本話からメインストーリーに戻ります。
(お知らせ)
本話から当面、隔日の投稿に変更いたします。
年明けから急に仕事が激烈に忙しくなりまして。
落ち着いたら元に戻すと思いますが、時期が現時点では予想できない状況です。
投稿サイクルに変更が発生した場合には、またお知らせします。
当面は後書きに次回投稿日を記載する運用にいたします。
急な変更が発生した場合には、後書きの部分を修正する運用とさせて下さい。
引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
昨日、ドブローで帝都の鍛冶師協会への紹介状をもらった。
ドブローで竜革防具の作業委託契約の仕事をもらっているが、ダマスカス鋼の仕事はもらえないので帝都の方を紹介してもらった形だ。
せっかく紹介状をもらったのだから、早速出向くことに。
午前中は迷宮探索を休みにさせてもらって、事務作業を終わらせることにした。
初めに帝都の鍛冶師協会に行って、サクッと作業委託契約をもらってくる。
それからザビルの拠点候補の内覧だ。
昨日、カラダンから物件候補の内覧が可能だと報告があったので、一気に片づけてしまいたい。
まずは、帝都の鍛冶師協会を訪ねるために冒険者ギルドにワープで移動。
冒険者ギルドの職員に鍛冶師協会の場所を確認して、ギルドを後にした。
教えてもらった道順を頼りに目的地を目指す。
帝都はどの建物も立派で、店なども入ろうとするとつい気後れしてしまう。
特に訪れたことのない店や建物に向かうときは緊張する。
外観からはなんの建物か分からないことも多いから、間違わないかと冷や冷やしてしまう。
道行く人に訊くにしても立派な恰好している人だと貴族だったりすると面倒だし、
多分、ここだよな。
ギルド職員から教えてもらった建物の外観と一致するような気がする。
ドアをノックするとドワーフの男が出てきた。
良かった。多分正解だ。
用件を告げ、紹介状を渡すと応接室に通された。
客じゃないから接客は不要なのだが、これが帝都基準の対応なのだろうか。
部屋や調度品が立派なだけで、これが普通?
やがて、身なりの良い壮年のドワーフの男性が入室してきた。
(鑑定)
フランツ・シーガー(ドワーフ族 ♂ 57才)
防具商人Lv45
装備 身代わりのミサンガ
家名があるじゃないか。しかも身代わりのミサンガを装備しているし、偉い人確定?
どっかりと俺の前に座ると、自己紹介を始めた。
「帝都の鍛冶師協会の会長やってるフランツだ。
お前は鍛冶師ではないな?
あの紹介状をドブローでどうやってもらった?」
「普通にドブローの鍛冶師ギルドでワーレン会長からいただきました」
いきなり査問委員会ですか?
特に何も悪いことはしてないはずなのだが、ワーレン会長にはめられたか?
帝都の鍛冶師協会の会長ともなれば、家名持ちで鍛冶師ではなく防具商人なのか。
ドブローのワーレン会長も確か高レベルの武器商人だったよな。
「紹介状にある推薦人二人から簡単には推薦はもらえないだろう?
何故、お前はあの二人から推薦がもらえるのだ?」
「私は紹介状の中身を確認していませんので、
推薦人二人というのがどなたなのか存じません」
俺の言葉に彼はため息をついた。
「バルドルフという男を知っているか?」
「その名前は存じ上げません」
隻眼のバルドルフは知っている。
だが本人は名乗らなかったので、俺が知っていると言ってしまうのは拙い。
他の誰からも、あの隻眼の男を紹介してもらっていないし。
「では、どうして推薦人に奴が署名しているのだ?」
「私に言われましても、ワーレン会長から帝都への紹介状をいただいただけですから。
推薦人についての説明も特にありませんでした」
今度は舌打ちをされてしまった。
家名持ちでも優雅ではなく、粗野に見えるのはドワーフ特性なのだろうか?
ルークは優雅な防具商人だったよな。
最近、偉い人に絡まれることが多いな。
ザビルの領主と騎士団長、ドブローのワーレン会長、今度は帝都の鍛冶師協会会長ですか。
正直、絡まれても多少侮られるぐらいで今は良いと思っている。
いずれ力をつけて圧倒するつもりだが、なんとなれば力をつけてからでも暫くはそれを隠しておくぐらいで丁度良しと思っている。
この会長はどのようにあしらおうか。
「帝都では作業委託契約の紹介を頂けないのでしょうか?」
「紹介状がある以上は、ちゃんと紹介してやる。
ただ、こちらの疑問を解消したかっただけだ」
そんなこと知らんがな。
「作業委託契約の書類と素材は用意させている。
どうせそれまでは待つしかないのだから、こちらの質問に答えてもらおう」
「私に答えられる範囲であれば」
外堀を埋めてきやがった。
「今回、ワーレンは何故お前に紹介状をくれてやることになったのだ?」
「詳細は取引上の秘密があるので申し上げられませんが、
私が提案した内容にワーレン会長が魅力を感じて、報奨としていただいたのだと考えます。
その提案の際にはバルドルフという方は特に関与されていなかったと思います」
本当は作業委託契約をたかって、こちらにタライ回しにされただけだが。
「そうか。では少なくともワーレンからは信頼を得ているのだな」
「そうなのかもしれません」
推薦人欄に署名があるのなら、自明ではないだろうか。
いや、バルドルフからは信頼を得ている訳ではないから、そうとも言い切れないか。
一緒に焼肉食った間柄だけど。
「ドブローの鍛冶師ギルドでバルドルフらしき奴を見かけなかったか?
ガタイが良いドワーフの男だ」
「ドブローの鍛冶師ギルドにはその特徴の者はたくさんいましたが」
そんな曖昧な特徴だと本人特定できんわ。
「見るからにただ者じゃない雰囲気をまとった男だぞ。見れば分かるはずだ」
「そう言われましても」
俺の隣で焼肉を食い、ミラにヘッドロックをかまされていた男にそんな雰囲気があったっけ?
鑑定してなければ、とても隻眼だとは思わなかったぞ。
「ええい、分かった。ワーレンに手紙を書くので持っていってくれ。
もしバルドルフと連絡がつけば、特別に作業委託契約の報酬を上乗せしてやる」
「上乗せって二倍もらえるってことですか?」
ここはストレートに交渉させてもらおう。
「二倍だと?」
「手紙を渡すだけなら、冒険者ギルドで頼むだけで問題ない気もしますが」
ここは強気にいくぞ。
どうせ、大した用事ではないはずだ。少なくともワーレン会長にとっては。
このフランツ会長には優先度が高いのかもしれないので、それなら交渉できるはずだ。
「分かった。二倍出そう。その代わり、ワーレンに直接渡してくれ。
返事をもらってきたら報酬を出そう」
「それって、さっきより仕事増えていませんか?」
手紙を渡すだけで報酬二倍ではなく、返事をもらってくる分で面倒さが二倍になっていて相殺されてますが。
「ええい、細かい奴だな。届けたら報酬二倍、返事を持ってきたら三倍出そう」
「では、契約の書面に記載をお願いします。追加の覚書でも構いませんので」
俺の言葉に会長が穴の開くほど俺を見つめている。
いやいや、それが普通でしょう。
仕事というのは文面でやりとりすべきだよ。特に報酬がかかってる仕事はね。
それに、『細かい』ってカルク持ちの商人ならちゃんと計算しましょうよと言いたい。
口に出しては言いませんが。
会長は何やらブツブツ言いながら事務担当者を呼び、書面を用意させるようだ。
そして、手紙を用意するために会長自身も退席してしまった。
俺は一人残され、手持ち無沙汰に。
事務室にでもいれば、働くギルド員達が見られて雰囲気が分かったのだが、さすがにセキュリティーが固いか。
会長の性格が違うから、ドブローとは雰囲気も多分違うのだろうな。
10分ぐらい待っていると書類を持ったギルド職員がやってきた。
「こちらが契約書類と追加の覚書となります。ご確認をお願いします」
「確認させてもらいます」
会長があんなでも職員は丁寧な物腰だ。
書面の方は特に問題ない。
しっかりとワーレン会長への手紙受け渡しに伴う報酬も記載されていた。
しかし、ドワーフの間では手紙を受け渡すお使いクエストが多すぎる。
なにか更に面倒なサブクエストが発生しなければ良いのだが。
「書類と覚書には特に問題ありませんので、署名しました」
「はい。では、これから別室で素材を受領していただきます」
職員に言葉に頷いた。怒涛の収納作業か。
応接室を出て、職員に付いて比較的大きな別室に案内された。
これはドブローと同じく、納品時や素材収納時に利用される部屋だな。
その部屋で素材受渡担当者を紹介され、ひたすら素材を収納した。
今回の納品物はダマスカス鋼のプレートメイル、ダマスカス鋼の盾、ダマスカス鋼の額金だ。
ダマスカス鋼、革、板の素材をひたすらアイテムボックスへ放り込んだ。
収納した素材数も淡々と数える。
これってまたアミル達の仕事を増やしてしまっているか。
でも、アミルとミラは竜革の防具を作ってる時でも二人で楽しそうにやってるんだよなぁ。
鍛冶師・・・・・・三人目とかアリなのかな。
ヨシ、これで終わりだ。
「受領しましたので、こちらに署名しました」
「はい・・・・・・問題ありません。ご苦労様でした」
こちらも職員に礼を言って、作業部屋を後にした。
このまま帰っても良いと言われているので、ギルドの出口に向かった。
この廊下は結構、人が行き来しているな。
ドブローとはまた別の活気がある。
業者が出入りしている雰囲気だ。
俺もその業者の一人という扱いなのだろうけど。
ギルドを出てザビルに向かうことにした。
・・・・・・
ザビルの冒険者ギルドを出て、奴隷商館へと向かった。
カラダンは今日は防具屋には向かわずに奴隷商館で待ってもらっている。
帝都で少し時間を取られたので急ごう。
商館に着き、用向きを伝えると応接室に通された。
暫くするとカラダンとピコ、モニカの三人がやってきたのだが、ミシェルもいるな。
付いてくる気か?
「今後の奴隷商館の運営を見据えて、彼女にも意見をもらうことにしました」
「そうか。今までの奴隷商館の運営から助言できるのなら、特に異論はない」
細々とした使い勝手で何か気づくことがあるのかもしれない。
「では、この街の世話人の所に行きましょうか。既に話は通してありますので。
今日は二軒見せてもらえることになっています。
こちらの要望と家の大きさを伝えると紹介してもらえる家はそう多くありませんでしたので」
「だろうな。まあ、見ながら考えよう」
ザビルもそこそこの規模の街だが、それでも俺達の要望に応えられる家は多くはないだろう。
・・・・・・
カラダンに連れられて、世話人の店に。
そして、ザビルでも世話人は商人の女性だ。
もはやテンプレだな。
違いがあるとしたら、見た目がおっとりとした感じで獲物を狙う目をしていないことだ。
「あらあら、みなさん賑やかな。では、案内いたしますね」
「よろしくお願いします」
なんか、和む雰囲気だ。
「街の中心部から近い順に見ていくことで良いでしょうか?
大きな家をご希望ということで、部屋の数はこちらの方が多いですから」
「はい。お願いします」
デカい家を希望しているので、特に異論はない。
世話人に連れられて、まずは一軒目。
確かに街の中心部にあり、今の奴隷商館からも近い。
「こちらの部屋数は食堂や倉庫の大きな部屋を除けば、全部で16部屋になります。
家賃は年間で8万ナールになります」
「8万か」
クーラタルの家と比べると割高だが、こちらは中心街だから仕方ないのか。
そう考えると安いな。
8万だと購入価格は40万で、3割引が使えれば28万ナールか。
購入するとしても全く問題ないな。
問題があるとしたら、周りが全て入居済の家で空いた土地がなく、拡張性に乏しい点か。
庭もあることはあるが、クーラタルの家と比べると手狭だ。
ザビルの既存の奴隷商館の運営スタイルなら問題ないのだろうが。
この家はザビルの奴隷商館と比べれば家の大きさ、部屋数共に上だ。
だが、タケダ家の目線で考えると少し不安だな。
「今は借り手もいないので、内覧可能です。中をご覧になりますか?」
「ああ、お願いする」
世話人がドアの鍵を開けて、中を案内してくれた。
玄関は普通だな。
ベイルのようなデカいドアでもなく、クーラタルで増築を考えてるような広い玄関でもない。
中はそこそこ綺麗な感じだ。
特に新築という雰囲気でもないが、使い古された感じでもない。
「なかなか立派な家ですね」
「ミシェルはここが気に入ったか?」
なんか彼女の目がキラッキラッしているのだが。
新しい家だの店だのを手に入れるタイミングなんて、そうは無いから心躍るのだろうか。
「今の商館よりも大きくて新しくなるのですから、それはもう」
「そうか」
確かに今の奴隷商館の方が建物は古いな。
だが奴隷商館のイメージとしては、この少し新しい建物よりはイメージが合ってる気もする。
奴隷商人に対する偏見かもしれないが。
一通り部屋を見せてもらったが、大きな洗濯場が浴場を設置する候補になり得ることも確認。
だが、広さはベイルの家よりは広いが、クーラタルの家よりも狭い。
まあ、クーラタルの家は増築前でもかなりのデカさだから仕方ないな。
「カラダンはこの家をどう思う?」
「そうですね。及第点ギリギリでしょうか」
俺もそう思ったよ。
二人で顔を見合わせて声も出さずに笑いあった。
「では、次の家をご案内します。次は少し中心街から離れますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
・・・・・・
次に連れて行かれた二軒目は、少しザビルの街の中心から離れていた。
それでもクーラタルと比較すると、それほど離れている気はしなかった。
まあ、ザビルよりもクーラタルの方が街の規模がデカいといのもあるのだが。
防具屋や奴隷商館として考えるのなら街の中心でないのはデメリットだが、著しく劣るとも思えなかった。
この世界の人って結構普通に歩くからね。
周りを見渡すと、それなりに大きな家も建っているし、別にスラム街のエリアでもない。
中心街と比べれば、家の建ち方がまばらであるが。
「こちらの部屋数は食堂等の大きな部屋を除けば、全部で13部屋になります。
家賃は年間で7万ナールになります」
「7万か。さきほどの家よりは1万安いのか」
この立地だとクーラタルの家と比べ易いな。割高感はない気がする。
原作主人公の借りた家と比べるとかなりの割安感がある。
7万だと購入価格は35万で、3割引が使えれば24万5000ナールか。
こちらも購入は問題ないな。
そして、こちらには先程の家よりも広い庭がある。
拡張性という意味ではこちらが上か。
家の外観から見た新しさという意味では、少しだけこちらの方が新しいか。
「こちらも内覧可能ですが、中をご覧になりますか?」
「ああ、頼む」
世話人の案内で中を見せてもらった。
こちらも先程同じく、普通のドアに普通の玄関か。
内装は、先程の家よりは少しだけ綺麗という感じもする。
全体の造りが少し大きめだから開放感があるので、そう感じるだけかもしれない。
広い部屋・・・・・・大部屋はこちらの方が多いのか。
そうなると部屋数的には遜色ないな。
浴室候補となる部屋はこちらの家の方が大きい。
庭の方も見せてもらったが、前の家との違いは庭の一角に井戸がある。
前の家は敷地の外にある共同井戸だった。
中心街だから仕方ないのかもしれないが、こちらの方が便利だな。
井戸は多分、奴隷達しか使わないと思うが。
新しい商館では、販売奴隷用の居住スペースとタケダ家のメンバーとなる奴隷達とで居住スペースを分ける予定だ。
タケダ家側メンバーは拠点構築のスキルで用意可能な照明・冷暖房・給湯給水設備をフルで使えるようにする。
一方で販売奴隷側の居住スペースでは、水は井戸で汲み、照明は夜はカンテラを使う。
秘密保持の観点と、今後の販売先での奴隷環境との親和性を考えての対応だ。
敷地内で全てが賄える方が利便性が高いだろう。
広い庭から、柵越しに周りを見渡しながら、世話人に話しかけた。
「周りの土地は結構、空いているのだな」
「まあ、中心街から離れますから」
世話人は若干言いよどんでる感じだ。
土地が空いているのはタケダ家にとってはメリットなのだが、世話人からするとデメリットを指摘されてる気分なのだろうな。
この家の両隣には家があるが、裏の方の土地は両隣とも空地だ。
「両隣の家は何を営んでいるのだ?」
「えっ?両方とも空いた家で、特に誰も借りていませんよ」
俺が少し意外そうな顔をしたのを見て、世話人が少し慌てたようだ。
「別に何か問題があった訳ではなく、たまたまです。
そうですね。この家は特別に6万ナールでもお貸しできると思いますよ」
「そうなのか」
なんか、俺の意図とは別にこの家の賃借料が下げてもらえた。
「ちなみに、隣の家の間取りや家賃を教えてもらえるか?」
「通りから見て右隣の家は部屋数が9で4万ナール、左隣の家は部屋数が5で3万ナールです」
俺が隣の家に乗り換えようとしてると思ってるのだろうか。
「右隣の家は安いのだな」
「建物が少し古い分だけ安くなっています。ですが、部屋数はご希望よりも少ないですよ」
この顔は俺が右隣の家に乗り換えるか心配しているな。
「左隣の家は小さいが、こんな場所に何故?」
「元々はこの家の持ち主が商売をやろうと店舗を建てたのですが、
事業に失敗してどちらも手放すことになったのです」
店舗なら、こちらの用途とも合うな。
「カラダンはどう思う?」
「そうですね。良いと思います」
意見が一致したな。
ここの責任者となるカラダンが良いと判断したのなら問題ないか。
「ミシェルはどう思う?」
「そうですね、一軒目ではないでしょうか?広さ、立地共に問題ないと思いましたけど」
まあ、そう言うと思ったよ。
「ところで、裏の土地の値段がいくらぐらいなのか教えてもらっても良いか?
この家の裏と両隣の家の裏の土地をそれぞれだ」
「えっ、空地の土地ですか?・・・・・・そうですね。
この家の裏が5000ナール、右が2000ナール、左が1000ナールくらいでしょうか」
「ちなみに、両隣の家を見せてもらうことはできるか?」
「えっ、両方ですか?右側だけでなく?」
世話人だけでなく、ミシェルも驚いた表情。
「ああ、両方だ」
「構いませんが鍵を取って参りますので、お待ちいただけますか?」
俺が頷くと、鍵を取りにいそいそと店に戻っていった。
「あの、ユキムラ様、両方の家を内覧させてもらうのは何故でしょうか?」
「カラダン、説明してもらえるか」
彼は笑いを堪えるように頷いた。
「旦那様は、家を三軒と裏の土地を3つまとめて購入しようと考えているのです。
真ん中の家を本館、右側を販売用の奴隷商館、左側を防具屋にするつもりなのだと思います」
「カラダンの言う通りだな。
もちろん、これから内覧させてもらって問題なければだが。
まあ、問題が多少あっても改修すれば使えると思っているし、
どうしてもダメなら建て替えても良いと思う」
俺の答えに彼女はまだ納得がいってないようだ。
「それにしても、裏側の土地まで購入するのは何故でしょうか?」
「広い土地を確保しておけば、今後の商売やタケダ家の役に立つと思ってるからだな。
買い手が簡単につくのか分からないが、
安く買えるうちに空いている土地を確保してしまおうと思ったからだ」
こちらの世界の土地・・・・・・空き地ってかなり安いからなぁ。
空き地にはザビル拠点の戦闘メンバーの修練場やクーラタルのようにシャワー室を作ったり、増築したりするのにも使えるだろう。
今は人員不足だが、将来はクーラタルと同規模程度に増やしたい。
ザビルはクーラタルから、かなり離れているので戦争などを考えた際に拠点を分散させるのに丁度良いと思っている。
最近、ヘルミーネ達から教えてもらった戦争の原因などを考慮し、主要メンバーとも議論して規模の大きな拠点を2つにしようという結論になった。
直ぐにザビルがクーラタルと同程度にはならないから、長期に渡る計画になる。
世話人が戻ってきたので、両隣の家を見せてもらった。
彼女から聞いていた通り、右側の家は少し古いが別に使えないほど酷いものではない。
一方で左側の家は小さいが真ん中の家よりは綺麗なぐらいだ。
そして間取りが店舗らしく、入口からすぐの場所に大きな部屋が複数あるので販売スペースや倉庫スペースにするにも都合が良い。
なんの店舗にしようとしていたのかは分からないが綺麗なのもありがたい。
左側の家は元の持ち主の意向なのか、真ん中の家からも近い場所にあるので、増築して繋げても良いかもしれない。
世話人の話では、右側の家の代わりに新築で真ん中の家を建てて購入してもらったのだが、賃借人が事業に失敗して空き家になったそうだ。
左側の家だけでも貸し出そうとしているようだが、間取りが店舗で場所も不便なので借り手がなかなかつかないらしい。
「では、決めるか?」
「はい。旦那様」
ザビルの拠点はエネドラの了解なしに、俺とカラダンで即決して問題ないことになっている。
「この三軒の家と裏の3つの土地を購入しよう。合計の見積もり金額を出してもらえるか?」
「えっ?ええぇ・・・・・・?」
だいたい家を購入する時に世話人が同じような反応するのもテンプレなのだろうか?
「えーと、家が三軒で65万ナール、土地が3つで8000ナールで・・・・・・
今まで見たことも聞いたこともない経験をさせていただきましたので、
合計で46万600ナールでいかがでしょうか?」
「その金額で問題ない。
あと、家の清掃と6つの土地を囲む塀を作ってほしいので、
合計で47万ナールでどうだろうか?」
彼女はこちらの提案に頷いた。
「問題ありません。では、これから契約書を作成しますので、
その後に騎士団の詰所に行ってインテリジェンスカードの確認をお願いできますでしょうか?」
「ああ、問題ない」
今回は初回だし、さすがにインテリジェンスカードの確認は必要だよな。
契約書作成に多少時間がかかるので、ザビルの街をブラブラしながら世話人の店に戻った。
書類に問題ないことを確認して、騎士団の詰所に向かった。
詰所に着くと、世話人の手慣れた対応で直ぐに騎士の者が出てきて、インテリジェンスカードの確認をしてもらう。
既に冒険者ジョブに変更しておいたので特に問題なし。
詰所を出て世話人の店で署名を行なった。
その場で代金を即金で支払って、契約が締結された。
「では、こちらの責任者はこの男、カラダンになる。
清掃や塀の作成が済んでからの鍵の引き渡しは彼へ頼む」
「分かりました。カラダンさん、今後ともよろしくお願いいたします」
これで、大丈夫かな。
世話人に礼を言って、店を後にした。
これで3拠点目か。今回の拠点は規模がデカい。
合計の土地の広さだけなら、クーラタルと同じぐらいじゃないか。
まだ、奴隷商館の引継があるから直ぐに拠点運用が開始できないが。
引継が完了した時点でカラダンを拠点リーダーにして、ミシェルをカラダンの補佐にするか。
警備や戦闘奴隷の教育はマテウスとニケに任せて、家事系のことはナナに任せる。
防具屋はサライ、ティナに任せて、ヒューゴ、マチルダ、レベッカは適宜役割を考えるか。
ヒューゴはマテウスとニケの補佐役に任せて・・・・・・ああ、マチルダの確認も必要だな。
何か訳あり臭いし、まあ今は後回しか。
防具屋は多分、移転後も営業は問題ないだろう。
奴隷商館の方は、奴隷の購入・販売状況を見ながら適宜人員を増やす感じだな。
元々、人材供給のインフラとしてザビルの拠点を運用するつもりだったのだから、ここに売られてくる奴隷次第での運用となるはずだ。
そうそう優秀な人材が来るとは思えないので、腰を据えて取り組むしかない。
これで、カラダンも一国一城の主だな。
残念ながらブラヒム語に該当する言葉がないので、翻訳されないが。
ただ、さすがにこの規模の拠点をいきなり回すには人材が足りない。
少しの期間、クーラタル側の石鹸量産の作業を止めてヘルプに入っても良いかもしれない。
「ではカラダン、引継後はこの拠点を任せるが、まずは引継の方を無事に終わらせてくれ」
「はい、引き続き頑張ります」
四人と別れて、ドブローへ移動した。次は郵便配達か。
・・・・・・
ドブローの鍛冶師ギルドを訪ねる。
既にもう顔見知りの職員も多く、直ぐに応接室に通されたが、さすがに会長に直ぐに会えるようなことはない。
その間にバルドルフのことをいつもの事務方に確認しようとするが、口を閉ざしてそそくさと去っていってしまった。
これは地雷案件の匂いがするぞ。
さっさとワーレン会長に手紙を押し付けて退散だ。
思っていたよりも早く会長が現れた。
「帝都の会長から、ワーレン会長宛に直接手渡しで手紙を渡すように言付かっております」
「フンッ・・・・・・」
なんだ、早くも地雷の導火線に火が付いたのか。
手紙を渡すと一応は受け取ってくれた。
続いて、受領証にサインをしてもらおうと差し出すと、そちらには一顧だにしてもらえない。
面倒臭ぇ。
彼は手元の紙か何かにサラサラと書いている。
書類というよりはメモのようだ。
そして、職員を呼びつけて何かを持ってこさせているようだ。
導火線の火がチリチリと進んでいるように見えるのは錯覚だろうか。
職員が何か大きな箱を持ってきたところで、会長が切り出した。
「この箱を持って、このメモにある住所に行き、この手紙をバルドルフに渡せ」
「バルドルフと言うと?」
俺の質問に会長は何かを思案したようだが・・・・・・小声で囁くように答えた。
「この帝国に二人しかいない正式な隻眼のジョブを持つ男だ」
「隻眼・・・・・・」
言い方も気になるな。
正式と正式でない隻眼がいるってこと?
まあ、うちのアミルも非公開の隻眼にしたいのだけど。
「で、この箱はなんでしょうか?」
「これは、奴に話を聞いてもらうためのものだ。
俺が渡せと言っていたと伝えれば、奴は察するだろう。丁寧に扱うように」
中身は教えてもらえないのか。
なんか、密売組織の下っ端になった気分だ。
「じゃあ、任せたぞ。それを渡してきたら、受領証に署名してやるから」
「なるほど」
こうして面倒なサブクエストは続くのか。
まあ、それでもワーレン会長から隻眼という言葉を引き出せたからヨシとしよう。
会うのも、この前一緒に焼く肉をつついた仲の奴だろうし。
ミラを連れてきたら、あっさり会ってもらえたりするだろうか。
ヘッドロックの記憶は逆効果だから止めておくか。
箱をかかえて、鍛冶師ギルドを後にした。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/1/8(木)の予定です。