異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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053.和解と反動

 マチルダ母娘の再面談があるため、ザビルへワープ。

 本館の玄関から、二階のカラダンの部屋に向かった。

 

 二階の廊下を歩いていくと、彼の部屋の向かいの会議室のドアが開いている。

 中を覗くと、カラダン、マチルダ、レベッカが既に座っていた。

 モニカはカラダンの後ろで護衛任務に就いている。

 俺が最後か。

 

「待たせたようだな」

 ドアを閉めて、カラダンの横に座った。

 

「では、早速だが面談の続きといこうか。

 まずは、二人ともアイテムボックス操作の詠唱をしてくれ。まずはマチルダから」

「?・・・・・・八百(やお)千五百(ちいほ)のお宝を 収めし蔵の掛け金(かけがね)の アイテムボックス オープン。

 えっ?」

 こちらからは見えないが、彼女は目の前に並んだアイテムボックスの数に驚いたのだろう。

 

 マチルダの探索者は現在Lv28。迷宮でパワーレベリングする前はLv4だったからな。

 

「何故、こんなことが?」

 アイテムボックスが存在すると思しき場所と俺の顔を、彼女の視線が行ったり来たりしてる。

 

「レベッカもアイテムボックス操作の詠唱をしてくれ」

八百(やお)千五百(ちいほ)のお宝を 収めし蔵の掛け金(かけがね)の アイテムボックス オープン。

 あれっ、アイテムボックスの数って・・・・・・ええぇっ?」

 初めてアイテムボックスを開いて見たから、何が起きたのか一瞬分からなかったのだろう。

 

 結局はマチルダと同じ反応になったようだが。

 彼女も探索者Lv28だから、マチルダと同じ数だけのアイテムボックスが浮かんでいるはずだ。

 

「これが、タケダ家の秘密の一つだ。無理に迷宮に行かずとも人員を育てる術を持っている。

 マリーが若くして百獣王になった理由の一つだ。

 勘違いしてもらったら困るが、

 マリーは迷宮で勇敢に戦っているし、訓練して己を磨くことを怠ってる訳ではないぞ。

 ただ、我が家ではそれを全力でバックアップする方法を複数持っているということだ。

 優秀で努力する者を支える我が家の手段は、今見せた急激な育成以外にもいくつかある。

 加えて、マリーのような人材は、我が家には多数いる」

「それが敵対者を排除する自信に繋がっているのですね」

 彼女の言葉に首肯した。

 

 とはいっても、むやみやたらに敵対者を増やして排除したい訳ではない。

 

「タケダ家への貢献を誓えば、その力を我々にも与えていただけるのですか?」

「そうだな。誓うだけでなく、実際に行動で示してもらうがな」

 貢献しますと口先だけで言われても、なんの意味もないからな。

 

「我が家に加わる以上は、敵対者を全力で排除するという言葉に偽りはないつもりだ。

 それでも本人がちゃんと自衛するために自分自身を鍛えたり、研鑽してほしいと思っている。

 自分を守るだけでなく、仲間を守るためにもな。

 そうやって我が家は、今後もどんどん強くなっていくつもりだ。

 戦うことが強くなる唯一の方法だとも思ってないから、

 商売であったり、生薬生成などで貢献してもらっている者もいる。

 カラダンがここの責任者であるのも、その一例だ。

 そして、それらに優劣はないと俺は思っている」

「そういえば、カラダン様も奴隷身分でしたね」

 マチルダの顔には理解した表情が浮かんだ。そしてレベッカの顔にも真剣な眼差しが見える。

 

 

「迷宮や他家との諍いで戦うこと以外で、我が家に貢献してもらっても構わない。

 どのような貢献をするつもりなのかを、自分達の言葉で説明してほしい。

 魔法使いのジョブを持っているからと言って、そのジョブで戦えという気もない」

「・・・・・・」

 二人は顔を見合わせて頷き合った。

 

 俺としては魔法使いのジョブを生かしてほしいが、当人達が嫌だと思っているのなら、強要してもきっと上手くいかないだろう。

 

「こちらはタケダ家が外部には公にしていない秘密を話したつもりだ。

 お前達も、こちらに何か言うことはないのか?」

「私達は、とある侯爵家に追われています。いえ、追われていましたと言うべきでしょうか。

 私の夫は侯爵家の傍流の血筋で、後継者争いに巻き込まれて夫は殺されました。

 私達の巻き添えを恐れた夫は、自身が死に追いやられる前に私とレベッカを奴隷に落として、

 身を隠すように処置したのです。

 懇意にしてた奴隷商人から何店かを経由して、帝都から遠いザビルの地に流れ着きました」

 貴族って奴は後継者争いで、簡単に政敵や身内を抹殺しようとするな。

 

 いせはれの原作ではセルマー伯ぐらいだったけど、こちらの世界の方が多いのだろうか。

 この母娘の家長が殺されるに至った経緯を、今更深掘りしても意味ないのだろうけど。

 死人が生き返る訳でもないし、この二人が侯爵家とやらに復帰できることもないのだから。

 

「新しく侯爵の座に就いた者は、もう我々を積極的に探していないかもしれません。

 ですが見つかったら何をされるか分かりませんので、

 ずっと奴隷の身分で村人ジョブのまま生きていく覚悟でいました」

「そうか、辛いことをよく話してくれた。亡くなった方にはお悔やみ申し上げる」

 お互いに秘密を明かし合った。次は彼女達がどのような決断を下すのかの確認だ。

 

 マチルダから侯爵とそれに連なる主立った貴族の名前を告げられた。

 もちろん知っている名前は一人もいない。

 

 ほとぼりが冷めたら・・・・・・平民になる気もないのだろうな。

 万が一見つかったら、闇に葬られる可能性があるのだし。

 

「それで二人は、これからどのようにしたいと思っているのだ?」

「帝都から遠いザビルの地で奴隷の身分のまま、タケダ家の一員に加えていただきたいです。

 私にできることなら、なんでもいたします。

 魔法使いとして戦えと言われれば戦いますし、貴族の知識をご所望なら提供いたします。

 ただ、レベッカを戦いの矢面に立たせることは、ご容赦願います」

 彼女は深々と頭を垂れた。

 

「お母様だけを戦わせるなんてできません。私も一緒に戦います」

「あなたは、ザビルの裏方でタケダ様を支えなさい。文字通り身を捧げるのですよ」

 いやいや、ちょっと待てって。

 

 『身を捧げる』の具体的な意味を確認したいのだが・・・・・・いや違った・・・・・・ノーサンキューだと言わなかったか?

 具体的な確認をすると、望んでいるみたいなので確認しづらい。

 

「マチルダがタケダ家に貢献できることは分かったが、自分自身がやりたいことは?」

「レベッカを・・・・・・私と亡き夫の娘を幸せにすることです」

 そんな言い方をされると困るな。抽象的過ぎる。

 

「では、レベッカ。お前にとっての幸せとは?」

「お母様と安心して暮らせることです」

 こちらも抽象的だ。

 

 奥に引っ込んで、誰かに守ってもらえれば安心できるのか?

 それで我が家に貢献できるのか?・・・・・・まあ、後方支援でも貢献はできる。

 だが、それで本当の安心と言えるのだろうか。

 

「では、こうするか。

 二人のそれぞれのやりたいこと、タケダ家に貢献できることを考えてもらい、

 その上で経験を積みたい希望のジョブを複数で構わないので、後で教えてくれ。

 提示されたジョブで経験を積んで、

 その上で何を主軸としてやるか半年後でも一年後でも決めればよい。

 もちろん、その期間中でもタケダ家に貢献してもらうぞ」

「そんなことが・・・・・・できてしまうのですね。たった一日で探索者がLv28になるのですから」

 厳密には半日だし、一人、二人に絞って育成したから育成効率が良いのだが。

 

 とはいえ、鬼神の育成効率は百鬼夜行よりも上のようだから、十分可能だな。

 ティナは小荷駄隊に一人だけ入れて、探索者はLv1からLv32に上がった。

 マチルダとレベッカは輜重隊に二人だけ入れて、探索者Lv4とLv1がそれぞれLv28に上がった。

 ターレ迷宮46階層の午後の迷宮探索だけのパワーレベリングでだ。

 

 今までの記録から人数で按分されるのは分かっているので、輜重隊の育成効果は小荷駄隊の1.3倍から1.5倍ぐらいかもしれない。

 育成対象者達に今まで100の経験値を与えていたのが230から250になる訳だから、育成効果が上がるのは間違いないだろう。

 タケダ家は人数をドンドン増やしているので、鬼神ジョブの存在はとても頼もしい。

 

「食事の際に防具屋の娘、ティナに会ったと思うが、

 家族内での意見がまとまらなかったので、

 彼女の意志を確認して探索者、商人、薬草採取士のジョブを当面は育成することにしたぞ。

 最後は、その3つのジョブのどれか一つに決めることになるだろうが」

「貴族の子供でもそこまでのことは・・・・・・」

 確かに貴族のパワーレベリングよりも育成効率が段違いに良いだろうな。

 

「それなら、私は探索者、薬草採取士、商人、剣士、魔法使い、巫女でお願いします。

 同じぐらいの年の子に負けていられません!」

「待て待て。変に張り合うなって。

 人前に出られないのに、商人になってどうするというのだ?

 もっと、ちゃんと考えてからジョブを選択しろ!」

 この娘、意外と残念な奴じゃないか?

 

 商人を除いた5つのジョブのうち、4つは戦闘職じゃないか。

 こんな残念娘だから、マチルダは前線に立たせたくないのか。

 

 夫もセルマー伯のように残念な奴だったから、排除された訳ではないだろうな?

 この娘にして、この父親あり・・・・・・みたいな。もう理由を問い質す気はないのだが。

 

「私は探索者、薬草採取士、魔法使いでお願いします」

「ちなみに元貴族の女性で元々騎士のジョブを持っていた者は、

 騎士を育成して聖騎士のジョブを取得したな」

「では、騎士も追加で」

「あっ、なら私も戦士を追加して、騎士のジョブを取って聖騎士を目指します」

「待てっての。追加を推奨した訳ではなく、選択肢としてちゃんと考えろという意味だ」

 こいつら、似た者母娘じゃないか?

 

「でも、せっかくの機会ですから」

「そうですよね。お母様」

 もう、なんか村人ジョブで隠れて生きるという覚悟はどこかに消えてしまったようだ。

 

 コソコソ怯えて生きるよりは全然マシかもしれないけど。

 というか、今までの欝憤が逆にリバウンドになってないか?

 

「選択するジョブは3つまでにしてくれ」

「では、剣士、魔法使い、巫女でお願いします」

 後方支援のジョブが皆無じゃないか。やっぱり、この娘は戦う気満々だ。

 

 それと、探索者はノーカウント扱い(育成してもらったから儲けた)になっているな。

 

「私は薬草採取士、魔法使い、騎士でお願いします」

「・・・・・・」

 こちらも探索者を外して・・・・・・薬草採取士が入ってるだけマシだが、やっぱり似た者母娘だ。

 

 薬草採取士を選択しているのは、戦闘職を引退した後のことを考えているのかもしれない。

 年齢も32才で娘より18才も上だからなぁ。

 

「むっ、何か失礼なことを考えていませんか?ご主人様」

「・・・・・・」

 勘が無駄に鋭いな。しかも、もう『ご主人様』呼びになっているし。

 

「レベッカ、剣士は止めて薬草採取士にしておきなさい!」

「えっ、でも剣筋が良いってお母様はおっしゃってたじゃないですか。

 私は剣の腕も磨きたいです」

 魔法使いと巫女は良いのかよ?戦闘職だよね。

 

 この二人をマテウスとニケはちゃんと制御できるのだろうか。

 いや、カラダンの役目か?・・・・・・それとも、俺の役目?・・・・・・うーん。

 

「マチルダは娘が戦うことに反対だったのでは?」

「護身のために戦える方が良いと考え直しました。

 巫女なら槍で敵を近づけない戦いもできますから。

 剣士はどうしても怪我を負い易いので止めてほしいです」

 母親の気持ちとしては分からなくもないが、戦闘に備える前提なのは元貴族だからか。

 

 迷宮で戦い、生き残って成長していくという基本姿勢だったのが、安全に成長できると分かって欲が出たのかもしれない。

 

「分かりました。お母様の指示に従います。

 でも、薬草採取士の才能がないと分かったら、剣の道に進むことをお許し下さい」

「その時は考えましょう」

 ん?なんか、良い感じの話にしているように見せて、4つ目のジョブを狙っていないか?

 

 こいつら、やっぱり根っこは貴族の思考回路だな。大義があれば騙し討ち上等みたいな。

 

「では、マチルダは薬草採取士、魔法使い、騎士で

 レベッカは薬草採取士、魔法使い、巫女のジョブを育成だな」

「「はい。よろしくお願いいたします、ご主人様」」

 なんか乗せられてる気もするが、生きることに前向きになったと思っておくか。

 

 ジョブ選択について考える時間を与えると、こいつらは碌なことを考えない気もするから、もう決めてしまおう。

 

 暫くは生薬生成を頑張ってもらい、迷宮に連れていくかはマテウスに見極めさせよう。

 ブランクもあるだろうし、実は戦闘の才能がない可能性だってあるしな。

 

「当面は薬草採取士で生薬を生成することで貢献すると思って良いか?

 戦闘職の方は折を見て育成するが、レベッカの迷宮探索は当面禁止だ。

 マチルダの方はマテウスと相談して、彼の了解を得てから迷宮探索に参加してくれ。

 当面は戦力が整うまで、迷宮探索はしないとマテウスに伝えてあるがな。

 二人のザビルでの戦闘訓練は暫くは自粛した方が良いだろう」

「薬草採取士での貢献は問題ありません。

 ですが、戦闘訓練を自粛するのは何故でしょうか」

 ザビルで訓練するのはちょっと拙いと思うのだよなぁ。

 

「ザビルの邸宅の敷地は販売奴隷達も訓練するから、

 いずれ売られた先で二人のことが話題になると拙いと思ってな。

 今までの販売奴隷達には顔を知られてしまっているが、これ以上増えない方が良いだろう?

 特に戦える姿を人目に晒すのはどうかと思ってな。

 ザビルであっても、あまり外に出ない方が安全だと思うぞ。

 少なくとも自衛する力に自信がつくまではな」

「なるほど。確かにおっしゃる通りかも。油断してはいけませんね」

 クーラタルの敷地で訓練させたいが、今は増築工事でタケダ家以外の者が入り込んでいる。

 

 クーラタルの朝練だけなら大丈夫か。

 あとは、ザビルの敷地内の訓練場に販売奴隷用とタケダ家メンバー用で塀で分けるか。

 やり過ぎかなぁ?周りの土地は余ってるようだし、何なら買い足してもよいのだが。

 

「外に出ないと気分転換もできないが、

 朝の訓練時だけなら、クーラタルの我が家の修練場に行くことができるぞ。

 朝練はタケダ家のメンバーしかいないので安全だ。

 あちらに行けば、マリーぐらいの猛者はゴロゴロいるから刺激にもなるだろう。

 クーラタルに人目に触れず移動するのは、簡単な手段があるので心配しなくてもよい。

 まあ、気が向いたらカラダンに相談してみてくれ」

「なるほど、考えておきます」

 拠点構築スキルの拠点間移動を使えば、冒険者でなくてもザビルとクーラタルの移動は一瞬だ。

 

「カラダン、後は大丈夫か?」

「はい。何か問題が発生するようなら、相談させて下さい」

 カラダン、それはフラグと言うのだぞ。

 

「マチルダ、レベッカ、今から()()はタケダ家の一員だ。今後ともよろしく頼むぞ。

 無理せず、カラダンやマテウス達、タケダ家のメンバーとよく相談して協力し合ってくれ。

 もちろん俺に相談したい時はカラダンを通してもらえれば、極力相談に乗るのでな」

「はい。よろしくお願いいたします、ご主人様」

 徐々に慣れてくれればよい。タケダ家のメンバーになると覚えることが沢山あるからな。

 

「よ、よろしくお願いいたします。ご主人様に・・・・・・私の全てを捧げます」

「言動には注意しろよ。我が家には怖い家宰(エネドラ)がいるからな」

 俺の指摘にレベッカはポカンとしているが、そのうち紹介してやるから。

 

 カラダンに二人の所有者変更をしてもらった。

 所有者は俺になったが、死後相続先をエネドラにする必要がある。

 迷宮で俺が死んだ時に巻き添えになるからな。

 

 いや、ザビル側の奴隷は死後相続先をカラダンにするべきか。

 その辺りも今晩の会議で相談して決めよう。

 マテウス達の扱いも今晩の話し合いの結果次第だな。

 トカラはカラダンがクーラタルに行った時に、死後相続先をエネドラにしてもらおう。

 

 ザビル側が落ち着いたら、クーラタルの主要メンバーとの顔合わせもやりたい。

 貴族繋がりということで、ラファやヘルミーネと顔繋ぎした方が良いかもしれない。

 

「では、二人とも自室に戻っても良いぞ」

「はい。本日はありがとうございました。失礼いたします」

「失礼いたします」

 二人は深々とお辞儀をして退室していった。

 

 去っていく二人の顔が少し穏やかに見えたのは贔屓目だろうか。

 

「あの二人は今後はザビルの中核のメンバーになるのかな?」

「さあ、どうでしょうか。トラブルメーカーにならないでほしいのですが・・・・・・」

 だから、それはフラグになるから言わないでくれ。

 

 カラダンとモニカに労いの言葉をかけ、会議室を後にした。

 玄関を出て、防具屋に向かった。

 

 

 午前中に見た時よりも、客足は伸びているようだな。

 探索者っぽい客が多いだろうか。

 ザビルもベイルと同じで迷宮が街の近くにあるからな。

 ベイルよりは迷宮探索者が少ないイメージだが。

 

 この後はもうクーラタルに帰るだけなので、最後にサライ達に声をかけていこう。

 中に入るとサライだけでなく、ティナもちゃんと接客している。

 

 午前中はあまり時間がなくて見られなかったが、ちょっと店内を見ていこう。

 サライと目が合ったので会釈だけして、並べられた防具を見て回る。

 

 これって、サライ達の店でもあるけど俺の店でもある訳だよな。

 なんだか感慨深いものがあるな。

 俺は店の器を用意しただけなのだが。

 

 皮の鎧、ダマスカス鋼の額金、竜革のグローブ、ダマスカス鋼のプレートメイル・・・・・・そして1セットだけど貴族用の石鹸セットも置いてある。

 今日一日でどのぐらい売れたのだろうか。

 なんだかワクワクするな。

 

 そして、店内を物珍し気に見ている探索者のジョブを持つ男。

 竜革のグローブを手に取って、向きをイロイロ変えながら確認している。

 

 それはアミルとミラが作ったお薦めの逸品なのだよ。

 まあ、武田菱が刻印されている以外は普通の竜革のグローブだけど。

 この店に置いてある竜革のグローブは空きスロットがないので、鑑定スキル持ちの俺からすると外れなのだが。

 ダマスカス鋼の額金や竜革のグローブなどは、タケダ家お抱えの鍛冶師が生成した防具で空きスロットがないものを供出している。

 生成に使った素材数は少ないが高級素材を使っているので、客引きにも収益にも貢献することを期待して置いてあるのだ。

 

 探索者の男は手に取った竜革のグローブを置いて、別の防具がある所に行ってしまった。

 そのグローブの良さが分からないとは残念な奴だ。

 

 なんかアミル達が生成した防具が陳列されて、誰かに買われて迷宮探索で活躍するかと思うと本当にワクワクしてしまう。

 今度、二人を連れてここに来てみようかな。

 二人がどんな感想を持つか、ちょっと楽しみだ。

 

 サライが接客が終わったようで、こちらに近づいてきた。

 

「お疲れさん。営業初日の感想はどうだ?」

「そうですね。店が新しくなったので少し新鮮な気分ですかね」

 ああ、そうか。元から防具屋を営んでいたから、俺の新鮮味とはまた違うのか。

 

「客足の方はどうだ?」

「元から足を運んでいてくれた方も今日はいらっしゃっていたので普通でしょうか。

 ごくたまに石鹸のセットを見て、首を傾げてる方もいらっしゃいますけど」

 まあ、防具屋に石鹸って変だよな。別に防具のメンテに使う訳でもないから。

 

「さすがに石鹸のセットを購入した客はいないよな?」

「はい。値段を確認して驚いてる方はいましたけど」

 そりゃ、驚くだろうな。

 

 貴族用の石鹸セットは2500ナールだ。

 革の鎧の販売価格が2400ナールだから、それよりも高い。

 使ってしまうと終わってしまう消耗品の石鹸セットは、一見すると意味不明な値段の商品だ。

 

 おっと、また客が入ってきた。

 パーティーのようで人数が多いから、これ以上俺がいると接客の邪魔か。

 

「サライ、マチルダとレベッカがタケダ家に加わることになった。

 レベッカはティナとも年が近いし、二人と仲良くしてやってくれ」

「そうですか。分かりました」

 あの母娘がタケダ家に加わるかどうかは分からないと伝えていたので、それが正式に決まったことを伝えた。

 

 二つの家族は背景は全然違うが、夫を失った母娘という点では共通している。

 出自も全く異なるが、同じザビルのメンバーとして仲良くしてほしい。

 俺が背景について思ってることを口に出すのは憚られるが。

 

「新しい店の営業初日で、いろいろ大変だったかもしれないが、これからもよろしくな」

「はい。今後ともよろしくお願いいたします」

 彼女は店に入ってきたパーティーのいる所に接客しに戻っていった。

 

 ティナもまだ接客しているな。

 防具の知識とかあるのだろうか。前の店でもやっていたのかな。

 

 

 もう一度、店内を見回して感慨深い気分に浸ったところで店を後にすることにした。

 なるべく早めに二人をここに連れてこよう。

 

 店の裏に回ってワープで帰宅した。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/2/9(月)の予定です。
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