44階層を走破した翌日もターレ迷宮の入口へ。
「毎日、よく迷宮に来ますね。
しかも毎日一階層ずつ突破して報告とか、騎士団の主力パーティー2つ3つ分の働きですよ。
ハインツ一味を倒したのは伊達じゃないですね」
「騎士団の働きと比べられても分からないな。こっちは適当にやってるからじゃないか?
他の迷宮の進捗はどうなのだ?」
騎士団員の兄ちゃんは首を横に振った。相変わらず情報はないらしい。
意図的に最新の情報が秘匿されている気もする。他人のことをとやかく言えないが。
いつも通りの階層案内をして、規定の料金を受領。
表向きは36階層まで到達したことにして伝えてある。
兄ちゃんが入口に戻るのを確認して、45階層の小部屋に移動。
45階層からが迷宮討伐に向けての本番だ。
まずは、元の世界から持ってきたメジャーで道幅を測定・・・・・・1階層の倍の長さがあるな。
小部屋に一度戻って、ブリーフィング。
「45階層の新規モンスターはオイスターシェルで、ボスはアバロニシェルだ。
オイスターシェルは既に戦ったことがあると思うが貝殻の形をしたモンスターだ。
45階層になると一段階モンスターが強くなるので要注意だ。
オイスターシェル、コボルトケンプファー、コラージュコーラル、ビープシープの順に
この階層では多く出現する。
そしてボス戦では今までのボス二匹に加えて、お供が二匹増えるので注意が必要だ。
通常ドロップがボレーでレアドロップが牡蠣、ボスドロップの情報は持っていない。
道幅が広くなったので前衛に四人で並ぼう。
中央の右にオリビア、左が俺で両翼の右にヴィルマ、左にイレーネにする。
戦い方はいつも通りで状態異常に追い込む。魔法も雷魔法だ。
アミルの方から何か補足はあるか?」
「貝の表面がゴツゴツしていて芯にあてにくいので、
しっかりと体重を乗せて攻撃した方が良いと思います」
「そうだな。油断せずにいこう」
全員が頷いた。
イレーネは昨日と同様、俺と武器を交換して戦闘に臨む。
45階層のモンスターでどこまで両手剣で戦えるか試したいそうだ。
小部屋を出て、通路の右へ四人並んで歩き始める。
通路の幅がこれだけ広いと小さめのモンスターだと5、6匹並べそうだな。
大型のモンスターの脇から抜けてきそうな気もするし。
こちらも四人並んでいるので、滅多に後ろに抜けられることはないだろうが。
後衛に位置して遊撃に回るアミルも近接戦闘はできるから、それほど心配はしてないけど。
初戦はオイスターシェルが四匹にコボルトケンプファーが一匹か。
「前にオイスターシェル3、後ろにオイスターシェル1、コボルトケンプファー1。1番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
オイスターシェルよりも足の速いコボルトケンプファーが一匹で突っ込んできた。
「俺がもらう」
前に出て、激情のダマスカス鋼剣と硬直のエストックの連撃を繰り返して瞬殺した。
クリティカルが出たか微妙な感じだったが、露払いは俺の役目だ。
やがて、オイスターシェルが三匹並んで近づいてきた。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
麻痺したのは最後尾にいた奴か。前の三匹は変わらず近づいてくる。
(状態異常耐性ダウン)
イレーネに向かってきたオイスターシェルに博徒のスキルをかける。
「・・・・・・ ドラゴンファング!」
オリビアのスキル攻撃が炸裂して、中央のオイスターシェルが激しく揺れながら後退した。
やっぱ、アクティブ系攻撃スキルは派手だなぁ。
二本の槍を突き出して竜の牙を突き立てる感じか?
バランスを崩したオイスターシェルに激情のダマスカス鋼剣と硬直のエストックの連撃で追いうちをかける。
途中、イレーネの前のオイスターシェルにも聖槍でちょっかいをかけて牽制。
オリビアは右側のオイスターシェルに二本の槍で重い突きを繰り出して、ヴィルマとアミルの援護を行なった。
叩きまくった中央のオイスターシェルが煙に変わったので、イレーネの援護に加わる・・・・・・が早々に石化した。
右の援護に入ろうとしたところで・・・・・・あちらも麻痺したか。
右は定員オーバーだな。後ろの麻痺した奴を先に片づけるか。
後方の麻痺したオイスターシェルをひたすら二本の剣で叩いて・・・・・・煙に変えた。
左側はイレーネがスキル攻撃を連発し、右側もヴィルマのビーストスラッシュ、オリビアのドラゴンファングで煙に変えて戦闘終了。
ドロップ品のボレー4つとコボルトスクロースを拾い、次の獲物を探して歩き始めた。
次のモンスターとの接敵までの間、アミルと先程の戦闘の感想戦。
「45階層からモンスターが結構、固い。というか、タフになった感じだったな」
「そうですね。いつもより手数をかけないと倒せませんでしたから、手強くはなりましたね」
33階層分上がった分だけHPが増えたってことかもしれない。
今、通路で戦っているオイスターシェルは低階層で戦ったボスモンスターだった訳だが、その時と比べて今の方が体格が大きくなったということはない気がする。
ただボスとして戦った時と比べて、倒しにくくなったのは間違いない。
攻撃は受けなかったから実感はないけど、攻撃力も上がってるとみるべきだろう。
モンスターのレベルも45な訳だから、当たり前と言えば当たり前だが。
・・・・・・
その後も探索を淡々と続ける。
HPが増えたので討伐するまでの時間は明らかに増えた。
歯ごたえがあるせいなのか新ジョブの効果を満喫しているためかは分からないが、イレーネとオリビアの機嫌は良い気がする。
スキルをドンドン出して、オイスターシェルに激しい攻撃を加えている。
こちらも雑魚の代名詞であるコボルト系モンスターにクリティカル攻撃が発生するのを狙って、淡々と剣での一撃を積み重ねる。
コボルトケンプファーは前階層までの強さがレベルで+1になっただけで、弱いままだからクリティカルで倒すには丁度良い感じだ。
ヴィルマも激情のダマスカス鋼剣に付与された麻痺添加のスキルを使って手数で状態異常に追い込み、ここぞという時にビーストスラッシュを叩き込むパターンを繰り返す。
アミルが上手く牽制をするため麻痺に追い込む時間も短く、二人の息はぴったりだ。
オリビアは一段階強くなったオイスターシェルをモノともせず、真ん中でドッシリと構えて戦線を支えてくれている。
おかげで俺はイレーネのフォローに回ったり、中央でオリビアと連携攻撃をかけたりと遊撃的な戦いができて助かっている。
雑魚の始末とオリビアと連携した剣の連撃でクリティカル攻撃の回数を増やしている。
オイスターシェルはタフになったが状態異常攻撃の効果はあるようで、麻痺も石化にもちゃんと持ち込めている。
状態異常にかかる確率が低くなったかと言えば、そこまではハッキリと差を感じない。
オイスターシェル以外は歯ごたえのないモンスターなので分かり易いというか、倒し方がパターン化できるというか・・・・・・ひたすら接敵しては倒す・・・・・・という繰り返し。
だが、これはちょっと・・・・・・想定していたこととは違う迷宮攻略の課題があるな。
それについては45階層の探索をもう少し続けて、経過観察してから判断を下すか。
午前中までには中間部屋に辿り着けず、適当な壁から自宅にワープで戻った。
・・・・・・
昼食時にエネドラからいくつか報告があった。
「ルークがなるべく早く会いたいと?」
「はい。旦那様の留守中に伝言があったようです。
私は商人ギルドに行っていたので、チクルスが伝言を受けました」
急ぎの用事か。
いつもの落札通知なら、好きな時に来てくれって伝言が多かったよな。
「分かった。では午後イチで行ってこよう。俺一人で十分なのでエネドラは留守を頼む。
ルークとの面談が終わったら、迷宮探索を再開する予定だ。
等価交換の取引となるスキル融合装備の打診もしたかったから。
オークション関連で少し確認しておきたいこともあるので、ちょうど良いかもしれない」
「はい。お願いいたします。
それとオークション関連という意味では、事前に出品リストをギルドでもらいました。
当日、飛び入りで増える可能性もあるそうですが、現時点の出品予定がこれです」
エネドラから書類の束を受け取った。
ギルドに加入していると、こういうリストがもらえるのだな。
事前にリストで確認しておかないと、オークション当日にギルド加入している商人が全員張り付いてるということになって無駄だものなぁ。
この場での確認は止めて、後で二階に上がってジックリ確認しよう。
「分かった。ありがとう。後で目を通しておく。オークションは3日後だったよな?」
「はい。3日後の休日となります。出品順番もリストに記載されております」
事前に予定がおおよそでも分かるのは有難い。
こんな時は文字が読める『異世界言語(全言語)』のスキルがあって良かったと思う。
「それから、午前中にギルドで情報収集をして参りましたが、
その際に例のバラダム家から強請り取られた装備品等の件で
いつかの商会から取引の打診がありました。
既に旦那様からいただいた取引可能な装備品のリストと
交換するモンスターカード、素材の候補に従った取引を行うことを相手に伝えております。
ただ、直ぐにはカードや素材を集められないと申し出ている商会もございます」
「30日程度の期間であれば、猶予を与えてもよいと思う」
いきなり複数の商会がカードや素材集めに奔走されると市場が乱れるかもしれないから、分散してくれた方が良いかもしれない。
「近日中に取引ができそうな商会は2つ程度です。
あとは相手側のカードと素材の準備状況に合わせて対応していきます」
「ああ、そちらの方は任せる」
モンスターカードも素材も今はそれなりに倉庫にあるが、なくなり始めるとアッという間だから得られる機会はしっかりと生かしたい。
ひとしきり情報収集結果を彼女から教えてもらったところで、ウィンドウが表示された。
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①ハルツ公爵領での噂(政情不安)
帝国と隣国の国境、公爵領の境界の村で小競り合いが発生。公爵側兵士に負傷者が出た模様
災害対応、迷宮対応などもあって人手が足りず、騎士団の増援は困難らしい
②ハルツ公爵領での噂(迷宮関連)
公爵領で出現した迷宮3つのうち、騎士団の戦力は2つに注力するらしい
騎士団側の人手が足りず、迷宮の片方は探索が難航しているとのことだ
③獣人族の無法者の噂
獣人族を主とする家が無体を働いていたが、決闘に敗れて当主が亡くなったようだ
虐げられていた商家の反発もあり、その家は資金繰りに苦慮しているらしい
オークションでの出品で資金集めを狙っているという噂だ
④公女の婚礼の噂
どこかの商家で公女を迎え入れるらしく、魔法使い用の武器を必死に探しているという噂だ
お抱えの鍛冶師が融合を試みているが難航しており、入手する伝手を探し回っているらしい
⑤帝国内で数少ない隻眼のジョブを持つ鍛冶師が帝都から別の街に引っ越ししたらしい
会長と隻眼の間での不仲が原因との噂だ
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ハルツ公の領内は原作以上に混迷している感じだな。
実際には原作では語られてなかっただけで、水面下でゴタゴタしていたのだろうか。
あとは隻眼のバルドルフと帝都の鍛冶師協会の会長が喧嘩したってことか?
あの手紙を届けたのは仲直りの仲介になるのだろうか。
バラダム家は俺がスキル融合装備品やらアイテムやらを接収したけど、まだ出品するものを隠し持っているのかもしれない。
没落すると思っていたけど、案外侮れないのかもしれないな。
・・・・・・
昼食を終えて二階の自室へ。
エネドラからもらったオークションの出品リストを確認。
最低でもエリクサーまたは威霊仙を一つ、可能なら二つ、さらに可能ならフラウス分も含めて三つ入手したい。
だが、一覧を何度も見返したがエリクサーも威霊仙も存在しなかった。
今回は出品なしか。いや、当日持ち込まれる可能性もあるので、3日後はオークション会場に張り付くか。
出品されないことを嘆いていても仕方ない。できることをシッカリとやるべきだよな。
気を取り直して商人ギルドへ。今日は単独行動だ。
ギルドの受付でルークへの面会依頼を伝え、商談室で待つことに。
大して待つこともなく、武器商人のヌートを連れてルークが入室してきた。
挨拶を交わして、今日の商談内容の確認から始める。
「こちらからは二点ある。
まずは等価交換の候補となるスキル融合装備品が用意できたので取引可能か相談したい。
それから3日後のオークションについての相談だ」
「なるほど。では後ほど確認させて下さい。
私どもからはモンスターカードが落札できましたので、その取引が一点。
もう一つは私どもとは別の商会との取引の仲介の件となります」
仲介ねぇ。タケダ家からスキル融合装備品が出回ってる噂を聞きつけたのだろうか。
「まずは、落札カードの取引からよろしいでしょうか?こちらとなります」
ルークから提示されたメモを見ながら、目の前に置かれたモンスターカードを確認。
コボルト4、ヤギ1、鯉1、サイクロプス1、つぼ式食虫植物1
久しぶりの落札カードの取引だったが、こんなものか。
「全部もらおう。次回も鯉やつぼ式食虫植物を落札してもらえると助かる」
「承知しました」
鯉はドブローでの取引でそれなりに入手したが、予備はいくらあっても問題ない。
指定金額を支払ってカードを受領。
「次は等価交換の取引についてだが、今回は頑強の鋼鉄大楯を持ってきた」
「確認させていただきます」
アイテムボックスから大楯を取り出して、テーブルの上に置いた。かなり邪魔だな。
「
・・・・・・確かに頑強の鋼鉄大楯でございますね」
「素材はダマスカス鋼でお願いしたい。
モンスターカードはコボルト10枚と状態異常系四種類と魔法四属性で、
集められないのなら落札価格差も含めて芋虫で埋めても構わない」
「なるほど、承知しました。後日、提案内容をご連絡します」
取引自体は実施するという意思表示か。
「次はオークションの件の相談をしたい。
まず、こちらのリストを見てほしい。
可能ならこのリストにあるものの落札に協力してほしい」
「拝見いたしましょう」
用意してきたリストをルークに手渡した。付き人のヌートも覗き込んで確認している。
リストに記載されているのは自爆玉、ドープ薬、エリクサーといった高級生薬とその素材。
今回のオークションには自爆玉、ドープ薬、エリクサー、威霊仙が出品されてないことは出品予定リストで事前に確認済だ。
「ここに記載されているものは今回のオークションで出品予定にないものばかりですね」
「ああ、それは承知している。我が家の商人からも出品予定リストを見せてもらってるからな。
だが、飛び込みでオークションに出品される可能性もあるだろう?
他にも当日の交渉の中で話に上がるのであれば、それに介入する機会を得たい。
ルークのような大商家であれば、そのような機会もあるのではないか?」
原作では聖槍の話に絡んで裏話もあったのだから、表立ってオークションで出てこない情報も入手する可能性があるだろう。
今回は聖槍を事前にバラダム家から入手してしまっているので、無理やりにでも情報入手の機会を得たいのだ。
「当商家で可能な範囲であれば、もちろんご協力いたします。
ただ現時点で出品予定がないものは、かなり厳しいとだけは申し上げておきます。
ご指定の品はどれも滅多に出回らないものばかりですから」
「ああ、可能な範囲で構わない」
こちらとしては可能な限りの手を打っておきたいだけだ。
「では、次は私どもの方からのタケダ様への御相談となります。
とある商家で魔法使い用の武器を調達しようとしているのですが、上手くいってないようで、
タケダ様のお力が借りられないかという御相談になります」
「魔法使い用の武器というと、ひもろぎのスタッフか吸精のスタッフあたりか?
公女を迎える商家の嫡男がいるという噂をギルドで聞いたことがあるが」
「公女を迎えるにあたって、今回は吸精のスタッフに限定しているようです」
これは原作では聖槍と交換するイベントだった件か。
聖槍は既に俺がもらってしまったが魔法使い用の武器入手が難航している件は変わらず、ルーク経由で俺の方に話がきたのか。
それにしても、魔法使い用の武器ぐらい自前で入手できそうな気もするが、ストーリー上のフラグか何かなのだろうか。
「今後の我が家に魔法使いを迎えるために確保している武器がないこともないが」
「それでは、それを融通してもらうことは?」
ここは安売りしてはダメなところだよな。
既に聖槍は入手しているので、それに替わる貴重アイテムとの交換だよな。
公女を迎えるというぐらいだから、それなりの大商家のはず。
出品リストにはなかったけど、大商家との伝手を使ってなんとかならないだろうか。
「こちらも将来のために確保していたものを供出するのだから、
相手からもそれなりの見返りを求めたいところだな」
「なるほど。分かりました。
これ以降は直接、相手側と交渉される方がよろしいかと思いますがいかがでしょうか?」
ルークの言葉に頷いた。
「では、今から呼んで参りますので。ヌート」
「はい、少々お待ちください」
ルークの指示でヌートが当の商人を呼んでくるようだ。
大商家なら、ここに事務室ぐらいは構えているのだろう。
やがて、ヌートが一人の男を連れてきた。
鑑定すると武器商人のLv8だ。
そして原作で主人公が抱いた感想と同じく、ルークと同じ雰囲気の育ちの良さそうな優男だ。
「では、我々は外しますので」
ルークとヌートは退席して、我々二人で商談することに。
「それで、魔法使い用の武器を探しているとルークから聞いたのだが」
「はい。こちらとしては可能な限りの金額をご用意いたします」
いや、金とかは別に要らないから。
:
:
:
結局、今日の商談は物別れとなった。
こちらから新たな提案もしたが、即答できないということで明日仕切り直しだ。
まあ、こちらも簡単にまとまるとは思っていないが、一方的に妥協する訳にもいかない。
相手も簡単に諦めないだろうから、ここは長期戦覚悟だ。
明日の商談の予定を取り決めて、商人ギルドを後にした。
思っていたよりも時間を喰ったが、内容が内容だけに仕方ない。
・・・・・・
迷宮組と合流して、ターレ迷宮の45階層の探索を再開した。
午前と同様にオイスターシェルやコボルトケンプファーを淡々と倒しながら探索を進める。
別にモンスターを倒すのに何か問題がある訳ではない。
「ご主人様、午後のルーク様との取引で何かありましたか?
ずっと厳しい顔をされていますが」
「ああ、実はなぁ・・・・・・」
そうか、そんなに表情に出てしまっているか。
ルークとの取引というよりも、オークションに関連してのエリクサーや威霊仙の入手の件が上手くいってないことを彼女に説明した。
「そうですか、分かりました。でも、迷宮では目の前のモンスターに集中しましょう。
もし、エリクサーの件でご主人様が悩んで、
不慮の怪我を負ってしまうような事があれば、エネドラさんもきっと悲しみますので」
「そうだな。アミルの言う通りだな」
エネドラだけでなく迷宮組のメンバーにも申し訳ないよな。
迷宮は命のやり取りの場なのだから。
気持ちを切り替えて、目の前の迷宮探索に集中することにした。
とはいえ、それで迷宮探索の結果が直ぐに良くなる訳でもない。
その日は結局、中間部屋を見つけることもできずに探索を終了することになった。
イレーネとオリビアのレベルが順調に上がったことだけは良かったかもしれない。
壁にゲートを開いて、自宅に皆で戻ることにした。
ヴィルマ、イレーネ、オリビアは残り少ない夕食までの時間を訓練にあてるため修練場へと向かっていった。
ある意味、この三人も真面目といえば真面目なのかもしれない。
そして、俺はアミルを誘って食堂へ。
テーブルの一角に座って、今日気になっていたことの意見を彼女に求めるためだ。
「アミル、今日の45階層の探索をどう感じた?」
「そうですね。45階層からはモンスターが強くなると事前に伺ってましたが、
思っていたよりも順調だったと感じました。
確かに今日戦ったオイスターシェルは強くなっているとは思いますが、
このパーティーで対応できない程ではないと考えます」
オイスターシェルは確かにそうかもしれないな。
「もう2、3階層上がって全てのモンスターが一段階強くなってからの確認も必要だが、
モンスターの方はアミルの言う通りかもしれないな」
「モンスターの方は・・・・・・というと別の懸念点があるのでしょうか?」
少し考えた後、アミルの言葉に頷いた。
「そうだな。45階層になってから気になり始めたことがある。
それはダンジョンウォークで移動可能な場所の少なさだ。
俺のボーナス魔法であるワープで好きな場所から移動できるから忘れがちかもしれないが、
45階層に上がってから移動地点が少なくなっている点が気になるんだ。
簡単に言うと継戦能力の確保が今後のポイントになると思っている」
「えーと、ケイセン能力というのは?」
あれっ、異世界言語では翻訳できていると思ったが。
「長時間に渡って一定の能力で戦闘を持続できる能力のことだな」
「えーと?」
アミルはまだ探索者になって半年かそこらだから難しいか。
「過去に護衛部隊と一緒に探索したことがアミルもあるだろう?
護衛部隊は探索者ではなく冒険者でパーティーを組んでいる。
クーラタルの33階層ぐらいまでなら、地図もあるので決まったルートを進んで
小部屋などで簡単に休憩が取れるよな。
その時は半日程度でボス部屋まで行って、ボスを倒して戻れる経験はしただろう?」
「はい。その通りですね」
クーラタルは簡素だけど地図があるのは有難い。
「だが、それをターレの45階層に置き換えてみたらどうだ?
護衛部隊が冒険者でパーティーを組んだ場合はどのようなことが起きると思う?」
「今日の45階層を例にするならダンジョンウォークが使えないので、
まだ戦っていることになるかもしれませんね。
いつ小部屋や中間部屋などに辿り着けるのかも分かりませんから、危険かもしれません」
そうそう。その危険という感覚が重要だ。
「ああ、だから45階層以降・・・・・・
それ以前に34階層ぐらいから探索者をちゃんと育てて、
迷宮で戦えるようにパーティーの編成を考え直す必要があるのではないかと思っている。
「ご主人様は護衛部隊も45階層以降で戦えるようにしたいとお考えですか?」
アミルの言葉に頷いた。
「そうだ。実際に迷宮を討伐することまで任せるかは別だがな。
45階層以降でも戦える実力をつけてほしいと思っている。
そのためには今までのやり方を見直す必要があると感じた」
「なるほど。普通は簡単に冒険者ジョブの取得はできないですから、
タケダ家ならでは悩みかもしれませんね」
うっ、確かにその通りだな。
冒険者ジョブ取得のために探索者Lv50になっているが、最低でもLv70ぐらいまで上げたい。
探索者は冒険者と比べてパーティ効果も弱いがレベルも上がり易いので、可能な限りレベルを上げておきたい。
「そして、継続的な戦闘能力・・・・・・
継戦能力の重要性は45階層のその更に上の階層でより鮮明になると思ってる。
例えば56階層以降や67階層以降になると、今より実感できるのではないか。
今より階層の面積が広がり、休憩できる部屋に辿り着くまでの時間は長くなるだろう。
俺の場合はワープや索敵という特別な魔法やスキルがあるから感じにくいのだけどな」
「確かに迷宮に行った後に直ぐに自宅に戻れるのは反則級の便利さですからね」
チート能力に頼っていると、つい一般人の常識とかけ離れてしまう。
「上の階層に行けば行くほど、戦闘時間も増えて簡単に休憩がとれない状況になるだろう。
迷宮から出たくても簡単に出られないこともあるだろう。
そのためには探索者をしっかりと鍛えて、戦闘もできるようにしなければならない。
状態異常耐性や魔法耐性のスキル融合した防具や
HPやMPを戦闘で回復できる武器などを用意するのは今と同じくシッカリとやる必要がある。
他にも魔法使い系ジョブで水を確保し、
食料や生薬もアイテムボックスに一定量を常に完備するのを怠らないようにするとかな」
「なるほど。他に何があるのか私も考えてみたいと思います」
アミルも司令塔の責任を負ってるので、考える経験をした方が良いだろう。
「レドリックやヘルミーネなどにも意見を求めようかと思っている。
あとは高い階層の探索時は2パーティーをセットで運用することも考えても良いかもしれない。
簡単に帰れなくなった時に睡眠も取れずに迷宮で常時警戒し続けるのは難しいからな」
「そこまで・・・・・・でも命がかかっているのでしたら、当然かもしれませんね」
護衛部隊だって、誰一人失いたくないからな。
こういう状況を考えてみると俺みたいなチートスキルが無ければ、迷宮討伐をするのはかなり困難な道のりだと改めて思うな。
最後に待ち受ける迷宮ボスは装備品を破壊する凶悪な存在だとも原作で表現されていたし。
エベレストを登頂するのに、頂上をアタックするチームとサポートするチームに分かれて挑む話を思い出してしまった。
「今のところは護衛部隊は33階層の探索をしているので45階層以降の攻略は先の話だがな。
それでも将来を見据えて考えておいた方が良いと思ってな」
「はい。私も考えてみたいと思います」
アミルに労いの言葉をかけて解散とした。
懸念点はあるものの、ターレ迷宮攻略の方はひとまず順調と言えるだろう。
あとは明日の取引に向けての準備をしないとな。
時間はあまりないが、今まで考えてきた内容を更に点検して明日に臨もう。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/1/14(水)の予定です。