いはエルフ族でなくても、人間族でもドワーフ族でもなれるわ。

 ただし、自爆玉というアイテムを生薬生成で作る必要があるわね。

 自爆玉を三歳以下の子供がモンスターに対して使えば、魔法使いのジョブを得られるはずよ)

 

「そんな幼い子供に使わせるのですか?自爆玉はどうやって入手すれば・・・・・・」

 今言った条件だけでも難しいのは分かる。だけど、もう少し情報が欲しい。

 

(それは自分で探し出しなさい・・・・・・ああ、でもヒントだけはあげましょうか。

 自爆玉の素材が得られる迷宮はかなり成長した迷宮で、かなり上の階層になるわ。

 この世界ではクーラタルの街にある『はじまりの迷宮』になるわね)

 

「この街の近くに迷宮があるのですか」

 

(街の近くではなく、街の中心に迷宮があるわ。

 この近くね。興味があるのなら行ってみれば?)

 

「『はじまりの村』の近くにあるのが、『はじまりの迷宮』ではないのですね」

 

(あの村の近くにある迷宮は50階層までしかないし、いずれは誰かが討伐するでしょう。

 あなた達が討伐しても良いのよ。

 この街にある迷宮はずっと上の階層まであるわ。

 それこそ簡単に討伐できないほど上まで階層があるのよ)

 

「あの・・・・・・我々があの村の迷宮の討伐をしなければならないのでしょうか?」

 

(別に好きにすればよいわ。別の者が討伐しても構わないし)

 

「迷宮が討伐されないと、どうなるのでしょうか?」

 

(そうね。この世界が滅びることになるでしょうね)

 

「ほ、滅びる?・・・・・・この世界が消滅するということですか?」

 

(『消滅する』という意味は分からないけど10年経てば、

 この世界各地に迷宮がたくさん出現することになっているわ。

 迷宮はモンスターを吐き出すから、討伐しないまま放置すれば村や街が滅びるでしょう。

 今は50階層で止まってるけど、10年経てば迷宮が成長して更に上の階層が増えていくわ。

 迷宮が成長すれば、吐き出されるモンスターが強くなって、より厳しい状況になるでしょう。

 今のように全然迷宮の探索が進んでいない状態で迷宮が増えれば滅びるでしょうね)

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

(10年経った時点でレイリアが迷宮の討伐状態を確認して、私に報告することになってるわ。

 その時点で迷宮の討伐状況が悪ければ、その時点で私がこの世界を終わらせるわ)

 

「お・・・・・・終わらせる?」

 

(あなたの言っている『消滅する』ということになるのかしら?まあ、どちらでも良いけど)

 

「そ、そんな・・・・・・終わらせないでください」

 

(だったら、迷宮討伐を頑張ればよいでしょう?別にあなた達でなくても構わないわ。

 それに10年経っても迷宮の討伐状況が良くなければ、

 いずれ各地に出現する迷宮によって世界は滅びるのよ。

 少しだけ早いか遅いかだけの差でしょう?)

 

 エレーヌ様の我々を見る目、ものの考え方にゾッとした。

 彼女は・・・・・・彼女と言って良いのか・・・・・・この世界を消すことになんの躊躇もないようだ。

 今まで普通に会話をしてきたと思ったが、全くそうではない立場の違いを痛感した・・・・・・いや、多分俺自身も本当に分かっていないはずだ。

 人智を超える存在など理解ができるはずがないのだから。

 

 エレーヌ様を理解できなくても、迷宮を放っておくと世界が滅びるということだけは分かった。

 俺と彼女の会話の内容をどこまで理解してるのか分からないが、サーチさん達も厳しい表情をしている。

 マコスさんだけは冷めた表情に見えるな。

 

 

 はじまりの迷宮を攻略したら、元の世界に戻れるとか・・・・・・。

 

(そんなことは起きないわ。異世界の間で魂を運べるのはラグナルだけだから。

 はじまりの迷宮よりも50階層の迷宮をたくさん討伐した方が良いと思うけど。

 まあ、はじまりの迷宮が討伐できると思うのならやってみたら?)

 

「・・・・・・」

 止めよう。はじまりの迷宮は素材を得るためとか、討伐とは別の用途で考えるべきかも。

 

 あっ。

 

「あの、さきほど50階層以上の迷宮は強いモンスターを吐き出すという話でしたが、

 それだと『はじまりの迷宮』は強いモンスターを吐き出すので、

 その対応をしなければなりませんよね?」

 

(ああ、それは大丈夫ね。

 『はじまりの迷宮』の成長は止まってるから、これ以上階層は上に伸びないわ。

 強いモンスターを吐き出すのは、成長しようとしている迷宮だから)

 

 この街がいきなり酷い状況にならなくて良かった。

 村の近くにあった迷宮だけでも大変なのに、『はじまりの迷宮』の対応もするなんて無理だ。

 

 

(そろそろ時間切れね・・・・・・私はもう、この世界にはいられないのよ。

 もう会うこともないでしょうけど・・・・・・。あとはレイリアと話をしてね。

 10年後のレイリアの報告を楽しみにしているわ・・・・・・)

 

「ちょっと、待って下さい!」

 

 返事はなく、エレーヌ様の姿は消えていった。

 消える前の彼女の表情はレイリアさんのそれと同じに見えた。

 

 こんなことって・・・・・・。

 

 

「おい、向こうに行って話そうぜ」

 

 スミスさんの言葉に頷いて、レイリアさんから遠く離れたテーブルで五人で座った。

 

「あのエレーヌって女の言うことは確かか?この世界が滅びるとか言ってやがったが」

「お前はあの女と普通に話してたが、あいつの言うことを信じているのか?」

 サーチさんとスミスさんの質問に頷いた。

 

 もはや、この二人にとってはエレーヌ様は『様』付けで呼ぶ対象ではないらしい。

 俺も気持ちは一緒だ。

 もっともアレはこちらが『様』付けで呼ぶかどうかなど気にもしてないだろうが。

 

「お前は、あの女をその剣で倒せないのか?」

「えっ・・・・・・」

 ナックルさんの言葉に絶句した。

 

 アレを俺が倒す?・・・・・・力の差があり過ぎて考えもしなかった。

 

「全く歯が立たないと思います。恐らく一瞬で倒されて終わりでしょう。

 もっとも今となっては彼女がどこにいるのかすら分かりませんけど」

「そんなに力の差があるのか」

 ナックルさんは天を仰いだ。

 

「あいつはどうなんだ?あのテーブルに座っている女は・・・・・・」

「分かりませんが・・・・・・彼女を倒しても世界の消滅は止められないのでは?

 むしろ早まるだけかもしれません」

 能力的には可能かもしれないけど、彼女からは情報を引き出す方が先決だと思う。

 

「じゃあ、あの女の言う通りに迷宮を討伐・・・・・・何を意味してるのか分からんが、

 迷宮の一番上に行って、そこにいる奴を倒すしかないのか」

「恐らくは・・・・・・」

 マコスさんを除く三人の顔は厳しい表情だ。

 

「あの女の言っていた10年後にこの世界が滅びるかもしれないって・・・・・・

 それはどんなことが起きるんだ?

 今みたいに迷宮から出てくるコボルトがわんさか来て村を襲うのか?」

「何が起こるのかは分かりません・・・・・・

 分かりませんが、そんな生易しいことではないと思います。

 自分にも何が起きるのかは全く分からないのですが」

 詰問されても、俺だって答えなんて持ってない。

 

「10年後に起きることが本当なら・・・・・・

 俺のとこのガキは大人になることなく一生を終えるのか・・・・・・

 そんなこと許せる訳ないだろう・・・・・・」

「うちのガキも同じか・・・・・・」

 二人にはまだ赤ちゃんの子供がいたよな。

 

 厳しい顔には怒りや不安といった表情が混じっているようにも見える。

 

「難しいことを考えずに、その・・・・・・迷宮の討伐ってやつをやればいいのだろう?」

「そうか、そうなのかな・・・・・・

 そうすれば、あの女は約束を守るのか」

 ナックルさんの言葉にスミスさんは同意しているけど・・・・・・。

 

 エレーヌ・・・・・・あの存在は、俺達と約束なんて何もしていない。

 そもそも対等の存在ですらない俺達へ約束するなどあり得ない。

 自分の決めたことを淡々と実施して、必要と感じればこの世界を消すのだろう。

 でも、それを今ここで言う訳にはいかない。

 

「そうと決まれば、俺は家族と話してくるわ。今以上に家を空けることになるからな」

「おお、そうだ。俺もかみさんと話さないと」

「ああ、俺もだ」

 三人には家族がいる。

 

 迷宮攻略に挑むなら、家にはほとんどいられないかもしれない。

 家族と相談が必要だろう。

 俺とマコスさんには不要だが。

 

「村までワープで送りましょうか?

 俺の借りていた家までならワープで移動できると思いますから」

「おお。頼むわ。帰りは馬車に揺られなくていいのは便利だな」

 スミスさんが改めてパーティー編成を唱えて、五人パーティーを組み直した。

 

 きっと、あの迷宮とこの酒場は頻繁に往復することになるだろう。

 迷宮も討伐しなければならないけど、情報収集も必要だし、生きていくために換金も必要だ。

 

 

「マコス、お前はどうするんだ?」

「俺か?俺はベイルに一度行こうと思う」

 何しに行くのだろうか・・・・・・確認するだけ野暮か。

 

「じゃあ落ち着いたら、また村で集合して迷宮に行こうぜ。

 とにかく迷宮から出てくる奴も中にいる奴も倒せばいいのだろう?」

「そうだ。そうだな・・・・・・」

 三人は家族のために頑張るのか。

 

 そうでなければやってられないのかもしれない。

 

 酒場を出て、店の裏の壁からワープで村まで繋げた。

 三人は怒りの表情を浮かべて、村へと戻っていった。

 

 あ、頭がふらつく・・・・・・というか、これはアレか。

 

 まだレベルが低かった頃に頻繁にワープをした時に陥ったMP不足か。

 モンスターを倒したら気分が良くなったから、デュランダルのMP吸収が役に立った時のことを思い出した。

 

「マコスさん、ちょっと直ぐにはワープが使えないので、待って下さいね」

「ああ・・・・・・別に構わないが。そうだな、じゃあ少し話をするか」

 俺に何か話があるのか。

 

 酒場の裏で、マコスさんと話をすることになるなんて。

 この人はイマイチ、表情から考えていることが読めない。

 飄々としているようで、何かを考えているようだし。

 単なる女好きなだけの気もするが。

 

「お前さんからは、あのエレーヌちゃんと同じ匂いというか雰囲気がするな」

「はあぁ?」

 匂い?・・・・・・神々しい雰囲気が俺にあるの?・・・・・・そんな馬鹿な。

 

 それにしても、この人はアレを『ちゃん』付けするのか?ある意味すげぇな。

 

「お前さんはエレーヌちゃんと普通に話をしていただろう?

 そんなこと、俺にもあの三人にも無理だわ。

 だからって、お前さんがあっち側の人間だって言ってる訳じゃないぞ。

 似ている点と似ていないというか・・・・・・相容れない部分があるのも感じたし」

「あんなのと一緒にされたら困ります」

 だが、確かに知識という点ではアレと共通するものがあったのは事実だ。

 

 それ以上に常識というか人間と人外という違いが大き過ぎると思うけど。

 

「まあ、人には誰でも言いたくないことがあるってことは理解してるつもりだ。

 俺にだって知られたくない秘密の一つや二つはあるからな。

 それは別に構わない。

 だが、お前さんはもう少し周りを頼ったり、相談したりすることを覚えたらどうだ?

 年齢の割にイロイロと知っていそうだが、それにしたって全て一人では無理だろう」

「それは・・・・・・そうかもしれません」

 迷宮討伐だって一人の力でどうにもできない。

 

 これからはもっと皆の力を頼られなければならないはずだ。

 それに俺はこの世界の常識に疎い。

 周りとの協調や協力は不可欠だ。

 

 幸いなことに、俺には『異世界言語(全言語)』のスキルがある。

 いろんな種族とのコミュニケーションには活躍できるだろう。

 

「まあ、言いたかったのはそれだけだ。

 顔色も良くなってきたようだから、そろそろベイルに送ってもらえるか?」

「はい。では・・・・・・」

 ワープの入口を壁に開けて、ベイルの宿屋の壁に繋げた。

 

 あれっ、これで繋げて移動したら、向こうで騒ぎになるのでは?

 まあ、マコスさんなら何とかなるのだろうか。

 

「じゃあな。また、あの村で会おう」

「はい」

 彼は黒い穴の中に消えていった。

 

 俺はどうしようか・・・・・・今すぐ、元の村に戻る必要はないよな。

 なんとはなしに酒場に入り、あのレイリアという女性から遠い席のイスに腰かけた。

 彼女は先程と変わらず、テーブルの席に座ったままだ。

 というか周りに同化しているようで、気配を感じにくい。

 

 今は先程と違い、1、2パーティーほど人がいるが、彼女を気にかけている者はいなさそうだ。

 

 これからのことを考えると俺にも目標が必要かもしれない。

 迷宮にどうやって対応していくかの対策も必要だ。

 考えなければならないことは多いな。

 

 パーティーにはまだ一人加えられるのか、エルフ・・・・・・そうだ、エルフの女の子を入れよう。

 その娘と・・・・・・それを目標に俺は頑張ろう。

 ただ、迷宮を討伐するだけのために一生を費やすなんて、俺には無理だ。

 放っておくと世界が滅びるのであったとしても。

 

 元の世界では独身だったが、エルフの嫁をもらうことを目標にこの世界で頑張って生きよう。

 そして子供でも生まれれば、この世界でもっと頑張ってみようという気が起きるかもしれない。




お読みいただき、ありがとうございました。
本話は次の次の章に少しだけ繋がる話になっています。
この話の後の時代が拙作に繋がっているという意味ではありません。

今回の世界観に関する表現をどこかで書きたかったの、この閑話シリーズを利用しました。

メインストーリー側でこの世界の背景を伝えようかとも考えたのですが、帝国の歴史を紐解く話を作るか昔話の伝聞で語るのか考えて、いっそのこと当事者たちの話にしてしまおうと閑話で強行しました。
神様っぽい存在を出してしまうのは、いせはれの世界観的にはどうかなとも思ったのですが、どちらが良かったのかはなんとも。
本作主人公が知らない背景として使うのには十分かも?・・・・・・と現時点では思っています。
戦乱側の話で矛盾が出たら、また修正を加えるかもしれません。

それにしても鍛冶師のジョブが誰もいなくて武器も防具もなく、鍛冶素材集めもイチから始めなければならない・・・・・・執筆していて、かなりゲンナリしました。
皮の素材は比較的早く手に入りますが、鉄や銅の素材入手が厳しいですね。
一番早く生成可能な武器がダガーで、それまではジャックナイフやワンドで戦闘?
ギルドもないから換金もできない・・・・・・ハードモード過ぎです。

探索者ギルドは本話で作り、少しだけ難易度も下げましたし、情報提示の場も作りました。
原作のようにかなり時代が進んでいたり、拙作のように原作情報の利用ができないと本当にハードモードですね。
攻略情報なしでのゲーム攻略・・・・・・王道なのですが、失敗したら世界が消滅ですから。

世界を創った際にギルドも既にあり、そこで素材も扱われている・・・・・・という世界観でゲーム開始しないとプレーヤーが逃げてしまいそう。
本話の世界観での10年後の未来は暗いかもしれません。

年末・年始休暇の間に突貫工事で作ったため作りも粗くて、少しバタバタとしてしまい申し訳ありませんでした。

次からはメインストーリーの話になります。
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