異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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050.ザビルの新メンバー

 ザビルの引っ越しが終わった翌日の朝練。

 モニカとマリーはザビルに派遣しているので、修練場がいつもより少し静かだろうか。

 

 そして、今日のクーラタルの朝練にレイモンドがいるな。

 彼はベイルの朝練に頻繁に参加していて、孤児院の子供達の面倒を見たりすることも多い。

 ターヘラの孤児院へ送り迎えしている関係もあって、ベイルによく顔を出している。

 ここ最近は同室のトカラを心配して、こちらの訓練に参加しているのかもしれない。

 

 トカラにはフレイヤとレイモンドが付き添って、剣の振り方を指導している。

 面倒を見てくれる仲間がいるというのは心強いよな。

 フレイヤは他の者とのコミュニケーションが苦手だったはずだが、我が家に慣れて徐々に克服したのだろうか。

 今は彼女のそばにドロテアはいない。

 同じ竜人族同士だし、年下だから問題ないのだろうか。

 

 そして目下、ミラはケリーと模擬戦をしているのだが、なんだあの盾は?

 盾の真ん中が突き出ていて、古代の艦船にあったラム(衝角)ような感じだな。

 あれで攻撃も兼ねるつもりなのか?またヘンテコな武器というか防具を考え出したな。

 鑑定すると『木の盾』と表示されるから、木刀を盾の形にしたのではなく盾を武器っぽく使う気なのかもしれない。

 防具は多少重量があると打撃武器として使えなくもないが、攻撃力はあまりないからシールドバッシュでダメージを与えるというラノベあるあるのようなことはできない気がするのだけど。

 

 原作では盾に武器用のモンスターカードをスキル融合できるって記載があったから、盾で攻撃するというのはアリなのだろうか。

 アミルやミラは原作と同等の知識を前提に、あの盾を考え出したのではないかもしれないが。

 ミラやマヤは剣匠のジョブだが、盾を使ったタンク役を担うので無理やり二刀流っぽく盾を武器化したのではないだろうか。

 

 まあ、もう少し様子見するか。

 

・・・・・・

 

 朝練と朝食を終えてザビルに移動。

 午前中はザビルの奴隷達の面談を行うため、迷宮探索をお休みにしてある。

 二階に上がり、カラダンの部屋へ向かった。

 

 彼の部屋をノックしようと思ったが、向かいの会議室のドアが開いていた。

 中の様子を窺うとカラダンが既に座っている。

 護衛としてモニカも後ろに立っているようだ。

 今日は会議室で面談するのか。まあ、その方が良いかもしれない。

 

「この会議室でやるのか?」

「はい。その方がお互い緊張感があって良いと思いまして」

 緊張させるのはどうかと思うが、カラダンがそう判断したのなら尊重しよう。

 

 カラダンの隣に座った。

 護衛にモニカがいるというのは、クーラタルの商人ギルドで護衛をしてもらった時以来か。

 なんか久しぶりで、少し新鮮な気分だ。

 

「マテウスとニケは二人一組で行い、その後はミシェル、ナナと続きます。

 そして、サライ達三人まとめて話をしますが、それが終わってから防具屋を開業します。

 最後にマチルダとレベッカの母娘にしようかと思っています。」

「順番や組み合わせは特に異論はない」

 既に確認したいポイントはメモしてきたので、それに沿って確認するだけだ。

 

「奴隷商館の方に住んでいるメンバーは今回の9人の面談とは別に

 必要に応じてやりたいと思います。

 中核となるメンバーから残したいと申し出があった場合にのみ面談しようと考えます。

「ああ、構わないぞ。

 カラダンの判断でタケダ家に加えたいと判断したら、俺との面談なしで事後報告でも構わない」

 全員が俺と面談するというルールにするのはやり過ぎだろう。

 

 

(コン、コン・・・・・・)

 

 

 最初の面談が始まる。まずはマテウスとニケの二人が入室してきて、前の席に座った。

 椅子に座った二人はかなり緊張しているようだ。

 

(鑑定)

 

マテウス(人間族 男 32才 奴隷)

剣匠Lv13

装備 硬革の靴

 

ニケ(人間族 女 26才 奴隷)

戦士Lv27

装備 硬革の靴

 

 二人とも戦場で戦った経験があり、迷宮探索の実績もある戦闘奴隷。

 元の奴隷商館での信頼も厚く、戦闘奴隷の指導者として尽くしてきたと聞いてる。

 その信頼もあり、元の主人から夫婦として認めることを半ば強要された。

 こちらとしても、守る者がいる方が強くなれると思うので否やはなかったのだが。

 タケダ家においても主従関係はあるにしろ、お互い信頼のおける仲間になってもらいたい。

 

 

「新しいこの館はどうかな?まだ引っ越したばかりで慣れないと思うが」

「大きなお屋敷で驚きました。立派に護衛を務められるように頑張ります」

「が、頑張ります」

 か、堅い。こんな感じの奴等だったっけ。アイスブレイクの会話でブレイクできない。

 

 マテウスの緊張がニケにも伝染しているようだ。

 面談前に別の話から入るか。

 

「奴隷商館側に住ませている奴隷の中で見込みのある者はいるか?

 迷宮を一緒に探索したり、盗賊の襲撃を迎え撃つのに背中を任せられるような者は?」

「正直、厳しいと思っています。

 迷宮に行くのも戦闘奴隷だから行くのであって、自分の命を守ることを優先する者ばかりで

 他者と連携して上手くやっていこうと考えているようには見えません。

 もちろん迷宮で自分の命を守ることは重要ですが、それだけでは・・・・・・」

 やはり、そんなものか。

 

 新しく入ってくる者に期待するしかないか。

 マテウス、ニケ、ヒューゴ達のように自分以外にも守りたい者がいなければ、なかなか難しいのだろうな。

 

「迷宮探索を再開するのは、信頼がおける者達がパーティーの大半・・・・・・

 せめて4、5人ぐらいになってからにしたい。つまり、まだかなり先の話になるだろう」

「カラダン様からお聞きしてましたが、やはりそうなのですね」

 迷宮で人材を使い潰すようなことはしたくない。

 

「迷宮に派遣するにしても、この館の護衛戦力もしっかりと残すことが条件だ」

「なるほど。それだと直ぐに難しいかもしれませんね」

 タケダ家所属のメンバーで戦える者が最低でも6人は必要だ。

 

 迷宮に4人派遣して販売奴隷を追加で2人加えたパーティー、そして護衛に2人程度を回せるぐらいにならないと。

 今はマテウス、ニケ、ヒューゴの3人だけなので、3人増やすことになるが簡単ではない。

 

「戦力は簡単に追加できないので、じっくりと人を集めよう。

 それとは別に個々人の強化は可能な限り実施したい」

「はい。迷宮に行かずとも、普段の鍛錬は怠らないようにします。

 もちろん他の者達も含めて鍛えるつもりです」

 その心意気はありがたい。が、タケダ家はそれだけではないのだ。

 

「そうだな。普段の訓練や指導は任せたい。

 だが、それとは別にマテウスやニケの将来のジョブの希望を確認しておきたい」

「将来のですか?私は剣匠のジョブですから、そのまま経験を積み重ねたいと思っています」

 まあ、そうだよな。

 

「剣匠ということは、その先は剣聖だな?」

「は、はぁ。なれるかどうかは別として努力したいと考えます」

 なってもらわなければ困るのだよ。

 

 今、タケダ家には剣聖が二人いる。レドリックとモニカだ。一人は俺の後ろにいるぞ。

 モニカはザビルに派遣しているが、ジョブのことは口止めしているから、マテウスは知らないだろうけど。

 

「なるほど。ではマテウスは将来は剣聖と。

 それで、ニケはどうするつもりだ?今は戦士のジョブだが将来はどのように考えている?」

「え・・・・・・と。今が戦士のジョブなので、そのまま戦士で経験を積んでいければと考えています」

 うーん、そんな消極的な選択はどうだろうか。

 

 確かに戦士のジョブにはラッシュのアクティブ攻撃スキルがあり、魅力的に思えなくもない。

 だが、パーティー効果は体力小上昇とHP微上昇の2つだけで微妙なのだよな。

 各ジョブのパーティー効果が具体的に見えないと、なかなか理解できないのだろうけど。

 

 そしてタケダ家のように簡単に新ジョブで経験が積めて上位のジョブが取得できることを知らなければ、その選択肢しか思いつかないのかなぁ。

 

「暗殺者のジョブはどう思う?戦士のジョブから派生して取得できるのを知っているか?」

「え?・・・・・・分かりません」

 分からないか。暗殺者のジョブはメジャーじゃないからか。

 

「マテウスはニケのジョブについてどう思う?暗殺者のジョブという選択は?」

「暗殺者のジョブは状態異常のスキル融合武器を持たないと

 迷宮では活躍できないと言われています。

 戦闘奴隷に高価なスキル融合武器というのはあり得ないので、厳しい選択肢だと考えます」

 おっ、キッチリと自分の意見が主張できるのは良い感じだ。

 

「我が家では奴隷であってもスキル融合装備品を所持させているな。

 今、後ろに控えているモニカもタケダ家の戦闘奴隷・・・・・・我が家では護衛部隊と呼んでるが、

 護衛部隊のメンバーは誰もがスキル融合装備品を複数所持させている」

「えっ、複数ですか?」

 厳密に言うと、複数のスキルを融合させた武器を複数持たせているのだ。

 

 今言うと混乱するから言わないけど。

 

「このモニカも硬直のエストックを二本所持している。

 ニケが暗殺者のジョブになれば、同じように硬直のエストックを持たせることになるだろう」

「そうなのですか。そうなると話が変わってくるかもしれません」

 モニカが持っているエストックは、実際は石化添加、攻撃力2倍、HP吸収、MP吸収が付与された硬直のエストックだ。

 

 ターレの45階層の攻略を行い、改めて再認識したのが暗殺者系ジョブの有用性だ。

 45階層以降のモンスターはタフでなかなか討伐ができない。

 火力を強化するよりも戦力の無効化を狙って、状態異常に追い込むことが有効に感じる。

 博徒のジョブを持つ者がいなくても、麻痺と石化添加のスキルを融合した武器を持たせれば戦力になる気がする。

 

 そして、暗殺者には刺客、忍者といった上位ジョブでの成長も見込めるので、パーティー全体の底上げにもなる。

 腕力系の効果がないのは残念だが、知力と敏捷の効果があるので魔法使い系と前衛職にも効果があるだろう。

 くのいち/忍者のジョブまでいけば『一閃』のアクティブ攻撃スキルも利用できる。

 パーティーに一人いると有用ではないかと思い始めた。

 モンスターを状態異常にする確率を上げる選択肢として、剣匠や剣聖のように二刀流で手数を増やすのとは別の候補になり得るのではないだろうか。

 

「カラダン様からお聞きしましたが、

 タケダ家ではジョブの育成が早くできる手段を持っているのだとか。

 新しくジョブを取得しても迷宮や護衛で戦力に復帰するのが早いのでしょうか?」

「それは問題ないと思う。

 もちろんジョブを新しく得た直後は注意する必要があるし、無理をさせる気はない」

 実際には一日程度パワーレベリングすれば復帰できると思うが、言葉で説明するよりも体験してもらった方が早いだろう。

 

「それでしたら、暗殺者のジョブを目指してみたいと思います」

「そうか。では、そのうちジョブ取得の具体的な話をしよう。

 我が家には暗殺者のジョブを取得した者が複数いるからな」

 俺とイレーネのことだが、説明は俺からしよう。イレーネにはちと難しいだろうから。

 

「それと迷宮探索や護衛のための装備品も、近々貸与したいと思う」

「既に立派な装備品を使わせてもらっていますが」

 それはスキル融合されてない竜革のジャケットとかだからなぁ。

 

 戦闘奴隷に貸与する武器や防具としては立派なものかもしれないけど、迷宮探索に挑むにはちょっと心もとない。

 最低でも状態異常耐性のスキルが融合された防具は装備しないと。

 

「スキル融合された防具や武器などだ。貸与する際に説明するので、待っていてくれ」

「はい。分かりました」

 魔法四属性の耐性や状態異常四種の耐性防具と言っても、今は理解できないだろう。

 

「では、ジョブの件はこれで終わりだ。そういえば、二人の部屋はどうしたのだっけ?」

「旦那様、二人の部屋は本館の一階に用意してあります」

 小声でカラダンに確認。

 

 前の奴隷商館の主人から夫婦にすることを認めろって言われてたからな。

 念押しした方が良いか?

 

「二人は夫婦になった訳だから、お互い協力し合って仲良くやってくれ。

 相手のためにも、くれぐれも無理しないようにな」

「は、はい。分かりました。それでは失礼します。次の者を呼んで参ります」

 二人が真っ赤な顔になって俯いた。

 

 お前ら、小学生かよ?

 マテウスが32才で、ニケが26才だったよな。

 レドリックは25才でポーラが24才だったけど、それよりも初々しく感じるのだが。

 まあ、レドリック達のように身請けの際に『実はお腹に赤ちゃんがいます』というのも対応に困るのだが。

 早々に立ち去る二人を横目にカラダンに話しかけた。

 

「あんなのでやっていけるのか?」

「多分・・・・・・」

 まあ、慣れだな。言葉で説明できない時に我が家ではよく使う言葉だ。

 

 そういえば、カラダンはミシェルのことをどう思っているのだろうか。

 種族が違うから難しいのかな。

 まあ、男女がいると直ぐにそんなことを考えるのは、あまりに短絡的か。

 

・・・・・・

 

 そうこうするうちに、件のミシェルが入室してきた。

 彼女が席に着いたので、さっそく本題に入る。

 アイスブレイクが必要ないぐらい、彼女からは気合が感じられる。

 

(鑑定)

 

ミシェル(人間族 女 29才 奴隷)

商人Lv19

装備 革の靴

 

 タケダ家に加入することを積極的に望んでいた女商売人。

 何やら新しい取引に興味を示しているようだったが、今回はどのような振る舞いをするのか。

 

 

「今日はミシェルの希望を確認したくて、このような場を設けた。

 今後のやりたい事、希望するジョブの将来展望などがあれば教えてほしい」

「今、ザビルには奴隷商人のカラダン様、防具商人のサライさんがいますので、

 私はできれば武器商人のジョブを目指したいと考えます」

 なるほど。確かにバランスは取れるかもしれないけど、それはどうなのだろうか。

 

「武器商人は本当に君のやりたいことなのか?

 別に二人と異なる種類の商人のジョブになる必要もないし、

 そもそも商人系のジョブじゃない選択肢を取っても構わないのだが」

「今まで商売に関わってきたので、今後も商売をしていきたいと考えています。

 なので、別に奴隷商人でも武器商人でも防具商人でも構わないのです。

 たまたま武器商人がいないのなら、それで構わないと思っただけです」

 ある意味、カラダンの考え方に近いな。

 

「分かった。では武器商人を目指してもらうか。

 商人で育成してから、その後は探索者のジョブを育成しよう」

「あの、そんなに簡単にジョブ取得ができるのでしょうか?

 カラダン様からはジョブ取得に関しては心配は不要だと言われたのですが」

 簡単に理解しろというのは無理だが、こればかりは体験してもらうしかないからな。

 

「ああ、心配は不要だ。

 だが注意しなければならないのは、武器商人のジョブを得たとしても

 ザビルには既に武器屋が存在するから、開業をここではできないぞ。

 それでも構わないのか?」

「はい。別に武器商人の店を経営したい訳でもありませんから」

 本当に割り切っているな。

 

 無理に武器屋を開業して、既存店と諍いを起こしたくない。

 領主である子爵様も恐らくそのようなことは望まないだろう。

 

「武器屋を経営することを考えてないというのなら、

 どのような商売をやりたいと思っているのだ?」

「装備品ではなく・・・・・・いえ別に装備品を取引しても構わないのですけど、新しい商品ですね。

 ザビルで石鹸を販売すると伺いましたので、それに携わりたいと思います」

 カラダンと力を合わせて石鹸の市場拡大をしてもらうのは悪くない。

 

 新商品の開発というのもあるが、それはクーラタルでやりたいのだよなぁ。

 エネドラも興味を持っているし。

 

「カラダンの方はどうだ?ペルマスクとの取り引きを協力してやっていくのは?」

「奴隷商館をやっていると、私がザビルから動けないこともあると思います。

 自由に別の街に行って取引できる者がいるのは心強いかと」

 確かにそうかもしれないな。

 

 カラダンはここの責任者だから、今までのようにアチコチ動き回るのは難しいだろう。

 ある意味、クーラタルのエネドラのような立場だ。

 エネドラにとってのチクルスのような存在にミシェルがなるのだろうか。

 ミシェルは29才だから、年齢的にはエネドラに近いのだが。

 

「では、ミシェルの希望通りにしてみるか。

 当座は武器商人を目指して、ペルマスクやターヘラ、ボーデとの取り引きに随行させるか?」

「はい、旦那様。彼女を同行させて、各街との取り引きを理解してもらいましょう」

 俺達の話を聞いて、彼女は喜びいっぱいの顔になったようだ。

 

「ジョブの育成については、別の機会にまた相談させてくれ」

「はい。分かりました。今後とも、よろしくお願いいたします」

 商人から探索者のジョブにするとカルクが使えなくなるから、その時だけ注意が必要だな。

 

 ミシェルはニコニコ顔で退室して、ナナを呼びにいった。

 

「浮かれ過ぎて足を掬われないように注意してやってくれ」

「承知しました」

 責任者って面倒だよなぁ。

 

 俺にはエネドラがいてくれるから、迷宮探索に集中できるのだけど。

 頑張れ、カラダン!

 

 ペルマスクとの次回取引の際、ザビルからの石鹸の輸送をする事などをカラダンと議論。

 

・・・・・・

 

 話が細部に及んだところで、ナナが入室してきた。

 

 

(鑑定)

 

 

ナナ(人間族 女 33才 奴隷)

農夫Lv12

装備 革の靴

 

 席に着いてもらったが、彼女はかなり緊張しているように見える。

 ミシェルよりは彼女の方が少し年上なのだが、こういう場に慣れてないせいもあって少しオロオロしているようだ。

 とりあえず身近な会話から入って、緊張を解きほぐそう。

 

 

「ナナ、新しい厨房の使い心地はどうだ?調理をするのに何か困ったことはないか?」

「いえ、水やお湯が使い放題なんて夢のような感じです。

 食糧庫という所から食材が取り出せますし、作ったものを入れておけるのは不思議ですが、

 凄く便利で助かっています」

 確かに俺も初めてベイルで食糧庫を使った時や、クーラタルで給水・給湯設備を使った時は衝撃を受けたよな。

 

「それに、あの薄い皮の手袋も水仕事をするのに非常に助かっています。

 あんなものを普段使いして、本当によろしいのでしょうか?」

「ああ、あれはタケダ家では家事をする者が皆が使っているので、気にしなくて大丈夫だ」

 アミルに生成してもらった皮の薄い手袋は、水仕事では重宝するはずだ。特に冬場は。

 

「今のところは料理の負担がナナに集中してしまうが、そのうち人手を増やしたいと思っている。

 それまで辛抱してくれ」

「これだけ便利な厨房を使わせてもらってますので、大丈夫でございます」

 そう言わずに無理しないでほしいのだが。

 

「もし、何か問題があったり、改善したいことがあれば相談してほしい」

「はい。分かりました」

 あまり奴隷側から指摘するのは難しいかな。徐々に慣れてほしいのだが。

 

 さて、本題に移るか。

 

「それでナナの今後の仕事の話をさせてほしい。

 今までは販売奴隷達の食事の調理の補助、奴隷商館の従業員の食事を作っていたのだったか?」

「はい。その通りです」

 表情はやっぱり緊張しているな。アイスブレイクは失敗か。

 

「今後も同じで良いのだろうか?他にやりたいことはないのか?」

「今までと同じで大丈夫です。他に何かやらなければならないことがあれば承ります」

 うーん、俺がやらせたいことではなく、彼女がやりたいことを知りたいのだよな。

 

「ジョブは農夫だったと思うが、作物を育てたりするのは好きなのか?」

「えっ。あ、はい。子供の時から畑仕事をしていましたから、農作業は好きかもしれません」

 仕事ではなく、好きなのか。なら良いか。

 

「この館の裏庭の一部を使って、好きに作物を育てても良いぞ。

 種や農具、肥料が必要なら、こちらで金を出すつもりだ。

 もちろん収穫に失敗したからといって責任を取る必要などない。

 作物が順調に育つのかは天候や運に左右されるからな。

 調理の仕事が忙しいのなら、無理に畑仕事に手を出す必要もない」

「えっ・・・・・・と、よろしいのでしょうか?」

 俺とカラダンの二人は頷く。ナナがやりたいことなら、問題ない。

 

「カラダン、もし畑がある程度広がったら、迷宮ドロップ品の寄生ワームを使っても構わない」

「なるほど、確かにあまり使い道がなく倉庫に死蔵されてましたね」

 そうなんだよなぁ。

 

「えーと?」

「まあ、直ぐでなくても良いので、時間の空いた時に好きに畑仕事をしてもらって構わない。

 なんなら、奴隷商館側の奴隷達にも手伝わせても構わない。

 いつも食事の調理の手伝いをしているのだろう?それぐらいさせても問題ないから」

 別にそれで食費を浮かせようと思っている訳ではない。

 

 奴隷達の気分転換になるかもしれないし、今後、農作業のために売られていく可能性もあるだろうから、完全に無駄にはならないかもしれない。

 

「ナナは今は農夫のジョブのままでやっていきたいと思ってよいか?」

「はい。私は農夫しかできませんので、それでお願いします」

 料理とかやってもらってるから農夫以外もできそうだが、まあ別に構わないか。

 

 ナナは少し緊張が解けたのか、笑顔を浮かべて退出していく。

 次はサライ達なので、彼女に防具屋の方に呼びにいってもらうことにした。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/2/3(火)の予定です。
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