しばらくすると、マップの左端(西?)に赤い点がポツポツと現れ始めた。
盗賊襲撃イベントがかなり近くなってきたのかもしれない。
そして、索敵を使えば赤い点で敵の識別もできることが確認できたことになるか。
鑑定して確認の必要はあるが、盗賊は少なくとも赤い点という事はほぼ間違いないだろう。
赤い点が見えても、あの距離までは鑑定スキルが有効範囲に入っていないようだ。
元の世界から持ち込んだリュックはシューズとともに厩の裏の林の中に隠した。
そろそろ本気でイベントに備えなければ。
原作では盗賊襲撃イベントで村人に結構、死傷者が出たはずだったと記憶している。
今回はできれば警告を与えて、事前準備をしたいところだ。
だが多分あまり時間はなさそうだ。急がなければ。
「アンナさんが商品買ってくるのはいつだっけ?」
やはり村人の声が普通に理解できる。異世界言語がちゃんと翻訳してくれている。
とりあえずは盗賊の襲撃を知らせなければ。
見渡せる範囲で鑑定をかけても村長のジョブを持つ者は見当たらない。
自己紹介する余裕もなく村人に自分は流れの冒険者とだけ名乗り、村長の居場所を確認。
村人の指さす方向を頼りに鑑定しながら、村長の下に駆け寄った。
鑑定すると名前はソマーラではない。だが今は考えている余裕もない。
赤い点が徐々にこちらに近づいてくるのがマップで確認され、気持ちが焦る。
西の方向から10人を超える人間が徐々に近づいてくるのを村長に伝え、盗賊の可能性が高い旨を警告して村の防備を固めるように説得を試みる。
迎撃には自分も参加するが相手の数も多い為、村人の加勢が必須であることを熱弁した。
自分が盗賊の集団の裏から回り込んで不意打ちするので、それまでは積極的に戦闘を仕掛けるのではなく、弓矢などの飛び道具で威嚇しながら守りを重視するように伝えた。
突然のことなので当然のことながら村長は戸惑っている。
どこまで伝わったかは分からないが全員を正面から切り伏せるのは俺も多分無理なので、奇襲のために自分だけでも行動に移らなければならない。
村長は半信半疑ながらも村の見張り台に人を派遣して確認することを促し、異常があれば半鐘を鳴らすように厳命したようだ。
更に一部の村人に念のため西側の門に向かうように命じ、村長は村の自警団のメンバーがいる方に急いで走っていったようだ。
村人たちが動き出したのを横目に俺は村の外壁を乗り越えて、盗賊集団の左側から背後に回り込んだ。森の茂みに身を隠しながら早足で進んでいく。
外壁があるってことは結構、危険がある場所ってことなのだろうか?
それにしても体が軽い。動きも思ってたよりも俊敏だ。
ボーナスポイントが効いてるのかもしれない。それとも種族のアドバンテージかもしれない。
赤い点2つが盗賊の集団から離れて、こちらに近づいて来る。
斥候かもしれないし、村の裏側に一部が回り込むのかもしれないな。
意図はよく分からないが戦力が分散したのなら、その2人の盗賊を個別に始末するか?
鑑定するとやはり二人とも盗賊だ。盗賊は赤い点で確定と。
盗賊Lv5
装備 銅の剣 皮の鎧
盗賊Lv8
装備 銅の剣 皮の鎧 皮の靴
あまりレベルは高くない。
いったんボーナスポイントを経験値系でそれぞれ20倍、20分の一に極振りした。
2人の盗賊はお互い少し離れながら、音をあまり立てないように歩いているようだ。
後ろからLv8の盗賊の首をデュランダルで刎ね、そのままの勢いでLv5の盗賊も後ろから袈裟懸けに切り捨てた。
敏捷のボーナスが効いてるのか、体の動きが本当に速い。無我夢中なだけの錯覚かもだが。
二人の盗賊も何が起きたか分からないうちにあの世に行ったに違いない。
そして二人の人間を殺めたのに、自分があまりに冷静なのにも驚く。
夢だからなのだろうか?
だが自分で意識していないと夢とはいえ、こんなことができるのだろうか?
俺に殺人願望などはないはずだぞ。まあ、あまり考えすぎてもよくないな。
それよりも状況確認だ。
ほとんど声を上げる間もなく始末したので、盗賊集団の方には気づかれていないようだ。
他の赤い点には目立った動きはない。
一度でも確認したエリアはその後の動きも確認できるので非常に便利だ。
2人の盗賊を始末したので、改めて自分に鑑定をかけるとレベルが上がっていた。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
村人Lv5 盗賊Lv5
装備 デュランダル アルフレイル サンダルブーツ
英雄はやはり盗賊討伐イベント終了時でなければ取得できないか?
盗賊を倒しただけで取得できるのなら、あちこちで英雄が出現してしまうしな。
考察は後回しだ。
取得可能なジョブを見ると戦士と剣士が増えている。
フォースジョブなので戦士と剣士を追加でセットした。
モンスターを倒さなくても戦士や剣士のジョブ取得が可能なようだ。
原作では迷宮でモンスターを倒した後だった気もするが、世界観を変更した影響なのだろうか?
いや、村人のレベルが低かったからか。迷宮で村人のレベルも上げていた気がする。
うーん、余計な事は考えまいとしてもどうしても原作の設定に頭がいってしまう。
ともかく、これでラッシュとスラッシュが使える。
連続で使えば万が一の保険となるだろう。無詠唱で使う分には問題ないだろう。
経験値系のスキル設定を元に戻して、安全重視のポイント編成にしてあることを再度確認。
村人のレベルが上がったのでボーナスポイントの余りを敏捷に振った。
今は戦闘時の速さを優先したい。回避にも好影響があると信じて。
ボーナス防具で保険はバッチリのはずだが、こちらは多人数戦闘の経験なんてない。
学生の頃はイジメ対策のため、柔剣道や空手をやっていた。武道の経験は多少有利か。
だけど西洋ものの剣を振るった経験などは流石にない。
それでも、デュランダルを振るった感じは特に使いにくいとか違和感も感じられなかった。
ここからが本番だ。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
村人Lv5 盗賊Lv5 戦士Lv1 剣士Lv1
装備 デュランダル アルフレイル サンダルブーツ
赤い点が村の西門にかなり近づいた時点で半鐘らしきものが打ち鳴らされた。
途端に人の怒声が聞こえてくる。
村人の集団(灰色の点)と盗賊の集団(赤い点)がかなり近づいていく。
それでも、まだ戦闘には至っていないようだ。
急いで盗賊の集団の後ろに回り込むように小走りで移動する。
村の猟師だろうか。弓矢が散発的に盗賊に射かけられてるようだ。
ただ盗賊の方には目立った被害は出ていない。
さすがに弓矢は無視できないので前方に注意が向いているのが分かる。
一番レベルの高い盗賊はこいつか・・・・・・集団の最後尾にいて大きな声で指示を出している。
ウーゴ(人間族 男 38才)
盗賊Lv41
装備 鉄の剣 盗賊のバンダナ 鉄の鎧 皮の靴
やっぱりウーゴなのか。こいつを優先的に倒す必要がある。
戦闘が始まって注意が前方に集中したところで不意打ちするのが得策だろう。
事前にお願いした指示を村長は守ってくれるだろうか。
防御重視で弓矢だけでの威嚇を行なってくれるだけでも良いのだ。
暫く戦況を見ているとウーゴの指示で盗賊達が西門に向かって更に前進を始めた。
突撃というよりは、おっかなびっくりと怒声や奇声をあげてゆっくりと近づいて行くようだ。
これはチャンスか?
後ろから無言で全力ダッシュして、ラッシュを使って一気にウーゴの首を刎ねた。
そのまま前方にいた次にレベルの高い二人(盗賊Lv22、Lv18)の首も刎ねる。
レベルが多少高い盗賊でも関係のないデュランダルはやはりチート武器のようだ。
主力の3人が倒され、ようやく盗賊集団も後ろからの俺の襲撃に気づいたようだ。
だが、もはや大勢は決している。
浮き足立つ盗賊達を次々にデュランダルで片づけていく。
村の自警団と思われる一部のメンバーも、盗賊を威嚇しながら、近接戦闘を開始したようだ。
だが、あまり無理をしないでほしい。
こちらは何も回復手段を持ち合わせていないので、ケガした時にフォローもできない。
村人も参戦して少し乱戦になったため、弓矢などの攻撃はやんだ。
もはや盗賊の全滅は時間の問題だ。俺は次々に盗賊たちをデュランダルで葬っていく。
敏捷ボーナスのおかげか、逃がす隙は全く与えなかった。まあ挟み撃ちにしたから当然か。
終わってみれば自警団で盗賊を2人、ウーゴら含めて残りの22人は俺が倒した。
原作でもこんなに盗賊の人数が多かったのだろうか?
はっきりと覚えてないがデュランダル無しだったら、こんな人数を倒すの無理ゲーだろう。
だからこそ英雄ジョブの取得条件なのだろう。
索敵で確認したが、村の外に赤い点はない・・・・・・いや村の中に一人赤い点の者がいる。
普通に近くの村人と会話している。これは村人の中に盗賊を手引きした奴がいたのか?
原作でも盗賊のバンダナを盗んで奴隷落ちした奴がいたはずだが、ひょっとしてこいつか?
とりあえず名前を確認してマークしておこう。
一方で村長のマークが青い点になっていた。
信頼された証拠か?・・・・・・敵味方・中立が分かる索敵スキルは便利すぎるな。
盗賊のボスの名前は原作ではウーゴとかいう名前だったが、今回も同じだった。
一方で村長の名前はソマーラではなく、これは原作と異なるパラレルワールドなのだろうか?
世界観の設定を原作と変えた影響かもしれないが確認のしようもない。
どうしても原作に引きずられてしまうが、それに足を掬われないように注意すべきかも。
先程までは初回盗賊討伐イベントをこなすために、こちらから一方的に村長に働きかけただけだったが、相手はゲームのNPCではなく人間だ。
冷静になって、ちゃんと話をしないと。
「こちらの村人に被害は出なかっただろうか?
盗賊の人数が思っていたよりも多かったから無我夢中で切り捨てたので、
村人達の方まで気を回すことができず申し訳なかった」
村長の方はえらく恐縮したような感じで、
「いえいえ、軽傷者は出ましたが死者は出ませんでした。
我々だけでは甚大な被害が出たでしょうから、改めて感謝申し上げます」
盗賊イベントをこなすことに夢中になっていたのだが、村長はじめ村人たちに頭を下げられると悪い気分はしない。死者が出なくて何よりだ。
改めて、村長に自己紹介・・・・・・と言っても、種族やジョブについては説明せず、戦士としての修行の旅で流れてきて、たまたまこの村に立ち寄っただけだと強調しておいた。
村長が死体の片付けや装備とインテリジェンスカードの回収を任せてほしいと言ってきたので、西門から少し離れた場所で盗賊の下っ端2人を片づけたことを伝えて、処理をお願いした。
俺は村長宅に招かれたが休憩していてほしいそうだ。
元の世界から持ち込んだリュックを回収して、拝借したサンダルをこっそり返却。トレッキングシューズに履き替えて村長宅に向かうことにした。
(2025/8/3加筆)
お読みいただき、ありがとうございます。
本作では初回襲撃の村はソマーラ村にはしませんでした。
原作主人公が初めて訪れた村のことを、アレコレいじるのが気が引けたのが一番の理由です。
原作でも初めの村に立ち戻って・・・・・・みたいな描写があったので、それを壊しそうなので。
本作でも、ベイルに旅立ってからも、この村のことを少し描く予定です。
戦乱に巻き込まれて村が消滅・・・・・・とかにはしないと思うのですが、そうなってもソマーラ村は無事ということにしておきたいのでした。