異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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044.ネタバレ

 ターヘラからナナイ、アルマー、子供達二人を連れて修練場へ来た。

 

「えーと、ここはどこでしょうか?」

「ここはタケダ家のクーラタルの自宅の裏庭だ」

「でっかい広場!」

 質問には答えたがアルマーは理解できているのだろうか。そして子供達の率直な感想。

 

「迷宮に行くので、まずは護衛メンバーを加えようかなと思ってな」

「?」

 俺の発言にアルマーもナナイも理解が追いつかないようだ。

 

 そうこうしているうちに双子が駆け寄ってきた。

 今日は護衛部隊も迷宮探索は休みだから、訓練をしていたのだろう。

 

「ナナイ姉ちゃん、どうしたの?それにフラムとリクまでいるし」

「ちょっとこの子達二人をベイルの迷宮の1階層に連れていくことになってな。

 お前たちも行くか?」

 ケリーのナナイへの質問に俺が割り込み、迷宮の護衛に同行するかを確認。

 

「行く!ナナイ姉ちゃん達はあたしが守る!」

「あたしも行く!」

 ケリーとマリーが同行するのか、それだと6人パーティーだと定員オーバーだな。

 

 双子と話をしているとレドリックが近づいてきた。

 

「ご主人様、どうされました?」

「ああ、レドリック。悪いけど、レイモンドを借りても良いか?

 ちょっとベイルの迷宮の1階層に行くことになってな。

 ケリーとマリーも同行するのだけど、人数が多すぎるから2パーティーで行動しようと思う」

「分かりました。ちょっとレイモンドを呼んできます」

 彼はレイモンドの方に走っていった。

 

 やがて、レイモンドを連れて戻ってきた。

 

「あれっ、ナナイさんにアルマーさん、それにこの二人はターヘラの子供達ですね?

 どうされたのですか?」

「この二人が薬草採取士のジョブを取得するために、ベイル迷宮の1階層に行こうと思ってな。

 それで人数が多いので、俺とレイモンドで二つパーティーを作って運ぼうという話だ」

 レイモンドは何度もターヘラに子供達をフィールドウォークで運んでいるから顔見知りか。

 

「なるほど、分かりました。今からですよね?」

「ああ、悪いが今から頼む」

 レイモンドが頷いたので、三人を借りてベイルの迷宮に行くことにした。

 

 まずは三人ともベイルの迷宮に行ったことがないので、ゲートを開いて迷宮入口の傍の木陰へ移動させた。

 その後はターヘラから来た五人で同じく移動。

 

「これが迷宮の入口?」

「ああ、そうだ。危ない場所だから、子供だけで勝手に入るんじゃないぞ」

 リクの質問に迷宮の危険も添えて返答した。

 

「今日は強い仲間がたくさんいるから大丈夫だけど、迷宮は危険な所だからな」

「うん、分かった」

 なんか社会見学の引率の先生のようになってしまった。

 

 レイモンドのパーティーに双子が加わり、俺のパーティにターヘラ組の四人が加わった。

 今日は部外者がいるので、外から迷宮に直接ワープゲートも繋げられないし、冒険者パーティーでの迷宮探索をしなければならない。

 

 まずは、レイモンドのパーティーが1階層に移動し、俺達のパーティーが続く。

 迷宮のスタート地点の小部屋から俺の道案内で魔物部屋まで進むことにした。

 ここの魔物部屋は比較的直ぐにたどり着ける。

 

 それでも途中にニードルウッドと遭遇するので、双子が瞬殺している。

 さすがにLv30台の百獣王だから万が一の危険もない。

 

 双子も二人の子供達の前で格好良いところが見せられて、ご満悦のようだ。

 俺の出番は全くない。

 

 魔物部屋に向かう途中、ナナイが双子と並んで歩いている。

 彼女が双子の前を不意に遮り、

 

「シュッ!」

 急に鋭いパンチを繰り出したが、ケリーはそれを軽くスウェーで回避。

 

 その後も連続してパンチが両腕から繰り出されたが、ケリーはそれを難なく避けてみせた。

 ノールックで裏拳でマリーに不意の攻撃をかけたが、彼女も楽々と回避。

 

「もう~全然当てられてなくなっちゃったなぁ」

 いやいや、なんなのこの展開。挨拶代わりに拳を交えるの?

 

 結構、ガチで当てにいってるように見えたけど。

 その後、何事もなかったようにナナイも双子も歩き始めた。

 この三人にとっては、挨拶程度の出来事?

 

 双子が獣戦士のジョブ取得ができたのって、ニムラルのおっさんに鍛えられたからではなくナナイのおかげだったりして。

 それにしても、拳で戦うのは僧侶のジョブを取得するまでではなかったか?

 やっぱり、あの剣術指南所はイロイロとおかしい気がする。

 

「なあ、アルマー。お前も結婚したらナナイとあんな風に拳で会話するのか?」

「・・・・・・」

 彼は苦笑いしている。

 

 慣れているのだろうか。

 諦めの境地なのかもしれないが。

 

 魔物部屋までは問題なく辿り着いたが、途中で倒したニードルウッドからはレアドロップのリーフはドロップしなかった。

 仕方ないので、魔物部屋を殲滅するか。

 

「俺が魔物部屋に入って殲滅するから・・・・・・」

「「一緒に行きたい!」」

 二人なら大丈夫か。息が揃っているな。

 

「一階層だから、許可するんだからな」

 普段の33階層とかで魔物部屋に入るんじゃないぞ」

「「うん!」」

 ドライブドラゴンあたり難なく回避しそうだが、迷宮では油断禁物だ。

 

 念のため双子をこちらのパーティーに加えて、ターヘラ組をレイモンドのパーティーへ入ってもらった。

 万が一双子が怪我した時に全体回復の治癒魔法を使えるようにするためだ。

 

「じゃあ、レイモンドは四人の護衛を頼むぞ。

 周りにモンスターはいないから大丈夫だと思うが注意してくれ」

「はい。弱いモンスターですけど安全重視で対応します」

 さすがレイモンドは分かっている。油断しないことが重要だ。

 

 魔物部屋の正規の入口から侵入するのだが、索敵のマップで魔物の密度が少ないタイミングを見計らう・・・・・今だな。

 

「ケリー、マリー行くぞ。俺に付いてこい」

「「了解」」

 ヴィルマやイレーネに教わったのかな。

 

 入口から普通に入って、大量のニードルウッドLv1を撫で斬り。

 危なげなく殲滅を完了。

 双子がダメージを負ったようには見えなかったが、念のため全体手当を三回かけた。

 

「ドロップ品はブランチだけ拾って、リーフは子供達が拾うから、そのままにしておいてくれ」

「「了解」」

 なんか変な気分だな。

 

 ヴィルマとイレーネは双子におかしなことを教えてなければよいのだが。

 

 侵入した出入口から顔を出して安全を確保したと伝えて、通路にいた五人を招いた。

 

「ここに落ちている、リーフというドロップ品を拾ってくれ。

 フラムとリクで一人一個ずつ拾えば良いから。

 リーフというのはアレだ。一つだけ形の違うのが落ちてるのが見えるだろう?」

「分かった。行こう、リク!」

 指差した方向にフラムがリクを連れて駆け出していった。

 

 女の子の方が積極的なのかな。

 

 俺の方はケリーやマリー達と手分けして、ブランチをアイテムボックスに放り込んでいく。

 

 二人がリーフを拾い終わったのを確認。

 俺のパーティーからケリーとマリーが外れてレイモンドの方に加入し、レイモンドの方からターヘラ組が外れて俺のパーティーに加入した。

 

 パーティージョブ設定で見ると・・・・・・二人とも薬草採取士と探索者のジョブが取得できている。

 これで、あとはギルドへ行って加入手続きをするだけか。

 

「これで二人は薬草採取士のジョブが取得できているはずだ」

「ユキムラさん、ありがとうございました」

 ナナイは理解しているようだが、フラムとリクは分かってないように見える。

 

 実際に生薬生成のスキルを使ってみるまでは実感できないだろうな。

 そのためにはミモザに詠唱呪文を教わらなければならない。

 石鹸作りのためにベイルに来てもらってからになるだろう。

 

「こうやってジョブ取得するのですね。

 うちで村人の奴隷に薬草採取士のジョブを取得させる時に

 タケダ家に手伝ってもらっても良いですか?」

「まあ事前に連絡をもらえれば、手伝える時は手伝うよ」

 こういうのは持ちつもたれつだ。

 

 その後は入口に逆戻り。双子が道中のニードルウッドを瞬殺するのも変わらず。

 迷宮から出て、木陰からクーラタルの修練場の木の幹にゲートを繋げて戻った。

 

「ちょっとだけ、ここで見学していてくれ。直ぐに戻るから」

 ターヘラ組を双子に任せて、俺はクーラタル迷宮の23階層へ。

 

 魔物部屋に行き、満員御礼だったモンスターを殲滅。

 小荷駄隊に子供達二人、通常部隊にナナイとアルマーを入れてパワーレベリングだ。

 

 フラムとリクは薬草採取士Lv10、ナナイは僧侶Lv15、アルマーは奴隷商人Lv28になった。

 

 ナナイとアルマーのパワーレベリングは婚約祝いの続きのようなものだ。

 本人達には伝えないが。

 奴隷商人はともかく、僧侶もレベルが高いのに越したことはないはず。

 子供達もとりあえずLv10にしておけば、無茶しなければMP切れにはならないだろう。

 ミモザの監視下で当面は生薬生成してもらえれば大丈夫だと思いたい。

 

 クーラタルの修練場に戻り、ターヘラ組と合流した。

 

「えーと、ギルドの加入はどうする?ターヘラの薬師ギルドで加入するか?」

「えっ、もう加入ですか?」

 善は急げだろう。

 

「加入のための費用を支払えば、直ぐにでもギルド加入できると思うぞ」

「では、お願いしても良いですか?」

 

 五人でターヘラの冒険者ギルドへ移動して、薬師ギルドへ向かう。

 場所はナナイもアルマーも知っていたので道案内してもらった。

 ギルドで入会金を支払い、フラムとリクのターヘラの薬師ギルド加入は無事完了した。

 

 五人で剣術指南所に戻りながら今後の話を少しだけした。

 

「これで、二人は薬草採取士のジョブを得たし、ギルドにも加入できた。

 あとはベイルに来た時にミモザの指導の下で生薬生成をするようにしてくれ。

 まずはブラヒム語で詠唱呪文を覚えるところからだな。

 初めのうちは沢山生薬を作ると気分が悪くなるから注意が必要だ。

 だから、ミモザが見ている所で生成するようにした方が良い」

「そうですね。ミモザさんなら信用できますから、お任せするようにします。

 MP切れの件は私の方からも二人に説明しておきます」

 子供達だけでやらせないようにね。

 

 ナナイも僧侶でMP管理をやっていたはずだから、説明も問題ないだろう。

 

「生薬の素材はベイルに来た時にミモザから渡すから。

 それで生成した数を彼女に記録してもらってギルド加入のお金を返済していけばよい。

 別に急いでないから、まずは二人が生薬生成に慣れることが重要だな」

「はい、分かりました。後で二人にもう一度説明しておきます」

 そうだな。子供達に理解してもらわないと意味ないからな。

 

 迷宮に行った興奮が冷めやらない子供達と共に剣術指南所に到着。

 

「今日はニムラルさんはいるのか?」

「お父さんですか?はい、みんなが戻っている日だから迷宮には行ってません」

 それなら都合がよい。

 

「後で他のメンバーを連れてくるので。今日はちょっと稽古をつけてもらおうかと思ってな」

「そうですか。だいたい広場にいますから大丈夫だと思います」

 確かにオッサンは広場にいるイメージしかないな。後は迷宮に行っているとか。

 

 双子の身請けの話を初めてした時には食堂にいたけど、それ以降は広場以外で見ていないような気もするぞ。

 

 とにかく後でもう一度来て、今日のもう一つのイベントをこなさないとならない。

 ヴィルマとイレーネが待ちくたびれているだろうし、今回はレドリックにも手伝ってもらわなければならないから。

 

「今日はネックレスや二人のジョブ取得も手伝っていただき、ありがとうございました」

「まあ、二人とも末永く仲良くな。

 あと子供達の件はちゃんとした労働の対価をもらうのだから、気にしなくても大丈夫だ」

 剣術指南所とは、これからも友好的にやっていきたいのだ。

 

「それにしてもケリーとマリーって迷宮であんなに強くなったのですね。

 私も負けていられない!」

「・・・・・・」

 ナナイが軽くフットワークを踏んで、拳をキレよく繰り出すシャドウをしている。

 

 いや結構サマになっているように思うのだが、無言のアルマー。

 これ以上強くなったらアルマーは大丈夫だろうか?

 身代わりのブロンズネックレスが壊れるのは意外に早いかもしれない。

 四人と別れて、クーラタルの自宅へと戻った。

 

・・・・・・

 

 ヴィルマとイレーネ、レドリックをパーティーに入れて、剣術指南所に逆戻り。

 

 裏庭から広場の方へと向かった。

 ニムラルのおっさんがアルマー配下の迷宮探索をする奴隷達を訓練している姿が見える。

 

 おっさんの姿を見ると、ヴィルマとイレーネは臨戦態勢。

 

「模擬戦の順番だが、レドリック、イレーネ、ヴィルマの順だ。本命はヴィルマだぞ。

 ヴィルマ、今日の朝練通りに頼むぞ」

「主、任せておけ」

 相手の動きをどこまで見切れるかにかかっている。

 

 彼女が得意な戦術かどうかと言えば正直微妙に思うが、模擬戦なのだから失敗したら二度三度と挑戦するだけだ。

 

 オッサンの相手をしていたアルマーの奴隷達はかなりヘトヘトの状態になっている。

 こちらが手を上げると、オッサンも手を上げたので相手をしてもらえそうだ。

 

「まずはレドリックからだ。相手の出方を見てきてくれ」

「承知しました。強敵そうなので楽しみです」

 不敵に笑みを浮かべる彼の表情を頼もしく思える。

 

 剣聖のジョブを得てからザビルの騎士団長とも模擬戦をしたが、今回の相手もそれに匹敵する相手かもしれない。

 

 彼は中央に進み出て、オッサンと対峙した。

 両手に持っているのは木刀二本。

 木の両手剣にしないのは心持ち手の内を見せないため。

 木刀は木の片手剣だが、スピード重視の場合には良いかもしれない。

 

 剣聖Lv40と獣戦士Lv46の戦いが始まった。

 

ジョブ 剣聖

効果 腕力中上昇 敏捷小上昇 HP小上昇

スキル ダブルスラッシュ 二刀流(片手剣/両手剣) クリティカル発生

 

ジョブ 獣戦士

効果 敏捷中上昇 体力小上昇 器用小上昇

スキル ビーストアタック

 

 レベル差は若干あるものの、ジョブのカタログスペックはほぼ互角かもしれない。

 オッサンの方がスピードに優れ、レドリックの方が攻撃力で優位か。

 あとは剣聖の二刀流がそれにどう影響を及ぼすのかが読めない。

 それ以外の戦争という殺し合いに参加した経験や剣技といった見えない部分がどう作用するかも分からない。

 

 普通なら勝負の行方は分からないと言いたいところだが、今回の模擬戦には別の意図があるから勝敗はあまり問題ではない。

 

 レドリックは滑るように前に出て、二本の木刀をゆらり、ゆらりと動かしながらオッサンの剣先を鈍らせようとしている。

 距離を一定に保ちながら、オッサンは静かに後退していく。

 

 レドリックは左右の剣を器用に牽制で繰り出しながら、強い一撃を与えるタイミングを探しているのが分かる。

 オッサンの方は勝手知ったる広場を右に左に滑るように移動して退路を確保している。

 そしてカウンターの機会を狙っているのだろう。

 レドリックと違って剣は一本しか持ってないが、揺らすことなく攻防どちらにも使える構えで固定されている。

 

 見た目は押されているようにも見えなくはないが、過去にあの状態からヴィルマもイレーネも俺もカウンターを喰らっている。

 膠着状態と見るべきだろうか。

 むさ苦しい風貌に似合わず、カウンター狙いの避けタンクなのだよなぁ。

 原作ヒロインのような超絶回避はできなさそうだが。実際、俺も何度も打撃を入れてるし。

 

 誘いに乗ったのか、レドリックの剣戟の速度が上がってきた。

 時々片方の剣をゆるやかに動かしたり、牽制やフェイント等を行いながら硬軟織り交ぜた斬撃を振るっている。

 二刀流で時間差と高低差をつけて斬り払っている。

 格段にやっかいな攻撃なのにオッサンもよく躱しているな。

 

(ギィッーン)

 

 今の攻撃は瞬間的に速度を上げたから、木刀で受けた上でオッサンは大きく後ろに跳んだ。

 木刀同士の出す音じゃないぞ。危険を感じて後退し、間を取ったのか。

 

 下がったと思いきや、瞬時に距離を詰めて・・・・・・今度はレドリックが回避・・・・・・できない。

 オッサンの木刀がわき腹に喰い込んでる。やられたな。

 もっともレドリックの左の木刀もオッサンの胸の真ん中を突いている。相打ちか。

 

 レドリックは距離を取って、二本の木刀を下げた。

 

「もう、止めるのか?」

「ええ。十分です」

 レドリックが模擬戦を止めてしまったので、オッサンは不満げだ。

 

「後がつかえているので、私はこの辺りで止めておきます」

「そうなのか」

 レドリックは俺達のいる場所にゆっくりと戻ってきた。

 

「どうだった?」

「ご主人様のおっしゃる通りだったと思いました。

 事前に言われてなければ気付けなかったと思いますが」

 そうか、ならここからだな。

 

 イレーネの方に目を向けると、既に気合十分で闘志を燃やしている眼だ。

 

ジョブ くのいち

効果 敏捷中上昇 知力大上昇 精神大上昇

スキル 状態異常確率アップ 状態異常耐性アップ クリティカル発生 一閃

 

ジョブ 獣戦士

効果 敏捷中上昇 体力小上昇 器用小上昇

スキル ビーストアタック

 

 くのいちLv23と獣戦士Lv46か。

 レベル補正上は不利だし、スキルを全く使わない戦いではステータス上の比較でも劣勢は否めないと思う。

 剣技や戦闘経験でもイレーネよりはオッサンの方が一枚も二枚も上手かもしれない。

 

 改めて思うのは、くのいちのジョブは純粋な近接戦闘をバチバチにやるものではなく、スキルを使って優位に進めるのがセオリーなはず。

 迷宮では俺の複数ジョブの効果を使って、前衛職でバリバリやってもらっているが、この模擬戦ではレドリックもそうだが単独で戦ってもらっている。

 今回のようにスキルを封印して戦うのは、くのいちジョブの王道の戦い方ではないはずだ。

 

 だからと言って止めることはしないのだが。

 

・・・・・・

 

 善戦したとは思うが、勝敗の結果は誰の目にも明らかなものだった。

 イレーネの完敗。

 見学している子供達はオッサンの勝利で歓声が沸いている。

 

 巧みな回避で彼女の剣はほとんど有効打が与えられず、オッサンのカウンターをいくつも喰らい、最後に厳しい一撃を浴びて彼女は降参した。

 これは仕方がない。と言っては彼女に気の毒だが条件が悪過ぎるのだ。

 

 唇を噛みしめて、悔しそうに戻ってくる彼女には声をかけられない。

 敗因も本人が一番分かっているだろうし、へたな慰めは逆効果だ。

 次に戦う時はレベルも上がっているだろうし、この後のヴィルマの戦いからきっと学んで別の結果が出ていることだろう。

 

 

「主、行ってくる」

 

 イレーネの方を一瞥して、木の両手剣を持ったヴィルマが中央に進み出た。

 勝敗上の本命はこちらだが、勝敗よりも確認が今回の目的。

 

ジョブ 百獣王

効果 敏捷大上昇 体力中上昇 器用中上昇

スキル クリティカル発生 ビーストスラッシュ

 

ジョブ 獣戦士

効果 敏捷中上昇 体力小上昇 器用小上昇

スキル ビーストアタック

 

 百獣王Lv75と獣戦士Lv46。レベル、ステータス共に有利な状況。

 今までの中では最も彼女が優位に立った模擬戦になる。

 

 

 対峙した二人の距離が急速に狭まった。

 ヴィルマが急接近して、胴を薙ぎ払う。

 木刀で軽く受け流されるが、彼女は構わず更に剣を鋭く振り払う。

 

 スピードと力で圧倒しようしているようにも見えるが、剣の軌道は滑らかでカウンターの隙も見せない堅実ぶりだ。

 徐々にオッサンの打つ手は無くなり、先程のイレーネとの戦いとは打って変わって劣勢だ。

 

 オッサンは一度大きく木刀を振って牽制した後に大きく後方に跳んで下がった。

 前回までは多少ヴィルマが有利な状況があっても、この状況からでも厳しいカウンターを喰らっていたはずだ。

 仕掛けてくるのは、ここだろうか。

 

 再び前に出ようとしたオッサンがバランスをわずかに崩した・・・・・・そこをヴィルマの胴薙ぎが一閃・・・・・・ダメージが的確に入った。

 朝練でレドリックが言っていた訓練の効果が出たようだな。

 

 その後も彼女の攻撃が二回ほど決まってギブアップしたようだ。今回は完勝だ。

 

 戻ってくる彼女は模擬戦がアッサリ終わってしまって、少し不満気にも見える。

 子供達はオッサンが圧倒的な差で負けてしまい、かなりガッカリしているようだ。

 一つ前の戦いとは対照的だな。

 

「上手くいったようだな」

「来ると分かっていれば、やりようがありますからね。

 それでも、どうやってるのかまでは分からないのですが」

 そうだな。その手がかりを得るのが今回の目的だ。

 

 オッサンのいる所までゆっくりと進み出ると剣を構えたようだが、構わずそのまま武器も手に取らずに歩を進める。

 

「次はお前が戦うのじゃないのか?」

「いや、交渉というか取引をしたいだけだ」

 俺の言葉に怪訝そうな顔をしている。

 

「あの技は戦場で身に付けたのか?」

「ああ、ようやく気付いたのだな。さっきの女のアドリブじゃなかったのか」

 そりゃそうだよ。ヴィルマはそこまで器用ではない。

 

「やり方を俺達に伝授する気はないか?むろん、相応の謝礼はするつもりだ」

「・・・・・・」

 交渉に応じようとする顔ではないな。何を考えているのか。

 

 オッサンがヴィルマに仕掛けようとしたのは、相手に気取られずに詠唱する手法だ。

 ここで行う模擬戦では暗黙的にスキルは使わない感じになっていたが、オッサンは俺達にビーストアタックを使っていた。

 俺達に気付かれずにだ。

 

 パッと見は声を出してるようにも見えなかったので全く気付かなかったが、喉元を厚手の服で隠しているし口を結んだように戦うタイミングもあった。

 恐らくそのタイミングで詠唱していたようで、今まではまんまとそれにしてやられた訳だ。

 

 オッサンの模擬戦で何度か知らない間にビーストアタックを受けていたが、サボーとの決闘の際にビーストアタックを受け、初めてオッサンにしてやられていたことに気付いた。

 回避しても追ってくる必中攻撃のビーストアタックをサボーから受け、模擬戦で受けた攻撃との共通点に気付けた。

 あの決闘は本当に学びの多い場だったと改めて思う。

 

 別に模擬戦でオッサンのやったことが悪いとは全く思わない。

 スキルがあれば使おうとするのが当たり前だ。

 戦場なら、負けて死んだ者に反論の機会など与えられないのだから。

 

 だが、それをどうやって実現しているのかまでは分からない。

 腹話術のような何か?・・・・・・ではないよな。声は聞こえてないのだから。

 とはいえ、無詠唱のスキルを身に付けているとも思えないから何かあるのだろう。

 百獣王のビーストスラッシュと獣戦士のビーストアタックはジョブの系列が同じだから、詠唱共鳴が発生する。

 今回はオッサンが詠唱するタイミングでヴィルマが詠唱共鳴を仕掛けて、相手の出鼻をくじけたのだから無詠唱ではないはずだ。

 声帯の使い方に何かあるのか?詠唱するなら声帯を使わずにできるとは思えないよな。

 

 

 実際の戦場では詠唱共鳴でスキル発動の潰し合いが行われると、ヘルミーネからもレドリックからも聞いている。

 相手に詠唱を気取られずにスキルを行使できるのは、初見殺しに使える手段だ。

 ネタバレしてしまえば使えないかもしれないが、それでも知ってる方が優位に立てる気がする。

 

「あの技は戦場に赴くもの全員が身に付けているものではないのだろう?

 絶対的なものではないと思うが、価値があるのは間違いないと思っている」

「・・・・・・」

 交渉に応じる気はないのかな。是非身に付けたい技術なのだが。

 

「この技を身に付けてどうするのだ?」

「どうもしない。自分達の身を守るために使うだけだ」

 いつ戦争に巻き込まれるかも分からないのだから、できる限りの準備をしておきたいだけだ。

 

 貴族や自由民との理不尽な決闘で身を守ることにも役立つかもしれない。

 教えてもらうのは主にレドリックだ。

 ヴィルマやイレーネはそういった事に器用に対応できるとは思えないので。

 実際にオッサンの技を受けてもらうのと、学んでもらうために今回彼を連れてきたのだ。

 

「謝礼というのは?」

「スキル融合武器はどうだ?無論、一つではなく複数用意する」

 交渉にはなりそうだろうか。

 

 オッサンも特に立派な装備品で迷宮探索をしてないことは、アルマーやその奴隷達からそれとなく聞いている。

 なら、交渉の余地があるのではないかと思っているのだが。

 

 あまり興味が無さそうだな。別のカードを切るか。

 

「では、ジョブの取得支援はどうだ?」

「なんだそれは?」

 昨晩考えたんだよ。桃源郷に行く前に。

 

「フラムとリクという子供達が薬草採取士のジョブになりたいって話を知っているか?」

「知らんな。あいつらがそんなことを?」

 オッサンはもう少しナナイを見習って、子供達の将来に興味を持てよ!

 

「その二人は今日我が家の支援を受けて、二人とも薬草採取士のジョブを得たし、

 ギルドにも加入した」

「そうだったのか。知らなかった」

 それはつい先程のことだから仕方ない。

 

「まだ将来どのジョブに就きたいか分からない子達もいるだろうが、

 その二人みたいに就きたいジョブを決めてる子もいるかもしれない。

 そういった子達にジョブ取得をする支援や、こちらにそのジョブの者がいれば

 仕事のやり方を教えてやってもよいということだ。

 さすがに就職先まで世話してやることまではできないがな」

「むう・・・・・・」

 これは脈ありか。

 

「スキル融合装備品は手元から離れれば価値を失うが、

 ジョブならその者に一生ついて回る財産となるだろう。

 そちらの戦う技術を教えてもらう対価に、

 こちらは子供達にジョブという技術を身に付ける機会を与えられるということだ」

「なるほど。なら、スキル融合装備3つと子供達全員のジョブ取得を交換だ」

 うっ、結構な対価だが。まあ、戦争で得た経験を共有してもらえると思えば安いものか。

 

「それで構わないが、将来就きたいジョブが決まっていない子がジョブを決めるまでは待てない。

 決まったら支援することは必ず約束するので、先にそちらの技術を教えてくれ。

 スキル融合装備は候補を10個ほど出すので、そこから3つ選んでくれ。それでどうだ?」

「ああ、構わない」

 さすがに、うちの護衛部隊の標準装備と同じスキル融合装備品は出せない。

 

 複数のスキルが融合された装備品が出てくるとは思ってないだろうが。

 ルークと等価交換で提示するスキル融合装備品を基準にリストアップしよう。

 

 後で、ナナイにギルドの入会金を返済する必要はなくなったと伝えなければな。

 ニムラルのオッサンが俺とそんな取引をしたと知ったら、どんな顔をすることやら。

 

 オッサンはまだアルマーの奴隷達の訓練があるようなので、礼を言って去ることにした。

 帰り際にナナイに先程の取引内容の説明。

 二人がギルド入会金を返済する必要がなくなったことと、今後も他の子供達全員に我が家がジョブ取得支援をすることになったのを伝えた。

 驚いたようだが、基本的には彼女も賛成してくれた。

 子供達の将来が少しでもマシになると感じたのかもしれない。

 

 後日、他の子達の対応を具体的に考えようと告げて、剣術指南所を後にした。

 随分時間をかけてしまった。

 急いでクーラタルの自宅に皆でワープで移動した。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/1/22(木)の予定です。
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