異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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041.宿願

 45階層に挑戦した翌日も朝練に参加。

 

 土地を購入して広がった修練場には、気合の入った模擬戦をする者達の姿が見られる。

 増築が開始された建物が見えるが、完成までは程遠いように見えるな。

 さすがに10日やそこらで家が建つことはないのだが、完成が待ち遠しい。

 

 それでも門の近くに新設する予定の応接室の建物は、完成に近づいたとエネドラが言っていた。

 一方で部屋数を増やすために増築している西側の建物は柱や骨組みが見えるような進捗だから、完成までは日数がかかりそうだ。

 人員が増えることを見越して増やそうとしている浴室に該当する部屋やシャワー室もまだ着工したばかりだな。

 

 朝練に参加すると増築の進捗が徐々に上がっていくのが見えて楽しい。

 

 模擬戦の合間に迷宮探索についてレドリックに相談。

 

「昨日、ターレの45階層に迷宮組で挑んだが、とにかく広くて探索に時間がかかる。

 護衛部隊は地図のおかげで今は楽にクーラタルの33階層を探索しているだろうが、

 34階層以降は冒険者でパーティーを組むのではなく、

 探索者で組む方がダンジョンウォークが使えて効率が良いかもしれない」

「そうですね。

 やはり迷宮探索は探索者ジョブの方が便利だと思います。

 そもそも冒険者は探索者を卒業した者がなるジョブで、

 外に活躍の場があるので迷宮探索のために戻ってくる者は少数派な気がします。

 他に探索者がいて、冒険者ジョブの者が加わるのはあり得るかもしれませんけど」

 やっぱりそうだよな。

 

 我が家は人数が少ないので、つい探索者を早く冒険者にして街との行き来に使いたいと考えたけど、普通は簡単に冒険者の者を揃えられないからなぁ。

 

「アミルは今は鍛冶師をメインにして、冒険者ジョブも並行して育成しているが、

 探索者のレベルも上げようかと思っているんだ。

 俺がいない時に迷宮でパーティーを組む時にレベルが高い探索者の方が良いと思ってな」

「確かに探索者ジョブの者はレベルが高い方が戦力的にも助かりますからね」

 この辺りはレドリックも賛同してもらえるか。

 

 探索者はこの世界でもレベルが可視化できるから、レベルが上がると強くなることの実感も共有できている。

 

「だから、そのうちレイモンドやヘルミーネも探索者ジョブの育成をしようと思っているが、

 何か反対意見や懸念点はあるか?」

「普通ならどっちつかずになるので、複数のジョブを育成すること自体に反対するのですが、

 ご主人様のスキルのおかげで、短期間に育成ができるので懸念点はないですね」

 俺のボーナススキルや百鬼夜行の小荷駄隊スキルで育成面ではかなり助かっている。

 

「では私の方からレイモンドやヘルミーネにも話をしておきますね」

「ああ、そうしてもらえると助かる」

 レドリックとヘルミーネで意思統一されれば大丈夫だろう。

 

 タケダ家で探索者ジョブを育成する件はひとまず進めてみよう。

 次はフレイヤ・・・・・・は都合よくドロテアと一緒に休憩しているな。

 

 木陰で休んでいる二人の所に向かった。

 

 俺がフレイヤに近づこうとすると、その前にドロテアが立ちはだかった。

 普通は前衛、後衛でやることが逆じゃないかと思うのだが。

 フレイヤの前にドロテアが立っても、大柄なフレイヤは全然隠れていないし。

 

「ちょうどドロテアと話をしたかったんだ」

「えっ、私の方ですか?また魔法攻撃の実験ですか?」

 そんな嫌そうな顔をしないでほしい。気持ちは分かるけど。

 

 あの実験はトラウマになってないよね?続きをまたやる予定があるのだけど。

 

「いや、魔法攻撃の実験ではない。迷宮探索時の助言かな。

 迷宮で魔法攻撃をやっていると思うが、なるべく魔法攻撃の回数を増やせるように

 他のメンバーからMP吸収のスキルが付与された武器を使って状態異常

 ・・・・・・石化したモンスターに攻撃してMP吸収をまめにしてもらいたいということだ」

「今も時々貸してもらっていますけど、意識してMP吸収の機会を増やすように努めます」

 意外にスンナリ話が通ったな。

 

 ドロテアは魔法使いLv50に到達したが、魔道士ジョブを取得できなかった。

 魔法使いの経験が不足しているのではないかと予想しているため、魔法攻撃の機会を増やしてもらいたいのだ。

 それで、スンナリと魔道士ジョブが取得できるかは出たとこ勝負だが、ラファを魔道士にした経験から勝算はあると思っている。

 

「レドリックさんに伺ったのですが、ご主人様は魔法についても造詣があるらしいので」

「本職ほどではないと思うけどな」

 まあ、俺は魔法もぶっ放すけど、今は近接攻撃の方が主体だから。

 

 

「それとフレイヤの迷宮探索の件なのだが」

「この娘になんですか?」

 たまには本人にも喋らせた方が良いと思うけど。

 

「フレイヤ用のスキル融合武器をアミルに用意してもらったから受け取ってほしい。

 ダマスカス鋼の両手剣二本だが迷宮探索に役立ててほしいと伝えたかっただけだ」

「スキル融合武器を二つも。やはり、タケダ家は他の家とはまるで違いますね。

 バラダム家にいた時は新人にはなかなか良い装備品が回ってきませんでしたから」

 うちは人命優先で、リスクを極力低く抑えたいと考えているんだよ。

 

「クリティカル攻撃の確率が増える武器で、フレイヤの竜騎士のジョブに合ってるはずだ。

 何か使っていて問題があるようだったら、フレイヤの方からアミルに・・・・・・

 まあ、ドロテアの力を借りた方が良いかもしれないが、とにかく相談してみてくれ」

「はい。ありがとうございます」

 おっ、フレイヤから感謝の言葉が聞けた。これはちょっと嬉しいかも。

 

 フレイヤもオリビアが竜将軍ジョブを取得した経緯から、今のうちにクリティカル攻撃が発生する武器を二刀流で使いこなしてほしい。

 それで竜将軍のジョブが取得できれば、また護衛部隊の戦力が一段と強化されるので。

 

 フレイヤだけでなくドロテアも頭を下げ始めたので、居心地が悪くなって退散することにした。

 

・・・・・・

 

 朝食を終えて朝から商人ギルドに向かった。

 昨日交渉した武器商人と交渉を再開するためだ。

 

 受付で呼び出そうとすると、既に商談室で俺の到着を待っているようだ。

 交渉を待ち望んでいるのだろうな。

 指定された商談室に入り、挨拶を交わして席に着いた。

 

 相手の欲しいモノはこちらで分かっているし、こちらが欲しいものも相手に伝えた。

 ここからは粘り強い交渉が必要だ。

 

 エネドラが仕入れた情報では相手の商家は新興で、これから伸びようとかなり躍起になっているとのことだった。

 その頑張りもあってか公女を迎え入れるところまでは成功したが、周りから足を引っ張られているらしい。

 出る杭は打たれるのか・・・・・・魔法使いの武器をなかなか入手できないのは、その辺りが関係しているのかもしれない。

 それにしても、どういう目論見や経緯でルークはこの商家を支援するつもりなのだろうか。

 理由が分かっても分からなくても、欲しいものを入手するために全力を尽くすだけなのだが。

 

 目の前の武器商人Lv8の男はすました顔で交渉に臨んでいるが、実際には焦りがあるはずだ。

 こちらには期限はないが、あちらは魔法使い用武器を入手する期限があると想定している。

 公女というからには家柄は良い訳だから、実家から魔法使いの武器を持ってくることぐらいはできるのではないのだろうか。

 だが、それをやってしまうと目の前の男の実家の面子をつぶしかねないはずだし、今後の家同士の関係が悪くなる可能性もあるのかもしれない。

 

「では、もう一度条件の整理をしましょうか。

 そちらの欲しいものは、エリクサーもしくは威霊仙を一つ以上。

 その条件を満たさない限りは取引には応じられない。

 金銭での取引には応じない。この理解で間違いないでしょうか?」

「その理解で問題ない」

 エリクサーを入手する条件に該当しなければ、金だけもらっても意味がない。

 

 モンスターカードだって、別の機会に山ほど手に入るのだから優先度は低い。

 大商家とのコネも目の前の家に限定する必要もないので、優先度が高いとも言えない。

 

「こちらの欲しいものは、吸精のスタッフです。

 それが入手できないのであれば取引には応じません」

「そちらの要求は理解しているつもりだ」

 この確認も昨日から何度目だろうか。

 

 これを繰り返せば、こちらが譲歩するとでも思われているのだろうか。

 

「しかし、吸精のスタッフは威霊仙やエリクサーと比べると見劣りします。

 とても対等な取引にはなりません。

 そこは御理解していただけるのでは?」

「さて、それはどうであろうな。需要と供給で価値は決まるものだろう?

 供給がなければ、価値が跳ね上がることもあるのではないか?」

 原作でも、吸精のスタッフよりは価値の高い聖槍との交換は成立したので不可能な交渉ではないはずだと思う。

 

 今季のオークションの出品予定に吸精のスタッフはなかったし、代わりの務まりそうなひもろぎのスタッフも無かった。

 

 他の商家が意図的に出し渋っているというのは考え過ぎだろうか。

 そもそも他から入手可能であるのなら、この場に彼はいないはずだが。

 

「こちらからは、吸精のスタッフに加えて提供可能な装備品の候補も出したはずだが」

「身代わりのミサンガや防毒の竜革グローブですね。

 確かに魅力的なスキル融合防具には違いないですが、威霊仙と比べると見劣りします」

 ここで取引に踏み込まない彼の意図はどこにあるのだろうか。

 

 威霊仙がなかなか入手できないというのはあるのだろうけど、それにしても。

 こちらに追加の条件を積むように指示するなり、示唆することもしないのは威霊仙を失うことを恐れているのか?

 そもそも威霊仙を入手ができないので、ブラフに出てるのか。

 それなら、この交渉自体時間の無駄になるのだが・・・・・・うーん、分からないな。

 

 分からないが、少し盤面をかき乱してみるか。

 

「では、これを条件に加えるとどうなるだろうか?」

「それは?」

 俺はテーブルに生薬を一つ置いた。

 

「自爆玉だ。公女を迎えるというのなら、既に入手されているのかもしれないがな」

「本物?」

 少し動揺は誘えたかもしれないな。表情は揺らいでいる。

 

 公女を迎えるということは、その嫡男とやらの間に儲ける子供も魔法使いにしたいはずだ。

 ならば自爆玉はいずれは必須となるアイテム。

 既に入手済であれば問題ないが、入手してないなら必要になるはず。

 喫緊の対応が必要というレベルではないが、簡単に手に入るアイテムでもない。

 自爆玉は威霊仙の階層よりも上位階層のレアドロップアイテムなのだから。

 

 その意味では、エリクサーよりも価値の高いものを対価として出したとも言える。

 需給の話を考慮はしてないが。

 

「自爆玉と威霊仙を交換していただけるのですか?」

「冗談が過ぎるな。自爆玉と交換するなら、威霊仙の数は一つでは足りないだろう?」

 今の質問の仕方だと威霊仙を持っているとも受け取れるがどうだろうか。

 

 自爆玉は子供が服用してから魔法使いに育て上げるために時間がかかる。

 だが一度魔法使いに育てれば確実に迷宮で戦力になるはずだ。よほどのポカをしない限りは。

 一方でエリクサーは保険に近く、使わなければ使わないし・・・・・・まさにラストエリクサー症候群にもなり得る。

 

 我が家のようにエリクサーを投与したい者がいる場合には状況が変わってくるけど。

 

「午後にもう一度、場を設けませんか?それまでに我が家の主立った者と相談して参ります」

「ああ、こちらはそれで構わない」

 テーブルに置いた自爆玉を回収。

 

 彼は挨拶もそこそこに退室していった。

 一応、交渉を動かす呼び水にはなっただろうか。

 昨晩、考えたいくつかの交渉条件の有力なものは試した。

 あとは相手の出方を見ながら、慎重に交渉をしていこう。

 

 午後から仕切り直しの交渉になったが、それまでターレ迷宮で探索だ。

 交渉が上手くいかず、オークションにも出品がなければ、次善の策は迷宮討伐だ。

 ターレ迷宮の探索も手を抜くことはできない。

 

 こちらもギルドの壁から自宅にワープで戻った。

 

・・・・・・

 

 迷宮組と合流して、ターレ迷宮の入口へと向かう。

 いつも通り騎士団の兄ちゃんに階層案内してから、45階層の探索を再開した。

 

 商人ギルドの交渉のことは一旦忘れて、接敵するモンスターをひたすら倒すことに没頭する。

 昨日対応できていた内容だ。油断なく、容赦なく、剣を振るい続ける。

 

 イレーネ、オリビア、ヴィルマの三人もノリノリの状態でスキルを放ち続ける。

 こちらはコボルトケンプファーやコラージュコーラルといった44階層以前の馴染みモンスターをひたすら斬殺する。

 

 そしてようやく、中間地点らしき小部屋を発見した。

 ここまで時間がかかるとボスの待機部屋ではないかと思えてくるが、それは更に遥か彼方にあるらしい。

 

 45階層は俺達にとっては、フロア面積が広がった初の階層となる。

 なので今後のためにキッチリと全てのエリアをクリアにするようにしている。

 索敵スキルやワープの助けがあっても、かなりの時間が必要だと覚悟していた。

 これでようやく45階層の折り返し地点だ。

 

 最終的にはボス部屋に辿り着いてからの判断になるが、45階層以降は迷宮組なら3、4日間が走破する標準的な期間となるかもしれない。

 迷宮にかける時間は一日コースのフルタイム攻略の場合で平均で8時間から9時間・・・・・・キリが悪い時は10時間をかけることもあるがレアケースだ。

 45階層以降は必要以上に力まずに、集中力を持続させていかなければならないな。

 

「これで、午前中の探索は終了にしよう。戻るぞ」

 俺の言葉に皆が頷いた。

 

 この階層の探索はモチベーションと集中力がしっかりと維持できているようで、頼もしいメンバーだなと思う。

 

 ゲートを壁から自宅に繋げて、昼食のために自宅に戻った。

 

・・・・・・

 

 昼食を終えて、本日二度目の交渉のために商人ギルドに向かう。

 受付で確認すると既に商談室で相手は待ち受けているとのことだ。

 意外にセッカチなのか焦りがあるのか。

 

 案内された商談室に入り、挨拶を済ませると早速本題を切り出してきた。

 

「そちらの自爆玉と吸精のスタッフに対して、

 こちらは威霊仙一つと30万ナールを出せますがいかがですか?」

「金銭か・・・・・・」

 言葉の上では難色を示したが、威霊仙が最も近づいた瞬間に小躍りしたくなる気分だ。

 

「スキル融合防具を追加して、威霊仙をもう一つ追加はどうだろうか?」

「あいにくと一つしか持ち合わせておりません」

 一つしかないのなら仕方ないか。すまない、チクルス、フラウス。

 

 ここでごねて、せっかくの機会を失う訳にはいかない。

 ぶっちゃけ30万ナールなど、どうでもいい。

 それよりも、二人には後でちゃんと謝らなければな。

 

「分かった。では、交渉成立だ。

 次に威霊仙かエリクサーが入手できたなら、是非また声をかけてもらいたいものだ」

「そうですか。では、気が変わらないうちにギルド神殿で確認を致しましょう」

 彼の言葉に頷きながら商談室を出て、ギルド神殿がある部屋に向かった。

 

 ギルド神殿で、こちらの提示した自爆玉と吸精のスタッフ、相手側の出した威霊仙に問題がないことをお互いに確認。

 こちらは彼が出した威霊仙が偽物ではないことを鑑定スキルで確認済なのだが。

 

 ギルド神殿の利用料金を支払い、威霊仙と39万ナールを入手した。3割引は効くのだな。

 これで待ち望んだ目標の一つを達成した・・・・・・いや、まだ生薬生成してエネドラが服用するまでは目標は未達だ・・・・・・その結果を見届けるまでは。

 

「今日は取引に応じていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ感謝している。

 先程も言ったが、また威霊仙やエリクサーを入手したら声をかけてほしい。

 同等の取引ができると思っているのでな」

 彼は曖昧な笑みを浮かべているが冗談で言ってる訳ではないぞ。

 

 バラダム家から入手した自爆玉はあと2つ持ってるからな。

 こうなるとバラダム家と決闘した甲斐があったというものだ・・・・・・ただの結果論だが。

 

 もはや全くポーカーフェイスではない満面の笑みを浮かべた商人と別れの挨拶を交わし、商談室から退室した。

 こちらも本当は叫び出したいぐらい嬉しい。だが治療が終了するまでは喜ぶのは早い。

 

 ギルドの壁から自宅に移動。

 急いで自室に戻って声を噛み殺して喜びのガッツポーズを・・・・・・これぐらいは許してほしい。

 四本の腕を全力で振り回して・・・・・・他人に見られたら、きっと虫っぽい動きかもしれないが・・・・・・天井を見上げて、涙が頬を伝う・・・・・・落ち着け、落ち着け。

 

 生薬の生成はチクルスにお願いしようかな。だが、それを頼むのは夜になってからだ。

 今は淡々と迷宮探索だ。浮かれ過ぎないように注意しよう。

 

・・・・・・

 

 迷宮組と合流して、午後からの探索を再開。

 アミルは昨日のダンジョンウォークの移動ポイントの件もあって、午後は探索者のジョブでレベル上げをしている。

 

 三人の前衛陣に加えて、俺もノリノリの状態でコボルトケンプファーやコラージュコーラルに剣を叩きつける。

 地に足をつけて・・・・・・と何度も心に念じるものの、気持ちの高揚を抑えるのが容易ではない。

 

 アミルは俺を見ながら何かを察したようだが、特に指摘してはこない。

 

 :

 :

 :

 

「うおおおおっ!」

 

 雑魚敵のコラージュコーラル相手に両腕の剣で滅多切りにして・・・・・・煙に変えた。

 振り返ると、他のモンスターもそれぞれが煙に変えていた。

 

 ドロップ品の接着剤を拾い、皆のいる場所へ。

 

「次に行こうか」

 

 

「ご主人様・・・・・・泣いていますか?」

 

(!)

 

 あぁ~俺は泣いていたのか。汗ではなく。

 

 アミルの指摘に頬が熱くなり、急いで背を向ける。

 顔を拭う布を取り出そう・・・・・・

 

(ひょいっ・・・・・・)

 

「ユキムラ君、お姉ちゃんが抱っこしてあげるねぇ~」

 

 四本の腕を一絡げにロックされて、背後からオリビアに抱き上げられた。

 下からアミル、イレーネ、ヴィルマの三人に見上げられ、涙に濡れた顔が衆目に晒される。

 どんな羞恥プレイだよ!

 

 抱っこされてもオリビアの装備しているのはプレートメイルだから、全然気持ちよくないし。

 

「主、泣いてるのか?」

「御館様を泣かしたのはどいつだ?」

 

 お前ら、『泣く』とか連呼するなよ!余計恥ずかしくなるじゃないか。

 

 

「ご主人様、頑張りましたものね・・・・・・」

 

 アミル、それはトドメの一撃(クリティカルヒット)だよ。

 

「グッ・・・・・・」

 頬から大粒の涙が流れ落ちるのが分かるが、腕がロックされていて拭うこともできない。

 

 

「が・・・・・・頑張ったの・・・・・・は・・・・・・エネドラ・・・・・・だから」

 諦めて脱力して・・・・・・嗚咽しながら絞り出せたのは、その言葉だけだった。

 

 どうして、こんなにも感情が揺れるのだろうか。自分はそんな奴だったっけ。

 

・・・・・・

 

 気恥ずかしさを振り払うように、その後も雑魚敵を打ちのめす。

 

 いつも以上に気合が入ってるからなのか、クリティカル攻撃の頻度が上がった気がする。

 だが残念ながら忍びのジョブは取得できないまま、時間だけが流れていく。

 

 中間地点を折り返してから結構探索したと思うのだが、ボス部屋も魔物部屋も発見できないまま夕方を迎えた。

 

「今日の探索はこれまでにしよう」

 

 通路の壁にゲートを開いて、自宅に繋げて三人を押し込んだ。

 残っているのは俺とアミルの二人。

 

「アミル、ちょっとお願いがあるのだけど」

「?」

 なにか感情の揺れ動くままに行動しないように、エリクサーの件は慎重にいかないと。

 

「夕食が終わったら、チクルスをちょっと連れ出してもらえないか。

 あと、フラウスも」

「はい?・・・・・・えっと、分かりました。用件は?」

 うーん、連れ出す口実が思いつかない。

 

「用件は伝えずにとにかく用があると言って・・・・・・呼び出しているのが俺ということも内密で」

「分かりました。では作業部屋に来てもらえばよいですか?」

 そうそう、そんな感じで。

 

 エネドラやチクルスには威霊仙を入手したことは伝えてないので、できればサプライズという形にもっていきたい。

 そのためにはエネドラの娘でもあり、我が家の薬師でもあるチクルスの力を借りたい。

 二人をこっそりと呼び出す必要があるのだ。

 

「ああ、それで頼む。くれぐれも呼び出してるのが俺ということは内密で」

「分かりました」

 やっぱりここぞという時にアミルは頼りになる。

 

 俺がヘタレだというだけかもしれないけど。

 今日は迷宮で泣き顔まで見られてしまったから、特にそう感じるな。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/1/16(金)の予定です。
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